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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第66話 イッセーよ、決断せよ!小猫の愛とグルメ細胞の力!

 
前書き
 原作のトリコは腕の再生に20年はかかると聞いても即決で治療を選択したので当時は迷いが無くてすごい!カッコイイと思いました。


  

 
side:イッセー 


 与作さんから言われた5年もかかるという衝撃の言葉、それを聞いた俺は直ぐに答えを出すことが出来なかった。


 与作さんの話では指の治療をおこなっている間はカロリーなど体のエネルギーが治療するのに奪われてしまうらしい、つまり治療が終わるまで途中で中断することはできないらしい。


 更に治療中は与作さんの元を離れられなくなるんだ。GODが出現するのは数年以内、もし治療中にGODが現れたら俺はソレをゲットしに行くことはできない可能性がある。


 じゃあ治療しないほうが良いのかと言われたら首を横に振るうしかない。これから先、更に強い猛獣が襲い掛かってくるだろう、そして美食會のグリンパーチにトミーロッド、ヴァーリといった強者も立ちふさがってくるのは間違いないんだ。指を失っているというハンデがあってはとてもじゃないが勝てやしない。


「どっちにしろ明日までには決めないといけないんだ、与作さんも暇じゃないしな……」


 俺は少しだけ考える時間を貰い治療を受けるべきか受けないべきか悩んでいた。皆もそんな俺を見て心配そうな表情を浮かべていたが結局時間だけが過ぎていった。


 俺達は鉄平が案内してくれたホテルに行きそれぞれの部屋で眠る準備をしている、だが俺は未だに答えを出せずにおり眠ることが出来ない。


「どうすればいいんだろうな……」


 悩んでも答えが出せず時間だけが過ぎていく、夜も更けて深夜になっても俺は眠れないでいた。


 そんな時だった、俺のいる部屋のドアから小さなノックが聞こえてきたんだ。


「……誰だ?」


 こんな夜遅くに誰か来たことに首を傾げるが俺は起きているのでドアを開けてみる。


「……小猫ちゃん?」


 ドアの前に立っていたのは小猫ちゃんだった、まだ寝ていなかったのか。


「夜分遅くに申し訳ありません、先輩」
「いや、それは別に大丈夫だけど……何かあったのか?」
「その、先輩が悩んでいる様子だったのでちょっと気になって来ちゃいました」


 どうやら小猫ちゃんは俺の事を心配して態々来てくれたみたいだな。


「ありがとうな、小猫ちゃん。でもこんな夜遅くじゃなくてもうちょっと早く来ても良かったんじゃないのか?」
「イリナさんを撒くのに時間がかかっちゃいまして……その、二人っきりになりたかったから……」
「そ、そうか……」


 照れながらそう呟く小猫ちゃんは実に可愛いな。


「まあ部屋に上がってくれよ、もう夜も遅いし廊下で喋っていたら他の人に迷惑になっちゃうからな」
「そうですね、それではお邪魔させていただきます」


 小猫ちゃんはそう言ってお辞儀をすると俺の部屋に入った。小猫ちゃんはベットに座り俺はコーヒーでも入れて彼女に渡した。


「小猫ちゃんは砂糖2つだったな」
「覚えていてくれたんですか?」
「そりゃ一緒に暮らしているし彼女の好み位分かるさ」
「えへへ、嬉しいです……」


 カップを両手で持ちコーヒーをチビチビと飲む小猫ちゃんを見ていたら少しだけ気持ちが落ち着いてきた。


「先輩、答えは出ましたか?」
「……」
「……どうやらまだみたいですね」


 小猫ちゃんの言葉に俺は無言で頷いた。


「無理もないですよ、先輩が目標としているGODが現れても先輩はソレに挑むこともできないかもしれない……そんなことを知ってしまったら答えなんて簡単には出せません」
「ああ、俺にとってGODは夢であり目標だ、それが現れても治療を受けていたら挑戦することはできない。でもこの先指を失ったというハンデを背負って戦っていけるほど甘くはない。特に美食會との戦いは絶対避けられないだろう」
「そうですね……」


