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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第98話 姉妹 前編

 
前書き
私がエタったと思った方すいませんでした。
随分と遅くなりましたが、更新します。

今回は揚羽視点にてお贈りします。
後、1話または数話は揚羽視点だと思います。 

 
気づくと周囲は漆黒の闇に包まれていた。

月明かりもなく情緒的な雰囲気など皆無。

棒叩きの刑に処された場所でないのは周囲の雰囲気から察することができた。

少なくとも野外ではないだろう。

「くぅ、痛っ」

体のあまりの痛み低い声で呻いてしまった。

覚醒したことを恨めしく思った。

このまま気絶したまま朝を迎えればどれだけ良かっただろう。

眠りたいのは山々だが、痛みの所為でそれを許さない。

体は疲労困憊にも関わらず辛い。

だが、私の自業自得だから致しかたない。

願わくば、幾らかでも正宗様が成長なされれば幸い。





「姉上、起きていらっしゃいますか?」

突然、どこからともなく誰かの声が聞こえた。

傷の痛みと疲労感からか、私は声の主に言葉を返さなかった。

声音からして、真悠だと思う。

「姉上、起きていらっしゃいますか?」

真悠は再度私を呼んだ。

「真悠、何です」

五月蝿い真悠に、私は億劫な気持ちを抑え短く応えた。

「起きていらっしゃいましたか? 姉上からお応えがなかったので、死んでしまったのかと慌てました」

真悠は言葉とは裏腹に無味乾燥に言った。

「痛みが酷い」

私は率直に自分の気持ちを吐露した。

「私も同感です。でも、話をしていた方が幾らか気が紛れると思います」

真悠の言い分も最もだと思った。

しかし、真悠の声音を聞く限り、妹の体が思った以上に丈夫なように感じた。

妹は私より荒事に慣れているからかもしれない。

まだ、正宗様が治療してくださるまで、時間がある。

「そうですね」

私は真悠に肯定の返事をした。

「あなたはどこにいるのです」

「姉上の死角に寝ています。私からは姉上の姿がよく見えます」

言われてみれば、私の後ろの方向から声が聞こえる。

ただ、間断なく襲いかかる痛みで思考は鈍っているせいか、正確な方向はわからない。





私はしばらく真悠と何気ない会話をしていたが、あることが頭に浮かんだ。

「真悠、あなたに聞きたかったことがあります」

ふと、私は真悠に『あること』を尋ねました。

「『何故、正宗様に同行し并州に向かったか?』ですか?」

真悠は間髪入れず、私の聞きたいことを言った。

「ええ」

「賊の逃亡を促した件を内々に収拾し、あわよくば賊を口封じするつもりでした。結果はご覧とおりです」

「余計なことを・・・・・・、罪は全て私が被ると言ったはずです」

私は真悠の独断に頭を押さえたくなった。

「姉上がそう仰ってもそういう訳にもいかないでしょう。姉上はそれで良くとも、姉上が罪に問われれば、司馬家の沽券に関わります。それが分からぬ姉上ではないでしょう?」

真悠に指摘され、自分の落ち度に気づいた。

私としたことが冷静さを失っていた・・・・・・。

正宗様のことばかり口うるさくは言えぬな。

「では、どうして私の命令に従った」

「思い詰めた姉上を見て見ぬふりはできないでしょう。あの状況で姉上の密命を私が断ったとしも、他の者に出されたでしょう。他人に大きな借りを作る位なら、身内が泥を被った方がましです」

真悠は淡々と言った。

「しかし、何故に北郷に必要以上に挑発することをした」

「姉上が危ない橋を渡ってまで、兄上を正そうとしたのに、不発では危険を犯す意味がない。北郷が何もせず、ただ逃亡したのでは、兄上が并州に出張らなかったかもしれない。それでは姉上が傷を抱えたままになります」

真悠はそれ以上は言わなかった。

北郷の件を内々に納めるのであれ、それが出来ずとも早めにこの件の裁きの結論は出すべき、妹はそう言いたいのでしょう。

もし、それを司馬家に悪意を持つ者が利用する事態になれば面倒なことになったかもしれない。

私の行動は本当に軽卒でした。

でも、後悔はしていない。

「真悠、ごめんなさい」

「善いのですよ。それに、姉上が全てを公の罪を被って下さっても、母上と奈緒姉上の私への怒りは消えないと思います。だから、可能な限り穏便に済まそうと思ったのです。母上と奈緒姉上は今回のことお冠だと思います。姉上、一応覚悟して置いた方がいいです」

確かに、あの2人は面倒・・・・・・

謹慎中は毎日、奈緒姉上にいびられるだろう。

母上と奈緒姉上は典型的な士大夫の鏡ですからね。

母上は漢室に忠誠を示し、奈緒姉上は正宗様に仕えた以上は漢室を立てるとはいえ、一旦ことが起きれば正宗様への忠義を優先するだろう。

そんな2人からすれば、私の今回の所行は万死に値すると思っているはず。

今更ながら、気が重い。

「だいたい、兄上が劉備への温情と同様に姉上を許されれば話は丸く収まったはずです。それなのに、頑固の一つ覚えに『絶対に罰する』と言い張るものですから」

真悠は正宗様の愚痴を吐いた。

「それでは意味がない」

私は真悠の愚痴を制し、ひと呼吸置くと話を続けた。

「今後、劉備の如き、理想論者が正宗様の元に現れるかもしれない。見た目が善人だからと情に絆され、罪を犯した者を罰すことに躊躇すれば、正宗様は遠からず自滅するだろう」

そう、劉備のような理想論者は毒でしかない。

周囲に実現できぬ理想を振りまき、乱すだけだ。

叶うなら、劉備を始末したい。

あの者は乱世になれば、田舎の役人として大人しく引っ込んでいる訳がない。

世に毒を撒き散らし、必ず正宗様の前に現れるだろう。

敵だろうと味方だろうと正宗様にとって良い影響などない。

正宗様の志を叶えるには天下を手中にする他ない。

その為には綺麗事など構ってはいられない時がきっとやってくる。

敗者に正義を語ることなどできない。

正義を語ることが許されるのは勝者のみ。

力無き者の言葉など誰も耳を貸さない。

貸したとしても強者の気にそぐわぬ言葉なら無視される。

正宗様は勝者で有らねばならない!

正宗様が志半ばにして、死ぬようなことは私がさせない!

「はぁ・・・・・・。姉上は兄上を本当に慕っておいでなのですね。突然、姉上が兄上の妻になると言い、家を出た時は何か一物がおありなのかと勘ぐりもしましたが・・・・・・。しかし、果報者の兄上はそれに確り応えられるのでしょうか」

真悠は私の言葉に諦めたように言いつつも、私に忠告した。

「私はあの方を信じている」

「くすっ」

私の言葉に真悠は小さい声で吹き出した。

私が真剣に話しているにも関わらず、笑うとは不愉快な気分になった。

「何です」

私は真悠を訝しむように詰問しました。

「いえ、兄上と同じようなことを仰るものですから。兄上も姉上のことを『信じる』仰っていました。信じるという割には姉上を罰しておいですけどね。く、痛っ」

真悠は傷が痛むのか、笑いを堪えつつ応えた。

正宗様も私を信じると言って下さったのか・・・・・・。

私は心が暖かくなるのを感じた。

その感覚は未だかつて無い感覚だった。
 
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