| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

バイオハザード -約束のサムライエッジ-

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

後編 REVENGE OF SURVIVORS

 
前書き
-後編からの登場人物-

-エドウィン・サンチェス-
 32歳。すでに退役している元軍人。
 使用武器はレミントンM870ウイングマスター。
 ※原案はクレーエ先生。

-ライアン・ハワード-
 26歳。ラクーン総合病院に勤務していた医師。
 使用武器はテンポイント社ステルスNXT。
 ※原案はクレーエ先生。

-シルファ・カーレイン-
 20歳。ノエルの友人であり、彼女と同じくラクーン大学に通う女子大生。
 使用武器はSIGザウエルP228。
 ※原案は才原輪廻先生。

-ジョン・エリオット-
 20歳。ノエルやシルファと同様、ラクーン大学に通っていた学生の1人。
 使用武器はレミントンMSR。
 ※原案は才原輪廻先生。

-メイソン・アークライト-
 27歳。アンブレラ非正規私設部隊「U.B.C.S.」の生き残り。
 使用武器はM4カービン。
 ※原案は御主人先生。

-ルーク・ステルベン-
 18歳。ラクーン高等学校に通っていた学生であり、ノエル達の後輩。
 使用武器はP90。
 ※原案は御主人先生。

-ユウスケ・ユキハラ-
 31歳。世界各地の戦場を渡り歩いて来た歴戦の傭兵。
 使用武器はSIGザウエルP226E2、M4カービン。
 ※原案は紺碧の海(改)先生。

-サラ・ダンテス-
 27歳。アメリカ海軍に所属している軍人であり、階級は中尉。
 使用武器はH&KMP5、グロック17。
 ※原案は名前#任意の文字列先生。

-ジン・シラハマ-
 22歳。テレビ企画の収録のためラクーンシティに訪れていた剣術師範。
 使用武器は日本刀。
 ※原案はテルメン(白)先生。

-アリシア・セレスティアル-
 13歳。事件に巻き込まれるまではごく普通の中学生として暮らしていたが、G-ウィルスに完全に適合できる希少な身体の持ち主だったことから、タイラントに狙われてしまう。
 ウィルスの影響なのか、人並外れた耐久力と再生能力を持っている。
 ※原案はJames6先生。
 

 
 ――突如、この場に轟く銃声。その主はカイルのM92Fでも、ノエルのM1911A1でもない。

「えっ……!?」
「あのコート野郎が……!?」

 その謎の銃声にハッと顔を上げる2人の前には、タイラントが予期せぬ奇襲に怯む姿があった。どうやら、自分達以外の誰かが、この巨漢を攻撃したらしい。

「カイル、ノエルッ! くたばるにはまだ早いぞッ!」
「その声……まさか!?」

 焼け焦げた廃車の陰や、建物の屋上、破壊されたコンクリート壁の奥から続々と現れた、その乱入者達の姿に――カイルとノエルは、瞠目する。

「デカい怪物がいるかと思えば、まさかお前らが狙いだったとはな。……当てるのが楽そうな的で助かる」
「エドウィン……!」
「よく見ておけ、カイル。至近距離での射撃というのは、こうやるのだ!」

 コンクリート壁の大穴から飛び出して来た、筋骨逞しいスキンヘッドの黒人男性――エドウィン・サンチェス。かつては歴戦の軍人として戦場を渡り歩いていた彼は、軍を退いた今でも衰える気配のない腕前を披露していた。
 その太い手に握られたレミントンM870・ウイングマスターの銃口が、火を放つ時。至近距離故に高い火力を発揮するショットガンの洗礼を浴び、タイラントは僅かにたじろいでいた。

「……かつて私は、あなた達に救われた。人々を救うべき医師として、その恩に報いないわけには行きません」
「ライアン! 来てくれたのね!」
「医師が真っ先に逃げ出しては、誰1人救えませんからね。それに気付かせてくれたのは、あなたですよ……ノエル!」

