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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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陰影ミステリアス

 
前書き
????「I am your father.」

ヴィヴィオ「Noooooooo!!!!」

オリヴィエ「なぁにこれ?」

マキナ「ある種の暗示?」

フーカ「なぜか他人事で済まん気がするのう……」 

 
ミッドチルダ北部、旧アレクトロ社研究施設
本棟、エレベーターライン。

カチ、カチ、カチ……。

はしごと靴の接触音のみが響く暗い空間で、ケイオスは自分に続いて降りてくるセインとディエチに尋ねる。

「ん、さっき言いそびれていたんだが……」

「ふぅ……どうしたのさ? ずいぶん降りたし、気晴らしにおしゃべりしたいなら、あたし達も喜んで付き合うよ?」

「別に気晴らしって訳ではないが、あんた達と行動するようになってからずっと思ってたことがある」

気付かない内に何か気に障ることでもしたのだろうか、と少し緊張が走るディエチ達に向かい、ケイオスは一拍置いて、

「あんた達……臭い」

残酷な一言を告げた。

「え゛……!?」

「あ゛……!!」

室内に入ってから、なんとな~く二人から漂っていた“異臭”……。その正体について、上で待っているアインスとマリエルは察しながらも同性故の気遣いで黙っていたソレを、ケイオスは何の躊躇もなく言い放った。セインもディエチも今の一言を聞いて反射的に自らの身体のニオイを嗅ぎ……二年間ガチガチのパワードスーツを着ていた事で凝縮し、くさやに匹敵するレベルとなった強烈な体臭でむせた。

「げほっごほっ!? クッサ!? うわっ酸っぱクサァッ!? ちょ、ウソだろこれ、今のあたしってこんな臭いの!?」

「うぁああ……! やだ、私……臭いよぉ……すっごく酸っぱ臭いよぉ……!」

「寒冷地だからハエや羽虫にたかられていないが、そこそこ暖かい所にいけば一瞬でまとわりつかれるな、それだと」

「いやいやいやいやいや、これダメなやつだって。いくら無頓着だったとしても、一人の女として許せないレベルだって、このニオイは……うぇ~」

「しくしくしく……! おふろはいりたい……!」

「支部に戻ったら大浴場なりシャワーなり好きなだけ使えばいい。一般開放されてないが、あんた達なら許可も下りるだろう。今すぐ入りたいなら、一旦戻ってこの施設のバスルームを使うか? 水道が使えるかは試してみないとわからないが」

「すっごく惹かれる提案だよ……自分の惨状を知ってしまったから、正直言って任務放り出して一目散に体を洗いたい。でも、やめとく。この施設、整備されてないから赤水出そうだもん」

「え? 電力来てるってことは、最近まで整備してたんじゃないの? ほら、エレベーターのワイヤーだってたまには見ておかないと、ある日突然ブチっと千切れたり―――」

「セ、セイン。そういうこと言ったら……」

おずおずとディエチが注意した直後、ガコンッ、と何らかの重量物が外れたような嫌な音が頭上から聞こえ、ナンバーズ二人の顔から血の気が一気に引いた。恐る恐る上を向いた彼女達は、重力の力を存分にもらって火花を散らしながら落下してくるエレベーターを目の当たりにした。

「ほらぁあああああああ!!!!!!!」

「うそぉおおおおおおお!!!!!!!」

たまらず絶叫を上げる彼女達は間に合わないと察しつつも、はしごを必死に降りる。一方、事態を冷静に把握したケイオスは逆に上へ跳躍、降りてくる彼女達の腰をそれぞれの腕で抱えこみ――、

「落ちるよ」

「「えッ!? きゃぁあああああ!!!!!!!」」

重力に従って落下した。さっきまで掴まってたはしごが凄まじい勢いで上へ流れていく光景に落下速度を実感しつつ、圧死か落下死という二重の命の危機に悲鳴と涙が止まらないセインとディエチ。上には頭一つ分の隙間を開けてほぼ同じ速度で落下してくるエレベーター、下には暗闇の中でわずかに見えつつある金属製の床。そして、側面にぽっかり空いた謎の通路。

「(見つけた。タイミングはゼロ秒コンマかつ、こいつらが怪我しない適切な力加減)」

「あぁ、ドクター、皆。また会えそうだったのに、先立つ私を許して……」

「も~ダメ! 死んだ! コレ絶対死んだよぉ~!」

「…………よっと!」

今にも辞世の句を読み上げそうな二人の様子なぞ全く気にせず、ケイオスは謎の通路に向けて二人をぶん投げた。エレベーターに接触せずに通路へ全身が入る速度で、かつ落下の打撃を耐えられる程度に力加減を考えて投げられた二人は、摩擦でナンバーズスーツから多少の火花が発生するも、彼の意図した通りに無傷で生還することができた。

どごぉおおおおんっ!!!

直後、エレベーターがケイオスごと最下層に落下する轟音が響き、セインとディエチは自分達が助かったことを一拍置いて理解し、そして身を挺して助けてくれた代わりに下敷きになったケイオスのことに気づき、慌てて駆け寄った。

「け、ケイオス!? 返事して、ケイオス!?」

「うわぁああ!? 大丈夫!? 生きてる!?」

緊急事態の連続に動揺しながら仲間を必死に探し求める彼女達。だが、動揺はすぐに収まった。

ぐしゃぐしゃに壊れたエレベーター、床だった部分の中心で……ケイオスの首から上だけが飛び出ていた。その光景は傍から見て床にはまって動けなくなったようでどことなく間抜けな雰囲気があり、助けられた身であるにも関わらず、ディエチとセインはつい吹き出しそうになってそっぽを向いた。

「ん、良いご身分だね」

「ご、ごめん……! ちゃ、ちゃんと、感謝してるよ……! うん、してるんだけど……ふふっ、本当にごめん!」

「しょうがないだろ~! まるでバラエティの落とし穴に落ちたみたいなんだしさ~!」

「かかった力の方向は上下逆だけど。そこで待ってて、今出るから」

ぎぎぎぎぎ……!

力づくでエレベーターの床をこじ開けていき、ケイオスは埃まみれの身体をぐいっと持ち上げた。まるで粘土のように金属を歪める圧倒的な力や、超重量の物体が頭に直撃しても全く損傷が見られない頑丈っぷりを見せつけたケイオスを、ディエチとセインは色んな意味で味方で良かったと痛感した。

「あんた達、怪我は?」

「おかげさまでご覧の通り。ほとんど無傷で済んだよ」

「考えてみればあたしはISで地面潜れば良か……あ、無理だ。先にエレベーターに潰されてるなぁ、あの落下速度じゃ」

「ん、ひとまず問題ないならさっさと行こう」

「あんなことがあったのに、結構あっさりしてるね」

「正直、早くシャロンの所へ戻りたい」

「あ~あ~、そゆことかぁ。あんたも気になる子は心配するんだね~」

「ドライバーだからな、当然だ。……この先は未知の領域だ、何があっても不思議じゃないと心しておくこと」

「「了解」」

しかし内心では「まあ、君がいれば何があっても大丈夫そうだけど」と思うセインとディエチであった。

閑話休題。

いきなりのトラブルはあったものの、改めて攻略を再開するケイオス一行。最初の方は地上の施設と同じ雰囲気だったが、他にもあったエレベーターやリフトを乗り継ぐと、まるで違う年代の建物を連結させたかのように、急にミッドのとは違う年季が入った設備や材質で構築されている施設に成り代わっていった。

「何だろう……初めて見るよ、こういう場所」

「変だなぁ、ここじゃあたしのISが使えない。もしかしてこの施設、地面という概念がおかしくなっているのかも?」

「ん……大きな力の流れがある。ここに入ってから、急に感じ取れるようになった」

「大きな力?」

ディエチがケイオスの感じている力の正体を尋ねようとした時、自動扉を通った先の光景を見て彼女達はその質問よりも驚きが先に頭の中を占めた。

「な、なにここ!? なんでこんな場所に街があるの!?」

「とゆーかあたし達、どうしてこんな高い場所にいるのさ!? ここまで降りてくるルートしか無かったのに……!?」

高架橋のような通路から広がるのは、外郭大地に覆われた地下……否、真の地上世界だった。しかし一片も日が差さない場所なので真っ暗かと思いきや、眼下の廃墟を埋め尽くすほどの魔導結晶の光や、この施設の足元から竜巻のように地上まで伸びる光の流れがこの世界に明かりを与えていた。

彼女達が混乱してる中、唯一状況を把握しているケイオスが冷静に言葉を紡ぐ。

「あの街は古代ベルカ、聖王国に存在していた主要都市の一つ、ユーディキウム」

「古代ベルカ!? 聖王国って……まさか聖王教会が崇めてるっていう……?」

「聖王オリヴィエが誕生した国かぁ……」

「そして、俺がこの手で滅ぼした国だ。まあ、手を下したのは騎士国家の首脳陣がメインだが、それはそれとして街がここまで完璧に残っていたことは正直驚きだ。しかし、よりにもよってユーディキウムとはなぁ……」

「ケイオス、ここには何か特別な価値があったりするの?」

「聖王国の技術は主にこの街で培われた。古代ベルカ戦乱期において、倫理を踏み外した非人道的な研究は、ここで行われていた」

「ギア・バーラーの君が非人道的って言うほどヤバい研究って何なのさ?」

「……アレを見ろ」

眼下の街に向けてケイオスが指さした方に、戦闘機人としての観測能力を最大限に発揮して見通すディエチとセイン。天を外郭大地で覆われて幾百年も経った今、生命の気配が完全に途絶えたはずのそこには、無数に蠢く怪物がいた。

「うぇ~、なにあれ~?」

「骨と皮膚だけの化け物……!?」

「あれは人体実験の被験者の成れの果てだ。通称ウェルス、ヒトのくびきを人為的に外そうとした失敗作。今の世界から見れば、あれもアンデッドの一種と考えて良いだろう。だが暗黒物質で変異した訳じゃないから、エナジーが無くても倒せる」

「ウェルス? くびき?」

「ヒトには限界が定められている。特に寿命という観点では、どのような強者や為政者でも超えることはできない。だが強大な力を持つ者ほど、失うことを恐れる。死の喪失を受け入れられなくなる」

「まあ、よくある話だよね。あのメソポタミア文明のギルガメッシュ王でさえ、死を恐れて不老不死を求める旅に出るほどなんだから」

「最終的には聖王家も不老不死を手にしたかったんだろうが、俺が一族郎党皆殺しにしたから計画は頓挫した訳だ」

「わかっちゃいたけど、あんたってエグイことサラッと言うよなぁ。その台詞を聞いたら聖王教会のお偉いさん、発狂するんじゃないの?」

「聖王教会が何を言おうが知ったこっちゃないね。ともかく聖王家は現代にいる研究者達と同様に、あらゆる手段を用いてヒトの持ちうる力の限界を超えようとした。リンカーコアの人為的強化、ロストロギア融合、遺伝子操作……アプローチは様々だがな。ちなみに遺伝子操作に関しては、巡り巡って現代のプロジェクトFATEにも一部流用されている」

「へぇ~? それじゃあクローンは遺伝子にベルカ的な何かが施されてたりするわけ?」

「細胞の培養、保護以外で別口の改造が施されている場合は流石に話が異なるが、基本的には何もしていない。あくまで遺伝子に関わる知識が一部流用できるって話だ。例えば……こんな話がある。まず、クローンの生成は大なり小なり遺伝子に負荷を与えるから、オリジナルとの差異は少なからず現れるものだ。その代表例がオリジナルと比較した基礎能力の劣化」

「確か髑髏事件で、そういう研究論文があったって話を聞いたなぁ。クローンからクローンを作ると弱くなるって奴」

「ただ、それだけを見てクローンがオリジナルより劣化していると判断するのは早計だ。むしろ潜在能力はクローンの方が引き出しやすくなっている」

「どういうこと?」

「人間の脳は能力を100パーセント発揮できない。自らの肉体が崩壊しないように、セーフティが働いているからだ。しかしクローンは遺伝子の劣化によってそのセーフティに異変が生じているから、やり方次第ではオリジナルより上回ることが可能だ。有り体に言えば、基礎能力や初期値はオリジナルが上でも、成長率や限界値はクローンが上ということ」

