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三番バッター

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第一章

               三番バッター
 榊原遥は八条大学女子野球部においてレギュラーを務めている。守備位置はライトで打順は三番である。
 堅守で強肩そして強打のバッターと他の大学からも警戒されている、だが遥はその打順がいささか不満だった。
「三番っていうのがね」
「不満なのね」
「そりゃ四番は仕方ないわ」
 友人の酒井愛生に話した、見れば遥は一五八位の背で白い肌に長い睫毛を持つはっきりとした目で色気のある赤い唇である。茶色がかった髪の毛を伸ばし後ろで束ねている。すらりとした引き締まったスタイルである。愛生は茶色のマッシュルーム型の髪型であどけない顔立ちである。背は高く一七〇あり女性らしいスタイルだ。守備位置はファーストで打順は五番だ。
「本多先輩はね」
「由衣さんね」
「もうチーム一の打率で長打力でね」
「しかも勝負強いし」
「キャッチャーとしてリードもキャッチングも凄いから」
「まさにチームの柱ね」
「全盛期の野村さんか古田さんみたいよ」 
 野村克也か古田敦也かというのだ。
「もうね」
「四番キャッチャーだから」
「別格よ、あれで人柄もいいから」
「完璧よね」
「その本多先輩と比べたら仕方ないけれど」
 それでもというのだ。
「私としてはね」
「三番っていうのがなの」
「物足りないわ、別格の人がいても」
 それでもというのだ。
「やっぱり三番と四番で全然扱い違うでしょ」
「四番はもうチームの看板だからね」
 愛生もこう答えた、二人は今大学の寮の遥の部屋の中で話している。話しながらビールも飲んでいる。二人共飲む勢いは凄くつまみの柿の種もどんどん減っていっている。
「もうね」
「それこそでしょ」
「ええ、私が見てもね」
 それこそというのだ。
「四番はね」
「そうでしょ、だからね」
「三番と四番でなのね」
「もう全然違うから」
 存在感も相手からの評価もというのだ。
「だから三番っていうのが」
「どうしてもなのね」
「私はいささか物足りないのよ」
 ビールを五百の缶ごと飲みながら言う、二人共ジャーズ姿で大学で見せる様なファッションセンスはない。
「これがね」
「だから頑張るのね」
「そう、所詮三番とかね」
「そう言われない様になの」
「頑張るわ」
 愛生に飲みながら話した、そうしてだった。
 遥は練習に励み続けた、勿論守備や走塁も頑張ったが重点を置いているのは何といっても打撃であった。
 それで毎日朝早く起きてまずは千回素振りをした、そうして部活の練習にも精を出した。そうしているとだった。
 練習試合でも大会でもだった、遥はこれまで以上に活躍した。バッティングが鋭くなり打率が上がった。そして長打力もだった。
 それで監督を務めている松平すずこ、三十代だというが白い肌は瑞々しく大きな目で整った顔立ちと黒く長い髪を持っている一六〇位の背ですらりとしたスタイルの彼女が遥に言った。 
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