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伴装者番外編

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戦いの合間に……(IFセレナバースデー2021)

 
前書き
諸事情あり、投稿が遅れてしまいました。
今日はGX本編をお休みして、こちらを投稿します。

セレナの誕生日、今回は並行世界のイヴ姉妹の話です! 

 
とある並行世界、某国研究施設の施設内にて……。

各所から煙が上がる研究施設。その只中では、施設を護るように展開された自走機械の歩兵達と、施設を攻撃する制服姿の武装集団が交戦していた。

その施設は、表向きには次世代エネルギーの研究を行っている大企業の研究所……という事になっている。
しかし、その実態は危険な兵器を開発し、世界を脅かそうと企む悪しき陰謀の温床であった。

そして、そんな企みを阻止するべくやって来たのが制服の武装集団であり、施設を防衛している自走機械兵は施設で造られたものである。

「こちらCチームッ!押されていますッ!これ以上は持ち堪えられるかどうか……」

施設の正面で戦っている部隊の隊員が一人、必死の形相で通信機に呼びかけている。

その隣では、リーダー格と見られる男がアサルトライフルを抱えており、近付いてくる機械兵を牽制していた。

この時の為に、彼らも入念に準備を重ねてきた。
高圧電流を放つ地雷や計器を混乱させる手榴弾など、対機械用の装備で身を固め、施設の警備を集中させるための作戦も立てた。作戦通りなら、今頃別の隊が施設を挟撃している頃だろう。

しかし、正面に集まった敵の数が想定よりも多かったのだ。
多少は増えても相手できるように備えていたが、こちらは人間であちらは機械。戦いが長引けば、疲労する者が出てきてしまうのも当然だった。

「くッ、やはり戦いは数だという事か……。それでもぉぉぉッ!」
「繰り返す!こちらCチームッ!救援要請ッ!」

新たなマガジンをリロードし、なんとか時間を稼ごうとするリーダー。
瓦礫の陰に隠れ、応援を呼びかけ続ける隊員。

だが、無慈悲にも死神はすぐそこまで迫っていた。

「ッ!?嘘だろ……ッ!?」
「班長?一体何が……」

班長の見つめる先、施設の正面ゲートに目をやる隊員。
直後、彼は絶句した。

ゲートを開いて前進してきたのは、他の機械兵よりも遥かに巨大な機体だった。

四足歩行する戦車とでも言うべきその機械兵は、ゆっくりと前進しながらゲートを出ると、砲門を回転させた。

「まずい……あんなサイズ、見りゃわかる。当たれば俺たちゃ木っ端微塵の打ち上げ花火だ……」
「そ、そんな……ッ!?班長、あいつ──」
「伏せろッ!」

見れば巨大機械兵の砲身は真っ直ぐこちらへと向いており、その砲門にはバチバチと音を立てながらエネルギーがチャージされていく。

その瞬間、隊員は死を直感した。



──と、次の瞬間だった。

巨大機械兵の背後にある研究施設。その一角から轟音と共に爆煙が上がった。

立ち上る黒煙、それを彩る真っ赤な炎。そしてそれらを突き抜け、施設をから飛来する黒い影があった。

影は飛び出して2秒と経たないうちに、こちらへと接近してくる。
距離が近付くと共に、影の形がハッキリしてきた。

それは、明らかに人の形をしていた。成人男性くらいの身長をしており、全体的に厳ついシルエットだ。
同時にその外見は、全身が白と黒の二色でペイントされた金属製のアーマーで覆われていた。

両肩にはミサイルポッド、背中のアームにはガトリング砲。両腕にも厳ついキャノン砲が装備されており、両眼は爛々と光り輝いていた。

それはマッハに迫ろうかというスピードで巨大機械兵の頭上まで接近すると、手のひらから小型のミサイルのようなものを発射する。

ミサイルは巨大機械兵に命中すると、プロペラのように展開し、磁石のように吸着する。
そして巨大機械兵の全体へと、電磁パルスを発生させた。

そして一瞬の沈黙があり、巨大機械兵の砲身から閃光が消える。
まもなく巨大機械兵は、崩れ落ちるように地に伏した。

「あれは……副隊長!!」
()()()()()()()!!来てくださったんですね!!」

すると、隊員が思わず落とした通信機から声が響く。

『こちらスティールガイ。パーティー会場はここだと聞いたが?』

周囲を見回す鋼鉄の男、もといスティールガイ。
新たに現れた敵性存在に、機械兵たちはターゲットの優先順位を変更。スティールガイをロックオンすると、一斉に攻撃を集中させた。

