| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

SHOCKER 世界を征服したら

作者:日本男児
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

プロローグ 
  敗残狼の反攻の狼煙

 
前書き
記念すべき1話はとある大幹部の過去回。
基本的に妄想を詰め込んでますがご容赦ください。
 

 
1947年 リヒテンシュタイン公国 首都ファドゥーツ
   

オーストリアとスイスの中間にあり、世界で6番目に小さな国……リヒテンシュタイン公国。その首都ファドゥーツは同国が先の大戦で中立を宣言したこともあって特徴的なメルヘンチックな建物が多く残っており、古きよき古都の風景に感動する旅人があとを絶たない。

 
しかし、その日はそんな風景にも目もくれず、ただただ歩を進め続ける男がいた。どこか表情は暗いが一見、若々しい旅人のような格好をしていたため、通行人の誰もが気に留めることはなかった。

それもそのはず、その格好は彼の長年の逃避行から会得した高度な変装技術によるものであったからだ。


彼はふと考えた。
この辛い逃避行から何日……いや何年が経ったか……。
気づけば祖国ドイツの降伏から2年も経過していた。
戦災の影響で溢れる孤児、爆撃で荒れ果てた都市、敵であったはずの連合軍に媚びる同胞。
祖国の惨状を見て嘆くのはもうやめた。



今日もそんなことを考えながら街を練り歩き、ひと目を避けようと路地裏に入ると3人組の男達が旅人風の男の進行を塞ぐように立っていた。

 
「バカラシン・イイデノビッチ・ゾル!お前の顔は割れてるんだ!!正体を見せろ!!」


「はぁ……化粧(変装)は得意なつもりだったんだが……」


男は正体がバレたことに溜息をつきながらウィッグとメガネ、ついでに付けボクロを取り去る。さらに目つきも先程の優しそうな好青年のようなものから冷血な軍人のようなものへと変わり、男はその左目の上に黒い眼帯を着けた。
彼が変装を解いて正体を表すと3人組の男達は怒りに震え、唸るような声を上げた。


「……やっぱりだ。アウシュヴィッツ管理人、ドイツ国防軍大佐のゾルだ!」
「貴様のせいで何人の同胞が殺されたか……」
「今、ここで彼らの無念を晴らしてやる!!」


ああ、この手の輩はもう何人になるだろうか。50人を超えた辺りから数えるのをやめていたゾルはふと考えこんでしまった。
見たところユダヤ人のようだ。恐らくはユダヤ人武装組織の諜報部の人間だろう。


「ここはリヒテンシュタインだ。エルサレムでもパレスチナでもないんだぞ?」


「うるさい!さんざん同胞をガス室で殺しておいて何様だ!お前を殺しても問題にするような国はないんだ!!観念しろ!」


彼の言う通り、こんな敗残兵…ましてやナチス残党ともなれば自分の殺害を非難するような国はない。それが彼の祖国の成れの果てである東西ドイツのいづれかであったとしても。


「お前が改造人間なのは知っている。だがその肉体も最早、限界だそうじゃないか。俺達がトドメを刺してやる!!」


ユダヤ人の男達はサプレッサー付きの拳銃を取り出してゾルにジリジリと迫る。



「そうか……」


ゾルはそっと静かに目を閉じた。
狼男に変身してもただの人間と変わらない程に弱体化してしまった自分にはもう、目の前のコイツらを止めるだけの力も残されていない。

それに今度、改造人間としての姿に変身すれば拒絶反応が起きて肉体が崩壊してしまうかもしれない。


死か……抵抗か……。
彼に2つの選択が迫られる。
そして彼は決心した。
改造人間連隊の生き残りとして…、誇り高きアーリア人としてせめて『信仰』の為、『理想』の為、『死んでいった部下』の為……



前を向いて戦おう。自身の眼に映る敵に一矢報いてやろう。


「かかってこい…!クズ共が!!」




時は2年前に遡る―。


1945年4月某日 ドイツ第三帝国西部のとある町


連日の連合軍の無差別爆撃で民家は軒並み残骸と化し、地面は焦げ付いていた。無論、民間人は既にいない。
そして、そんな都市の大通りをアメリカ軍のM4シャーマン戦車数両が規則的なキャタピラ音を鳴らしながら進軍していく。さらに戦車の後ろにはM1ガーランドやトンプソンで武装した数十人のアメリカ兵が彼らと同じ歩兵を満載した軍用トラック数台と共に行進していた。

