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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第8章 冥府の門編
  第36話 vsウルキオラ

マルドギールと相対していたナツ、グレイ、ジュビアは、戦闘を継続していた。
マルドギールの扱う呪法は茨のような、樹木のようなものを発生させるものであり、そのスピードと攻撃力に、3人は一時劣勢に立たされるも、途中で駆け付けたスティング、ローグの助けもあり、やや優位の状態で戦闘を継続させていた。
そんな折、マルドギールやナツ達は、爆発的で圧倒的な魔力の感覚を3度味わうことになる。
一度目は邪悪さが混じる魔力であった。その邪悪な魔力は、マルドギールをもってしても恐怖を覚えるものであり、戦闘を中断させるほどであった。その魔力を感じ始めると、次第にナツの表情が曇りを見せる。
「この魔力…アレン…なのか?」
ナツの言葉に、グレイやジュビア、スティングにローグは驚きの表情を見せる。
「だが…この得も言わぬ邪悪さは…」
「まさか…」
グレイとジュビアが狼狽したように口を開くと、マルドギールが小さく笑う。
「そうか…虚化が成功したか…」
マルドギールの言葉に、ナツ達4人は苦悶の表情を見せる。この邪悪なまでの魔力、そして間違いなくアレンの魔力であることを察した4人は、マルドギールの言葉を確証へと肯定せざるを得なかった。
「ッ!アレンさんは虚の力などに飲み込まれたりしない!」
「絶対に正気を取り戻す!」
スティングとローグが信じ切った様子で言葉を発する。
一度目の魔力の感覚時は、その言葉を最後に、再び戦闘を開始させた。
二度目の魔力の解放は、ナツ、グレイ、スティング、ローグの4人が知りえない者の魔力であった。その力は、ナツ達が最強と信じていたアレンの魔力のさらに上を行く圧倒的な力であり、やはりこの魔力の解放の際にも、戦闘を止めることとなる。
「これは…」
「おお、ウルキオラ様が魔力を解放なされた!」
ジュビアはひどく怯えた様子で、マルドギールが歓喜の声を上げることとなる。
「嘘だろ…」
「なんて魔力だ…」
グレイとナツが、その魔力を感じ取り、狼狽したのは言うまでもない。ジュビアは、そんな魔力の発生源と思しき場所へ視線を移し、苦しそうな表情を浮かべる。きっと、フェアリーテイルの仲間がウルキオラと交戦しているのだろう。少し離れたこの位置ですら、身を震わせるほどの力だ。身近に感じたら、意識すら飛びかねない。
他の4人も、意識的にそれを感じているのか、恐怖の表情が浮かんでいた。
「こんなの…ありえませんよ…」
「フローも曽そう思う…」
レクターとフロッシュもひどく怯えている様子であった。
だが、その恐怖と怯えは、3度目の圧倒的な魔力によって紡がれる。それは、ナツ達にフェアリーテイルにとっては、暖かく、心地よいものであった。
「これは!」
「アレンだ!!」
「正気を取り戻したのか!」
ジュビア、ナツ、グレイは希望に満ちた表情を浮かべる。
「ッ!馬鹿な!セイラは一体何をしているんだ!!」
マルドギールがそう悪態を付いていると、ナツ、グレイ、ジュビアの身体に異変が起こるのを感じる。
「な、なんだ…この魔力は…」
ナツ、グレイ、ジュビアのギルドの紋章から、オレンジ色の魔力が染み出し、次第にそれは全身を覆うように纏わりつく。
「こ、これは一体…」
「あったけえ…」
「ッ!アレンの魔力だ!」
ジュビア、ナツ、グレイは、自身を覆う魔力を肌で感じ取り、驚きの様相を見せる。
「バカな!アレンの魔力だと…これだけ離れているのに…一体どういうことだ!」
マルドギールは、ナツ達を包み込む魔力に驚き、思わず怒号を上げる。
「フェアリーテイルのもの…紋章を刻むものに魔力を付与しているのか…」
スティングは、紋章から滲み出たという点から、一つの仮説を導き出す。
