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フェアリーテイルに最強のハンターがきたようです

作者:ブラバ
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第6章 英雄感謝祭編
  第25話 vsバルファルク

各竜種に対し、首都クロッカスにいる魔導士は、苦戦をしながらも、何とか勝利を収めていてた。特に、フェアリーテイルの戦績は目を見張るものがあり、竜種に対して一歩も引かぬ戦いを繰り広げ、その戦況を支えていた。

砕竜ブラキディオスと相対したのは、妖精のカナ、ソラノ、ユキノに加え、蛇姫のジュラ、トビー、ユウカ、シェリアの7名。
蛇姫のジュラは、アレンやマカロフと同じ聖天大魔道の称号を持つ力ある魔導士で、ブラキディオスに対して主戦力として対抗した。加えて、カナの魔法の札による攻撃や、ソラノとユキノの精霊による攻撃で援助を行いつつ、トビー、ユウカ、シェリアが後方支援へと周り、戦闘を継続していた。ブラキディオスの地面をも砕く殴打は、ジュラの作り出した岩壁や岩柱を容易く砕き、加えてその攻撃によって発生する粘液が爆発を起こすなどして、耐えがたいダメージを追っていた。だが、最後はジュラの魔力を込めた岩魔法に加え、アレンとの修行にとって強化されたカナの魔法、ソラノとユキノの星霊の力により、何とか勝利を収める。

雷狼竜ジンオウガと相対したのは、妖精のナツ、ハッピー、ルーシィ、エルフマン、リサーナの5名。ジンオウガの圧倒的なスピードと攻撃力に、終始圧倒されていた。加えてジンオウガの放つ電撃で身体が痺れ、そこにまた攻撃を喰らい、また痺れ…を繰り返していたが、エルフマンの圧倒的な身体能力の向上による決死の引き付けや、ルーシィによる精霊の3体同時召喚によってジンオウガが転倒したことで、戦況が変わる。ナツの滅竜奥儀とリサーナの動物接収の攻撃を連続で喰らい続けたジンオウガは、呻き声を漏らしながら地面に伏っし、勝利を収める。

轟竜ティガレックスと相対するガジル、リリー、レヴィ、ビスカ、アルザックの5名は、ガジルとリリーを前衛とし、ビスカとアルザックが遠方からの射撃、レヴィが後方支援として戦闘を始める。ティガレックスの咆哮は、他の竜に比べて強力であり、轟音に加え、一定の距離で喰らうと、あるで暴風が吹き荒れるかのように吹き飛ばされる。動きも俊敏で、いざ近づいても回転されるなど、その体格によって生み出される力で1,2回の攻撃を喰らっただけでダウン寸前であった。また、ティガレックスの突進スピードに対応できず、ビスカとアルザックも負傷。レヴィは無傷に近い状態であったが、恐怖で足が竦み、戦いにすらならなかった。だが、ガジルとリリーはそんな状況でも決してあきらめず、ティガレックスに立ち向かった。レヴィがガジルに対して大量の鉄を生み出し、更にバフ魔法を2人に付与したことで、ガジルは滅竜奥儀と合わせ、リリーはパワーで、何とかティガレックスを下すことに成功する。

