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Fate/WizarDragonknight

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封印の場所

 太陽は完全に沈み、夜の帳が降りた世界。
 廃工場の外で可奈美たちと合流したハルトと煉獄は、頭を唸らせていた

「やっぱり、そっちにもトレギアが出たのか……」
「うん。コヒメちゃんも、ずっとトレギアが一緒にいたみたい」
「そうか……でも……」

 何でここに?
 その疑問が、ずっと胸の中に引っかかっていた。

「それも、わざわざコヒメちゃんと一緒に……まあ、コヒメちゃんを連れてきたのは美炎ちゃんを挑発させるためって考えるのが自然かな」
「だが! それでも、ここまで辺鄙な場所を選ぶ必要はないだろう!」

 煉獄の大声にも、ハルトは賛同する。

「単純に言えば、八岐大蛇ってやつだろうけど……でも、繋がらないよなあ」

 ムー大陸があったほど昔いた怪物と、近代化の波に乗り遅れた廃工場。
 あるべき世界が真逆の存在に、全く共通性を見出せない。

「こうなったらいよいよまたソロに話を聞かなくちゃいけなくなってきてるんだけど」

 ハルトは呟いた。

「俺たちの誰も、コヒメちゃんがどうなっているのか詳細を知らない。分かっているのは、八岐大蛇って神話の怪物をトレギアが復活させようとして、コヒメちゃんがそのキーになっているってことだけ」
「うむ! あの古代の青年だけが、残された手がかりというわけだな!」
「と言ってもなあ……アイツも別に味方ってわけじゃないしなあ」

 ハルトは深くため息をついた。

「唯一俺たちの近くにあるソロの興味なんて、響ちゃんの体にあるオーパーツだけだし。それもさっき実践してみた以上、もう引っかからないだろうしなあ」
「言ってる意味が分からんぞ!」
「いや、いいよ。今から一から説明するの大変だし、そこはあんまり重要じゃないし」

 ハルトはそう言いながら、空を仰ぐ。
 都会である見滝原の夜空には、一等星よりも低い星が見えない。
 旅をしてたときの星空を何となく思い出すハルトは、可奈美の声に我に返った。

「もう一人いるよ。ムーに詳しい人」
「え? あ、ああ……」

 疑問符を浮かべたと同時に、ハルトもまたその答えに辿り着いた。



 ニッコリとお出迎えなはずはないとは理解していたものの、彼女はむすっとした顔でハルトを睨んでいた。

「何かしら?」

 これまで幾度となくともに戦い、また幾度となく敵として立ちはだかって来た少女。
 暁美ほむら。
 つい先日、客としてラビットハウスにも訪れた彼女は、今回は完全に不機嫌な顔だった。
 大勢で来ては、ほむらもきっと警戒するとのことで、ハルトが一人で来たが、あまり成功とは言い難い反応らしい。
 ハルトは咳払いをして、要件を伝えた。

「キャスターに会いたいんだけど、いる?」
「……」

 ほむらは、拒否するという心情を隠すことさえなかった。

「キャスターに何の用?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……いいか?」

 ほむらはしばらくハルトを睨んでいたが、やがて「用が終わったらすぐ帰りなさい」と、ドアを大きく開けた。

「ありがとう。お邪魔します」

 始めて入る、ほむらの自室。
 少し緊張しながら、ハルトは足を進めた。

「ここの住所は、どうして分かったの?」

 歩きながら、ほむらは尋ねた。

「まどかちゃんに聞いた。どうしても、キャスターに会わないといけなかったから」
「……前も言ったわよね? 私たちは、あくまであなたの敵よ」
「分かってるけど……でも、今は多分ほむらちゃんにとっても、休戦しなくちゃいけないと思う」
「……そう」

 ドアの向こうにある、ほむら宅のリビングルーム。その部屋の中心には、丸いテーブルが設置されている。さらに、そのテーブルを囲むように、半円型の椅子が配置されている。
 二層に、合計四脚。さらに、天井にはホログラフなのだろう、無数の絵やグラフが表示されている。
 女子中学生が暮らすどころか、生活感すら感じられない。
 そして、グラフや資料の中で、ハルトの目を引くものがあった。

「台風情報……? 何でこんなに沢山? まだ二月なのに?」
「キャスター。来客よ」

 ほむらは、ハルトの目線に気付くことなく、内側の椅子に腰を掛ける人物を呼んだ。
 銀髪の長い髪、ルビーのような赤い瞳が特徴の女性。普段顔に赤い紋様が浮かび上がっている彼女を見慣れているだけに、平常時の素面の彼女は新鮮味を感じる。
 ハルトが見知る中でもっとも強力な参加者であるキャスターのサーヴァント。
 彼女は、その赤い目でじっとハルトを見つめ。