 ブラウンの髪を靡かせる、白衣の青年――ライアン・ハワード。見掛けは華奢だが、テンポイント社製のクロスボウ・ステルスNXTを握るその姿は、1人の戦士としての勇ましさを感じさせている。
 建物の屋上からタイラントに狙いを定め、引き金を引くその眼差しは、矢に勝る鋭さを帯びていた。

「ノエル、無事!? ――って、なんなのよコイツッ!? ジョン、とにかく加勢しないと!」
「か、加勢ったって……効くの!? 撃ってもちゃんと効くのアレ!?」
「つべこべ言うな! 口より先に手を動かしなさいッ!」
「シルファ!? ジョンまで……どうしてここに!」
「この前、あんた達に助けられた『借り』を返しに来たの! こんな場面に出くわしといて、知らんぷりで逃げるなんてシャクだからねっ!」
「お、俺は2人で逃げようって……」
「何か言った!?」
「いっ、言ってないですぅう!」

 燃えるような赤髪をウェーブショートに切り揃えた、勝気な美女――シルファ・カーレイン。その脇で震えながら銃を構える、褐色の肌を持つ黒髪の青年――ジョン・エリオット。
 彼ら2人はノエルと同じラクーン大学の学生であり、ゾンビ達の襲撃に遭っていたところをカイル達に助けられたことがあった。が、どうやら彼らは自分達の脱出より、恩人達への協力を選んだらしい。

「ホラしっかり狙って、ちゃんと撃つ! 無事に脱出出来たら、デートしてあげるって約束忘れた!?」
「わ、忘れてないよっ! や、やるよ、やれば良いんだろ、やってやるよぉお!」
「その調子! 素敵よ、ジョン!」

 シルファに発破を掛けられ、ジョンはケンド銃砲店から拝借していたレミントンMSRを、廃車の陰から撃ち続けている。そんな彼の傍らで、シルファ自身もSIGザウエルP228の引き金を、絶えず引き続けていた。

「シルファ先輩、ジョン先輩!」
「ルーク! あんたまでどうしてここに……!」
「僕はカイルさん達の姿が見えたから、あの時のお礼に弾薬を渡そうと思って……もしかして、先輩達も?」
「考えることは同じみたいね。ジョン! 可愛い後輩が見てる前でくらい、カッコいいところ見せなさい!」
「わ、分かってるってばあぁあ!」
「……事情は分かりました。ノエル先輩、僕も加勢しますッ!」
「ルーク……! ありがとう、助かるわ!」

 その攻勢に、もう1人の若者が加わる。ラクーン高等学校に通う高校生だった、金髪の美少年――ルーク・ステルベンだ。
 彼もまた、過去にカイル達に救われた生存者の1人であり。その両腕に抱えたP90を武器に、救援に駆けつけて来たのである。

 ――さらに。廃車に身を隠すシルファとジョンに加勢したのは、彼だけではなかった。

「それにしても、P90なんてどこで見つけて来たのよ。あの銃砲店にそんなシロモノ……」
「俺の装備だ。……カイル達を救う為に必要、と聞いてな」
「うわぁ!? あんた誰ぇ!?」
「僕に協力してくれた傭兵の方ですよ。……ありがとうございます、ユウスケさん。これ、凄くしっくり来るんです」
「比較的コンパクトな火器だからな。小柄なお前でも、十分に活用出来るはずだ」

 ルークと共に駆け付けて来た、野戦服を纏う黒髪の男性――ユウスケ・ユキハラ。
 かつてカイル達と共に、盲目の怪物「リッカー」と戦った経験を持つ傭兵であり。彼らに「借り」を返すという、同じ目的で動いていたルークと出会ったことをきっかけに、ここまで辿り着いていたのである。

「……あいつらを死なせるわけには行かん。俺達の弾幕で押さえ込むぞ」
「はいっ!」
「なーによ、いきなり出て来て仕切り出しちゃってさ。……ま、やることには賛成だけどね!」

