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Fate/WizarDragonknight

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祭祀礼装・禊

 ヤマタノオロチの攻撃手段は、人間の処理能力を超える攻撃手段の多彩さ。八つの口にはそれぞれの属性が含まれ、二人の刀使を狙う。

「「迅位!」」

 だが、それに対し、可奈美と美炎は写シを張る。白と黒の光が二人を包み、その速度を異次元のものへ変えていく。
 だが、それはすでにヤマタノオロチも了解している。肉眼以上の速度をものとした二人の刀使に対し、ヤマタノオロチはそれぞれの口から光線を放つ。
 流動的な動きを見せる波と毒。それは混ざり合い、紫の津波となった。
 その広範囲。たとえどれだけの素早さがあっても、とても逃げられない。

「神居!」

 その攻撃一つ一つに、灼熱の斬撃で対応していく美炎。
 だがその一方、可奈美は。

「うっ……」

 見える。
 毒波の背後からも、ヤマタノオロチの攻撃は、それぞれが混ざり合い、独立して攻撃してくる。炎と地が混じればマグマとなり、風と雷ならば嵐に。それぞれが全く異なる動きで、可奈美へ牙を剥く。
 だが。

「見える……」

 死角。地中。頭上。
 中には、ヤマタノオロチが地下に忍ばせた蛇の頭さえも襲ってくる。
 だが、その全てが可奈美には、あたかもソナーのように頭に入ってくる。

「見える……」
「可奈美! どうしたの!?」

 今、可奈美はほとんど体を動かしていない。ほんの少し、体を反らし、たまに千鳥を振るって打ち払うだけ。
 それだけなのに、そのヤマタノオロチからの攻撃は一切受け付けない。
 一方、ステータスアップが主だった能力である美炎。彼女は攻撃を受け流しながら、やがてどんどん上昇していく。
 可奈美は黄緑色に発光している眼差しで息を呑んだ。

「危ない!」

 先回りして美炎の背後から迫る嵐を切り裂き、可奈美は更に千鳥を突き上げ、ヤマタノオロチの下顎を貫いた。

「見える……!」
「見えるって、何が!?」

 だが可奈美は美炎の問いに答えず、彼女の首根っこを掴む。荒魂の眼が生えた髪を通り抜き、そのまま美炎とともに上空へ飛び上がる。
 すると、さっきまでいた足元にヤマタノオロチの首が地面を突き破って出現する。

「すご……気配も感じなかったのに……可奈美!」
「うっ……」

 脳の処理が追いつかない。
 一瞬のふらつき。だが、八体もある首を相手にしている今、そんな隙を見せれば、当然襲ってくる。

「……っ!」

 可奈美は歯を食いしばりながら、体を動かす。普段以上の機動力を持つ可奈美の体は、脳の処理を越えた動きを齎してくれる。
 さらに、ヤマタノオロチの食らいつき。それさえも可奈美の体は、頭で認識するよりも先に避けていく。だんだん可奈美の体が追いつかなくなり、動きのなかで姿勢が崩れていく。
 やがて、ヤマタノオロチの攻撃から逃げる場所がなくなった。

「可奈美ちゃん!」

 ハルトの叫び声が聞こえる。
 ヤマタノオロチの水と雷と風。雷雨となったそれを避ける手段を、上空への一時退避に見出した。
 そして。

「私……飛んでる!?」

 祭祀礼装の能力。その鱗片は、飛行能力。
 重力の制御より解き放たれた可奈美は、音もなく滞空していた。
 そのまま、迫る八本の首。
 可奈美は移動を脳で指示する。すると、祭祀礼装の体はその通りに滑空していった。

「すごい……! 本当に飛べるんだ……!」

 刀使の能力を超えたそれに、可奈美は歓喜の声を上げた。ヤマタノオロチの頭上を越え、そのまま回転と同時に斬りつける。
 悲鳴を上げたヤマタノオロチは、上空の可奈美を第一の敵と認識した。
 だが、ヤマタノオロチへ牙を向くのは可奈美だけではない。
 大荒魂の力を持った美炎もまた、小さくないダメージを与えていく。炎を纏ってのそれに、八つの蛇の頭は怒りを露わにしていった。
 ヤマタノオロチは、その八つの口の主砲を地面に向ける。地下の空間を八つのエネルギーが満たしていく。