そんな中、一人のアメリカ兵が行進する足を止めてぼやいた。


「この近くの森か……α隊が音信不通になったのは」


アメリカ陸軍所属のα隊はこの都市の近くにある森の付近の偵察を行っていた歩兵部隊だ。しかし彼らは数日前に突如として音信不通になった。さらに不可解なのがα隊の最後の無線の内容だ。


怪物(モンスター)に襲われてる!!!救援を―」


これが最後の無線連絡だった。
無線の内容からα隊がドイツ軍と戦闘状態になったことは容易に想像できたが『モンスター』という部分が誰にも理解できなかった。

アメリカ軍司令部ではこの『モンスター』という報告に関して様々な憶測が飛び交った。恐慌状態になった無線兵による敵兵の見間違いという意見もあれば、ドイツ軍の秘密兵器と言う意見もあった。だがやはり前者が多数を占めていた。

いずれにせよ、α隊が音信不通となったのは事実であったため、すぐに救援部隊が組織された。 
無論、アメリカ軍の偵察部隊が『モンスター』などという意味不明な無線を残して全滅したなどと他の連合国…とりわけソ連に知れればアメリカ本国の信用問題に発展するため、α隊の音信不通だけでなく救援部隊すら極秘扱いであった。


「でもα隊には最低でも歩兵が数百人はいたはずだろ?そんな大部隊が突然姿を消すなんてありえるか?」


「ありえんな。少なくとも司令部はα隊がドイツ軍の精鋭部隊にやられたと見ている。だからこそ俺達が救援に向かってるんじゃないか」


アメリカ軍の救援部隊が都市の中央部に差し掛かったところで建築物と建築物に挟まれた一本道が山積みにされた丸太に塞がれていた。バリケードのようであった。


「総員、警戒せよ」


救援部隊の隊長が無線を使って隊員に告げる。一気に緊迫感に包まれる。
先頭の戦車の機銃手がハッチから出て辺りを見渡す。すると崩れかけ、中が見えているレンガ造りの民家の二階を何かが動いたのが見えた。

よく注視すると黒いヘルメットと軍服を着た兵士が窓枠からヌッと姿を現し、肩に担いでいた黄銅色の棒状の物をこちらに向けた。


「クラウト(ドイツ兵)だ!!!」


その刹那―。


バシュッ!!


