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Fate/WizarDragonknight

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帽子の青年

「ようこそ!」

 煉獄は、腕を組んだまま、はっきりとそう告げる。

「よもやよもやだ! よく来てくれた! さあさあ、こちらに着いて! オススメはこちらだぞ!」

「どうした!? さあ、どうぞこちらへ!」

「そうか! それはとてもうまいぞ!」

「お客様! いらっしゃいませ! さあさあこちらへ!」
「れ、煉獄さん! ここはそんなに大声出さなくていいから!」

 声が大きな新人へ、可奈美が慌ててフォローに入る。

「ここは、穏やかに穏やかに! そんなにブワってやらなくてもいいから!」
「ふむ! ブワってやればいいんだな!」
「だから違うって! あ……ごめんね、ほむらちゃん」

 ずっと門戸で立ち止まっている中学生の少女へ、可奈美はほほ笑んだ。
 暁美ほむら。
 見滝原中学の生徒であり、聖杯戦争の参加者でもある少女。
 最強クラスのサーヴァント、キャスターを従える彼女は、これまで可奈美やハルトとも何度も対立し、時には共に戦ってきた。
 そんな彼女は、時折情報収集のためだろうか、ラビットハウスに訪れる。

「……何なの? この店員」

 ほむらは目を細めながら、煉獄を睨む。
 だが、煉獄はそんな状況にあっても、決して折れることはなかった。

「うむ! 初めましてだな! 私は……」
「わーっ! 煉獄さん! 自己紹介はいいから案内して! ほら、ほむらちゃん! こちらへどうぞ」

 可奈美は悲鳴を上げながら、ほむらを案内する。
 ほむらは数秒煉獄を睨み、

「……松菜ハルトはどうしたの?」
「今は丁度市場へ仕入れに行ってるよ。そういえば、遅いなあ……どこかでサボってるんだねきっと。その……」

 今、彼女が何か動きをすれば、今の自分に食い止める手段がない。
 警戒の心を思い浮かべた可奈美だが、ほむらはすぐに首を振った。

「……別に、こんな真っ昼間から殺し合いなんてする気はないわ。キャスターもいないし」
「そう。よかった」

 可奈美は安堵の息を吐く。
 だが、ほむらは可奈美を見ることなく、ずっと入口に突っ立っている煉獄を睨んでいた。

「キャスターの索敵能力で、この前不信な魔力を感じたって言ってたけど……まさか、新しい参加者なの?」
「う、うん……」

 可奈美は頷いた。
 すると、煉獄は尋ねられてもいないのに名乗りを上げた。

「うむ! セイバーのサーヴァント、煉獄杏寿郎だ! よろしく頼む!」
「……よろしくされる理由もないのだけど……」

 ほむらは目を細めながら言った。

「貴方といい、衛藤可奈美といい……忘れてない? 私達は殺し合う間柄なのよ」
「気にするな!」

 あまりにも堂々とした発言に、ほむらは言葉を失った。

「戦わなければ、何も起こらん。誰も死ぬこともない! それがいい!」
「……この男、バカなの?」
「あはは……」

 苦笑する可奈美。
 そこへ、白い人物が歩いてきた。

「お、お水をどうぞ……」
「コヒメちゃん!? なんで……?」
「うむ! お店を手伝いたいと申し出てな! マスターがコヒメ嬢のことを調べる合間、ここにいるとのことだ!」
「そういうことは最初に私とタカヒロさんに言って!」

 可奈美はそう悲鳴を上げる。
 一方、そんな可奈美の苦心などどこ吹く風、トコトコと左右に揺れながら、盆に乗せたグラスをその小さい手でほむらの前に置く。
 その愛らしさに、可奈美は思わず笑ってしまった。

「うむ! いい心がけだ!」
「まあ、立派だけど……」

 でも、荒魂が接客って大丈夫なのかな、と可奈美は疑問に思った。
 そんな物思いの最中、更なる呼び鈴が、可奈美の意識を引き付ける。

「いらっしゃいませ」

 それは、ハルトや煉獄と同世代の青年だった。

「ハロー! いいお店! おや? 君はこの前の……」
「フルールドラパンの……!」

 以前、フルールドラパンで出会った青年。帽子、ストール、ウェーブがかった茶髪と、全ての特徴が一致していた。
 あの時と変わらない、ニコニコ笑顔を見せる青年は、店内を見渡しながら静かに席に着く。