 小猫ちゃんは今まで出会ってきた美食會のメンバーを思い出して苦い表情を浮かべていた。


「情けないよな、普段は思い立ったら吉日なんて言ってるのに今の俺はソレが全くできないんだ……これがココ兄やサニー兄だったら例え何年かかっても治療を受けるという選択を即選ぶと思う、俺は結局強がっているだけでまだガキなんだ」
「先輩……」
「俺はどうしたらいいんだろうな、GODを諦めて治療を受けるべきか無謀と分かっていて指を復活させるのを諦めてハンデ有りと承知で戦うか……俺にはわかんねぇよ……」


 美食屋になって色んな経験をしてきたがこんな選択はしたことが無かった。夢を取るか指を取るか、その選択次第で未来は大きく変わるだろう、そう思うと決断が鈍ってしまう。


「はぁ……」
「……えい!」
「おわぁ!?」


 一人でベットに座り黄昏ていたら小猫ちゃんが俺の頭に両手を回して抱きしめてきた。突然の事に少し驚いたが頭に伝わってくるほのかな柔らかさに恥ずかしさが生まれてくる。


「こ、小猫ちゃん?急にどうしたんだ?」
「先輩、今は何も言わずに身を任せてください」
「……?よく分からないが君がそう言うなら……」


 俺は小猫ちゃんの言葉に従い彼女に身を任せることにした。


 ……暖かいな、昔母さんに抱っこされていたのを思い出すよ。小猫ちゃんは俺を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた、少し恥ずかしいがそれが俺に更なる安心感を与えてくれた。


「先輩、私は先輩なら大丈夫だと思います」
「えっ?どういう事だ?」
「その、根拠は全くないんです。でも先輩ならあっという間に指を治せるんじゃないかなって思うんです。だって先輩はこの世界で一番の食いしん坊じゃないですか、その先輩が大人しく5年も治療にかかるとは思えないんです」
「はは、酷い言われようだな」
「誉め言葉ですよ?」
「分かってるさ」


 小猫ちゃんのあんまりな言葉に俺は思わず笑ってしまった。この世界でも一番の食いしん坊か、悪くないじゃないか。


「それに与作さんも言っていました、破ってもいいルールがあるんだって。先輩なら絶対に5年はかかるというルールを破ってくれるって私は信じています!」
「……ルールを破る……か。確かにそのくらいできなきゃこの先をやってはいけないよな」
「はい!」


 ……不思議なものだ。さっきまで不安で一杯だった頭の中が小猫ちゃんが信じてくれると言う言葉一つで晴れやかな気持ちになっちまった。


「決めたぜ、小猫ちゃん。俺は治療を受ける!そしてさっさと指を治して次の冒険に出かけようぜ!」
「その意気です、イッセー先輩!」


 俺は決めたぜ!明日朝になったら直ぐに与作さんの元に向かい治療を受ける!そして絶対に5年もかけずに指を取り戻して見せるぜ!


「……ありがとうな、小猫ちゃん」
「イッセー先輩?」


 俺は小猫ちゃんから離れると今度は俺が彼女を力いっぱい片腕で抱きしめた。


「わぷっ……苦しいですよ」
「そんな嬉しそうな顔してるのにか?」
「えへへ、バレちゃいました」


 わしゃわしゃと彼女の頭を少し乱暴に撫でる。それを小猫ちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて受け入れていた。


「君が信じてくれる、それだけで何でもできそうな気がするんだ」
「私もイッセー先輩が信じてくれるのならなんだってできちゃいます」
「そっか、似た者同士なんだな、俺達って」
「お似合いカップルですね♪」


 俺達はそろって笑い合った。それはもう可笑しそうに腹の底から笑っていた。


「俺、明日朝になったら直ぐに与作さんの元に向かうよ、そして指の治療を速攻で終わらせる」
「それでこそイッセー先輩です」
「だからさ、小猫ちゃん。俺にご褒美をくれないか?」
「ご褒美ですか?いいですよ、何が欲しいですか?何ならわ、私自身でも……」
「小猫ちゃんが欲しい」
「いいです……えっ?」


 小猫ちゃんはちょっと恥ずかしそうに話していたが俺の一言に目を丸くして硬直した。


「い……今なんて……」
「小猫ちゃんが欲しいんだ」
「わ、私が欲しい……?その意味を分かっていってるんですか?」
「当たり前だろう?俺だってもう17歳だぞ、その言葉の意味は理解している」


