| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第109話 難楼 後編

冥琳と稟、風だけを軍議の会場に残し、降伏した烏桓族への食料の配給方法を決めました。

「冥琳、代郡の大人(たいじん)巣厳(そうげん)に我が軍の糧食を預けるので、彼に上谷郡の烏桓族の面倒を見るように頼んでくれ。それと糧食が不正に扱われぬように監察役は稟に頼みたい。頼めるか?」

私は稟を見ました。

私の思惑に気づいた様子で彼女は快く頷きました。

「何故、巣厳に大切な糧食を渡す必要があるのですか?」

冥琳は私の考えが気に入らないのか憮然とした表情をしました。

「私の援助といっては上谷郡の烏桓族が嫌悪するかもしれない。部族が違うとはいえ、同族からの援助とあれば受け入れ易いだろう」

「そのようなことは分かっています。正宗様が烏桓族のためにそのような気遣いをされているのでしょう。しかし、そこまでしてやる言われはございません。上谷郡の烏桓族への援助は正宗様の御名の元に行うべきです。あなた様の援助を拒否するなら、それで飢え死にしたとしても自業自得ではありませんか?」

冥琳は私を真っ直ぐ射抜くような視線で見ました。

「冥琳、彼らは私に全面降伏を強いられた。そうさせた張本人である私を恨んでいる者もいるだろう。その一部の者が声を上げ、私の援助を拒否しろと意固地に騒ぐのは目に見えている。私はそれで援助を必要とする者達が飢えに苦しむのは私の本意でない」

私は冥琳の視線を反らさず真っ直ぐに見ました。

「それならば尚のことです。そのような者は飢えれば善いのです。自分の立場を弁えず、正宗様に叛意を持つ者は処断すればよいではありませんか」

「それではいままでと一緒だ。やられたからやり返す。誰かがその流れを変えねばならない。私に恩を感じずともいい。将来、烏桓族が幽州の民となってくれれば。私に反発する者達の声等、一時的なものでしかない。彼らに衣食住を保証し、彼らが自立を手助けすれば落ち着くはず。安定した生活を得れば、それを失うなど人にはできない。そうなれば反発する者が出ようと誰も相手になどしない」

私は冥琳を説得するために知恵を振り絞りながら話しました。

冥琳は私の発言を黙って聞き、最後に溜息を一つつきました。

「正宗様、仕様がないですね。いいでしょう。その方針に私は従いましょう。上谷郡の烏桓族は漢人に比べれば少数派です。彼らには幽州で永らく放棄された未耕作地を与えましょう。それでは足りないでしょうから、環境の影響を考慮に入れながら、耕作地となり得る未開拓地を探してやりましょう。その辺りは稟と風で強力して、あたってくれないか?」

冥琳は微笑んで今後の方針を提案してくれました。

「お任せください」

「お任せなのです~」

「ありがとう」

「いえいえ、正宗様の熱意に負けただけです。あなた様の願いが叶い、烏桓族が幽州の民となる日が来るとよろしいですね。ですが、その願いがどれだけ大変なことか心して置いてください。途中に投げ出すことが無きように」