「なんて…ことだ…」
その仮説が正しいと認識したローグは、あまりのことに、言葉を震わせる。ナツは、その魔力を噛みしめながら、ニヤッと口角を上げる。
「なんだっていいや!アレン!!お前の力…確かに受け取ったぞ!!」
ナツはそう言い放ち、マルドギールへと立ち向かっていった。

ウルキオラは、先のアレンの発言と魔力の渦を見て、大きく目を見開いていた。
「(卍解だと?…馬鹿な…奴に死神の力は感じない…そもそも、奴が手に持つ剣は斬魄刀ですらない…)」
そんな風に思考を張り巡らせていると、少しずつ魔力の渦は収まりを見せ、アレンのいた位置へと一気に圧縮されていく。
「(…そうか、名は同じでも、全く別物の力か…)」
そうして考えをまとめると、ウルキオラは小さく呟く。
「卍解…なるほど…それは、魔法の覚醒の第二段階…最終形態か…」
ウルキオラの言葉に、フェアリーテイルのメンバーは目を見開く。
「覚醒の…第二段階…」
「そんなものがあったのか…」
「ということは…スサノオの更に上ということか…」
エルザ、カグラ、ジェラールがひどく驚いた様子で言葉を発する。更に視界は開け、アレンの様相が見えるまでになる。
「ああ、そうだ…。卍解…」
アレンの姿を目にしたフェアリーテイルのメンバーは、更に驚きの様相を見せる。
アレンは身体に、白と薄い桃色を基調とした、美しい衣のようなものを羽織っていた。更にその背中には、蝶の羽を思わせるような形に、これまた薄い桃色を基調とした巨大な翼が見て取れたからだ。加えて、頭には王冠のような額宛が見て取れる。そして、その圧倒的で且つ優しく暖かな魔力を感じ取ることができた。
アレンは、威厳のある声で、その力の名前を口にする。
「…妖精(フェアリー)皇帝(エンペラー)!」
その全貌を捕えたフェアリーテイルのメンバーは、まるで魚のように口をパクパクとさせていた。驚きすぎて、暫く言葉を発するのを忘れてしまっていたのだ。
「なっ…」
「なんて…」
誰かが呻き声を上げるようにして声を発すると、意図せず皆の言葉がハモりを奏でる。
「「「「「「「「「「美しいんだ…」」」」」」」」」」
フェアリーテイルのメンバーは、アレンの姿に顔を赤らめ、目を見開く。女性陣に至っては、顔を真っ赤に染上げ、大量に鼻血を出しているものまでいた。そんな雰囲気を意にも介さず、ウルキオラはじっとアレンを見つめていた。
「フェアリーエンペラー…妖精の皇帝か…大層な名前だな…」
「大層なのは名前だけかどうか…試してみるか?」
ウルキオラの言葉に、アレンは小さく呟く。そんな風にして両者睨みあっていたが、ウルキオラがあることに気付いた。その様子をみて、アレンはふっと小さく笑う。
「へえ、まさか気付いたのか?」
「…これが、お前の卍解の能力か…」
ウルキオラはそう呟くと同時に、フェアリーテイルのメンバーの刻む紋章から、オレンジ色の魔力が滲み出る。そしてそれは、メンバーの全身を包み込むようにして纏わりつく。
「な、なんだこりゃ!」
「魔力…アレンの魔力か!」
「なんて…心地いいんだ…」
「あ、あったけー…」
「き、気持ちいい…」
ガジル、ラクサス、ウル、エルフマン、レヴィが口々に言葉を発する。
「…妖精(フェアリー)加護(プロテクション)…フェアリーテイルの紋章を刻むものには俺が卍解をすることで自動的に発動する能力…。些少の魔力の向上と、高硬度の防御力を有する。そして…」
アレンはそう呟くと、この場にいるもので唯一妖精の加護を纏っていないミネルバに向かって手を伸ばし、魔力を注ぐ。
「…フェアリーテイルの紋章を刻まぬものでも、任意であればそれを付与することができる」
アレンから魔力を受けたミネルバは、皆と同じように妖精の加護をその身に纏う。
「はぁ…///」
アレンから魔力を受け取ったミネルバは、思わず顔を赤らめる。他の皆も感銘を受けるような表情をしていたが、それはウルキオラの圧倒的な魔力をもって終息を迎える。
