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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  霈

 
前書き
原作人物回、初投稿です

今回は長文です 

 
ウクライナに展開するドイツ人民軍、第一戦車軍団と戦術機実験集団に呼び出しがかかった
当該部隊の指揮官、参謀は、急遽、ベルリンへ向かった
彼らは、首都に着くなり、官衙に招かれ、驚愕の事実を知らされた
東独の首脳部の口から伝えられたのは『中共政権による《単独》での《ハイヴ》攻略』

「独力で中共がハイヴ攻略をした」
その話は、わずか数日の間に国際報道に乗り、全世界を駆け巡った
前衛を務める東欧諸国の青年将校達に、衝撃が走った


帰京して数日たったある夜、ベルリン郊外の然る屋敷
とある党中央委員の私宅に、二人の男が呼ばれていた
屋敷の主人は、青年時代から党大会に参加し、新進気鋭の議会委員として、有名な男であった
「よく来てくれたな、二人とも」
人民軍地上軍の軍服姿の男たちが部屋に入る
壮年の男が敬礼をすると、脇にいる男も少し遅れて敬礼をした
機甲科(戦車部隊)を示す桃色の台座の上に、将官を示す金糸と銀糸が織り込んだ肩章。
金属製の星形章の数から少将
胸には略綬と職務章を付け、年のころは40代半ば
若干日焼けしており、最前線で戦っていることが一目で判る
生地は、艶やかな灰色で、質の良いウールサージ、体に合った仕立ての良い軍服を着ている
恐らくテーラーでのカスタムメイドであろうことが、うかがい知れる
青年は、水色の台座の航空軍(空軍)肩章で、銀糸の刺繡模様から尉官
肩章に輝く菱形の金属製星形章の数から中尉
陸軍と同じ灰色のサージで出来た将校用の軍服を着ている
隣の男と比して、生地の質が幾分が落ちることから、判るのは既製品であろう事
美丈夫と呼んでも差し支えない男で、年のころは20代前半
輝くような金髪に、碧眼、青白く美しい肌の青年であった
「此方こそ御招き頂いて有難う御座います。自分は……」
屋敷の主人は、遮るように言う
「知っているよ。噂の《婿殿》だろう。奴が居たら面白かったな」
青年は反論した
「待ってください。
自分は、まだ独身で、彼女とは結婚はしていません。
たしかに友人以上の関係ではありますが、誤解なさらないで下さい」
興奮した様子の青年を、主人は宥める
「まあ、待て。その話は追ってするから、これを見ろ」
主人は、青年と脇にいる壮年の男に一枚のB3判の封筒を渡す
「これは……」
複数の写真と独文の報告書と、英字新聞の複写が挟んであった
(なんで「南華早報」、何故、西側の新聞が……)
隣を振り向くと、50がらみの男が熱心に資料を読んでいる

「実はな、支那でのハイヴ攻略。未確認だが、西側の新兵器が使われたらしい」
左手で、椅子に腰かける様に促された彼等は、着席した
屋敷の主人はその様子を見届けると座り、奥に向かって茶を催促する様、呼びかける
まもなく暖かい湯の入った薬缶と、急須に茶碗が盆に載せられ運ばれる
「お待たせしたな、フランスの茶しかなかったんだけど、良いかね」
青年は驚いた、フランスのフォション(FAUCHON)
缶を裏返してみると、先頃より手に入りにくいセイロン(スリランカの雅称)茶葉であった
続いて運ばれてきた、白磁の皿には、直径15センチもあろうかというクッキーが10枚ほど並んでいた
「なんでもベルンハルト君、西側の茶葉が好きだそうだね。君の好みに合うかは知らんが、味わってくれ」
彼は驚いた。
自分は、すでに目の前の男にとっては、丸裸寸前の状態であることに。
「話を戻そう。すでに諸君も報道で知っているとは思うが、先日、中共がハイヴを単独攻略をした。
我が国も様々な筋からの情報でもそれが裏付けられた
なんでも超大型の戦術機による空爆で、ハイヴを粉砕したらしい事まで分かった」
壮年の少将が口を開いた
「超大型ですか」
彼に主人が写真を差し出した
「この写真を見たまえ」
撮影日時は不明ではあるが、横倒しの状態でコンテナ船に乗る戦術機の姿が映っていた
縮尺から考えると50メートル近い巨大な全長。
武装は見えるところにはないが、恐らく別積みしてあるのだろう
「こんな物を、何時の間に……、
この混乱の前に、10年に及ぶ文革で数千万が被害にあったと聞き及んでいます。
彼らに、その様な工業力があったとは、思えませんが……」

屋敷の主人は、脇からフランスたばこを出す
右手で、封を切り、箱から一本取りだす
縦型のオイルライター、恐らくオーストリア製のライターであろうものを取り出し、火を点ける
ゆっくりと吸い始め、そして語り始めた
「実は、未確認の情報だが、西側の新兵器らしい。
最終的に、天津港から、日本の神戸港に運ばれた」