「じゃあクローンを繰り返した方がトンデモ人間になれるってこと?」

「ンな訳あるか。そんな事をすれば肉体に致命的な異常が生じて、短命かつ脆弱な命になる。『セーフティ以上の負荷をかける=短時間で体を壊しやすい』のだから、環境やサポートが充実し、その上本人が地獄に匹敵するレベルの努力を長期間しなければオリジナル越えなんて成し得ない。おまけに余程の理由が無ければ、常人はそこまで努力を続けられない。途中で妥協する」

「う~ん……その条件を培うのは実験施設なんかじゃ到底無理だね。でも施設で生き残るなり脱走なりで保護されたなら……」

「その後の環境次第だが、少なくともモチベーションを維持できない環境で強くなれるはずがない。まぁ逆に言えば条件を全て満たせれば、最強のクローンが生まれるかもしれないってことなんだが……ん、今はどうでもいい話だな」

とはいえ、報復心はモチベーションを維持させる側面もある。己の境遇を知った生き残りのクローンが報復心を糧に鍛えていることは十分あり得た。

会話もそこそこに、ケイオス達は下に降りるほど魔導結晶に浸食されつつある施設の探索を再開する。ここは先程見えたベルカの大地とも繋がっているため、施設内をうろつくグールに紛れてウェルスが混じっていた。とりあえず目に付く敵は全て片付けているが、ケイオス一人に任せっきりなのがディエチにはどうにも不服だった。

「あのさぁ、やっぱり私達も少しは戦った方が良くないかな?」

「いらない。あんた達は情報収集に努めてくれれば十分」

「でも……」

「逆に訊くけど、なんでそこまで戦おうとする? 今のあんた達にそういうの求めてないって言ってるのに、まだ納得できない?」

「一応……」

「そっか」

「…………」

「…………」

「……あれ? ここは説得する流れのはずだよね? なんで無言?」

「どう言えば納得してもらえるかわからなかったから」

「あぁ~、だから会話途切れたんだ。でもさ、もう少しだけ頑張って言葉を使おうよ……」

「そういうのは苦手だ」

「それでもだよ。説明が下手でも、うまい言葉が思いつかなくて話が長くなっても、説明しようという努力は伝わるよ」

「ん……じゃあ、やってみる」

そう言ってケイオスは徐にディエチに近づき……、

ドンッ!

「ひぃ!?」

ディエチの顔のすぐ横を目掛け、右手で壁をどついた。あまりの衝撃で壁が凹むのをよそに、ケイオスは涙目でビビったディエチの目をまっすぐ見据えて言葉を練り出した。

「俺は知っている情報を言う事は出来るが、考えて説明するのは正直苦手だ。だから単刀直入に言う。無駄な危険を冒すな」

「ひゃ、ひゃい!?」

「ここは室内で狭いから、下手に出て来られると攻撃に巻き込まないよう余計な意識を使う必要が出てくる。だから戦うのは俺一人で十分だ。納得したか?」

「はいぃ……!」

「よし、じゃあ行こう」

ディエチの了承を得たことで、ケイオスはすんなりと離れて先に進みだした。思わず崩れ落ちるディエチへ、にやにやしながらセインが近づき……、

「いや~すっごい壁ドンだったね! ドンどころかドォォォンッ!!! って感じだったけど!」

「違う……違うよこれ、全然説得じゃない。ただの脅しだよ……」

「でもドキドキしてるんでしょ? まさかの恋の始まり? あ、でもシャロンがいるから略奪愛? もしかして昼ドラ展開?」

「確かにドキドキしてるけど、方向性が違うから。恋愛じゃなくて恐怖によるものだから」

「ん~、まあ実際ビビるのもしょうがないよねぇ。この威力だし」

苦笑しつつセインは、ケイオスの手形がくっきり残った壁に目を向けた。そして何を思ったのか、マジックペン(油性)を取り出して『ディエチ初めての壁ドン記念』なんて落書きを残した。なお、ディエチが赤面しつつ必死に消そうとしたが、消せる道具が無かったので渋々断念するのであった。

少し休んでから二人もケイオスの後を追った所、やけにスキャニング設備が多い通路の先にあった扉の端末を操作した。

『警告。この先の区画は極小兵器開発区画です。大気汚染の危険があるため、防護服は着用していまままままま――――』

「バグってる……」

『入室条件をクリア、大気交換開始』

プシュー!

『大気交換終了、扉を開きます』

端末の音声を聞き流しつつ扉が開くと……、

ドシャリとウェルスが倒れてきた。

「ひぃ!?」

「死ん……でる?」

「そう、みたい。多分、先に行ったケイオスが倒したんだと思う」

「だろうね。あ~ビックリした~」

「このフロアの設備は一応生きてるみたいだけど、流石にセキュリティに関してはもう信用できそうにないね」

ただ、こうやってじっくり見てみると、ウェルスの死体はまるで苦痛から解放されたように安らかな顔をしていた。人知れず死ねない苦しみを味わい続けていた彼らに、憐れみを感じた二人は黙とうを捧げた。それからケイオスを追いかけた所、彼は一人でいる間に視界に入った敵を全て片付けており、ディエチは自分も戦力云々の話がケイオスにとって余計なお節介だったのかもしれないと思い、少し落ち込んだ。

「ん、やっと来たか」

「ごめんごめん、ディエチがいじけちゃってさ~」

「いじけてない。それよりもここは……」

「恐らく相当重要な研究機密が保管されている場所だ。ターゲットではないが、情報収集の一環としてここに来た。さて、ようやくあんた達の出番だ。ここの端末から情報を抜き出してほしい」

「りょ~か~い。ところでメモリーカード的なモノある? 流石に見た情報を全部覚えろってのは特殊能力でも無い限り無理だしさ」

「これ使え、セイン。俺の携帯端末だが、施設の情報を全部移しても大丈夫な空き容量がある」

「はいさ~っと。どれどれ~? なるほど、さっきケイオスが言ってた通り、ここは聖王に要求された研究を行っていたみたい。この区画に入る時に聞いた極小兵器についても色んな実験が……え?」

「どうした?」

「実験が……継続中だってさ……」

「継続中!? まさか、あのウェルスみたいに被験者が生き残っているの!?」

「ん、設備が一部バグってたし、システムエラーで誤認識してるんじゃないのか?」

「待ってて、今調べる。……現時刻より999999時間前に第一級エマージェンシー発令。実験中の77番シリンダーを隔離、緊急時実験継続申請確認により長期保管処理」

「つまり被験者はシリンダーに保管されてるんだね」

「ん、実験の内容は?」

「え~っと……これだ。実験名は『細胞生成ナノマシンによる細胞置換再生実験』、内容は……ちょ、なにこれ。嘘でしょ」

先に目を通して絶句したセインに代わり、ディエチが内容を読み上げる。

「本実験は試験的に開発された細胞生成ナノマシンの応用として、対象となる人物の遺体を分解して同一人物を再構成するものである。これが成功すれば、特定人物の永久的存続が可能となり、ひいては不老不死の科学的実現を意味する」

「ん、死体を分解して……再構成? これはプロジェクトFATEとどう違う?」

「簡単に言うと、細胞を培養して同じ人間を生み出すのがプロジェクトFATEなら、こっちは全ての細胞を一度ナノマシンに置換して、同じ人物を万全の状態で生み出すのが目的だよ。仕組みは肉体を構成するタンパク質、脂質、ミネラル、赤血球や白血球、DNAなども含めた全てをナノマシンが生体情報として記録し、病気や怪我といった欠陥情報を修正してから肉体を再構成……最終的には全回復させるって寸法かな」

「ん、それって意味あるのか? 死んだ人間の身体を復元した所で、本人の意思が戻らなきゃ意味ないだろ?」

「だからこの実験があるんだと思う。この実験はいわば、『全ての死んでいる細胞を生きている細胞に変換すれば、死者も蘇るのではないか』って思考で作られているんだし。でも現代の理論で考えると、オリジナルの意識が蘇る可能性は低いと思う。だって継続性が維持できてないもの」

「継続性?」

「じゃあ一旦この実験の話は置いといて、一般的な認識、解釈をベースに継続性の講義をするよ。まず、ここにAさんという人がいて、重傷なり重病なりで命の危機にある。それでAさんの細胞を基にプロジェクトFATEでも何でもいいからクローンのBさんを用意する。これでオリジナルとクローン、全く同じ容姿の二人がいるって前提条件ができた訳だ」

「厳密には実年齢などの話もあるんだろうが、そういう細かい設定は今回置いておくんだな」

「うん。ということで継続性の講義を進めるよ。BさんにAさんの記憶をコピーしてみる。Bさんが健康であること以外、二人は全く同じ外見だから第三者には見分けがつかない。この時、BさんはAさんと同じ人かな?」

「いや、違う人だ」

「うん、正解。第三者には見分けがつかなくても、これまで生きてきたのはAさんだもの。存在が継続してないから、BさんはAさんとは別人なんだ。例え記憶が同一でも、同じ記憶があるだけの別人ってことになる」

「この辺りは管理局のフェイト・テスタロッサがその身を以って証明しているな」

「話を続けるよ。前提条件の所まで戻って、今度はAさんとBさんの脳を入れ替えてみる。Bさんの身体にAさんの脳が入ってる状態だ。それで、この人は誰だと思う?」

「Aだろう。デバイスでいうならコアを他のフレームに入れ替えてるようなものだし、メモリーカードや記録端末を他のハードウェアに差し込むのもやってる事は同じだ」

「正解。一般的に、人間の主体は脳にあると考えられている。脳が記憶を持ち、意思・人格を持っているからだと世間は認知している。要は脳さえAさんなら、どんな身体になってもそれはAさんって事になるんだ。だから理論上、こうやって体を交換していけばほとんどの病人を救うことは可能だけど、Bさんはどうなるのかという倫理的な問題が残るから、現実ではまず受け入れられない処方ではある」

「じゃあオリジナルの脳が生きている内に、元の身体を再生すれば倫理の問題を超えられるのか?」

「それってただ単に治療してるだけじゃない? まぁ、そもそも元の肉体が使い物にならないなら、今後は新しい肉体を用意した方が手っ取り早いのかもしれない。今の時代はサイボーグ化ってのも選択肢にある訳だし、世界的に見れば人種や生まれで元の肉体に不満がある人だっていると思う」

「ん、差別は人間という生命種に刻まれた呪われし性であり咎とも言える。自分と違う存在は本能的に対等より上下で見がちな所が、な。だがこの継続性の話を基にして考えてみると、白人と黒人の脳を交換したら、人格は互いに継続しているが肌の色だけが変わることになる。同じ人物が相手なのに肌の色が変わっただけで待遇が変わるのか、試しに差別主義者に問うてみたいものだ」

「言ってることは結構残酷だけど、興味深い試みではあるね。要点としては親しかった人間に苦手な要素が加わったら、あるいは苦手だった人間に親しくなれそうな要素が加わったら、ヒトはどう反応するのかって話だし」

「ま、そんなに肌の色の違いが気に入らないなら、いっそ全人類をサイボーグ化なり何なりすれば、国籍や肌の色、生まれの違いといったものが消えるんじゃないか?」

「それはちょっと、費用が馬鹿にならないね。あとそんな提案をした所で人類全員が受け入れる訳も無いし、サイボーグになった所で差別は簡単には消えないよ。きっと生身の人間はサイボーグの人工皮膚に対して違和感を抱き、そこから拒否感を育ててしまうと思う」

そしてその拒否感を“正義”だと認識してしまったのが、差別意識というものなのだろう。どんな理屈であれ“敵”を倒すというのは、本人に抗い難い快楽を与えて泥酔させてしまうのだから。

「ん、しかし将来、人類はゲームのキャラクターエディットをするみたいに自分の姿や性別を自由に変えられる時代が来るだろう。いや、もう今の時点で片鱗は見えているな……」