ゴオッともバチッとも捉えられる圧倒的な魔力が、冥界島に駆け巡る。先ほどとは違い、アレンの妖精の加護をその身に纏っているためか、精神が屈し地面に伏することはないものの、その凶悪な魔力は、その場にいるものを戦慄させるには十分な魔力であった。
その魔力に怯え、震えていると、今度は別の圧倒的な魔力を感じ取る。先ほど同様、暖かくも、攻撃性を秘めたその魔力は、やはり同じようにして皆を戦慄させる。アレンの魔力であった。
アレンの魔力とウルキオラの魔力。それが双方ぶつかり合う形で、両者の間に衝撃を生む。魔力がぶつかり合う臨界点では、黒い稲妻のような、表現しがたい波動が音を立てて発生する。
「魔力の…ぶつかり合い…」
「これは…」
「人智を…超えている…」
ルーシィ、エルザ、カグラが各々に呟く。その畏怖を覚える魔力のぶつかり合いに、大きく身体を震わせているものまでいる。
魔力のぶつけあいを終えた二人は、暫く制止していたが、ウルキオラが手に緑色の剣のようなものを生成し、一瞬にしてアレンの元へと肉薄する。
緑色の剣、フルゴールをアレンへと叩きつけるが、それはアレンのもつ双剣によって防がれる。
その両者の直接のぶつかり合いは、またも強大な魔力を発生させ、その場にいるものを驚かせたのは言うまでもない。だが、それ以上に、それを皮切りに起こる、視界に捉えるのも難しいほどのスピードで打ち合う2人の様子に、驚愕の表情を浮かべる。辛うじて目に映るのは、両者が激突した形跡であろう閃光だけであり、その閃光が、1秒に何度も空中を駆ける。
「ぜ、全然見えない…」
「速すぎる…」
「これが…」
「アレンさんの全力…」
レヴィ、ビックスロー、ウェンディ、ジュビアが口々に言葉を漏らす。
剣戟を終えた二人は、両者一定の距離を作り、身構える。ウルキオラは指先をアレンへと向け、魔力を込める。それを察したアレンも、双剣を重ねるようにして構え、魔力を込めた。
ウルキオラの指先には、黒緑色の魔力が形成される。
「ま、まさか…虚閃か!」
「いや、さっきのとは魔力の桁が違う…」
「まさか、あれ以上の魔法があるというの!?」
ガジル、リオン、ウルティアがその様相に驚いたように言葉を発する。同時に、アレンの双剣にも、オレンジ色の魔力が吹き荒れる。
「くっ…アレンの魔力もやべーぞ…」
「一体…何が起ころうとしているの…」
ラクサス、ミラが酷く狼狽した様子で言い放つ。
黒虚閃(セロオスキュラス)」「鋭帝・妖牙天衝」
ウルキオラの指先から黒い閃光が、アレンの剣から三日月型の斬撃が発生し、それぞれを飲み込まんと進撃する。
「黒い虚閃…なんて魔力…」
「飛ぶ斬撃…」
ヒノエとミノトが、それぞれの魔法の特徴を捉え、口にする。双方の魔法は2人の立つ丁度中間地点で激突し、圧倒的な爆発と衝撃を生む。その力は天にも到達しうる程の力を有しており、衝撃と爆風が冥界島を駆けめぐる。
「キャっ!!」
「くっ…なんだ、この衝撃は…」
「す、すげえ…」
ビスカ、ジェラール、アルザックが自身の顔を覆い隠しながら口を開く。
爆発があらかた収まりを見せると、アレンは瞬間移動した様子でフェアリーテイルの前に姿を現す。
「ッ!アレン!」
その姿を捕えたエルザは、アレンの名を呼ぶが、すぐさまその美しい後ろ姿に見惚れる。
妖精のような羽に、桜を思わせる衣、そしてそれを包み込む圧倒的な魔力…。その何もかもが、エルザの目を、心を引き付けるのに十分であった。他のメンバーも、その美しすぎる後姿に、浸っていう様子であった。
「まさか、黒虚閃を消し飛ばすほどとはな…少し、驚いた…」
「そりゃこっちのセリフだ…まさかあれを通さないとは…」
爆風から、砂ぼこりからゆっくりと姿を現した黒翼を有するウルキオラの言葉に、アレンは抑揚をつけずに言葉を発する。
「お前とはゆっくり戦ってみたいが…今はそんな暇はないんでな…悪いが一瞬で終わらせてもらう」
アレンはそう言って双剣を握る拳に力を籠める。