冥琳は私を厳しい表情で見ました。

その表情は私に中途半端なことは許さないと想いが感じ取れました。

「ああ、投げ出すことはない」

私は自分の意思を再確認するように言いました。

「ならば、もう私が言うことは何もありません。正宗様、懸案の難楼を呼びましょう」

冥琳は気分切り替えるように衛兵に声を掛け、難楼をここに連れて来るように命令しました。

私は瑛千((無臣))をこの面談に同席させようと思いました。

「冥琳、その場には瑛千((無臣))も同席させてくれ。1人くらい同胞がいた方が気持ちも落ち着くだろう」

私達だけより同胞がいた方がいいでしょう。

ただ、瑛千が上谷郡の烏桓族の討伐に成果を上げたこともあり、逆効果かもしれません。

そもそも、難楼の立場で胸襟を開き、私と話をするなど無理でしょう。

彼女は過去、大人(たいじん)であっても、今はただの奴隷でしかありません。

私が対等に会話を行おうと思っても、それは結局は強者の押しつけにしかないです。

しないよりましでしょう。

「瑛千は討伐軍の急先鋒ですので恨みこそあれ、共感はないのではありませんか?」

冥琳は憂慮するような表情をしました。

「それでも私達漢人のみに囲まれるより気が楽だろう?」

私は冥琳に瑛千を難楼との面談に同席させるように促しました。

「畏まりました。瑛千をこの場に呼びます」

「頼む」

冥琳は陣幕を後にしました。





あれから四半時もしないうちに難楼は衛兵に囲まれ、手足を鎖に繋がれて連れてこられました。

この場には真新しい将校の軍装に身を包んだ瑛千も同席しています。

他には冥琳、稟、風の3人がいます。

瑛千は難楼の鎖に繋がれた姿を見ても文句をいうことはありませんでした。

難楼が賊将であるという自覚はちゃんと持ってくれているでしょう。

内心はわかりませんけど。

「難楼、お前と会うのは初めてだな。私がお前達を討伐した軍の総大将、劉正礼である」

私は厳粛な態度で彼女に相対しました。

「今度の劉将軍のご寛大な裁き、助命いただいた上谷郡の烏桓族に代わり感謝いたします」

難楼は鎖で動きづらいにも関わらず頭を深々と下げ、私に感謝の言葉を言いました。

「拘束の鎖を解いてやれ」

私は控えている衛兵に命令しました。

「よろしいのですか?」

冥琳が私に困惑した表情で言いました。

「構わない。難楼もここで問題を起こす気などないだろう。そんなことをすればどうなるかは承知しているはず。私は彼女と会話をするために呼んだ。だから、現時点で拘束は不要」

私が難楼の鎖を外すように促すと、冥琳は溜息をつき衛兵に命令しました。

難楼は私の行為に少し警戒感を抱いたような表情をしました。

別に他意はないです。

彼女が辛そうだったので鎖を解いただけです。

それに彼女が仮に毒を塗った短剣で私を襲ったとしても体に傷を負わせることなどできないです。

鎖を解かれた難楼はしばらく鎖で拘束した部位をさすっていました。

彼女の手首がかなり痛々しいですね。

「痛むのか?」

彼女が手首が痛いのは分かっていましたが敢えて聞きました。

「いえ、この程度大丈夫です」

難楼は私を真っ直ぐに見て応えました。

真近で難楼を見ましたが本当に美人なのですね。

彼女の顔は均整が取れ、特徴的な赤い髪は後ろで一つに纏め、体に目をやると無駄な肉のなさそうなスレンダー体型をしています。

「ごほん」

冥琳が私に向けて咳払いをしました。

すいません。

難楼に見とれていました。

「え~と、そのなんだ・・・・・・。私は今回、お前より献上された女性より1名を側室として娶ろうと思っている」

冥琳のキツい視線から目を反らし、難楼に本題を告げました。

「3名です」

冥琳が私に独り言のように小さい声で呟きました。

「冥琳、言わなくても分かっている。上谷郡の烏桓族の女性より1名。後の2人は別の部族より娶る」

私は冥琳の方を疲れた表情で見ました。

「そうでございますか」

冥琳はそれだけ言うとそれ以上何も言いませんでした。



「私は上谷郡の烏桓族より娶る女性は難楼、お前にしようと考えている」

私は気を取り直して、難楼を真っ直ぐに見ました。

彼女は少し驚いた表情をしましたが、直ぐに平静を装っていました。

ですが、彼女の表情は平静を装いつつも強張っているのがわかります。

覚悟はあっても、それが現実となれば動揺してしまうのはしょうがありません。

「お前以外の今度、私へ献上された女性は家族の元に返すなり、お前の侍女にするなりしても構わない。ただ、侍女にするにせよ全員を面倒見てやることはできない。大半の者は家族の元に帰って貰う」

