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おっちょこちょいのかよちゃん

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142 偽物は不具合を起こす

 
前書き
《前回》
 かよ子達が異世界での最初の夜に宴を楽しんでいる途中、三木首相は赤軍の監視の中で記者会見を行う事を余儀なくされていた。しかし、それを振り切って首相は会見で憲法9条の改正の拒否を宣言。詰め寄る政治委員の吉村と足立だったが、イマヌエルの介入で二人は失神させられ首相は事なきを得る。そして宴が終わった後、フローレンスは奏子から藤木の失踪の情報を聞き、藤木の好きな女子の名前が笹山かず子という事を記憶するのだった!! 

 
 大広間にフローレンスが戻って来た。
「皆様、就寝の準備ができました。それぞれのお名前が扉に掛かれておりますのでご自分の部屋を確認しましてお休みください。部屋はこチラの廊下を出まして右手の階段を昇って1階上の場所、部屋は個室となっております。個人情報の心配はございませんのでご安心ください」
 人間達はフローレンスによって案内された部屋へと向かった。
「お母さんとは別々か・・・」
「あら、寂しいの?普段から一人で寝てるじゃない」
「う、うん、そうだよね。おやすみ」
「おやすみ」
 かよ子は母と別れた。
「かよちゃん、おやすみっ!」
「また明日な!」
「うん・・・!!」
 かよ子はりえやすみ子、ブー太郎や冬田などといった友達と別れて行く。三河口達などの高校生やさりなどの大人ともおやすみの挨拶をする。そしてかよ子にはある男子への挨拶を試みる。
「す、杉山君・・・!!」
「何だよ?」
「お、おやすみ・・・」
「ああ・・・」
 杉山は素っ気なく反応して部屋に行った。
(杉山君・・・)
 かよ子はこの世界に来てからあまり人と話すのを避けている状態の杉山が気が気でなかった。

 かよ子は部屋に入った。シャワー室も、トイレも、洗面所も完備されており、ベッドやテレビなども揃っていた。そしてベッドの上にはパジャマも用意されており、宿と同等かそれ以上のもてなしにかよ子は驚いた。かよ子はは入浴を済ませ、ベッドに入った。
(明日から戦いは始まる・・・)
 かよ子は杖を見る。母・まき子が子供の頃、戦後の苦しみを乗り越えるのに貢献し、娘である自分に引き継がれ、これで杖を狙う戦争主義の異世界の人間や赤軍を返り討ちにしてきた。
(この杖があれば・・・。ここでの戦いを終わらせて、また私達にも元の日常が戻るのかな?いや、そうしないと駄目なんだよね?)
 かよ子は思い出す。四月の終わりのあの異変を。そこから異世界の人間が攻め、赤軍が日本を戦争への道へ再び進ませようとしている事を。そして日常は失われる。今、杉山は大野と喧嘩した事で完全に心を閉ざし、野良犬から自分を見捨てた件で藤木は笹山から嫌われたどころか、クラス全員から嫌われ者となり、笹山を始め皆と決別をする為に異世界へ失踪、そして赤軍と自分達が戦うと同様にこの世界でも平和を正義とする世界と戦争を正義とする世界がいがみ合い続ける。この二つの戦いは関連が深く、戦争を正義とする世界を滅すれば赤軍は日本の交戦権を復活させるに協力できる相手がいなくなる。その利害の一致により、自分達が異世界での戦いに参加する事は避けられない事だとかよ子は自覚した。
(絶対におっちょこちょいしないよ・・・。藤木君を取り返し、この戦いに必ず勝って、杉山君と大野君を仲直りさせて、元の日常を取り戻すもん・・・!!)
 かよ子はそう誓ってベッドに入った。

