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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第242話「全滅」

 
前書き
戦闘不能:とこよ、紫陽、緋雪
重傷:椿、葵
ジリ貧(絶体絶命):司
と言った戦況です。
なお、優輝がフリーになっているので、無事な面子もすぐやられるという……
 

 







 優輝が次に標的にしたのは、イリスを相手していた司だ。
 それを司も理解したのか、敵前逃亡の形でイリスから離れる。

「ッ、くっ……!!」

 攻撃を障壁で何とか
 転移で逃げようと、優輝は同じ転移で追いかけてくる。
 
「断て!!」

「っ!!」

 空間ごと遮断する障壁で、優輝の攻撃を凌ぐ。
 イリスが手隙になるのはまずい。
 そう考える司だが、イリスに意識を向ける事さえ出来ない。

「(障壁で防ぐので、手一杯……!僅かにでもタイミングがずれたら、押し負ける……!……ううん、攻撃する事こそダメ!)」

 無理にでも反撃して、優輝の攻撃のリズムを崩そうとする。
 だが、それこそ優輝に対しては悪手だと、司は思い留まる。

「っ、かはっ……!?」

 しかし、その思考すら隙となる。
 障壁の追加展開が間に合わず、優輝の肉薄を許してしまった。
 咄嗟にそのまま放たれた手刀による突きを、シュラインの柄で受け止める。

「くっ……はぁっ!!」

 防御の上から衝撃が司を貫いた。
 それでも司は魔力を練り、一気に放出する。
 全方位に放つ攻撃ならばカウンターを受けないであろう判断から、その行動に出た。
 加え、念を押して転移を間に合わせる。

「……“何人たりとも、我が身に届かず”!!」

 “祈り”を加え、防御魔法で自身を覆う。
 それは、かつて心を閉ざした時の司や、その司を模したジュエルシードが使っていた、“拒絶”の意思による障壁。
 あらゆる干渉を防ぎ、時には敵を圧殺する“心の壁”。
 それを幾重にも自身に重ね、優輝の攻撃に備える。

「はぁっ!!」

「ッッ……!!」

 創造魔法による攻撃は、待機させておいた魔力弾で相殺する。
 突貫してきた優輝は敢えて迎撃せず、防御のみで迎え撃った。
 イリスの攻撃すら防げるはずの“心の壁”が、その一撃で割れていく。

「いくら優輝君でも、それ以上踏み込ませないよ!!」

「っ……!」

 “心の壁”は、“領域”と似通った性質を持っている。
 そのため、現状においてその効果はかなり強化され、司の意志に左右される。
 さしもの優輝も障壁の圧力に押され、攻撃が止まった。

「(攻めるなら、遠距離からの攻撃しかない!)」

 優輝の間合いで攻撃するのは自殺行為だ。
 司は見る余裕がなかったが、椿と葵はまさしくその行為で負けた。
 遠距離攻撃ならば、攻撃を捌かれる事はあってもそのままカウンターはない。

「(でも……!)」

 しかし、遠距離攻撃を行うための、肝心の距離が取れない。
 転移で瞬く間に距離を詰められ、その度に司の“心の壁”が破られそうになる。

「(このままだと……!)」

 “エラトマの箱”による、世界そのものの“領域”の浸食は止まっていない。
 そのため、時間が経てば経つほど、司の強化は弱まっていく。
 その前に決着を付けたいため、徐々に司に焦りが積もっていく。

「がら空きですね」

「しまっ……!?」

 そして、焦りが致命的な隙を晒した。
 そう、何よりもまずかったのは、イリスがフリーになっていた事だ。
 優輝からの防衛で、司は手一杯となっていた。
 イリスにとってそれは隙以外のなにものでもなく、こうして横槍を入れたのだ。

