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冥王来訪

作者:雄渾
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異界に臨む
  帰郷 その4

マサキの脳裏に、再び、前の世界での一度目の死の直前にあったことが思い浮かぶ

亡命した彼を日本政府は日ソ関係の改善の道具として利用し、ゼオライマーの技術を独占する目的で暗殺された

目先の利益の為に日ソ関係改善に走った当時の防衛長官、その時の政治事情が分からない故、結論は出せないが、再度ゼオライマーの中にある意志として15年ぶりに目覚めたときは、その企みが不発で終わったことに内心安堵した

ソ連、時の米国大統領をして「悪の帝国」と言わしめた国家
国際法を弊履が如くかなぐり捨てる野蛮国。
政治の為に科学すら捻じ曲げ、共産主義の教義に沿った「獲得形質遺伝」なる説を唱え、その結果大飢饉や政変で多数の人命が失われる国家
メンデル遺伝学を研究する学者を多数追放し、処刑した国家など科学者・木原マサキとしては受け入れられなかった

その様な国家に関わることさえ、彼にとっては苦痛であった
元居た世界に似た、この世界において、化け物共にソ連が、共産圏の大半と侵攻されていく様を見たときは、何とも言えない気持ちに陥った
『どうせ化け物共に飲み込まれて消えていく国だ。関わり合いになりたくない』というのが偽らざる本音であった

あの大臣が言う事をすべて信じられないが、この世界では何が起きてもおかしくはない
18メートルのロボットが闊歩し、火星まで探査機が行く世界だ


「待ってください」
その声で、マサキは現実に連れ戻された
美久が左手を両手で掴んでくる。かなり強い力で
「離せ」
手を払いのけ、車まで戻ろうとした所を後ろから覆い被さる様にして、止められた
「どうか、あの方々の真剣な言葉を聞いてあげてください
悪意があってやってるようには見えません」
なおも歩き出そうとしている彼を、両手を脇腹に回して背中から抱き着いて止める
「鬱陶しい」
ふと立ち止まった
(「どうせ、拒否して無理やり行かされるぐらいなら、堂々と正面から参加して、暴れてやれば良いか」)
彼女は抱き着いたまま、離れない
「おい、美久。離れろ。鬱陶しいし、重い」
彼女はゆっくりと離れた
「お納め頂きましたか」
振り返り、彼女の顎を右手で掴む
「ほう、推論型人工知能の癖に、主人にまで逆らうとは。我ながらよく出来た物を作ってしまった物だ」
右手を彼女の左肩に寄せ、顔を近づけ抱き寄せる
恐怖で慄いた表情をしている
「お前を弄んでいたら、興も醒めてしまった」

「一度乗った船だ。奴らには協力しよう。だが俺と、ゼオライマーは奴らの自由にはさせん。
俺を出汁にするならば、内訌を起こさせて、その目論見を崩壊させてやる」
後方に立っている男を呼ぶ
「おい、榊とか言ったな。俺は欧州に行くぞ、そう伝えて置け」

ゴルフ場を後にして、市内に連れ出されたマサキ達は、ある屋敷に、連れて出された
まるで大時代物に出てくるような広大な屋敷であった
数町歩ほどあろう庭には、手入れされた草木が生い茂る
恐らくこの国の支配層に近い人物であろうことは、察することが出来る
広い庭で、着物姿で、長髪の男と、例のビジネスマン風の男が立ち話をしていた
使用人に案内されると、榊が深々と礼をしたのを見て真似てる
壮年の男は、口を開いた
「榊君、半月前に、支那で拾って来た男というのは、彼かね」
榊は頷いた
「そうです」
男は続ける
「何でも、斯衛軍に入りたいと聞いたが、儂の方で出来なくもない」
男は、ビジネスマン風の男に声をかけた
「来年の夏ごろまでには仕上がるかね」
「翁、それは教育次第では出来るかもしれませんよ……」
翁と呼ばれた男はマサキ達を向いた
「脇にいる娘御は何だね」
「サブパイロットだそうです。詳しい話は……」
マサキが口を挟む
「おい、爺さん。俺をどうする気だ。それと美久は唯のサブパイロットではない。
こいつが居なければゼオライマーは動かせんぞ」
「ゼオライマーが無ければ、貴様らはその野望とやらも実現できまい、違うか」

《翁》と呼ばれた男は高笑いした
「抜かせ、小童共に何が判る。所詮、大型の戦術機一台ぐらいでどうにかなると思っているのか」
マサキの表情が険しくなる
「じゃあソ連の秘密基地破壊と、ミンスクハイヴを消したら、その時はどうする」
男は、なおも笑いながら答えた
「それ相応の態度を見せてくれれば、貴様の望み道理にしてやっても良いぞ」
周囲の人間は一様に困惑した様であった
その姿を楽しんでいるかのような男は、
「来年の暮れまでに結果を持ってこい。楽しみに待っているぞ」
彼は、そういうと屋敷の中に、従者たちと共に消えていった




 
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