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神機楼戦記オクトメディウム

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第2話 戦士達の帰還

 二人の巫女の活躍により、無事に機械仕掛けの怪物達は全て殲滅され、街に再び安息の時が戻ってきたのであった。
「ふう……これで一通りカタが着いたわね……」
「うん、これで一安心だね♪」
 そう千影と姫子の二人は言い合うと、一息ついたのである。後は、今登場してる巨躯を備えた機体から降りるだけである。
 これも、真っ当な技術の産物であるロボットではない『神機楼』では事もなげに済むのであった。
『それ』を執り行う為に、二人は一斉に呼び掛ける。
「ありがとう、ヤタノカガミ」
「今日も助かったよ、ヤサカニノマガタマ」
 そのように二人は同時に自身の愛機たる神機楼に言葉を発したのであった。
 その後は、おおよそ予想がつくかも知れない。二人はそのまま機体の内部の土俵の上で光に包まれたのである。
 そして、二人は光の塊のまま外へと送り出され、事も無げに地面へと降り立ったのだった。
 二人は今回も無事に自身の体が『肉体』へと戻った事を確認すると、パートナーたる巨大人型兵器をそのまま送還するのである。
「ありがとう、どうかこの後はゆっくりお休みなさい」
「ヤサカニノマガタマもゆっくり休んでね♪」
 二人はそう言いながら手に持った先程の媒体を掲げる。すると二柱の神はそれを依代とするように体を光へと変換してその中へと取り込まれていったのである。
 その様は物理法則とは何かというべきものだろう。だが、今世の中を混沌に巻き込もうとしている脅威と戦うには、それがいかに自然の摂理から逸脱していようとも頼らないといけないのが現状なのだ。
 それに──どうやらこの力を使った事で得られた『結果』が、千影と姫子を出迎えてくれるようだ。
「巫女さ~ん!」
 誰かが発したその声を皮切りに、辺りは喧騒に包まれるのだった。
 そして瞬く間に、当事者たる巫女二人は大勢の人だかりに囲まれてしまう。
「『紅月の巫女』様、今回も助かりましたよ。相変わらずの忍者っぷりでしたね♪」
「『蒼月の巫女』様も見事な百発百中でしたよ」
「『蒼月の巫女』様~、抱き締めさせて下さい、そして挙げ句の果てにおっぱい揉まさせて下さい~☆」
「皆さん、無事でしたか」
「良かったよ~」
 大勢の人々の、巫女の活躍を労うのと自分達を助けて貰った事に対する声援で以て二人は迎え入れられるのだった。勿論、姫子は最後の品の無い声援は聞かなかった事にしていた。
 そして、先程出た用語について触れなくてはならないだろう。
 それは、二人の巫女が夜空に浮かぶ人知の知れない魔力を持つ『月』の力を携えている事に起因しているのであった。加えて、二人の袴の色から千影は『紅月の巫女』、姫子は『蒼月の巫女』と人々から呼ばれているのである。
 そう、千影と姫子はそのような特殊な力を見出だされたが故に人々を這いよる混沌から救う為に戦っているのだった。
 なので、忍者としてその身が洗練されている千影のみならず、運動音痴な姫子まで戦場に駆り出される羽目となっているのだ。無論、姫子は最初にその話が舞い込んで来た際にやんわりと断ろうとしたのである。
 だが、結局は姫子がそうしなかった理由に以下の三つが存在するのであった。
 まず、一つ目に姫子自身の真面目な性格があったのだ。人々が困っていて、それを自分の力があれば解決出来るかも知れないという条件は、彼女を突き動かすには十分であるのだった。
 そして、二つ目に相方の千影の存在があった。姫子は彼女とは小学生時代からの幼馴染みであるのだった。それが入学に受験が必要な高校まで奇跡的に一緒になれた事を考慮すれば、姫子と千影の絆がより一層深くなるというのも必然的というものであろう。
 最後に三つ目の要因であるが……これは今正に話に浮上しようとしていたのであった。
 ここで、千影がおもむろに携帯電話を取り出したのである。ちなみに現代人御用達のスマートフォンである。
 余談だが、千影はこの産物は個人的に好きではなかったりする。本来電話を携帯する為の物であるのに、これは通話に向いていない板状というのだから。