氷牙竜ベリオロスと相対したグレイ、リオン、ジュビアは、相性の悪さもあり、ベリオロスに対して決定的なダメージを与えられずにいた。また、氷の強度や攻撃力はベリオロスの方が数段上であり、グレイやリオンが放った氷は悉く破壊されていく。ジュビアがアレンの分身体を倒した程の水魔法による攻撃を仕掛けるが、ベリオロスの身体に届く前に凍らされてしまう。時間が経つにつれ、何とか攻撃を回避し続けた3人も、疲労で足が縺れるなどして、1撃をその身に受けてしまう。特にジュビアは直撃を喰らい、その場から動けない状況であった。そんな折、ベリオロスの跳躍による突進攻撃がジュビアを襲う。ジュビアは恐怖をかき消すかのように目を瞑るが、何時まで経っても自身に降り注がない衝撃にゆっくりと目を見開く。グレイが庇う形でジュビアを守ったのだ。ジュビアの顔や体にグレイの血がまとわりつく。グレイは、ベリオロスの鋭く強大な牙に、腹を貫かれていた。ジュビアは瞳孔が開きっぱなしで、放心する。リオンがベリオロスを引き付けようと攻撃を繰り返し、グレイが倒れこむのと同時に、ジュビアの周りに圧倒的な魔力が吹き荒れれる。ジュビアの怒りによる魔力上昇であった。それは、ジュビアの水を、本来水として存在できない温度にまで上昇させる。ベリオロスの氷化をものともせず、攻撃がベリオロスの身体へと届く。圧縮された水の刃は、ベリオロスの身体をいともたやすく切り裂き、ベリオロスの胴体と首を切り離す形で勝利を収める。戦闘終了後、グレイの腹にぽっかりとあいた大穴をリオンの氷で凍らせ、ウェンディ含め、治療できる者や場所へと急いで運んだ。

炎戈竜アグナコトルに相対したのは、妖精のウル、ウルティア、剣咬のミネルバ、ローグ、スティングの5名。戦闘開始時に、互いに自己紹介をする中で、ミネルバがアレンと知り合いであること聞いたウルとウルティアは一瞬怪訝な表情をみせるが、詳しくは状況を考えて先送りとした。また、ローグとスティングは若干14歳ながらも、影と光の滅竜魔導士ということもあり、皆で攻撃を加え、倒すという作戦になった。この竜襲来戦において、もっとも竜を圧する戦果を挙げた5人でもあった。ウルティアは、アグナコトルの攻撃が地面をも潜って繰り出されることに加え、スピードも無視できないものであることから、時のアークの覚醒、未来予知によってアグナコトルの動きや攻撃の瞬間を皆に伝えるという形で支援に回る。それをあり、5人全員が無傷とはいかなくとも、攻撃の直撃は避けられる。また、ミネルバの任意の空間を爆発させる魔法が大きく活躍し、アグナコトルを怯ませることに貢献する。ウル、ローグ、スティングが連続で魔法を繰り出してダメージを与えつつけ、重傷者を一人も出さずに勝利を収めた。

アレンからの通信を終え、どの位置に、どのモンスターが出現したかを理解したヒノエとミノトは、バルファルクを除き、その中で最も危険な龍の元へと赴いた。名を鋼龍クシャルダオラ。バルファルクと同じ古龍種であり、まず普通の人間が太刀打ちできる相手ではない。魔導士が徒党を組んで戦いを挑んでも勝機は薄いとみて、2人での戦闘を決断した。
ランスを扱うミノトを前衛とし、弓を扱うヒノエが後衛という形で戦闘を開始した。上位ハンター相当の実力を持つ2人であっても、クシャルダオラの強さは苦戦を強いられるものであり、戦闘は長引くこととなった。特に、クシャルダオラの発する暴風は、ヒノエの矢の精度を狂わせるなど、思うようにダメージを与えられなかった。それでも後方より矢を射続けたヒノエと、様子を伺いながらチクチクとランスを突き刺していたミノトは、クシャルダオラを地面へ墜とすことに成功し、それを狙って頭部へ一斉攻撃を仕掛けることで、部位は含め、大ダメージを与える。一度は体勢を立て直したクシャルダオラであったが、ダメージと部位破壊による衝撃で、再度飛翔することがかなわず、烈火のごとく攻撃を繰り出す2人に下される形で戦闘を終えた。