 長い戦いの中で弾薬を使い果たし、武器としての役目を終えたM4カービンを投げ捨てて。
 最後に残されたSIGザウエルP226E2を構えるユウスケは、戦いに不慣れな民間人達を鼓舞するように、引き金を引き続けていた。そんな彼の姿に刺激されたのか、シルファとルークも、より勇ましい貌で愛銃を握り締めている。

「ち、ちくしょおおっ! 当たれ、当たれぇえ!」
「目を閉じるな、照準をよく見ろ。戦場では、目を背けた奴から死んでいく」
「え、縁起でもないこと言うんじゃねぇえ!」

 一方、眼前で暴れ狂うタイラントの迫力に気圧されていたジョンは恐怖の余り、瞼を閉じたまま引き金を引いていた。
 視覚を封じて銃を撃てば、その分だけ狙いがぶれてしまう。ユウスケは片手でSIGを撃ちながら、もう片方の腕でジョンのMSRを廃車のボンネットに押さえ付け、照準のばらつきを抑えていた。

「よし、いいぞ……狙いが安定してきた」
「うっ、うるせぇよっ!」

 彼の補助もあり、ようやく徐々にタイラントという「現実」と向き合い始めたジョンは――ガールフレンドの前で格好良いところを見せて来たユウスケを睨みながらも、複雑な表情を浮かべている。

「……ユウスケの奴め、軍を抜けて何をしているのかと思えば。まさかアイツまで、ノエル達に借りがあったとはな」

 それと時を同じくして、そんな彼らの様子を屋上から一瞥する者がいた。
 ライアンの隣に立ち、小脇に抱えたH&KMP5を撃ち続ける「彼女」は、かつての同僚を切れ目の眼差しで射抜いている。ポニーテールに結われた艶やかな金髪を揺らし、サブマシンガンの引き金を引く絶世の美女は、その肢体の各部に包帯を巻いていた。

「ダンテス中尉、無理をなさっては傷に障りますよ」
「あぁ……だが、いつまでも寝てはいられないからな。ハワード先生、その節は世話になった」
「医師として、当然の務めです」

 「彼女」――サラ・ダンテス中尉と共に屋上からの援護射撃を続けるライアンは、怪我も厭わず戦闘を続行するアメリカ海軍兵士の勇姿を見遣り、微かに笑みを零す。これほどタフな患者は流石に初めてだ、と。

「ノエル、カイル……お前達を死なせはせん!」

 ――非番の日を利用してラクーンシティを訪れた際に巻き込まれて以来、街を襲うゾンビ達を掻い潜り脱出を目指していた彼女は、混乱の中で蛙の様な風貌の怪物と遭遇していた。
 ハンターγ、通称「フロッガー」。そう呼ばれる件の怪物との戦いで負傷し、窮地に陥っていた彼女を救ったのが、当時のカイル達だったのである。特にノエルとは、蛙型の怪物に対する嫌悪感を共有したこともあって、すぐさま意気投合していた。

 そんな彼らが、あの巨漢に追い詰められている。ならば今は、正体の詮索など後回し。まずは奴を撃退し、2人を救う。
 それがこの瞬間、サラが自分自身に課した最優先事項であった。下で廃車に身を隠して戦っているユウスケも、同じ考えらしく――かつて同僚だった彼らは一瞬視線を交わすだけで、互いの意図を汲み取っている。

「……サラ!」
「あぁ、行くぞユウスケ。……頭上を取るのは戦いの鉄則。篤と思い知れ、図体だけのデカブツが!」

 2人の兵士が、同時に発砲したのはその直後だった。弾切れになったMP5を投げ捨てグロック17に切り替えたサラは、同じくSIGを構えているユウスケと共に、タイラントの頭部に火力を集中させていく。

「ようカイル、まだ生きてたとは驚きだぜ。ノエルだけ掻っ攫っちまおうって思ってたんだが……思わぬオマケが残ってたもんだ」
「……その減らず口、やはりメイソンか。無事だったのは良いが、何しに来た」
「何しに来たとはご挨拶だな。これでも俺の任務は、お前らの救助なんだぜ? ……隊がどうなろうが、俺は俺の仕事をするだけさ」