ドイツ兵の携行式対戦車砲、パンツァーファウストが火を吹き、戦車が爆発。砲筒が燃え上がり、搭乗員が火達磨になって出てくる。随伴歩兵達は驚き、慌てふためく。


「パンツァーファウストだ!あの民家に敵兵がいるぞ!!」


アメリカ兵の一人がそう叫ぶと歩兵達はバラバラに散り、パンツァーファウストの放たれた民家の二階に向けて射撃を開始する。


「ナチの糞め!!」
「ファ〇キン!ヒトラー!!」


戦車兵のカタキとでも言わんばかりに銃弾を叩き込み、崩れかけていた民家の二階部分に大小様々な銃痕を作っていく。


「これでも喰らえ!!!」


アメリカ兵の一人が二階の窓に手榴弾を投げ込むと小規模な爆発が起こり、それをきっかけに辺りがシンと静かになる。


「ザマァみろ!ファシストめ!!」


ドイツ軍のゲリラを倒したことで部隊は安堵感に包まれる。
後はこのバリケードをどかすだけだ。誰もがそう思ったその時、


「ギャアアアアア!!!!」


隊列の最後尾で絶叫が響いた。そして肉を引き裂く音と骨を断つ音が聞こえ、アメリカ兵達は瞬時に振り返る。


部隊の最後尾には左目に黒い眼帯をし、ドイツ国防軍の軍服を着た男が生首を持って立っていた。彼の足元には首から下が無いアメリカ兵の死体があった。


軍服姿の男は生首を自分の背後の方に放り投げると口を開いた。


「あれで終わりだとでも思っていたのか?残念だったな、あんなのはほんの始まりに過ぎん」


男は続ける。


「偉大なる第三帝国、そして総統閣下に仇なす愚かな侵略者共め。ここが貴様らの死に場所だ。さぁ……死ねェ!!!」


その男がうずくまると彼の周囲が白い煙に包まれた。そして全身の筋肉がごきごきと盛り上がって黒い毛が体中を覆う。口からは牙が生え、顔が獣のようなものに変化していく。

その姿はヨーロッパの伝説上の怪物…狼男そのものだった。


「アォォォォォォォンンン!!」


聞いた者の肌が思わず栗立つような咆哮が響く。殺気と怒気が撒き散らされ、ビリビリと空気が振動する。
その気迫に押されて一番、後方にいたアメリカ兵が思わず尻もちをついた。


狼男は彼にゆっくりと近づき、頭を鷲掴みにすると―


グシャ!!


吹き上がった血を浴びた狼男は恐怖に顔を歪ませる救援部隊員達の表情を見てニヤリと笑うと反対の手を上げて叫んだ。


「今だ!行け!改造人間兵士諸君!!」
 

するとアメリカ軍を取り囲むようにして数十人の"怪物"が飛び出した。
蜘蛛のような姿をした者、蝙蝠のような姿をした者、トカゲのような姿をした者。人間に忌み嫌われる様々な種類の動物の怪物がそこに集結していた。


ここでアメリカ兵達は自分達が包囲されていることにようやく気づいた。
そして怪物達が憎悪の目を向けてアメリカ兵に襲いかかった。


「ウワァァァ!!!」


アメリカ兵達は恐怖に支配され、狂ったように持っていた小銃やピストルの引き金を引いた。しかし怪物達の身体は全く傷つかない。それどころかまるでポップコーンでも投げつけられているかのように臆することなく近づいていく。


パパパパパパパパ!!!


「ダメだ!連中、効いてないぞ!」
「このォ、化け物が!!」


改造人間兵士達はアメリカ兵に接近すると一人一人、順番に殺害していった。蜘蛛の糸に絡められて死ぬ兵士もいれば、鎌状の腕で斬首される兵士もいた。


一方、狼男の方はアメリカ軍のトラックの荷台に飛び乗るとそこに乗っていた兵士達をまとめて一瞬の無駄もなく"始末"していく。兵士達は断末魔を上げる間もなく血まみれの肉塊になっていった。


「退却だ!!」


そう叫んだ救援部隊の隊長は恐怖にとらわれて部下より先に走り出した。
それにつられて部下達も彼の後を追うようにして駆け出すがすぐに改造人間達に追いつかれて"始末"されてしまう。


隊長は後ろから逃げ遅れた部下達の悲鳴や叫び声が聞こえたが無視した。


(このままでは殺されてしまう!)


「ク、クソ!どうなってんだ!?敵は敗北寸前のナチ共じゃなかったのか!?」


たまたま近くの草原が見えたので草むらの中に走り込んだ。ここなら見つかることはないだろう。恐ろしさのあまり、進んでいく先しか見えず、おぼつかない駆け足で少しでも遠くに逃げようとする。


すると突然、隊長は首筋に激痛を感じた。激痛を感じた部分が猛烈に熱くなる。
恐る恐る振り返ると狼男がうなじに噛み付いていた。あの軍服の眼帯男が変身した狼男だ。


(ばかな!もう2~3キロは離したはずだ!!もう追いついたのか!?)


