| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

神機楼戦記オクトメディウム

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第16話 新たなる戦士の息吹

 こうして八雲泉美の初陣は、見事に彼女の勝利という形で幕を下ろしたのであった。そして、無事に大邪衆の一人であったギロチン高嶺も邪神の力から解放される事となったのである。
 その高嶺がおもむろに口を開き、泉美達に言ってくるのであった。
「こうして私は大邪の力から解放されました。そして八雲さん達は信頼出来る人達でしょうから、この事はあなた方に話てもいいでしょう」
 そう言うと高嶺は一呼吸置き、そのまま続けていったのだ。
「我等の大邪の今回の作戦は『同時遂行だった』のです。つまり、別の場所を襲撃する事で、あなた達が対処しづらくするというのがシスター・ミヤコが考えた案だったのです」
 それは正に、泉美が想定した通りの展開であったという訳だ。故に泉美は内心で『計画通り』と言わんばかりにほくそ笑みながら、こう高嶺に返すのであった。
「ええ、その事は推測していました。だから、この場には私と千影さんしかいなかった……そういう事ですよ?」
「成る程……あなたに一本取られたという事ですね」
 その事に今大邪の力から解放された高嶺は安堵する所であった。こうして邪な作戦は敵に看破されていた事により、事なきを得たのであるから。
 そう高嶺が思っていると、泉美のガラホが着信音を鳴らすのであった。
 それを見ながら、千影は思わずツッコんでしまう。
「何? またカルラノカブトから?」
 神機楼と友達のように話す泉美には、千影はどことなくシュールなものを感じていたのである。だから、またそのやるせない光景を見なければならないのかと頭を抱える所であるのだった。
 だが、幸い(?)にも彼女のその予想は裏切られる事となったようだ。
「あ、姫子さん。丁度良かったわ」
『こっちは無事に終わったよ泉美ちゃん♪ そっちはどう?』
 その姫子の弁から察するに、『どうやら向こうもカタが付いた』ようである。この幸先の良さに泉美は気を良くしながら泉美は姫子に言葉を返すのであった。
「ええ、こっちも今しがた終わった所よ。その言い方だと、そちらも大丈夫なようね♪」
 そして、ここからは時を今日泉美達と姫子が別れた所まで遡る必要があるだろう。

◇ ◇ ◇

 あの後、泉美と千影の二人と別れた姫子は自宅……ではなく、とある場所へと向かったのであった。
 彼女達が今のこの状態で自宅以外に向かう場所は限られているだろう。そう、彼女達の拠点とも言え、彼女達を纏め上げてくれる大神和希のいる『大神家』であるのだった。
 姫子がそうしたのには理由があるのであった。前々から話にあった事が、遂に実を結んだ事にあるのであった。
 そして、和希と会合していた姫子は、早速その本題へと入るのだった。
「それで、和希さん。『あれ』は完成したのですよね?」
 思わせぶりな物言いの下、姫子はその本題がどうなったのかを和希から聞き出すべく、思わず身を乗り出してしまうのだった。
 その際に、やはり彼女の豊満な胸は強調的に動くのであった。しかも、今は仕事着という感覚で巫女装束へと身を包んでいるが為に、そのハーモニーはまた別格なものであるのだった。
 だが、和希は動じる事なく姫子に対応するのであった。そう、彼は20歳であり、既に大人となった存在であるからだ。
 実際はまだその年齢では精神的に子供な人も多い、難しい年頃なのであるが。
 和希はその身一つで弟の士郎を養ってきた経験があるのだ。だから、彼の精神は他の20歳の者達よりも、より洗練されているというものであるのだった。
 要は、無駄に胸肉を弾ませる姫子にも、和希は至って平常心であるのだった。寧ろ、逆に興奮する姫子を嗜める素振りすら見せるのであった。
「落ち着いて下さい姫子さん。ちゃんと問題なく『完成』していますよ。『剣神アメノムラクモ』は」
 その、普段の会話ではとても出て来ないだろうキーワードを和希は口にしたのであった。つまる所は、こちらの戦力に新たな神機楼が備わった事に他ならないのである。
 それが今実った経緯を、和希は語っていく。
「あなたがかぐらさんの『イワトノカイヒ』を確保してくれた事で、漸く足りない物が揃ったという訳ですよ」
「それって、やっぱり『太陽エネルギー』ですか?」
 言い始める和希に対して、勘の優れた姫子は食い入るように和希に自分の予想を突き付けるのであった。
 そして、どうやらその予想は的を得ていたようである。
「その通りですよ。『剣神アメノムラクモ』はその存在を確保していましたが、それを稼動させるエネルギーが足りなかったという事です。要は車があるがガソリンがないのと同じだったという事ですね」
 そう和希は現代人にも分かりやすい例えで今までの状況を説明したのであった。彼とて、いつも和服を着ているから誤解されるかも知れないが、ちゃんと現代の文化というものは寧ろ人並み以上に知っている所であるのだった。
「つまり、その『ガソリン』が漸く確保出来たって事ですね?」
「その通りです。イワトノカイヒが含有していた太陽エネルギーを剣神へと流用する事で、それの稼働が出来るようになったって事ですよ」
 そう言った後和希は微笑みながら付け加える。
「これで──士郎にも辛酸を舐めさせ続ける必要が無くなったというものです。お陰で肩の荷が降りる想いですよ」
「はい、全くですね」
 その和希の意見には姫子も同意する所であったのだ。彼女も士郎が自分だけ大邪と戦えない現状を嘆いていた事は良く知っているからである。そんな彼が、漸く日の目を見る事が出来るようになったのだ。これを嬉しいと思う気持ちは和希と同じだった。
 と、このようなやり取りを和希と交わした姫子であったが、その和希からこんな提案がなされるのであった。
 それは驚きよりも、心のどこかで予想していた事なのだった。
「それでは姫子さん。剣神の力を手にした弟──士郎との手合わせをお願いしていいですか?」

