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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第83話:悪夢の芽吹き

 
前書き
どうも、黒井です。

今回より不穏が加速していきます。 

 
 その日、奏は何時も通りの時間に起きて家を出て、二課仮設本部の潜水艦へと向かった。空を見上げれば天気はどんよりと曇っていて、見ていて憂鬱になる。

 そんな気持ちを振り払って本部の発令所に入ると、既にいつものメンバーが集まっていた。

「よぉ、奏。一番遅かったな?」
「うるさいな。響、気分はどうだ?」
「大丈夫です! 今日も元気一杯です!」

 あんな事があったばかりだと言うのに、今日も変わらぬ元気の響に奏は安堵の表情になる。そんな彼女に、颯人が手にコーヒーの入ったカップを差し出す。

「ほれ、朝の一杯」
「ん、サンキュ」

 奏は差し出されたカップを取ろうと手を伸ばした。あと少しでその手がカップを掴みそうになったその時――――――

 カップが颯人の手から滑り落ち、床にコーヒーをぶちまけた。

「――――え?」
「うわっと!? おいおい颯人、何やって――――」

 自分の手からカップが滑り落ちた事に颯人が呆ける前で、奏はコーヒーが掛かりそうになった事に文句を言う。
 だがその表情は次の瞬間凍り付いた。突然颯人が体を押さえてその場に崩れ落ちたのだ。

「あ、ぐっ!? ぐぁっ!?」
「は、颯人?」
「颯人さん?」

「うぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁっ!? あがっ!? ぐぅぅぅぅっ?!」

 苦痛の悲鳴を上げその場でのたうち回る颯人に、奏達はただ事ではないと彼に駆け寄り声を掛けた。

「颯人ッ!? おい颯人、どうした!? しっかりしろ!?」
「藤尭! 医務室に連絡を取れ!?」
「はい!」

 苦しむ颯人に、弦十郎が彼を医務室に連れて行こうとする。朔也に指示を出し、自分は颯人を抱えようと彼に手を伸ばす。

 だが颯人は伸ばされた手を物凄い力で振り払った。弦十郎の手を振り払いながら立ち上がった彼の体には、あちこちに紫色の罅が入っている。
 それが何を意味しているか、頭では無く心で理解した奏は顔から血の気が引いた。

「は、颯人ッ!?」

 颯人に手を伸ばす奏。颯人の方も全身を罅割れさせながら、奏に必死に、縋る様に手を伸ばしていた。

「カ、カナ……デ…………」

 助けを求める様に伸ばされる颯人の手を掴もうする奏。

 あと少しで奏の手が颯人の手に届きそうになった…………その瞬間、彼の体は弾け、脱皮するかのように中から異形の怪物が姿を現した。

「ガァァァァァァァッ!!」

 産声の様に雄叫びを上げる颯人から生まれたファントム。

 その光景に奏は、雄叫びに負けない程の絶叫を上げた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?――――」









「――――ぁぁぁぁッ!?」

 朝日が差し込む部屋で、奏は跳び起きた。全身嫌な汗でびっしょり濡れ、前髪が額に貼り付いている。

「はぁっ!? はぁっ!?…………クソッ!? なんて夢だよ……」

 奏は髪をかき上げ、悪態を吐きながらベッドから出て浴室へと向かった。下着まで汗でぐっしょり濡れて気持ち悪い。

 乱暴に寝間着と下着を脱ぎ捨て、浴室で頭からシャワーを浴びる。

 熱いシャワーが汗を流していくのを見下ろしながら、奏は先程の夢の事を考えた。何であんな夢を見たのか。

 恐らくそれは、昨夜の戦闘後の事が関係しているだろう――――――




***






 戦闘後、意識を失った響は大急ぎで仮設本部の医務室へと搬送された。仮設本部の発令所で、戦闘の様子をモニターしていた了子が大急ぎでそうするように手配したのだ。
 響に外傷は既に無かったが、先程の暴走の事で精密に検査する必要があると了子が急がせた。

 颯人達は響と共に帰還し、弦十郎への報告を終えた後医務室の前で待っていた。
 報告が終わってもまだ治療室から出てこない響に、誰も何も言わず医務室の前で待っている。

 どれ程そうしていたか。徐に医務室の扉が開き了子と、何時の間に居たのかアルドが出てきた。2人が出てくると、アルドが居た事への疑問も他所に了子に質問が殺到した。

「了子さん!?」
「立花の容態は?」
「皆さん落ち着いてください。そんなに一度に質問されては櫻井主任も答えられません」

 了子に詰め寄る装者達を、アルドが前に出て宥める。
 一同がとりあえず落ち着いた頃を見計らって、了子が口を開いた。

「とりあえず、響ちゃんは今すぐには命に別状は無いわ」

 命に別状は無い――その言葉に装者達は一瞬安堵したが、颯人は直ぐにその言葉に隠された不穏に気付いた。

「今すぐに……って事は、近い将来か長い目で見るとやばいって事か?」
「流石に颯人君は勘が鋭いわね」

 そのやり取りに全員がハッとなって颯人と了子を見比べる。

 一気に不安そうな顔になった一同に、了子は数枚のレントゲン写真を見せた。

「これが今の響ちゃんのレントゲン写真よ」
「これが響の……」
「しかし、これは……」

 その場の全員が険しい顔でレントゲン写真を見ていた。

 響の物だと言うレントゲン写真には、人の体の輪郭の中に木の根の様な物が張り巡らされているのが映っていた。その中心にあるのは心臓…………それを見て奏の顔から血の気が引いた。

