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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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考え方の違い

 
前書き
ゴールデンウィーク?普通に仕事ですが何か?(゜.゜)エッ? 

 
「ボール!!フォア!!」

まさかの奇策で失点したことで動揺したのか今野をフォアボールで歩かせてしまう。西が一度間合いを取りにマウンドへ向かうが、東英学園はここで一気に攻めたいのがよく見えた。

「こう考えると大津(オオツ)がいいところにいるな」
「一年生たちが目立ってますけど、春までクリンナップにいましたからね。俊足の今野さんに長打力のある大津さん……下位も厚みがありますよ」

大きく打順を落としているもののこの大会でも打点をしっかり上げている。さらには塁上には盗塁を狙える今野がいるためさらなる追加点を狙える。

「真田さんなら何から入りますか?」
「今野の足を考えたらストレートで行くしかないだろう」
「ぷっ」

真田の言葉に思わず吹き出したカミューニ。彼を睨み付けるように真田は振り返る。

「お前なら何で入るんだ?」
「岩瀬のカーブでカウントを確実に取るなぁ」
「カーブ?走らないってことか?」
「いやいや、常成のバッテリーじゃ今野は刺せないからだよ。だったらバッターを打ち取ることに注力した方がいい」

どれだけ先の塁に進まれようと打たれなければ失点はしない。たった今ホームスチールを見たとは思えないほどの割りきりぶりにさすがの彼も感心していた。

その思考を読み取ったかのようにカーブでカウントを奪うバッテリー。初球から果敢に盗塁を敢行した今野は楽々二塁を落としいれていた。

「三盗もあるか?」
「やるならやれ、その代わりバッターは追い込まれるぞ」

ストライク先行でいきたいであろうバッテリー。しかし今野が走れば大津は見逃さざるを見えない。そうなると追い込まれての三球目勝負になる。

左投手からだとランナーが後ろにいる状態。走ろうと思えば走れるが岩瀬が投球に入っても今野は走らない。

キンッ

バッテリーの選択は外角へのストレート。それを引っ張った大津だったが、強烈な打球はサードの正面。強襲になるかと思われたがうまく捌いて3アウトになった。

「ラッキーだったな」
「次は1番から……東英は射程圏内に捉えたかもしれませんね」

まだ点差はあるが流れが変わりつつあることは目に見えてわかる。こうなると常成としては追加点がほしいところだが……

ギンッ

先頭打者はセカンドへのゴロ。その後もライトフライとサードゴロとあっさり三者凡退に抑えられてしまった。

「やるねぇ、あのピッチャー」
「あぁ。完全に常成の勢いを止めやがった」

交代直後の失点以降ヒットを許さない完璧な投球。小さな背中が大きく見えるほど逞しく彼らには映っていた。

「それだけじゃねぇよ、あいつは野球をよくわかってる」
「??」
「どういうこと?」

彼が何を言いたいのかわからなかった面々は視線を向けるが、カミューニは深いタメ息だけを残し話そうとしない。それがどういうことなのか真田は感じ取った。 

(佐藤のピッチングはカミューニ(コイツ)が目指す形ということか?)

いまだに全貌がわからない相手。それを解明するヒントに繋がればと真田は試合に集中することにした。

(狙い球がバラバラになってきた。この回もし違う攻めをするようなら、コールドもありえるかもねぇ)
















「残り二回……でも最後までやるのメンドくせぇなぁ」

負けているとは思えないほど呑気なことを考えている町田。そんな彼に先頭打者として打席に向かう大山が顔を向ける。

「大丈夫です!!この回で決めるくらい点取りますよ!!」
「任せて任せて!!」
「おぉ、じゃあ頼むわ」

流れが自分たちに向いていることは彼女たちもわかっていた。だからこそ打席に立つ姿に力みがない。

(あの指示通りだとスライダー……でも少しずつズレが生じてきてる)

キャッチャーを務める西がベンチを見る。そこに座る老人からは何も指示がないが、彼女は不安な気持ちが勝ってしまった。

(外角に外れるストレートからいこう。大山は左だし打ちにくいはず)

与えられた指示とは異なる選択。打席に立つ大山はそんなことなど知らないため、自身の中で思考を張り巡らせていた。

(岩瀬の球種はストレート、スライダー、カーブ。全部私からは逃げていくボールだから内角はそこまで気にしなくていい。打つなら外)

セオリー通り速い球に狙いを合わせてタイミングを取る。そこにおあつらえ向きのストレートが飛び込んできた。

(いただき!!)

