| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第99話 姉妹 中編

壁際から日の光が差し込む確認した私は朝を迎えたことに気づいた。

真悠は話疲れたのか傷が痛むのか分からないが、黙っていった。

私も疲れと傷の痛みで口数が減っていた。

それから暫くしない内に、正宗様が私達の居る場所に駆け込んで来た。

「揚羽、大丈夫か!」

その後、息切れしながら風が現れたが、その場に膝と手を着いていた。

「ぜぇ、ぜぇぇ・・・・・・。正宗様、もう少しゆっくり・・・・・・走ってくださいのです~」

正宗様は風の言葉を無視して、私の元に駆け寄って来た。





「揚羽じっとしていろよ。今、傷を治療するからな」

正宗様は私にそう言うと、彼の手が私の腰から足の方に向かって触ってきた。

少し恥ずかしく感じたが治療と思い我慢した。

正宗様に傷の治療をしていただくのはこれが初めてだ。

私は負傷した兵士達を治療される様子を見ていたが、体験してみて気づいたことがある。

これは湯浴みするより、気持ちいい。

正宗様の手が触れる部分を中心にとても暖かく心地よい。

そして、体中から疲れが抜けていき、逆に力がみなぎってくる。

気がつくと、治療前まで感じていた激痛が無くなっていることに気づいた。

これなら、正宗様に付き従う兵士達の士気が上がるはずだ。

負傷や死は兵士にとって恐怖を抱かせるものでしかない。

逆に、それを利用して士気を上げることもできるが、それを可能にするには実戦慣れした練度の高い兵士が必要になる。

黄巾の乱の折、皇帝陛下が正宗様に与えた兵士は農民兵と新兵ばかりの弱兵の寄せ集めが主力の軍だった。

戦力となる兵士は先発隊が連れていったのだから、仕方がない話だが・・・・・・。

正宗様はあの陣容でよく冀州の黄巾賊主力を打ち破ったといえる。

以前、正宗様は腕をもがれても、その腕があれば繋ぐことができると言っていた。

これは正宗様が死人でない限り、粗方の傷を治療できるということだ。

正宗様は戦場に出る兵士達の恐怖を全て消すことはできないが、その気持ちを緩和してやることはできる。

彼の治療を受け強く実感した。

死を恐れず敵に立ち向かう兵士は最悪の脅威となる。

しかし、負傷を恐れず敵に立ち向かう兵士もまた脅威となる。

そのお陰と正宗様の武力が合わさって、弱兵を使い物になるようにできたのだろう。

冥琳殿の話では道すがら練兵をやっていったという話だが、それだけで上手くいくものではない。

正宗様の威光があったお陰だと思う。

とは言え、それを頼みに天下を取れるとは思っていない。

如何に、正宗様が凄かろうと、今後、兵数が増えれば、その力を十分に発揮することなどできない。

一軍の将は最後尾でどっしりと構え、武将達が組織戦にて敵を屈服させるようにしなくてはならない。

今後、正宗様には自重していただかないとな。

私は烏桓族討伐に着いていくことは叶わないだろうから、そのことを釘に差して置かねばならない。

兵士達は正宗様が居なくても使い物になって貰わないと困る。

正宗様の力は威光として利用していくのが一番だろう。

武神の如き力ー

全ての傷を癒す力ー

そして、正宗様の力ではないが

高祖の血筋ー

正宗様が天下に号令を掛ける時、彼の存在を天意と思う民衆は少なくないだろう。

民衆を卑下する気はないが、彼らは分かり易い英雄を求めている。

『自分達の苦しい日々を解放し、自分達に希望を与えてくれる英雄』

幸いなことに正宗様は民政を重視する御方。

その点は大丈夫だろう。

後は君主としての心構えを持っていただくのが急務になる。

「揚羽、大丈夫か?」

私が今後の事を熟考していると、正宗様が心配気な声を掛けてきた。

「は、はい。心配には及びません。少し考え事をしていました」

「そうか」

正宗様は安心した声音で返事した。





正宗様の治療は四半刻位掛かった。

昨夜、激痛に苛まれた時間が嘘のようだ。

「揚羽、傷の治療は終わったが、痛むところがあるなら言ってくれ」

正宗様は私をゆっくりと抱き起こすと、私の表情を心配そうな面持ちで窺ってきた。

「正宗様、傷の方は大丈夫です」

私は正宗様の心配を取り除くように優しく微笑んだ。

