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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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三十四 桜吹雪

 
前書き
いつもギリギリ更新、すみません…!

サクラがお好きな方には申し訳ない展開になっていると思います。
ご注意ください!!


 

 
「鼠がうるさいと思ったら…」

蛇の鱗を思わせる回廊。
その奥に佇む、桃色の髪の少女は三つ編みに結った髪をなびかせて、ナル達の前に立ちはだかった。

「勝手に入り込んだ鼠は、猫に噛み殺されても文句は言えないわよね?」

呆然と立ち竦み、言葉が出ないナルの代わりに、シカマルとヤマトが一歩前へ進み出る。
その様子を、彼女は冷ややかな視線で眺めた。

「さ、サクラちゃん…」

ナルの呼びかけに、春野サクラは桃色の長い髪をサラッと揺らして微笑んだ。
だがその微笑は、かつての彼女からは程遠い、冷たいものだった。













「先ほど大蛇丸と戦って、地形をクレーターのようにしたのは君だよ。ナル」

崩壊した橋や抉れた地面も、ナルによるものだと語るヤマトの発言。
それに衝撃を受けるも、ナルは教えてくれたヤマトに感謝していた。

九尾の力に頼った力はナルの本当の実力ではない。それはいずれ、ナル自身を苦しめることになる。
ナルの強さの源は恐るべき九尾の力に耐えうるナル自身のチャクラの力だと、ヤマトは告げた。

九尾化したナルを監視していたヤマトは、ナル自身が九尾の力に頼らなくても十分強いと察していた。
だからこそ、あえて真実を告げたのだ。たとえナル自身を傷つけることになっても。


故に、ナルは九尾の眼ではなく、己自身の眼で彼女を見つけたのだ。


だがそれは、ナルが思い描いていた感動の再会などではなかった。















大蛇丸が根城にしているアジトを突き止め、そこに潜入した波風ナル・奈良シカマル・ヤマト。
そこで、木ノ葉の里を抜けたうちはサスケと春野サクラを捜し求めてきた彼らはようやく、その内のひとりと再会した。

ずっと追い駆け続けていた元同じ七班のひとり。
仲の良かった春野サクラを前にして、ナルは感動で打ち震える。

だが、待ち望んでいた再会に純粋に喜んでいたのは、しかしながらナルだけだった。


「サクラちゃん…やっと会えた!早く木ノ葉へ帰ろうってばよっ」
「なに言ってるの?」

サクラへゆっくり近づこうとしたナルは、彼女の冷ややかな視線に動揺した。
だがめげずに、明るく声をかける。
しかしながらそれは隣で見ているシカマルにとって痛々しい笑顔だった。

「あの…サクラちゃん…髪、伸ばしたんだってばね!サクラちゃんは綺麗な髪だから短いのも長いのも似合うってばよ!」
「そう?ありがとう」

ナルの称賛に、ニコッとサクラが笑う。
かつての彼女の面影が垣間見えてホッとしたナルは、更に一歩、足を進めた。

「サクラちゃん…あのさ。木ノ葉でみんな、待ってるってばよ?だから早く、」
「────ナルっ」

ナルの言葉を断ち切って、シカマルが叫ぶ。
シカマルに抱きつかれ、横へ転がったナルは、直後、先ほどまで自分がいた場所を信じられない思いで凝視した。


視界に入るのは、床に突き刺さっている銀色。
鈍い光を放つ、切っ先の鋭いクナイだった。



「悪いけどね、ナル」

ナル目掛けてクナイを投げつけたサクラは、肩にかかる桃色の三つ編みの髪をバサリと指で弾いた。


「サスケくんの傍が私の居場所なの」



















蛇の腹の内側の如き回廊。
その奥の奥の部屋で、アマルと共に書類を眺めていたザクはチッと舌打ちした。

「ったく。カブトさんも面倒なこと押し付けやがって」
「火影直轄部隊暗部構成員のリストなんて滅多に見られる代物じゃないと思うけど」
「そーゆーことじゃねぇ…俺はこーゆー細々した作業が苦手なんだよ」