「耐えはするでしょうが、これで終わりです」

「(転移を妨害してからの……殲滅攻撃……!)」

 “闇”の檻によって、外界から遮断される。
 天巫女の力でも容易に転移出来ず、司の逃げ道がまず防がれた。
 時間を掛ければ、突破する方法はあるのだが……

「くっ……!」

 優輝がそれを許さなかった。
 絶え間のない攻撃を防がざるを得ず、その間にイリスの攻撃が迫る。

「ッッ……!!」

 避けようのない、“闇”による殲滅攻撃。
 司は“心の壁”で防御を固め、さらに障壁を多重展開して防御を試みた。

「(導王流の極致……ここまで強いだなんて……!!)」

 実際に対峙したからこそ分かる、優輝の動きの厄介さ。
 それを歯噛みしつつ、司は何とかイリスの“闇”に耐えきった。

「こ、っの……!!」

「ふっ……!」

 だが、詰みだ。
 耐えきったと言えど、防御は若干薄くなる。
 そこを優輝に突かれ、まず“心の壁”が破られる。
 そして、追撃を司は受け止めようとして……

「無駄だ」

「あ、ぐ………!?」

 その手をずらされ、そのまま胸を貫かれた。
 一度怯んでしまえば、もう司のターンはない。
 司は優輝のもう片方の手による掌底で吹き飛ばされる。
 同時に、創造魔法による剣によって、埋め立てられる程貫かれた。
 死ぬことがないとはいえ、これでは確実に復帰に時間が掛かる。

「……次」

 司を降した優輝は、淡々と次の標的を探す。
 その様子は、最早ただ作業をこなす機械のようだった。

「……本当、不意打ちも当たらないのね」

 離れた位置で、剣に貫かれた傷も治り切っていない椿が、そう呟く。
 この時、椿は速度重視の矢を放っていた。
 優輝は司に意識を向けており、完全な不意打ちだった。
 しかし、優輝は一切矢を意識せずにそれを避けていた。

「……攻撃が当たらないどころか、近距離遠距離関係なく反撃してくる……か」

 さらには、反撃となる創造魔法による剣が椿の肩を貫いていた。
 それだけじゃない。
 椿の視線の先には、視界を埋め尽くす程の大量の剣。
 それが、椿目掛けて飛んできていた。

「(計算が狂った……とか、そんな単純ではないけど……とにかく、このままだとなにもかも、御破算、に…………)」

 圧し潰されるように剣に貫かれ、椿の意識はそこで途絶えた。

「嘘やろ……!?」

「不味いな、これは……!」

 椿だけでなく、なのはやシュテル、プレシアなどが優輝に攻撃していた。
 椿と同じように、司に意識が向いているのを好機と見ていたのだ。
 ……だが、その攻撃は全て躱されるか、防がれるかして届かなかった。

「プレシア!」

「……平気よ。本来なら致命傷だけど、ね」

 さらには椿と同じように反撃も受けていた。
 重傷で回避の余裕のなかった椿と違い、今回は悪くても直撃は避けていた。
 追撃の剣群も、他の面子が防いでいた。

「小鴉!」

「っ……残りの敵は私達とディアーチェ達で抑える!皆は椿ちゃん達がやられた分をフォローして!!」

 既に、はやて達の奮闘によって国守山にいる敵は半分程倒せていた。
 司による“領域”の効果で、かなり有利になっていたのだ。
 残った敵もほとんどが手負いなため、抑えるのならはやて達の人数で十分だった。
 イリスと祈梨は未だに余裕があったが、祈梨はユーリとサーラが抑えていた。

「白兵戦が得意な人が相手した方がいいよね」

「勝てる気は……しないけどね」

 なのは、フェイト、アリサ、すずか、アリシア、奏が優輝の相手をする。
 その他はイリスの相手だ。ユーリとサーラは引き続き祈梨を抑える。

「前衛はユーノ、キリエ、アミタ、神夜、アルフで頼む。他は援護だ!」

 イリスをまともに相手出来るのは司だけだったため、飽くまで注意を惹くだけだ。
 それでも決死の覚悟で挑まなければいけない。

「私が先に仕掛ける。フォローは任せるわ」

「なのはとフェイトは後衛を。アリシアは中衛と言った所ね。行くわよ!」

 ユーノがケージングサークルでイリスの“闇”を抑える。
 それを合図に、各々の相手に突貫した。





「ふっ……!」

 移動魔法を併用しつつ、奏が優輝に間合いを詰める。
 同時に、優輝も転移魔法で奏に肉薄する。

「ッ……!?(攻撃をずらしても、見切られる……!)」

 導王流を以ってしても、逸らしにくい奏の攻撃。
 移動魔法を使い攻撃の打点をずらす攻撃のはずだが、それも通じなかった。
 極致に至った優輝は、ずらした後の攻撃すらあっさりと受け流していた。

