DOREAM BASEBALL ～夢見る乙女の物語～　

人生初のケトジェニックダイエット……お腹下す時があるのと糖質取りたい欲が半端ない時がありますww 

莉愛side

初回に3の数字が入っている私たちのスコア。初回の攻防で3対0になっているため気持ちとしては楽である。

（でもこの回の先頭がこの人なんだよね）

投球練習が終わったところでネクストバッターズサークルから打席へとやってくる黒髪の少女。その容姿は華があるのだが、それ以上に私たちを威圧するようなオーラを身に纏っている。

（この人を抑えない限り私たちの勝ちはない。でも、今日の瑞姫なら抑えてくれそうな気がする）

初回から三者連続三振とこれ以上ないピッチングを見せてくれた瑞姫。しかもまだフォークを使っていないことを踏まえると、今日の彼女の調子は最高といって間違いない。

（この大会いまだに無失点なんだもん、何も臆せずぶつかっていこう）

初球からストライクに入れていく。まずは力のあるストレートを外角に入れて相手の出方を伺う。

「ストライク！！」

スピードも威力もさることながらコントロールも抜群だった。コースも高さもギリギリのところに決まったストレートにリュシーさんは反応を見せない。

（これならもう一球続けたい）

このコースに決まったら例えプロだってそう簡単には打てないと思う。それならこれを続けない手はない。二球目も外角低めへのストレート。リュシーさんはこれを振って出るが捉えきれず力ない打球が三塁ベンチ前へと転がる。

（よし！！追い込んだ！！……っと）

完璧なストレート二つで追い込んだことで気が緩みかけたけど慌てて引き締める。この人に安易な投球をすれば長打を打たれかねない。そしてこの人に一本出たら相手に勢いがつく可能性がある。

（慎重に……それでいて大胆に）

ここからボール球を三つ続けることは簡単だ。でも今日の瑞姫はそれをするのが勿体無いくらい調子がいい。ここはボール球を使いつつ、なおかつチャレンジしてみたい。

そう考えた私はサインを送るとすぐに中腰に構えつつリュシーさんへと身体を近付ける。

（内角高めへストレート。ボール球でいい。ただ、もし食い付いて来てもリュシーさんを力でねじ伏せることもできると思う）

主砲が力で抑えられたとなれば後に続くバッターからしても大きなダメージを与えられるはず。この追い込んでいる場面でそれをするのはありだ。

（さぁ、頼むよ瑞姫）
















瑞姫side

内角高めへのストレート。長距離打者を相手にする場合最も注意深くいかなければいけないボール。

（莉愛もそのことはわかっているはずだけど、それでもこれを要求するってことは……）

ブルペンで投げてた時からわかってたけど、今日の私は調子がいい。それが受けている莉愛からもわかるほどだから、あえてこのボールなんだと思う。

（振らせる。振らせて空振りを取ってやる）

子供の頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染み。運動神経もいいのにずっと部活にも入らなかった彼女が同じスポーツを選んでくれたことが嬉しかった。

（その期待に応えてみせる！！）

ボールに目一杯のスピンをかけて彼女のミット目掛けて投じる。コースも高さも完璧。後はボールに勢いがあれば振ってくるはず。

最大限の力を込めて投じたストレート。それに彼女は食い付いた。ボール球であるにも関わらずスイングが始まったことで私も……恐らく莉愛も勝利を確信したはず。そのはずだった。

ｶｷｰﾝｯ















第三者side

高々と打ち上げられた打球。本来なら捉えられても力ない当たりになるはずだったそれはグングンスタンドへと向かって伸びていく。

「くっ……詰まった……」

誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟いたリュシーはトップスピードで一塁へと駆けていく。

「え……ちょっと……」
「そんなことある！？」

ライトの栞里とセンターの伊織が懸命に追いかける。しかし打球は二人の頭を越え、フェンス上段へと突き刺さる。

「うわっ！？届かない！？」
「リュシー！！三ついける！！」

クッションボールに素早く対応した伊織が内野へボールを返す。紗枝もすぐに三塁へと送球を投じ明宝の守備には一切ロスがない。にも関わらずリュシーはボールが来るよりも早く三塁に到達していた。
















