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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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春谷舞は愚痴りたい

 
前書き
今日は忍者の日!なので今回は緒川さん、そしてG編の途中から現れた名有りの職員、春谷さんの回となります。

とある事情から、中々筆が進まなかった今回。
原稿の代筆頼んだら快くOKしてくれた熊さんには、感謝の気持ちが尽きません。ありがとうございます。

それではG編最後の短編、どうぞお楽しみください。 

 
「はぁ~疲れた~。師匠の特訓は相変わらずハードだよ~……」
「だけどその分、身になるだろ?」
「まあ、そうなんだけどね~。師匠の特訓受けた夜のご飯、いつもより美味しく感じるもん」
「君らしいな。じゃあ、今夜は豚のしょうが焼きでも作るか」
「わーいやったー!ありがとう翔くんッ!」

シミュレータールームから出て来た翔と響は、休憩スペースへと歩みを進める。

「翔様、響ちゃん、お疲れさまです」

そこへ、一人の女性職員が声をかける。
金髪をサイドテールにした青い瞳の彼女は、翔と響にスポーツドリンクを手渡した。

「春谷さん!ありがとうございます」
「ありがとうございますッ!」
「では、私はそろそろ定時ですので」
「お疲れ様です!」

翔に向かって頭を下げ、その場から去っていく春谷。

「お疲れ様ですッ!……って、あれ?春谷さん、翔くんの事……」

そこでようやく、響はそれに気が付いた。

「ああ。春谷さんは緒川さんと同じ、飛騨忍者の一族なんだ。俺が高校に上がるまで、身の回りの世話をしてくれてたんだ」
「そうなの!?」
「気になるなら、緒川さんに確かめてくるといいよ」
「へ~……翔くんのお世話係さん、か……」

春谷の背中を見つめる響。
スマートにスーツを着こなすその後ろ姿は、同性の響から見ても綺麗だ。

「もしかして、妬いてるのか?」
「そっ、そんな事ないよ!?」
「冗談だよ。でも、安心して欲しい。春谷さん、好きな人居るらしいから」
「分かるの?」
「まあ……何となく、な」