ベルンハルトは、驚いたような声で尋ねた
「じゃあ、支那は独力ではなく日本に助力を求めたというのですか!
今頃になって他国に援軍を求めるなど虫が良すぎではありませんか。
その様な我田引水は、許されるものではありません」
主人は彼を宥める
「まあ、落ち着き給え」
彼に、紙巻きたばこの箱を、右手で差し出す
ジダン(Gitanes)の文字が見え、フランスの有名な黒タバコであることを理解した
このような物を自在に手に入れる立場であること、自分の地位の高さを見せつけるためであろう
それとなく、目前の男は、彼に説明しているのだ
「君、たばこは吸うか」
彼は右手で遮った
「自分は吸いません。それに……」
たばこの箱を、少将の方へ向けた
少将は彼の右手から、自分の右手に、タバコの箱を受け取る
「宇宙飛行士になりたいんだろう。
まだ20代じゃないか、夢をあきらめるは、早い。
たしかに体が資本だ。だからこそ君の様な男に、この動乱を生き残ってほしい」
彼は、主人に黙って会釈した
少将はタバコを3本取ると、胸ポケットからマッチの木箱を取り出した
其の内の一本に、マッチで火を点け、吸い始める
タバコの箱を机の上に静かに置いた
「マホルカ(ロシアタバコの一種)と違って癖が少ないですな。
でも《ラタキア》や《バージニア》のような吸いやすさはないですな」
目前の人物は、自分のもてなしをたいそう気に入ったようだ
男は喜びながら答えた
「なあ、旨いだろう。この独特の風味が《癖》になる。
気に入ったなら、また来た時に用意してやるよ」
彼は、男の顔を見ながら答える
顔は正面を見ていたが、どこか遠くを見るような目で、何か寂しさを感じているような表情であった
「兵達に吸わせたかったですな……」
おそらく戦場で戦死した兵士たちへの手向けた言葉であろうことは、その場に居るものには理解できた
暫しの間、場は静まった

再び現実に戻すように、青年が男に問うた
「宜しいでしょうか」
男は頷いた
「お話というのは、その支那情勢の事ばかりではないでしょう。
本心を聞かせてもらえますか」
男は目を瞑り、白いフィルター付きのタバコをゆっくりと吸う
ゆっくりと紫煙を吐き出すと、語り始めた
「ぶちまけた話をいえば、君等に、我々の派閥に入ってほしい。
《おやじ》も年を取り過ぎた。この辺りで何か、起死回生の策を採らねば、我が国は消える」
男の話を、彼は熱心に聞き入った
「そこでだ。
今回の欧州全土を巻き込んだミンスクハイヴ攻略作戦の帰趨は、我が国の将来に掛かっている。
成功すれば、西側へ、より良い条件を引き出す切っ掛けに為るやもしれん」
タバコを、ゆっくりと灰皿に押し付ける
「実はな、保安省(国家保安省、シュタージ)の一部の極左冒険主義者共が策謀を巡らせていてな、なんでも青年や大学生を誘致しているらしい」
彼等は、この発言に驚いた
「そういった話を聞いたことは、ないか」
無言の彼等に代わって、男は、なおも続ける
「戦術機部隊を作って、連隊(フェリックス・ジェルジンスキー衛兵連隊)を拡大強化する案を省内で纏めていると聞く」
少将は二本目のタバコに火を付けながら答えた
「我々にそれを潰せと……」
「あくまで噂だよ。俺が《おやじ》の《家》に、《遊び》に行ったときに、小耳に挟んだのだよ」
彼等は、一通りの話を聞いて理解した
《おやじ》とは、この国の最高指導者の事を謙遜した表現であり、《家》とは何かしらの施設か、府庁であろうことを 

男は冷めた茶を飲み終えると再び話し始めた
「噂だが」
そう置きした後、真剣な表情で語った
「なんでも一部の極左冒険主義者共、露助の茶坊主と、《褐色の野獣》とかいう、綽名の優男を中心に大学や青年団(自由ドイツ青年団)の中に入ってきて、《男狩り》を始めた」
男は、白磁の皿に手を伸ばして、大きいクッキーを掴み取る
「青年団は俺の島だ。島に黙って入ってきて食い荒らされては困る。
それ故、人民の軍隊である人民軍の将校に、《陳情》しているのだよ」
高級幹部特有の言い回しに、少将の目が鋭くなる
今の一言は、政治的に、危うい発言だ
「それは、どのような立場でだ」
クッキーを弄びながら、男は答えた
顔は、背けたままであった
「党中央委員の意見としてだ」
少将は、火のついたタバコを灰皿にそっと置いた
その態度から、彼は少将が静かに怒っているのを悟った
「党中央委員会の意見としてか」
クッキーを割りながら、なおも続ける
「それは君の判断に任せる」
少将は、両肘を机の上に突き出すように座って、答える
机の上に置いた両手が握りしめられていく
「脅しかね」
灰皿の吸い殻へ、種火が移り、燻り続ける
部屋は、天井の方に煙で空気が白く濁ったようになっている
「要望だよ」
そういうと男は、クッキーを食べ始めた
食べ終わると、こちらを見ながら話し始めた
「つまり、君達がそれなりの結果を示さないと、あの茶坊主共にこの国は滅茶苦茶にされると言う事だよ」

ベルンハルトは腕時計を見た
時刻は午後10時半
せっかくの帰国だ……
そう悩んでいると、男が声を掛けた
「妹や、愛する《妻》に逢いたかろう。今夜はお開きだ
明日、親父さんを連れてきなさい。如何しても外せない話が有るからと伝えて置いてくれ」
彼は、その一言を聞いて一瞬戸惑ったが、理解した
《親父さん》とは精神病院に幽閉されている実父ヨゼフ・ベルンハルトではなく、将来の岳父、アーベル・ブレーメであることを
その様な思いを巡らせていると、少将が右肩に手を置いた
「一旦帰ろうではないか」
彼は立ち上がり、少将と共に敬礼
ドアを開けると、軍帽を被って屋敷を後にした





 
 

 
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