「……久しぶりだな。ウィザード」
「そうだね。この前の見滝原ドーム以来だから……大体三週間ぶりくらい?」
「……」

 キャスターは、静かにハルトを睨む。
 やがてキャスターは、彼女の反対側の座席へ手を向ける。

「私に話があるのだろう?」
「ああ……」

 ハルトは頷いて、キャスターの向かい席に腰を落とした。
 チクタクと時計の音だけが聞こえるほむらの部屋は、ハルトの緊張をより一層強めた。
 数秒呼吸を繰り返し、ハルトは切り出す。

「聞きたいことがあるんだ。ムーに関わる話なんだけど」
「ムー?」

 キャスターは眉をひそめる。

「あの大陸は、ランサーが破壊した。今更、もう何も語ることなどないはずだが?」

 その言葉に、ハルトは首を振った。

「いや。聞きたいことは、ムーと太古の昔に戦った、八岐大蛇についてなんだ」
八岐大蛇(ヤマタノオロチ)……?」

 その単語をハルトが口にした途端、キャスターの動きが一瞬止まる。

「なぜ今、その名が?」
「やっぱり知っているんだな」

 確信を持てて聞けた。
 キャスターはほむらへ首を回す。

「マスター。見滝原の地図は?」
「……少し待ちなさい」

 ほむらは数秒キャスターを見返していたが、やがて踵を返して部屋から移動する。
 しばらくガサゴソと物色する音が聞こえてきたが、その間にキャスターは話を続けた。

「なぜ見滝原が聖杯戦争の地に選ばれたのか。考えたことはあるか?」
「いいや……」

 キャスターの言葉に、裏の物色する音も止む。
 ほむらも手を止めて、耳を澄ましているのだろう。

「以前遺跡で、ムーを信仰している古代の見滝原の住民たちのことは説明したな」
「ああ」

 ハルトは、かつて見滝原遺跡に赴いた時のことを思い出した。
 ムー大陸を崇める民族。見滝原に住んでいた人々は、ムーを太陽のように敬い、その力の一端であるダイナソーのオーパーツを見滝原の遺跡に収めていたのだ。

「彼らは、この地に八岐大蛇を鎮めるムーを見て、神と崇めた。それが、あの遺跡であり、ムーから齎されたダイナソーのオーパーツがこの地に安置されていた理由だ」
「そうなんだ……それじゃあ、ここに八岐大蛇がいることは……」
「当然知っていた。この見滝原が聖杯戦争の場所として選ばれた理由も、八岐大蛇の力が地脈となり、土地全体に魔力が大きくなっているからだ。が、封印も厳重だったし、私でさえ全力で探知しなければ気付けないほどの気配だった。だから、他の何者も触れることはできないと放っておいた。まさか、フェイカーが探知できたとは知らなかったが」
「あったわ」

 その言葉とともに、ほむらは戻って来た。
 彼女は地図をテーブルに置き、広げる。
 キャスターはほむらへ会釈で返し、地図に指を押し当てる。

「八つの要石が、大蛇の封印を担っている。それは知っているな?」
「ああ」

 あくまで、響からのまた聞きでしかない、というのは口にしなかった。

「二つは以前確認した。ここと、ここだ」

 キャスターの指から、青い光が地図へ刻まれる。

「そしてもう一つ。ダイナソーのオーパーツを封印していた、あの遺跡。火山の影響で、あの時同じく要石も破壊された」

 キャスターはそう言って、ところ変わって見滝原の山の方を指差す。
 そこには確かに、見滝原遺跡があったところだった。

「アンタがあの時あそこにいたのは……」
「要石を見つけたのは偶然だ。あの時の目的は、単純にダイナソーのオーパーツだけ。それよりウィザード。お前はどこを確認した?」
「俺が見たのは、多分ここ。あと、可奈美ちゃんがここの神社で、ソロと戦ってる。多分ここにもあったんだと思う」

 ハルトが指差したのは、さらに二か所。ハルトとさやかがソラ(グレムリン)と戦ったところ、そしてもう一つは、セイバーが召喚された場所。
 それぞれキャスターが指し示した場所とは、少し離れている。

