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少女は 見えない糸だけをたよりに

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4-9

 お姉ちゃんとお出掛けの日。お姉ちゃんと私は、お揃いのサロペットのハーフパンツで色違いのTシャツそして、パーカーを持っていた。家にはお姉ちゃんの友人が尾道に居るから、遊びに行くと言って居たみたい。

 島に着いて、港で買ってきたお弁当を食べていると

「かなみちゃん?」と、声を掛けて来た若い女の人。顔を上げると、先生だ。小中学校の。「瑠々先生」

「やっぱり かなみちゃんだ どうしたの? 帰ってきたの?」

「ええ お墓参りに」

「そう 突然 居なくなったからね 心配してたのよー でも、元気そうね 今 どこに居るの?」

「ええ 京都です 元気にやってますよ 親切な人のお家で・・ 先生は? 船に乗るの―?」

「そう ようやく 夏休みなの 実家に帰るつもりで お見合いなのよ 親がうるさくてね かなみちゃん お手紙ちょうだいね 近況知らせてね もう、船が出ちゃうから・・残念ね せっかくなのに いろいろお話したかったわ」

「ええ 書きます 先生もお元気でね」 先生は急いで船に乗り込んでいった。

「香波の先生? 若いのね」

「ええ 四国の山ん中だって言っていたかなー 大学出てね 直ぐに、この島に来たの そろそろ30になるんかなー いい先生 みんな慕ってたわ おばあちゃんが亡くなった時も、ずーと側に居てくれて 私ね 島を出る時 誰にも告げずに船に乗ってしまったの 誰にも迷惑かけたくなかって あの人のことばっかりしか頭になくて 逆にみんなに迷惑かけていたんだ」

「香波 その時の香波の気持って私にはわからないけど あなたは、成長したのよ そのことに、気づいたってこと」

 その後、坂道を登り出して、お墓を目指していたんだけど

「ねぇ 香波 本当にお父様 ここ 登ったのー 信じられない」

「うん ちゃんとね ふーふー 言ってたけど」

「お父様って 意外と根性あるのね」

「お姉ちゃん もう直ぐヨ でも、着くまで 後ろ振り返ったら、ダメだよ 絶対に」

「どうしてー」

「だから ダメだって そういう言い伝え あの世に行っちゃうよ」

「香波 絶対 ウソ 言ってる そーいう時って あなた 眼がめちゃくちゃ大きくなるから わかるのよ ウフッ」

「やだー お姉ちゃん そんなとこ見てるの― ほらっ あそこだよ」

 そして、最後にお姉ちゃんを引っ張り上げて

「いいよ うしろ みてー」

「わぁー 瀬戸内海 だよね キラキラ輝いている いろんな島 だよね 船も見える きれいねー」

「うん お父さんもお母さんもおばぁちゃんも毎日 海を見て ここに休んでいるんだ」と、最初から角が無かったような丸ぁるい墓石を・・。

「そう お参りするわ 香波の姉ですってね」

 そこから、砂浜を目指して、そして民宿が近づいてきた時・・・バクだ。バクの声が聞こえてくる。あの子、私が近づいているのがわかるんだ。私は、走り出していた。

 繋がれているのに、私に飛びつこうとして・・私のほうから抱き着いていった。

「バク 海でいっぱい遊ぼうね 今日は水着持ってきたからね」

「かなみちゃん いらっしゃい こちらがお姉さんかい べっぴんやのー」と、おばさんが出てきてくれた。

「お世話になります 燿です」と、そして、直ぐに、水着に着替えて、砂浜に・・

「ちょっと 香波 大きな犬 つながれてないよー 大丈夫?」

「うん 大丈夫だよ おとなしいもん お父さんにも懐いていたよ」

「そっ そう 海ん中にも 入るのー?」

「うん いくよー バク」と、私とバクは波の中に飛び込んでいった。お姉ちゃんも後ろからゆっくりと入ってきた。

「お姉ちゃん そんなお風呂に入るんじゃぁないから、もっと、頭からばしゃばしゃとね」と、私は、お姉ちゃんに水を掛けていつたら、バクもお姉ちやんの側にジャンプして

「わぁー 香波 なにすんのよー 髪の毛が濡れてしまうと大変なんだからぁー」と、言いながら、私を沈めようとして・・その後も、バクも一緒に、はしゃいでいった。最後には、お姉ちゃんはバクに掴まって泳いでいたりもしていたのだ。

 夕食を済ませた後は、別段することも無く、お風呂から出た後、お姉ちゃんと暗い海を見ていた。遠くの島の灯りがポツンポツンと・・バクも隣に居る。巌さんが酒瓶を片手に、そして、お姉ちゃんに缶ビールを渡してきた。

「一緒して良いか―? この前、親父さんと飲んだよ 羨ましいのー こんな べっぴんが二人も居て 親父さんが言って居たよ 息子が居ないんだけど 上の子が後を継ぐって言ってくれたって だけど あの子が好きな男を見つけて幸せになるんだったら、帯屋はつぶれたって良いんだと いい父親を持って あんた等 幸せだよ 香波ちゃんのことも、絶対に幸せにするって言って居た」

「お父様 そんなことを・・」私、初めて、燿さんが涙を押さえているのを見たのかも知れない。

「あんたー 又 ぐだぐだとー お嬢さんの邪魔したらいけんよ かなみちやん 明日 海藻採ってきたら、かき揚げすっからよ 好きってきいとるけんな おばぁ・・」と、おばさんが言ってくれた。

 次の日の朝、私は、朝早く起きて、なんかの紐で編んだような草履を借りて、岩場に向かった。怖いので、バクも連れていた。お姉ちゃんも、後ろから付いて来ていた。

「お姉ちゃん 岩場は滑るから、そこで、見ていて」と、声を掛けて、私は海藻を採って戻ってきた。

「香波 あんなに 危ないこと 毎日 やってたのー」

 そして、その日の午前中も海に入って遊んだら、おばさんがかき揚げを用意してくれていて

「わぁー これが 香波の言って居たかき揚げ おいしいー サクッとしていて、噛んでいたら、かおりも・・すごくおいしくってー」と、お姉ちゃんも・・。私は、食べながら、思い出してしまって・・涙が滲んでいた。

「バク 又 来るからね 元気でいるんだよ」と、お別れを言った時、確かに、「クゥー クゥーウ」と、寂しそうに声を出していた。

 もう一度、お墓に行って、お別れして、私達は、夕陽を見ながら、島を離れたのだ。 
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