◇ ◇ ◇

 勿論、姫子はその和希の申し出を快く受けたのであった。それはどこにも断る理由などなかったからである。
 いや、一つだけあった。それは他ならぬ、姫子が運動音痴である所であったのだ。
 だが、彼女はその事から逃げずに和希からの要望を承諾するに至っているのであり、今こうして大神家の道場にて士郎と対峙しているのであった。
 そして、立会人には和希と幸人の二人がそこにはいたのである。そんな中で姫子は思う。
(うん、頑張ろう。『銃は剣よりも強し』って言うしね)
 そこで、姫子はまた別次元な理論を脳内に浮かべているのであった。肝心のその銃士は剣士よりも強かったかと言うと、ものすご~く微妙な所であるのだが。
 ともあれ、事実はどうあれ姫子は自身の脳内に発破を掛ける事には成功しているようであった。『病は気から』と言うように、全てのケースに当てはまる事はそこまで多くないが要は気持ちの持ちような事も多々あるのだから。
 そのように姫子が考えていると、当の対戦相手である士郎から声が掛かってくるのであった。
「き、今日は、お手合わせお願いします、姫子さん!」
 そんな士郎の態度を見て、姫子は『はは~ん』と思うのであった。──彼はどうやら自分に気があるのだと。
 その事は前々から姫子は察していた所であるのだった。今まで会合の時などに彼が自分を見る目は、正に一目惚れのそれである事は重々感じる事が出来たのだ。
 そんな相手の気持ちを利用して惑わしつつ勝つという手段も姫子は一瞬考えたが、それはすぐに破棄する事にしたのであった。
 そういう手段は泉美なら使うかも知れない。そしてそんな泉美に対して姫子は否定的ではない。
 だが、ここには自分のやり方というものがあるのであった。なので、自分はそのような手段は用いずに正々堂々と戦おうと姫子は心に誓うのであった。
 そのような、これから手合わせを行う者達としてはどこか微妙な二人を取り仕切るべく、幸人は口を開く。
「それでは和希さん、開始の合図をしましょうか?」
「ええ、それがいいですね」
 今から戦い合う者達を待たせるのは無粋というもの。故に、迷う事なく和希は言い切るのであった。
「では、始め!」
 その合図を皮切りに、勝負の火蓋は落とされたのである。
 最初に動いたのは姫子であった。現実の銃と剣の戦いでは圧倒的に銃に分があるというものであるが、今の自分達はその『現実』とは些か違う世界へと足を突っ込んでいるのだ。
 だから、姫子には様子見などという悠長な事は考えてはいられないだろうという考えがあったのである。
「早速行くよ!」
 そう言って姫子は懐から弾神ヤサカニノマガタマの力により生み出された銃を取り出すと、その引き金を迷う事なく士郎目掛けて引いたのであった。
 すると、銃口から光のエネルギーの弾丸が発射され、寸分違わぬ狙いで士郎へと肉薄していったのである。
 このまま行けば士郎はその弾丸の直撃を受けてしまうだろう。だが、彼は一切動揺してなどはいなかったのであった。
「甘い!」
 そう単語で切り捨てると、彼は懐にさしてあった鞘から刀を振り抜くと、それを迫り来る弾丸へと合わせたのである。
 刹那、光の弾丸は刀に切り裂かれ、無数の光の粒へと変換されて散っていったのであった。
 その光景は、どこか幻想的であるのだったが、そんな芸当をされた姫子としては堪ったものではなかったのである。
「こうも私の弾丸があっさりと!?」
 どこか二流の悪役めいた驚きの言葉で以て、姫子は驚きを隠せないで言うのであった。
「剣神の力を備えたこの刀のキレは上々のようだね。それにしても……」
 そう言うと士郎は突如としてその顔を破顔させるのであった。女の子と間違われるような童顔である事も相まって、それは無邪気で愛らしいものなのだった。
「姫子さんが……俺の刀捌きに驚いてくれたぁ~♪」
 それは、士郎の心の叫びであるのだった。そして、そんな二人を見ながら思わず幸人は和希に呟く。
「こんな二人で大丈夫ですか?」
「大丈夫です、問題ありません」
 だが、和希はしれっとそう返すのであった。彼は二人ともその鍛錬により洗練された実力を持つ事は良く知っていたからである。故に、これ位どこか抜けていた方がここぞという時に実力を発揮出来るものだろうと彼は踏んでいるのであった。
 その和希の読み通りに、姫子と士郎の戦いから放たれる雰囲気は実に鋭利なものとなっていたのだから。
 そして、今しがた弾丸の一撃を防がれてしまった姫子は、それにめげる事なく次なる手を打つのであった。
 彼女は、手に持った銃に自身の生命エネルギーを注ぎ込むと、再び士郎目掛けて引き金を引いたのだ。
「さっきと同じでは──っ!」
 先程の焼き直しとなるかと思ったその展開を、瞬時に士郎はそれは違う事を見抜いて回避行動に出たのであった。
 それは、姫子が今仕掛けてきた銃撃は先程のような単発ではなく、機関銃のように一度に連続して大量の弾丸をばら撒くというものだったからだ。
 そして、それを刀で切り落とすという事はせずにその足でかわした彼の咄嗟の判断は、賢明の一言だったと言えるだろう。一発ならまだしも、このような連続した弾などは刀の一振りでは到底対処出来ないからだ。
 加えて、回避運動をしながら彼は今の展開を好機と捉えるのであった。何故なら、こうして回避しつつ動きながら、一気に敵の懐まで攻め入ってしまえばいいという判断なのだ。
 何故なら、敵は銃撃を得意とするのだから。加えて、失礼な話になるが、士郎は姫子の事を運動音痴だとは知っていたからだ。
 例え一目惚れした相手でも、敵であるなら容赦はしない。そのような戦士としての気概を士郎は持っていたのであった。
 だが──その事は姫子も重々承知の上であったのだが。
 彼女は、機関銃の回避行動をしつつ一気に懐に潜り込んだ士郎を見ながらこう言うのであった。
「零距離、取っちゃったよ♪」
 そして、姫子は隠し持っていたもう一つの銃を懐から咄嗟に取り出したのである。そして、そこには飛んで火に入る夏の虫の如き敵を迎え撃つには十分なエネルギーが既に充填されていたのであった。
 それを迷わずに姫子は士郎に至近距離から引き金を引く。これで勝負あっただろう。
 だが、士郎はただではやられはしなかったのであった。
「くぅっ……!」
 そう呻きながら彼は、飛び入った体の勢いを乗せて咄嗟に刀を鞘から振り抜いたのである。所謂『居合い』というものであろう。
 そして、その抜刀は至近距離から放たれる姫子の凶弾と肉薄し……そのまま大きく爆ぜたのであった。刹那、道場には激しい爆発音と光の奔流が迸ったのであった。

