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Fate/WizarDragonknight

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聖夜の狩り

「だあくそ! 響のやつ、どこ行った!?」

 

 クリスマスの夜は人で混む。

 そんな当たり前のことを、コウスケは完全に失念していた。

 それも、天使の降臨などという珍事もあったのだから、混雑する人々を切り抜けることなど多田コウスケには難しい。

 

「響! こういう時のために格安スマホ持たしてんのに……!」

 

 すでに通算十数回目の通話にも応じない。この時響が結芽と戦っていたなどと、コウスケは夢にも思わなかった。

 

「ついでにどこもかしこもアベック(リア充)ばっかだし!」

「ちょっとアンタ」

「何だ!?」

 

 いきなり声をかけられて、コウスケは思わず大声を上げた。

 振り向くと、高校生くらいの女の子がいきなりぐいと顔を近づけてきた。

 カチューシャが特徴の少女。しかも可愛い顔なので、少しコウスケもドキドキしてしまった。

 

「な、なんだよ?」

「アンタ、さっきの天使見たでしょ? ねえねえ、どこに行ったか知らないかしら?」

「知らねえよ」

 

 すると、少女は心底詰まらなさそうにため息をついた。

 

「はあ。結局これか……今日も収穫なしね……いつの間にかあの天使いなくなっちゃうし……」

「おい、お前あの天使を追ってんのか?」

「ええ、そうよ!」

 

 少女はクルッと回転し、ウインクする。

 

「あんなの、面白いじゃない! ここ最近、見滝原は訳の分からないことばかり起こっているわ。これはきっとこれからも、すごいことが起こり続けるのよ!」

「……すごいこと?」

「中学校が変な空間になったり、アマゾンとかいう危険な生物が現れたり。そして今度はクリスマスに天使よ天使! このつまらない日常が、どんどん変わっていく! きっとどこかに宇宙人未来人超能力者がいても不思議じゃないわ!」

「……」

 

 コウスケの口は、無意識にもへの字になっていた。

 

「お前、少しは……」

 

 コウスケが声を荒げようとした時。少女の肩に、何者かがぶつかる。

 

「あいたっ!」

 

 バランスを崩した少女。その肩を掴み、(その拍子で胸に腕が当たってしまったが彼女は気にする様子もない)コウスケはぶつかった人物を見る。

 

「……」

 

 こちらには一目もくれない青年。雪のように白い髪と、現代ではまずお目にかかれない民族衣装、そして何より特徴的な赤い目の人物だった。

 

「お前……!」

 

 その人影を目にしたコウスケは、少女を放って走り出す。

 

「あ、ちょっと!」

 

 抗議する少女の声を無視して、コウスケは彼の後を追いかける。

 

「おい待て! ソロ!」

 

 クリスマスの大賑わいの中のコウスケの声。だがそれは、ソロにはどうやら届いたようだった。

 彼の視線が、一瞬コウスケを捉える。

 刹那、足を止めてくれるかとコウスケも思ったが、ソロはペースを落とすことなく歩み続けた。

 

「お、おい!」

 

 やがて彼は、クリスマスの光あふれる街道より、暗い裏路地へ入っていく。普段人も寄り付かないような狭い通路で、コウスケは叫んだ。

 

「おい!」

 

 コウスケが叫ぶと、彼は少しだけ振り向いた。

 その血と見紛うほどの赤い瞳は、コウスケを捉えると、その足を止めた。

 

「キサマ……ビーストか」

「そういうお前は、ブライ……だろ?」

 

 息を整えたコウスケは言った。

 すると、ブライ___その正体、ソロは静かに顔をこちらに向けた。

 

「キサマ……どこでその名を?」

「先にこっちの質問に答えてからだ」

 

 コウスケはソロの言葉に言いかぶさった。

 

「お前、そのブライの……ムーの力、どこで手に入れた? オーパーツのことも、どこで知った? それに……」

 

 それは、コウスケが一番知りたかったことだった。

 

「お前、一体何者なんだ!?」

「……」

 

 だが、ソロは言葉を返さない。

 静かに、ポケットより古代の電子端末を取り出した。

 

「お前……やる気か!?」

 

 肯定するように、端末より、胸の紋章と同じ紋様が浮かび上がる。

 紫色のそれは、彼の四方を包むように数を増やしていく。やがて紫の光とともに、ひと際大きな紋章が出現する。

 最後に両手を広げたソロは、宣言したのだ。

 

「……電波変換……!」

 