「へえ……オシャレなお店だなあ」

 あなたの方がよっぽどオシャレですよ、と思いながら、可奈美は彼の座席に水を置く。

「ご注文はいかがなさいますか?」
「うーん、そうだなあ……?」

 青年は顎に手を当てながら、

「じゃあ、オススメのコーヒーを頂戴。なんか温まる奴。今日寒いしね」
「かしこまりました!」

 注文を承った可奈美は、早足でカウンターに戻っていく。剣術にも匹敵するくらい、動きが染みついた流れで、可奈美は焙煎したコーヒーを淹れた。
 それと入れ違いで、コヒメがまた水を机に置いた。

「どうぞ」
「お? フフフ、ありがとう!」

 青年はコップを受け取りながら、コヒメへ笑顔を見せる。

「君可愛いね。ここのお手伝いさん?」
「は、はい……」

 コヒメはお盆で顔を隠しながら頷いた。
 青年は続ける。

「まだ幼いのに偉いね。君、この前はあんまり僕と話してくれなかったけど、改めて聞かせて。お名前は何て言うのかな?」

 青年はコヒメの頭を撫でながら尋ねた。
 さすがに注意しなくてはと可奈美が口を開くと、それよりも先に他の声が先導する。

「やめなさい」

 ぴしゃりと、後ろの席のほむらが言い放った。

「あれれ? どうしたのお姉さん」
「店員に変に絡むのはやめなさい。品が知れるわよ」
「おやおや。怖いお姉さんだ」

 青年はにいっと笑いながら、コヒメの頭に置いた手を離す。
 コヒメはお辞儀をしながら、トコトコと可奈美のところに戻って来た。

「かなみ。あの……」
「いいんだよ。あのお客さんには、私から……」
「よもやよもやだ」

 だが、可奈美が注意に向かうよりも先に、煉獄が青年のもとへ向かう。

「お客人! もし、話し相手が必要ならば、コヒメ嬢ではなくこの俺が相手になろう! 何かお悩みでもあるのかな!」

 ぐいぐいと煉獄は、青年に絡んでいく。

「さあ! 何でも言ってくれ!」
「いやあ、別に悩みは……」
「そうか! それはよかった!」

 煉獄が本気で言っているのか、それともコヒメを守るために言っているのか、可奈美には分からない。
 だが、青年は誤魔化すようにコーヒーを口にした。
 やがて煉獄が入口に戻っていくと、青年はコーヒーから口を離した。

「あ! そうそう……」

 青年は思い出したように可奈美へ問いかけた。
 煉獄が再び彼へ足を向けようとするよりも先に、青年は先を紡ぐ。

「僕、ここに知り合いがいるって聞いてきたんだよ」
「知り合いですか?」

 煉獄は足を止め、持ち場に戻った。

「ハルト君はいないの?」
「え?」

 突然の名前のカミングアウトに、可奈美は目が点になった。

「ハルトさん? もしかして、ハルトさんのお知り合いですか?」
「ふふっ! まあね。古い付き合いだよ」
「古い付き合い……」

 ハルトに、長い知り合いがいたことなど、可奈美が知る由もなかった。
 青年はコーヒーの香りを一通り楽しんだ後、口に付けた。

「ん、いいねこれ。落ち着くなあ」

 青年は「うんうん」と香りを楽しみながら、コーヒーを啜る。

「あ、ねえねえお姉さん。砂糖もらってもいい?」
「はい、どうぞ」

 可奈美は青年へ、砂糖を差し出す。

「ありがとう」

 彼伝てに、ハルトのことを聞くものでもないだろう。
 その時、可奈美は。
 ハルトのことを、全く知らないな、ということを思い出した。
 結局、彼は出された砂糖を淹れることなく、ラビットハウスを出ていった。



「あ、ハルトさん」

 可奈美は片付けをしながら、帰ってきた同居人へ笑顔を見せる。

「おかえりなさい」
「ただいま~」
「結構遅かったね」
「ああ。ちょっと甘兎庵に行ってた。買ったのはもうコネクトで送ってあるから」
「甘兎庵かあ……紗夜さんは元気?」
「ああ。結構馴染んでた……いや、あれは馴染みすぎてたかな」

 ハルトはどこか遠い目をする。

「私、先月くらいにも甘兎庵に行ってみたけど、あそこって紗夜さん大丈夫なのかな? 紗夜さんみたいな真面目な性格だと結構苦労するんじゃないかなって思ったんだけど」
「あー……うん。昨日までの俺も、同じこと考えてたよ」
「?」

