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同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~

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【著名な戦闘】ヴァンフリート4=2防衛戦
  【著名な戦闘】ヴァンフリート4=2防衛戦(3)~最高評議会VS同盟弁務官団~

 
前書き
「宇宙軍陸戦隊と地上軍の違いは明確である。陸戦隊は女に突っ込んで討ち死にする、地上軍は結婚し墓場へ連れていかれる」

「Q士官学校勧誘で配るキャリアプランのレジュメを見ると地上軍はとても分厚い、なぜか?
A宇宙軍人は統合作戦本部長になって政治家になるという一つの選択肢しかない。だが我々地上軍人は構成邦軍のインストラクターになるからなんと100倍もの選択肢があるからだ!」

(自由惑星同盟ミリタリージョーク集より) 

 
 【民主主義の縦深】の役員たちが集まっている事を確認すると代表世話役のサウリュス・ロムスキーが口を開いた。
「やぁ諸君、首脳会議は無事に終わったね、次は僕たちの番だ」
 温和な笑みを浮かべたこの老人は【交戦星域】医療界の利益代表にして復興行政の専門家として構成邦を超えた知名度を誇る押しも押されぬ名士である。
 世話役のリヴォフが力強くうなずいた。宇宙軍の艦隊兵站の現場を取り仕切ってきた強面の”輸送屋”である
「あぁ、ありがてぇ!【交戦星域】首脳会議の決議が出たなら俺たちも団結して動ける、これならサンフォードの重いケツを蹴っ飛ばすのにちょうどいいぜ!」
「本国が良い仕事をしたのであれば我々もよい仕事をするべきだろうな」
 ハルラス弁務官はゆったりと頷く。高齢であり次の選挙では退任することを表明している。財界上がりであり交戦星域の産業復興の為に長く奔走してきた“古き良き”パランティアの政治家であり、その経済通の駆け引きから国会対策委員長を長く務めている。
 いいか、これからの予定を確認するぜ、とリヴォフは役員たちに視線を向ける
「ヴァンフリートの弁務官陣はもう三人とも議長官邸に向かう、俺とロムスキー代表とアリシア幹事で議長公邸に攻め込むつもりだ。アンドム政調会長には――」
 白髪頭の老人がにこりと笑った。
「あぁ彼らには私が話すよ、私の”弁務官”の最後の仕事になるだろう」
 ヴァンフリートのアンドム弁務官は老練な軍官僚上がりの弁務官である。すで二十年の曲がり角まであと一歩といったところである、年齢はリヴォフとさして変わらぬ70を越した老人である。大過なく4期もの任期を全うし、ハルラスと同じくヴァンフリートの最先任同盟弁務官として評判を守り抜いたまま政治家として表舞台から退ける果報者になるはずであった。
だがそこに想定外の大仕事が下りてきたのである。
「祖国の大事だ、ここに私がいたことを誇りに思うよ。まさか総会以外で”3人が揃う”事態が起きるとは」
 同じ邦の弁務官は会期中でない限りは基本的によほどのことがない限り顔を合わせない。不仲ではなく同盟の政治問題、利害関係は複雑怪奇かつ広大な人類社会のあちこちに噴出しており同盟弁務官は(出馬を決定するまでの過程において各種支持団体や構成邦政府の意向も強く受けるが)個人の得手不得手を問わず各分野の委員会に分散することが多い、逆に言えば3名全員がそろうということは――たいそうな大事なのである。

「国防委員会事務総局の要路には事前に流しておいた、向こうでも情勢は固めている筈だ、うまくやってきてくれ」
 アンドム引退後の次期政調会長の座が内定している政策通、リッツ事務局長が頷く。
「弁務官各会派の動きは私が探る、本当はアリシア君にも来てもらいたいが」
 ロムスキーはすまんね、と片手をあげた。
「トリューニヒトとやりあうなら共和党員のアリシア君がいたほうがいいのでね」
 アリシアは頭を下げた。下院議員の経験もあり政調会次席兼国防部長として【縦深】と官界との窓口になっている。
「サンフォード議長初の戦争指導です、リヴォフ世話役のおっしゃる通り“ケツを蹴っ飛ばして差し上げる”べきです」
 アリシアの言い草に役員たちはにやりと笑った。
 現地政府が動いたのであればそれを忠実に執行させるのが弁務官の役割である、彼らはヴァンフリートのみならず第六次イゼルローン作戦への障害を断固として粉砕しなければならないのだ。