「ッッ!!」

 しかし、奏もタダではやられない。
 神界での戦いを経て、奏の戦闘技術は跳ねあがっていた。
 さらには、その身に宿る“天使”の影響で、優輝の動きは見えていた。

「はっ!!」

 椿や司が反応しきれなかった反撃を躱す。
 そこを狙い、アリシアの矢が優輝を狙って放たれた。
 その攻撃に対するカウンターに合わせるように、奏も反撃する。

「ッ……!」

 攻撃自体は容易く逸らされた。
 しかし、その直後放たれたカウンターは、かなり躱しやすいものだった。

「カウンターに合わせて攻撃して!活路はそこにある!!」

「無茶言わないでっての!!」

「はぁっ!!」

 アリシアがその様子を見て、突貫したアリサとすずかに叫ぶ。
 他の人へのカウンターに合わせて攻撃するという至難の業に、アリサは悪態をつきながらも攻撃を仕掛け、すずかも刺突を繰り出す。

「っ、そこ!」

「(ダメ……三人でかかっても、手数が足りない……!)」

 創造魔法によるカウンターは、なのはとフェイトで撃ち落としていた。
 アリシアも霊術と弓矢で時折撃ち落とし、攻撃を仕掛けている。
 だが、創造魔法による手数を抜きにしても、近接戦のみで三人の手数を容易く捌き、同時に反撃していた。

「ぐぅっ……!」

「っぁっ……!?」

 アリサとすずかの二人にカウンターがはなたれる。
 いくら反応できる奏でも、同時に二人分のカウンターに合わせるのは不可能だ。
 結果、すずかの分は防げたが、アリサは直撃を食らい、阻んだ分の反撃が奏に突き刺さって吹き飛んでしまった。

「ッッ……!」

 残ったすずかをフォローするため、奏が分身魔法を使う。
 さらに、アリシアも近接戦に参加した。

「「ぐっ……!?」」

「ッ、凍てつけ!」

 二刀という手数を活かし、カウンターを奏とアリシアは防ぐ。
 すずかも氷の霊術で直撃は逸らし、そのままその氷を攻撃に転じさせる。

「後ろ!」

「ぁ……!?」

 だが、優輝は転移で回避と共にすずかの後ろに回り込んだ。
 同時に首目掛けて斬撃が繰り出される。
 奏もアリシアもフォローには間に合わない。

「させるかっ!!」

 間一髪、アリサが飛び込むように地面に刀を突き立て割り込む。
 デバイスでもある刀はすずかの身長程にも刀身が伸びており、それで斬撃を防ぐ。

「離脱!」

 アリシアの合図と同時に、全員の遠距離攻撃が牽制として優輝に襲い掛かる。

「ホンット冗談じゃないわ!近接戦イコール死じゃないの!?あんなの!」

「奏ちゃん以外、まともに攻防すら出来ない……!」

「……バインドも引っかかる前に破壊されてる」

 なのはとフェイトの後方支援は絶えず続いていた。
 魔力弾が奏達をフォローするように優輝に襲い掛かっており、設置型バインドもいくつか仕掛けて動きを阻害しようとしていた。
 だが、魔力弾は全て逸らされ、バインドも見破られて破壊されていた。
 その上で、四人の攻撃を全て捌いていたのだ。

「……作戦変更。前衛は奏だけで、私達霊術組全員が中衛。なのはとフェイトは変わらずにお願い」

「っ、それだと奏の負担が……!」

「構わないわ」

 アリシアの言葉にアリサが反発しようとする。
 だが、奏はあっさりと肯定し、そのまま優輝に再び斬りかかった。

「考える時間は出来る限り減らして!……近接戦で戦えないのなら、それ以外でカウンターを潰すしかないよ!」

 瞬間的な速さならば、奏はトップクラスだ。
 フェイトも十分に速いが、やはり攻撃後の隙があるため、カウンターの餌食となる。
 そこも考慮すると、どうしても奏しか前衛が出来ない。

「ッ、ッッ……!」

 その奏すらも、ほんの数回しか打ち合えない。
 近接攻撃を躱す事に専念すれば、回避は厳しくない。
 だが、専念している以上後衛や他への攻撃は阻止出来ないため、奏はどうしても攻撃による妨害を行う必要がある。
 そのカウンターを躱すのは、奏の速さでギリギリだ。

「(遠距離のカウンターはこっちの物量で何とかなる。いざとなればアリサとすずかが弾いてくれるから、そこの心配は必要ない。……でも、結局それだとジリ貧だ。奏がやられれば、それだけで瓦解する。何とか、カウンター後を突いて隙を作らないと……)」