そう言って翔は、歩き去って行く春谷の背中を、何処か心配そうな顔で見つめていた。

ff

 私……春谷舞が緒川慎次を意識するようになったのは、いつからだろう。

 この問いに対する解を得るために、皆様には少々のお時間をいただきたい。

 では、一つ一つ確かめていくことにしよう。

 私と彼は幼馴染、と広義的に認識されるに相応しい関係だった。

 であるならば、その感情が少なくともここ数年間の話で収まらないことは確か。
 そしてある意味、私がそのような位置付けになるのは必然とも言える。

 慎次様は代々風鳴家に仕える緒川忍軍、その頭領の直系の血筋の次男坊である。
 そして私は緒川忍軍の構成員の一部、いわゆるくノ一と呼ばれる部隊に属する身分。

 現代にまで残る忍であるからには、構成員の方もそれなりに代々……ということになる。

 緒川の家が風鳴に仕えるならば、春谷家は緒川にその身を捧げる一族。
 つまり私は、生まれながらにして緒川忍軍の一人としての役割が決められていた。

 必然、将来諜報員や工作員として活動するために幼少から訓練に明け暮れた。
 その中で、私は慎次様とも接していくことになる。

 凪ぐ風のような人だ、と幼い私は思った。

 決してそよ風のようにあやふやな存在だ、という意味ではない。
むしろその逆。その笑顔を見ると、自然と気が緩むような人柄と感じた。

 穏やかな気性、それでいて確かな”緒川“としての素質と、気配りの上手さ。

 幼き頃から僅かにだが頭の資質を見せていた長兄総司様や、ややマイペースな三男の捨犬様……。

 正直に言ってしまえば、彼らよりずっと側にいると安心できた。
 もし主として仕えるならばこの人がいい、とさえ幼心に感じたものだ。

 そんな二人に比べて、慎次様は自らを一番目立たないと称した。

 だが、正反対な兄と弟のどちらとも上手く付き合うのを見ていると、私から見れば慎次様こそ最も〝忍〟らしいのではと。そう思えた。

 こうして考えてみると、最初は純粋な尊敬の念であったのかもしれない。
 同い年ということもあり、慎次様といる時が私にとって一番安心する時間だった。

 それは成長し、心身ともに少しずつ成熟していくにつれ、並行する形で変化していく。

 一般に、恋とは自覚することにきっかけが必要であるという。
 あくまで広義的な考えの一つだが、生憎と私にそのきっかけはなかった。

 それは幼馴染という、長い時間の中で慎次様を見てきた立場だからこそだったのだろう。

 故に少しずつ、少しずつ積み重なるように。憧れは、乙女としての心の静寂と共に変わっていった。

 また、こうも広く言われる。
 関係が近すぎるほど気付かない感情もある、と。
 
 こちらに関しては少しばかり、当てはまるかもしれない。

 いくら幼馴染、同い年とは言うものの、慎次は仕えるべき頭領の家系。緒川の家は当然ながら総司様が継ぐことになったとはいえ、立場としては目上。

 その意識と幼少期から一緒にいたことが災いして、徐々に形を変える想いは自覚しづらいもので、育つのもゆっくりであれば花開くのもゆっくりだった。

 ただ、促進剤はあった。

 学校生活だ。

 学校は学習の場という面の他に、集団生活による精神の熟成を促す側面を持つ。
 多くの人間が集まるその中において、改めて私は慎次様の人間性の希少さを知る。

 幼少から学んだスキルを十全に活かし、その場に馴染む手際は見事の一言。
 童心ではすごい、で完結した慎次様への印象は、心の成熟と共に格好いい、へと変わっていく。

 そうして小学生、中学生、高校生と大きくなるにつれ。春谷舞の中で、緒川慎二という男性は、同世代の異性の中で誰よりも魅力的な相手になった。

 とはいえ、前述の通りに立場を気にかけた私が想いを打ち明けることは叶わずに。

 やがて高校生活が半分を過ぎた頃に、慎次様は風鳴家の長女……風鳴翼の護衛役を任命された。

 相手はまだ年端もいかない少女。
 この時、既に密かに慎次様への淡い想いを抱いていた私は、大したことはないと安心していた。

 慎次様にとっての彼女は、立場が同等どころかむしろ上なのだ。同じ忍として弁えるだろうと、芽唯は予想した。

 ……その”油断“が失策だった。

 それから慎次様と私は高校を卒業し、大学を経て、そして社会人となった。

 配属は特異災害対策起動部二課、調査部。風鳴家によって組織された諜報機関、風鳴機関を前身とした、この国を特異災害による超常の危機から護る組織である。

 主な職務は、司令官である風鳴弦十郎の懐刀とまでなった慎次の補佐。
 緒川忍軍の一員として、そして慎次様へ恋をする一人の女として。これほどの天職はない。
 
 未だ打ち明けられぬ想いを抱きながら、私は二課のため、緒川の為、風鳴のため。

 慎次様のため、働き続けて。



 一方で慎次様は、トップアーティストへと華々しい成長を遂げた翼お嬢様のマネージャーをも兼ねていた。