「確かに人類皆が先天的要素を自由に変えられるなら、人種差別みたいなものは自然消滅するかもしれない。でもそれって能力や嗜好、創作といった後天的要素でしかそのヒトの個性を示せなくなるってことだよね?」

「だがヒトが求めているのはそういう世界、そういう社会じゃないのか?」

「先祖や親から受け継いだものを全て捨てる代わりに恒久的平和が約束されている社会が果たして正しいのか、私には何とも言えない。……少し脱線しちゃったね、話を戻すよ。脳の交換をすれば脳そのものに継続性が残ることは、今のでわかったね。じゃあもしAさんとBさん、二人の脳をほんの一部だけ交換したらどうなると思う?」

「一部だけか……いまいちパッとする答えが出ない」

「実を言うと、健康な人間の細胞は少しずつだけど毎日置き換わっていってる。脳だろうとそれは同じ。だから交換したのがほんの少しなら新陳代謝と同様に扱えるから、二人とも自分の記憶はそのままで意思・人格も継続すると考えられる。そこで100なり1000なりの多大な回数をかけて、少しずつ二人の脳を入れ替えていく。最終的に、二人の脳は完全に入れ替わることになる。これはさっき尋ねた時と同じく、Aさんの脳がBさんの身体にある状態だ。改めて訊くけど、この人は誰だと思う?」

「ん…………誰だろう? 人格が維持できてるならBのはず……だが脳は全てAのものだ。つまりAの脳にBの人格が宿ったことになる? だが脳が記憶や人格を持っている前提条件を考えると、Aの脳にはAの人格があるはずだ。なんだこれ、どうにもつじつまが合わない……」

「ふ~ん、君って説明は苦手でも、結構頭の回転は早いんだね。はっきり言って、これは“どちらでもない”が認識としては正しい。でも今は君が最初に言った通り、Bさんだと解釈して話を進めるよ。今回の場合、入れ替えが少しずつ進行したせいで、最終的には脳を丸ごと交換したのに、結論がさっきと逆になってるんだ。記憶・意思・人格全てにおいて、AさんとBさんは継続している。元の人間のままだと考えられるんだ」

「なるほど……だから死んだ脳をナノマシンが一度分解して再生した場合、その脳には継続性が失われているのか。ただなぁ、細胞を蘇らせた所で、脳の機能は復活するのか? あ~まあ、最終的には全ての細胞が再生する訳だから、脳の機能自体は復活するかもしれないが、そこに宿る人格は元の人間のものなのか?」

「そこが難しい所なんだよね。この実験はナノマシンという過程を挟んでるから、同じ人間を作ったところでそれは別の人間になる。だからこの実験で生まれるのは、いわばクローンと同質の存在だと思うけど……」

「ん、実験やナノマシンの存在を知らない人間が調べれば、ただのクローンとして認識されていたのか。じゃあ、この実験の被験者は誰なんだ? セイン、流石にそろそろ探り当ててるんだろう?」

その言葉にセインは苦味走った表情で返答する。

「ま、まぁね、セイン姐さんの手にかかればお茶の子さいさいだよ。たださぁ、被験者が誰か知ったらあんた絶対ブチギレそうなんだよな~……」

「そこまで言うってことは、被験者は俺の関係者か?」

「超関係してるね。……被験者はオリヴィエ。オリヴィエ・ゼーゲブレヒト」

セインがその名を口にした途端、周囲の空間が悲鳴を上げるぐらいの殺気がケイオスから放たれた。一瞬で体感温度が20度近く下がったような冷たい感覚と共に、正面からそれを受けたセインはあまりの圧迫感に呼吸が出来なくなり、傍にいたディエチはまるで下半身が吹き飛ばされたように力が入らなくなって腰を抜かしてしまった。

「い……きが……!!」

「あ……あ……!!」

窒息しかけて顔が真っ青になりつつもセインはプロレスにおけるタップ、つまり降参の合図を必死にケイオスに送った。

「ッ! ん……すまない、怒りで我を忘れかけた」

「ゲホゲホ!? だ、だから言ったじゃん……ブチギレそうだって……! 少しは心の準備してよ……」

「こ、こんなに恐ろしいのは生まれて初めてだよ……殺気だけで、腰抜かしちゃった……」

「ん、悪いな。あんた達を脅すつもりは無かった」

「それはわかってるけど、殺気に巻き込まれるだけで呼吸困難になるのは、もう二度と味わいたくないよ~」

「今までの私が、殺気というのを甘く見ていたと心から理解したよ。君がその気になれば殺気だけで私達を無力化できるって、今のでわかったんだもの」

「本当にすまない。しかし……オリヴィエが被験者ってことは、ここの連中はゆりかごで俺がトドメを刺した後、彼女の遺体をここに運んできたのか。参ったな……これは俺の判断ミスだ。ゆりかごから去る前に遺体を埋葬するか火葬してやるべきだったか。しかし彼女の命や尊厳だけでなく、遺体まで利用するとは……ん? 下手すれば毒殺された彼女も……?」

「あの~もしもし? 一人で呟いてないで、指示出してよ。結局、この実験体はどうするのさ?」

「ん、ひとまずシリンダーを保管庫から出してくれ」

「りょうか~い」

セインが端末を操作すると、部屋の中央に一本のシリンダーが接続される。そこに遺体を分解して機能停止中のナノマシンが入った溶液が注がれていった。

「今気づいたんだけど、もしかしてこうやって生体情報を入力したナノマシンを貯蔵すれば、特定の人物を特定の状況に備えて保管できるようになるのかもしれない。どこかの社風のつもりじゃないけど、必要な時に必要な人物を必要なだけ目覚めさせて働かせる……なんてことができてしまうんだ」

「うわ、それヤバくね!? そうなっちゃったら食料における保存食みたく、過去に存在する人間を予備人材として確保しておくことができちゃうよ!?」

「ん、管理の極みって代物だな。ヒトの傲慢さがこれでもかと伝わってくるし、反吐が出るよ。牢屋なんて生易しいものじゃない、一度ナノマシンで変換されてしまったらヒトとしての自由が失われる。ただの道具として存在しなければならなくなる」

もしこれが実用化されていたら、ある人物の生体情報を入力したナノマシンを出荷して現地で再生する、なんてビジネスが出来てしまうのではなかろうか。倫理の問題があるのは承知の上だが、必要だと思えば倫理も道徳も簡単に踏み抜くのがヒトだった。

「全く……ヒトは効率を求めるあまり、自分達の存在を生命から道具まで貶めるつもりか? 自由と独立を求めるくせに、支配されて管理されたいのか? 目的がちぐはぐだ。一体何がしたいんだ? 結局、人間はどうなりたいんだ?」

「どうなりたいのか……ね。きっと皆、自分達の都合による答えはあるけど、人類種としての答えは持ってないんじゃないかな。生命種として人類は一括で扱われてるけど、全ての人間が一つの目的に集ったことなんて一度もないんだし」

「だよねぇ。あたしなんかもし対処不可能な脅威が迫ってて、人類が一週間後に滅ぶ~なんて言われても、人類存続のために何かしようなんて別に思わないし。それまでの間に好きなことやって満足してから死にたい、としか考えないよ」

「ん、救世のために足掻く者もいるんだろうが、やはり少数しかいないか。さて……」

一人部屋の中央に行き、シリンダーの正面に立ったケイオスはじっくりとシリンダーを見据えた。

「そんじゃあケイオス、人間体への再生処理を始めていい?」

「ん、早まるな、セイン。この溶液には暗黒物質が溶け込んでいる。今再生したら途中で吸血変異を引き起こすぞ」

「えぇ!? でもここは地下だから太陽の光なんて届かないし、エナジーで攻撃したら再生自体できなくなる。それ以外に暗黒物質をどうにかする方法なんて……」

「ある」

そう言うとケイオスは一瞬躊躇するも、首から下げていた銀の弾丸を取り外し、セイン達にも見えるように掌に持つ。

「この弾丸にはマキナの作ったゼータソルが込められている。いわゆる麻酔弾のゼータソル版、そしてゼータソルの効果は暗黒物質を一時的に基底状態へ戻すというものだ。だからこれを使えば治せる」

「銃は?」

「ん?」

「なんでそこで首傾げるの? 大口径ハンドガン用の弾丸を持ってるなら、それを撃つための銃はないの?」

「ディエチ、細かい事を気にしてはいけない」

「いやいや、弾丸だけ持ってても使い道は……」

「あったじゃん」

「一応ね。でも銃を持ち歩かないのに弾丸だけは持ち歩くなんて、一体どうして……」

そこまで口にした時、ディエチはある事を思い出した。ケイオスを目覚めさせたマキナのデバイス、レックスのハンドガン形態はデザートイーグル50口径がモデルになっている。死した彼女との繋がりを示すモノとして、ケイオスはデザートイーグルの弾丸の薬莢にゼータソルを込めた。結果、その弾丸はかつてスカルフェイス対策に使用した注射器と同質のものとなった。
かつての戦いで、病を治す道具だった注射器は仲間の手で武器にされた。だが今、敵を倒す武器だった弾丸が命を救う道具となるのは、ある種の皮肉でもあった。

「とりあえず凄い便利道具があったのはわかったけどさ、要は薬の効果が働く間に再生すれば吸血変異しないってコト?」

「あるいは暗黒の戦士のように暗黒物質と順応するか、だ。尤も、聖王家が月光仔の血を引いているという話は聞いたことが無いから、今回その可能性は無いだろうがな」

尚、この次元世界で月光仔の血を引いてるのはむしろ覇王家であり、本人達はまだ気づいていないが、家系図をかなり昔まで辿ればシャロンとアインハルトは遠縁の親戚とも言えた。

「まあとにかく、この薬を使えば再生は出来るだろう。問題は、薬の量がこれっぽっちしかないってことだ」

「生身の人間に直接撃ち込むならともかく、溶液に混ぜるとなったら体積的に厳しいよなぁ~」

「でもそれ以外に暗黒物質を抑える方法は無いんだよね? だったら成功することを祈るしかないよ」

「ん……祈るのはともかく、コイツがヒトになれるかは結局コイツの意思次第だ。勝てばヒトとして、負ければアンデッドとして降臨する……ま、再生を行う側なりのケジメはつけるが……」

好意を抱いた相手を二度も殺すことになる可能性を視野に入れながらも、ケイオスはゼータソルの薬液をシリンダー内に投与した。薬が効いている内にセインが再生処理を開始、シリンダー内が肉体再生の泡で覆われていく。

細胞単位で再生されていく彼女を前に、ケイオスは何を思うのか。ディエチは言葉にできないモヤモヤを抱きつつも、彼の隣でシリンダーを眺める。ナノマシンによる再生は凄まじい速さで行われているが……、

『異常発生! ナノマシン稼働率低下! 現在の稼働率による完全再生は不可能!』

「ん、予想はしていたが……セイン」

「今何とかするからちょっと待ってて! えっと……完全再生が不可能な場合、設定を変更すればナノマシンの稼働率に応じた体で再生できるんだってさ!」

「じゃあそれで」

「おけ! ぽちぽちぽちっと! さあ……どうだ~?」

再生処理の設定を変更したことで、シリンダー内に変化が生じる。ゼータソルのおかげで吸血変異せずに済んだ細胞が新たな生命を形作っていき、徐々にヒトの肉体を取り戻していった。そうして再生できるだけの肉体を取り戻した彼女は、まだ眠りについたままだったが……小さくも確かな命を感じさせた。

「ま、要は赤子なんだけどな。色んな意味で0歳児だから小さい小さい、文字通り生まれたての子供だ」

「元々死者だったことやゼータソルの量を考えると、肉体を構成できる細胞がこんなにあっただけマシだと思うんだ。下手すれば手のひらサイズになってた可能性だってあるんだし」

「手のひらサイズ? あぁ、融合騎ぐらいのサイズか~。それはそれで需要ありそうだな~」

「そういうのは別の界隈や業界にでも押し付けとけ。しかし興味深い……オリヴィエが元なのに、コイツには両腕がある。手段はどうであれ、この実験の目的は達成された訳か。で、どうする?」