 小猫ちゃんは俺の言った言葉の意味を確かめてくるがそこまで鈍感だと思われていたのかな?でも俺は勘違いなどでそう言ったんじゃない、一人の男として目の前の女の子に想いを伝える。


「う、嬉しいです……!先輩に求めてもらえる日が来るなんて……!」
「そんなに驚くことか?」
「だっていつもアプローチしても手を出してくれなかったですし……」
「そ、それは……ごめん。俺もどう誘ったらいいか正直わかんなくてな……でも俺も男なんだ、単純だけどこういうご褒美があればもっと頑張れると思ってな……こんなムードもない時に時にごめんな」
「いいんです……私、今本当に嬉しいから……先輩!」


 小猫ちゃんは俺に抱き着くと唇を重ねてきた、ただ触れ合うだけの軽いキスだったが俺の心臓は今までで一番早く動いているんじゃないかって思うくらいの鼓動を打っていた。


「ん……ぷはぁ……」


 そっと唇を離して片腕で小猫ちゃんを抱きしめた。小猫ちゃんは嬉しそうにほほ笑むと上目遣いで俺を見てくる。


「今はここまでですね……」
「続きは指を治してからだな」
「絶対に治してくださいね。私、待っていますから……」
「ああ……」


 お互いの体温を感じながら強く抱きしめあう、そして小猫ちゃんは俺から離れた。


「今日は部屋に戻りますね。このまま先輩と一緒にいたら我慢が出来なくなっちゃいますから……」
「お、おう……」


 いつもの愛らしい笑みではなく大人の女性を感じさせる妖艶な笑みを見せる小猫ちゃんは朱乃さんに負けないくらい色っぽかった。


「それじゃあ失礼しますね、イッセー先輩」
「ああ、お休み。小猫ちゃん」


 小猫ちゃんは部屋から出ようとするが一旦足を止めた、そして俺の方に顔を向けるとニコッと笑みを浮かべる。


「愛しています、イッセー」


 そう言って小猫ちゃんは自分の部屋に戻っていった。


「……不意打ちはずるいぜ、白音」


 俺は真っ赤になった顔を指でかきながら俺は眠りの中に入っていった。



―――――――――

――――――

―――


 翌朝早く起きた俺は腹が減ったのでホテルのバイキングに向かった。昨日は悩んでいてあんまり食べられなかったからな。


「うめぇ~!蟹ブタのソーセージは格別だな!これをレモレタスと黄金小麦のパンにはさんで食うと……かぁ~!より一層上手くなったぜ!」
「十黄卵のスクランブルエッグ……ん~っ!濃厚な卵のコクと甘みがトロッと舌に絡みついてくるわ!美味しい!」


 俺とイリナは朝からモリモリと食事を楽しんでいた。いやぁ~、朝から最高の食事が楽しめるなんて鉄平には感謝だな!


「おおっ!今日は運が良いですね!BBコーンのポタージュがありますよ!」
「BBコーン?なんだソレは?」
「人間界で食べられるグルメ界の食材です、さっきホテルの人に聞いたら運よく仕入れることが出来たみたいです」
「ほう、それは楽しみだな……おおっ!?何という甘さだ!?それでいて濃厚でいつまでも味が舌に残っているぞ!?」
「ゼノヴィア、私にも頂戴!」
「自分で持ってこい!コレは私のだ!」


 ゼノヴィアはBBコーンのポタージュを見つけて小猫ちゃんがBBコーンについて説明した。それを聞いたゼノヴィアはワクワクした様子でポタージュを飲むと感激した様子を見せる。そういえばゼノヴィアとイリナはBBコーンを入手したときにはいなかったな。


「イッセー……その、大丈夫なの?」
「何がですか?」
「指の治療よ、昨日はとても悩んでいたじゃない」


 俺の様子が変化したのを感じたリアスさんがそう聞いてきた。あっ、そういえばまだ説明していなかったな。


「リアスさん、心配をかけてしまってすみませんでした。でももう大丈夫です、俺は治療を受けることにしました」
「えっ、そうなの?でも与作さんは5年もかかるって言っていたじゃない」
「ええ、でもそれはあくまで今までのルールです。5年もかかるというルールを俺が破ってやりますよ、祐斗や朱乃さんがそうしたようにね」
「……そう、決心がついたのね」
「それに……」


