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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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流れ

「ナイバッチ」
「ありがとうございま~す」

ホームへと帰ってきた葉月にハイタッチを求める陽香。彼女もそれに答えると、腕を回され引き寄せられる。

「お前……狙い球無視したな?」
「えへへ」

本来の狙い球であるボールに手を出さずに捨てる予定だった変化球を捉えていった葉月。もし凡退していれば一言あったかもしれないが、最高の結果を残したとなれば話は変わってくる。

「実際のスラーブの方が打ちやすいか?」
「う~ん……当たってくれればって感じですかね」

狙い打ったというよりも身体が勝手に反応したといった様子の葉月。それを聞いた陽香は納得したようで、彼女を解放し打席に向かう。

「ナイスゥ」
「ほいほ~い」

ベンチに戻りながらネクストに入っていた明里とハイタッチする葉月。彼女がベンチへ入ろうとするとそれをキラキラした瞳で向かえる少女。

「すごいです!!葉月さん!!」

先程までの落ち込んでいた表情から元の彼女へと戻っていることに安堵した葉月は彼女の頭をポンポンと叩く。

「外のストレートを流すように打つといいかも。狙いはサードの頭の上ね」
「はい!!」

打った後だと説得力が違う。莉愛は打席の準備に向かい、葉月はグータッチを求めてくる優愛に応え、横につく。

「あれ、狙ってた?」
「ワンチャンあるかなぁ、くらい」

同じ左打者で二年生。打撃能力も高い二人だからこそ前の打者の情報を生かせる。それを最大限に生かした得点だっただけに葉月はどや顔を見せ、優愛は悔しそうな表情を見せていた。
















「グッチー!!切り替え!!」
「オッケー!!」

ホームランを打たれたものの取り乱す様子のない翼星バッテリー。打席に入った陽香もそれは十分理解していた。

(これで同点……まだノーアウトだし、大きいのはいらないな)

打線は下位に向かっていくが十分に打てる打者は揃っている。それがわかっているからこそ陽香は自然体で打席に入った。

(坂本ってこんな離れてたっけ?)

しかし、岡田は陽香の立ち位置を見てすぐに彼女の狙いに気が付く。

(クロスファイヤーを嫌がってるな?そりゃあここまで角度がつくボールはなかなかないもんな)

ホームから離れれば内角のボールを捉えやすくなる。ただし、それは外角のボールを打ちにくくするデメリットも背負うことになる。

(外角のストレートからいこう。外れていいから腕を振れよ)

いい打者の続く明宝打線。連打されれば一気に試合を決められかねないため、岡田は慎重だった。しかし、その慎重さが仇となる。

キンッ

外にボール一つ分離れていたストレート。しかしそれを陽香は踏み込んで打ってきた。その結果はライト前へとヒット。

(マジか?外狙いだったのか)

てっきりクロスファイヤーを打つために無意識に立ち位置を変えたと思っていたが、そうではなく踏み込んで外を捉えるための立ち位置だったことに気付き奥歯を噛む。続く明里も同様の立ち位置に立っていた。

(こいつも狙いは一緒か?もしくは……)

ノーアウトのランナーがいるため連打は避けたい。打者にバントの意思は見られないことから、迷った彼女はスライダーを要求し、低く外れて1ボール。

(私の不安がグッチーに伝染しちゃった。仕方ない……)

ランナーを確認した岡田はそのサインを送る。それを受けた山口はゆっくりと頷きランナーの陽香をじっと見る。

(坂本はピッチャーだ。この場面で盗塁するなんて考えられない!!)

走る可能性が低いのならば多少リスクがあっても打ち取る確率の高い球種を選ぶことができる。いまだにここまで打たれていない球種……ナックルで攻めることにした。

(できれば早めにバットに当たってほしい……ゲッツーも狙えるし……)

そんな願いも虚しくこのナックルを明里は見送る。しかも揺れが大きかったこともありこれを弾いてしまうが、大きく逸れることはなかったため陽香は一塁に止まっていた。

(危ね……でもカウントは取れた。次もこいつでいく!!)