「え? どうするっていきなり何のこと……?」

「名前」

「あ……そうか! 確かにこの子をオリヴィエって呼んだら色々マズいよね」

「まさかの名付けイベント! いや~ノッてきたよ~!」

「テンションが高いのは勝手だが……セイン、名前の案はあるのか?」

「ゴッドジャスティス!!」

「お前に訊いた俺が間違いだった」

「な、なんだとぉ~!? カッコイイ名前だろ、ゴッドジャスティス!」

「あ、あのね、セイン。名付けるのは必殺技じゃないからね? どう聞いてもそれは子供に、それも女の子に付ける名前じゃないよ。もし自分の名前がそうだったらと想像してみなよ……」

「…………。あ、あちゃぁ……あたしが悪ぅございました」

「ん、セインにまともな想像力があって何よりだ。で、話は戻るがディエチ、コイツの名前の案はあるか?」

「う、う~ん……子供の名前なんて考えたことが無いから、すぐには思いつかないよ。でもこの子の場合、オリヴィエに関わりのある名前にしておいた方が良いんじゃないかな? 今は限りなく近い別人とはいえ、元はオリヴィエ本人だったんだから」

「なるほど……もしオリヴィエ本人に呼んだとしても違和感が無い名前がいいのか。ならばあだ名を基にしてみるか」

「オリヴィエのあだ名?」

「ああ、覇王クラウスやエレミア、クロゼルグなどの知人はオリヴィエの事を親しみを込めてヴィヴィと呼んでいた。創造主からその辺りのことは聞いている」

「それでも良さそうだけど、もうひと捻り欲しいね。……そういえば、この子って一応王様なのかな? もしこの子が王様になれたとしたら、皆にヴィヴィ王って呼ばれるの?」

「国も無いのに王を名乗るのは、正直痛いぞ。あと聖王の血筋だろうと、ゲロ以下の臭いがプンプンする性根の聖王家から王位継承権が与えられるかは怪しいものだ。なぜかこの時代の人間は気にしていないが、オリヴィエも実際に王位についたのではないからな」

「あ~王様になってないのに王様って呼ばれるのは、確かに痛いね……。そう考えると聖王教会って、結構アレなんだね」

「そういう訳で、コイツが王になることは無い。ついでにもう一つ、聖王家をこの手でぶっ潰した俺がコイツを王と呼ぶのはどうも違和感しかない。故に王を半分に切って、“ヴィヴィオ”で良いだろう」

「ヴィヴィオ……うん、何だかしっくりくるね。名前も可愛いし、私もそれが良いと思うよ」

「あ、アタシも……一応ゴッドジャスティスよりは良いと思ったよ、うん。……でもゴッドヴィヴィオなら悪くは……」

「セイン、流石にしつこいよ」

「ゴッドブローされたいか、セイン? レクイエムの方でも構わんし、何ならフィンガーも選択肢にあるが?」

「何でもありませんでしたぁ!!」

やたらとゴッドにこだわっていたセインは、ディエチとケイオスの威圧感を受けて涙目で敬礼した。……ということで、この赤子はヴィヴィオと名付けられた。

シリンダーから取り出されたヴィヴィオはディエチが抱きかかえ、ケイオスの上着にくるまれて安らかな寝息を立てていた。セインがここの施設のデータを出来る限り吸い上げている隣で、ケイオスは空になった弾丸を手に眺めていた。

「訊きたいんだけどさ~、その薬使ったの後悔してる?」

「いや……後悔はしていない、ちょっと考えていただけだ。マキナが生きていれば、この一連の行動にどう反応していただろうか、とな」

「アタシは彼女自身じゃないから想像でしかないけど、仲間が自分の作った薬で命を救ったんだから、嬉しさで笑ってそう」

「確かに努めて明るくしていたからな、彼女は。だが、あれは空元気だ、やせ我慢で作った笑顔だ。今を喜びもするが、一方でその後の悲観も察する。この状況下で聖王の御神体そのものが現れたとなったら、大衆が騒いで担ごうとするに違いない」

「生まれたての幼女に寄ってたかって手を出してくる大人達……うわっ、言葉にすると犯罪臭しかしない!」

「色々違いはあるが、邪魔な連中が手出ししてくるのはシャロンも同じだがな。全く呆れる話だ……さて、ずいぶんと時間を使った。そろそろ攻略を再開しよう」

「それなんだけどさ、もしかしてさっきアンタが感じた大きな力の流れって、これのことなんじゃないかな?」

セインが端末を操作し、保管されていた記録をパネルに表示する。そこに記されていた情報を見て、ケイオスは納得したように頷いた。

「やはり……ここは世界を支える柱の一つだったか」

ケイオスが感じた大きな力とは、この星の生命力……即ちベルカのエナジーであり、ミッドチルダという外郭大地を押し上げているエネルギー源であった。ミッドチルダでパイルドライバーが使えたのは、ベルカのエナジーがその外郭大地に注がれていたからだった。

「へぇ~、ここは世界樹であり魔晄炉でもある場所なのかぁ。それじゃあミッドチルダはある意味ミッドガルだったってコト?」

「俺としてはアルテリアとクレイドルの関係を思い出すが、どちらにせよ笑えない話だ。おまけにイモータルの手で設定をいじられたのか、エネルギーをギジタイにも送るように変更されている。ギジタイが展開する次元断層にここのエネルギーが使われていたから、シャロンの歌が次元断層を貫いた時、修復のために出力が一時的に上がった。だからここを破壊すれば次元断層を一気に弱体化させられるが、同時にミッドチルダの大地を支える柱が消えるから……」

「外郭大地が崩壊し、自然災害以上の犠牲が出る……!?」

「ん、だから迂闊にここを壊すと、とんでもない事態が起こるのがわかった。犠牲を出さずにミッドを脱出するには、少なくとも柱の設定を元に戻して大地を維持できるようにしなければならない。まあ、ミッドの大地が崩壊してもいいから脱出するって手段もあるが……」

「大量の犠牲が出るから、ヒトとしてそれは絶対やっちゃダメな奴!」

「ん、シャロンのためなら一億や十億の犠牲が出ようと俺はやるぞ?」

「だからダメだっつぅの! わざわざ犠牲が出る手段を取らなくてもいいじゃんかぁ!?」

「ま、シャロンは望まないだろうからやらないよ、今の所は。だからセイン、穏便に済ませるには今ここで設定を元に戻すのが良いと思うんだが、出来ないか?」

「うわっ、プレッシャー重ッ……!? あ~もう! 一応やってみるけどさ! アタシそこまで責任背負えるタイプじゃないんだからな~!」

端末を操作し、ギジタイに星のエナジーが流れないようにできないか試すセイン。彼女なりに必死に色々やってみた所、設定の変更には最上位の管理者権限が必要だった。

「最上位の管理者権限……」

「どうもこの施設は外郭大地を作った際に管理局の管轄に置かれたっぽくて、周知されてないだけで今の管理局にも権限が継続されてる。管理局で最上位の権限ってなると……やっぱ最高評議会かなぁ」

「ん、要するにミッドの大地を壊さずにギジタイの次元断層を消し去るには、星のエナジーの流れを元に戻す必要がある。で、変更には管理局最高評議会レベルの権限が必要、と……」

この時、ケイオスはシャロンがゾハル・エミュレーターを持っていて、それをブルームーンの管理局製SOPサーバーに認証すれば、彼女に管理局最高評議会の権限が手に入ることを思い出した。

「なるほど、次は月か……」

「月?」

「戻った後で話す。にしても施設の守りが思ったより少なかった理由がこれでわかった。最深部まで攻め込まれた所で、今のままじゃ誰も目的を果たせないんだからな」

「最高評議会の権限をどうやって手に入れるのかはさておき、敵の重要拠点を落としたのは吉報じゃん」

「ん、そうだな。とりあえずこの端末のアドレスは入手しておこう。シオンに任せればリモートで、わざわざもう一度ここに来なくても遠隔操作できる。それにヴィヴィオや重要情報を回収できたし、成果は十分だろう。ではセイン、ディエチ、今回の調査任務は完了だ、帰還しよう」

「おけ、アドレス入手っと……ぷっはぁ~! 肩の荷が下りた~!」

「あ、これから帰るんだね? わかった、ヴィヴィオもこんな辛気臭いところから早く出してあげたかったから、良かったよ」

ということで、未踏査領域の調査任務は非常に有益な情報と、ヴィヴィオという赤子を保護するという結果に終わった。

「ところで、今回ナノマシンで再生された聖王を見つけたけど、もしかしたらプロジェクトFで再生された聖王もいるかもって……」

「そういうフラグみたいなこと言うな、本当にいたらどうする」

「その時は今度こそアタシが名付けるからな~! セイン姐さんとの約束だぞ!」


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ミッドチルダ北部、聖王教会

「あ~やっと目的地に到着したぁ」

「なんか、すまんな」

と、ティーダの私物のバイクから降りるゼスト。彼の重量が抜けてバイクのフレームが少し浮く感覚が伝わったティーダは、ちょっと遠い目をする。

「どうせ後ろに乗せるなら、カワイイ女の子を乗せたかった……」

なお、平時は妹を乗せることが多かったが、今の状況では街中にモンスターがうろついており、自動車はあまり有効な移動手段にはならなかった。ヘリで来ようにもパイロットがいなかったのと、燃料の備蓄があまり無かったので小回りの利くバイクを使ったのだ。

「しかし……クラナガン北部に入ってからモンスターの姿が見当たらないな」

「中央部を抜けるまで、スライムのせいで何度も迂回させられる羽目になったから、北部が片付いていたのは嬉しい話っすけど……十中八九やったのはアウターヘブン社だろうなぁ……」

「モンスターの事を気にせずにいられるのは僥倖だ。おかげでこれから来るアンデッドと高町なのはの相手に集中できる」

「それもそうだけど、モンスターなら一応魔導師でも倒せるのに、管理局が何もしてなかったって点も意識した方が……」

そこまで言葉を告げたその時、視界に映った凄惨な光景と異様な静けさが漂う教会に二人は違和感を覚える。周囲から戦闘音は無く、教会はリトルクイーンの影に喰われたせいで死体がほとんど残っていなかったが、建物はまるで空襲にでもあったかのようにあらゆる場所が破壊されていた。

「結界無しで高ランク魔導師同士が衝突すると焦土化するって聞いてたけど、こうして目の当たりにすると酷ぇな……あの清廉な雰囲気だった教会が、これじゃもう廃墟同然じゃないか」

「それよりも気を付けろ、ティーダ。戦闘音がしないということは……」

「フェイト執務官と高町なのはの戦闘に片が付いたってことか。マズいな……どっちが倒れても状況は悪くなる。フェイト執務官が高町なのはを捕縛しているのが一番良いんだが、地上本部に連絡がないってことはフェイト執務官が殉職したという最悪の可能性も考慮しないといけない」

「やはり……歌姫に手を出すべきではなかったか……」

ゼストが目に見えるほど消沈するが、一方でやらなかったら彼ほどの実力者が上官の命令不服従という問題を起こしていたことになる。それが公に知られれば、先のアルガス達みたく大勢の局員が一斉に辞めてしまうことは十分にあり得た。尤も、離反が起こるのは時間の問題だっただろうが。

「エリアサーチ、誰か一人ぐらいは生きててくれ……! ………………ッ! 隊長、生命反応探知!」

急ぎ反応のあった場所に向かうと、そこには体中を切り刻まれたシスターが倒れており、その場に発生している血だまりが彼女の流血の酷さを物語っていた。

「弱いけど脈はある! 応急治療を行う!」

「頼む、ティーダ。俺は救護部隊の派遣を要請しておく。……む、もしや彼女は、シスターシャッハか?」

シャッハほどの武闘派が倒されるとは、高町なのはの力が想定以上に跳ね上がっていると推測した。ティーダの応急治療により、シャッハの呼吸が少しずつだが戻り始めていた。

「ぐ……ゴボォッ!?」

「ま、マジか。どんだけタフなんだよこのシスター。この状態で意識を取り戻すって……」

「彼女もベルカ騎士だからな、当然だ」

「うわ、当然の基準がおかしい!? ベルカ騎士ってやべぇ……」

「……騎士……ゼスト……? すみ……ません、お見苦しい……姿を、ゴホッゴホッ!」

「無理に動くな、血が足りなくなるぞ」

「……は、い」

「ティーダ、傷の具合は?」

「俺は医者じゃないから素人意見になるけど、なんで生きてんの? って真剣に尋ねたいレベル。とにかく刃物で斬られた回数が尋常じゃない。まるでフードミキサーにかけられたようなもんだ。おまけにどうやったのか知らないが、リンカーコアが完全に消失しているから魔導師としての復帰は不可能だ」