 そんな中。最初に参戦したエドウィンに続くように、コンクリート壁の大穴からは、もう1人の「軍人」が現れていた。艶やかな黒髪を靡かせる切れ目の青年は、ノエルの美貌を一瞥した後、やや疎ましげにカイルの方へと視線を移す。
 皮肉混じりな軽口を叩きながら、M4カービンを手に飛び出して来た、その男は――アンブレラ社が擁するバイオハザード対策部隊「U.B.C.S.」の隊員、メイソン・アークライトだった。

 ラクーンシティに取り残された市民の救助という任務を帯びていた彼は、所属していた隊が全滅した今もなお、愚直に軍務を全うしようとしているのだ。その誠実さに対しては、今ひとつ反りが合わないカイルも認めている。

「腕前に反したその無駄口の多さ、相変わらずのようだな」
「へっ、あんたの堅物っぷりもな。……ここに救助ヘリを寄越すよう連絡はしてある。尤も、先にあのデカブツを追っ払わなきゃあ、呑気に乗り込む暇もねぇだろう」
「ならば我々の作戦目的は一つだ。あのデカい的に、ありったけの弾丸を叩き込む」
「……やれやれ、あんたの指示はいつも大味過ぎんだよ」

 かつての上官であるエドウィンの横に並び、共にタイラントを撃つメイソンは、憎まれ口を叩きながらも微かに笑みを零していた。どこか、過去を懐かしむかのように。

 ――彼らは皆、かつてカイル達と共に死線を潜り抜けてきた、ラクーンシティの生存者達(サバイバーズ)であり。脱出を目指し街を駆け巡る中、タイラントという怪物を目の当たりにして、ここまで駆け付けて来ている。
 そんな彼らを代表するように、エドウィンがM870をリロードしながら、カイルとノエルの前に駆け寄って来た。

「カイル、ノエル、待たせたな。……その様子を見るに、エドガーの奴は……」
「えぇ……彼は最期まで、立派な警官だったわ」
「……そうか。ならば俺達で、『ケリ』を付けてやらないとな」
「もちろんだ。……手を貸してくれ、皆!」

 カイルの真摯な眼に、集った生存者達は口では(・・・)何も答えず。タイラントへの攻撃を以て、「了解」の意思を示す。
 いちいち言葉など交わすまでもない、ということだ。彼らは元々、そのつもりでここまで来たのだから。

「……しかし、妙ですね。あの怪物、カイル達を狙っているというよりは……邪魔だから(・・・・・)、こちらを排除しようとしているようにも見えます」
「邪魔だから……? どういうことなんだ、ライアン!」
「それは――ッ!?」

 だが、その総力戦の最中。タイラントの挙動に違和感を覚えていたライアンの呟きに、カイルが顔を上げた瞬間。

「ぐぉああッ!」
「カイルッ!」

 瞬く間に間合いを詰めてきた巨漢の拳が、引き金を引く間も無く彼を打ち据えてしまう。そして、転倒するカイルの頭を一気に踏み潰さんと、タイラントが片脚を振り上げた――その時。

「だめぇえぇえっ!」
「……ッ!?」

 突如、物陰から飛び出してきた1人の少女の悲痛な叫びが、この一帯に響き渡り。
 人の声になど耳を貸すはずのない、理性なき怪物が。僅かに、動きを止める。

 その隙に地を転がり、M92Fを構えながら間合いを取ったカイルは――声の主の方を見遣り、目を剥いた。

「カイル! ノエルッ! 大丈夫っ!?」
「なッ……!?」
「アリシア……!? どうしてここに!」
「ご、ごめんなさい。私、どうしても2人が心配で……」

 心配げな表情を浮かべながら、建物の陰から現れた少女に、カイルだけでなくノエルも瞠目する。
 雪のように白い髪をボブカットに切り揃えた、その小柄な美少女の名は――アリシア・セレスティアル。