そして最高評議会議長官邸”オパール・ビル”にリヴォフ達【民主主義の縦深】役員団は“招かれ”ている。

「構成邦軍を同盟地上軍予備役軍として動員せよ、か」
 サンフォードは同盟弁務官達が差し出した【首脳会議】の要望書に目を通し頷いた。
 ロイヤル・サンフォード、自由惑星同盟有数の商品作物の産地であるシロン共和国を地盤とする政治家だ。
その長い政治キャリアのけして短くない期間地方政界に費やした男である。
 現在、最高の顕職、同盟最高評議会議長に就任した割に同盟政界において顕職を務めてきたと素人目に見ることは難しいだろう。
国民共和党の政務調査会農政部議長から始まり議員団総会副幹事長、国務委員会副委員長、政務調査会長、そして念願の地域社会開発委員長として最高評議会の席を勝ち取った次は党全国委員会副議長兼全国組織部委員長となった。
 要するに党の裏方を長く務めてきたということである。“政策通というよりも政界通”、“政務ではなく党務の男”などと評され、最高評議会議長になるよりも党全国委員長にでもなってシロンの弁務官か下院議長あたりに遇された後は余生を過ごすのだろうと周囲は考えていた。 リヴォフも当選の知らせに際し気の毒な奴だ、と内心呟いていた。
 外見がそうした評判を強めているのではないか、ともリヴォフは思っていた。
 サンフォードは国家元首というよりも、定年前の十数年を辺境への単身赴任に送り出された中間管理職止まりの勤め人といったような覇気のない男であった。
「羨ましいことだ、【交戦星域】の首脳部はフットワークが軽い。いや、そうせざるを得ないからそうなったのかな。諸君らはどう思うかね」
 だが彼は田舎役場の出張所長ではなく自由惑星同盟の最高評議会議長である。部下は錚々たる面子となるのは自然なことである。

「【交戦星域】には伝統がある、闘争と生存で築き上げたられた、ね」
 とのんびりとした声で答えるのはウィリアム・カーティス国務委員長、構成邦間の調停・調整から同盟政府全体の行政管理や選挙の執行、対フェザーンを通じて帝国との裏交渉までこなす巨大な官庁を牛耳る男である。同時に副議長(副元首)の座を担い、同盟弁務官総会議長を兼務する。同盟弁務官の首席、同盟政界最古参の古狸だ。

「国防委員会としても【交戦星域】の手際の良さには驚くことも学ぶべきことも多いですな――厳しい指摘も数多くいただきますがゆえ」
 国防行政を司る政権の花形、国民共和党の新風と注目され、称賛も批判もサンフォードの数十倍浴びせられているヨブ・トリューニヒト国防委員長。

「――イゼルローン要塞の奪取は同盟の悲願であります、現状の問題を解決するに構成邦が尽力をするのであれば”適切な形で”協力せねばなりませぬな」
 自由党党首にして財政金融を握るジョアン・レベロ財務委員長、【交戦星域】の天敵にして同盟民生物価の守護天使である。

「はい、そして本日はあくまで首脳会議の声明と弁務官方の提案に対する調整会議です。
国家安全保障小委員会(S N S)において承認が必要であることはお忘れなく」
 そして三党連立政権の調整を行う苦労人にして最高評議会評議会事務総局を司る “政権の番頭”サダノリ・マクドノー最高評議会書記。

「昨年の”ロボス演習計画”が11月に終了してから再び私掠艦隊が増大しています。
つまり――イゼルローン要塞は機能を取り戻したとみるのが妥当かと」
サンフォードの側近として保守派のトリューニヒトとリベラル派のシトレの仲介を行い、議長安全保障補佐官パヴェル・カントロヴィチ。最高評議会議員の一部で構成される国家安全保障小委員会( S N S )の運営を担当する統計学者であり対帝国OSINTの重鎮でもある。

「軍の現場を知るものはみな、【交戦星域】の住民たちを頼りにしております、庇護の対象ではありますが同時に頼れる友人でもある。まさに民衆共和制の在り方でしょう」
 にこやかに語るのはただ一人軍服を纏っている黒人の男、シドニー・シトレ統合作戦本部長だ。最高評議会議長の保持する国軍統帥権の権能を輔弼する中枢の面々である。