 房子と丸岡はレバノンの本拠地へ戻って来た。
「総長!」
 和光と西川が出迎えた。本部内には赤軍のみならず東京で連続企業爆破事件を実行した東アジア反日武装戦線の面子もいた。
「皆、政府との取引に成功したわ。これが杯、護符、そして杖よ」
「これで向こうの世界に渡れば、『向こうの世界』の人達に有利に働きますし、戦争の大切さを日本どころか全世界に伝えられますね」
「ええ、今から持って行くわよ」
 皆は異世界への入口に向かい、その地を通り抜けた。
「レーニン様」
「貴様ら、来たか」
「約束通りにこの三つの道具を手に入れる事ができました。それにあの手紙を出してからこれらの所有者は使用した形跡がないので政府に送った事に間違いありません」
「そうか、遂に手に入れたか。それならば我々の願いも遂に叶う。あの忌々しい奴等との戦いもこれで終わりになる」
「そして私達の計画も成功に近づきます。お互いにとっても利点が大きい」
 一同はレーニンに率いられとある一室に入った。
「ここは・・・!!」
 房子を始めとする赤軍の一同もこの部屋に入るのは初めてだった。部屋の中には巨大なストーブのように見える機械があり、その一角には異世界の剣が既にその場にあった。レーニンはおそらくそこでこの剣を強化していたのかと房子は予想した。
「さあ、護符、杖、杯を置くのだ」
「畏まりました」
 房子は護符を、丸岡が杯を、そして日高が杖を機械の置き場に置いた。
「起動するぞ。これで我が世界を強化できる。そして私が嘗ていた世界、つまり貴様らがいた世界でも貴様らの理想通りの世になる。起動するぞ!」
 レーニンは機械を起動した。機械がビビビとなって光り出した。
「遂に来るのね・・・。私達の理想の世界が創られる時が・・・」
 その時、機械の光が一瞬消えた。
「・・・え?」
 皆が唖然とした。そして機械が縦に、そして横にガタガタ震えた。
「何だ、この不自然な動きは?重信房子、この道具は本当に本物の護符、杖、杯なのか!?」
「はい、偽物のようには見えませんでした」
(やっぱり偽物なの・・・!?)
 房子はレーニンに献上する前から怪しんでいたが、騙された事に政府に怒りが込み上がった。その時、どこからか声が聞こえた。
「君達の計画は既にこちらにはバレている」
「この声は!?誰なの?」
 房子は聞いたが、声の主は返事をせずにテープレコーダーのようにそのまま話を続けた。
「君達が政府から渡された杖、護符、そして杯は偽物だ。そしてここで君達がこれらを理想を実現する為の道具として使う時にこれが偽物と判明する仕組みとなっている。その偽物は君達の計画を狂わせ、そこの世界の人間も弱体化していく仕組みとなっている。今そこにある剣は本物の為、弱体化は不完全だが、剣もいずれ取り返す。首を洗って待つがいい。そして『戦争正義の世界』の主よ、この偽物が起こした不具合で君の身体は上手く動けなくなり、能力も使えなくなるだろう。そして改めてこちらも宣戦布告する。味方となる人々をこっちの世界にも呼び寄せた。剣を返すと共に奪われた地域を平和主義の世界へ返しに、そして藤木茂君を元の世界に戻しにね」
 声は話し終わった。
「う、うわあああ・・・」
 レーニンは身体が麻痺して動けなくなった。
「こ、こんなの・・・。皆、偽物を早く機械から取り除きなさい」
「はい!」
 丸岡、日高、奥平が偽物の道具を取り除いた。しかし、糊で粘ついたように杖も、護符も、杯も離れなかった。
「総長、離れません!」
「何ですって!?修、矛盾術を使うのよ!」
「了解!」
 修は外れない偽物の道具が外れるという矛盾を仕掛けた。しかし、効果はなかった。
「総長、駄目です、外れません!」
「ええ!?」
 反則級ともいえる丸岡の能力でも通用しないとは驚きである。
「あの機械を借りてやりなさい!」
「はい」
 丸岡は見聞・武装・威圧の能力(ちから)を出す機械を借りた。しかし、それでも道具は外れなかった。
「どうして・・・」
 房子は敵の策にハメられて焦燥した。
「か、体が動かぬ・・・」
「レーニン様!しっかりしてください!!」
「ダメだ・・・。私自身では上手く身体が動かせん・・・。どうか、私の代行で動ける者が必要だ・・・」
「代行で動ける者?どういう意味ですか?」
「誰かを私の身体に取り入れ、私の代わりとして動いて貰うのだ。誰か、頼む・・・」
「誰か、やってくれる人いない?」
 房子は仲間に助けを求めた。しかし、誰も名乗り出なかった。
「どうやら他の人を呼ばなければならないわね・・・。そういえばこの世界にも私達の世界から平和主義の世界の味方に付いて戦っている人がいると聞いたわ。強引に引き抜いてレーニン様の代行として取り付くしかないわね・・・」
 房子は自分達もこの世界の戦いに参加しなければならないと察した。
「こうなったら・・・」
 房子はトランシーバーを出した。実は政治委員の足立と吉村には連絡が取れるように二人に能力を出す機械ともう一つ、持たせていたのである。
「正生、和江、道具は偽物だったわ。首相に繋ぎなさい」
 しかし、応答はない。
「正生!!和江!!どうしたの!?」
 房子はもう一度二人を呼んだ。しかし、足立の声も吉村の声も聞こえなかった。 
 

 
後書き
次回は・・・
「機械の攻略法」
 「この世界」に戻って来た森の石松は親分や子分仲間との再会に喜ぶ。そして異世界の一日目の朝を迎えたかよ子達はその場で朝食を楽しみ、フローレンスとイマヌエルから注意する点の説明が始まる・・・!! 
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