『おいおい、パーティークラッカーは人に向けちゃいけませんって、ママに教わらなかったのか?』

機械兵達の一斉射撃を華麗に躱しながら、スティールガイは空中を飛び回る。

空中に注意が向いている間に、隊員達は撤退し、陣形を立て直していた。
班長は通信機を拾い、他の隊へと現状を報告する。

「こちらCチーム。隊長、作戦はどうなりました?」
『こちら隊長、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。作戦は完了よ。Bチームと共に施設内は制圧したわ』
「了解。これより負傷者の撤退に入ります」

Aチームからの通信は、何処か幼い少女のような声であった。
続いて班長は、機械兵達を相手しているスティールガイへと通信を繋いだ。

「ツェルト副隊長、こちらCチームリーダー」
『だーかーら、これ着てる時はスティールガイだって言ってるだろ?』
「これは失敬。スティールガイ、Cチームはこれより負傷者を撤退させます。その間、そいつらの相手をお任せしてもよろしいですか?」
『OK、余興で楽しませれば良いんだな?』
「あんまり派手なのはよしてくださいよ?寿命が縮んだら大変です」
『ハハハ。なら、魔法のステッキを使わせてもらおう』

そう言ってスティールガイが背中に腕を回すと、背中のバックパックから、折り畳まれていた電撃メイスが現れる。

電撃メイスをホームラン宣言のポーズで構えると、スティールガイ……ことジョセフ・ツェルトコーン・ルクスは、マスクの奥でニヤリと笑った。

「さぁ、パーティーの時間だッ!」

こうして、並行世界間を旅する特殊部隊『APPLE』は、今日も何処かの世界で戦っているのである。

ff

研究施設の制圧を終え、研究データは全て削除。残されていた記録なども全て処分し、首謀者は然るべき場所に突き出してきた。

そして補給を終えたAPPLEは、巨大空中戦艦エアーキャリアーで、並行世界間のゲートを通じて、その世界を旅立つのだった。

「任務完了、お疲れ様」
「お疲れ様です、隊長」

隊員達に労われながら、隊長のマリアは発令所へと入室する。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ。特殊部隊APPLEの隊長にして、ガングニールのシンフォギア装者でもある少女だ。
我々のよく知る、アガートラームを纏う彼女との一番の違いは、22歳という実年齢に反してあまりにも幼い、15歳ほどの少女にしか見えない外見だろう。

とある事情により成長出来ない呪いをかけられてしまった彼女は、呪いを解く方法を探しながら並行世界を渡り、そして世界を滅ぼしかねない脅威と戦っている。
小さくなっても中身は同じ、皆を引っ張るマリアなのだ。

「姉さん、おかえりなさい」
「ただいまセレナ」

白いマントを翻しながら入ってきた小さな隊長を、綺麗な茶髪を後頭部でポニーテールにまとめた女性が出迎える。

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。APPLEの副隊長にして、アガートラームのシンフォギア装者でもあるマリアの妹。
我々の知るセレナとの一番の違いは、20歳の女性として相応しく成長した大人の女性の外見である。

呪いをかけられ幼い姿のままになってしまった姉を元に戻すべく、副隊長として姉を支える姿は、隊員達にとっての憧れだ。
装者として戦闘を行う他、調査班の長も担っており、潜入や変装なども得意としている。

「どうでした、今回の件の首謀者」
「往生際が悪いったらありゃしなかったわ。まさか、手錠かけられたのに逃げようとするなんて……」
「それは大変でしたね……お疲れ様です」

マリアは隊長用の椅子に座ると、ふぅ……と溜息を吐いた。

そして──

『全員揃ってる?揃ってるな、よし!』

ガシャガシャと足音を鳴らして、パワードスーツを着込んだもう1人の副隊長、ツェルトが入室してきた。

「ツェルト、何でまだそれ着てるわけ?」
『いやー、ちょっと高い所に手が届かなくてさ。もっと身長が欲しいなと改めて思ったね』

そう言ってツェルトは、スティールガイのヘルメットを上げる。

がっしりとした厳ついパワードスーツの中から出てきたのは……マリアと同じ、15歳ほどの外見をした少年であった。

「戦闘用パワードスーツをそんな理由で私用しないでくれるかしら?」
「いいだろ別に~。持ち主は俺なんだし」
「よくない!!」
「まあまあ、2人とも喧嘩はダメですよ~」