莉愛side

「ウソッ……」

高めの釣り球……三振か内野フライ、飛んでも外野への浅いフライが関の山だと思ってたのに、結果はフェンス直撃のスリーベース。

（何なのあの人……もしかして格が違う？）

日帝大戦でも長打を連発していた。何なら抑えられている打席を見たことがない。そうなるとあの人との打席は勝負を徹底して避けるべきなの？

「……っと」

そこまで考えてから気がつく。今やるべきなのは反省なんかではない。この場面でどのように攻めていくかだ。

「内野定位置！！一個ずついきましょう！！」

点差はある。まだリュシーさんが返っても3対1になるだけ。ならここはアウトカウントを優先することが得策なはず。

念のため監督の方を確認するが頷いているため問題ないことがわかる。

（問題はこの蜂谷さんだ。監督の話だと前の二人が得点圏にいる時の打率が極端に上がるって話だった）

リュシーさんが三塁にいるこの状況では警戒して挑まなければならない。しかし逆に考えれば、スクイズは考えなくてもいいんじゃないだろうか？

（打率が高いならわざわざスクイズでアウトを一つ上げようとは思わないはず。なら外すんじゃなくて打ち取る方法を考えた方がいい）

初球はスライダーを外角へ入れてストライク。これに相手ベンチは一切動きを見せない。

（やっぱりスクイズはなし……か。なら次は外にストレートを外して……）

あえて二球目は外す。ウエストではなく通常の見せ球としてボールにして平行カウント。となると次は……

（ここで試してみよう。フォークカモン！！）

ランナーは三塁にいるけど瑞姫のフォークなら確実に空振りを奪える。あとは私が後ろに逸らさなければいいだけ。

信じてくれているのか間髪入れずに頷く瑞姫。彼女もスクイズはないと察したからか足を普段通りに上げての投球。そのボールは要求通りの高さに来た。

（よし！！これは空振ーー）

ｷﾝｯ

ワンバウンドするほどのフォーク。これに振りに来た蜂谷さんはまるで球種がわかっていたかのように膝を付き打球を転がす。その当たりは弱々しくサードの優愛ちゃん先輩の前へと転がる。

「うっ……一つ！！」

転がったと同時にリュシーさんがスタートを切っていた。三塁のゴロでも突っ込んでくるのは想定外。しかも当たりがボテボテ過ぎてホームはギリギリ。となれば1点はいいからランナーを残さないことを優先した方がいい。

リュシーさんと横並びになるように突っ込んできた優愛ちゃん先輩はその当たりを素手で捕球しそのまま……

「タッチ！！」

真横にいたランナーへと飛び込むようにタッチした。

「あ……」

彼女の手が背中に触れたことでリュシーさんの体勢は崩れていた。それを見た球審が右手を高々と上げる。

「やった！！得点率十割切ったぜぃ！！」

砂まみれの顔でこちらへピースする優愛ちゃん先輩にピースで返す。ただ、莉子さんがランナーがいることを大声で伝えたことですぐに状況を思い出し、スローイングができる体勢へと立て直していた。

（そういえばランナー三塁の時蜂谷さんが打席にいると必ず点が入るって言ってた……打率が上がることばっかり意識がいってた）

一塁ベース上で悔しそうにしながらバッティング手袋を外す蜂谷さん。1点は覚悟していた状況だったけど、優愛ちゃん先輩の機転により相手の得点法則を切ることができた。

「1アウト！！内野ゲッツー狙いましょう！！」

ここからは下位に向かっていく。打率もそこまで高くないはずだから、取れるアウトを一つずつ取っていこう。


















第三者side

「やっぱりいい動きするねぇ、あのサード」

相手の攻守により得点を防がれたにも関わらずカミューニは冷静そのものだった。その様子に後ろにいる女性は不満げだ。

「せっかくの得点機だったのに、よく冷静でいられますね」

3点リードされている現在。1点でも返せれば精神的にも楽になれる。そんな中で相手の攻守で得点を取れなかったとなれば、本来なら落ち込むはず。それなのに平然としている彼の姿は納得がいかないものだった。

「点が入れば最高ではあったけど別にいいよ。勝負は中盤だからな」
「その勝負は中盤って何なんですか？」
「それはな……あ、リュシー」

彼女からの問いに答えようとしたところでベンチへと戻ってきたリュシーを手招きする。それを受けて呼ばれた少女は青年の元へと向かう。

「怪我とかしてないよな？」
「そこは大丈夫だよ」
「ならいい。あのピッチャー、どんな感じ？」
「球威もあるしスライダーも切れてるよ。フォークが見てないからなんとも言えないけど……」
「コントロールも良さそうだよな？」
「そうね」
「オッケー、サンキュー」

簡単な情報を見たところで打席に立つ白髪のウェーブかがった髪をしたメガネの少女へとサインを送る。

「……で、なんだっけ？」
「だからぁ！！」

話の途中だったため何の話をしていたのかわからなくなったカミューニが部長へと問いかけると、彼女は顔を真っ赤にして同じ質問をぶつけるのだった。
















（サインは特になし。ランナーが一塁ならゲッツーは避けたい）

左打席に入る小柄な少女。彼女は打席に入るとバントの構えを見せる。

（送りかな？でも下位打線が打ってる印象ないんだよね）

準々決勝から打順の変更はない桜華学院。クリンナップとその他の打力に差があることがわかっているからか、莉愛はその構えに不自然さを覚えた。

（バスターあります。動きはギリギリまで見極めてください）
「「「「了解」」」」

内野にアイコンタクトを取りまずは初球は外にストレート。瑞姫が投球に入ったと同時にバットを引いた少女はこれを見送り1ストライク。

（やっぱり。2アウトにして下位打線じゃ勝負にならないもんね）

下位打線はこれまで綺麗なヒットを打っている印象がなかったことでバントの構えがブラフであることをすぐに見極めることができた莉愛。それに気が付いたのか、少女は今度は普通に構える。

（次はスライダー。コースは甘くていいから低く入れるよ）

打てないと言うイメージが強かったからかストライク先行で球数を抑えることを念頭に入れた莉愛。瑞姫の投球はその要求通り。しかしバッターはこれを腕をうまく畳み……

ｷﾝｯ

狙いすましたようにこれを捉えた。




 

いかがだったでしょうか。
ちょっと普段とは違うところで切ってみました。
またゆっくり少しずつ進めていこうと思います。