 やがて、紫の光はバラバラに霧散する。

 真っ白な雪景色に現れた、黒と紫の戦士。

 その名も。ブライ。

 

 ブライはそのまま、その紫の右手に光を集めだす。

 

「お、おいおいおい! この狭いところでその技使うのかよ!」

 

 コウスケが静止するのも聞かず、ブライの拳より紫の光が握りこぶしの形で飛び出す。

 それは裏路地を破壊し、建物をも削っていく。

 だが、その爆炎の中。コウスケは、自らが手に入れた異能の力をすでに発動させていた。

 

『L I O N ライオン』

 

「少しは会話しやがれ!」

 

 ダイスサーベルを持ちながら、魔法使い、ビーストはブライへ斬りかかった。

 ブライは紫の拳より剣を取り出し、ダイスサーベルを防ぐ。

 

「おい、お前がオレの質問に答えりゃ、お前の質問にも返してやるっつってんだろ!」

「なぜ敵であるキサマと会話する必要がある?」

「そりゃある意味ごもっとも!」

『バッファ ゴー バッバ ババババッファー』

 

 ビーストの右肩に、闘牛のマントが装備された。赤い力を宿すそれが、拮抗する鍔迫り合いを大きく変えていく。

 

「うおらぁ!?」

 

 バランスが崩れ、ビーストが倒れる。

 力勝負での敗北を認めたブライが、即座にビーストを受け流すことを選択したが故だった。

 隙だらけになってしまったビースト。すでにブライは、踏み込んでビーストを切り上げた。

 

「ぐぉっ! だったら……!」

 

 ビーストは宙に放られながら、指輪を入れ替える。

 

『ファルコ ゴー ファ ファ ファ ファルコ』

 

 牛のマントが、隼のものと入れ替わる。オレンジの風を纏うそれは、ヒットアンドアウェイの要領でブライに攻撃を加えていく。

 

「力づくでも会話させてやるぜ!」

『ゴー キックストライク ミックス ファルコ』

 

 オレンジの風を纏わせた蹴り。それは、上空からブライへ真っすぐ滑っていく。

 ビーストの技に対し、ブライはその剣を大きく振る。

 やがて、オレンジと紫は狭い路地裏で激突した。

 人のいない建物を風と光が引き裂き、街灯をへし曲げていく。

 大爆発の中、ビーストとブライはダメージによって変身を解除してしまう。

 だが、それぞれダイスサーベルと剣を持ったまま、コウスケとソロは互いの喉元に突き付けていた。

 

「……なあ、ここは引き分けってことで、互いの知りたがってること、教え合わねえか?」

「……」

 

 ソロはギロリとコウスケを睨んだ。だが、彼の眼差しに臆することなく、コウスケは「どうなんだよ?」と尋ねた。

 

「……ふん」

 

 ソロは鼻を鳴らし、剣を手放した。紫の煙と化して消滅したそれを見届け、コウスケもダイスサーベルを下ろした。

 

「キサマから言え。ブライという名、誰から聞いた?」

「ああ? キャスターだ。ほら、この前の銀髪のねーちゃん」

「……」

 

 ソロは顔色一つ動かさない。左目からその頬に刻まれた赤い紋様に落ちた雪が解けていくのがはっきりと見えた。

 

「おら。質問には答えてやったんだ。てめえもこっちの問いに答えるのが筋ってもんだろ?」

 

 その言葉に、ソロは表情を少しも変えなかった。たとえ彼の顔がお面だったとしても驚かないだろう。

 

「俺にも聞かせろよ」

 

 突如聞こえてきたその声に、コウスケとソロは口を閉じた。

 いつの間に来たのか、路地の入口には青い宇宙人が寄りかかっていた。

 

「てめえは、バングレイ!」

 

 六つ目の怪物、バングレイは、その黄色の目でコウスケとソロを吟味する。

 

「メリークリスマス! こんなめでてえ日に何男二人でこんな辛気臭えとこにいんだ? もっと外でバリ喚き散らそうぜ?」

 

 バングレイはゆったりとしたペースで路地裏に入ってくる。

 戦いによって少し傷付いた周囲の建物に、バングレイは鎌でさらに傷を増やしていく。

 

「あー……お前か」

 

 バングレイは、どこからか取り出した手のひらサイズの機械をソロへ掲げて呟いた。

 

「お前、オーパーツ。持ってんだろ?」

「「!」」

 

 バングレイの言葉に、コウスケとソロは身構える。

 すると、バングレイの六つの目が「やはりな」とニヤリと歪んだ。

 

