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私の中に猫がいる 完結

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2-⑷

 朝 正月休みが明けて、初めての土曜日、早坂さんに京都に行こうと誘われていた。鞍馬寺に行こうと言っていた。断る理由もなく、私は、「はい」と言ってしまったのだ。

「プチ どうする? 天狗だよ」

「止めとく いやな感じだ それに、あの男なら、すずりちゃんを危険なめに合わせないだろうし」

 三宮で朝9時に待ち合わせした。多分寒いだろうってことで、私は、スリムのジーンズにブーツとハーフのダウンコートにした。プチに見送られて、駅に向かった。振り返って、プチの姿を一枚撮った。後で、見返すと、何だか、二重に映って見えていた。

 待ち合わせ場所で、直ぐに会えて、JRで大阪に行くという。お父さんとは、違うんだと思いながら・・電車の中では、正月の間、金沢に行ってお寿司屋さんを食べ歩きしていたとか話してくれていた。

 大阪駅に着いてからは、地下鉄に乗り換えるからって、手をつないできた。私、お父さん以外、男の人と手をつないで歩くのって初めてかも・・。ごつくて、暖かい。人が多くって、独りだったら、迷っていたかも。

 鞍馬の駅に着いてからも、坂道を登って行く時も、手をつないでくれた。山門に着いて

「ケーブルあるけど、どうする? 歩いても、ゆっくりでも1時間はかからないと思うよ」

「うーん 歩きます 良いところあったら、写真撮っても、良いですか」

「もちろん良いよ ちょっと、道がジメジメしてるかもわからないけどね すずりさんが天狗に連れ去られないように、しっかり、手をつないでおくよ」

「やだー 私、天狗の彼氏はお断りですよー でも写真のモデルになってもらうかも」

 早坂さんは、笑いながら手を握り直して「じゃ 行こう」と言って、登り始めた。途中、所々で道端に雪が残っていた。ちょこちょこ写真を撮っていたもんだから、本殿に着いた時には、本当に1時間かかっていた。

「ねぇ 早坂さん 天狗さんって、結局、毘沙門天のこと?」

「うーん 単純には言えないよね 最初の頃は、天狗って魔物扱いだったからね 毘沙門天が天狗をやっつけてる絵も残されているからな それは、カラス天狗のことかも知れない 山伏が修行して大天狗になったとか 山伏は仏教の教えと、ちょっと違ったんだ そのうち、大天狗は人々を守る存在になって、魔物から守る毘沙門天と結びついたのかも」

「複雑ですね よく、わかんないです 早坂さん、詳しいですね」

「そーでもないけどね もう一つ、昔、ここに外国人が住み着いて、ふもとの人がそれを見かけて、鼻が高いし顔も赤みがかっていて髪の毛の色も違うから、それを見て天狗と言ったのだという説もある。そうすると、牛若丸は外国人から色々と教わったわけだ」

「ヘェー わかった だから、牛若丸って女の人みたいな恰好してたんだ みんなに女の子として育てられたんだわ だって、山伏も男の人ばっかでしょ」

「それは、意味深だね 飛躍しすぎじゃぁない?」

 私、変なこと言ってしまったと、後悔して、多分、顔を紅くしていたんだと思う。帰り道は下り坂で、私、何回か滑りそうになって、早坂さんの腕に掴まっていた。

「早坂さん 帰りはケーブルで良い?」

「そうだね 転んで、泥だらけになっちゃぁ大変だからね」

 下りてきて、お昼をだいぶ過ぎていたが、河原町で天ぷら屋さんに行きたいので、その前に、何か少し食べようってなって、私は、ぜんざいを選んだ。

「早坂さんって、大学の時、どこに住んでいたんですか?」

「出町柳の近くでね 酒屋の倉庫の2階に住まわせてもらっていたんだ 殆ど、自炊はしてないけどね」

「えー 不健康そう」

「うん でもね 昼は学食で安いし、ガッツリだったし、配達先でも色々お世話になったしね」

 その後、河原町に行って天ぷら屋で食事をして出た後、

「もう、少し入るかい? 軽く、餃子とビールを飲みたいな」

「いいですよ 行きたいところあるんですか」

「うん 大学の時、先輩に連れられて、それから、魅せられてね」

 お店に入ると、早坂さんはさっさと2階に上がって行った。窓からは川が見えて、寒いだろうに、その川側を歩いているカップルとか川に向かって座ってるグループなんかが居た。もう、私、お腹いっぱいだったけど、皮が薄くて、なんだか食べれちゃった。ビールも・・

 ちょっと、浮かれていた。ちょっと陽が落ちて、暗くなりかけていた。私から

「鴨川歩きたい」と、言って誘ったら、私の手をつないでくれて、川に下りていってくれた。だけど、私、後ろから腕を組んでいったら、手を握りしめてくれて

「寒くない?」

「ううん 少し、酔っているし、こうやっていると温かい みんなもこうやっているもんね」

「すずりさんとこんな風に歩けるなんて、夢のようだよ とにかく、君は僕にとって、天使のようなもんだよ」

 私、早坂さんに近づいてきたのかも・・

 




 
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