「部下を捨てて我先に逃げるとは…。指揮官の風上にも置けない男だな。地獄へ堕ちろ」


牙がさらに深く刺さり、頸動脈を切り裂く。そこまで来て狼男は隊長の首から口を離した。

隊長は目を見開き、頭をのけぞらせて倒れる。やがて彼の意識は真っ暗になってしまい、動かなくなった。


狼男は人間の姿に戻ると倒れた救援部隊の隊長の脈を測る。脈は止まっていた。
測り終えるとちょうど副官が追いついて来たので彼に次なる命令を下す。


「敵の指揮官の死亡を確認、拠点に帰投するぞ」


副官はかかとを打ち合わせて直立不動の姿勢をとるとナチス式敬礼をして応えた。


――――――――――――――――――――――――――――――
彼の名はバカラシン・イイデノビッチ・ゾル。ドイツ国防陸軍大佐であり、青年将校である。誇り高きアーリア人であり、軍人としての周囲からの評価もすこぶる良い。そのおかげかヒトラーから短鞭を賜ったこともあった。

そして祖国から『優秀』であると判断されたゾルは狼の改造人間に選ばれた。
大きな牙に鋭い眼光、これほど素晴らしい肉体に改造してもらえたことに彼は誇らしく感じた。

しかし彼の改造手術を担当した科学者達に言わせればこれでもまだ不完全体であり、もう少し時間があれば完全無欠な狼男になれるとのことだった。だがあいにく偉大なる第三帝国に残された時間は少ない。不完全だろうがなんだろうが軍人である以上、敵が迫ってくれば戦わなければならなかった。


だから……だから戦い続けた。偉大なる第三帝国の為に。偉大なる総統閣下の為に。そして……同胞たるゲルマン民族の未来の為に。





改造人間連隊。

ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーが最後の祖国防衛の為に創設した極秘部隊であり、ドイツの医学技術の粋を集めて作られた動植物の特性を持つ改造兵士の部隊である。

少なくともゾルは彼の上官からはそう聞かされていた。

ゾルが改造人間の存在を知ったのはその時が初めてではなかった。
噂ではあったが一時、彼が管理人を任されていたアウシュビッツ強制収容所でそれらしい研究をしているというのは聞いたことがあった。
しかし収容所での研究・開発自体は科学者の仕事であり、一介の軍人である彼に知る権限はなく、本格的な開発実験が進められたのも彼の後任になってからだった。


話を戻そう。ゾルの指揮する改造人間連隊は現在、危機を迎えていた。

彼の連隊に所属している者は皆、自分は『ドイツ軍人』として精鋭であり、『生体兵器』としても申し分ない性能を持っているという揺るぎない自信を持っていた。しかしこの広大な西部戦線の米英軍の物量作戦を足止めするにするには人数も補給も足りなかったのだ。餓えや喉の乾き、また弾薬の不足で八千人程いた連隊も既に数百人しか残っていない。いや、ここまで急激に人数が減った理由は補給や兵站だけではなかった。

改造人間部隊という特性上、決してその存在を公にできない。さらに死体一つでも敵の手に渡れば改造人間技術が敵国に流入し、祖国ドイツにとって大きな損失となることは明白であった。そのため、全員に小型の自決用高性能爆弾を体内に埋め込まれていた。
改造人間といえど皆、急ごしらえで作られた不完全体であり、不死身でもない。
銃弾には耐えられても毒ガスや大規模な爆発…例えば爆撃を喰らえば重症を負う。
つまり、本来なら野戦病院に連れていけば治るであろう怪我でも敵に『鹵獲』される前に自爆し、身体をバラバラにしなければならないのだ。


しかし、そんな極めて絶望的な状況の中でもゾルの連隊は戦い続けた。国の為、総統閣下の為、同胞の為に戦い続けるしかなかった。


そんないつ壊れてもおかしくない彼らを唯一、支えていたのはとある『信仰』だった。


自分達がここで戦い続ける限り、第三帝国は存続し続ける。第三帝国があり続ける限り、ゲルマン民族は存続することができる。ゲルマン民族が残ればまたいつか不死鳥の如く立ち上がることができると。
自分達が……自分達だけが少しの間、苦しむだけで……。


それはまさに致死量の血に塗れた信仰であった。
――――――――――――――――――――――――――――――
そしてゾル達の運命を変えてしまう日がやって来てしまった。 


1945年5月17日―。 


この日、ドイツは連合国に降伏した。
ヨーロッパ各地の戦場にいたドイツ軍部隊は哀しみに昏れながら武装解除に応じた。
当然、ドイツ降伏の報せはゾルの連隊にも届いていた。