「コイツはいい! 地球から俺へのクリスマスプレゼントだ!」

 

 バングレイは鎌をパンパンと叩く。

 

「お前、ブライって奴だろ? ムーの番犬」

「……」

 

 ソロの雰囲気に、憤怒の感情が含まれた。

 コウスケは、横目でソロを見つめながら、ビーストの指輪を再び装着した。

 

「おい、順番待ちだ。オレが今話しを聞いているんだからよ、少し待て」

「バリ! お断りだぜ。待つより奪う主義なんだよ、俺は!」

 

 そう言い切り、バングレイはコウスケへ左手の鎌を振り下ろしてきた。コウスケとソロは同時にバックステップでそれを避け、街道に出る。

 

「なあああああああああクソっ! これじゃキャスターの情報漏れ損じゃねえか! へん~しん!」

「ふん……電波変換!」

 

 同時に、ビーストとブライへ変身。その様子を見て、バングレイは喜びながら裏路地より出てきた。

 

「いいねえ……! 三つ目のオーパーツの狩りの時間だ!」

「……消えろ」

 

 ブライは、地面に拳を叩きつけた。

 紫の衝撃波が発生、地面を伝いながらバングレイへ向かう。だが、「バリッ!」と地面を斬り裂いたバングレイには届くことはなかった。

 

「ブライの力、見せてみろ!」

 

 バングレイはバリブレイドを持ち、鎌と二刀流でブライへ斬りかかった。

 ブライも紫の拳に手を触れ、無より剣を創出する。その剣技で、バングレイと応戦した。

 

「お、おい!」

 

 二人の戦いは、クリスマスの街をお構いなしに展開していく。クリスマスツリーはバングレイの鎌に切り倒され、イルミネーションはブライの無数の拳に破壊されていく。

 

「ああもう!」

 

 エンジェルの出現で唖然とした人々は、急に避難などできない。二人の攻撃の流れ弾が人々に当たらないよう、ビーストはダイスサーベルを回転させた。

 

『4 ファルコ セイバーストライク』

 

 ダイスサーベルから、四体の隼が出現。ブライとバングレイの流れ弾と相殺していく。

 さらに、転んだ女性を助け起こし、「早く逃げろ!」と促す。

 

「てめえらも、戦うなら他所でやれ!」

 

 周囲に人はいなくなった。

 ビーストはダイスサーベルで、バングレイとブライを止めようと動き出した。

 だが。

 

「うるせえ!」

 

 バングレイはバリブレイドを投影。キリキリと回るそれをしゃがんで避けた瞬間。バングレイの接近を許してしまった。

 

「お前の記憶、もらうぜ!」

 

 バングレイがビーストの頭を掴み、離す。そのタイミングで、ブーメランのように帰ってきたバリブレイドがビーストの体を引き裂いた。

 

「お前はコイツと遊んでな!」

 

 バングレイがそう言いながら手を翳すと、青い粒子とともにかつてビーストが倒したファントムが現れた。

 

「邪魔すんじゃねえ!」

 

 取っ組み合ううちに、ビーストはブライとバングレイの戦いから引き離されてしまう。

 だが。

 

「ディバインバスター」

 

 突如聞こえてきた女性の声。桃色の光の柱が、ファントムを跡形もなく粉塵に帰した。

 

「お、きゃ、キャスター!」

 

 雪の夜空に浮遊する、黒い衣服の女性。四枚の羽根が、まるで天使のよう。

 キャスターが、バングレイを睨み、そしてブライを見下ろした。

 

「ブライ。貴方のオーパーツを、いただく」

「キサマ……ムーを汚す愚か者……! ムーの誇りにかけて、キサマのオーパーツを返してもらおう」

 

 ブライはバングレイを蹴り飛ばし、その剣をキャスターへ向ける。

 

 それを見たバングレイは、大笑いした。

 

「いいねえいいねえ! バリ、面白れぇ! 狩りの最中にもう一匹来やがった!」

 

 バングレイは、先ほどの機械をキャスターにも向ける。

 

「お前も、オーパーツ持ってんだな!? この星、本当に最高だぜ! クリスマス、最高だぜ!」

 

 喜びの声とともに、バングレイは。

 その手の機械___オーパーツ発見機___を握りつぶした。

 それを見下ろすキャスターは、すぐさま行動に映っていた。

 

「消えなさい」

 