 俺はチラッと小猫ちゃんの方を見ると丁度彼女と目が合った。小猫ちゃんはニコッと俺にほほ笑んで俺もニカッと笑った。


 俺を信じてくれる女の子がいる、だから決心がついたんだ。


 食事を終えた俺達は直ぐに与作さんの元に向かった、再生所に入ると治癒ゼリーに入って食事をしていた祐斗と朱乃さんがいた。


「祐斗、朱乃さん。調子はどうですか?」
「イッセー君、皆!」
「来てくださって嬉しいですわ」


 俺達は二人に側に駆け寄った。どうやら食事が出来るまで回復したみたいだな。


「調子はどうだ?」
「うん、とても調子がいいよ。ただ食事の量が増えたから何か食べていないとお腹が空いてしょうがないんだよね」
「まあグルメ細胞と適合したからな、慣れるまではかなり食わないといけないぞ」
「あはは、食費が大変そうだ……」


 グルメ細胞と適合したことでカロリーを多く消耗するようになったからか以前の祐斗では考えられないほど食べていた。もう少し体が慣れるまでは暫くはこんな感じだろうな。


「イッセー君!わたくしの相手もしてくれないと嫌ですわ!」
「朱乃さん、ちょっと幼児化していませんか?」
「だって死にかけたのよ?だから反動でイッセー君を求めてしまいますの♪ほらほら、わたくしの頭を撫でてくださいまし、イッセー君♪」
「甘えん坊になっちゃいましたね、朱乃さん」
「あっ……うふふ、イッセー君の腕、とっても温かいですわぁ……」


 治癒ゼリーに入っているので抱きしめてあげることはできない、だから頭を撫でたんだけど朱乃さんは嬉しそうに目を細めてほにゃ~としたようにリラックスしていた。


「祐斗、朱乃さん。与作さんはどこにいるんだ?」
「俺はここだぜ、イッセー」


 二人に与作さんのいる場所を聞くと再生所の奥から与作さんが姿を見せた。


「与作さん、おはようございます!」
「おはようさん、イッセー。それで決心はついたか?」
「はい!俺の治療をお願いします!5年かかると言うルールを俺が破って見せますよ!」
「ガハハ!流石一龍会長の息子だ!ならお前がルールを破る瞬間を見せてもらうとするかな」


 与作さんは豪快に笑うと懐から何かを取り出した。


「こいつは『再生の種』といってな、DNA情報を養分にして成長する花の種だ。まずはコイツにお前のDNA情報を記憶させるぞ」
「俺のDNA情報を?」
「そうだ。お前のなくなった指があるんだったら引っ付ければそれで終わりだ。だが無いんだったら生やすしかない」
「生やすって……イッセーの指を!?そんなイモリみたいな事ができるの?」


 与作さんの説明にリアスさんが驚いた様子を見せた。俺も正直驚いたぜ、グルメ細胞が再生機能に特化しているのは知っているがまさか生やすことが出来るなんて思ってもいなかったからだ。


「イッセーは知ってると思うがグルメ細胞は再生に特化した万能細胞でな、大概の傷なら適合する食材を食えばすぐに回復するし他人の腕を引っ付けて馴染ませれば動かす事もできるようになる」
「改めて聞くとグルメ細胞ってヤバイわね……」
「本来他人の腕を適当に移植してもそんな簡単に動かせはしないのだが……私も欲しいぞ、グルメ細胞」
「便利過ぎて教会の上層部には言えないけどね、争いの種にしかならないだろうし」


 グルメ細胞の説明を聞いたリアスさんは改めてグルメ細胞の力に驚いていた。ゼノヴィアもあまりの便利性に欲しいと呟きイリナはそれを教会の上層部が知れば絶対に欲するだろうと言う。


「だが優れたグルメ細胞ほど利己的でな、イッセーに宿るグルメ細胞はそんな協調性はないと判断した」
「俺のグルメ細胞か……確かにあいつがすんなりと言う事を聞くわけがないな」