 なぜかゾンビ達には見向きもされず、その一方で爬虫類のような怪物達に狙われ続けていた、不思議な少女だ。彼女も過去にカイル達に窮地を救われた身であるが――爬虫類型生物「ハンターβ」に襲われ、重傷を負っていた。
 そのため、比較的安全な建物に匿っていたライアンが、手当てしていたはずなのだ。しかし、今の彼女は重傷どころか、擦り傷一つ見当たらない。

「アリシア、君は一体……ッ!?」

 しかも、透き通るような碧さだった彼女の眼は、赤みを帯びた黄色に変色している。ゾンビになった過去の「患者達」とは全く違う「症状」に、ライアンが息を飲む中――タイラントの動きに、変化が現れた。

「……ッ!? こいつ、動きが!」
「まさか……狙いはアリシアだったのか!? クソッ、なんとしてもあの子に近付けさせるなッ!」

 両腕で銃撃の嵐を凌ぎながら、トレンチコートの巨漢はアリシアに狙いを定め、悠然と歩み出す。

「ひっ……! カ、カイルッ、ノエルッ……!」
「アリシアッ!」

 気弱な性格ながら、カイル達の身を案じ、恐怖を堪えてここまで辿り着いた少女は――自分に迫ろうとしている巨大な「暴君」を前に、声にならない悲鳴を上げていた。

 ――T-ウィルスとは比にならない威力を持つ、G-ウィルス。

 アンブレラ社に属する研究員「ウィリアム・バーキン」によって生み出された、その未知のウィルスに感染し。完全に適合してしまった希少な存在である彼女こそが、タイラントの「目的」だったのである。
 G-ウィルスの影響による、驚異的な再生能力。その発露を嗅ぎつけ、タイラントは「戦闘」よりも「回収」を優先しようとしているのだ。

 カイル達の中に、その真相を知る者は1人もいない。が、このままではアリシアが危ない、ということだけは誰もが理解していた。
 銃を持つ者達全てが、その火力を一点に集中させ、タイラントを阻止せんと抗う。だが、追い求めていた獲物を前に「本気」を出した巨漢は怯むことなく、前進を続ける。

 ――そして、その巨大な腕が。少女のか細い身体に、伸びる瞬間。

「はぁッ!」

 丸太のように太い巨漢の腕から、鮮血が噴き出し。その脇を擦り抜けるように、人影がアリシアを攫う。
 すれ違い様にタイラントを斬り裂き、アリシアを小脇に抱えながらその場を脱したのは――長い黒髪を靡かせる、一振りの「刀」を携えた日本人だった。

「ジ……ジン!?」
「随分と手こずっているな、カイル。お前らしくもない」

 彼の名は、ジン・シラハマ。ラクーンシティにT-ウィルスが蔓延する直前、「銃弾を刀で斬る」という主旨のテレビ企画に出演するため、街を訪れていた日本の剣術師範だ。
 ゾンビの大量発生に伴う混乱の中でカイル達と共闘し、意気投合していた彼もまた、この場に駆けつけて来たのである。

「ジン! 奴の狙いは……!」
「分かっている。この子の保護は俺に任せて、お前達は持てる物全てを撃ち放て!」
「へっ……だ、そうだ。サムライ様の仰る通り、派手にブチかましてやろうぜッ!」
「全員、一斉射撃だ! この場で一気に仕留めろッ!」

 もちろん、腕を斬られた程度で立ち止まるようなタイラントではない。暴君の名を冠する巨漢はゆらりと振り返り、アリシアを抱えるジンに襲い掛かる。
 だが、ジンは剣客ならではの素早さでタイラントの腕をかわし、巧みに距離を取り続けていた。そんな彼の叫びにエドウィンとメイソンが応じた瞬間、この場にいる生存者達全員が、狙いを「一点」に定める。

 今こそ、決着を付ける。その目的を一つに、戦士達は引き金を引き続けていた。

「カイル、今よッ!」
「あぁッ! ――うぉぉおッ!」

 仲間達の援護射撃に、タイラントは僅かながら後退し始めている。この機を逃す手はない。
 M1911A1を撃ち続けるノエルの声に応じて、カイルは雄叫びと共に持てる全ての銃弾を、タイラントの巨体に撃ち込んで行った。