「リンカーコアが消失だと……?」

「いえ、奪われたのです……彼女は……もう、人間じゃない。アンデッドと、同じく……攻撃が一切、通りません……」

「つまり今の高町なのははアンデッドのように通常攻撃を無効化し、かつリンカーコアを奪う力を持っていると。個人の魔導師生命を終わらせることに特化しているな……」

「となると、対抗策が見つかるまで直接の戦闘は避けた方が良いか。しかしシスターシャッハ、フェイト執務官の戦闘はどうなったのだ?」

「……わかりません」

「そうか……」

「……カリムは? 騎士カリムは……どちらに?」

「これから探す。もうじきここもアンデッドの軍勢に襲われるから、急いで見つけて戻らないといけない。ってな訳で、応急処置で出血だけは止めたけど、これ以上は救護部隊に任せ―――」

「むッ!!」

不意にティーダの背中に迫る攻撃の気配を察知したゼストが、咄嗟に自らの槍でその攻撃をいなす。不意打ちを防がれ、下手人がブロードソードの重みに引っ張られてバランスを崩した所にゼストは続けて下手人の胴目掛けて薙ぎ払いを放つ。なぜか防御の動きを一切せず、くの字に折れ曲がって吹き飛ばされる下手人。

「な、貴女は……!」

「え、ちょ……嘘だろ」

ゼストに続き、いきなり襲ってきた敵の正体に驚くティーダだが、彼の身体に隠れて見えなかったシャッハも下手人の姿を目にして思考が一瞬真っ白になるほどの衝撃を受けた。

「ア……アァ…………」

「か、カリム……!? そんな……こんなことって!!」

沈みかけの夕日に照らされて黒煙を上げつつ立ち上がるのは、全身から血の気が消え去り、見るも無残なアンデッドになり果てたカリムだった。

「ふふふ……」

そんな彼女の姿に驚愕するティーダ達の真上から、少女の笑い声が聞こえてくる。シャッハは二度目ということもあり、本能的に理解した。そこにいるのは……!

「高町なのは!!」

「あれれ? ま~だ生きてたんだ、シスターシャッハ。その怪我じゃ動くことすらままならないだろうけど、あんなに斬られたのに生きてたのは正直驚いたよ」

「高町……貴様、騎士カリムに何をした!?」

「私の中にある暗黒物質を彼女にた~っぷり注いであげたんだよ、騎士ゼスト。月光仔じゃない彼女にグールじゃ耐え切れない暗黒物質を与えたら、そこらの研究者が血涙を流すような結果になったよ」

「……」

「彼女は預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)の保持者にして、闇の眷属の一員として生まれ変わった。彼女と戦えるかな?」

「なんて卑劣な……!」

「さ~カリム、命令の続きだ。そこの人達を皆殺しにして、生かして帰してはならないよ」

「……!!」

ニヤリと笑うなのはの瞳が赤く輝き、カリムの動きに変化が現れる。操り人形みたくカクカクした動きから、まるで歴戦の戦士に匹敵する速度で斬りかかってくる。即座に切り結ぶゼストは、本来内勤続きだったカリムにはあり得ない膂力と反応速度を出してくる彼女に、暗黒物質がヒトとしての枷を壊したのだと直感で理解した。

「そうか……! 高町、貴様はカリムの脳が定めた限界を破壊したのか!」

「ピンポ~ン! 皆大好きリミッター解除って奴だよ。ホント、暗黒物質は素晴らしいね。吸血変異より先に暗黒物質が浸透したら、戦士じゃないヒトでさえ簡単にベルカ騎士に並ぶ力を得られるんだもの」

「ふざけるな! 限界を超えて酷使すれば、ヒトの肉体は容易く崩壊するぞ!」

「でもヒトの社会はそれがお望みなんでしょ? 今無理して死ぬか、過労とかで死ぬか……時間が違うだけで、結末は同じだよ。誰だってそう……ヒトは自分が望むものを他人に強要する。親は子に、上司は部下に、研究者は被験者に、強者は弱者に、周りは自分に……そうやって他人に対し、自分が望んだ在り方を命令する。騎士ゼスト、それがわからないあなたじゃないでしょ?」

「クッ……!」

実際アルガス達が離反した件が堪えているのか、ゼストは歯噛みをして言い返すことができなかった。それでもカリムとの戦闘に集中を切らさず時に反撃している辺り、現最強騎士たる力量を垣間見せていた。

「カリムッ! しっかりしなさい……カリム!!」

一人では動けないシスターシャッハだが、懸命にカリムへ声をかける。ティーダはそんな彼女を守りつつ、ゼストとカリムの戦いを上から見下ろす高町なのはの動きに警戒していた。

「アァ……そこにいるのは……シャッハ?」

「カリム、あなた意識があるのですか!?」

「ここは……どこなの? 暗くて……何も見えない。私は……何をしているの? 体の感覚が……あやふやなの。立っているのか……座っているのか……倒れているのか……全然……わからない」

「カリム……今あなたは高町なのはに操られています! ……ゴホッ! き、騎士ゼストがあなたを止めようと、してくれています!」

「私は……戦っているの? なんで……ううん……だったら逃げて……。でないと私は……私は……!」

「カリム! くっ、この体さえ……動けば……! ゴホッゴホッ!」

傷が開くことも厭わず説得を試みたシャッハだったが、今のカリムは体の自由を奪われており、彼女達にこの状況を変えうる力は無かった。

「お願い……誰か、私を殺して……。辛い……苦しい……、体の感覚もないのに……いろんな所が……痛いのよ……。でもそれ以上に……怖い……! 記憶が少しずつ……無くなっていくの……! 私が……消されていく……!」

「聞こえるか、カリム。気を確かに持て! そうだ、ゼータソルだ! ゼータソルがあれば助かるはずだ!」

「あまり言いたくないけど、それは無理だ、ゼスト隊長。ゼータソルはアウターヘブン社しか持ってないし、そもそも連日の襲撃のせいでミッド支部の在庫に残ってるかどうか……」

「他に……他に方法は、無いのですか……!?」

「いや……もう……ダメ……、苦しい……早く……殺して……! 誰かが……ささやいてる。早く堕ちろって……誘ってる……脅してる……! 何とかして……誰か……助けて……楽にして……!」

カリムの懇願に皆が何とか彼女を救いたいと思いつつも、しかしそれは無理な相談だった。この戦闘中、何度かゼストの攻撃を受けているが、アンデッドと同様にエナジー無しの攻撃では彼女にダメージは通らない。何事もなかったかのように立ち上がっては再度攻撃を繰り返してくる。

「くそ、何か打つ手はないのか……! いつまでもこうしていては、後続の軍勢までもが来るぞ!」

「……撤退しよう」

「な、ティーダ執務官! それではカリムが!」

「今は無理だ。それにシャッハさんも怪我が酷いんだから、早く治療しないと本当に死んでしまう」

「守るべきものも守れず、私だけが助かった所で……!」

「想定はしていたが、やはり旗色が悪い。ティーダ、撤退するぞ!」

「騎士ゼスト!?」

「仲間に勝ち目の無い戦いをさせる訳にはいかんのだ。ティーダ、彼女を連れて先に戻れ!」

「了解!」

「ま、待ちなさい! まだ話は……!」

シスターシャッハが文句言ってくるが、ティーダは無視して彼女を担いで教会入り口に止めた自分のバイクの元へ向かう。なお、足止めに徹しているゼストは飛行魔法が使えるため、撤退は単独でも可能だ。

止めたバイクが視界に入り、走る速度を緩めないままティーダは懐からバイクの鍵を取り出そうとした直後、突如として教会の方から巨大な影が伸びてくる。その影がティーダを通り過ぎてバイクの足元まで達した時、影から暗黒の腕が飛び出てバイクを掴むと、ぐしゃりと握り潰してしまった。

「お、俺のバイクぅ!?」

「今のは……!」

「あっはっはっ、どこへ行こうというのかな?」

「やっぱり邪魔してきたか、高町なのは……! つーか他人のバイク壊すなよ!? こちとら生活費やら家賃やら妹の学費やらで家計がキッツキツなんだからな!?」

思わぬ出費に頭を抱えるティーダの怒りもよそに、なのはは左腕の籠手に集束していた闇を掲げ、ダーク属性の魔力弾と暗黒の腕を放ってくる。本能的危機感が働いたティーダはシャッハを担いだまま咄嗟にデバイスを構え、暗黒の腕を避けながら魔力弾を放ち、なのはの魔力弾を全て相殺した。

「へぇ?」

「一応、局員としての君の情報は頭に入れている。魔力量も高いが、ひと際魔力のコントロールに長けている、と。つまり君の攻撃を消さずに残せば残すほど、フィールドが乗っ取られるって訳だ。その性質を簡単に言うとDFF皇帝だな」

「その例えには異議を唱えておくよ。私の魔法はあそこまで遅くないもの」

「トラップを仕掛けてくる点はそっくりだろ。そんで戦う前に訊きたいんだが、高町なのはさんよ。ここは一つ見逃してくれ~なんて言っても、やっぱり駄目かねぇ?」

「そうだねぇ……あなたの一番大切な人の命を差し出してくれるんなら、考えてあげてもいいかな?」

「おっと、そいつぁ聞き入れる訳にはいかないね……!」

この時、ティーダの脳裏に映ったのは最愛の妹ティアナの姿だった。彼女が今いる管理局地上本部を横目で見たティーダは、改めて高町なのはと対峙し……、

「ふふふ……」

「何がおかしい?」

「地上本部に避難しているんだね、あなたの大切な人」

「そりゃあ今、市民は地上本部かアウターヘブン社のどっちかに避難してるんだから、二分の一の確率で当たるだろ」

「あ、考えてみれば当然だね」

「おっと、戦う前にさっきはカリムさんの件で聞きそびれたんで、今のうちに質問させてくれないか? 俺はエナジー使いじゃないから勝ち目が無いんだ、なら冥土の土産に教えてくれたって良いだろう?」

「へぇ……言ってみなよ?」

「まず……フェイト執務官の行方は知らないか? あと、他に聖王教会にいた人はどうした?」

「ん~、一つ目の質問だけど、フェイトちゃんはエリオ君が捕まえたよ。多分、公爵の所に連れて行ったんじゃないかな?」

「管理局きってのエナジー使いが、両方ともイモータルの手に落ちたのか……」

「それで二つ目の質問だけど……もう、喰っちゃった」

「ッ!!」

ティーダに担がれているシャッハが今の返答で、怒りと屈辱で血が流れるほど歯を食いしばる。ティーダも他の生き残りがいないことに強い哀しみと憤りを抱くが、しかし頭はいたって冷静にこの状況を生きて打破する術を模索していた。

「(正面から戦っても勝ち目がないのは変えようがない事実だ。アンデッドの軍勢ももうすぐ来るし、何より夜になったら相手の力が増す以上、時間稼ぎも意味が無い。怪我人もいるんだし、戦闘は最小限かつ逃走に専念す―――ッ!?)」

ぐしゃりッ!