「姫様!危のうございます!!」
玉座の間にいるアルカディオスが声を荒げる。それは、崩れたバルコニーから城下を見下ろしているヒスイにかけられた言葉だった。
クロッカスは、至る所が崩壊しており、花の都と呼ばれていた都市に、その面影はない。
いわずもがな、それはバルファルク含め、11体の竜によるものである。
ヒスイは、呆然と立ち尽くし、小さく口を開いた。
「私は…なんということを…」
その言葉に、アルカディオスは表情を曇らせる。
「姫様、アレン殿の言うとおり、今は安全なところへ…」
「いえ…私には戦いを見届ける義務があります」
ヒスイは拳を握りしめる。
「ですが、姫様の身に何かあっては…」
アルカディオスがそう言い切る前に、一人の衛兵が玉座の間に慌てた様子で入ってくる。
「報告申し上げます!!今しがた、首都クロッカスにいる魔導士の活躍により、10体の竜の撃破を確認!」
「ま、まことか!!」
その言葉に、国王が驚きながら返答する。ヒスイやアルカディオス、ダートンの表情に少しの喜びが伺える。
「残りは、首謀者でもあるバルファルクのみ。現在、フェアリーテイルのアレン・イーグルが応戦している者の、天彗龍という名は伊達ではなく、まるで隕石のようなスピードと圧倒的な攻撃力に苦戦している模様…」
その言葉を聞き、4人は目を尖らせる。その瞬間、ゴオッという轟音が玉座の間に駆け巡る。
「なんだ!?」
「ッ!」
アルカディオスとヒスイがその音の発生源と思しき城外に視線を向ける。目を見開く。そこには、竜の姿へとその身を変えたバルファルクと、巨大な剣を持ったアレンが上空でにらみ合っていた。
ヒスイは両の指を絡め、小さく呟く。
「アレン様…どうか…」
それと同時に、アレンとバルファルクが互いにぶつかり合う。
「ゴオオオオオオンンンッ!!!」
圧倒的な轟音と衝撃が、首都クロッカスを包み込む。
「ああっ!!」
「ひ、姫様!!」
その衝撃に、ヒスイは体勢を崩し、悲鳴をあげる。アルカディオスは震える身体を何とか動かし、ヒスイを支える。
「っ!なんという…」
「これが…竜の力か…」
ダートンと国王は玉座からその衝撃を感じ取る。
「…勝てるのか、あんなものに…」
アルカディオスは、狼狽したように口を開いた。
ヒスイは、ただただ、2人が相対するのを眺めることしかできなかった。

バルファルクを除く、10体の竜の討伐を仲間に任せ、バルファルクとの戦闘を行っているアレンは、バルファルクの飛翔スピードになんとか対応しながら、首都クロッカスの遥か上空で戦闘を行っていた。途中、ミラたちが戦闘を行っていたフルフルの元へ舞い降りたバルファルクを何とか引きはがし、空中へとその戦闘ステージを移す。アレンは、魔力を得たことによる空中浮遊や空中飛行などを会得していたこともあり、バルファルクに対して比較的優位に立ちまわれているかに思えたが、バルファルクが人間と同程度の知能を持っていること、自身が戦ったことのあるバルファルクとは2回りほど強大な身体に加え、戦闘能力が強化されていることで、両者の戦闘はアレンが若干優勢程度に留まっていた。両者ともに相当なダメージと疲労が溜まっている様子であった。
バルファルクは高高度での戦闘が難しくなったのか、現在は首都クロッカスの上空50mほどでアレンと対峙している。
「おっかしーね…おまえ、こんなに強かったか?」
アレンは空中に滞空しながら、相対するバルファルクに言葉を投げかける。
「はっ、腑抜けたことを…なぜかは、理解しているだろう」
アレンは目を細める。
「お前、どうやって言葉…いや、人格を得た?」
「さて、それに答える義務があるのかな?」
バルファルクは巨大な槍翼を広げて威嚇するように言い放つ。
「…だが、まあ、そうだな。私をここまで追い込んだ褒美に、ヒントだけくれてやる…あいつは、お前を友と呼んでいたよ」
アレンは、バルファルクの言葉を聞き、目を見開く…。そして、あいつという人物が誰であるのかを悟る。バルファルクに力と人格を与えられるもの。アレンには1人しか思いつかなかった。
「…ゼレフか…」
アレンの言葉に、バルファルクは含んだような笑みを浮かべる。
「あいつは今どこにいる?」
「言っただろう、ヒントを与えるだけだと…それにお前がそれ以上知る必要はない…」
バルファルクはそう言い放ち、アレンへと槍翼を突き出した。