「我々は――」
 ヴァンフリート民主共和国同盟弁務官、アンドムは最高評議会の面々を相手にしてもゆったりとした口調を崩さずない。
「我々は世辞も論争も求めていない、求めているのは祖国の安全に対する保障だ。その場しのぎではなく今後とも同盟領への侵攻を打破しうる保障だ。ヴァンフリート人民の元帥たるモハメド・カイレとその政府の代議者として、そしてとして私は真正なる保証を求める」

「アスターテの弁務官として俺も同意する」
「ティアマト民国の弁務官として同様に、我々にとっても悲願の時は近いのです」
 本土を失ったアスターテのリヴォフとティアマトのアリシアも同調した。
「エル・ファシルは――」
 サウリュス・ロムスキー弁務官は温和な笑顔を浮かべたままだ。
「――二度と侵されてはならない、そして帝国軍の侵攻に対し、我々は運命共同体である、それだけは断言する」

 サンフォードはぎこちなく――本人は重々しく、のつもりかもしれないがリヴォフ達にはそう見えた――頷いた。
「トリューニヒト国防委員長,君はどう思う」

「国防委員会としては首脳会議の要請を重く受け止めつつ構成邦軍の動員には反対します、手間はかかりますがより堅実な手段として同盟地上軍部隊の動員を追加予算で行うべきです」

「追加予算があればできるのかね?」
  レベロが疑わし気に尋ねるとトリューニヒトは片頬を吊り上げながら弁舌をふるう。
「軍は予算の範囲でしか動けません。しかし、予算をいただければ我々の仕事は確実にこなします。委員会部局と地上軍総司令部に概算と計画を作らせました」
 シトレは一瞬、誤って唐辛子を噛んでしまったかのような顔をするがトリューニヒトは反応せず、洗練された手つきで端末を操作し、データがそれぞれの端末に表示された。

「‥‥‥データ通りにいけば問題ねぇな」
 リヴォフは顎を撫でる。
「だが本当は慣熟訓練の期間はもう少し必要だろう、寒冷地だぜ?兵器の使い方すら異なる」

「寒冷地訓練は元より積んでおります、現地でも訓練を行いながら防衛準備を整えれば問題ないと参謀たちは判断しています」

 そうかい、リヴォフは頷き、背凭れに身を預けた。

「リヴォフ弁務官のおっしゃる通りです。今から動員を始めるよりも、統合作戦本部としては、構成邦軍の動員の提案に賛成します。戦闘部隊の司令部を4=2基地に迅速に配属させ、同盟軍の生え抜きが構成邦軍と現地駐留軍の合同で訓練と組織再編を進めます」
 シトレは如才なく口をはさむ。
だが財務委員長のレベロは冷ややかな反応を返す。
「財務委員会としては反対です,必要なら現有戦力のみで対応できるのでは?わざわざ定員外の兵隊を動員し、訓練まで行う必要は感じられませんな。必要であれば派遣兵力から陸戦隊を下ろせば良い」

「宇宙軍の陸戦隊は重火力の運用経験は少ない、更に極地に近い寒冷地という特殊な環境における防衛戦に使うだと?筋が違うだろう、リヴォフ弁務官の指摘は軍隊を動かす疎かにしてはならない基本のキだよ」
 トリューニヒトはレベロの意見をわざとらしく鼻で笑った。
「必要なのは”同盟政府の”地上軍だ。構成邦軍の献身には常々敬意を抱いているが周辺国の軍を搔き集めても運用の混乱は必須だ、自身の基盤の面子にこだわって正当な運用を損ない、構成邦軍の血を流させるのは筋が違うのではないかな」
シトレはトリューニヒトにもレベロにも反論せず目を瞑り沈黙している。
「トリューニヒト国防委員長、言葉が過ぎるのではないかと」
 カントロヴィチ安全保障補佐官が神経質そうに瞼をさすりながらいった。

「レベロ財務委員長に申し上げたいが同盟の予算はどうだか知らぬが我々の身命と財産はすべてイゼルローンにより――」
 アンドム率いるヴァンフリート弁務官達がレベロに挑みかかる。レベロは丁重であるが反論の手は緩めない。堂々巡りの議論が始まった。

「“いつもの”か、面倒だな。リヴォフ、トリューニヒトの案をどう思う」
 ロムスキーはリヴォフにささやきかける。安全保障委員会においても活動しているが彼の専門は医療支援や救援物資の備蓄、調達等の方面で前線の運用については素人である。

