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アーチャー”が”憑依

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十九話

 
前書き
AUで電波障害発生中っすか・・・・・・ 

 
 スクナを封じている大岩。その前には、簡易の祭壇が設けられており、そこにはこのかが横たわっていた。祭壇の前では天ヶ崎千草が眼を閉じ呪を唱えており、スクナ復活は最早秒読みと言ってもいい段階だ。

「来た」

 儀式に集中していなければいけない千草の代わりに周囲の警戒を行ってたのはフェイトだ。そして、並の者では到底敵わない様な索敵範囲をもって敵の接近をいち早く感じ取った。

「行って、ルビカンテ」

 まずは様子見と、フェイトは一体の式神を差し向ける。式神とはいえ中々強力な一体で、相手の出方を見るだけなら充分な代物だと判断していた。だが……

――雷の暴風!

 突如このレベルの魔法を打ち込んでくるとは、フェイトも予想外であった。だが、考えてみればネギは先の会合でも雷の暴風を放ってきたのだ。今回については、それを忘れていたフェイトの落ち度だろう。
 放たれた雷の暴風はルビカンテを貫き、湖に着弾。視界を覆い尽くす様な水しぶきを上げた。

「視界をふさいだか……」

 確かに、人間が得る情報の中で眼から得る情報の割合は大きい。だが、この程度で相手を見失うほど、フェイトと手甘くは無い。僅かに聞こえる飛行音。そして、感じる魔力。それらから今まさに自分の横を通り抜けようとしているだろうネギに対して、フェイトは手加減無しの障壁突破・石の槍を放った。

「……?」

 そして、石の槍はネギに直撃した。呆気なさすぎるほど簡単に、だ。瞬間、ポフンと間の抜けた音をネギの姿が消えた。そして地面へと舞い落ちる人型の紙。

「これは!」

 術師が身代わりや囮に使うものだ。ネギから感じる魔力は確かに低かった。だが、それは自分の居場所を隠すために意識的に抑えているのだとフェイトは思っていた。つまり、フェイトはネギにまんまと騙されたのである。

「本物は……」

「な、何やお前!」

 ネギの目的は最初からこのかの奪還だ。邪魔な護衛をやり過ごせたのならやることは一つ。フェイトの眼に映ったのは祭壇のこのかを抱き寄せ、すぐさま離脱を試みようとするネギだった。





(よし!)

 フェイトが策にはまった時、ネギは心の中でガッツポーズをした。フェイトさえ避けることができたなら千草等物の数ではない。水しぶきに意識を取られている間に長距離瞬動で一気に祭壇へと接近。そこで千草に気付かれるもののもう遅い。すぐさまこのかを抱きかかえ、瞬動でその場を離脱した。

「これ、は」

 ネギは眼を見開いてゆっくりと目線を”このかの姿をしたもの”へと向ける。直に触れたからネギは理解できた。これはこのかではない。これは……

「そうだよ。それはただの式だ。君が使ったものと同じ、ね」

「しまっ」

 いつのまにか隣に現れていたフェイトの蹴りがネギに直撃する。一度入ってしまうと方向転換などが出来ない瞬動中であったが故に、ネギは精々障壁を強化する程度の対応しかとることが出来なかった。

「っぐ、近衛は、どこだ」

「それは……」

 フェイトが律義にもネギの問いに答えようとした時、天へと光が伸びた。その光の発信源は、先ほどこのかの姿をした式が乗せられていた祭壇、その下だ。

「やった! ついにやった! スクナの復活や!」

 天へと昇る光の中に、巨大な鬼の姿が現れる。ここに、リョウメンスクナノカミが復活をはたした。





「あれは!」
 
 その光は後残り数体の化生を滅しようとしていた刹那たちにも見えていた。間に合わなかった、という絶望が刹那たちの身を支配する。

「センパーイ、そんなよそ見をしとってええんですか!」

「っくぅ!?」

 スクナが復活した所で眼中にない月詠。先ほどまでと変わらぬ苛烈さで刹那を攻め立てる。刹那も咄嗟に応戦するが、やはり集中力を欠いているのは隠しようがなかった。

「刹那! 出し惜しみしてる暇はないぞ!」

 今この場にいる中で最も経験豊富な真名は状況のまずさを誰よりも理解していた。スクナが復活した今、このかを安易に取り返すことはできなくなったのだ。敵がスクナを僕にしようと画策しているのならば、そのコントロールを得るためにこのかを使うだろう。そのため、下手にこのかを取り返すということはスクナを本能のままに暴れさせることになる。皮肉なことだが、現在においてはこのかが敵に捕まっていることで被害が抑えられる形になっている。このかを取り戻すのなら、スクナを一時的にでも封印、または滅することが必要なのだ。

「分かっている! 月詠、悪いがお前の相手をしている暇はなくなった!」

「そういうわけだ。悪いが、早々に終わらせてもらう」

――アデアット!