「無条件降伏……だと……?」


連隊の指揮所となっている天幕の中で『祖国の無条件降伏』を伝えるラジオを前にして、ゾルは信じられなかった。


彼にとってはその情報があまりにも荒唐無稽過ぎたのだ。

ベルリンにソ連軍が侵攻し、これを占領。さらに市街地や政府機関も制圧された。それだけでも目まいがしそうだったのに唯一無二の偉大なる総統閣下が既に死亡したと聞いた時には手がワラワラと震え、まともに立つことすら難しくなった。
  

「馬鹿な…そんなまさか……」


ゾルは顔を真っ青にしてラジオの前で膝まずいた。
そんなゾルを見て、部下達が血気盛んに叫んだ。


「大佐!これはきっと敵の情報工作に違いありません!!今からベルリンに向かえばまだ間に合います!」

「そうです!ここでは米帝を食い止めるのには成功してるじゃないですか!!我々はまだ戦えるんだ!!徹底抗戦です!」

「すぐにでもベルリンに向かい、イワン共から帝都を解放しましょう!!」



皆、正気を失っているように見えた。
自分達"は"敗けてない。なのに『祖国が敵に蹂躙され、敗北した』という現実を突きつけられたのだ。そんな現実を直視したくないため、彼らは半ば自暴自棄になっていた。
しかし、ここで敵の占領下に置かれたベルリンに向かえば首都を制圧されて祖国が敗北したということを認めてしまうことになる。つまり、自分達が戦い続けたのは無意味だったと『信仰』を自ら否定してしまうというジレンマを含んでいた。



それを理解してしまった部下の一人がボソリと呟いた。


「もう……お終いなんですね……第三帝国も…ゲルマン民族も……」


突然、お通夜ムードの天幕の中に笑い声が響いた。


「ハ、アハハ…ハハハ、ハハハハハ!!!」


その場に似合わない乾いた笑い声だった。


「な…何がおかしい!?」


ゾルはその部下に問いただした。
その部下は合わない目の焦点のまま話し始めた。


「ハハハ!!大佐、大佐は怖くないのですか?我々が戦い続ける限り未来がある?なら負けてしまった今、祖国はどうなるのですか?ゲルマン民族は?千年帝国は?東方生存圏は?」
 

誰も答えられなかった。今まで信じていた…いや、信じなければやっていけなかったものを全面否定するこの非常事態に何も言えなかったのだ。


「国家だけじゃない、私達はどうなるんですか?私達の家族は?結局、何一つ守れないまま終わってしまうのですか?」

 

答えられる者はいない。皆、うなだれていた。か細くではあったがすすり泣く声も聞こえた。ゾルも黙ることしかできなかった。


そんな中、その部下はその静けさを破るように叫んだ。


「何もかもお終いなんですよね。なら…こんな世界にいたくない!!」


半狂乱に陥ったその部下は涙を流し、見開いた瞳孔のままホルスターからワルサーP38を取り出し、自身のコメカミに銃口を向けた。何をしようとしているのか瞬時に理解した。


「おい!!やめ―」


「ジークハイル(勝利万歳)!!」


パン!!!


彼の頭に穴が空き、天幕の中のテーブルに生温かい鮮血が飛び散った。


「自決だ!!」


予想外の出来事に周囲が慌ただしく動き回る中、ゾルは自分でも信じられないほど冷静だった。
ふと、その部下の顔を見ると満足そうな清々しい表情をしていた。まるで何か重く苦しいものから解放されたかのように。

ゾルはその部下の遺体を見て少しの間、黙祷を捧げると外に出して『機密保持』の為にガソリンをかけて火をつけた。





―それからは早かった。翌日の朝までに副官と7、8人の部下を除いて連隊員達が次々と自決をしてしまったのだ。
 

軍人として守るべきものも失い、改造人間であるが故に普通の人間としての肉体も失ってしまった彼らを迎え入れる場所など存在しない。元々、それを悟っていたのだろう。加えて、最初の部下の自決が引き金となったことは明白だった。


