| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

CROSS MY PALM

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                CROSS MY PALM
 賄賂を贈る、私には縁のないことだと思っていた。
 学生時代もそうで就職してからもだ、ごく普通のOLの私に賄賂なんて全く縁がないものだと思っていた。
 それで世の中の収賄の話を聞いても他の世界の話だった。
「まあ私にはね」
「無縁っていうのね」
「ええ、お給料貰って」
 同期の娘にもこう返した。
「それでね」
「それは自分のお金で」
「私の為に使うもので」
 生活費なり遊興費なりにだ、貯金もしている。
「それ以外はね」
「これといってなのね」
「使うことはないわ」
「まあ普通に生きていたらね」
 同期の娘も私にこう言ってきた、二人で一緒に会社の中の喫茶コーナーで休憩を摂りながら話している。
「あんまりね」
「ないわよね」
「最近政治家でも五月蠅いし」
 賄賂の話はだ。
「そうしたお話は私達にはね」
「本当に無縁よね」
「人間真っ当に生きていたら」
 それならだ。
「賄賂とはね」
「無縁よね」
「そうでしょ、真面目に生きることがね」
「一番よね」
「ええ、それがね」 
 まさにとだ、同期の娘は私に言って私も頷いた。世の中にちらほら聞く賄賂の話なんて私達普通の人間には無縁だと思っていた。
 だがそんなある日だ、課長が私達を飲み会それも結構高級な焼き肉屋さんに連れて行って私達に言ってきた。
「もう今日は無礼講でだ」
「飲んで食べてですか」
「そうしていいんですか」
「どんどんやってくれ」
 こう私達に言ってきた。
「部長が接待費で落としてくれたしな」
「あの、ここ結構いいお店ですけれど」
「今時接待費でここまでって」
「凄くないですか?」
「何かあったんですか?」
「もうすぐ決算期だろ」
 課長は私達にこう言ってきた。
「だからこれから頑張ってもらう為にな」
「その為にですか」
「これはですか」
「元気付けですか」
「ああ、賄賂と思ってくれ」
 課長は笑って私達に言ってきた。
「だからな」
「今夜はですか」
「どんどん飲んでいいですか」
「それで食べても」
「ああ、遠慮しないでくれ」
 こう言って私達にお肉にお酒を楽しませてくれた、そして次の日から残業までして私達は決算期に備えて働いた。
 こうしたこともあった、そして。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