 矢と霊術で連続攻撃を作り出しながら、アリシアは分析する。
 奏が持ち堪えている間に活路を見出さなければならない。
 ……しかし、カウンターを阻止しようとしても、その攻撃すら逸らされる。
 結果的にそのカウンター自体は阻止出来ても、阻止した攻撃のカウンターが飛ぶ。
 鼬ごっこのようなやり取りが続き、このままだと奏が敗れるのが先だ。

「(カウンター不可の隙さえあれば、フェイトの最高速度で……)」

 修行によって向上したフェイトのスピードであれば、優輝を上回る。
 導王流さえなければ、ヒット&アウェイが可能だろう。
 つまり、確実に攻撃を当てる隙さえあれば、倒せるはずだ。

「……私も行くよ」

「なのは……?」

「今なら、奏ちゃんとの連携があるから……少しは、渡り合えると思う」

 なのはがレイジングハートを二刀に変え、奏に加勢する。
 二人共“天使”を宿しており、その影響による連携は凄まじいものだ。
 そして、御神流を用いた反射神経ならば、導王流に対抗する事も出来る。

「(どの道、このままだと負けるだけ……なら、賭ける!)聞いたね、アリサ!すずか!二人が応戦している間に、何とか隙を作って!……フェイト、隙を作った瞬間を狙って、確実に仕留めに行って」

「……うん……!」

 戦況に変化を与えなければ、確実に優輝は対処しきる。
 そう考えたアリシアは、なのはの行動を足掛かりに指示を出す。
 遠距離攻撃を引き続き霊術組で相殺し、一瞬の隙をフェイトに任せる。

「ッ……!」

「させない!」

「なのは……!」

「二人で行くよ!」

 なのはの予想した通り、奏と連携を取れば渡り合えた。
 お互いの隙を補い合い、御神流の神速を併用すればカウンターにも対応出来た。
 もちろん、神速を連続使用しているため、常に脳への負担はある。
 神界の法則で、死ぬことも後遺症が残る事もないが、痛みはそのままだ。
 その上で、なのはは神速を使い続け、奏と優輝の動きについて行く。

「(ダメ、これでもジリ貧……!なら、分身を犠牲にする……!)」

 刃を突き出す。移動魔法でブレさせた穂先を容易に捉えられ、受け流される。
 カウンターが放たれそうになるが、そこを狙ったなのはの一撃が迫る。
 しかし、それももう片方の手で受け流された。
 だが、カウンターを遅らせる事に成功し、二人は反撃を凌ぐ。

「ッ……!」

 直後、奏がハーモニクスで分身する。
 分身体は果敢に優輝に突撃し……

「がふっ……!?……ッ!!」

 カウンターの手刀に貫かれながらも、抱き着く形で拘束した。
 その上でなのはが斬りかかり、優輝に反撃以外の行動を取らせないようにする。

「(追加で……!)」

 さらに分身を出し、それで拘束していく。
 おまけでバインドも使って拘束する。

「(今……!)」

 捨て身とはいえ、転移以外は確実に封じた。
 それを好機と捉え、フェイトが最高速で斬りかかる。

「フェイトちゃん!!」

「ぇ……?」

 そう。“転移以外”は。
 優輝に攻撃を当てるためには、導王流だけでなく転移も封じなければいけない。
 本来、転移するのにはタイムラグがある。
 瞬時に転移できるのは、短距離に限っても緋雪や優輝、サーラぐらいだ。
 司やとこよも事前に魔法や霊術をストックしておけば可能だが、どの道なのは達にはそういった転移は不可能だった。
 ……故に、失念していたのだ。一瞬の隙すら潰す、瞬間転移を。

「ッ……!」

「転移……!?連続転移で、奏の分身を……!?」

 密着していれば、転移されようと拘束していられる。
 だが、転移を連発されれば話は別だ。
 奏の拘束は振り払われ、フェイトにカウンターが叩き込まれそうになる。
 辛うじてなのはが防ぐが、追撃で吹き飛ばされてしまった。

「なのは……!ッ……!」

 奏となのはが張り付いていたからこそ、優輝は後衛を直接攻撃しなかった。
 しかし、連続転移で奏を振り切り、なのはを吹き飛ばした今、後衛を創造魔法だけで攻撃する必要はない。

「(振り切れない……!)」

 高速で動き続けるフェイトだが、優輝はそれに追いついて来る。
 そもそも転移を使ってくるため、決して振り切る事は出来なかった。
 魔力弾で牽制しても、水しぶきを払い除けるように受け流されてしまう。

