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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第29話:三つ巴の争奪戦・その1

 
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。

尚最近の話ですが、諸事情から15・16・24・25話を一部書き直しました。もしかしたら今後も書き直す可能性がありますが、どうかご了承ください。 

 
 二課とジェネシスの戦闘は開始早々に激しいものとなった。

 まず真っ先に狙われたのは集団の後方を走っていた護衛車両だ。あっという間に追い付いたメイジ達は、哀れな羊を前に一切の容赦なく攻撃を仕掛けた。

〈〈〈アロー、ナーウ〉〉〉

 複数のメイジが放つ魔法の矢が、四方八方から護衛の車両に突き刺さる。

 コンクリートの路面を一撃で抉るほどの威力の魔法の矢だ。
 案の定車は木端微塵に吹き飛び、あっという間に後方に流され見えなくなった。乗っていた二課のスタッフもあれではミンチも同然だろう。

 それに構うことなく颯人は了子の車に近付こうとするメイジを迎え撃つ。
 先程2人程叩き落として後方に引き離したが、あの程度ではすぐに戦線に復帰してくるだろう。油断ならない。

 加えて、これだけの数のメイジが居ると言う事はこの場の何処かに指揮官が居る筈だ。それが幹部候補であればまだいいが、幹部クラスともなると苦戦は必須だろう。
 出来る事なら早々に数を減らすなどして、幹部や幹部候補との戦いに備えたい。

 しかし数の差だけは如何ともしがたかった。

「ちぃ、クソッ!?」
「させん!」
〈バリア―、ナーウ〉

 今、颯人の傍を1人のメイジが通り抜けていった。そいつが目指したのは、了子の車の前を走る車両。何をするつもりなのかを察した颯人がさせじと銃撃するが、間に割って入ったメイジが障壁を展開し邪魔をした。

 仲間のサポートを受けて先頭車両に辿り着いたメイジは、ライドスクレイパーから車の屋根に飛び降りた。同時に、箒の形をしたライドスクレイパーは魔法陣に包まれその形状を変化させ槍となる。

 メイジはその槍を着地と同時に運転席の真上から突き刺した。飛び散る血により赤く染まる窓。
 運転手を失った事により制御が利かなくなった車からメイジが飛び立つと、その車は後方で了子の車の右側に居た護衛の車に衝突した。

 残る護衛の車は了子の車の左側を走る一台のみ。

 その一台からは、護衛を務める黒服の男達が身を乗り出し手にした拳銃で必死に応戦していた。相手がノイズでなければ、確かに反撃の余地はある。

 だがしかし、それは所詮儚い抵抗だった。メイジにとって拳銃弾など豆鉄砲にも等しいものでしかないし、そもそもの話車に追い付く為にライドスクレイパーで飛んでいるメイジの機動力は非常に高い。
 撃ってもまず当たらないし、当たったとしても怯ませる事すらできない。

 結果、残った一台の車両も2人のメイジによって呆気なく撃破され残るは了子の車と颯人が乗るマシンウィンガーのみであった。

 その了子の車の上では、シンフォギアを纏った奏がアームドギアを片手に迫るメイジに必死に抵抗していた。

「クソッ、ちょこまかとッ!?」

 颯人が取り零さざるを得なかったメイジによる魔法の矢による攻撃を、奏はアームドギアを振るい叩き落す。
 幸いな事に颯人との訓練により上空を動き回られながら攻撃される事にはある程度慣れていたので対処出来ているが、この状況が続くとしんどいものがある。

 一方の颯人。
 こちらは銃撃できる分奏に比べれば対処出来ており、事実何人かのメイジにはダメージを与えられているがそれでも地上を走る彼と空を自在に飛び回るメイジでは機動力に歴然とした差があった。

 一瞬ハリケーンスタイルになって自分も空を飛ぼうかと考える颯人だったが、肝心のスタイルチェンジをする余裕がない。
 こちらの手の内を知っている連中は、彼に指輪の交換をさせる時間を与えなかったのだ。

 地上の苦戦は、当然上空の弦十郎にも知るところとなる。

「くぅっ!? 敵の魔法使いの戦力がこれ程のものとは――――!?」

 先日の一件から、ノイズの襲撃は警戒していたし 颯人からの警告で魔法使いの襲撃があるかもしれないと言う予測も立てていた。
 しかし二課にとっては初の対魔法使い戦。ノイズとは勝手が違う。
 何よりも厄介なのは、連中はノイズと違って自分で考えて行動する事だ。各々で最適な行動を選択できる上に統率も取れている為、少人数で最大の力を発揮してくる。