私はまず自分の希望を告げました。

流石に女性千人の生活の面倒を見ることは金銭的に難しいです。

彼女達は私にとって、望むべくして献上されたんじゃありません。

10人の女性だって必要なかったです。

上谷郡の烏桓族の虐殺を回避するために行った処置です。

折を見て彼女達を返すはずが、いつの間にか彼女達の中から側室を貰う羽目になっています。

でも、彼女達が身の立つようにある程度の援助はしてあげようと考えています。

「その上でお前に問いたい。難楼、お前は私を殺すつもりでいるか?」

ここまで話して「私を殺す」など言わないでしょう。

自分だけが人身御供になることで他の者達が救われるのです。

ですが、彼女の返答内容で彼女を信頼するか否かを決めるつもりです。

だからこそ、私だけでなく冥琳達を同席させました。

どうせまともな真意など確認することなど望める訳がありません。

ならば、信用できるか否かだけでも感じ取れればいいです。

彼女の態度で彼女への対応を考えます。

彼女がどのような者であれ、上谷郡の烏桓族達への待遇に影響がでないよう配慮するつもりです。

「私が劉将軍に刃を向けるなど滅相もございません。あなた様の我らへのご厚情感謝いたします。難楼は謹んで劉将軍の側室のお話をお受けいたします」

難楼は躊躇することなく、私に平伏して感謝の意を述べました。

彼女の腹づもりはよく分かりました。

風の見立て通りだったようです。

まあ、本心はいろいろと葛藤しているでしょうが、私への叛意は今のところないと見ていいでしょう。

「お前の本心は良く分かった」

私は冥琳達に視線を移すと彼女達は首を軽く縦に振りました。

彼女達も私と同じ考えのようです。

「劉将軍にお願いがございます」

難楼は平伏したまま私に願いがあると言ってきました。

「願いとは何だ?」

「今度、劉将軍に献上した女は既に戻る家は捨てる決意でおります。どうか劉将軍の元で庇護してくださいますようよろしくお願いいたします。それが叶わぬと仰るのならば、彼女達に戻れと申されるなら、彼女達の命をお取りください」

難楼は頭を地に擦り付け、私に衝撃的なことを言ってきました。

私の中にある予感が去来しました。

あの女性達は兵士でないでしょうか?

私の近辺に近づき、折を見て反乱をするつもりでは?

この世界では男より女の方が有能な人材を排出しています。

疑念に捕われた私は冥琳達を見ると、冥琳が口を開きました。

「難楼、献上された女達の存念など我らには関係ない。死を望むというなら、勝手に死ねばいい」

冥琳は難楼に高圧的な物言いをしました。

献上された女性達にそんな真似をされたら、凄く困るのは私です。

どんな風聞が立つかわかりません。

折角築きかけた烏桓族との関係にヒビが入ります。

難楼とて彼女達を殺すことは本意でないでしょうが、彼女達が決死隊ならば話が変わってきます。

ただ、朝廷の重臣である私を殺せば彼らは間違い無く皆殺しになるでしょう。

確かに私を亡き者にすれば、幽州での官吏の動きは足並みが乱れ、その混乱に乗じて烏桓族が反乱を起こすことは可能です。

冥琳の場合、彼女達が解放後にどう行動するか把握はできませんが、彼女達が死を覚悟している者ばかりでないと思っているのでしょう。

「劉将軍、彼女達は家族を捨てここに参ったのです。お願いでございます。彼女達を哀れむお気持ちが少しでもおありなら、どうかご慈悲を賜りたく存じます」

難楼は顔を上げるや必死の表情で、冥琳の言葉など無視して私に訴えてきました。

「難楼、お前の願いを聞き届けてやることはできない。私にとって彼女達の献上の話は本意でなかった。お前達を虐殺しようと考える諸候の考えを抑えるために急場の策として行った結果でしかない。最悪の結果を回避した今、無責任なようだが彼女達のことは私の預かり知らぬこと。だが、私は彼女達が立ち行くうように援助することはやぶさかでない。それに、上谷郡の大守には私の配下が着任する。お前達を悪いようにしないので安心してくれ」