 二課の諜報員と、翼お嬢様の身の回りの世話役兼護衛の両立。慎次様でなくては到底務まらない激務だ。

 自然と私とも、昔ほどは顔も合わせる機会も多くはなくなった。

 いいや、だからこそ。気がついてしまったのだ。

 慎次様のお嬢様を見る目に……幼い頃から見てきた、兄的存在以上の色があることに。

 衝撃だった。驚愕だった。

 よもやあの、本人に言わせれば目立たない、あえて言うならば皆平等に、同じように接する慎次様が。

 よりによって、守るべき存在であり、仕える相手である風鳴の娘に心を寄せるとは。

 無論のこと、慎次がそう心の内を他人に悟らせる訳はない。ひょっとしたら、本人も自覚なされていなかったのかもしれない。

 これは私がずっと、慎次様を見ていたからこそ、本能的に理解できてしまった感情だ。
 大いに動揺もしたし狼狽えもした。まさかこんなことになるなんて、と。

 恐るるに足りないと思っていた小娘に、想い人は心を奪われていた。

 こう綴ると聞こえが悪いが、とにかく二十年近く想いを暖めていた私にはそれくらいのインパクトがあった。

 同時に少し、安心もした。

 相手は風鳴の血筋。何世代も続いた上下関係は、そう簡単には越えられない。

 だからいっそのこと、これを機会に私は……と考えて。

 けれど、その思考はそこまでで消えた。

 自分は知っているはずだ。立場の違いによって告げられない事のもどかしさを。
 
 自分は知っているはずだ。長く共にいるからこそ育まれる気持ちが存在する事を。

 自分は、知っているはずだ。

 緒川慎次という(ひと)が、任務の為に身も心も捨てる“忍”として超一流であることを。

 そんな彼が、封じられないほどの想い。

 ……それほどの、ものならば。

 彼を誰より近くで見続けて、誰より想っていると自負する自分が認めなくて、どうする。

 その苦しみも辛さも知っている自分が、その想いを後押しせずして、誰がする。

 だから。

 だから、人生でこれ以上ないほどに辛く悲しい、そんな決断ではあるけれど。

 春谷舞は、緒川慎次への想いを。

 その想いが、かの歌女に届くまで、固く封じよう。

 そして届いた暁には、自らの手で摘み取ってみせよう。

 だって、自分の心だから。そうしてあげることが、一番良いはずだ。

 それに、この決断もあまり非現実的ではない。
 自覚こそしていないが、翼お嬢様も慎次様を誰より信頼し、心を預けていることは確か。

 ならば立場さえも越えて、彼らの旋律は重なるかもしれない。

 むしろそうなれるように自分が全力でフォローしよう。手助けしよう。

 緒川慎次が、風鳴翼という“剣”の鞘になれるよう。自分は、二人を支える台座となろう。



 そう、決めて。



 ………決めたの、だが。



「どぉ〜〜〜〜してあの二人は揃ってあそこまで奥手なんですかねぇッ!」

 そんな一言を、グラスと一緒にテーブルに叩きつける。

今日も彼女はスマートに、クールに慎次の補佐としての仕事を全うした。
 その反動を吐き出すように、並々と酒の注がれたグラスを片手にぶつくさと愚痴を垂れ流す。

 場所は歌舞伎町の一角、ホストクラブ『絶対隷奴(アブソリュート・ゼロ)』。

 もちろん、失恋したからとてホストに入り浸りになってるわけではない。
 彼女の目的はただ一人、ここでホストとして働く一人の男。

 その男は現在、舞の隣で絶賛苦笑い中だった。

「ねえ、そうは思いませんか捨犬様っ!?」
「まあまあ、春谷ちゃん少し落ち着いて。それとここでの俺の名前、亜蘭だからね?」

 緒川捨犬。

 遺産を含む一切の奥義の継承を行わない事を条件に、古い因習に縛られない自由を獲得した緒川家の三男坊は、その優れた外見を活かし、このクラブで働くNo.4ホストとなっていた。

当主の長男や諜報員の次男と、形は違えど夜の闇に生きている捨犬。
そんな彼は、舞の愚痴にいつものように付き合っていた。

 その内容はもちろんのこと、仕事の内容……ではなくて。
 聞いての通り、なかなか進展しない元想い人とその主人のことである。

「あの二人はほんっとぉにもぉ奥手でしてね! 一歩踏み込んだかと思えば三歩戻るみたいな感じでぇ!陰ながら色々サポートしてる私としてはぁ、じれったくてしかたがないんですよぉ!」
「あららー、これ春谷ちゃんかなり溜まってるわー……」
「んっとにもぉー、早くくっついてくれないですかねぇ! じゃないとこっちも色々整理がつかないってんですよまったくぅ……」

 ゴキュゴキュ、とそれは豪快な音を立てながらグラスの中を煽る舞。
 割と度数もお値段も高めな一本なのだが、そんなもの、このもどかしさを前にすればなんのその。

 もはや一種の襲来イベント的な扱いになっており、捨犬を筆頭に店内のメンバーも生暖かい目で見ている。

「んっ、んっ、ぷはぁ……亜蘭様、おかわりお願いします」
「いいの?あんまり飲みすぎると明日の仕事に響くよ?」
「いいんですよぉ!!飲んでなきゃやってられないんですぅ!!」