「あと、確信はないけど、さっき戦ったここの廃工場も、多分要石があるんじゃないかな」

 ハルトは、見滝原南の工場、その大よその位置を指差した。
 だが、それまでの要石の場所とは打って変わって人工的な場所に、キャスターは眉をひそめた。

「……本当か?」
「俺も直接見たわけじゃないんだけどね。でも、トレギアが何の理由もなくここで待ち伏せをしていたとも思えないし」
「なるほど……」

 キャスターは、改めて六ケ所の点を凝視する。

「要石は、八岐大蛇を中心にした八か所で地脈にそって配置される。等距離とはいかないだろうが、この六つだと、場所はおそらく……」

 その先は、言わなくてもハルトも見当がついていた。
 キャスターは続けて、同じく指からの光でそれぞれの要石と目される場所に直線を走らせる。
 合計六本の線を、中心に向けて描く。すると、見滝原のほとんど真ん中の位置に、全ての線が集約していく。
 おそらく、八岐大蛇本体が封印されている場所は。

「見滝原公園……!」



___それは、誰も知らない見滝原のどこか。通常の空間とは異なる、世界の裏側。

「いいねえ。この町も中々に芸術的センスしてるじゃねえか。うん」

 そう告げるのは、黒い衣を纏った青年。衣のいたるところには赤い雲が描かれており、物静かな印象を抱かせる。長い金髪は後ろで束ねており、その左目には額当てより下ろされた前髪がかかっていた。
 彼は、手に持った人形で手玉しながら、周囲の神社を見やる。
 深い茂みに覆われた神社。この町に普通に暮らしている者ならば、決して足を踏み込まないような場所。

「キサマ……何のつもりだ……?」

 そう、声を上げるのは、民族衣装を纏った青年。
 孤高を貫く彼は、今や生身のまま地面に倒れていた。
 その名はソロ。この見滝原の地において、願いをかけた戦いの中で上位の実力を持つはずの彼が、地に伏せていた。

「まだ生きていたか。なかなかしぶといな。うん」

 青年はそう言って、頭を掻く。
 青年の髪がなびかれ、その額に付いた銀の額当てが現れる。真横に大きく付けられた傷は、青年が額当てに記された記号を否定しているものだった。

「芸術ってのは、儚く散りゆくからこそ美しい。そんなに長々と生きていちゃあ、アートじゃねえなあ。……うん」

 青年はそう言いながらも、最後に「まあ、そういう意味なら今のオイラもアートとは言えねえな」と付け加えた。

「キサマ……!」

 ソロは青年へ掴みかかる。
 だが、青年は笑みを見せながら払いのける。

「おいおい。落ち着け落ち着け。お前の狙いはコイツだろ? ……うん」

 ソロを蹴り飛ばした青年は、その懐からそれを取り出した。
 青年が以前、ムー大陸から回収したそれ。手のひらに乗るサイズの立方体、その側面にはムーの紋章が刻まれていた。

「キサマっ!」

 ソロは、スターキャリアーを取り出す。それは、ムーの紋章を浮かばせるとともに、その姿を黒いムーの戦士、ブライへ変身させる。
 だが、青年は全く驚くこともなく、ブライの拳を避ける。

「ははっ! そんなに一生懸命になるなって……うん」

 青年はそう言いながら、ブライへ手のひらを見せつける。
 すると、その手のひらを横切る線が開く。手のひらに植え付けられた口、そこから吐き出された粘土が、ブライの顔面に張り付いた。

「なっ!」
「喝っ!」

 ブライが反応するよりも早く、青年が唱える。
 すでに蜘蛛となったブライに張り付く粘土は、そのまま爆発。ブライの顔を大きくのけ反らせた。

「ぐあっ!」

 さらに、続く粘土の雨。
 蜘蛛の粘土たちが、無数にブライに張り付き、爆発させる。
 やがて、動けなくなったブライはソロに戻り、呻き声を上げる。
 そんなムー人をしり目に、青年は残った芸術へ目を移す。丸い台のように作られた要石。注連縄が、それをただの石とは大きく異なる神秘性を持たせていた。
 だが、そんな神秘の石へ、青年は笑みを見せる。

「やっと芸術の瞬間だ。折角だからな。ゆっくり見ておけ。うん」

 青年は、そう言って、再び印を組む。
 すると、鳥は要石に飛び乗る。
 そして鳥は煙とともに巨大蜘蛛となり、要石に張り付く。

「喝っ!」

 青年の掛け声。
 それは、粘土の起爆スイッチとなる。粘土に配合された青年のエネルギーにより、要石が爆発した。

「なっ……!」

 ソロはその光景に唖然とするソロ。
 だが、青年は要石の跡地を満足気に見下ろした。

「……うん。やっぱり芸術は、儚く消えゆく一瞬の美。これに限るな。うん」

 青年は手から、粘土を放る。
 それは、先ほどまでのものと同じく煙を発生させ、巨大化。要石と同じタイプの鳥となる。

「さて。次の芸術鑑賞先でも探すかね。うん」

 飛び乗った青年は、そのままどこかへ飛び去って行った。
 そして。



 それが最後の要石だとは、この芸術家が知る由などなかった。 
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