うんざりしているザクの手元にあるのは、カブトからアマルが受け取った封筒。
ダンゾウからの命令でサイが大蛇丸に渡した封筒の中身だ。

これでビンゴブックを作るように、という大蛇丸の指示はカブトが受けたものだが、それはそのままアマルに託された。
そうして先ほど新たに仲間となるらしいサイという人物をアジトの部屋に案内し終わったカブトにより、ザクもビンゴブック作りに駆り出されたのだ。


「だいたい、さっきまでアイツがいたんじゃないのかよ?」
「ああ。春野サクラのことか」

ザクの問いに、アマルは肩を竦めてみせた。

「彼女なら、サスケを捜しに行ったよ」
「チッ…どいつもこいつもサスケサスケって」

うちはサスケに敵対心を燃やしているザクに、アマルは苦笑する。



彼らは知らない。
サスケを捜しに行ったサクラが現在、アジトに潜入してきた木ノ葉の忍びと対峙している事など。























「さ、サクラちゃん…」
「ナル…貴女は変わらないわね」

昔と同じく、真っ直ぐなナル。
だが自分よりも遥かに強く、成長してゆく彼女に劣等感を抱いていたサクラは、苦々しげに唇を歪める。


三つ編みにした桃色の長い髪。
深緑の瞳の色は変わらないのに、その眼の奥の冷たさに、ナルは息を呑む。

動揺するナルの隣で、ヤマトは冷静に印を結んだ。
木遁の術を発動させる間際、突き刺さっているクナイから、しゅううう…っと煙が立ち上る。

刹那、白煙が回廊中に一気に満ちた。


「煙玉か…!!」

サクラが投げたのはクナイだけではない。
煙玉と共にクナイを投げつけ、煙玉にクナイを突き刺したのだ。
床に突き刺さっているのみだと思っていたソレは、煙玉に刺さり、そこからじわじわと白煙が溢れ、爆発したらしい。


視界が不明慮になる中、ヤマトとシカマルは身構えた。

「しっかりしろ!!ナル!!」

シカマルの声でハッと我に返ったナルは、やがて白煙の中を漂うソレに眼を凝らした。

「桜…?」

桜の花びらがひらひらと宙を舞っている。
それは次第に数を増し、まるで花嵐の如く渦巻き始めた。

美しい光景に思わず見惚れてしまう。だが直後、花吹雪の中から桜ではない何かが身をくねらせてナルに躍りかかった。

「うわっ」

反射的に避けたナルのすぐ横を、蛇が飛んでゆく。
白煙と桜の花嵐に紛れ込み、数多の蛇があちこちから、ナル・シカマル・ヤマトへ襲い掛かってきた。

視界を奪われた今、状況が把握できない。まずはこの危地を脱しなければ、サクラを連れ戻すどころではない。
蛇を払いのけたシカマルが印を結ぶ。

「【影真似の術】!!」

影を伸ばし、術者であるサクラの動きを止めようとする。

視界は花で埋め尽くされようとも、足元は疎かだ。
よってシカマルの影は確かにサクラらしき人物の影と繋がる。

「とらえた!!」
「よしっ」

影がつながった感触を覚えたシカマルが頷くや否や、ヤマトが印を結ぶ。

「【木遁・黙殺縛りの術】!!」

ヤマトが伸ばした腕。
そこから縄の如く伸びた木が、シカマルがとらえた影の持ち主に巻き付く。

「つかまえた!!」
「……誰をかしら?」

ヤマトが確信すると同時に、ナルの背後からサクラの声が響く。
ハッとしたナルは「ヤマト隊長!離れるってばよ!!」と叫んだ。

「なに…!?」

己の腕を木に変えていたヤマトはナルの注意で、捕縛対象の手応えが無いことに気づく。
直後、自分の腕をつたって、逆に蛇がヤマトのほうへ向かってきた。

「くっ」

慌てて術を解く。
ヤマトの腕に巻き付いていた蛇がぼとりと落ちた。


捕らえたと思った対象が数多の蛇だったことに、シカマルは顔を顰める。

【影真似の術】で影を繋げた時は、確かに人の影だという確信があった。
それなのに何故…。


ハッと眼を瞬かせたシカマルは、一度、深呼吸すると己のチャクラの流れを止めた。
直後、一気にチャクラの流れを乱すと、寸前まで見えてこなかったモノが見えてくる。

(そうか、これは────)