竜の撃破を達成したフェアリーテイルを始めとする魔導士は、竜の死体を王国の衛兵に託す。衛兵たちはその際に、「王国の治癒魔導士が王城前広場にいるので、集まってほしい」と伝えた。
戦いを終え、何とか動ける魔導士たちは、王城前広場へと集結する。およそ50人の魔導士たちは、王国魔導士の治療を受けながら、各々に会話をしていた。
「フリード!!エバはどうなった!」
ラクサスは重傷を負っているとは思えない程の声を張り上げる。
「ああ、無事だ。ウェンディが治療してくれた」
フリードはそう答えながら、ラクサスの隣へと視線を落とす。
「…ビックスローも重傷みたいだな…」
フリードの言葉に、ラクサスは怪訝な表情を見せる。
「すまねえ…ビックスローは俺を庇って…」
「っ!そうか…」
ラクサスの苦しそうな表情に、フリードは思わず目を背ける。
だが、その背けた先にも、重傷を負っている者がいた。意識はあるものの、身体を動かすのも億劫な様子であった。
「無事か?エルザ」
「…ああ、なんとかな…」
エルザは顔以外、全身包帯グルグル巻きになっていた。
「皆、こっぴどくやられたものじゃ…」
「厳しい戦いでしたわ…」
「姉さま、今は安静にして下さい」
「あら、そういうミノトも、じっとしてなきゃだめよ」
マカロフ、ヒノエ、ミノトも口々に口を開く。
「だが、魔導士に死人がいないのは不幸中の幸いだ…」
「あれだけの竜が出て死人が出ていないのは奇跡よのう…」
ジュラとミネルバが感心したように言葉を発した直後、ゴオオオオオッという轟音と共に、咆哮が首都クロッカスを襲う。
「ゴアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」
「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」
その音に、皆が空を見上げる。
「あ、あれは…」
「天彗龍…」
「バルファルク…」
ジュビア、ウルティア、オルガが目を見開きながら見つめる。その姿を見て、ヒノエとミノトが一歩歩みを進め、口を開いた。
「天彗龍バルファルク…超高空域に生息する大型の古龍種…その飛翔速度は音速にも到達しうるほどの速さをもちます」
ヒノエの言葉に、皆が驚愕の表情を浮かべる。
「古龍…それに音速…!?」
「そんなに…」
スティングとローグは開いた口が塞がらないといった様子であった。
「…銀翼の凶星、絶望と災厄の化身など、数多の異名を持つ龍です」
ミノトがそう言葉を続ける。皆の表情には、驚きと畏怖が浮かんでいた。すると、ナツがバルファルクと対峙する形で滞空する一人の男を見つける。
「あ、あれ、アレンじゃねーか!?」
「ッ!!向かい合っているのか!」
「…アレンでも苦戦するほどか…」
ナツ、ジェラール、ラクサスが驚いたように言葉を発した。
その直後、両者が目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。
「バコオオオオンンンッ!!」
凄まじい衝撃音と共に、烈風と轟音が魔導士たちを襲う。
「きゃっ!!」
「な、なんて衝撃だ…!」
「こ、こんなの…」
「あり…えない…」
ルーシィ、グレイ、レヴィ、ミネルバが震えながら口を開く。皆、ケガの痛みや疲労を忘れたように空を見上げていた。
「…アレンッ…」
銀色の長い髪の毛をたなびかせながら、ミラは心配そうに呟いた。