 俺は以前俺の精神の中で出会った赤い鬼を思い出して与作さんの言葉に同意した。


「なら自らの細胞を糧にして生やすしかない。というわけで……」
「与作さん?ハサミなんか取り出してどうしたんだ?」
「決まってるだろう?お前のDNA情報を貰うのさ」


 与作さんはそう言うと俺の髪をハサミで切り取っていく。じ、自慢のドラゴンヘアーが……


「だいぶ短くなっちまったな……」
「髪の短いイッセー君もカッコイイわー!」
「男らしいよ、イッセー♪」
「リーゼントよりはマシなんじゃないですか?師匠」
「ぶふっ!?」


 ちょっとショックを受けていた俺だがイリナと黒歌は慰めてくれた。あとルフェイ、確かにリーゼントよりは恥ずかしくはねぇんだけど笑うのは止めろ。隣にいたリアスさんは思い出し笑いしないでください。


「わりィな、イッセー。DNA情報は大量にいるんだ、じゃなきゃ花が咲かない」


 与作さんは俺の髪を器に入れると再生の種を中心に置いた、そして何かの液体を垂らして暫くジッとしているとぴょこんと芽が飛び出した。


「あっ、芽が出てきましたよ!」
「どんどん成長していくわね」


 アーシアが嬉しそうに目が出たと喜びティナが成長の速さに驚いていた。そして大きくなった芽に満開の花を咲かせた。


「おおッ!咲いたぞ!」
「騒ぐな!これはまだ第一段階だ」


 喜ぶ俺だが与作さんが騒ぐなと注意する、そして花の中央にある丸い球体に視線を向ける。


「与作さん、この花の真ん中にある球体はなんだ?」
「こいつは再生の花の種だ、こいつにお前の体のDNA情報が全てつまっている。勿論お前が失った指の情報も入っている」
「これをどうするんですか?」
「お前の指にはめ込むのさ。ちゃんと反応してお前の細胞と結びつけばお前の指を完璧に複製してくれるはずだ」
「なるほど……とても興味深い植物ですね」


 俺やアーシアの質問に与作さんは丁寧に答えてくれた、つまりこの花の種を使って俺の指を再生させるんだな。それを聞いたルフェイは興味深そうにその種を見ていた。


「さあコイツを傷に埋め込むぞ、イッセー。種はシャボン玉のように脆いからな、体を揺らしたりするんじゃねえぞ」
「分かったぜ、動かさないように気を付ける」
「よし、いくぞ……!」


 与作さんはそ~っと種を指で優しく摘まんで俺の指に運んでいく。


「再生の種は希少でそう何粒もあるわけじゃない、割れたらおしまいだと思え……」
「……」
「もう少しだ……」


 全員が静かに成り行きを見守っていた。ゴクリと唾を飲みこむ音が部屋に響く。


「……ふぁ……」
「ちょっ……!ゼノヴィア……!?」


 マズイ!?ゼノヴィアがくしゃみをしそうになっているぞ!隣にいたイリナもそれに気が付いて小声で驚いていた。


「ゼノヴィアさん!駄目です!」
「堪えなさい!」


 アーシアとリアスさんも小声で注意するがゼノヴィアはついに……!


「……出なかった」


 ふう、危なかったぜ……どうやら不発に終わったみたいだな。


「へぶしょい!」
「あっ……」


 安堵した俺の目の前で豪快にくしゃみをした与作さんは再生の花の種を指でぶちっと潰した。


「……」
「……」


 衝撃の光景を目撃した俺達全員が唖然とする中、与作さんは片腕をあげてこう言った。


「ゴメ」


 ……ぶちっと俺の中で何かが切れた。


「何してんだぁ―――――――――ッ!!?」


 俺はもう叫んだ、それはそれは豪快に思いっきり叫んだ。いやこれは流石に駄目だろう!?見ろよ、全員居たたまれない表情をしているじゃないか!遠くで見守っていた祐斗と朱乃さんも唖然としているし!