「―――しまッ!?」

「足元注意♪」

なのはの影から伸びる暗黒の腕で両足を握り潰され、ティーダはまともに立っていられず膝をつく。なのはの一挙一動に意識を向けていたせいで不意打ちに気づいた時には既に遅く、まんまと機動力を奪われてしまったのだ。
なお、シャッハの体は最初落とさなかったものの、影から暗黒の腕が無数に伸びてきてティーダの全身を掴んで地面に押さえ付けた際、転がり落ちたことで彼女も地面に押さえ付けられる羽目になった。

「あ、足がッ! くそぉ……!!」

「は、放しなさい……!」

「や~だよ。せっかく来てくれたご飯を逃がす訳ないじゃん」

「ご飯……だと……!?」

「そうだよ。この教会はもはや私の食卓で、あなた達みたいな人達がわざわざやってきたら蜘蛛の巣みたく捕まえる場所に仕上げたんだ。だって他人には優しくするのが一般的な人道ってものだものね」

「外道が……!」

「ふふふ、外道って呼んでくれてありがとう。そもそもあなた達の言う人道だって腐ってる部分がある、でも皆それを見ないようにしている。自分の信じる考えは全部正しい、間違ってる部分があるはずがないってね。ほら、どうあがいても抜け出せない生き地獄から抜け出すために死にたいと思ってる人も、あなた達は無理やり生かそうとする。生きることが絶対に正しいと思い、本人の苦悩や苦痛、境遇を無視する」

「そ、それでも無暗に死ぬよりは良いでしょう……! ヒトはどれだけ辛くとも生きていかなくてはならないのです……!」

「ふ~ん、まだそんなこと言うんだ。じゃあ……実際になってみようか、シスターシャッハ?」

何かを思いついて不気味に嗤う高町なのは。すると暗黒の腕が二人を拘束する力が増し、身じろぎさえ出来なくされる。
沈みかけの夕日に照らされ、紅く煌めく共和刀。高町なのはがそれを振るった次の瞬間、

「あ、ああぁあああああああああ!!!!」

シャッハの左脚が斬り落とされる。だが切断された場所から血は飛び散らず、流れ出ることもなかった。なぜならば傷口を覆うように暗黒の腕が取りつき、シャッハの体内へ浸食していったからだ。彼女の悲鳴はそれによる激痛が原因だった。マムシが直接入り込んだように彼女の脚の皮膚が脈動を打つ光景に、ティーダは心底怖気を感じていた。

「これ以上は出血多量で死んじゃうもんね、生かすためには適切な治療が大事だよ」

「あぁ!!? ひぎぃ!!?」

「う~ん、でもこれじゃまだ足りないなぁ。ま、生きるためなんだし、しょうがないよね♪」

「や、やめ―――ッ!?」

ズバッァ!!

「ぎゃぁああああああああ!!!!!」

「うんうん、両脚からならバランス良く変えていけるね。で~も、まだまだ足りないなぁ。せっかくだし、両腕からも変えていった方が早く済むよね♪」

「ひっ!? お、お許しを……どうか、お慈悲を……!」

「んん? 命乞いってもしかしてシスターシャッハともあろう人が、痛みで屈服しちゃった? それとも四肢を失うことに絶望しちゃった? あっはっはっ! なら所詮あなたも健常者の視点しか持ってない、だからはやてちゃんの事だって本当は何も理解できていない。あなた達がそんなんだから、アルビオンとカエサリオンの真意を把握できなかった。色んな人が悩み苦しむ状況を変えることができる立場も力も持ってたのに結局何もしないなんて、あまりにつまらない人だよね」

ズバァッ!! ザシュ!!

「いやぁあああああああ!!!!!」

「―――そんな人は世界にいらない、余計なことも何も考えないアンデッドになった方が良い。それが世界のためになる。シスターシャッハ、よく聞いて。その激痛は私の手であなたがヒトのまま生かされてるから味わってる、でも死はその苦しみから救い上げてくれる。地獄から解放してくれるんだよ……」

「か、かいほう……!?」

「うん、解放だよ。あなたがさっき言った言葉……どれだけ辛くとも生きていかなくちゃいけない、だっけ? あなたがそれを守り続ける限り、その苦痛はずっと続く。今、あなたの体には私の暗黒の腕が入り込み、ヒトとしての理性は保ったままアンデッドに変異させている。もしこの状況から助け出されたとしても、私の暗黒の腕が入り込んでいる以上、その変異が治ることはないし、苦痛が取り除かれることはない。ゼータソルを使っても、パイルドライバーを使っても、二度とヒトに戻れない。でもアンデッドだから死なないし、痛み止めも効かない、魔法でもどうしようもない。死ぬならエナジー使いの誰かに殺してもらうしかない。……わかる? 生きようと思えばいくらでも生きられるけど、その代わりに地獄の苦しみが常に付きまとう。アンデッドとして普通の人達から敵視される。誰にも理解されない屈辱を味わい続ける。自分は死にたいのに他人のせいで生かされるって、要はこういうことなんだよ?」

「た、助けて……助けて下さい!」

「助けて? それは“どっち”の意味かな? 生きたいの? 死にたいの? それだけじゃわかんな~い♪ あはははははは!!」

……。

シャッハに生きることへの絶望を与えるさまを目の当たりにしたティーダは高町なのは……否、リトルクイーンの狂気に恐怖したが、しかし彼女の理屈にはある程度の筋を感じた。今の社会、生きる権利はともかく死ぬ権利はどうにもあやふやだ。自殺が忌避されやすいってのはあるが……他人の手を借りてでも死にたくなる状況があるのは認めなくてはならない。

第97管理外世界地球、1978年~1989年、アフガニスタン紛争。ソ連・アフガン戦争とも呼ぶその戦争で、ソ連軍は焦土作戦を行った。故郷を焼かれた人達はムジャヒディンという反政府組織で抵抗運動を行った。その中でもパシュトゥーン人は復讐の掟があり、彼らに捕まったソ連兵は生きながらに手足を落とされ、鼻を削がれて道端に転がされる。惨たらしい姿を同胞に見せつけるために。そして……その人を見つけた所で結局楽にしてやるしかない。そう、今まさにシャッハはそれと同じ状況に陥っていた。

「(さっき彼女は変異させている、と言った。ならシスターシャッハはまだ完全にはアンデッド化していない、つまり……まだヒトでいる今なら魔法で死ねるってことだ。そしてこの状況でそれが出来るのは俺だけ……だがそれは……)」

守るために使ってきた自分の銃弾が人の命を奪うことを意味した。彼女の苦痛を取り除くためとはいえ、果たしてそれを世間が許してくれるのか……自分が人殺しになったことで最愛の妹に嫌われたり、最悪ティアナに誹謗中傷の目が向けられる可能性だってありえた。

「解放して……私を解放してください……もう、死なせてください……!」

「ふ~ん、でもヒトはどんなに辛くても生きなくちゃいけないんでしょ? それが一般的な人道なんだし、それだけは破らせない私ってば超やっさしぃ~♪ ほら、ネットとかニュースでこの状況を伝えても、ある程度は死に理解を示す人はいるだろうけど、一方で絶対に死ぬのだけはダメ的なこと言う人もいるよ。本来関係ない意識や差別感情などと結び付けてでもね。でもどっちの意見も完全否定はされない、だってそれがあなた達の正しい“人道的理屈”なんだもんね~」

「前言撤回します……! こんなに辛いなら死んだ方がマシです! もう嫌だ……死にたい……早く死なせてください!」

……助けを求めるというのはどういう形であれ、今味わっている苦しみを誰かに取り除いて欲しいという懇願だ。それが例え……命を奪うという手段であろうと……!

「んん? あれは救難信号弾? なんであんな場所から……」

北の空でマリエルが使った救難信号弾の光が煌めく中、ティーダはリトルクイーンに悟られないようにデバイスの銃口をシャッハの方に向け……、

「ごめん……!」

BANG……!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


?????

周囲には宇宙目前の高空のような真っ青な世界が広がっていて、私はその中で夢見心地のような感覚で宙を漂っていた。何というか……死後の世界ってこんな感じなんだろうと思わせる場所だった。

記憶では……マールートの紋章を手に入れ、哀しみの感情で頭の中が染まった所で途切れている。哀しみは怒り以上に私を揺さぶる感情だ。なぜなら私にとって、哀しみは過去を思い返した時に最も色濃く残っているからだ。そしてこれは私だけに限った話ではないだろう。

哀しみの記憶は思い出すだけで辛いから、大抵の人は忘れようとする。でも私はアクーナの民の苦しみを忘れてはならないと思い、常に心に留めていた。それが今回、悪い方向に作用したのだろう。結果、心が壊れる前に脳が生存本能で情報の遮断を行い、私は意識を失った。要は昔のザジさんが星読みの情報負荷に耐え切れず、記憶を失ったのと似たような状況だ。まあ、彼女のそれと比べると、こっちの程度は記憶喪失に至らないだけマシなんだろう……。

ただ……それだとこの場所にいる説明がつかない。私の精神世界なら一応イクスがいるはずだ。彼女の声すら聞こえないとなると、ここは私の精神世界ではないことになる。かといって現実世界でもなさそうだし……。

――――。

何、今の。呼ばれた? 誰に?

直後、私の目の前に巨大な……次元航行艦ぐらい大きい巨大な異形のモノが光を伴って現れた。亀のような甲羅を背に、一部が腐食か切断で崩壊し、所々が化石化した、人面顔のグロテスクな巨大な生命体……。

“それ”は神にも匹敵する威圧感を私に投射してきた。私の体の全ての遺伝子が全力で恐怖を叫んでいる。この恐怖こそ“絶対者への恐怖心”そのもの、それ以外に表現できる言葉は存在しなかった。

圧倒的だった……あまりに圧倒的だった。神と呼ばれるモノがいるとしたら、まさに目の前の存在こそがその神だと確信した。

逆らうな、抗うな、選択を受け入れろ。それが私という個を維持する最善の方法……なのだが、どうしてかこの存在に対して私が抱いたのは恐怖だけではなかった。まるで実家の母のような懐かしさと愛おしさ……そして……。

――――。

あぁ……包まれる。()の抱擁が私の心を溶かし、()の愛が私に力を与える。このまま消えることができるならば、なんと幸せな最期だろう……。それほどまでに強く、抗い難い幸福感……いや、抗う必要なんてない。このまま記憶と魂を捧げ、神と同化すれば、私の身と心を蝕み続ける報復心から解放される……怒りにも悲しみにも苦しむことはない。そう、何もかもを忘れて幸せに……。

忘れて……? 本当に忘れていいの、私? ジャンゴさん、おてんこさま、ザジさん、リタさん、スミレちゃん、スミスさん、棺桶屋さん、レディさん、ハテナさん、シャイアンさん、キッドさん、マルチェロさんにルイスお爺さん、エンニオお爺さん……サン・ミゲルの人達に仲間として受け入れてもらい、共に暮らした太陽みたいな光の記憶を。

そして……サバタさん、マキナ、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ……初めてアクーナの外で大切に想えた人達、彼らからもらった運命に抗う心の強さ。辛くても未来を掴もうと戦い続ける意思。闇の中でも尊き輝きを放つ月の記憶を。

確かに次元世界で味わった苦悩と苦痛……闇の書による大破壊や、リトルクイーンによる親友の殺害などといった闇の記憶はいっそ消し去ってしまいたい。でも、世紀末世界の人達や大切に想った人達との記憶を消してでも、闇の記憶を消したいのかと思うと……正直、抵抗はあった。だから……、

――――、……。

自らの愛に取り込もうとした神たる存在が、私から抵抗があったことにほんの少し驚いた気配がする。しかしそれも微々たるもの、神にとってそれはただ、小物についた汚れを取り除く作業程度に過ぎなかった。だが、その一瞬が“彼女”にチャンスを与えた。

私が下げているお守りから突然、黒い薔薇の花弁が放出されたと同時に私の足元から巨大な黒い花弁が私を包み込み、つぼみとなって眼前の存在から見えないように覆いつくした。直後、そのつぼみが開花して散った時、私の存在はこの世界から消え去っていた。残った神たる存在は、人面顔の無表情もそのままにその場で溶けるように姿を消すのだった。










「―――――ケハッ!? はぁ、はぁ……」

「大丈夫ですか、シャロン!?」

気付くと、全身に包帯を巻いた少女が必死な形相で私のすぐ目の前にいた。えっと……、

「……顔近いよ」

「いやそんな冗談言ってる場合ですか!? いきなりあなたの魂が昇天していく光景が見えたので、こっちは血の気が引くほど驚いたんですよ!?」

恐らく、例の存在に吸い寄せられた時のことだろう。そのせいか記憶が一部混濁していて、彼女の名前をすぐに思い出せなかった。確か彼女は……い……い……。

「いくっす……?」

「あの世へゴートゥーする気ですか! もう……! 本気で心配したのに、からかわないで下さいよ……」

「なんか……ごめん。イクス……でいいよね?」

「嫌われたと思ったのかもしれませんが、私が元王だからって今更呼び方を改めてもらう必要はないです。そこまで狭量じゃないですよ、私。むしろシャロンに他人行儀な対応されると私の方にダメージが……」

意外と依存していたのか、彼女は目元に影を落としながら呟いた。少し悪い気もするが、このやり取りの間に記憶を安定させることができた。彼女……イクスヴェリアのことも、これでちゃんと思い出せる。ただ、彼女がいるってことは、ここは私の精神世界か。まだ現実で目を覚ましていないのはともかく、さっきのは一体何だったんだろう?