「ほう?まさか一瞬で終わらせられると思っているのか?…ッ!」
ウルキオラはアレンの言葉に、挑発を含めて言葉を発するが、それが偽りでないことを察知する。
アレンの周りに、これまで以上の魔力が発生する。そしてそれは、アレンとウルキオラの全方位を取り囲むようにして渦巻く。その魔力は、空間に干渉すると、視界に捉えきれないような、数えるのも億劫なほどの、数多の剣が召喚、漂いを見せる。
「装帝・天封万刃…」
空を、天を封じ込めるようにして、圧倒的な数の剣が空中へ出現した。ウルキオラはその様を見て、大きく目を見開く。
「な、なんですか…これ…」
「剣…一体何本あるの…」
「全て…換装したというのか…」
同じようにその光景を見たユキノ、エバ、リリーが冷や汗を流しながら口を開く。エルザは同じ魔法を使う者として、自身が召喚せしめる剣の数を圧倒的に超えていることに、言葉すら出せず、口をあんぐりと開けている。ヒノエとミノトも、同様に驚き、目を大きく見開いている。
そんな驚きを意にも介さず、アレンは更に言葉を続ける。
「…殲帝」
アレンが短くそう呟くと、天を覆う刃の全てがウルキオラへとその切先を向ける。その様を見て、ウルキオラは身構えて見せる。
「一咬万刃花!」
アレンがそう言い話すと、天に浮かぶすべての刃がウルキオラの元へと降り注ぐ。ウルキオラは怪訝な表情を浮かべながら、その刃に呑まれた。多くの刃が衝撃を生み、辺り一帯の全てを無に帰す。
「…万の刃に…呑まれて消えろ…」
その衝撃を見据えながら、アレンは小さく呟いた。

アレンの魔力を得たナツ、グレイ、ジュビアは、その圧倒的なまでの防御力と些少の魔力向上によって、一気にマルドギールを追い詰める形となる。
そんな風に畏怖を覚えるほどの力を有していたナツ達に怒りと恐怖を滲ませたマルドギールは、キョウカ同様、真の姿であるエーテリアスモードで応戦を開始する。
当初はその悪魔の力に尻込みするナツ達であったが、スティングとローグの助けもあり、マルドギールを戦闘不能に追い込むことに成功する。
「やったぞ…」
「勝った…」
ナツは倒れこむようにして言葉を発し、グレイは滅悪魔法による身体の黒い浸食を消しながら口を開いた。
「やりましたね…グレイ様…」
「これで…冥府の門は全滅だ…」
「ふっ…」
ジュビア、スティング、ローグも安心したように座り込む。だが、その安心は長くは続かなかった。
「その本は僕のだ…。そろそろ返してもらうよ…マルドギール」
ウルキオラとはまた違う、邪悪な魔力を感じ取ったナツ達は、目を見開きながらその声の元へと振り返る。
「て、てめえは…」
「ゼ、ゼレフ…」
グレイ、ジュビアがひどく怯えた様子で言葉を放った。ゼレフの姿を捕えたマルドギールも、驚いた様子であった。
「マルドギール…君はよくやったよ…アレンの支配も、ENDの復活もあと一歩だった…」
ゼレフは、ENDの書を片手に、歩みを進める。
「もう眠るといい…」
ゼレフの言葉に、アルドギールは地に伏した状態で身体を震わせる。
「マルドギールは…あなたの望みを…叶えることは…」
「君には…無理だ…」
ゼレフはそう言って、指を鳴らす。すると、マルドギールの身体は紫色を帯びた煙となって一冊の本へと変わる。そして、その本は炎に包まれ、消失する。
その様子を見て、ナツが怪訝な表情でゼレフに問いかける。
「てめえの作った悪魔じゃねーのか!!」
「そうだね…でも、もういらないからね…」
ゼレフの言葉に、ナツは身体を震わせて怒りを露にする。
「てめえは自分の作った…ッ!」
ナツはゼレフに詰め寄ろうとするが、急に心臓を掴まれたような痛みと動悸に苦しそうにして見せる。同じように、スティングとローグも心臓を抑え込んで倒れこむ。
「ッ!ナツ!!」
「スティング君!ローグ君まで!」
グレイとジュビアがそんなナツに駆け寄る。ゼレフはそんなナツ達の姿を見て、驚いたように空を見上げる。
「まさか…」