 だが、昔の使いやすい折り畳み式の携帯電話の需要と供給が日に日に減っているが為に、千影は買い換える際にやむ無くスマートフォンに乗り換えるしかなかったという事なのである。要は妥協というやつである。
 そんな彼女であったが、今では会話くらいなら滞りなく出来るようになっていた。やり辛さを感じている上に、スマホの最大の武器であるアプリは使いこなせてはいなかったが。
 それは、忍術という日本古来から伝わる技術をその身で修得してきた千影にとって、現代技術の最先端までこなすという話は酷というものであったのだ。
 そう、姫子を運動音痴と称するなら、千影は機械音痴といえる所なのだ。
 それでは、先程操っていたばかりの鏡神はどうなるというのかという話題になるのだが、こうしてそんな千影が難なく使いこなせる事からも最早機械としての範疇を逸脱している事の証明であった。
 ともあれ、その千影にとって『通話ツールとしてすこぶる使い辛い代物』を使って彼女はある人に連絡を入れる所であったのだ。
 そして、スマホのスピーカーの中から聞こえてくる接続中の音を耳にしながら、彼女は暫し待つ。
 すると、その音が途切れたのである。どうやら無事に繋がったようである。後は、スマホから聞こえる声の主とのやり取りをするだけだ。
「はい、大神です」
 聞こえて来たのは、二十代半ばと思われる若い男性の声であった。その声に千影は言葉を返していく。
「こちら姫宮千影です。今回も無事に済みました」
 そう千影が言っただけで、スマホの向こうの男性は事の全てを理解したようであった。
「よくやりました千影さん。それではこれからご帰還下さい。詳しい話は直接聞きますよ。──ともあれ今回もお手柄でした」
「ありがとうございます……『和希』さん」
 スマホの向こうの声の主──和希に労われた千影は、満更でもなさそうにして声を返すと、彼が受話器を切る音を聞き届けるのであった。
 そして、そのまま意識を姫子に向けるのだった。
「さあ姫子さん、和希さん達の元へ帰りましょう」
「そうだね♪」

◇ ◇ ◇

 無事に街を混乱から救った千影と姫子は、その足である場所へと帰還していたのであった。
 そこは、とある神社であった。彼女達が巫女ならば、それは至極真っ当な流れと言えるだろう。
 そして、その神社の名は『大神神社』と呼ばれる所なのであった。
 現在千影と姫子は、それぞれの巫女装束のまま和希なる人物と対面していたのである。それは、和希が神事を行う者であるから、彼女達もまだその為の『仕事着』である必要があるのであった。
 どうやら、話はもうじき終わる所のようである。
「……分かりました。『怪肢』による犠牲者は、今回も一人も出ずに済んだ……そういう事ですね?」
「「はい」」
 その和希の問いに、巫女二人ははっきりと答えるのであった。自分達の司令官とも言えるような者の前で、曖昧な態度など出来ないからである。
 だが、どうやらその和希なる人物は司令官といっても、映画に出て来るような畏怖の対象ではないようだ。
 彼は物腰柔らかい態度で二人の話を聞きながら、そして今その表情を優しいものへと変貌させるのであった。
「お手柄ですよ千影さんに姫子さん。喜ばしい限りです、今回も一人の犠牲者も出す事なく騒動を解決するなんて」
 そう労われた巫女二人は、雪解けのようにその表情を晴れやかなものとするのであった。
「「ありがとうございます、和希さん」」
 そして、迷う事なく二人は和希へ歓喜の言葉で以て返すのだった。
 そう、これこそが姫子がこの仕事を引き受けている第三の要因であったのだ。──この大神和希の人柄の賜物という訳である。
 司令官的存在である大神和希は、その指導力に加えて人柄でも人を纏め上げるセンスがあったのである。
 それは、まず優しさから来るものであろう。世の中にはそのような要素を持たない、他者に容赦ない者こそカリスマ性を発揮して人を従えるという世知辛い現実があるのだが、この大神和希はそれらとは無縁の振る舞いをして見せるのであった。
 勿論、優しいだけでは良い指導者にはなれないだろう。
 その点でも和希は心得ていたのであった。基本的には優しさで接するが、時に人が間違いを犯す、または犯しそうになる時は柔軟な判断にて厳しさも見せるのであった。