「俺は乗りたくねぇがヴァンフリート次第だ。それに俺は運び屋であって陸戦屋じゃねぇからな……だがアイツのブレーンは陸戦と兵站屋が多い」
 トリューニヒトは宇宙軍エリートよりも自身も予備役将校として従軍した兵站畑、そして非主流派の地上軍、そして軍政背広組を重用している。
 
「統合作戦本部の統合性はあの御二人方のご機嫌次第ってことかね?」
 ロムスキーの声に苦いものが混じる。
 トリューニヒトはタカ派勢力の華型議員として大衆人気が高いが,それに反して宇宙軍主流派からは人気が低い。個別の取り込みによって派閥を作ろうとしているがけして上手くいっていない。
 まぁそれも当然かもしれない、トリューニヒトは地方駐留艦隊に優先して予算を回すことで国防予算により”子分”の面倒を見ようとしているが、バーラトや首都圏出身が多い宇宙軍将校団主流派にとっては好ましいものではない(出身地をさておいても出世の機会が少ない上に面倒極まりない構成邦議会との折衝まで行わねばならない駐留艦隊などいい迷惑であった)

「シトレと妥協した副案は流石にあると思うがよ……」
 リヴォフの視線の先にはアンドム達とやりあうレベロを冷ややかに眺めている国防委員長の姿があった。

 トリューニヒトの冷笑はレベロに向けているように見えるが実際はレベロの強い推薦を受けて統合作戦本部長の任に就いたシドニー・シトレにも同程度の強さで向いている。
 念願の国防委員長の座を射止めた途端に”相方”の人事案が自身の推薦はおろかサンフォードですらない、自由党案が採用された事で国防委員長の宇宙軍嫌いが加速したのではないか、とすら噂されている。

「シトレがレベロと組んで頑張った可能性があるならまずいわね?」
 アリシアがため息をついた。アリシアもトリューニヒトに“面倒”を見てもらったことがあるのは事実だ。
 リヴォフは思考を巡らせる、そして今必要な大目標はイゼルローンを潰すこと,そしてその為に必要なのは第六次イゼルローン作戦の中枢を担う4=2基地を守ること。
「同盟政府の常備陸軍(レギュラー・アーミー)を動かせるのは悪くねぇと思うぜ、トリューニヒトも全部通す気はねぇ、こちらへの恩売りと派閥の面子を立てる為だ、呑めるとこを呑ませつつブレーン達の面子がたてばトリューニヒトは折れる筈だ」
 トリューニヒトの軍への影響力を鑑みれば構成邦軍の動員とは地上軍”予備役軍”の動員であり、常備軍を支える地上軍将校団にとっては面白くない。とはいえ構成邦の意向を蔑ろにした場合、恨みを買うのは自分であることも理解している。
 であるからこそ常備軍の動員をタイムスケジュールに無理を入れてでも行おうとしているのである。
 しかしヴァンフリート側はそれを手放しで喜べない,なにしろ戦場になるのは4=2基地ではなく“ヴァンフリート民主共和国”であり彼らは自動車や鉄道と航空機ではなく宇宙艦隊で襲来するのだ。問題はそこである、整理すればそれだけだ。
 ロムスキーは頷くとヴァンフリートの弁務官のリーダーであるアンドムと小声で相談を始めた。

「国防委員長の意見も道理ではありますが特に【交戦星域】の構成邦軍は構成邦間の交流も多く、予備軍としての運用を想定した演習も年に一度行うのみならず、実際に同盟軍の統帥下で動く経験も多々あります、問題ないかと。
それよりも緊急の動員と遠征従軍数の増大により艦隊の到着が遅れる危険性を想定するべきです。常備兵力とはいえ遠征を企図していない部隊へ物資を手配し【交戦星域】に送り込むのは危険です」

 シトレは卒なくヴァンフリートの弁務官達に視線を送る。
「ヴァンフリートの“本土”防衛を疎かにしては本末転倒。
“自身の基盤の面子にこだわって正当な運用を損なうのは筋が違う”のです」

 トリューニヒトは鼻を鳴らし“相方”軍令のトップの宇宙軍優先を説く言葉を聞き流した。
「……だからといって4=2が陥落しても大問題だ」

「その通りです、であるからこそ同盟軍の兵站機構に頼らず各構成邦より部隊の派遣を行い,効率的な輸送が必要であります。主力は既存の計画の通り艦隊に集中すれば確実に本土を守ることが可能です」
 