「あれは破壊と創造の神たる存在……すべての始まりであり、終わりなるもの」

そう呟いたのは、イクスの後ろにいた黒いコートをまとった赤毛の少女だった。いや、姿を見たことは無いが、声だけは聞き覚えがある。次元世界に来る直前、太陽樹から聞こえたあの声……。

「もしかして、赤きドゥラスロール?」

「正確にはその分け御霊……分身や端末って言えばわかるよね。本体はサン・ミゲルの太陽樹と同化していて、力の一部を分離したのがこの私」

彼女について、私はある程度知っている。かつての戦い(ゾクタイ)で、サン・ミゲルを覆った暗黒樹の本体にして、ジャンゴさんが倒したソル属性のイモータル。最終的には太陽樹と同化し、サン・ミゲルに生命の芽吹きをもたらしていると。つまり紆余曲折あったとはいえ、彼女も今やサン・ミゲルの住人だと言える。

「いつからいたの?」

「次元世界に来る少し前、あなたに魂の欠片を渡した時よ。あなたのことだから万が一にと思って潜んでいたんだけど、残念ながらそれが的中したようね」

「あはは……面目次第もございません……」

「でも、あなたが抵抗したおかげで吸収される前に取り戻せた。もしあのまま誘惑に負けて眠りについていたら、今までの戦いが無意味になる所だったわ」

「抵抗しておきながら今も心惹かれてるけどね……ところで、一体あれは何だったの?」

「……デウスよ」

「デウス!?」

忌まわしいその名を聞いて、イクスが心の底から驚く。当然だ、彼女にとってデウスとは親友を殺す羽目になった原因であり、トラウマの一因でもあるのだから。

「ど、どういうことですか!? デウスは私達が倒して封印したはずではないのですか!?」

「イクスヴェリア……あなた達が過去に倒したそれは、デウスの抜け殻をガレアの敵国が見つけて利用したもの。デウス本体ではないわ」

「そ、そんな……あれが本体じゃない!? では私達の戦いは……あの地獄は一体何だったのですか……!」

思わず両手で顔を覆って崩れ落ちるイクスだが、無理もない。親友を殺してまで倒したはずが、実は本物じゃないって聞いたら感情が乱れるに決まってる。

「ドゥラスロール、知っているなら教えて。なぜ、デウスが私を取り込もうとしたの?」

「……心当たりはあるでしょ? ついさっきの出来事だもの」

「ついさっき……マールートとハールートの紋章を手に入れたこと?」

「その二つはデウスに由来しているわ。だからデウスが力の流れの異変に気づき、あなたに接触してきたの。今は私の力で接続を断ち切ったから、さっきのように精神が捕縛されることはないはずよ」

「操られたナンバーズから斬奪したあの光の塊はデウスのもの……力自体は干渉してこないけど、本体が私も操ろうとしたってことか。……じゃあ斬奪は出来ればあまりしない方が良い?」

「率直に言えばそうなるわね。あなたの斬奪は相手を浸食している力を得られるし、相手を助けることもできる。けどその分、あなたの体と心を蝕むわ」

つまり誰かを助けたら助けただけ、私が苦しむ羽目になるのか。時と場合によるけど、見捨てる覚悟も必要になると……何とも使い勝手に困るなぁ、この力。

「そういえば私が取り込まれたら、今までの戦いが無意味になっていたってどういうこと?」

「あなたも感じ取っていたはず。あれの力は神と言っても過言ではない、その思考も世界の味方ではない、そんなのが目覚めたら何が起こるか想像つくでしょ?」

「全ての消滅……次元世界も世紀末世界も、無限に渡る並行世界も含めた何もかもが一切合切消える。残るは無のみ……」

「だから皆、あれを目覚めさせないようにした。でもそれが結果的に、世界の未来を閉ざすこととなってしまった。今までに無数の人達がこの輪廻を壊そうと戦ってきたけど、結果はご覧の通り。世界は未だ、輪廻から抜け出せていないわ」

ツァラトゥストラの永劫回帰のことだね。最高評議会から世界がループしてる事は聞いている。なるほど、デウスを目覚めさせないためにツァラトゥストラがあるのか。……ん?

「ちょっと待って、ドゥラスロール。あなた、どうしてそんなに詳しいの? 太陽樹と同化したとはいえ、あなたは世紀末世界の存在。次元世界の事情を知る機会なんて無かったはず……」

まあ、私の知覚範囲のことなら知ってただろうけど、それは置いておく。

「黒兄さまから聞いたの」

「黒きダーインのことだね。でも彼も浄化されたはずじゃなかった……?」

「数奇な運命の下、ジャンゴに浄化された後に黒兄さま達も次元世界に再臨したのよ。でも黒兄さま達はラタトスクのように復讐に走ったり、再び計画を始めたりしなかったわ」

「何というか……影の一族はやる気失くしてたの?」

「単刀直入に言うとそうなるわね。別にジャンゴ達に浄化されたから不貞腐れてそうしてたんじゃなくて、また長きに渡って封印されるより、どんな形であれせっかく兄妹そろったのだから……ということで世捨て人のようにひっそり暮らそうとしたらしいわ。今では私も命を見守ることに意義を見出しているから、もし一緒に再臨したとしても同じようにするわね」

それって言い方はアレだけど、イモータルが面倒くさがって何もしないという、ある意味ヒトにとっても都合の良い状態だったのか。ってことは、この世界にいた彼らがそのまま暮らせていれば、次のイモータルが攻めてくることは無かったのかな?

「まだ世紀末世界で存在している以上、私は一緒にいられなかったけど黒兄さま達、最初は上手くいってたみたい。でもツァラトゥストラの永劫回帰は星も銀河も、ヒトもイモータルも全て分解してしまう……白姉さま(ドゥネイル)も、青姉さま(ドヴァリン)も……」

「……」

「でも黒兄さまだけは、ツァラトゥストラの永劫回帰の効果を受けなかった。だから唯一生き残って……イモータルなのに生き残るって表現は変かもしれないけど、肉体じゃなくて影が本体の黒兄さまは永劫回帰の後も記憶と存在を維持できたの。そして再構成された白姉さまと青姉さまは記憶が世紀末世界の浄化直後で途切れているのを知って、この世界に異常事態が起きていることに気づいた。放置していたらまた銀河ごと消滅すると察した黒兄さま達は銀河意思の思惑と関係なく、真実を探る旅を始めた」

「どの勢力にも属さないで行動する……イモータルにも色々いるんだね」

「過程は省略するけど、太古の時代にベルカで起きた出来事……イクスヴェリア達とポリドリの戦いによって、黒兄さま達はデウスの存在を知った。それを基にツァラトゥストラの事などを長い時間かけて調べて……ついに全ての真実を探り当てたわ」

長い時間なんて言って一言で済ましているが、実際はヒトの一生を軽く超える年数がかかっているはずだ。私の一存では決められないが、ヒトでは到底不可能な偉業を為した彼ら影の一族は、世紀末世界で行った所業への贖罪を十分果たしたと言っていいと思う。

「黒兄さま達はすぐ次の行動を起こした。ここまでの旅でも協力者はいたけど、自分達だけじゃこの事態に対処できないと考え、黒兄さまはもっと多くのヒトにも協力を持ち掛けたの。その世界の管理局や見込みのあるヒト、とにかく片っ端からね……」

「でも、上手くいかなかった……?」

「ええ。黒兄さま達が真実を探っていた間も、その世界はポリドリやロキの主導で銀河意思による吸血変異が行われていたわ。そして状況は今の世界よりも悪かった……エナジー使いがほとんどいなかったから、ミッドチルダは押し負けて完全に滅んでしまい、地球も含めた多くの世界が壊滅的な被害を受けた。それゆえ滅亡のふちに立たされた人間達はそっちにかかり切りだったし、噂しか聞いたことが無い正体不明のイモータルの言葉を信用してくれなかった。それどころか危険視されて敵対する羽目になった。だから結局、黒兄さま達は万全の準備とは程遠い状態で決戦に挑むしかなかったわ」

「まあ……ずっと戦ってきた以上、イモータルを信用するのは難しいよね。絶体絶命にまで追い込まれていて余裕が無かったんだろうし、おまけに今まで姿を見せて来なかった相手だと尚更ね……」

「結論から言うと、破壊には失敗したわ。その後すぐに永劫回帰が発動したけど、姉さま達は次こそ状況を変えるために、自分達の存在が消滅することも承知の上で、残された力を全て使って黒兄さまを世紀末世界に送ったの」

「そして転移してきたダーインから、ドゥラスロールは事のあらましを全て聞いた、と。ひとまず情報の経緯はわかったけど、それならダーインは今どこにいるの? 話がここで終わりなら、彼は世紀末世界のどこかにいることになるけど……」

「いえ……黒兄さまはもういないわ。戦いで疲弊していた黒兄さまは最後の力を使って、憑依した肉体と影の本体で意識を二つに分離させたの。世紀末世界に来たのは憑依した肉体の方で、影の本体は次元世界に残ったまま……要は分け御霊である私と本体みたいな関係ね。私が話を聞いたのは、その憑依した肉体の黒兄さまだけど、意識や記憶は同じだから黒兄さま本人であることは間違いないわ」

「いや、そこは別に疑ってないけど、話を聞くだけでかなり強引に分離したんじゃないの? というか憑依した肉体の持ち主の意識はどうなったの?」

「あぁ、そこを言ってなかったわね。憑依は同意の上で行ったそうよ。だからリンゴの時のように無理やり乗っ取った訳ではないわ」

「同意があったのなら良いけど……そのヒトもずいぶん思い切ったことをしたね、イモータルに体を預けるなんて」

「そうね、黒兄さまが最初にそのヒトの協力を得られたのは本当に幸運だったわ。だけど結局、目的は果たせなかった。それに決戦後はどちらの黒兄さまも、存在を維持する力さえ残っていなかった。実際、世紀末世界に来た方の黒兄さまは情報を私に伝えたら、それで力尽きて消えてしまった……」

「ドゥラスロール……」

「同情の必要はないわ。久しぶりに黒兄さまと話せたのは嬉しかったし、最後にお別れをちゃんと言えた。私にとってはそれだけで十分過ぎるわ」

そういうドゥラスロールの表情からは後悔の念は感じられなかった。イモータルでも兄妹なのだから本当は色々思う所があったんだろうけど、それは彼女達だけが持つべき感情だ。部外者が聞き出すようなことじゃない。

「話を戻すわ……次元世界に残った影の黒兄さまが永劫回帰を超えた後、消えるまでの間に何をしたのか。シャロン、あなたはもう気付いているんでしょ?」

「うん……何のためかはわからないけど、高町なのはに影の一族としての力を全て託した。だからリトルクイーンはダーインと同じ能力が使えるようになった」

まあ、ダーインのことだから重要な理由があるんだろうけど、今は不明だ。この辺りは恐らく似たような情報を探っているであろうディアーチェ達とも相談したい。

そしてドゥラスロールの話の中にも疑問点がいくつかある……例えばダーインがこっちで憑依した者。それと、最終決戦の内容だ。協力者の正体はただの興味に近いからともかく、決戦時の情報は結構気になる。誰がどう戦ったのか、ツァラトゥストラには何が有効なのか、攻撃手段や防御能力がどうだったのか……そういう情報があれば、今度戦う際にあらかじめ対策を打っておけるからだ。でもまあ、何も今すぐ戦う訳じゃないし、これは後回しにしてもいいか。

「何か気がかりがあるようだけど、それは必要な時に話してあげる。それまでは目の前の事に集中して、私も力を貸してあげるから」

はい? 力を貸す?