 敵の人数は僅か10名ほど、にも拘らず護衛の殆どはあっと言う間に殲滅されてしまった。

 颯人の変身するウィザードと奏の活躍で何とか了子の乗る車だけは守られているが、あの数に攻められてはどれほど持つことか…………。

 さらに懸念として、現時点で確認できているのが雑魚メイジである琥珀色の仮面の奴ばかりと言う事があった。

 颯人によると、琥珀のメイジは必ず指揮官である幹部候補か幹部に率いられているとのこと。

 つまりこの戦場には、まだ姿を現していない幹部候補か幹部が居ると言う事である。

 そんなのにまで出てこられたら、あの場で唯一戦う力を持たない了子の生命すら危ぶまれる。
 そう考えた弦十郎は一か八かの策に出る事にした。

「了子君、今から回避ルートを送るからナビを確認してくれ!」
『了解!…………ッ! 弦十郎君、このルートはちょっとヤバいんじゃない?』

 弦十郎が指示した回避ルート、そこにあったのはこの先に存在する薬品工場だった。言うまでもなく可燃性の高い薬品があるそこでドンパチしたりしたら、最悪全員纏めて木っ端みじんになりかねない。

『この先にある工場で爆発でも起きたら、デュランダルは――――』
「分かっている! だからこそだ。敵の魔法使い達は奏の妨害があるとはいえ、他の護衛車両と護送車に対する攻め手が明らかに違う。恐らく敵もデュランダルは無傷で手に入れたいのだろう。ならばこそ、心理的に敵の行動を縛るんだ!」

 だがそれは敵対しているジェネシスにも同じことだった。連中からすれば奪取を目論む聖遺物――そもそも何故連中がデュランダルを欲するのかは謎だが――を、自分たちの手で破壊しかねない真似は出来なかった。

 それを避ける為には、連中も攻め手を緩めるしかなくなる。彼はそれを狙ったのだ。

『勝算は?』
「思い付きを数字で語れるものかよッ!!」

 了子と弦十郎のやり取りは当然颯人にも聞こえていた。

 彼の言葉を聞き、仮面の奥で颯人は堪らず噴出してしまった。彼の策は最早博打にも等しいものだったが、だからこそ滾るものがある。

──いいねぇ、そうこなくっちゃ!──

 弦十郎の危険な策に、颯人の心に気合いが入る。颯人は決してギャンブラーではないが、迫る困難に心を燃え上がらせる性質なのだ。

 とその時、了子の車の前に新たなメイジがライドスクレイパーに乗って舞い降りた。
 他のと違い跨るのではなく優雅に横座りしている。

 だが問題なのはそこではない。そのメイジの仮面は紫色だった。それはつまり、そいつが他のとは違う幹部クラスと言う事。

 そして颯人は、その魔法使いの事をよく知っていた。

「フフッ!」
〈アロー、ナーウ〉
「ッ!? 避けろッ!!」

 颯人が警告するも間に合わず、突如現れたメイジ・メデューサの放つ魔法の矢が真っ直ぐ運転席の了子に向け飛んでいく。ハンドルを切って回避するのは間に合わない。

 あわやと言うところで、奏がアームドギアで了子に迫る魔法の矢を受け止めた。
 だが他のメイジのとは違う、重い一発に思わず呻き声を上げる。

「ぐっ!?」
「ありがと奏ちゃん、でも前が――」

 奏の行動は確かに了子を救いはしたが、それは同時に了子の視界を塞ぐ行動でもあった。この瞬間、了子にはメデューサの次の行動を見る事が出来ない。

 その隙をメデューサは見逃さなかった。

 了子の回避が間に合わなくなったこのタイミングで、今度は右の前輪を狙って魔法の矢を放つ。

 メデューサの動きが見えない了子にはそれを回避することは出来ず、また先の一撃で動きが硬直している奏はそれを防ぐ事が出来なかった。

 結果、前輪を破壊された了子の車は制御を失い横転してしまう。

「きゃぁぁぁっ!?」
「うわぁぁぁぁっ!」
「くっ!?」

 奏はその際飛び下りる事で難を逃れたが、響と了子はそうはいかない。このままでは横転しながら工場に突っ込み、最悪薬品タンクか何かにぶつかって諸共吹き飛んでしまう。

「させるかっ!」
〈バインド、プリーズ〉

 このままでは不味いと、颯人は魔法で鎖を伸ばし2人が乗ったままの車を何とか停止させる。

 お陰で目的の薬品工場からは離れた所で止まることになってしまったが、死んでしまっては元も子もないのだから致し方ない。

 横転する直前飛び下りた奏は車に駆け寄ると、シンフォギアで強化されたパワーでロック毎扉を引き剥がして2人の安否を確認した。

「響、了子さん!? 2人とも大丈夫か!?」
「な、何とかね……」
「私も、大丈夫で~す」

 横転したせいで上下逆さまになってはいたが、幸いな事に2人に大きな怪我は見られない。その事に奏と颯人は安堵するが、安心してばかりもいられない。

 響と了子の安全を確認し引っ張り出した直後、彼らの周りをメイジが取り囲んだのだ。

 メデューサは勿論、途中で叩き落した筈のメイジも戦線復帰したのか、最初に襲撃を仕掛けてきたメイジが全員揃っている。

 総勢11人のメイジに囲まれた颯人達。奏と颯人は了子と響を守るようにしながらも表情を険しくしている。
 尤も颯人は仮面で表情が隠れてしまっているが。

 そんな彼らに、メデューサが既に勝利を確信したような声で話し掛けた。

「残念だったな、ウィザード。命が惜しくば、その聖遺物をこちらに渡せ」
「俺が自分の命惜しさに、んなことする奴だと思ってんのか?」
「いや、全く…………だが他の者の命が関わるとなればどうだ?」