ここまで人数が減ればまともな抵抗もできない。ゾルは『連隊の解散』を宣言した。せめて生き残った者達だけでもそれぞれの道を歩んで欲しい。そう思ったのだ。部下達はそれぞれバラバラに散り、どこに行ったのかさえ分からなかった。


それから彼の辛く厳しい逃避行が始まった。改造人間部隊の生き残りであるゾルは世界中の政府機関から目をつけられ、追われる身となった。さらにかつてアウシュビッツの管理人を務めていたこともあり、各国の諜報機関やユダヤ人武装組織からもナチス残党としてマークされていた。
今まで何人もの刺客がゾルを逮捕或いは抹殺する為に送り込まれたが彼はそれを持ち前の改造された肉体でなんとか撃退してきた。だが改造人間として不完全な状態故かそれももはや限界だった。彼の肉体は長期による戦闘で改造人間としてもただの人間としてもボロボロになってしまっていた。あと1回変身できればいい方だろう。もはや逃げるだけで精一杯である。


アイヒマンやヨーゼフ・メンゲレのように南米に亡命することも考えたがドイツ軍人として、アーリア人としてのプライドがそれを許さなかった。迫る追手の影を背中に感じながらひっそりと生きるなんてゴメンだった。


いっそのこと部下達のように自爆しようかと思ったことさえあった。しかし、ゾルは未だに信仰を捨てられずにいた。それが既に崩壊した信仰であることを分かっていながらも。なぜなら、その信仰を一番信じていたのも自分自身だったからだ。
 
その信仰を守るのは自分で最後にしよう。自分は改造人間連隊の大佐なのだから。

―――――――――――――――――――――――――――
そして時は1947年のリヒテンシュタインに戻る。


ゾルこと狼男は先程の3人組の男達の血まみれの死体を前にぜぇぜぇと荒い息を吐いていた。

しかし身体はもう既に改造人間として限界をとうに超えていた。
足元がおぼつかず、地に膝をついてしまい、その上、血反吐を吐いた。


「…ぐ、ぐぐ……ユダヤ野郎どもめ…出しゃばりやがって」


悲鳴を上げる肉体にムチを打ちながらも
襲撃者を撃退できたことにゾルが安堵した……その瞬間。


「まさか。あれで終わりだとでも?そんなわけねーだろ」


背後から声がしてゾルはバッ!と振り返る。背後にはもう10人ほどの男達がいた。彼らは先程の男達とは違い、MP40やSTG44で完全武装していた。
元ドイツ軍人の自分を殺そうとしている目の前の集団が旧ドイツ軍の銃を握りしめているのは皮肉だった。


どうやらさっきの3人組は自分の限界切れを誘発させる為の『人柱役』だったようだ。 


―まんまと乗せられた。
ゾルは朦朧とする意識の中、そう後悔した。


「ふん、さすがのドイツ軍極秘部隊の大佐様もこうなっちゃザマァねえな」


集団の中心にいた男が拳銃を構えてゾルの頭部に照準を合わせる。


「さっきの奴らには悪いがお前を倒す為には必要な犠牲だった。あとは貴様を地獄に送ればアイツらも浮かばれるだろうよ」



(もはやこれまでか………)



ゾルはそっと目を瞑った。
瞼に浮かぶのは今は亡き、祖国、かつての部下達の姿だった。
きっと目を開ければヴァルハラで彼らに会えることだろう。



しかし突然、


「「イーッ!!!」」


謎の奇声が聞こえ、ゾルはゆっくりと目を開く。
ベレー帽を被った黒いタイツコスチュームの男達が数人、こちらに駆けつけて来た。襲撃者達も驚いた様子であったため、彼らの仲間ではないようだった。

彼らは狭い路地裏の両端にビシッと整列する。

そして彼らに護られるようにして白髪混じりの不気味な髪に白いスーツを着た黒マントの老男性が続いてやって来た。ゾルはまた追手が来たのかと警戒するがよく見るとその老男性の顔に見覚えがあった。しかし誰なのかよく思い出せない。