 リヴォフはさてどうしたものか,と思考を巡らせる。シトレは艦隊司令長官として歴代でも優れたものの一人であるが――統合作戦本部長としては“艦隊屋”と書かれた幟を振りまわし過ぎている。
 裏に【地上で血を流すのは交戦星域の仕事だ】という【宇宙軍の常識論】が無意識にしろ受け継がれているのであれば【民主主義の縦深】としては『結果は同じであっても受け入れ難い』と言わざるをえない

「いずれにせよ、だ」
 レベロは背筋を伸ばしてよく通る声で発言する。
「同盟地上軍の予備役として同盟政府が全額持つのであれば効率的な予算運用をするべきだ。義勇軍として動くのであれば提案した政府の自己責任において予算を運用するべきだ、予算の融通は議会の賛同が必要だろう」
議会を通さぬのであれば当座は義勇軍として同盟軍に参戦するべきだ、とレベロが言う。
「自己責任だと!?国防は本来その地域の自己責任であり同盟政府は“助けてやってるんだ”。と言っているわけか?」
 ヴァンフリートの弁務官が声を荒げる
「そのような意図ではない!!無尽蔵に同盟政府が地方の動員を鵜呑みにしては財政計画と国防戦略が破綻する!!我々の統帥に置くのであれば同盟政府の合議により同盟議会と政府の責任による予算とその執行に服するべきだと言っている!!」


「レベロ君の方が道理だな」
 サンフォードは苦情を浮かべ、あまりに加熱している論争の仲介に入った。

「道理というものは幾つもあります、【交戦星域首脳会議】の提言を軽視するのも道理の一つであり、レベロ財務委員長の意見はそこから外れています」
 トリューニヒトの言葉にもサンフォードはそうだなぁ、と覇気のない返しである。 

「シトレ本部長、遅滞なく送れる常備地上軍(レギュラー・アーミー)はどの程度だね」
 シトレは眉を跳ね上げ答えた。
「さほど多くはありません、基地副司令官と警備責任者を兼務する野戦司令官の選任と参謀の増員は既に進めております、これは当然ながら問題ありません。実働戦力は1個師団規模を分散して運ぶことになるでしょう。前線に配置する部隊の動員は既存の動員計画に則りすでに動いております、追加の地上軍動員は必要な予算を追認していただいたとしても実務的に保障し辛いのが正直なところですな」
 トリューニヒトは眉をひそめる。
「宇宙軍陸戦隊と地上軍は動かし方が違います」

「えぇその通りです、宇宙軍陸戦隊と異なり地上軍は大規模部隊を大型輸送艦により輸送され、接弦戦闘などを前提としていない」
 シトレ本部長は頷く。
「であるからこそ、です。ヴァンフリートへの行動は目立ちますし、宙域内で動き回ることに向いていない。これはうまくないです」
 リヴォフも、まぁそれも道理と言えば道理か、と考えた。
大規模艦隊戦の最中に貼り付けたまま動かせない部隊を抱えたくないというのは艦隊総司令部の理屈ではあるがヴァンフリート側も理解するだろう……本土、即ちコロニー戦は最悪の選択肢でありその最中に細々とした機動ができない部隊を騒々しく運び込む場合……帝国がどのような刺激を受けるのか、というのを言外に臭わせているのだ。

 サンフォードはアンドム達ヴァンフリート弁務官団の様子を探るように観察する、
「現段階の4=2基地の兵力は」

「ヴァンフリートの地上部隊の一部と合流して2万ほど、ですがこの部隊が本土に引き揚げるのであれば予備兵として後方勤務を動員せねばならず、大いに不足しております。敵がヴァンフリート4=2基地の攻略を企図している場合は――」
 シトレは手元の電算機を叩く。
「最低限、4万の兵を、更に言えば重火力装備が必要です」

 トリューニヒトは無表情で尋ねる。
「その程度で大丈夫なのかね、数で劣ればいずれ陥落するのでは」

 いえ、と深みのある声でシトレが答えた。
「こちらは補給基地を防衛する以上、重火力を支える物資はいくらでも自弁できます。敵側は遠征舞台となる以上、そうはいきません、この時点で十数万の兵力を一定期間維持しなければならない。4=2周辺区域だけでも半個艦隊は最低限割かねばならなくなります」
 シトレの口調は先ほどまでと異なり泰然とした悟性を感じさせるものである。艦隊司令長官時代のそれであった。
「ヴァンフリート宙域は大軍の運用に向かぬ場です、比較的少数の艦隊を分割して運用する事に向きます、ヴァンフリート民主共和国の支援がある以上、こちらが優位です。恒星間機動戦力――敵の艦隊を撃退するまで持ちこたえればよいのです」