マリアとツェルトの間に入り、言い合いをおさめるセレナ。
この光景も、APPLEでは日常茶飯事である。

「取り敢えず、ツェルトはスティールガイを格納庫に戻してきなさい。戻ってきたら、今回の報告会よ」
「了解、五分で戻る」

ジョセフ・ツェルトコーン・ルクス。
戦闘用パワードスーツ『スティールガイ』を装着して戦う彼もまた、マリアと共に呪いで成長を止められた少年である。

我々の知っている3人と正反対な外見であり、その精神は確かに似ている3人。
彼ら彼女らは今日もまた、帰る場所を探し旅を続けている……。

ff

「──それじゃ、今日はこれで解散ね」

事後処理を始めとした報告を終え、会議はようやく解散した。
マリアが『残しておくと危険だから』って鹵獲させた機械兵は、技術班のナツミさんが預かる事になり、これで万事解決だ。後の事はあの世界のやつらが自分で何とかするさ。

「それじゃ、俺も部屋で休ませてもらうぜ」
「あ、ちょっと待ちなさいよツェルト」

と、会議室を出ようとしたらマリアに呼び止められた。しかも、セレナの方を気にしながら手招きしている。

ああ、例の件だな。
俺は静かに彼女の方へと耳を傾けた。

(準備は進んだ?)

こっそりと耳打ちしてくるマリア。
ちょっと耳がこそばゆいんだが、今は気にしちゃいられない。セレナに怪しまれたくはないからな。

(飾り付けは終わった。皆もそろそろ配置に付き始める頃だ。あとは隊長がターゲットをお連れすれば、いつでも始められる手筈でございます)
(OK、それじゃあ準備が終わったら、端末にメッセージを送って。ミッション開始よ)
(オペレーション・パーティープロトコル、いよいよ開催ってね)

こっそり互いにグッドサインを送ると、俺たちはセレナの方をチラッと見る。

どうやら隊員の1人と話しているらしく、こちらには気づいていないようだ。

俺は先に部屋を出ると、食堂へと向かう。
食堂では、既に皆が料理を並べたり、クラッカーの配布を行っていた。

「おっ、ツェルト副隊長、お疲れ様っす~」

この黒縁メガネで黒髪ショートの、いかにも科学オタクって顔してるのがナツミ・ヒメジマ。

技術班の班長で、このエアーキャリアーを含むAPPLEの装備はほぼ全て彼女の手によるものだ。もちろん、俺のスティールガイを開発してくれたのも彼女だ。
まさに我が隊の頭脳、アベンジャーズで言えばリリ・ウィリアムズって所かな。

「ナツミさんもご苦労様。進捗は?」
「バッチリっす!予定時間までには確実に終わるっすよ」
「よし……皆、準備はいいな!!」

声を張り上げると、隊員達は手を止めてこちらに注目する。

「あと7分後、マリア隊長がターゲットを連れてくる!その前に最終確認だ!」

食堂に集まった全員を見渡して、俺は点呼を始める。

「装飾班!会場の飾り付けは?」
「たった今、完了しました!」
「サプライズ班、クラッカーの配布とくす玉の設置は?」
「くす玉は天井に設置済み。クラッカーは隊長の分を残すのみです!」
「調理班!パーティー料理とケーキの準備は?」
「既にテーブルに配置完了!ケーキはいつでもローソクに火を灯せます!」
「よしッ!!」

そして俺は、マリアの端末に合図となる暗号を送る。

(ストーン)は揃った。いつでもスナップを】

送信完了の表示を見た俺は、拳を勢いよく天井へと突き上げた。

「それじゃ、始めるぞ!!副隊長、セレナの誕生日パーティーだ!!」
『了解!!』

この場にいる全員が気持ちをひとつに、拳を掲げる。
残り時間を確認しながら、俺達は息を潜めてその時を待った。

ff

「も~、姉さんったら素直じゃないんですから~」
「しょうがないじゃない……。わたしも悪かったと思ってるわよ」

食堂へと続く廊下を歩きながら、マリアはセレナの前を歩いていく。

「ツェルト義兄さんに謝りたいから付いてきてほしい、だなんて……姉さん、いったいどんな事を言ったんですか?」
「な、なんだっていいじゃないの!でも、セレナにも付いてきてほしいの!」
「もう……姉さんったら。でも、そういう素直じゃない所も可愛いです」
「可愛いって言うな!」