◇ ◇ ◇

「つまり、この手合わせは──引き分けという事ですね」
 そう言いながら駆け寄ってきた和希は、その笑顔を道場の床で倒れ伏す二人へと向けていたのであった。
 ちなみに、これは三神器の神機楼同士の力による戦いであった為に二人には物理的なダメージはなく、服がはだけたり破けたりするというサービスシーン等はなかったのであった。残念!
 そして、笑顔の元に和希は二人を労うのであった。
「よくやりました二人とも。特に士郎は初めての神機楼の力を用いての戦いで、よくここまでやりました」
「和希……兄さん」
 兄の労いを受けながら起き上がった士郎は、そう未だに実感の沸かない自身の実力を手探りするように噛み締めようとする。
 そこへ、姫子からも声が掛かってきたのであった。
「和希さんの言う通りだよ士郎くん♪ 初めてでこうもされちゃあ、先輩としてうかうかしていられないってものだよ♪」
 そう言うと姫子はにっこりととびきりの笑顔で以って士郎を迎え入れたのであった。
 その想い人からの労いを受けて、士郎はどんどん顔が赤くなっていき──。
「ひ、姫子さんに認めらえばぁ~~~!!」
 盛大に鼻血を出して倒れ掛かったのであった。
「し、士郎くん!?」
 そんな新たな好敵手の思いも掛けないリアクションにたじろぐ姫子と──。
「今時その程度の台詞で鼻血? やっぱり、こんな二人で大丈夫ですか?」
「──一番いいのを、とは言いませんが少し考えさせて下さい」
 端から呆れ果てる幸人と和希の姿があるのであった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