「っ、ぁ……!?」

 手刀が胴に突き刺さる。
 痛みに堪える暇もなく、優輝は手刀を抜き、同時に回し蹴りを叩き込んだ。
 直撃を喰らったフェイトはそのまま地面に墜落し、創造魔法で縫い付けられる。

「フェイト……!」

「来るわよ、アリシア!!」

 一人やられた時点で、結果は明白だ。
 優輝は創造魔法で奏に牽制を繰り出し、そのままアリシア達へ肉薄した。

「っづ……!?」

「ッ!?」

「ぁあっ!?」

 僅か三撃。咄嗟に繰り出した三人の攻撃を受け流し、カウンターを放った。
 いつの間にか創造魔法でナイフを手に持っており、カウンターで三人の利き手を斬り飛ばしてしまった。

「このっ……!」

「シッ……!」

 奏が慌てて三人を庇うように斬りかかる。
 しかし、慌ててしまえば導王流のカモだ。
 一撃目のカウンターは何とか躱したが、続けざまに放たれた攻撃とバインドによる拘束の合わせ技が直撃する。

「沈め」

「ッ………ぁ、がっ……!?」

 そして、最後は創造魔法による剣群で強制的に沈められた。
 アリシア達も障壁で耐えようとしたが、物量に押し潰された。

「皆……!」

 唯一、まだ戦闘不能になっていなかったなのはが戦慄する。
 最早、なのは一人では勝ち目がない。
 それを自覚してか、なのははイリスの方の戦いに目を向け……

「っ……」

 その惨状に歯噛みするしかなかった。
 そこには、イリスに挑んだ面子だけでなく、他の神達を足止めしていたはずのはやて達すら、まとめて圧倒されている皆の姿があったからだ。

〈……Master……〉

「……それでも、最後まで諦めない……!!」

 イリスが力を振るう度に、ユーノやザフィーラ、シャマル達の障壁の上から、複数人が纏めて吹き飛ばされる。
 シグナムやアミタなどが何とか反撃するも、どれも容易く防がれてしまう。
 リニスやプレシアの魔法で隙を作り、ヴィータが突貫するも、それも通らない。
 防御さえされなければ攻撃は通じるのだが、肝心の隙が作れていなかった。
 そして、イリスの攻撃はどれも回避困難なため、圧倒され続けていたのだ。

「ッ……!」

 直後、優輝がなのはの目の前に転移してくる。
 導王流の極致に至った優輝は、一挙一動がごく自然に、流れるように行われる。
 まるで意識の隙間に入り込んでくるような動きは、優輝を視界に入れていてなお、見落としてしまう程だ。

「っづ……!」

 剣による攻撃を、なのはは何とか逸らす。
 しかし、攻撃後の隙を突くカウンターでなくとも、今の優輝の動きを相手に、なのはは攻撃を防ぎきれずに頬に掠る。

「(バインドで捕まえて砲撃……ううん、転移があるから通じない……!あの動きを封じるには、まず転移を封じなきゃダメ!)」

 徐々に傷が刻まれていくなのは。
 だが、決して諦めてはいない。
 優輝の動きを分析し、どこかに付け入る隙がないか探る。

「(……でも、私には転移を封じる手段はない。なら、他の手段で攻撃を当てるしかない。……他の手段……)」

 小太刀二刀に変形したレイジングハートを握る力が強まる。
 動きを封じる以外で、優輝に攻撃を当てる手段は確かに存在する。

「(……ここっ!)」

「甘い」

「(カウンターすらカウンターで返す………なら、私はその上を行く!!)」

 即ち、カウンター返し。
 優輝と同じようにカウンターによる攻撃ならば、通じる可能性がある。

「ッ……!?」

 敢えて後手に回ったからこそ、なのはの手数で足りた。
 一撃目のカウンターはあっさりと返され、そのカウンターに合わせ二撃目を放つ。
 それさえもカウンターで返され……そこへ、なのはの魔力弾が直撃した。

「(当たった!)」

 終ぞ当てる事が出来なかった優輝へ、初めてなのはは攻撃を命中させた。
 だが、それは決定打ではない。すぐさま次の行動を移る―――

「墜ちろ」

「ぁ……!?」

 ―――その前に、優輝の反撃が突き刺さった。
 二撃目のカウンターは防いでいなかったため、なのはの体に直撃していた。
 そのために物理的ダメージが大きく、体勢が崩れた。
 そこへ転移からの攻撃というコンボで、なのはは叩き落とされた。