カーンッ

ラインギリギリに踏み込み外に外れていたストレートを流し打つ。その打球は三遊間を真っ二つにした。

















スクッ

先頭の大山が出塁したと同時に立ち上がるカミューニ。そのまま扉の方へと向かっていく彼を見て隣にいた青年が声をかけた。

「どうしたの?」
「コールドもありそうだからな、アップを早めさせてくる」
「東英に流れがいってるのに?」
「だからだよ。もう常成が勝つ見込みがなくなっちまったからな」

怒っているようにも見える表情のままその場を去る青年。それに合わせるように真田も扉の方へと向かう。

「見ていかなくていいんですか?」
「試合の準備もあるからな。それに、どうやら東英が勝ち上がってきそうだからな」

心底安心したといったような表情でアップをしている教え子たちの元へと向かう真田。いまだにリードを許している東英学園の勝利を二人揃って信じて疑わないことに、残された佐々木たちは首をかしげていた。
















「あいつら……勝手に動きやがって……」

三塁側ベンチ方向へと歩いていく赤髪の青年は腸が煮えくり返りそうだった。その理由は先ほどの試合の進行によるもの。

「チェンジアップは頭になかったが投げていたのはスライダーが予測された地点。その他はストレートが投じられるのは事前にわかっていたはずだ」

彼は常成学園に自身が収集した情報から導き出した試合の展開を渡していた。その狙い通りに試合は進行していたはずだったのに、佐藤がマウンドに上がってからそれが崩れた。

「勝利への欲……これが人を狂わせるのか」

勝ち目のない戦いだと思っていたところでそのお宝が目前に見えたことで欲望と不満が勝ってしまった。見ず知らずの青年に指示を出され、指揮官がそれに従ってしまえば未熟な高校生にそれを受け入れられるわけがない。

「まぁいい。俺たちが勝てば済む話だ」

強力なライバル校を葬ってもらえば楽に勝ち抜けると思っていたがそれは不発に終わった。しかしそれでも彼は気にすることはない。

「もう少しだけ手を貸してやるよ。それまでは全力で駆け抜けろよ、ソフィア」

















一方一塁側のベンチ方向へと向かっていく真田。彼はこれまでのカミューニの言動から一つの答えを導き出していた。

「やっぱりこの試合を掻き回していたのはあいつか」

方法はわからなかったが何かしら彼が手を貸していたことで常成学園が東英学園を押していたことはわかった。しかし試合は既に東英学園の支配に落ちている。

「希も鎌倉もヒット……瞳は?」

笠井と鎌倉が大山に続いたことで1点を返しなおも二、三塁。打席に入る少女は二球目のスライダーを巻き込むように引っ張る。

「行ったな、これは」

打った瞬間にフェンスを越えるのが確信が持てるほどの打球。それはこの試合を引っくり返すことを意味していた。

「鈴川のホームスチール。佐藤のリリーフで流れを掴み取ったな、俊哉」

日本代表で指揮官とコーチを務める立場として彼らはよく話をする。しかしそれだけの関係ではないからこそ、真田は彼の考えがわからなかった。

「普通なら次の回から理沙を戻すんだろうが……このまま佐藤で突っ切りそうだよな」

エースに立ち直ってもらうためにもう一度マウンドに上げて試合を締めてもらう。その戦い方は定石ではあるが、町田はそれをやりそうな雰囲気はない。

「ま、最後があんな負け方したからな。勝ち上がるための最善手を打つのがあいつらしさだろう」

マウンドで泣き崩れるエース。フィールドにいる少年たちもベンチにいる選手も上級生、下級生問わず涙を流している中、背番号10の少年は涙を流すことも悔しがる様子もなく整列へと向かう。