ゼレフの焦ったような様子に、グレイとジュビアが怪訝な表情を見せる。
「強大な魔を感じとってやってきたか…」
「ッ!一体何だってんだ!」
ゼレフの言葉に、グレイは同じように空を眺めながら悪態を付く。
「…アクノロギア…ッ!」
ゼレフの言葉に、ナツ達5人は、酷く怯えたような、驚いた表情を見せた。

アレンは、ウルキオラに放った一咬万刃花の攻撃が収まるのを見届けて、フェアリーテイルへとその身体を向ける。
「無事か?みんな…」
「「「「「「「「「「…アレン…」」」」」」」」」」
アレンの言葉に、皆は小さく呟く。それ以上の言葉を発することのできなかったが、ラクサスは怪訝な声で、小さく呟く。
「アレン…その右目…」
ラクサスの呟きに、皆は思い出したように表情を曇らせる。
「ああ…これか?…まあ、両目がある時よりも視界は狭くなっちまったが…元が強いからちょうどいいわ!」
アレンは笑って見せるが、皆の表情に笑いが起こることはなかった。アレンがいかようにしてその右目を失ったのかを知っている皆からすれば、その心情は計り知れない。まして、目を失った瞬間の叫びを、キョウカにより目の前で目玉を潰される様を見ていたルーシィ、ウェンディ、ミラ、シャルルの気持ちはさらにそれを超えていた。
「…はぁ…別にお前らのせいじゃねえだろ…」
「で、でも…私達を…守るために…」
アレンの言葉に、ミラは涙を流して呟く。アレンはそんなミラに笑い掛けながら言葉を駆ける。
「それでも、お前たちのせいじゃない。それに、これで俺も…ッ!」
アレンの言葉は紡ぎを迎えることはなく、何かに気付いたように後ろを振り返る。その様子に驚いた皆も、怪訝な表情を浮かべる。
皆もアレンが視線を向けている方へ眼を凝らす。そして、それは驚きを生むことになる。砂ぼこりの後ろに、一人の人影が写ったからだ。
「…う、噓でしょ…」
「ま、まだ…」
既に倒れたと思っていたウルキオラの魔力を感じ、カグラとエルザは怯えたように声を漏らす。
そして、砂ぼこりが晴れたとき、更なる衝撃がアレン達を襲う。先ほどまでのウルキオラの姿とはまるで違う、頭に長い角を2本生やし、全身を黒い体毛のようなものが覆っている。更に、長い尻尾も見て取れた。
刀剣解放(レスレクシオン)第二階層(セグンダエターパ)
その言葉を聞き、皆の表情に絶望が浮かび上がる。
「まさか…無傷とはな…それに、第二階層…だと…?」
アレンは小さく笑いながら言葉を発するが、その顔には冷や汗に似た嫌な汗が滴る。
「俺は解放が一段階だけだと言った覚えはない…」
「ちっ…」
ウルキオラの言葉に、アレンは舌打ちする。それと同時に再び臨戦態勢へと移行させるが、それはある乱入者の言葉によって遮られる。
「随分と面白いことになってるな…ウルキオラ…」
その声を聴き、アレンは再度目を見開いてその声のする方へと視線を向ける。
「てめえは…バルファルク…ッ!」
アレンの言葉を聞き、フェアリーテイルのメンバーも驚きの表情を浮かべる。
「バ、バルファルクだと…」
「だが、どう見ても人の姿だゾ…」
「いや、魔力はクロッカスで感じたものと同じだ…」
「つまり、あれが奴の人型の姿ってわけか…」
アレンとヒスイ王女から齎されたバルファルクの情報の中に、人に化けることができるというものがあったこと思い出しながら、エルザ、ソラノ、ウル、ラクサスが口々に言葉を放つ。
「何をしに来た…バルファルク…」
「何って、加勢に来てやったんだろうが…」
ウルキオラの言葉に、バルファルクが小さく笑って見せる。
「…こいつは驚いたな…お前らグルだったのか…ってことは、ゼレフも仲間ってわけか…」
アレンの仮説に、フェアリーテイルの表情は更なる絶望が支配する。
「勘違いするな…俺は仲間でも何でもない…利害の一致だ…」
「つれねーこと言うなよ…ウルキオラ」
ウルキオラの言葉に、バルファルクは怪訝な表情を見せる。そんなバルファルクの様子などお構いなしに言葉を続ける。