「やばっ!」
「美炎ちゃん! こっちに!」

 可奈美は、美炎へ手を伸ばしながら叫ぶ。
 早急にその理由を察した美炎は頷き、跳びあがる。
 美炎の手を掴んだ可奈美は、それと同時に急上昇。同時に、八つの属性が、津波のように地下の足場を八色に染めていった。

「すごい威力……」
「あんなの受けたら、まともに立っていられないよ……」

 可奈美と美炎は、それぞれヤマタノオロチの威力に唖然とする。
 同時に可奈美は、戦闘不能となっているハルトの姿を探す。
 だが探すまでもなく、可奈美の眼はすでにハルトを視界に入れていた。
 まだ魔力が残る彼は、防御の魔法を幾重にも張ってこの場を凌いでいる。

「ハルトさん!」

 だが、彼の姿は八色の波の中に飲まれていった。姿が見えない中、彼の声が聞こえてくる。

「大丈夫! 何とかなってるから! だから可奈美ちゃん、頑張って!」
「う、うん!」

 頷いた可奈美は、ヤマタノオロチへ向き直る。
 可奈美たちが攻撃を回避したことを認識したヤマタノオロチは、そちらへ攻撃を開始した。八つの頭それぞれが別々のタイミングで攻撃を放ってくる。

「可奈美!」
「分かってる!」

 可奈美の上空浮遊能力。その速度は、この状態の迅位と大差ない。
 破壊されていく地下の音を聞きながらも、可奈美は滑空を続ける。やがて側面に近づき、美炎は可奈美の手を掴みながら、美炎が側面に足を付きかけていく。

「可奈美! いいよ、下ろして!」
「う、うんっ!」

 可奈美は壁に接近し、美炎の手を放す。
 美炎は壁に足を付けたまま走り出す。彼女の走った跡には炎が走り、そのまま加速していく。
 同時に、ヤマタノオロチの光線が、ピンポイントで可奈美と美炎を狙う。
 可奈美たちはそれぞれ急旋回、空中で美炎と合流。
 ともに御刀を振り抜いた。

「太阿之剣!」
「神居!」

 新たな姿で放たれる、二人の主力技。
 だが、それよりもヤマタノオロチの技の出が速い。八つの光線は、真紅と炎の斬と相殺し合い、ともに消滅した。
 それはつまり、空中の可奈美と美炎は無防備になったことを意味する。

「しまっ……」

 さらに、ヤマタノオロチの四つの顔が迫る。それぞれの属性のエネルギーを溜め、今にも二人の刀使を食らいつくそうとする。
 だが。

「邪魔だ」
「え!?」
「ソロ!?」

 その二人を突き飛ばしたのは、ブライ。
 瓦礫から脱出したムーの戦士が、可奈美たちに代わり、ヤマタノオロチの渦中へ割り込んだのだ。

「何でっ!?」

 だがブライはそれに答えない。ただひたすら、ラプラスソードを振り上げていた。

「ブライブレイク!」

 紫の刃が、ヤマタノオロチの攻撃を掻き消し、本体にダメージを与える。四つのヤマタノオロチの顔から跳ね返った衝撃波が、可奈美と美炎をヤマタノオロチの攻撃の範囲から外に飛ばす。

「ソロ!」

 だが、すでに彼の運命は決している。
 残り四本の首が、ブライの小さな体に迫る。
 火、水、雷、風。四つの攻撃が、そのままブライの体を飲み込み、マグマの中に突き落としていく。
 四つの属性とマグマ。その二つによって巻き起こる爆発が、地下の世界を揺るがした。
 やがてブライが沈んだ箇所は、固められた火成岩がブライの姿を溶岩の底に閉じ込めていた。