 キャスターの手元に、無数の黒い矢が現れる。雪に匹敵する量のそれは、ビースト、ブライ、バングレイを容赦なく付け狙う。

 

「危ねえ!」

『ドルフィン ゴー ド ド ド ドルフィン』

 

 ビーストは、大急ぎで紫の指輪を、ビーストドライバーの右側のソケットに差し込む。現れた魔法陣が右肩にイルカの装飾を付けさせた。

 水生生物であるイルカの魔法。それは、治癒魔法だけではなく、固形物の中の遊泳能力も授けてくれた。

 ビーストはアスファルトへ飛び込む。あたかも石灰でできた地面は、液体だったかのように飛沫を上げながらビーストの入水を受け入れた。

 その後、天から無数の矢が一帯に降り注ぐ。

 

「っ!」

「バリっ!」

 

 退避手段を持たないブライとバングレイは、完全に回避する手段はない。それぞれの得物で矢を打ち落とすが、打ち漏らした矢は、確実に体にダメージを与えていった。

 地上に戻ったビーストは、それを見て冷や汗をかく。

 

「ふえ……おっかねえ」

 

 さらに、空中のキャスターの攻撃は続く。

 無数の黒い光線が、彼女の腕より放たれる。クリスマスの街を塗りつぶすそれは、綺麗な舗装道路を瞬時にむき出しの地表に塗り替えていく。

 

「くそがあ! テメエ、空中からとか、俺に狩られる気あんのか!?」

 

 光線を避けながら、バングレイが怒声を飛ばす。

 だが、キャスターは彼を見下ろし、冷たく吐き捨てた。

 

「あるわけがない。外宇宙の者。消えなさい」

「ふざけんなよ? この世は全て、俺に狩られるためにあんだよ! テメエみてえなクソアマが……!」

 

 だが、無情にもバングレイにはキャスターへ対抗する手段はない。

 やがてバングレイは「仕方ねえ」と毒づく。

 

「オラァ! 令呪! 使ってやるよ! 来いよエンジェル! 今すぐ! 大至急! このクソアマをぶちのめして、オーパーツを奪いやがれ!」

 

 すると、バングレイの右手に輝きが宿る。

 

「令呪だと……!?」

 

 ビーストは驚きの声を浮かべた。

 令呪。聖杯戦争における、サーヴァントへの絶対命令権。わずか三回しか使えず、全てを使い果たしてしまえば、サーヴァント及び聖杯との繋がりさえも切れてしまうもの。

 そうしている間に、バングレイの手に刻まれた紋様は、その一部の姿を消した。

 それはつまり。命令実行ということ。

 

 雪に混じって、降ってきた白い羽根。

 

「マスターよ。命令に応じ、来てやったぞ」

 

 遥か上空。雪雲を斬り裂き降臨した天使エンジェル。

彼は空中で静止し、同じ目線のキャスターを睨む。

 

「マスターよ。この女を倒せばいいのだな?」

 

 エンジェルは、キャスターをじっと睨む。四枚の白い翼を広げた彼は、肩をぽきぽきと鳴らした。

 それを見て、バングレイは「バリ」と鼻を鳴らした。

 

「どこにいたんだ? 世間はお前の話題で持ち切りだぜ?」

「何。少しウィザードと遊んでいただけだ。愚かな奴は、私を倒したと思っているのだろうがな」

 

 エンジェルは剣を持ちながら言った。

 バングレイは「そうかよ」と頷き。

 

「ああ! そいつからオーパーツを奪い取れ!」

「承知した」

 

 白い翼と黒い翼。

 二人の天使が、クリスマスの夜空で激突。

 

「さあ、こっちも狩りの続きといこうぜ!」

 

 そして地上では、宇宙人の狩人(バングレイ)がビースト、ブライへ攻め入った。 
 

 
後書き
ほむら「まどか!」
まどか「ほむらちゃん!? メリークリスマスだね。どうしたの?」
ほむら「……家に、いるのよね?」
まどか「だってもうこんな時間だよ? さっきまではラビットハウスでパーティしてたけど……」
ほむら「そう……よかった……」
まどか「あ、待って! よかったら、送るよ?」
ほむら「必要ないわ。……そうね。今夜は、クリスマスだったわね」
まどか「ほむらちゃん?」
ほむら「何でもないわ。今日は、もう家から出ないのよね?」
まどか「うん……そうだけど……」
ほむら「そう。ならいいわ。メリークリスマス。まどか」
まどか「え? うん。あ、帰っちゃった……」 
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