 そう、つまり彼は優しさと厳しさを兼ねた人格者であったのだ。それを言葉で現すのは簡単であろうが、実行するとなれば全く別のものとなるだろう。
 そして、その『厳しさ』の片鱗が、今ここで垣間見えるのであった。
「お二人さん。ですが油断はしない事です。いつまでもこのように容易に解決出来るとは思わないのが賢明でしょう」
 そう『厳しい』切り出し方で、『事』について和希は踏み込んでいくのであった。
「「はい」」
 その和希の物言いには、巫女二人は重々承知する所なのである。
 彼女達とて前もって知っているのである。二人が駆逐した『怪肢』と呼ばれる機械生命体の群れは、単なる先兵に過ぎない存在である事を。
 そして、事の真相に触れる発言を千影はするのであった。
「はい、『大邪(おろち)』との戦いは、これからが本番になるという事ですよね?」
「ええ、分かっていてもらえて幸いです」
 その千影の言葉に和希は安堵しながら返し、そして続けていった。
「知っての通り、『邪神ヤマタノオロチ』の動きは、まだ序の口だという事です」
『邪神ヤマタノオロチ』。それが和希が口にした、真っ当な現実に生きる者であれば、とてもではないが創作物の世界の中でしか聞く事にはならないだろう名称であったのである。
 その『邪神』について、和希は説明を始める。彼の傍らにいる少年にも聞こえるように、であった。
「それは、我らが大神家が1200年前に死闘を繰り広げた邪悪な神である事は以前に話したから皆さんご存知でしょう」
「はい、和希兄さん」
 そう和希を『兄』と呼びながら、彼の側にいたその少年は答えたのである。
「それなら話は早いですね、士郎。では、今の現状はどのようなものか……分かりますね?」
「はい……」
 まずその言葉を放ち、その少年『大神士郎』は呼吸を整え次なる言葉を頭の中で練るのであった。
 ちなみに、この士郎はこうして『少年』と称さなければ下手をすれば女の子と見間違えてしまいそうな可憐な容姿をしていたのである。あまつさえ、16歳でありながら未だに声変わりを迎えていない事も拍車を掛けていた。
 加えて彼の髪の色は儚い純白であったが為にその姿は妖艶そのものであったのだ。
 ちなみに、そのやり取りから分かるように、和希と士郎は血の繋がった兄弟であるのだった。
 では、彼等の親はという話になるのだが、訳あって二人には今両親が側に存在しないという境遇なのであった。
 故に、年上である和希が士郎の父親代わりをしているというのが今の二人を取り巻く環境なのである。
 しかし、今話題にすべき事はそこではないのだ。故に呼吸を整えた士郎は意を決して切り出す。
「……その邪神ヤマタノオロチが1200年の時を経た今、現世に蘇った、そうですよね? 和希兄さん」
 その士郎が口にした答えに、和希は満足気に頷きながら言う。
「その通りです。分かっておられるなら私の心配はいらないですね」
 そう、和希はこの場にいる者達が自分達に課せられた宿命の重さをちゃんと認識しているかを知りたかった訳であり、今のやり取りからその心配はどうやら必要ないだろう事が分かったのであった。
 無論、その事は千影と姫子も分かっている所だ。
 そして、皆の真摯な意識を噛み締めた和希はこう結論付ける。
「なので、これから『大邪』との戦いは本格化してくるでしょう。敵の幹部クラスが出てくる事を念頭に置いておくべきですね」
 その和希の弁に意を唱える者はいなかった。皆もその気持ちは同じなのである。
「彼等は邪悪な存在なれど神の領域の者達。故に世界の軍事力が誇る近代兵器は通用しません。だから私達がやらなければならないのです」
 それは、現代に生きる少年少女には酷な内容であるのだった。だが、これにも異を唱える者はいない辺り、ここにも和希の人望というものを垣間見る事が出来るであろう。
 このように空気の張り詰める内容の話を和希はしてきた訳であるが、ここで彼はそんな雰囲気を和らげて、優しげな態度で千影と姫子に言うのであった。
「ですが、今からずっと気を張り詰めていては心をすり減らすだけです。時が来るまで肩の力を抜いて英気を養っておくのも戦いです。ですから……」
 そう言うと和希は、にっこりとした表情で二人へと提案する。
「頑張ったお二人は、これから私の屋敷の浴場で汗を流していくといいでしょう」