「ソロ……!」
「! 可奈美! また来るよ!」

 美炎の言葉に、可奈美は我に返る。
 再び襲い掛かるヤマタノオロチ。可奈美は足を合わせ、もう一度ジャンプした。飛翔による移動。ヤマタノオロチの首は、可奈美を食らいつくさんと追いかけてくる。
 ヤマタノオロチの、八つの攻撃。だが今、可奈美はその奔流、全ての軌道が目に見えた。
 両足を合わせてのジャンプ。さらに、滑空による高軌道でヤマタノオロチの懐に入り込んでいく。
 さらにそこから続くのは、斬撃を主体とするこれまでの可奈美とは、全く異なる剣術。

「はあっ!」

 それは、突き。
 本来の可奈美以上の速度を放つ突き技は、次々に迫るヤマタノオロチの顔一つ一つを弾き飛ばす。
 可奈美はさらに、八本の首を掻い潜り一気に肉薄。

「今だっ!」

 千鳥からの突き技。それは、八体のヤマタノオロチの首一つ一つを弾く。
 そして。
 完全に、ヤマタノオロチの肉体への道が開いた。
 突き刺さる千鳥の突き技。それは、縦に五回。横に五回。十字を描くように刻まれた刃が、どんどんヤマタノオロチを刻み込まれていく。

「せいやっ!」

 やがてそれは、実体を持つ軌跡となる。さらに、最後に中心へ行われた突き。すると、十字の刃跡は集約され、より大きな一撃となる。

___それはかつて、剣好きの少女が可奈美へ託した技でもあった___

「だああああああああああああっ!」

 最後の一撃。
 それは、ヤマタノオロチの頭部を破壊しながら、その肉体を吹き飛ばす。
 これまでヤマタノオロチの進軍を全てゼロにする威力。封印されていた箇所に転がったヤマタノオロチは、再生しながらも動きが鈍っていった。
 そして。
 可奈美の十一連撃。それが開いた、人が入れるほどの大きなヤマタノオロチの亀裂に、見えた。

「美炎ちゃん!」

 ヤマタノオロチ、その一か所を指差した。
 可奈美の刃が入れた、無数の刀傷。みるみるうちに治癒していくが、そのうち八つの首の根本の一か所。
 その中に。

「コヒメちゃんは、あそこにいる!」

 可奈美の輝く目は捉えていた。
 今にもヤマタノオロチと同化しようとしている白い少女が、全身を縛られていることを。その体内奥深くに、コヒメが銀の人物と対峙していたのだ。

「分かった!」

 美炎は躊躇いなく、跳び上がる。
 炎を足元に爆発させながら、一気に急上昇。折り重なるヤマタノオロチの肉体を切り裂きながら、その上を取る。

「煉獄さん……力を貸して!」

 美炎は、構える。空中で体を屈め、加州清光を大きく引き込む。すると、漆黒の鎧の下に、紅蓮の炎が迸っていく。炎は全身に行き渡り、やがて髪がふわりと浮かび上がった。
 それはまさに、セイバーのサーヴァント、煉獄杏寿郎の技と同じ動きだった。

「全集中 炎の呼吸!」

 そして、放たれる彼の技。
 可奈美には、もはや彼女のすぐ後ろに、煉獄杏寿郎の姿さえ見えた。

「奥義! 煉獄(美炎)!」

 彼女の体内を走る炎の血流。それは全身に行き渡ると同時に、一撃を放つ。
 それは、煉獄の奥義と同じ動き。龍のごとく舞い上がったそれは、八体の蛇の首を弾き飛ばした。

「決めるよ!」

 まだ、美炎の動きは止まらない。
 炎を足元で爆発させ、一気に加速。ヤマタノオロチの首たちを切り刻みながら、中心核へ迫る。
 そして。

「わたしと清光の! 全力!」

 無数の蛇の顔たち、一つ一つに、斬撃を与えていく。
 そしてそれは。
 その巨大な肉体に刻んだ切り口より、その体内に飛び込んでいった。
 可奈美はそれを見届けて、一人呟いた。

「気を付けてね。美炎ちゃん……」 
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