「影の一族が一人にして暗黒樹のイモータル、赤きドゥラスロール。サン・ミゲルの太陽樹の化身として、影と光の調和を為した者として、兄さま達の遺志を継いでみせるわ」

まさかの人物の仲間加入に驚くが、しかし……、

「現実世界の身体はどうするの? あらかじめ言っておくけど、私のエナジーはそこそこの量をケイオスとイクスに送ってるから、紋章で増築されたとはいえ、そこまで余裕は無いよ?」

「大丈夫、良い考えがあるわ」

そう言ってドゥラスロールが出した提案は、私が怒りの報復心を克服したからこそ行える内容だった。恐らく、ドゥラスロールは全部承知の上で言ったのだろう。まぁ私も“彼女”と新しい関係を築かなくてはならない、と思っているから、接するきっかけの一つにはなるかな。

「説明は以上よ。要はあなたとイクスヴェリアの関係と同じね」

「力の流れは私達と逆だけどね。でも無断ってのもアレだから、先に向こうと話してから決め―――」

直後、私の精神世界で地震が起こり、ここにいる私はまるで首を掴まれたような息苦しさを感じた。これは……現実世界の私に何かあったに違いない!

「どうやら……許可は後回しになりそうね」

そう言い残し、ドゥラスロールは黒いつぼみに包まれて姿を消した。私も急いで魂を定着させて現実世界で目を覚まそうと、息苦しさに耐えながら意識を集中させた……!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ミッドチルダ北部、旧アレクトロ社研究施設
本棟1階、エントランス

「ワイヤーが切れてる。さっきの轟音はエレベーターが落ちたものに違いない」

「下に降りた人達は大丈夫なんでしょうか……?」

「ケイオスがいるから心配ないと思う。それとマリエル、外の様子はどうだった?」

「うじゃうじゃですね。外回りで出計らっていたのが戻ってきたんでしょう」

「やはり……これ以上時間が経つとマズいな……」

実際、物資搬入口付近の施設にはスケルトンやモンスター、アンデッドが戻ってきている。この本棟にも敵がやってくるのは時間の問題だった。

「このままエントランスにいるのは得策ではない。場所を変えよう」

「どこかにいい隠れ場所があるんでしょうか?」

「隠れられるかはわからないが、地下2階に行こう。その奥に局長室が―――」

その時、私は特異な気配を放つ存在がこの空間に現れたと察し、反射的に会話を中断して迎撃態勢を取ろうとした。が、それは間に合わなかった。

「おっと、大人しくしてくださいね」

緑の宇宙人のような容姿の男が壁に寄りかかっているシャロンのすぐ前で、私達に静止の言葉を投げてくる。実際、彼の右手から150cm程度もある赤いレーザーブレードが、まだ意識の戻らないシャロンの首元に伸びていた。

「ウフフフ……この近くから救難信号弾が飛んだので様子を見に来てみれば、まさかニダヴェリールの月下美人がこんな所まで来ていたなんて驚きましたよ。おまけに闇の書の管制人格までいるとは……ワタクシにおあつらえの状況じゃないですか」

「ま、また私のせいでこんな……」

またしても危機を招いてしまった責任を感じてマリエルが落ち込むが、そもそもこれは私達の警戒が足りなかったせいでもある。あの二人がイモータルと関係が無かった以上、イモータル側からの襲撃を含めて、もっと今の状況に危機感を持つべきだった。

「さあ、状況が理解できたのなら、その場でひれ伏しなさい。ワタクシの力で無理やり這いつくばらせるのも一興ですが、楽が出来るに越したことはありませんからね」

だが、そのミスも後悔も、今の私にはどうでもよかった。シャロンを人質に取った奴の言葉さえ、この時の私は聞き流していた。なぜなら……、

「き、きさま……!」

脳裏に浮かぶのは、夜天の魔導書が改造され、プログラムを書き換えられ、闇の書へと変貌した光景。騎士達のオリジナルが惨殺されて、守護騎士プログラムとして組み込まれた時の、血塗られた空間……! 彼女達を踏みにじり、私を長きに渡る悪夢へといざなった元凶!

「貴様は―――ポォォリドリィィィ!!!!!」

我を忘れるほどの怒りに飲まれた私は、本能に任せて右手からディバインバスターを放つ。白い魔力光を伴った砲撃は、

「愚かな……」

ポリドリが左手に込めたサイコキネシスでいとも容易く抑え込んでしまった。

「所詮は壊れた兵器、闇の書だった頃ならまだ楽しめたかもしれませんが、今のアナタでは話にもなりません。せいぜいサンドバッグかおしゃべり人形がお似合いですよ」

「ふざけるな! 何もかも貴様のせいで―――」

ビシッ!

「大人しくって言いましたよね。この女の喉、掻き斬ってあげてもいいんですよ?」

シャロンの頭のすぐ横の壁をレーザーブレードで貫いたポリドリは、それだけで怒りに身を任せていた私に冷や水を浴びせさせることに成功していた。はらわたが煮えくり返るような怒りを感じながらも、しかし私のせいで彼女に危害が及ぶことは避けなければならない以上、私は歯を噛みしめて無理やり自分を律していた。

「しかしアナタの今の砲撃の分、代償を払ってもらいましょうか。ワタクシの言葉を聞かなかった罰としてね」

「代償だと!?」

「さて、どうしてくれましょうか。這いつくばって命乞い、だけじゃつまらないですよね。人間基準ならアナタの容姿は上々ですし、そういう趣向で命令を出してもいいのですが、残念ながらここには観衆がいませんからね。あまり期待できそうにありません。……ですが」

何を考えたのか、ポリドリは左手でシャロンの首を掴み、彼女の身を持ち上げる。意識が無いとはいえ、首を絞められて苦しそうな表情を浮かべるシャロン。

「シャロンに何をする気だ!?」

「せっかくなので、彼女に代償を払ってもらおうかと思いましてね。アナタが無駄な抵抗をせずにいれば、彼女の顔に傷が入ることも無かったんですけどね」

口の端がニヤリと吊り上がったポリドリは、右手のレーザーブレードをシャロンの眼前に向ける。女性の顔に傷が入るということが当人にとってどれだけ苦痛なのか、同じ女性なら……いや、人間なら誰だって理解できる。

「や、やめろ……!」

「やめろと言われて待つものがいますか」

『そうね、だったらこっちも遠慮はしないわ』

聞き覚えの無い少女の声がいきなり聞こえた次の瞬間、シャロンの胸から黒いトゲが飛び出て、ポリドリの左肩を貫いた。予想だにしない不意打ちでダメージを負ったポリドリは思わずシャロンから手を離し、崩れ落ちる彼女から一歩後ずさった。

「ぐっ、なんなのですかこれは!」

ポリドリが床に転がるトゲを憎々しげに睨みつけ、怒りのままに踏みつぶそうとする。しかし踏まれる直前、横からかすめ取るように私がそのトゲを拾い上げた。そして……、

『期待通りに動いてくれたわね、リインフォース・ネロ・アインス』

「む、私のフルネームを知っているということは……」

『詮索は後にして。ほら、来るわよ』

少女の声に指摘されて咄嗟にバックステップすると、すぐ目の前をポリドリのレーザーブレードが通り過ぎた。

「想定外の介入がありましたが、邪魔者はここで消してしまえばいいのです!」

『望み通りの展開にならなかったせいで猛ってるわね。さあ、次はあなたの出番よ、祝福の風』

出番って言われても、さっきみたいに私の攻撃は通じないのだが……。

などと憂慮していたら、チクリとした痛みと共に私が手にしたトゲが姿を変えていった。トゲから植物のツタが伸び、螺旋状に絡まってレイピアのような鋭い刃を形成。柄の部分に黒い薔薇が咲き、ソル属性のエナジー特有の暖かさが伝わってきた。

『それは私の力を基にシャロンの中で形成した、あなたとの繋がりを示す剣……』

「つまり、シャロンが私に対して持っている報復心の象徴でもある?」

『黒薔薇の花言葉は、“憎しみ”、“恨み”、“永遠”、“決して滅びることのない愛”、“貴方はあくまで私のもの”、“あなたを呪う”の6つ。リインフォース、あなたは黒薔薇を受けとった時、どの言葉を贈られていると感じるかしら?』

「……」

黒薔薇の花言葉はどれもが意味深で、シャロンがそれを贈ってきたと思うと、色々考えてしまう。報復心の先にあるもの……か。この黒薔薇に祝福を捧げるのが、私の役目なのだろう。

だからこそ……!

「もう……誰にも負ける訳にはいかないのだ。今日までの闇を、明日の光にするために!」

「壊れた人形風情が、何をほざきますか!」

刹那、黒薔薇の剣と赤いレーザーブレードが交差した。

 
 

 
後書き
ユーディキウム:ゼノブレイド2より 地名。
ウェルス:ゼノギアスより。ここではゼノブレイド2のグルドゥ要素もあります。
ヴィヴィオ:ゼノギアス エメラダ的な立ち位置。ただしナノマシンで自在に姿を変えられるわけではないので悪しからず。
聖王教会:どうあがいても絶望?
デウス:ゼノギアスで最初に戦う時の姿をイメージ。まだ覚醒してないので、この姿が妥当かと。
シャロン:ほんの少し崩壊。
ドゥラスロール:ゾクタイより満を持して登場。影の一族が本編に出てこない理由は彼女から語らせました。
リインフォース:ドゥラスロールが力を貸すことで、アンデッド相手でも戦えるようになりました。



マ「頃合い……かな」
フ「師匠? いつものマッキージム開始宣言はどうしたんじゃ?」
マ「時が来たってことだよ、弟子フーカ。もう君に教えることはない」
フ「そもそもわし、何か教わったかのう」
マ「描写してないだけで戦闘とか、サバイバル技術や知識は徹底的に叩き込んだよ。最後毒キノコに当たってフーカが大変なことになったけど」
フ「何やっとるんじゃ、わし!? というか師匠も同じ飯食ったじゃろ! なんで毒キノコ喰って平気なんじゃ!?」
マ「私、毒無効体質」
フ「経緯を考えると、あまり笑えんのじゃが」
マ「そんなフーカに弟子卒業祝いとして、ハイ、バナナ迷彩の服。これ着てたら毒物喰ってもマズいだけで済むよ」
フ「いや、まず毒物喰う機会が他にあるとは思えんのじゃが」
マ「でもフーカってVividstrike本編じゃ、一話で仕事中にやらかして無職になったじゃん。もしアインハルトやノーヴェが君を見つけて受け入れてくれなかったら、そのまま野垂れ死んでる可能性があったんだよ?」
フ「う、事実じゃから言い返せん」
マ「飢えや渇きを癒すためなら、ヒトは拾い喰いも平気でするからね~ってことで師匠なりの気遣いだったんだけど……いらない?」
フ「そういうことなら、大人しくもらっておく」
マ「それが賢明だね。じゃ、後はよろしく」
フ「はい? 後はってどういうことじゃ?」
マ「このマッキージムを君に託すってことだよ、フーカ。これからは君がここのヌシだ!」
フ「えぇ!?」
リ「あ、継承式終わった?」
マ「今終わった所だよ、リンネ。弟子フーカのこと、よろしく頼むよ」
リ「お任せください、フーちゃんは絶対に幸せにしてみせます!」
フ「結婚報告!? ちょっ、待っ!? どこ行くんじゃ師匠!? ししょぉ~!?」
マ「さらばだ! マッキージム改めフーカとリンネの愛の巣よ~!」
フ「それだけは異議を唱えさせてくれぇ!?」
リ「まぁ真面目な話、この先の後書きの小話はリニューアルする予定なので、マキナさん主導のマッキージムは今回で最後です。お目汚しに今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました」 
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