「ほう、先客がいたとは予想外だったが……こうでなくては面白くない。戦闘員共、失敬な先客と遊んでやれ」


4、5人しかいなかったにもかかわらず、黒タイツの男達はあっという間に十人もの襲撃者を持っていたククリナイフで"始末"してしまった。周囲は襲撃者達の返り血で真っ赤に染まる。


「久しぶりだな。ゾル少佐……いや連隊を任されて大佐に昇進したのだったな」


老男性の挨拶に対して突然のことに呆然としていたゾルはハッと意識を戻し、ゆっくりと立ち上がって返答する。


「あ、ああ……助太刀感謝する。それにしても、お前…どこかで会った…か?」


「……昔、アウシュビッツでな。ひょっとして私のことを忘れたのか?」



そこまで聞いてようやく思い出した。
彼はイワン・タワノビッチ博士。ロシア系日本人だ。改造人間製造技術の第一人者でアウシュビッツでは『死神博士』とか呼ばれてたっけ。


「今さら…何の用だ?こんな死にぞこないを笑いに来たのか?」
  

「違うな。私の来た目的は『勧誘』だ」


「勧誘…だと?」


「お前は我々の組織に選ばれた。その強靭な肉体、知力。どれをとっても優秀なお前に首領様が興味を示されたのだ」


組織?首領?
次々と意味が分からない言葉を囁かれてゾルの頭は混乱しそうになる。


「どういうことだ?わけが分からん。首領とは誰だ?」


「我らが首領様の崇高な理想は『選ばれた優秀な人間がその他人類を支配する世界』。お前はその栄光ある優秀な人間の一人に選ばれたのだ」


「答えになってない。質問に答えろ。首領とは誰だ?」


『死神博士!私から話そう』


突如、どす黒く重苦しい空気がその場を支配した。余りのものにゾルは思わずその場にもう一度、ひざまずいてしまった。
声だけではあるがゾルが今まで聞いたこともないほどの威圧的な恐怖と圧倒的な威厳を含んでいた。


(このオーラ、総統閣下の比ではない!!)


ゾルはヒトラーに会った時のことを思い出した。あの時でさえ、ヒトラーの指導者然としたオーラに息を呑んだのに、今度のはそれとは比べ物にならないほど強大なものだった。
例えるなら『実体のないイドの怪物』。
姿が見えないのに声だけがその場に響き渡っている。


(馬鹿な!この俺が恐れているだと!?この正体不明の男に?それも声だけだぞ!!)



『バカラシン・イイデノビッチ・ゾルよ。貴様は選ばれた栄光ある男だ。過酷な戦場を耐え、生き延びたその肉体、知力、精神力……どれをとっても素晴らしい。貴様には我が組織に入る資格があるのだ』


数年ぶりに聞いた称賛そして肯定の言葉、それらがゾルの心に染み渡る。その上、『過酷な戦場を耐えた』と労いの言葉までかけられ、ゾルは心が洗われた気がした。



『いいか、ゾルよ。この世界を変える時が来たのだ。貴様のような優れた人材が世界を統べるべきなのだ。無能で愚かな人間が各国の舵取りをするこの世界に終止符を打つべく、共に戦おうではないか!!』


「世界に終止符…?…そんなこと……できるのか?」


ゾルからすればイギリス、米国、ソ連、フランスに負けたのに今度は世界中を相手にして勝てるのか不安で仕方がなかった。
だが首領の返答は早かった。


『できる。断言しよう。我々の科学技術、軍事力を使えば容易いことだ。そしてこの腐敗しきった世界を征服した暁には我々の大鷲の旗が世界中に翻り、改造人間による完璧な理想社会が実現するのだ』


首領の言葉には妙な説得力があった。


『今の世界を見よ。無能で愚劣な一握りの人間がエリート気取りで真に優秀な人間を奴隷のように扱っている。
だが私の理想とする未来は優れた人間を貴様のような改造人間に改造し、世界を再構築することだ。奴隷でいるのは無能な人間だけでよいのだ』


考え込むゾルに首領は少し、間を開けて続けた。


『それに……もっと早い段階から世界が優秀な人間のみで統治されていれば先の大戦は起こらなかったのではないか?貴様の祖国にもっと優秀な人間が多ければ、貴様の同胞や部下が死ぬことはなかったのではないか?』