 そこにあるのは間違いなく、響の体内に残ったガングニールの欠片なのだ。
 つまり――――――

「まさか――――!?」
「そう。この根っこの様な物は聖遺物。響ちゃんと融合し、彼女の体内を侵食しているものよ。もし、このまま響ちゃんが戦い続ければ……」
「響は……響はどうなるんだよ!? なぁ了子さん!?」

 縋る様に了子に詰め寄る奏を、颯人と翼が宥める。そんな彼女に、了子は心底言い辛そうに顔を歪めつつ残酷な真実を告げた。

「…………恐らく、と言うか確実に……死ぬ事になるでしょうね」

『ッ!?!?』

 了子の言葉にその場に居た全員に衝撃が走った。取り分け、奏の顔に浮かんだ絶望の色は濃い。仕方ないだろう。彼女にとって、その原因は他ならぬ自分にあるとしか思えなかったのだから。

 足から力が抜け、酔っ払ったようにふら付いて壁に手をつく奏を颯人が支える。

「そんな……響……響が…………」
「奏……」

 こればっかりは颯人にも何も言えなかった。奏の所為ではないと言うのは簡単だ。だがあの場で響をノイズから守ろうとしたのは奏であり、響が負傷したのは奏の力が及ばなかったからなのも事実。少なくとも奏にとってはそれが真実であり、全ての責任は自分にあると言うのが彼女の認識だった。

 故に、了子の口から知らされた事実は奏の心を大きく抉った。

 責任感と罪悪感に押し潰されそうになり、その場に崩れ落ちそうな奏に痛ましい目を向けた颯人は何か解決策が無いのかとアルドに訊ねた。この場に彼女が居るという事は、彼女にも何か力に慣れることがあったのだろう。それに賭けた。

「何か……何か方法は無いのかよ?」
「……一個だけ方法があります。『神獣鏡(シェンショウジン)』と言う聖遺物には聖遺物の力を分解する能力があります。これを使えば、響さんの体を傷付ける事無くガングニールだけを除去する事も……」
「ただ二課はそれを所持していないわ。どこにあるのかも、今は謎よ」

 つまり響を救う事は実質不可能であるという事。その事実に颯人も辛そうに顔を顰める。装者達の顔には絶望が浮かび、奏に至っては今度こそその場に崩れ落ちた。床に膝をつき、涙を流して力無く床を殴り付ける。

「ち……く、しょう……チクショウッ!? ゴメン、響……ゴメン――!?」

 己の無力さを悔やみ、只管響に謝罪の言葉を告げる奏。颯人はそんな彼女の肩に優しく手を掛ける事しか出来ず、他の者達も見ている事しか出来なかった。




***




 自分の所為で響の身に命の危険が迫っている。それは同時に、奏の為に命を懸けた颯人の姿が重なり彼が抱えている爆弾の事を考えさせるのに十分であった。

――響はアタシのガングニールの欠片の所為で体を蝕まれて……颯人はアタシが戦う時の負担の所為で体がボロボロになって《《ファントムになる危険が増してる》》――

 グレムリン――ソラと出会った時の事を忘れている筈の奏であったが、颯人の身に迫っている危機に関しては心に鮮明に刻まれていた。

 自分の所為で、自分の大切な者達が命の危機に晒されている。その事実に奏は心に深い影を落としていた。

「これじゃあアタシ……ただの疫病神じゃないか――――!?」

 無力どころか厄介者でしかない自分の存在に、奏は強い自己嫌悪に陥り浴室の壁を思いっきり殴り付けた。

 浴室に響くシャワーの音。その音に、奏のすすり泣く声が混じるがそれを聞く者は彼女以外に誰も居なかった。




***




 一方、カ・ディンギル址地では1人の白いコートを着た男性が息も絶え絶えになりながら歩いていた。ウェル博士である。響から逃げ、一晩中逃げ続けていたウェル博士は、ソロモンの杖を支えに覚束ない足取りで歩いていた。
 当ても無く逃げ回った所為でソーサラーとも完全に逸れ、逃げ続けた結果何時の間にか元居た場所に戻ってきていた。

 その姿はみすぼらしいの一言であり、先日までの威厳など何処にもない。

 挙句の果てには斜面で足を滑らせ転げ落ちた。

「はッ!? わぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 間抜けな悲鳴を上げながら転がり落ちたウェル博士は、それでも大きな怪我も無かったのでよろよろと力無く立ち上がり、落ちる途中で落としたソロモンの杖を拾おうと手を伸ばした。

 その時、彼の視界にある物が映った。

「ああッ! これは――!!」

 そこにあったのは昨夜の戦闘で暴走した響により引き抜かれた、ネフィリムの心臓だった。体から引き抜かれて尚、不気味に赤く点滅するそれを見てウェル博士の顔に狂ったような笑みが浮かぶ。

「ひひ、きひひひ――! こんなところにあったのかぁ……。ネフィリムの、心臓ッ!! ひひ、これさえあれば、英雄だぁ――!!」

 ネフィリムの心臓を左手に抱え、右手でソロモンの杖を改めて拾い上げ握り直した。

 そしてウェル博士は再びその場を歩き出す。

 狂気はまだ、終わってはいなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第83話でした。

グレムリンの仕込みが芽吹いて来ました。さぁこれから段々奏が曇っていきますよ。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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