私は重苦しい気持ちを叱咤して、彼女に厳しい言葉を告げました。

いずれにせよ彼女達には私の元を去って貰うのが肝要です。

「劉将軍、お願いでございます。この私はどうなっても構いませぬ。どうか、どうか、お慈悲をお与えください」

難楼は私に頭を擦りつけ、ひたすら訴えました。

どうしたものか・・・・・・。

「くどいぞ。下郎の分際で正宗様に直訴するなど、貴様の行為は恐れ多いことと分からぬか!」

冥琳は難楼の態度に腹を立てたように怒鳴りつけましたが、難楼は訴えを止めようとしませんでした。

ここまで卑屈になってまで、彼女達の庇護を求めるとは本当に彼女達は一般人ではないでしょうか。

これも演技かもしれませんが、もし、そうなら大したものです。

「正宗様、よろしいですか」

先程までずっと黙していた瑛千が口を開きました。

「献上された女達の件はこの私にご一任してくださいませんか?」

瑛千は私に片膝をつき拱手をして言いました。

「司馬のお前の扶持では彼女達全てを面倒みるなど大変だろう」

「先程、正宗様は彼女達が身の立つ様に援助して下さると仰りました。あなた様にご援助いただけるなら、私の扶持でもできないことはないと思います。それとも先ほどの言葉は方便でございますか」

援助してやるのは本気でしたが、彼女達に土地を与え自発的に生活をして貰うつもりでした。

だから、当面の食料は援助してやるつもりでした。

彼女の元に身を寄せるとなると生産性は皆無でしょうし、費用も高くつくような気がします。

彼女達の身辺警護の意味なら、彼女は適任と思います。

悩みます。

「瑛千、お前は何を勝手なことを言っている!」

冥琳は瑛千に怒鳴りました。

「彼女達をお前の元に身を寄せれば、私の援助は捨扶持となる。それは公平でない。私の援助する大元は民が汗水を流して、納めたものだ。援助するならば、彼女達の自立を促し、受けた援助を少しずつでも返していくのが筋だと思う。そのことは考えているのだろうな」

私は瑛千の考えについて詰問しました。

「分かっております。ですが、彼女達を放逐しては彼らは外敵から守る者達がございません。女だけの村など襲ってくれと言わんばかりです。まず、私の元に保護し、その上で正宗様のお知恵をお借りして、彼女達が身の立つようになさる方がきっと将来のために善い結果を生むと考えます」

瑛千の言葉は正しいです。

私と冥琳は厄介払いをすることばかりに気を取られました。

「お前の案では援助の額が莫大になるではないか? そうなれば、彼女達が返すことなど叶わぬぞ」

冥琳は瑛千の案に不満を言いました。

援助の額がかなり割高になるのは否めません。

「彼女達の代で返すつもりなどありません。彼女達の子、孫の代で返せばよいかと存じます。それでも返せぬなら、その先の代で返せばよいと存じます」

「くっ、それは空証文も同じではないか!」

冥琳は厳しい表情で瑛千を睨みつけました。

「冥琳様、空証文となるかわかりません。彼女達を放逐し野垂れ死にして烏桓族の心証を害すよりましと存じます。冥琳様は彼女達が正宗様の側にいることで正宗様が女色に耽る愚人であると風聞が立つことを危惧なされているのでしょう。それはこの私が預かることで解決すると思います。正宗様は漢人、烏桓族など関係ないと仰りました。同じ土地に住まうなら、民に変わりない。正宗様のご英断が必ず、将来の漢人と烏桓族の間の垣根を無くす礎になると思います。この私に司馬の官位を下さった時のお言葉は偽りであったのですか」

瑛千は真剣な表情で私を見つめました。

「そうだな。お前の言う通りだ。私の望む将来を実現するならば、彼女達を見捨てるのは愚かなことだ」

「正宗様!」

冥琳の言葉は無視し、瑛千に頷きました。

「瑛千、お前の望むようにしろ。お前の役宅では全ての者の面倒を見るのは大変だろう。後でそのことも含め相談しよう」

私は瑛千に優しい表情で応えました。

「正宗様、ありがとうございます」

「冥琳、そんなに怒るな。費用は私の所領から幾ばくか捻出するので心配するな」

私は冥琳に金の心配をするなと言うように彼女の顔を見ました。

「私費で庇護されると仰るのですか?」

「ああ、馬鹿なことかもしれないが、私にはこうするのが性に合っている。難楼、これで良いか?」

私は冥琳に呟くように言うと、難楼の方を向き言いました。

「劉将軍、ありがとうございます!」

難楼は顔を上げることなく、ただただ平伏したまま頭を地につけ感謝していました。

彼女はこれから冀州で軟禁生活を送って貰うことになるでしょう。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