もう何度目の衝突か、数えるのも億劫なほどにアレンとバルファルクは互いに攻撃を繰り出していた。
「さすがは絶望の星だな…はぁ、はぁ」
「ガァ…あの方が興味を持つのもわかる…この強さ…もはや人間のそれではないな…」
アレンもバルファルクも、どちらも疲弊が見えている。
「だが、もう終わらせてもらおう!!」
バルファルクは、槍翼を横へと薙ぎ払う。余りにスピードに、反応が遅れたアレンは、横腹に攻撃が直撃し、地面へと叩き下ろされる。
叩き落された先が、王城前広場だったため、集まっていた魔導士たちの目の前にアレンが墜落する。
地面を割るほどの衝撃に、皆が驚愕の表情を浮かべる。
「「「「「「「「「「アレンッ(さん)!!」」」」」」」」」」
アレンは、その攻撃と衝撃に、四つん這いで血反吐を吐く。衝撃で思わず手放した大剣が、遥か後方へと吹き飛び、地面に突き刺さる。
「アレンッ!」
「だ、大丈夫…ゾ!」
ウルとソラノが心配そうに叫ぶ。
アレンはその言葉に返答せず、すぐさま立ち上がり、上空を見つめる。バルファルクが、槍翼を重ねて突き出し、龍気ビームを放とうとしている。アレンはそれを見て、両手を前に突き出し、魔力を込める。
「な、なにをする気だ!アレンッ!」
「まさか、迎え撃とうというのか…」
エルザとカグラが、狼狽したような声を上げる。
バルファルクの圧倒的な龍気エネルギーに腰を抜かしていた魔導士たちであったが、アレンが放つ魔力の強大さに、更に驚きを浮かべる。アレンは、荒ぶる魔力をコントロールするかのように、意を決して口を開いた。
「飛翔する天馬!竜を落とす流星!撃沈せしめし賊の大群が、天を震わせ開闢する!!」
アレンの突き出した両手に、青い稲妻を思わせる凄まじい魔力が回転するように圧縮されていく。
「な、なんという…」
「じょ、常軌を逸している…」
アレンが纏う魔力の強大さに、ミネルバとジュラが、呟きながら驚きを露にする。
「激雷伴う豪砲に!数多の翼を奪い去らん!!」
バルファルクが、溜めに溜めた龍気を、アレンや魔導士のいる王城前広場に向けて放つ。それに相対するように、アレンも詠唱した魔法を放った。
「破道の八十八、飛竜撃賊震天雷砲!!!」
「コオオオッ!!」という音と共に、青い稲妻のような砲撃が、天高く昇っていく。そして、バルファルクの放った赤き龍気ビームと激突する。
まるで上空で雷が何十発も落ちたかのような衝撃がクロッカスを支配する。
「うわっ!」
「くっ!!」
「ううっ!!」
広場にいる魔導士たちが、その轟音に、閃光に、烈風に耐えるように身を固める。暫くして、
両者の攻撃が打ち消しあうように飛散し消滅する。
アレンはそれを見届けると、魔導士たちの集まる場所へと高速で移動する。
「ッ!アレンさん!」
「ひどいお怪我を…」
アレンの姿を見て、ヒノエとミノトが悲鳴に近い声を上げるが、それでもアレンは返答をしない。そして、両手を魔導士たちへと向ける。
「…縛道の八十九…」
アレンがそう口にすると、王城と王城前広場を囲むようにオレンジ色の線が形成される。
「断空絶壁!」
キィィィンッ…、という高音と共に上下前後左右を取り囲むような、淡いオレンジ色の結界が生まれた。
「こ、これは…」
「結界、か?」
「わ、私たちを守るために…」
ウルティアとフリード、ジュビアが驚いた様子で口を開いた。直後、バルファルクが地上へと舞い降りた。その巨体に、龍気に、気迫に充てられ、魔導士たちは結界の中にいることを忘れたように狼狽する。
『まさか、今のを防ぎきるとはな…さすがと言っておこうか』
「なっ!こいつ、喋れるのか!!」
「…お、大きい…」
「なんという気迫…」
「じ、次元が違う…」
グレイ、ウェンディ、ミネルバ、カナが震える声で呟く。
『まさか貴様ら下等生物に我が呼んだ竜種がすべて敗れるとはな…っ!ん?この匂い…』
バルファルクは、何かに気付いたように再度魔導士たちへと視線を移す。
『ふっ、なるほど…イグニールにメタリカーナ、グランディーネのガキか…。バイスロギアにスキアドラムのガキまで…』
「お、お前…ッ!イグニールのこと知ってるのか!!」
「てめぇ…一体メタリカーナとどういう関係だ!」
「グ、グランディーネの居場所を知っているんですか!?」
ナツ、ガジル、ウェンディの言葉に、バルファルクは咆哮をもって答える。