 刹那と真名、二人の手に仮契約の証が顕現した。






 スクナの復活。それは、ネギ達にとって敗北に等しい出来事だ。まだはっきりとせぬ発光体であるとはいえ、その力は想像を絶するものがある。
 これは自分だけでは対処できぬと早々に判断したネギは、まず己の従者を召喚した。

「無事か?」

「あ、あれ?」

「急に景色が……」

 魔法を今日初めて知った二人は突然の召喚にキョトンとしているが今はそれを相手にしている暇はなかった。従者の召喚が完了したのを確認するとネギは次いで懐から携帯を取り出した。電話帳から選ぶのはこの場を逆転できる唯一の一手。

「緊急事態だ。すぐに来てくれ」

『そこまで急をようするのですか?』

「ああ。力を見られたくない奴がいる」

『分かりました。すぐに向かいます』

「援軍、ですか?」

「ああ。現状打てる最高にして最強の手段だ。私達は、彼女が来るまでに近衛を取り返す」

 簡単には言うが、実際はかなり困難な内容だ。最強クラスのフェイトは勿論、天ヶ崎も今ではこのかを伴いスクナの肩の上だ。このかを取り戻すにはフェイトとスクナ、この二つの規格外を突破しなければならない。

「あの男の相手は私がする。真名はアーティファクトを使ってスクナの牽制を。宮崎は天ヶ崎の思考を読んでスクナをどう操るか真名に伝えてくれ。神楽坂は宮崎の護衛だ」

「了解。神楽坂、宮崎、少し移動するよ」

 この役割が最適であると判断したのか、真名は返事一つ残して少しでもいいポジションへと移動を開始する。そして、その場にはネギと刹那だけが残された。

「せ、先生……私は……」

「言わなくても分かるだろう。君が近衛を救え」

「し、しかし! ネギ先生がいかれたほうが確実に!」

「それは駄目だ。あの男の相手は君では出来ない」

 それは事実だった。刹那も年の割には高い実力を有しているがフェイトのそれと比べれば足元にも及ばない。それは真名も同じでフェイトの相手は消去法でネギしかいないのだ。

「それに、だ。近衛は、君の助けを待っているだろう。助けを待っている姫を、救ってやらないでどうする」

「このちゃん、が……」

「迷っている暇はない。行け、刹那」

「……はい!」

 刹那は眼前で腕を交差させ一息つくと、それを勢いよく広げた。そして現れたのは純白の翼。刹那がこのかと関わることを避けていた原因の一つだった。だが、今の刹那の眼には迷いが無い。恨んですらいた力をも使い、このかを救うと決心したのだ。

「先に行く。ついてこれるか?」

「先生の方こそ、ついてきてください!」

 刹那とネギ、二人がその場から飛び出した。





「行かせないよ」

 脇目もくれずこのかを目指す刹那へとフェイトの魔の手が迫る。その右手には暗い光が宿っており解き放たれるその瞬間を今か今かと待っていた。だが、彼の相手は刹那では無い。彼のダンスパートナーは……

「させんよ」

「っ! ネギ・スプリングフィールド」

 横合いから放たれた蹴りをフェイトは腕で受け止める。しかし、咄嗟だったこともあり数メートルほど後方へと弾き飛ばされる。すぐさま体勢を立て直すが、その時は既にネギが目前まで迫ってきていた。

「君が僕に勝てると?」

「勝てないとでも?」

 交わした言葉はそれだけだった。両者共に拳を強く握り締め、眼前の敵へと撃ち放った。



「ちょ、何か刹那さん羽生えてる!?」

「で、でも綺麗です~」

「ふふ、後で本人に言ってやるといい。それはさておき、宮崎は自分の仕事を頼む」

 真名が手に持つのはスナイパーライフルだ。これは彼女が元々持っていた物ではなく、ネギとの仮契約で現れたアーティファクトだ。時間が無かったため名称はまだ不明だが、効果は既に分かっている。
 あらゆる銃へと形を変えることができ、魔力や気を弾丸にすることができる。魔力のストック(マガジン)が三つほどついていたりもしたが、読心や破魔に比べると些かシンプルかつ味気ない能力だ。
 だが、このアーティファクトにはもう一つ利点があった。それは……

「右手の上腕、払い落しです!」

「了解だ」

 豪! と大きな音を立てて放たれた巨大な弾丸。とてもライフルから放たれたとは思えぬ弾丸は刹那めがけて放たれたスクナの腕へと直撃。腕の軌道を僅かに逸らせ、刹那の回避が最小限で済むようにした。
 これが、利点。込められる魔力に上限が無い、だ。それで利点? と思うなかれ。彼女のマスターはネギ・スプリングフィールドだ。極東一であるこのかには及ばないものの、その魔力量は膨大。しかも魔法では無く純粋に魔力を弾丸としているためロスも少ない。

「次は右下腕と左上腕で挟み込むように!」

「了解」

 今度は最速で二つの弾丸を放つ。大威力の弾丸を放った後でもインターバルが殆どないことも、利点と言えば利点だろう。この武器をもって、彼女は姫を救わんとする剣士をサポートする。



 刹那は白き翼をはためかせ夜空を駆けていた。目指すは囚われし姫、このか。フェイトはネギが上手く引き離し、スクナの攻撃は真名の狙撃のおかげで軌道がそれる。それるといっても十全ではないが、それでも今の刹那には充分だった。そして、ついに彼女はスクナの腕を潜りぬけ、敵と対峙する。

「さぁ、このちゃんを返してもらうぞ!」

「まさか烏族とのハーフやったとわ……ええい! 猿鬼! 熊鬼!」

 天ヶ崎の前鬼と後鬼である猿と熊の式が刹那へと襲いかかる。だが、今の刹那には役不足だった。神鳴流の技を使うことなく交差するその一瞬で二体を切り伏せる。

「な! そんな馬鹿な!」

「覚悟!」

 愛刀、夕凪を振りかぶり一閃。術者である天ヶ崎は一切反応できず、その意識を断たれた。

「ん……せっ、ちゃん?」

「このちゃん……」

「背中……キレーなはね。なんや天使みたいやなー」



 姫の救出は完了した。これで、気遣うものは何もない。それはつまり……

――ようやく、私の出番か

 最強の登場を意味する。 
 

 
後書き
今年最後の更新です。
真名が仮契約するのかというのは私も書いてて思ったのですが、最強クラスを要する千草陣営に対してあまりにも戦力が少ないため割り切るという可能性もゼロではないと言うご都合主義。 
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