「悪かったって。まあ大丈夫さ、失敗は成功の母の友達の親戚の父親の飼っているペットの犬ってよく言うだろう?」
「母の友達の親戚の父親のペットの犬って最早人ですらねえだろうが!?というか凡ミスだったぞ!?」
「どうするのよ!?希少なんでしょ、あの種は!?」
「心配すんな、希少だがまだある。後一粒だけな」
「本当に頼むぜ……」


 俺とリアスさんのツッコミにガハハと笑う与作さん、それを見て俺は何だか凄く心配になってきた。


「よしイッセー、DNA情報をよこせ」
「髪切ったじゃねえか」
「そいつはもうDNA情報を取られてるから駄目だ。新鮮なDNAが無きゃ花は咲かん」
「でもこれ以上髪を切ったら剥げてしまうぞ」
「なら体中の毛を剃ればいいだろう?」


 それを聞いた小猫ちゃん、イリナ、黒歌の目が光ったように見えた。というか実際に光った。


「それじゃあ向こうに行きましょうね。先輩♪」
「小猫ちゃん?何で俺の腕を封じたの?」
「大丈夫だよ、イッセー君。優しく剃ってあげるからね♪」
「イリナ?どうして俺のズボンに手をかけるんだ?」
「見るだけならセーフだよね、にゃん♪」
「黒歌?そのカメラは何?」


 小猫ちゃん達は手をワキワキとさせながら俺に何かをしようとする……!ヤ、ヤバイ……!?


「アーシア!助けてくれ!」
「主よ……欲望に負けた私をお許しください」
「あぁッ!?アーシアもそっち側かよ!?……ぐっ、ゼノヴィア!」
「何するのかよく分からないが頑張れ、イッセー」
「何でこういう時はアホの子になるんだよ!?リ、リアスさん!」
「わたくしもイッセー君のアレを見たいですわ!小猫ちゃん達だけズルイですわ!」
「朱乃!?いい加減にキャラを戻しなさい!崩壊ってレベルじゃないわよ!」
「祐斗……助けて……」
「……ごめん、イッセー君。僕は何も出来ないんだ……」


 アーシアは小猫ちゃん側に落ちてしまいゼノヴィアは何をするのか分かっていない。リアスさんはなんか荒ぶっている朱乃さんを止めようとしているし祐斗は申し訳なさそうに顔をそむけた。


「そ、そんな……」


 ルフェイは腹を抱えて大笑いしてるしティナは「流石にコレは放送できないわよねー」と興味なさそうに自分のカメラを弄っていた。あっ、味方いないわ、これ。


「さあ、先輩?」
「脱ぎ脱ぎしよっか?」
「大丈夫、直ぐに終わるにゃん♪」
「お……お……俺のそばに近寄るなぁぁぁぁぁァァァァァッ!?」


―――――――――

――――――

―――


「ようし、これだけあれば十分だ」
「シクシク……」


 うぅ……俺、汚されちゃったよ……体中の毛を剃られちゃった……


「眼福です♪」
「イッセー君、成長したんだね♪」
「にゃんにゃん♪」
「あ、あれがイッセーさんの……うぅ……凄かったです……」


 小猫ちゃん、イリナ、黒歌はほくほくと嬉しそうに笑いアーシアは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


「なあ小猫ちゃん……」
「何ですか?」
「さっきまで悩める主人公にヒロインが寄り添い支えるっていうある種の王道的展開だったじゃないか?なんですぐにこうなっちゃうんだ?」
「お約束ですよ、先輩♪」


 なんか納得いかないぞ、俺……まあいいや、そろそろ気持ちを入れ替えないとグダグダになっちまうからな。


「よし、芽が咲いたぞ!」
「次は頼むぞ!もう爪も皮膚も使ったんだ!これ以上使える場所はねえぞ!」
「任せろって。どの道再生の種はもう無いからこれがラストチャンスだ」


 恐る恐る俺の指に種を運ぶ与作さん、今度は割ることなく俺の指に種が付けられた。


「や……やった!」
「さあここからが本番だぜ、イッセー!まずは治癒ゼリーに入って種を馴染ませな」


 俺は与作さんに言われた通り治癒ゼリーに入って種を馴染ませていく。割と気持ちいいな、コレ。


「さて……お前ら!取り合えず大量の食材を買って来い!」


 与作さんはリアスさん達に食材を買ってくるように命じた。


「えっ?食材を?」
「そうだ、今から大量の食材が必要になる。出来るだけため込んでおくんだ」
「分かったわ、皆で手分けして食材を買ってくるわね」
「領収書は貰っといてくれ。金は俺が払うから」