 今日はまた随分と荒れてるなぁ、などと思いながらも捨犬は言われた通りにする。

 すぐさまウェイターが、二人のもとへ同じボトルを持ってきた。

 捨犬からの酌で黄金の液体がグラスに注がれ、舞は瞬く間に半分も飲む。

「うぁー、ほんとどうにかならないれすかねぇ、あの二人ぃ……」
「そんなに進展しないの、兄者達?」
「そりゃもう、全然ですよぉ!もう付き合ってるくぜにぃ!なぁんで私ばっかりやきもきしてるんですかねぇ〜……」
「春谷ちゃんも大変だねぇ」
「今日なんかですね、廊下で私、あの二人にばったり出くわしたんですけど──」

 そして始まる、舞の愚痴大会。

 怒涛の勢いで繰り出されるそれはかなりの濃度だが、捨犬とて一流ホスト。
 抜群の接客スキルで聞きに徹し、時に励まし、時に共に嘆き、呆れることで対応した。

 実際それでいつも舞もストレスを発散していくので、良い流れとも言える。

「はぁ………真面目な話、いつまで続くんでしょうね」
 
 しかし、いつもなら一回寝落ちするまでの流れは中断された。

 不意に真剣味を帯びた口調を取り戻した舞に、捨犬も自然と口を閉ざす。

「何年も想い続けて、でも言い出せなくて。そしたら翼お嬢様にいつの間にかぞっこんで……フォローしてやる、だなんて勝手に意気込んでますけど。正直、辛いです」
「春谷ちゃん……」

 恋敵と唯一の想い人が結ばれる手助けなど、普通ならばできない。

 それができるのが彼女の強さであり、優しさであり、戒めなのだが……

「すて……亜蘭様にも毎回こうやって迷惑かけて、私結構面倒な女ですよね。自分でもわかってますよ、ええ」
「…………」
「でも、やるって決めたんです。やらなくちゃいけないんです。そうしなきゃ……私は、前に進めないから」

 だから、たとえ辛いとしても、やり遂げるのだと。そう何度も見た決意する舞の横顔は。

ホストとして色々な女性の相手をしてきた捨犬から見ても、美しいものだった。

「……だったらさ、春谷ちゃん。いっそのこと兄者達のフォローをしながら、新しい恋を始めてみるってのはどう?」

 だから捨犬は、何となくそんな提案をしてみた。

「………見届けることで諦めるのではなく、新たにすることで忘れろと?」
「そうそう、見方を変えてみるってことさ。たとえば俺とか……な~んてね!」

 捨犬のその一言は、冗談半分、舞の横顔に見惚れてぽろりと漏れた本気が半分。

 それはまた今度にしときます、などとあしらわれるのを想定した一言。

「……よろしい、のでしょうか?」
「え?」

 だが。

 何年も何年も、慎次を想いながらも彼の想いを尊重してきた彼女の心は……。

 本人や捨犬が思っている以上に、すり減っていた。

「その……本当によろしいの、なら。そんな方向に考えてみるのも……悪くは、ないのかもしれません」
「は、春谷ちゃん?」

 こちらへ振り向いた舞の表情に、捨犬はドキリとした。

 酒気で蒸気した白い頬、湿った唇。

 女らしい細い首や指先、先の愚痴に合わせて乱れた髪が、妙に色気を醸し出す。

「亜蘭……いえ、捨犬様」
「な、何かな春谷ちゃん」
「捨犬様から見て……私って、どうです?」
「…………………………マジ?」

その質問に、捨犬はかろうじてそう返した。

この夜の一幕が、後に始まる新たな恋の物語の一ページ目、などとは。

まだ、誰にも知られていない。 
 

 
後書き
春谷さん、モブ職員の設定を捏ねるうちに突然出来上がったキャラでして、G編の途中で生まれたわけなんですよ。
翼さんに緒川さんが付いてるなら、翔くんにも護衛とか付いてたんじゃないかな~と。そしたら緒川さんに片想いするくノ一が出来た。しかも当時観てた恋愛頭脳戦の影響なのか、某ハーサカさん似の。

掘り下げるのは短編でやるつもりでしたが、まさかここまで遅くなるとは。
熊さん、改めてご協力ありがとうございました。

CPまた1組増えたよ!またコンプリートに近づいたね!(まだ錬金組や三人娘が残っている)

GXのブルーレイも届きました。ようやく取りかかれます。
就活もあるので投稿は何時になるか分かりませんが、年内には始めます。

これからも応援、よろしくお願いします!! 
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