この方は本当に私のことを心配してくださっている。

私は悪い女。

正宗様に出会う前にはこんな心持ちになることはなかった。

正宗様を導くためにしたこととはいえ、今は彼に罪悪感を感じている。

以前の私なら面倒なことに手は染めず、我関せずを貫徹していただろう。

人は人と関わると、理屈のみでは生きていけぬものね。

でも、こんなことは今回で最後にする。

以後は、私の本来の姿に戻らなくてはいけない。

私は司馬懿。

正宗様に天下を獲られるまで、何事にも心は乱さない。

「良かった!」

正宗様はいきなり私を抱きしめて来た。

「あ、あっ! 正宗様、何をなさるのです」

正宗様の不意打ちに私は動転してしまった。

前言撤回。

正宗様の前では心を乱されそう。






私が正宗様の強い抱擁を受けていると恨みがましい声が聞こえた。

「兄上、姉上と乳繰り合うのは後にしてください。姉上の治療が終わったのでしたら、私の傷の治療もしてくださいませんか?」

私が声の方を振り向くと真悠は恨む目でこちらを凝視していた。

「ああ、すまなかった」

正宗様はばつの悪そうな表情を浮かべ、真悠に駆け寄っていった。

「正宗様、真悠のことよろしくお願いします」

「任せておけ」

正宗様は笑顔を浮かべ、私に返事をした。





真悠の傷の治療は当然のことながら、私のときより時間が掛からなかった。

時間にして私の半分の時間だった。

真悠は傷が言えると両手を頭の上の方で組み、力一杯背伸びをしていた。

「う―――ん、やっと解放されました」

「真悠殿、反省しってらっしゃるのですか~? 私の前だから良いですが、少しは自嘲してください」

風はアメを舐めながら真悠に言った。

「十分反省している。ここを出たら気をつける」

真悠は風の言葉をさらりと交わした。

態度を見る限り、反省の色はないでしょうね。

多少は反省しているんだろうけど、風のことが苦手なようね。

「風、私と愚妹の所為で迷惑を掛けてごめんなさい」

私は風に素直に謝罪をした。

「あ~。揚羽様、顔をお上げください。私は正宗様に補佐をしただけなのです~。謝罪なら、正宗様にお願いするのですよ」

風は私に少し挙動不審ぎみにアメを舐めるのを止めて言った。

「そうね・・・・・・。正宗様、今回のことは妻として、家臣として許されざることでした。申し訳ありませんでした」

私は風の言葉に納得して、正宗様に謝罪した。

「もう、そのことはいい」

正宗様は優しい表情で応えた。






その後、私達姉妹に正宗様から謹慎の命令が下った。

「揚羽、真悠には自室にて参ヶ月の謹慎を言い渡す」

「謹慎、申し受けいたします」

私は正宗様の命に拱手して応えた。

「謹慎、申し受けいたします」

真悠も私に倣って、正宗様の命に拱手して応えていた。

「正宗様、私は烏桓族討伐には着いていけませんが、ご助言したきことがございます。今夜、私の元をお尋ねくださいませんか」

私は烏桓族討伐で私が考案した計画を伝えることにした。

この討伐で彼らを根こそぎ狩っては不味い。

正宗様が冀州にて軍を展開しつつ、幽州への遠征を続けるための口実がいる。

冥琳殿にも概要は離しているので問題ないだろうが、正宗様に納得していただかなくてはいけない。

「分かった。今夜にでも訪ねる」

「あの~。できれば、私も混ぜて貰えないですか~。できれば、稟ちゃんも~」

風が私と正宗様の会話に乱入してきた。

風と稟にこの話をするのか?

「これは今後の我軍の行動に絡むことだ。烏桓族討伐だけでなくな。もし、これを知れば、我が軍を去るようなことがあれば死体になって出て行くことになるぞ」

私は風を睨みつけた。

「了解なのです~。そもそも烏桓族討伐に同行する以上、正宗様の元を去る選択肢はないと思うのです~。それに、以前にもそれはお応えしたではないですか~」

風が面倒臭そうに応えた。

「念には念を、という奴だ。いいだろう。風と稟の同席を許すので、今夜、私の部屋に来なさい」

私は風に軽く笑って言った。

「感謝するのです~」

風はアメを舐めるのを止め、拱手をした。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