「であれば構成邦軍の動員は必要ないのではないかね」
 レベロが口をはさむとトリューニヒトは一瞬、不愉快そうな表情を浮かべた。

「戦力が過小になると早期に陥落する可能性が極めて高いです。その場合,あるいは守りきれたとしてもより多くの増援を送った場合よりも膨大な犠牲者が出ます」
 シトレは自身の政治的後ろ盾に対しそっけなく全否定した。

「議長,国防委員長として 常備地上軍(レギュラー・アーミー)の追加動員を進言します。大軍になればなるほど統制は難しくなるもの、であれば既存の整備された部隊の行動の許可を。帝国軍が地上軍をヴァンフリート4=2に送り込め数が増えれば増えるほど不利になることは統合作戦本部も認める事実です」
 シトレは淡々とサンフォードへ視線を向けて語る。
「議長、本部長として此度の【交戦星域首脳会議】の提案を受け入れるべきであると進言します」

「財務委員長としてはいずれにしても規模の縮小を求めます」

「議長、よろしいですか」

 マクドナー最高評議会書記がサンフォードに何事かを囁くとサンフォードは頷き、自身よりもさらに年上の政治業者へ視線を向けた。


「さて、それでは国務委員長、貴方の意見はどうだね。同盟弁務官からの意見であるが」

「儂かね」
 カーティス国務委員長――同盟弁務官総会の議長を兼務する老人が声を発すると弁務官らは口を閉じた。
 カーティスは弁務官達の長老でありその任期は継続してすでに四半世紀を超えている。
「そうさな――まずは第一にヴァンフリート4=2への増援は既定路線とするべきだ」

「第二にその内容であるが可及的速やかな増援の配置が必要である。常備地上軍からは重火力部隊を中心とした舞台と指揮幕僚団の派遣に限定し、1日でも早く送り込みむ。4=2の基地指揮系統を再編する」

「第三にこの段階を持って首脳会議の提言を受け入れ同盟地上軍予備軍として構成邦から動員をかける。4=2基地への派兵部隊は基地司令部の指揮下に入り,部隊輸送の指揮はセレブレッゼ基地司令官と防衛部が指揮を取る。これは帝国軍による察知の危険性を減らすためである、総合的な調整は専門家に任せるべきだ」
 縦深の面々に視線を送り、カーティスはウインクをした。
「叩き台としてはこんなところだろう、如何かな?我らが議長」

「なるほど、なるほど、どうだね?トリューニヒト国防委員長」

トリューニヒトは深く息を吸うと静かな微笑を浮かべて答えた
「ご下命とあらば、その場合は重火力部隊を優先して送ります、指揮官および幕僚の選任は地上軍総司令部と統合作戦本部と共同で進めております」

「シトレ本部長はどうだ」「ご指示とあらば、常備地上軍(レギュラー・アーミー)の能力は疑いません、適度な増援であればセレブレッゼ中将とヴァンフリートにとって必ずや力になると信じます」
 シトレは自信に満ちた顔で受け答えをする。

「財務委員長としましては過剰な出費に反対しますが、議長が必要であると判断するのであれば――」
 能う限りは、とレベロは肩をすくめて見せた。

 あぁなるほど、とリヴォフは内心舌打ちをした。ここまで“台本”の通りか!
「なるほど、それではヴァンフリートと縦深の諸賢はこれで納得していただけるかね」
 サンフォードの微笑に普段の押しの弱さはなかった。
 アンドムから目配せを受けたロムスキーはにこりと笑って答えた。
「喜ばしいことだ、“同盟軍の不足を構成邦軍が補う”のは同盟の連帯を示すにはいい機会となるでしょう。“構成邦軍が同盟全体の為に血を流す“ことになるのだから」
 サンフォードは返事をせず、立ち上がり手を差し伸べた、ロムスキーとアンドムも立ち上がり、サンフォードと握手を交わす。にこやかに、友好的にだが互いの緊迫した空気は隠しきれていなかった。
 こうして【民主主義の縦深】はひとまず大仕事の役目を終え、4時間後に正式に最高評議会議長ロイヤル・サンフォードの署名により予備軍の動員が決定された。
 
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