 ――その銃が似合う警官に。S.T.A.R.S.に相応しいヒーローに。

 今は亡き師と友と、交わした約束を胸に。彼の手に握られたM92F(サムライエッジ)が、絶え間なく火を放つ。
 共に死線を掻い潜ってきた仲間達も、その後に続き己の得物を巨漢に向ける。

 そして――カイル達全員の弾丸が尽き。全力の一斉射撃が、ついに終わる頃。

「……!」

 硝煙に巻かれるように。トレンチコートの巨漢は、その姿を完全に消してしまうのだった。
 跡形もなく砕け散ったのか。勝ち目がないと逃げ出したのか。――あるいは、見逃して貰ったのか。

「……カイル」
「あぁ。……終わったな、ノエル」

 物言わぬ怪物が相手である以上、それは分からない。だが、生還という名の勝利を手にした事実だけは、揺るぎないものであった。

「……フォレスト。エドガー。……俺はまだ、生きるよ」

 生存者達全員の頭上を飛ぶ救助ヘリのローター音が、それを確信させている。眩い夜明けと共に戦いの終幕を悟った彼らが、朝陽に照らされる各々の得物を降ろしたのは、その直後のことであった。

 ――そして、1998年10月1日。

 彼らを乗せた救助ヘリが、街を離脱してから数日も経たないうちに。
 ジル・バレンタインの脱出と時を同じくして、大統領の命による滅菌作戦「コードXX(ダブルエックス)」が決行され――ラクーンシティは核の炎により、跡形もなく消え去った。

 だが。それは、新たなる生物兵器との戦い(バイオハザード)の幕開けに過ぎなかったのである。

 人類を苛む惨劇はまだ、終わりではない。

 ◇

 それでも、「彼ら」は戦い続けているのだ。

 どんな恐怖も、悪夢で終わらせない。そのために現在(いま)も、銃を取り抗い続けている。

「カイル、準備はいいか」
「あぁ。……行こう、クリス」

 バイオテロ対策部隊として創設された、Bioterrorism(バイオテロリズム)-Security(セキュリティ)-Assessment(アセスメント)-Alliance(アライアンス)――通称、「BSAA」。
 元S.T.A.R.S.であるクリス・レッドフィールドの誘いを受け、そのメンバーに加わったカイル・グリーンホークは。あの日からの「約束」を、頑なに守り続けている。

 かつて肩を並べ、あの地獄を乗り越えたエドウィン・サンチェス。
 ライアン・ハワード。
 シルファ・カーレイン。
 ジョン・エリオット。
 ルーク・ステルベン。
 ユウスケ・ユキハラ。
 サラ・ダンテス。
 メイソン・アークライト。
 アリシア・セレスティアル。
 ジン・シラハマ。
 そして、ノエル・スプレイグ。

 彼らに恥じぬ、「ヒーロー」で在るために。長年の付き合いになる、相棒のM92F(サムライエッジ)を握り締めて――。
 
 

 
後書き
 どうも皆様、作者のオリーブドラブです。この度は拙作「バイオハザード -約束のサムライエッジ-」を楽しんで頂き、誠にありがとうございました!(*≧∀≦*)
 この後もカイルは、どこかでバイオテロと戦い続けてるんだなぁ……と思って頂ければ幸いです(´-ω-`)

 そして、当時のキャラ募集企画にご参加頂いていた皆様! ご協力、ありがとうございました! おかげさまでカイルとノエルも無事に、タイラントから生還することが出来ましたぞ(*´ω`*)
 機会がありましたら、また皆様とお会い出来れば幸いであります。ではではっ、この度は拙作を最後まで読み進めて頂き、誠にありがとうございました!(*゚▽゚*)
 失礼致しますっ!٩( 'ω' )و




Ps
 ついに今日から、バイオハザードRE:3発売ですぞ(*´꒳`*) 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