 言外に、奏達の事を人質にとるようなことを告げるメデューサを、颯人は仮面の奥から睨みつけた。だが悔しい事に、彼が何かをする前にメデューサ達が動く方が早い。
 その場合颯人と奏はともかく、まだシンフォギアを纏っていない響と生身の了子に被害が及ぶ。

 万事休す…………そう思いながらも何かできる事は無いかと颯人が考えを巡らせた、その時である。

「ちょせぇっ!!」
[NIRVANA GEDON]

 突如何処からか放たれたエネルギー球が、彼らを包囲するメイジの輪の一画を吹き飛ばした。

 それと同時にあちらこちらに緑色の光が降り注ぎノイズが出現する。

「何ッ!?」
「これは――――!?」
「奏、今だッ!!」
「ッ!? 響ッ!!」
「え? あ、はいッ!」

 予想外の事態にメデューサの意識が颯人達から離れる。

 その瞬間を見逃す颯人ではなく、奏に声を掛けながらメデューサに攻撃を仕掛けた。
 奏は奏で、響にシンフォギアを纏わせ了子を守らせつつ自分も手近な所に居るメイジに飛び掛かる。

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「えぇい!? ケースを奪えッ! その女は殺しても構わんッ!!」
「んなこと気にしてる暇があんのかッ!!」
「ちっ!?」

 浮足立つメイジに指示を出しながら、自身は颯人からの攻撃に備えるメデューサ。

 その一方で、奏には複数のメイジが迫り、響と了子にも何人か襲い掛かっていた。

 その周辺では突如出現したノイズをメイジが相手にし、更には今日は再びネフシュタンの鎧を纏ったクリスが、了子の持つケースに向かおうとして途中にいた邪魔なメイジに鎖鞭を振るっていた。縦横無尽に振るわれる鎖鞭に、メイジはかなりの苦戦を強いられている様子だ。

 それを横目で見て、颯人は確信する。あの透と言う少年とジェネシスは仲間ではない。何らかの理由で、透はジェネシスから離反したのだ。
 とは言え、その事が分かったところでどうしたものか。

 ジェネシスとは関係ないとは言え、透とクリスは何者かの指示を受けて響を連れ去ろうとし颯人に害を加えようとした。その事に変わりはない。

──あ~、くそ。面倒臭い事になっちまったなぁ──

 事態が複雑化したことに颯人が仮面の奥で顔を顰めている頃、上空のヘリから様子を見ていた弦十郎は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 4人がメイジに包囲された時は、思い切って救援に向かおうと思っていたのだがその直前にノイズが現れたのだ。流石にノイズの相手は弦十郎にはできない。あの乱戦の最中、無策で突っ込んでノイズに灰にされてはそれこそ本末転倒だ。

「くそっ!? 見ているだけで何も出来んとは――――!?」

 弦十郎は、何もできない現状に自身の無力さを感じていた。

 だが――――――

「暇そうにしてんなぁ、おっさん?」
「むッ!?」

 出し抜けに、ヘリの中に第三者の声が響く。

 聞いたこともない男性の声に、弦十郎が弾かれるようにそちらを見ると一体何時からそこに居たのか、1人の男が椅子に座りながら弦十郎の事を眺めていた。
 その顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。

 一瞬で最大限の警戒心を男に向け、弦十郎は身構えた。

「誰だ君はッ!? どうやって、いや、何時の間にそこにッ!?」

 そうは言うが、弦十郎には相手の正体がある程度分かっていた。飛行中のヘリの中に気付かれずに潜り込む事が出来るようなものなど、魔法使い以外にあり得ない。

 それを証明するように、男――ジェネシスの幹部の1人であるヒュドラは、腰のバックルに特徴的な指輪を嵌めた右手を翳した。

〈ドライバーオン、ナーウ〉
「俺は、ヒュドラってんだ…………魔法使いさ!」
〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉
「変身!」
〈チェンジ、ナーウ〉

 身構える弦十郎の前で、ヒュドラは悠々と赤茶色の仮面のメイジに変身した。

 三つ巴の様相を呈した地上どころか、上空でも混迷を極めつつある状況。戦いにまだ終わる気配は見えなかった。 
 

 
後書き
と言う訳で第29話でした。

今回から数話に渡り激戦が続きますが、どうかお付き合いください。

執筆の糧となりますので、感想や評価、お気に入り登録などよろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに。それでは。 
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