走られても仕方ないと割り切った岡田は再度ナックルを要求。狙い球ではなかったものの、確実にストライクが入っているそのボールをただ見送るわけにはいかず、バットを振っていく。

ガキッ

その結果は最悪なものとなった。不規則なその変化を捉えることができずに死んだ打球がショートへと転がる。

「二つ!!」

ショートの鈴木がこれを捌いてセカンドへ送球しフォースアウト。海藤がそのまま一塁へ送球するが、明里の足が勝りダブルプレーは逃れた。

「ごめん!!」
「ドンマイ」

コーチャーを務める友里恵に苛立ちをぶつけるように声を出す明里。それに同級生である彼女は平静を装いながらバッティング手袋を受け取る。

(明里でもナックルは無理か……でも見送ってたら次も来てただろうし、これは仕方ない)

指示を無視しているわけではないことはわかるが、配球が変わってきていることは真田もよくわかっている。となれば攻め方も当然変わってくる……と思っていたのだが……

(ミスった……莉愛がバッターだった。エンドランは怖すぎる……)

ここまでヒットがない莉愛が打者だったことは大きな誤算。元々守備力を買ってのスタメンなだけに打ちにいかせてゲッツーになることが一番怖い。

(監督?)
(……バントでいくか)

まだアウトカウントには余裕がある。となればここは次に控えている伊織に託すために不安のある莉愛には最低限の仕事をしてもらうのがベター。

(送りか……そう簡単にさせると思うなよ)

サインを受けすぐにバントの構えを見せる莉愛。その足はバントをしやすいために開いており、バスターでないことを察した岡田はストレートのサインを送る。

(こいつは典型的な打てないキャッチャーって話だった。ならここは打ち上げてもらう)

内角高めのストレート。顔に近いためバッターがもっともバントがしにくいコース。そこに力のあるボールを投げ込めば打ち上げる可能性が高くなる。

コッ

それを狙っての投球だったが莉愛は一塁線に打球を転がす見事なバントを決めた。これにより2アウトながらランナーを得点圏に進めた明宝学園。

(打てない分バントは決めれるのか……でも2アウト二塁なら全然大丈夫だ)

ランナーが進められたものの慌てるような場面ではない。いつも通りの攻め方ができる翼星バッテリーは慌てず伊織を打ち取ることに専念する。

(莉愛はボールを怖がらないんだよなぁ……まだ三ヶ月しか経ってないのに大したもんだよ)

始めたての頃は目線にボールが来るバントを怖がる選手が多い中、難なくそれをこなせる莉愛に拍手を送りつつ打席に立った伊織へサインを送る。もっとも、この場面で何かを仕掛けようとは彼も思ってはいないのだが。

明里の足(・・・・)のことを考えると一本で還れるとは思わない方がいいかな?まぁ栞里は一回山口さんを見てるし繋げばいけるかな?)

元々上位打線を打ってきた伊織ならではの思考。対する翼星バッテリーもそれは重々わかっている。

(まずは外れてもいい。こいつでいく!!)

岡田が要求したのは葉月に打たれた背中から入ってくるスラーブ。これに山口は一度打たれたことが脳裏を過ったのか、プレートを一度外し、足を戻すと再度サインを覗き込む。

(打たれたボールはさすがに怖いか……なら仕方ない。これで……)

外角へのストレートに変更する岡田。これに山口は満足げな表情を見せ投球に入る。

(狙い球はストレートとスライダーでしょ?しかもこのバッテリー外のストレート多いし……)

左打者に対し必ず投じている外角へのストレート。優愛と葉月はこれを見送り、莉愛はバントだったためこの球は来ていない。本来なら距離感を測ってから打ちたいところだが、同じボールがまた来るかわからない。

(外のストレートに狙いを絞る!!)

リリースの瞬間に足を踏み込む。

(ヤバッ!!読まれてた!!)

その踏み込みの大きさに岡田はおののいた。バッターボックスから足が出た状態でバットにボールが当たると反則打球でアウトになる。しかし、バッターボックスのライン上にわずかでも足が残っていればルール上問題はない。伊織はそのギリギリを攻めてきた。

(届く!!)

カキーンッ

快音を残した打球。弾道は低いものの三遊間へと飛んでいきーーー

バシッ

打球は横っ飛びした鈴木のグローブへと吸い込まれた。

「うわっ!?マジ!?」

二塁ランナーを抑えるためにベース付近にいたはずの鈴木がいつの間にか三遊間を詰めていたことに驚きを隠せない伊織。タメ息が漏れる明宝ベンチに対し、翼星ナインはこのプレーで活気ついていた。

「ナイス愛里!!」
「光もナイピッチだよ」

流れを持っていかれかけた状況をなんとか食い止めたことがチームに与える影響は大きい。そのことは監督である佐々木が一番わかっていた。

(同点にはされたけど、ここで勝ち越せれば流れはこっちに来るはず。さぁ、今度はこっちが攻めようかしら)

ニヤリと笑みを浮かべる女性。彼女は集まった選手たちへと指示を飛ばした。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか?
やりたいことが多すぎる結果攻防が長くなっております。たまに端所るところもあるかもしれませんがそこはご愛敬ということでww 
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