 その提案に真っ先に食い付いたのは姫子であった。
「え? 和希さんいいんですか?」
「勿論ですよ。お二人が頑張ったご褒美です」
「欲しかったんですよねぇ、これ♪」
 嬉々として喜びの態度を示す姫子。この場合『欲しかった』はニュアンスがおかしいが、それだけ彼女が嬉しいという事なのであった。
 それは、彼女がどこかのSF(すこし、ふしぎ)な漫画のヒロインの如く、大の入浴好きである事に起因しているのだった。さすがに昼間っから風呂に入っているという事はしないのではあるが。
 それはさておき、要は姫子は大神家の大浴場にありつけるかどうか、これだけが最大の論点であったのだ。
 まず、このようにして和希からの承諾は得ているのである。後の問題と言えば……。
「千影ちゃん。和希さんもああ言っている事だし、お言葉に甘えさせてもらおうよ」
 そう、相方の了承というものが必要であったのだ。これから待っているのは大掛かりな大浴場であるのだ。それを一人で入るというのは少々味気無いというものなのだから。
 だが、姫子にはある『勝算』があるのだった。故に彼女は心配はいらないだろうと踏んでいた。
 そして今、千影の意見が出てくる事となる。
「ええ、私も入らせてもらうわ。和希さん、ありがとうございます」
「お安いご用ですよ」
 その瞬間、姫子に流れる時は一瞬止まり、そして再び動き出したのであった。
(勝った! 計画通り)
 そして姫子は心の中で一人勝利の余韻に打ち震える所なのだった。
 ここに巫女二人の意見は一致した。後は戦いの疲れを汗と共に流すだけだろう。なので、二人は早速この場を後にすべく和希に言葉を掛ける。
「ありがとう和希さん、ひとっ風呂浴びさせてもらいますよ♪」
「私も……『姫子』とのお風呂の時間をたっぷり堪能させていただきます」
 そのようにどこか含みのある言葉を漏らす千影であった。
 その後、巫女二人がこの場を去った後に、ぽつりと士郎は呟くように言うのであった。
「……俺にもあの二人のように神機楼の力があれば……」
 そう。士郎はいたいけな少女二人に前線で戦わせ、そして未だ力になれない自分を責めるような感情に苛まれているのであった。
 悔しげにそう呟く士郎を見ながら、和希は宥めるように彼に言葉を掛ける。
「士郎。今はまだ『剣神』を動かすのに必要な力が備わっていません。あなたの気持ちは分かりますが、ここは暫しの辛抱ですよ」
「兄さん……」
「だから、それまではあなたは今自分が出来る事……例えば剣神の力をより引き出せるようにする為に修行に励むなどをすべきです」
 そうはやる士郎を嗜めるように言う和希に続いて、今まで目立たないでこの場にいた者も彼に声を掛ける。
「和希さんの言う通りですよ、士郎。焦っては物事を悪い方向に導くだけです。ここは辛抱所ですよ」
 その声の主の名は『神奈木幸人(かみなぎ・ゆきひと)』といい、和希の補佐的な立場をこなす少年であった。
 年齢は士郎と同じ16歳であった。そして、士郎が所謂『男の娘』タイプの雰囲気であるのに対して、彼──幸人はアイドル的な端正な容姿をしていたのである。髪の色が淡い灰色な事もそれに拍車を掛けているのであった。
 そんな彼の姿と口調は、それだけで対峙する者全てを蕩けるような恍惚感へと苛んでしまう程の包容力を要していた。
 それを受け士郎は、彼は本当に自分と同じ高校一年生なのだろうかと疑問が頭に浮かんでしまう所であったが、気持ちの焦る今の士郎はそんな彼の言葉では説明出来ない力が有難かったのである。
「ありがとう、兄さん。そして幸人」

◇ ◇ ◇

 士郎がそのような複雑な感情を抱いている間に、千影と姫子の二人は絶賛大神家の大浴場を堪能している真っ最中なのであった。
「あ~、いい湯~☆」
 姫子の口から思わずそのような感嘆の声が漏れてしまう。それだけこの浴場は絶品なのであった。
 まるで銭湯のような広々とした空間、厳かな雰囲気を醸し出し、加えて数十人入り切る程の檜で縁取られた湯船……。
 実は姫子の家は名家であり、彼女の家も豪邸なのであるが、洋風なそことは違う、和風であしらわれたこの大神家の浴場は新鮮なものであるのだった。
 そのように憩いの時を満喫する姫子は、そのまま千影に話し掛ける。