『ふふふっ!貴様らゴミに教えると思うか?』
「な、なんだと!!」
「ということは…」
「な、何か知っているんですね…!」
ナツ、ガジル、ウェンディがそれぞれ声を上げる。スティングとローグは特に言葉を発することなくバルファルクを見つめていた。
『まあ、奴らとは敵、ということは教えておいてやろう…』
「てめえ!イグニールの場所吐けー!」
ナツが結界を叩きながらバルファルクへと怒号を飛ばす。そんなナツに向け、バルファルクは目にも止まらぬ速さで槍翼を突き刺さんと攻撃する。だが、その攻撃は、アレンの張っている断空絶壁に阻まれる。余りの衝撃と轟音に、ナツは思わず腰を抜かして座り込む。
『この結界を張ったのは正解だったな、アレン…でなければ今頃、イグニールの子は肉塊となって死滅していた』
「…そりゃどうも…」
アレンは先ほど手放した大剣を地面から抜き、再度構えなおす。
『なるほど、まだ戦う意思はあるようだな…だが、私はこの辺で引かせてもらおう…』
その言葉に、皆が驚きの表情を浮かべる。
「…逃がすと思うか?お前には、ゼレフのことも、イグニール達のことも、効かなきゃならねーことが山ほどあるんだ」
その言葉を皮切りに、アレンはバルファルクへ向けて踏み出そうとするが…。
『そういうと思ってな…置き土産を用意した…この戦いは、お前たちの勝ちでいい…だが、お前たちの死は変わらん…いや、アレン、お前一人なら逃れられるかな?まあ、その選択ができれば、の話だが…』
「何を言って…おい、待て!!」
バルファルクはそう言うと、アレンの返答も待たずに目にも止まらぬ速さで天へと駆けて行った。
「くそっ…あの野郎…ッ!!」
バルファルクを追うか一瞬悩んでいたアレンだが、空を見上げて絶句する。
「おい…置き土産ってまさか…」
そんな様子のアレンを見て、皆も空を見上げる。
誰かが地面へと座り込む音が響く。誰かが手に持った武器を落とす音が聞こえる。
「ははっ…くそっ…」
「嘘ッ…」
「じょ、冗談…じゃと言ってくれぃ…」
「こんな…ことが…」
「神の…力か…?」
シモン、ルーシィ、マカロフ、ウルティア、リオンが呆然と空を眺めて呟く。
その空には、天を先、雲を掻き分けながら落下してくる強大な隕石があった。大きさは首都クロッカス全域よりも一回り大きい。こんなものが落ちれば、首都クロッカスどころか、フィオーレ王国全土にまでその被害は拡大するであろう。
「い、隕石…」
「ど、どうやって…こんな…」
「…こんなことが…」
ミネルバ、ウェンディ、ユキノが絶望したように小さく呟く。
アレンは、そんな迫りくる隕石を見て、目を細め、歯を食いしばる。
「仕方ない…だが…」
アレンは小さく呟き、大剣をもつ腕に力を籠める。
「お、おい!アレン!!まさか…」
「む、無茶なことはよせ!」
ラクサスとエルザが今にも隕石に飛び掛かりそうなアレンに、大声で声を掛ける。
そんな2人を見向きもせず、アレンは考えた。ただ斬るだけではだめだ。細かく斬った上で、消滅させなければならない。そんな風に考えていると、結界内からアレンを呼ぶ声が聞こえる。
「アレンさん、あなたが斬って小さくした隕石は、私が責任をもって消滅させましょう」
「そして、ミノトでも取りこぼした分は、私が打ち抜く…ということでいかがでしょうか?」
ミノトとヒノエの提案に、アレンはふっと笑いかけ、結界に小さな扉を作る。そんな様子を見ていた魔導士たちは、震えるように声を掛ける。
「ヒ、ヒノエさん!何を!!」
「無茶よ!ミノト!!」
ルーシィとウルティアが結界の外へと出る2人に声を掛ける。
「あら、まだ勝てると思っているのは、私達だけでしょうか?♪」
こんな状況の中、のほほんとしたヒノエの声に、皆が呆気にとられる。ヒノエはそう言い残し、ミノトと共にアレンの後方へと移動し、それぞれ弓とランスを換装する。
「はは、なんだか懐かしいですね、この感じ…」
「あら、私も同じことを考えていましたわ♪」
「…百竜夜行以来ですね…」
そんな風に会話をし、3人が身構える姿は、これ以上にないくらい絵になっていた。思わず結界内の魔導士たちは、その姿に見惚れてしまう。
「んじゃ、作戦通りに…」
「「はい、抜かりなく」」
その会話を皮切りに、アレンは地面を蹴り割り、上空へと跳躍していった。