「お前はそこのゴミ共の相手でもしていろ…」
「はっ…まあ、それはそれで、悪くねえか…」
ウルキオラはフェアリーテイルのメンバーへ視線を移しながら言葉を発すると、バルファルクは仕方ないと言わんばかりにエルザ達へと歩みを進める。
「ッ!ま、まて!!…っく!」
アレンは、仲間の元へと歩みを進めるバルファルクを止めようと詰め寄るが、瞬時に現れたウルキオラにそれを遮られる。
「お前の相手は俺だ…」
「どけ!ウルキオラ!」
アレンはウルキオラへと怒号を飛ばすが、ウルキオラから発せられる圧倒的な力に、押し返される。
「俺以外の奴と戦いたければ…俺を倒してからにしろ…」
「くそっ…」
アレンは体勢を整えながら悪態をつく。バルファルクがゆっくりと迫ってくる様相に、エルザ達は恐怖を覚えたが、皆が意を決したように立ち上がる。
「…やるぞッ!」
「ウルキオラに比べれば…」
「大したことはない…」
エルザ、ラクサス、カグラが力強く言葉を放つ。
「言ってくれるな…人間の分際で…」
バルファルクはそいうって魔力を解放するが、それと同時に彼方の空に圧倒的なまでの畏怖を覚え、ガバッと空を見上げる。
「これは…まさか…」
バルファルクのその様子に驚いたエルザ達であったが、直後、ガジルとウェンディがバタッと倒れこむ。
「ガジルッ!!」
「ウェンディッ!!」
そんな2人に、レヴィとシャルルが心配そうに声を上げる。
「…ほう?これが…」
ウルキオラもその存在に気付き、空を見上げる。
「嘘だろ…こんなときに…」
アレンは苦虫を噛み砕いた様子で悔しそうに表情を歪ませる。
「な、何だってんだ…一体…」
ラクサスが小さく呟くと、バルファルクがニヤッと口角を上げる。
「なんだ…わからないのか?アレンを殺しかけた存在だ…」
その言葉に、ラクサスだけでなく、その場にいる全員が驚きの表情を浮かべる。
「そ、そんな…まさか…」
「あ、ああ…」
ミラとルーシィは何かに気付いたように狼狽している。
「…アクノロギア…思ったよりも早く復活してきたな…」
ウルキオラの言葉に、アレン含め、皆の予測が核心に迫る。
―ゴオアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!
そして、聞きなれた…いや、もう二度と聞きたくはなかった咆哮が冥界島を、マグノリアを王国を駆け巡った。

急な動機に苛まれているナツ、スティング、ローグは、胸を押さえ、浅く速い呼吸を繰り返していた。
そんな中でも、先ほどのゼレフの言葉に衝撃を受け、言葉を返す。
「アクノロギア…だと?」
「フィオーレクライシスの…元凶…」
「本当に…死んでいなかったのか…」
ナツ、スティング、ローグの問いに、ゼレフは静かに答える。
「そうだよ…そら、来たよ…」
ゼレフの言葉を受け、5人は空を見上げる。そして、絶望する。天狼島で見た、暗黒の翼が、アレンを追い詰めたあの黒き竜が、雲を割り、姿を現す。そして、白きブレスを放ちながら、冥界島の空を飛び回っている。
「そんな…」
「冗談だろ…」
ジュビアとグレイは、震える足を何とか抑え込もうと力を籠める。ゼレフは、そんな様子の2人と、苦しそうに胸を押さえる3人を一瞥し、歩みを進めた。
「ッ!どこへ行くつもりですか!」
「…僕の行動よりも、アクノロギアに反応しているナツ達を心配してあげた方がいいんじゃないかな…」
ゼレフの言葉を受け、一度身体の動きを止めたジュビアであったが、再度ゼレフを止めようと身体を動かす、だが、何者かに手を掴まれ、それを制止させる。
「グ、グレイ様…」
「今は奴に構ってる暇はねえ…それに、今の俺たちじゃ、奴には勝てない…」
グレイの言葉を聞き、ジュビアは苦悶の表情を見せるが、反論の余地はなく、ゼレフの後姿を捉えるに留める。
ゼレフは、そんな5人から少しずつ遠ざかるようにして歩みを進め、小さく呟いた。
「どうやら、400年ぶりにその姿を見ることができそうだね…イグニール」