「和希さんの言う通り、これから大邪との戦いが本格化するだろうから、今こうして羽根をじっくりと伸ばしておくのがいいよね、千影ちゃん♪」
 そんな前向きで屈託のない姫子の立ち振る舞いに、千影は心が救われる……それ以上のものを感じているのだった。
「ええ、今この時を大切にしなければならないわね。と、言う訳で充実した時間にする為に……姫子、あなたのおっぱいを揉ませなさい」
「いや……、何が『と、言う訳』だって?」
 姫子はドン引きしてしまった。だが、元より千影の入浴の同意を計画通りに得た時点で心得ていた事でもある。
 姫子は小学校からの千影との付き合いの中で理解していたのであった。千影が自分を見る目が、想いの相手を見るようなものになってきている事を。
 柔らかな表現で『百合』、直球な表現で『レスビアン』。そのような感情に千影は姫子に対して目覚めてしまっていったのだった。
 それは、姫子が女性としての成長をしていくにつれ、千影の心の奥に眠っていた禁忌的な感情が目覚めていってしまったという訳なのだ。
 だが、そのような一線を越えた感情に苛まれつつも、千影は羽目は外さないのであった。
「というのは冗談よ。この戦いが終わるまでそんな事はしないわよ」
「『今は』って事!? しかも何気に死亡フラグ立てる台詞になってるし!?」
 姫子はとことんやるせなくなるが、ここで機転を利かせて話題を変える事にする。
「でも、私達が着てる巫女装束の袴ってズボン状なんだよね。お陰でちょっと蒸れちゃって少し困るんだよね~」
 そう、姫子達の装束は明治時代以降に現れたスカート状の物ではなく、古来から伝わる由緒正しきズボン状の代物であるのだった。そもそも、巫女とは女性が男装するという意味合いのものなので、そういう構造になっているのだ。
 もっとも、彼女らにはまた別の理由も存在する事を千影は言及する。
「仕方ないわよ。神機楼を操縦するにはスカート状では動きづらいでしょう?」
 という事である。搭乗者の動きをダイレクトに反映させて操縦する神機楼の性質上、両の足をそれぞれに通すズボン状でなければ扱いに支障をきたすという事である。
「そうだよねぇ~。ちょっと履き心地悪いけど、仕方ない所だね」
 千影に言われて姫子は、まだ不満は残るものの納得する所であった。だが、そんな彼女に千影は付け加える。
「でも、私もスカート状じゃないってのは不満な所ね、だって──」
「はい、その話はここまで!」
 何やらまた話の雲行きが怪しくなってきた事を敏感に察知して、姫子はここで打ち切る事にしたのであった。それはもう、千影の恍惚とした表情で姫子に語りかける様を見れば的確な判断だと言えよう。

◇ ◇ ◇

『そこ』は、異様な光景であった。地面の色はサイケデリックなサーモンピンク、そして空は歪なグラデーションという惨状である。その事から、そこは理によって成り立つ現世とは隔絶した場所である事が窺えるだろう。
 そんな空間に居を添える建物の中にて、数人の男女がテーブルに集まっていた。
 横の列にまず、オレンジ色のツインテールをした愛らしい少女。
 次にその隣に黒髪を短髪にした和服の少女。だが、その頭頂部には猫のような耳が存在している。付け耳でなければあり得ないだろうが、何故かその接続部分が見受けられなかった。
 続いてその対岸の者へと視点を向ける。
 屈強そうな見た目と、物腰柔らかそうな雰囲気を両立させた男性。
 隣には眼鏡を掛けた、そこはかとなく『出不精』な雰囲気を醸し出す女性。
 そして、彼等全員をその視界に入れるように短い縦側に座る女性。
 彼女は長い黒髪が美しく、対称的にその肌は妖艶なものを感じさせる白であった。そして、その出で立ちは修道女のそれであった。
 その女性が口を開く。
「やはり怪肢だけに任せていては力不足か……」
 そう言って考え込む姿勢を見せるが、すぐに答えは決まったようだ。
「だが答えは既に決まっている。次には我らが『大邪衆(おろちしゅう)』が出ればいいだけの事。では、誰が出てくれるか?」
「私が出ます──『シスター・ミヤコ』」
 大邪衆のリーダーとおぼしき修道女──シスター・ミヤコにそう申し出たのは……オレンジ色のツインテールの少女であった。 
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