玉座の間にいるヒスイ達は、自身のいる王城を囲うようにして出現した結界に驚きを見せていた。だが、それを覆すような衝撃が、空から舞い降りてきた。
「こ、こんなことが…」
「お、おわりだ…」
ヒスイと国王は、天を覆いつくさんとする巨大な隕石に、絶望の表情を見せる。同じように固まっていたアルカディオスであったが、その隕石に向かっていくなにかを見つけ、その目に生気を取り戻す。
「あ、あれは…アレン殿!!」
「まさか、あれを迎え撃とうというのか!?」
アルカディオスとダートンが驚愕の表情を見せる。
「ア…アレン様!!いけません!!!」
ヒスイが崩壊したバルコニーから身を乗り出して叫ぶ。その身体をアルカディオスが制止していると、アレンの声が耳に入る。
「桜花・翡翠連斬!!!!」
アレンがそう言い放つと、大剣から翡翠色の三日月のような斬撃が出現する。桃色とも黒色とも取れる縁をもった斬撃が、いくつも出現し、隕石を半分、そのまた半分と切り刻んでいく。ヒスイは目を見開いた。隕石を次々と細切れにしていく様にも驚いたが、なにより、アレンの周りに淡い桜の花びらが舞い散る様子が見て取れたのだ。
幻覚であろうか…。いや、確かに見える。私の名前、そして目や髪の色と同じ翡翠色の斬撃、それを纏う桃黒の輪郭。そして、桜の花びら…。
「綺麗…美しい…」
ヒスイは、今のこの状況下において、発することがないであろう言葉を漏らす。だが、言わずにはいられなかった。余りにも美しいその斬撃が、死を齎す隕石を細切れにする。
ヒスイの胸がドクンッと波打つ。先ほど感じた…アレンに助けてもらった時に感じたものよりも更に強い鼓動が、ヒスイの身体を支配する。
暫くそんな風に考えていると、今度は圧倒的な風とも波動ともいえるような砲撃が細切れになった隕石を消滅させていく。さらに、取り逃がした隕石の残骸を捉えるかの如く、いくつも矢が、それを粉砕していく。
あれほどまでに絶望的であった状況が、天を覆いつくさんとした隕石が、この数十秒で悉く消え去った。
もう一度、ヒスイの胸が強く鼓動する。ヒスイは胸の前で両の手を絡め、顔を真っ赤にして口を開いた。
「はぁ///これが…これが恋、運命なのですね…///私は…アレン様のことが…///」
隣にいたアルカディオスと国王、ダートンの表情が別の意味で驚愕のモノへと変わる。
「「「え…ええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!」」」
先ほどまでの絶望を忘れるかの如く、3人は悲鳴に近い叫び声をあげた。
…後に、『ドラゴンレイズ』と名付けられることとなるこの戦いは、天狼島で起こったアレンとアクノロギアの戦いである『フィオーレクライシス』と並び、王国存亡の危機として歴史に名を残した。 
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