シカマル同様、気づいたヤマトも同じ動作をする。シカマルがナルに囁いて、同じ動きをするように促した。

戸惑いつつも、ナルもチャクラの流れを止め、そこですかさず一気に相手を上回る力でチャクラの流れを乱す。
すると、白煙は晴れてゆき、花嵐もみるみるうちに消えてゆく。

相手の五感に働きかけ、その脳神経に流れるチャクラを己がコントロールする高度な術。

所謂、幻術をかけられていると推測したシカマルの機転により、不可解な現象から脱したナルは、実は先ほどから全く動いていなかったサクラを見据えた。

「あらら、バレちゃったか」

ぺろっと可愛らしくサクラが舌なめずりする。
だがその瞳は、まるで猫のように爛々と輝いていた。












かつて、サクラはナルを女としての魅力を始め、体力面・頭脳面等何もかも自分のほうが勝っていると考えていた。
だが次第に、ナルがどんどん心身共に成長するのを目の当たりにして、サクラの胸中には酷い焦燥感が培ってゆく。

サクラ自身はアカデミーの頃と全く変わらないのに、いつの間にか、ナルはずっと先を見ていたのだ。前へ前へと進んでいる。
その事実に愕然とし、同時に彼女は気づいた。

単なる器用貧乏なだけの自分は、大した取り得のないくノ一に過ぎないのだと。
瞬間、同じ女でありながらナルに嫉妬と羨望、そして劣等感をサクラは抱いた。

追い駆けられていたはずが何時の間にか追い越されている。その事実を認めたくは無い。
だからサクラは、『木ノ葉崩し』の際その時何故か自分を助けてくれた香燐という少女の助言を素直に聞いた。

自分の特技や取り柄を見つけるようにとの指摘を受け、サクラがまず思い浮かべたのは担当上忍たる畑カカシの意見。
幻術の才能があると言われたばかりのサクラは、すぐにその言葉に従った。

『木ノ葉崩し』以降、即座に幻術が得意な夕日紅の許へ向かい、教授してもらう。
それは木ノ葉の里を抜け、大蛇丸の許へ下っても、変わらない。


一心不乱にひたすら、サクラは幻術の修行に打ち込んだ。
その結果がこれだ。




「まぁ、サスケくんの【写輪眼】の前では敵わないけどね」

肩を竦めたサクラは、いっそ優雅な仕草で、親指を軽く噛み切った。
なにをしようとしているか理解して、ナルはシカマルとヤマトに注意を呼び掛ける。

サクラの印の結び方。
その動きに見覚えがあった。


「【口寄せの術】!!」


刹那、回廊が瓦解する。




崩壊してゆく最中、ナルは見た。
巨大な猫又の背に乗る、サクラの姿を。












































ポツンと小さく灯る蝋燭。
その灯りがちらちらと照らすのは、薄暗い部屋で何かを思案する物憂げな表情の人物。

仮面の男が去った後、しばらくの間、深く思案に暮れていたサスケは、やがてス…と【写輪眼】を発動させた。
同時に、地を蹴る。


扉の隙間から、わらわらと忍び寄ってきた数多の蛇。
それらがサスケ目掛けて這ってきた。

跳躍し、蛇の猛攻を易々と回避する。
蛇を薙ぎ払いながらも、サスケの視線は扉から外れない。


ややあって、扉の隙間が音もなく、開いた。

「…時期尚早かと思っていたけど…もう我慢できないわ…」


ねっとりとした声音が、室内に這うように響く。

サスケの部屋の扉の隙間。
そこに長く細い指を這わせて、大蛇丸は囁いた。


「さぁ…サスケくん…」

数多の蛇がサスケを取り巻く。
逃げ場を逃すように殺到した蛇の主は、恍惚とした笑みを湛えて、長年の願いを口にした。











「────君の身体を私にちょうだい」
 
 

 
後書き
最後に出て来たのはNARUTO疾風伝アニメの第四百九話に出てきた猫又です。
二尾ではないのであしからず。
サクラは猫が似合うような気がなんとなくします… 
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