「ッ―――!!」

 地面に打ち付けられながらも、なのはは障壁を張る。
 追撃を防ぐためだ。

「ぁ、がっ……!?」

 だが、無意味に終わった。
 障壁ごと砲撃魔法と創造魔法による剣で貫かれてしまった。











「ぐ、ぁあああああああああああっ!!?」

 一方で、イリスと戦っていたメンバーも、全滅寸前だった。
 ユーノが張った障壁ごと、それに守られていたユーノとクロノが叩き落とされる。

「まずい……!」

「ただの雷程度で、私と張り合えるとでも?」

「プレシア!」

 既にボロボロだったプレシアが、イリスの“闇”による棘で貫かれる。
 リニスが助けに入りつつ魔法を放つが、破れかぶれでは通じない。

「……前衛は既に全滅。……これは、足掻きようがありませんね……」

 意識を既に失ったディアーチェとレヴィを傍らに、シュテルが呟く。
 最後の抵抗とばかりに、全力の砲撃を放つも、それも防がれた。

「(諦められない。諦めたくない。……抵抗の意志は、まだ潰えていない。……でも)」

 “闇”の砲撃に呑み込まれる。
 いくら意志では諦めていなくても、その上からイリスは叩き潰してくる。
 どうあっても“絶望”の二文字が脳裏にちらついていた。

「くっ……!」

 気が付けば、残ったのはリニスだけだった。
 司が強くなったと同時に、その使い魔であるリニスも強化されていたためだろう。
 しかし、今となってはそんなのは誤差でしかない。
 眼前には回避不可な“闇”の壁。防ぐ余力も残っていない。

「っ、ぁああああああああああああああああああ!?」

 身を焦がされる。
 “絶望”の二文字がリニスの心を蝕んだ。
 彼女を呑み込んだ“闇”が晴れた時には、既に死に体だった。

「終わりですね」

 イリスがそう言うのと同時に、サーラとユーリが地面に叩きつけられた。
 なんていう事はない。祈梨との戦闘中にイリスに横槍を入れられただけだ。
 祈梨との戦闘に集中していた二人は、イリスの攻撃をまともに受け、こうして地面に叩きつけられたのだ。

「み、皆さん……」

「まだ戦闘可能なのは貴女達二人だけです。……尤も、今叩き潰しますが」

 死屍累々な惨状をサーラとユーリは目の当たりにする。
 直後、イリスの宣言通りに二人は集中砲火を受けた。
 二人だけでその火力を防げる訳もなく、悲鳴を上げる間もなく倒れた。

「……これで全滅ですね」

 その様は、椿達が介入する前の焼き増しだ。
 誰も立ち上がる者はおらず、敗北を喫した。

「トドメを刺しなさい」

 今度こそとばかりに、イリスは生き残っていた神々に指示を出す。
 倒れた司達の“領域”を完全に砕くため、魂ごと殺しにかかるつもりだ。
 本来、“領域”は神界の神ですら消滅させられない。
 だが、神界以外の存在且つ、消滅の一歩手前までなら、時間を掛ければ可能なのだ。
 それを、イリスは行おうとしていた。

「っ………やめ、ろ……!」

 唯一、能力を失ったが故に真っ先に倒された神夜が、目を覚ました。
 しかし、抵抗する術もない神夜には、どうする事も出来ない。

「……ふふ、せっかくです。私の人形として踊ってくれたお礼に、貴方を壊すのは最後にしてあげましょう」

「ふざ、けるな……!がっ……!?」

 その上で、イリスは容赦しない。
 ただでさえ身動きが出来ない程ボロボロだというのに、さらに拘束を加えた。
 最早、神夜には目の前で起きる処刑を見る事しか出来なかった。

















 
 

 
後書き
何人たりとも、我が身に届かず…魔法を使うための言霊。実際の魔法名は“ゾーン・アブソリュー”(絶対領域のフランス語)。簡単に言えばエヴァのATフィールドであり、あらゆる攻撃や干渉を防ぐ障壁を張る。

導王流の極致は、近距離で戦えば遠距離攻撃が比較的少なくなります。まぁ、近接攻撃のカウンターだけで事足りるため、遠距離攻撃の必要がないんですけど。……そこが付け入る隙でもあります。 
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