プンスコするマリアの小さな背中を、微笑ましげに見守るセレナ。
事情を知らない者がからすれば、一見どちらが姉が分からなってしまうだろう。

呪いのせいで肉体が子供のままだからか、マリアとツェルトは精神的にもやや幼い。
ちょっとした事で口喧嘩したり、見え透いた意地を張ったりと、二人の言動は多感な15歳の少年少女そのものだ。

しかし、物事の捉え方や戦場における判断力、多くの隊員達に信頼されるカリスマ性など、実年齢である22歳らしい部分も存在している。
身体は子供、精神(なかみ)は大人。精神的には成熟しているが、小さな肉体に態度が引っ張られているのだ。

なので、隊員達から見れば二人の喧嘩は、犬も食わない夫婦のそれなのである。
無論、間に入ってそれを諌めるセレナの存在も含めて……。

「…………」

食堂の前で立ち止まるマリア。
しかし、食堂に入ろうとしない。

気まずいのだろうか、と察したセレナはマリアの肩に手を置く。

「姉さん、ちゃんと謝るんですよね?」
「え、ええ……。でも、セレナが先に入ってくれない……?その……気まずいから……」
「も~、仕方ないですね」

言いよどみながら目をそらすマリアに、セレナは肩を竦めながら先を行く。

セレナが食堂の入り口に立つと、自動ドアが左右にスライドし……

その瞬間、周囲の照明が一斉に落ちた。

「ッ!?停電……!?」

驚くセレナ。左右を見回すが、真っ暗で何も見ることが出来ない。

「姉さんッ!そこにいますか!いったい何が……」

マリアがいた背後を振り返ろうとしたその時──パンッ!と連続した軽い破裂音と共に、照明が一斉に点灯する。

「「セレナッ!」」
『副隊長ッ!』

『ハッピーバースデー!!』

「……えっ!?」

驚くセレナ。その顔を逃すまいと、ナツミはシャッターを切った。

「パーティープロトコル、大成功ね!」
「えっと、姉さん……これはいったい?」

困惑して目を白黒させるセレナに、マリアとツェルトは笑いながらタネを明かす。

「セレナ、忙しくて誕生日忘れてただろ?」
「だからサプライズしようって、ツェルトが企画したの」
「マリア、名女優だったぞ!」
「って事は、報告会前の喧嘩とか、気まずいから謝りたいってのは……?」
「まあ、あの時のは演技じゃないけどね……」
「会場の飾り付けするのに、身長が足りなかったんだ。大目に見てくれよ」
「しょうがないわね……今回だけよ?」

悪戯っ子の笑みと共にこちらを見上げる姉と義兄。
そして、入念に準備を重ねた完璧なサプライズ。

セレナは思わず、二人を抱きしめていた。

「ちょわっ!?セレナ!?」
「ちょっと!?いきなりどうしたのよ!?」
「マリア姉さん、ツェルト義兄さん!私……今、とっっっっっても嬉しいですッ!!」

大きな身体でぎゅう~っと抱きしめてくる妹に、マリアとツェルトは顔を見合せクスッと微笑む。

そして、セレナの頭を撫でて囁いた。

「当然よ。可愛い妹なんだもの」
「いつも小さくなった俺達の分まで、苦労させてるからな。今日くらい、いつもの2倍は甘えてくれよ」
「はいッ!今日はい~~~っぱい、甘えさせてくださいねっ!」

こうして、平行世界を渡る艦の中で、賑やかなパーティーが始まった。

別世界のマリアとツェルト、セレナもまた、あの世界で戦っている3人と同じように、大切な家族と共に幸せな誕生日を送るのだった。 
 

 
後書き
スティールガイ(綴りはSteel Guy)の元ネタは、名前を和訳するといいでしょう。
色や装備は黒い大佐の方だって?実はIFツェルト、憧れたヒーローも本編とは異なってるんですよ。右腕が無事なので。

それと、本編の扉絵が更新されました。
遂に熊さんの手により、GX編のビジュアルも完成。ありがたく使わせていただきます。

改めましてセレナ、お誕生日おめでとう!!
それと当日に完成させられなくてごめんね!! 
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