「我ながらよく覚えてるよな……あの試合……」

自嘲混じりのタメ息を漏らしながら選手たちがアップをする球場の外へと足をむけた。
















「莉子、栞里」
「陽香、どうしたの?」

スタンドからひょこひょこと降りてくるエースに顔を向ける選手たち。試合の途中経過だとわかった彼女たちは一斉に集まってきた。

「そろそろ試合終わるかも。コールドが見えてきた」
「え?常成が勝ちそうなんですか?」

途中までの試合展開しか見ていなかった紗枝がそう問いかけるが陽香は首を振った。

「六回で東英が逆転したよ。それももう打者一巡してる」

四連打から四球と単打を積み重ねいまだに攻撃を続けている東英学園。その勢いはこの回で試合を終わらせるほどの勢いだということに驚く者と微笑む者と分かれていた。

「準備しようか、瑞姫と莉愛はもう少し動くか?」
「いえ、私たちも行きます」
「試合も見ておきたいので」

汗もしっかりかけているのを確認して球場内へと入っていく選手たち。その様子を真田は遠目で見ながら思考を張り巡らせていた。

(桜華の野球はいまだに未知数……試合の中で探っていくしかないか)

一抹の不安を拭いきれない指揮官。その不安がどう試合に響くのか、この時は誰もわからなかった。
















莉愛side

カキーンッ

快音を残しライナー性の当たりが外野へと飛ぶ。それをセンターが飛び込みなんとか捕球してみせたことでスタンドからは惜しみ無い拍手が送られる。

「あぁ!!せっかく捉えたのに!!」
「ドンマイドンマイ」
「次打てばいいよ」

ファインプレーに阻まれた笠井は悔しさを爆発させていたが大山や後藤に宥められていた。

「理沙」
「はい!!」
「ご苦労だった、ベンチに下がってくれ」
「え……」

てっきり再度マウンドに戻るのかと思った後藤だったがまさかの言葉に目を見開く。そんな彼女に変わり背番号7の少女がレフトへと向かう中、青年は彼女を呼び寄せる。

「今日は手こずったからな、明日の決勝のために身体を休ませておいてくれ」
「っ!!はい!!」

楽勝かと思われていた準決勝でまさかの苦戦を強いられた王者。翌日に決勝戦を控えていることを踏まえてエースを温存することを町田は選択した。

「萌乃」
「はい?」

マウンドに向かおうとしていた少女を呼び止める。彼女に対して掛ける言葉は既に決まっていた。

「この試合はお前にやる。あと六人、きっちり抑えてこい」
「はい!!」

その言葉に嬉しそうにマウンドに駆けていく佐藤。彼女を見送った町田はベンチにドッカリと腰掛ける。

(エースに立ち直ってもらうためにもう一度マウンドに上げる?そんなの必要ねぇよ。エースに選ばれたら常に完璧な投球をしてもらわなければいけない。例え前の試合で打ち崩されようと調子を崩していようとだ)

背番号1を付け大喜びする少年。その姿を10を持った町田はタメ息を付きながら見ていることしかできない。

(エースと控えじゃあ力が違うのか?やってきたことが違うのか?仮にそうだとしても、俺はお前を信じるよ、萌乃)

マウンドに上がる少女は体格も能力もエースに比べれば格段に落ちる。しかしそれでも彼女を町田は信頼していた。

(俺がこの舞台に送り出すってことは戦い抜ける力があるってことだ。その場しのぎとか次に繋ぐとかそんなことはいらねぇ。俺は俺が育ててきた選手たちを信じる。先入観なんか一切なくだ)

鋭い眼光でフィールドを睨み付ける彼に部長である女性もベンチにいた少女たちは恐怖を感じていた。しかしすぐにその表情が和らいだことで彼女たちはホッと胸を撫で下ろした。






 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
次でこの試合も終わると思います。そうなればいよいよ主人公たちの出番です。やりたいことが多すぎてなかなか焦点が合いませんでしたが笑 
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