アクノロギアの出現により、一時戦闘行為を中断させたアレン、ウルキオラ、バルファルク、そしてフェアリーテイルのメンバーは、大空を飛翔するアクノロギアに視線を奪われる。
「そんな…」
「この状況で…」
「なんで…」
ミラ、エルザ、ウルティアが、その目に涙を浮かべながら小さく呟いた。
「…さて、どうしたものか…」
ウルキオラは誰にも聞こえぬような声で小さく呟く。アクノロギアの力は、ウルキオラには及ばない。それこそ、第二階層となったウルキオラの力であれば、まず間違いなくアクノロギアに殺されることはない。だが、いくらウルキオラが強くとも、アクノロギアを滅することはできない。ウルキオラの力は、霊力に由来するモノ。そして、この異世界に飛ばされた際、霊力はそのまま魔力として変異した。故に、ウルキオラの放つあらゆる技はアクノロギアには通用しない。唯一、膂力による斬撃と体術のみは効果はあるだろうが、その点に関してはアレンの方が実力としては上だ。この戦闘でわかったことだが、単純な膂力での争いでは、ウルキオラはアレンには到底及ばない。その差を魔力で補って戦っていたのだ。その補いが、あまりにも強大な魔力であったがために、アレンをも凌ぐほどの力ではあったが、一切の霊力、魔力を無に帰すアクノロギアの前では、その補いも意味をなさない。ウルキオラの力が通らないアクノロギア、そしてアクノロギアの力ではウルキオラに致命傷は与えられない…。まず間違いなく泥沼の戦いと化す。だからこそ、ウルキオラは迷っていた。このままアレンとの戦闘を続けるべきかどうかを。もしここで俺が引けば、アレンは間違いなくアクノロギアへと向かっていくだろう。だが、それでもアクノロギアに勝てる保証はない。ウルキオラとしては、アクノロギアはこの世界において目の上のタンコブ。滅することができるのであれば滅したいというのが本心であった。
そんな風に考えていると、ある可能性に気付く。
「(あの力を解放すればあるいは…だが…今はその時ではない…)」
ウルキオラはそうして思考を停止させると、アレンへと向き直る。
「懐かしいか?あの竜が…」
「…ウルキオラ…」
急に声を掛けられたアレンは、視線をアクノロギアからウルキオラへと変える。
「…バルファルク…戦闘続行だ…ゴミ共を始末しろ」
「…俺に命令するな…それに、言われなくてもそうしてやるよ…」
ウルキオラはバルファルクに声を掛ける。バルファルクは、姿を人から竜へと変え、大きな咆哮を放つ。その力に、クロッカスで感じたものと同じ力に、フェアリーテイルのメンバーは畏怖を覚える。
「ッ!お前は一体何を目的に動いている!なぜこんな状況でも戦いを…」
「目的…そうだな…お前の使命と俺の目的は、同じところにあるとでも言っておこうか」
ウルキオラの発言に、アレンは大きく目を見開く。
「なん…だと…?」
「だが、俺とお前ではそれを為すプロセスが違う…俺の目的に、お前という人格は必要ない」
ウルキオラの続けざまの言葉に、アレンは何かに気付いたような表情を見せる。
「なるほど…そういうことか…なんとなくだが、お前の考えがわかったぜ…」
「そうか…その予想が当たっているといいな…」
ウルキオラはアレンへと静かに言葉を発するが、ある違和感を覚えたために問いかける。
「…だが、随分と落ち着いているな…バルファルクがお前の仲間とやらを殺そうとしているのに…」
「…その心配がなくなったからな…」
「どういう意味だ…」
「…時期に分かる」
アレンはそう言い返すと、視線を移すことはしなかったが、意識をフェアリーテイルのメンバーに、ウェンディとガジルに向ける。ウェンディは地面に伏して、ガジルは座り込み、胸を押さえて激しく息を荒げている。本来なら、アレンはそんな2人を心配する様子を見せるはずであったが、それが一体何であるのかを理解していたアレンは、安心したような表情を見せる。
「ウェンディ…しっかりして!!」