 可奈美が首を傾げる。
 だが、そんな可奈美の思考は、別の声によって遮られた。

「おっ! 可奈美だ! お久お久~!」

 ハルトの後ろから、元気な挨拶が聞こえてきた。
 青いボブカットの、可奈美と同じくらいの年の少女。彼女はハルトを通り越して店内に入る。

「……アンタ……」
「……」

 そして、ほむら。
 彼女はコーヒーを口にしながら、優雅な恰好でさやかを見つめていた。

「美樹さやか……まさか貴女がここに来るとは思わなかったわ」
「そりゃこっちのセリフだよ転校生! 結構洒落た喫茶店に入り浸るんだね」

 それ以上、二人の間に会話はなかった。
 ほむらも静かにコーヒーを飲み、さやかも大股でカウンター席に座る。

「うっしゃあ! 今日はハルさんの奢り! 右から左まで全部頼もうか!」
「え? ハルトさん、何かあったの?」

 可奈美が驚いた目線をハルトに投げかける。
 ハルトはげんなりしながら説明した。

「甘兎庵でたかられたんだよ。……気にしないで。俺が出すから」

 ハルトはそう言って、可奈美と入れ替わりでホールに入る。

「さてと。えっと……」

 ハルトは手で、豆が入った容器を取る。

「何がいい?」
「一番高い奴で」
「オッケー。一番安い奴ね」
「ちょっとォ!」

 さやかの悲鳴を無視して、ハルトはラビットハウスのオリジナルブレンドを淹れる。
 普段と変わらないコーヒーと、さらにサンドイッチをパッパッと作って皿に乗せる。

「……はい。ランチセット。試験お疲れ様。本当に俺の奢りでいいよ」
「おおっ! ありがとハルさん! やっぱり言ってみるもんだね!」

 さやかは大喜びで手を合わせ、サンドイッチを手に取る。

「うんうん! 美味しい美味しい!」
「……」

 ニコニコ笑顔のさやかを、ハルトはぼうっと眺めていた。

「さやかちゃん、凄い食べっぷりだね……あ、そうだハルトさん」

 さやかの食事を眺めていると、可奈美はふと思い出した。

「今さっき、ハルトさんのお友達が来てたよ」
「友達? それ、可奈美ちゃんが知らない人?」

 だが、ハルトの顔は明るくなることはなかった。むしろ、首を傾げながら続けた。

「可奈美ちゃんが知らない、俺の知り合いなんて、見滝原にはいないはずだけど……?」
「え? そんなこと言われても、実際にその人ハルトさんのこと知ってたんだよ」
「……誰?」

 ハルトが、だんだん怪訝な表情になっていく。
 可奈美は脳裏に思い浮かべた、さきほどの客のことを伝えた。

「前に一度フルールドラパンで会ったことある人なんだけど……」
「その情報すら俺聞いたことないから何も言えないね」
「なんか、ずっとニコニコしている人だったよ。茶髪のウェーブヘアの男の人。挨拶が『ハロー』っていうのにはビックリしたかも」

 その情報を伝えると、ハルトの顔が、怪訝から真っ青に塗り替わっていく。
 そして。

「ハルトさん!?」

 ハルトはラビットハウスを飛び出していった。

「ど、どうしたのハルトさん!? えっと……ほむらちゃんさやかちゃん! ごゆっくり! コヒメちゃんと煉獄さん、お店あと、お願い!」
「む?」

 新人と言う立場を忘れ、可奈美は煉獄にラビットハウスを任せてハルトの後を追って店を飛び出した。
 暗雲がたちこめる春の町を、ハルトは見渡していた。

「ハルトさん、どうしたの?」
「どこだ……奴は……どこに!?」
「やっぱり、知っている人なの?」

 だが、ハルトは答えない。

「ハルトさん!」

 ハルトはそのまま、道を走っていく。
 すでにあの青年の姿はどこにもない。ハルトはただ、あてもなく走り出したのだ。

「ハルトさん! 待って!」

 幸い、ハルトよりも可奈美の方が速い。ハルトの腕を掴まえて、その動きを止める。

「どうしたのハルトさん!? いきなり取り乱すなんて、ハルトさんらしくないよ!」
「奴が……アイツが、見滝原に……!」
「アイツ?」

 だが、ハルトは答えない。
 ただ一つ。
 彼の目は、これまで見たことがないほど血走っていた。 
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