「それは………」


ゾルはうつむいた。

総統閣下を無能と呼ぶつもりはないが伍長上がり故か大局を見誤るところがあったのは確かだ。
……あの戦争には問題点が多すぎた。
組織的なレジスタンスやパルチザンの抵抗、広大過ぎた戦線と占領地、予想外の米国参戦、スターリングラードでの冬将軍、兵站と物資、兵士の不足……挙げれば切りがない。


この首領なる人物が何者かは知らないが彼の理想とする社会にゾルは共感していた。優秀な人間が統治する世界。それが実現できたらどれ程素晴らしいだろうかと。


『どうだ?我が組織に来る気はないか?』


ゾルは傷だらけの頭をフルに回転させた。
首領の言うとおり、この世界は変える必要がある。第三帝国なき今の世界は大義が失われようとしている。
アーリア人種が美徳としていた自己犠牲・忠誠心・奮闘を継承し、守り抜くためにも組織に入るのは悪いことではない。


それに………



ゾルはこの首領という人物に救われた。首領、いや首領様は敗残兵と化した小汚い自分を『優秀』とお褒めの言葉をかけてくださっただけでなく、気高き栄光ある組織に勧誘までしてくださっているのだ。
それに自分は首領様に心だけでなく命まで救われている。

その恩を返すべきだ。



ゾルは決心した。



「入れてくれ……いや、入れてください!俺を…このゾルを!!貴方様の組織に!!」


ゾルは力いっぱい叫んだ。
それを聞いた満足したように死神博士は固い地面にひざまずくゾルにそっと手を差し出した。



「ようこそ、『ショッカー』へ。我々は君を歓迎するぞ」


「ショッカー………」


「そう、それが組織の名だ。Sacred Hegemony Of Cycle Kindred Evolutional Realm(同種の血統による全体の、神聖なる支配権)。略してSHOCKER(ショッカー)。素晴らしい名だろ?」

ショッカー…SHOCKERか。『震撼させる者』という意味にもなるその組織名をゾルは気に入り、口元で弧を描いた。

「ああ、最高だ」
――――――――――――――――――――――――
 

ショッカーに入ってすぐ、ゾルは強化改造手術を受けた。
その結果にゾルは満足していた。
灰色だった毛並みも黄金色に変わり、腕力や速力も段違いに向上した。さらにウルフビールスという新種のビールスを生成できる能力まで手に入れた。この能力のおかげでもうこれ以上、部下を失うことはない。それどころかドンドン増やすことができるのだ。

これらの力を自由にできるようになってからはゾルは感謝の余り、大首領に対する永久の忠誠を誓った。


それからゾルはかつての仲間や部下達を集めた。
アウシュビッツ時代の仲間であるドクトルGや連隊の副官…ゼネラルモンスターなど意外にも多くの者達が各国の追っ手から生き残っていた。彼らをショッカーに勧誘すると喜んで参加してくれた。
皆、かつての自分と同じく孤独に世界各地を放浪していたようだ。


いつからか俺はショッカー内で自身のことを『ゾル大佐』と名乗るようになった。
ドイツ軍将校時代の階級と軍服を使用し続けることで祖国を守る為に死んでいった部下達の無念や想いを背負うことができる気がするのだ。
俺はこれからも彼らの無念を……そして最後まで信じようとした信仰を背負ってショッカーの為、偉大なる大首領様の為に戦い続けるつもりだ。
 


そしてこれから…ショッカーの世界征服、そしてその果にある完全なる理想社会実現の為に全世界に対して宣戦布告するのだ。
これからずっと防戦しかできなかった俺が…いや俺達が世界を震撼(SHOCK)させるべく、『反攻戦』が始まるのだ。

そう思うと喜びに身体が震えた。 
 

 
後書き
いかがでしたでしょうか?
今回はゾル大佐の過去回でした。
基本的に本作は一話完結のパーソナルストーリーをまとめる形にしようと思います。
それではまた次回!

(`゚皿゚´)/イーッ!!  
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