「ガジルッ!一体何が!」
だが、そんなアレンとは違い、全く状況を掴めていないシャルルとレヴィは、心配そうに2人に問いかける。
「う、うぅ…」
「動悸が…とまらねえ…」
ウェンディとガジルは、徐々に強まる動悸と息苦しさに、恐怖の表情を浮かべる。そんな折、2人の頭に、聞き覚えのある声が響き渡る。
『ウェンディ…大丈夫…その動悸はじきに収まるわ…』
『…さらに目つきが悪くなっているぞ…』
その声を聴き、2人は今までにない驚きを見せる。
「グランディーネ!?」
「メ、メタリカーナなのか…!」
ウェンディとガジルの言葉に、周りの皆は驚きの表情を見せる。
「な、なにを言ってるんだ!」
「本当に大丈夫なのか!」
ジェラールとリリーが、突拍子もない発言をした2人に声を掛ける。
『今まで本当にごめんね…ウェンディ…』
『…ついにこの時が来たな…』
その声を皮切りに、ウェンディとガジルは、天を突かんばかりの叫び声をあげる。
「ああああああっっ!!!!」
「ぐわああああっっ!!!!」
その叫び声に、周りの皆は再び声を掛けようとするが、ウェンディとガジルの頭上に現れた強大な影によって、それを遮られる。
「積もる話もあるけど…今は…」
「天彗龍を…」
2人の頭上に現れた強大な影、竜は、フェアリーテイルのメンバーに迫らんとしているバルファルクに向けて身体を動かす。
「「排除する!!!」」
グランディーネとメタリカーナがバルファルクへと突進したことにより、バルファルクは体勢を崩し、空へと飛びあがる。
その様相を見て、ウェンディ、ガジルだけでなく、アレンを除く、その場にいた全員が目を見開いて表情を固める。
「ド、ドラゴン!!」
「こ、これは現実か…」
「なぜ…2人の身体から…」
「まさか…」
フリード、リオン、ヒノエ、ミノトが口々に言葉を漏らす。
ガジルはひどく困惑した様子で、ウェンディは唇を噛みしめながら、大粒の涙を流している。
「お、お母さん…お母さん!!」
「メタリ…カーナ…」
その2人の言葉を聞いて、周りの皆は確信した。あの2体の竜が、ウェンディとガジルが探す、天竜グランディーネと、鉄竜メタリカーナであることを。
そして、少し離れた位置で、同じように天を突かんとする渦のようなものを感じる。皆がその方向へと視線を移すと、赤と白と黒、3体の竜が、同じように出現していた。
「赤い…ドラゴン…」
「まさか…ッ!」
赤く、火を思わせるそのドラゴンを視界に納めたエルザとルーシィが目を震わせながら口を開く。
「あれが…」
「火竜イグニール…」
ヒノエとミノトは、その竜の力を感じ取り、複雑そうな視線を向ける。
「白いのと黒いのは…」
「あの2人の…」
ミラ、ユキノは白と黒の竜を見て、言葉を漏らし、ミネルバが震えた声で小さく口を開く。
「白竜バイスロギア…影竜スキアドラム…」
ミネルバがそう呟くと、3体の竜は黒竜アクノロギアに向かって飛翔していく。
この冥界島、マグノリアの空に、7体の竜が集結した。
炎竜王イグニール、鋼鉄竜メタリカーナ、天空竜グランディーネ、白鳳竜バイスロギア、影翔竜スキアドラム。そして、天彗龍バルファルク、黒闇(こくあん)竜アクノロギア。
さらに、それと同等かそれ以上の力をもつ、アレン・イーグル、ウルキオラ・シファー、ゼレフ・ドラグニル。
この冥界島に、世界最高戦力ともいえる程の強者が雁首を揃えて集結する。
しかし、この集結は、いわば序章に過ぎなかった。
この後現れる更なる強者と、世界を破滅へと導きかねない戦いは後に、『ファースト・ディマイス・ウォー』と名付けられ、フィオーレ王国の歴史上、天狼島で発生した『フィオーレクライシス』、そして首都クロッカスで発生した『ドラゴンレイド』と並び、『国家存亡の危機』と言わしめた『四凶大戦』のうちの一つとして、後世に語り継がれることとなる。 
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