 リアスさん達は手分けして食材を確保しに向かった。暫く治癒ゼリーの中で祐斗や朱乃さんと会話をしていたんだけど誰かが再生所に入ってきた。


「イッセー!体は大丈夫?お見舞いに来たし」
「リン姐?どうしてここに?」
「イッセーの事を話したら心配になったみたいで一緒についてきたんだ」
「ココ兄!」


 リン姐の登場に驚いたが後ろから現れたココ兄に事情を説明してもらった。どうやらリン姐は俺達の事を聞いて態々駆けつけて来てくれたみたいだ。


「忙しいはずなのに……ありがとう、リン姐」
「可愛いイッセーの為だし。それに祐斗くんや朱乃ちゃんもやばかったって聞いたよ、こうやって無事な姿を見れて良かったし」
「あはは、心配をお掛けしました。リンさん」
「わたくしももう大丈夫ですわ。ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした、お義姉さま」


 祐斗と朱乃さんがリン姐にお礼を言った。んっ?なんか朱乃さんのリン姐の呼び方に違和感が……気のせいか?


「おっ、何でリンがいるんだ?」
「サニー兄、鉄平?どこに行っていたんだ?」
「クスリバチを捕獲しに行っていたのさ、こいつが大量に必要になるはずだからな」


 クスリバチ……確か腹の部分に天然の薬を蓄えたハチだったな。そいつが大量にいるって事は俺の治療に関係しているんだろうか。


 そして食材を買ってきたリアスさん達もココ兄達と合流した。


「ていうかイッセー、お前その髪型なに?超ウケるんだけど?」
「笑うな!この髪形は仕方なかったんだよ!」


 サニー兄にからかわれて怒った俺は思わず立ち上がろうとしたが途端に眩暈がして片膝をついた。


「イッセー先輩?大丈夫ですか?」
「あ、ああ……なんか体が変だな……」
  

 小猫ちゃんが肩を貸してくれたがどうも体が重い。どうなっているんだ?


「ぐっ……うぅっ……!」
「……イッセー先輩!?」


 その時だった。急激に体からエネルギーがなくなったと思った瞬間、体が一気に干からびて肉体が細々と痩せこけてしまった。


「な、何が起きたの!?」
「イッセー!今すぐ食材を食うんだ!早くしろ!」
「わ、分かった……!」


 リアスさん達が混乱する中鉄平は俺に指示を出した。俺は言われたとおりにリアスさん達が買ってきてくれた食材にかじりついていく。


「もう始まったのか!?いくら何でも早すぎるぞ……!?」
「与作さん、イッセー先輩が……!?」


 そこに現れた与作さんが俺の状態を見て驚いていた。小猫ちゃんが声をかけるが彼は淡々と話し始めた。


「イッセーがああなったのは再生の花の種がイッセーの体から栄養を吸収して育ち始めたからだ。だが普通はなじむまで1年はかかるしあそこまで早く栄養が奪われることはない。イッセーのグルメ細胞……まさかここまでとはな」


 ぐっ、なるほどな……今の体の状態は指を再生させようと種に栄養を奪われているからか。しかしなんて速度だ、どれだけ食べても腹に溜まる気がしねぇぞ……!


「イッセー!お前はとにかく食い続けろ!何があってもだ!もし再生する速度に負けたらお前は死ぬぞ!!」
「じょ……上等だ!食う事なら誰にも負ける気はしねぇ!」


 俺はそう言って食材を食べていく。つまりこれは俺とグルメ細胞の一騎打ちって訳か、面白い!


「負けるかよ!俺は絶対に生き残って見せる!」

 
 

 
後書き
 ルフェイです。師匠の治療が始まったのはいいのですがどうも副作用で色んな病気にかかったみたいなんです、しかもその中にはクスリバチが治せる薬を持っていない病気もあって……


 でも方法はあるみたいで何でも『海鮮の実』があれば治せるみたいなんです。私達は師匠を助ける為に『塔中華島』に向かいます。


 次回第67話『恐るべき深海熱、手に入れろ海鮮の実!』でまたお会いしましょう。 
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