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剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ

作者:炎の剣製
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074話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その1

 
前書き
更新します。
これより開かれるは深淵の彼方。
とある者の視点から紡ぎ出されるシリアス。いや……シリアル!
さぁ、パル様劇場が始まるザマスヨ!
 

 
「え……? いきなりクライマックス……?」


わたしこと、早乙女ハルナの口から自然と飛び出した最初の一言がそれであった。
士郎さんの記憶を最初から見る事になって、まさかいきなりこんな悲劇の光景を見せられてさすがのわたしも思考が追い付かずに混乱してしまったようだ。
見ればのどかやユエ吉なども青い顔をしている。
そうよねー。
普通ならそう感じるだろうし……。
周り一面が炎のような地獄の光景、燃えてしまったのかもとは人間であった死体…焼け崩れた家の数々…その中をただ一人傷だらけで歩き続ける幼少時代のおそらく士郎さん…。
こんな光景を見せられたら普通はのどか達の反応の方が正常だ…。


だが、それがどうした!?


こちとらそういう修羅場には慣れていないけど、創作の世界ではよくある悲劇の主人公設定ではありがちかもしれない光景じゃない!?
……そうだ。この士郎さんの記憶を普通の感性しか持ち得てないわたしだったらきっと耐えられない……。だが、創作物だと思い込むことによって乗り越える事はもしかしたら可能なのではないか!?
そうだ、良い事思いついたわたし。褒めてつかわす。
…………というわけで、フィルターON!!
今よりわたしは創作者視点の修羅と化す…。






記憶の中の士郎さんは少し辛そうに歩いている…。
そりゃそうだ。さんざんひどい光景を見せられてきたんだからまいっちゃうよねー。
あれ? そのまま倒れちゃうの……?
でも、そう簡単には死なないでしょう!
だって、そしたら今この場にいる士郎さんはどうやって成長したのか……まだ始まったばかりじゃない? 焦らずにいきましょう。

空には黒い太陽が浮いていて、本能的にわたしもあれはイケナイモノだと察知できたよ。
そして倒れた士郎さんが伸ばした手もついには落ちそうになって、そこで掴まれる手。

キターーーー!!
そうだよ、誰かが助けなきゃこのままだったら普通に士郎さんは死んでるって!
そこにはよれよれの黒いコートを着た、いかにも苦労が似合うような憔悴した表情をして、それでもどこか安心しているような顔をしているおじさんが映っていた。
この人がもしかして今後士郎さんになにかしらの影響を及ぼす人なのだろうか…?

…そうだ。思い返せば少し違和感があるよねー。記憶の始まりが大火災の中だってんなら、それ以前の記憶はないといってもいい。
普段から面倒見がいい士郎さんがいきなりこんなショッキングな光景を見せてくるはずがないしね。
うんうん。ようするに大火災以前の記憶も燃やされて無くしちゃった系…?


それで掴まれた手の先のおじさんの顔を見たのかそこで一時士郎さんの記憶は暗転して、次に目覚めた時には病室の中であった。
そして、思った通り、士郎さんは記憶を無くしていた。

周りにも他にも被災孤児がいたにはいたけど、それでも士郎さんは興味を示していない。
いや、あれは感情もなくしたような感じで、目に光が灯っていなかった…。

「そんな……士郎さん」

ネギ君がそれでどこか自分を見るような感情を向けている。
わたしはまだネギ君の過去になにがあったのかは見せてもらっていないけど、アスナなんかは苦々しい顔になっている。
おそらくネギ君以上にひどい光景だったんだろうね。

士郎さんを診ていた医師がこう言った。

『……君以外にはあの区域では生きている人はいなかったんだ…』

正直に話すのもまぁ現実を分からせるのはいいと思う。
でも、それでも士郎さんはただただ薄い反応しか示していない。
そこがどこか物悲しくて…。
しかし、わたしは感じる。
きっともう少ししたらあのおじさんがやってくるのだと!

あの人がなにもない空っぽの士郎さんに新たな命と指針を吹き込むのだとわたしは確信している。
そしてわたしの期待通りにそのおじさんはやってきた。

『やあ。君が士郎君だね』
『おじさんは誰だ…?』
『僕かい? 僕の名前は衛宮切嗣というんだ。それでだけどね、率直に聞くけど、知らないおじさんに引き取られるのと、孤児院に引き取られるのはどっちがいいかな?』

うんうん。導入としてはいい感じよね。
こんな二択を迫られたら普通にこの切嗣さんに引き取られた方が良物件だもんねぇ。
なぁんか、もうすでに匂うものがあるかしらん…?
なんで士郎さんなのか? それじゃ他の子どもたちはこれから普通に孤児院に引き取られてしまうのか…?
切嗣さんの気まぐれでもあるまいし…………くぅ、きっとあの意識が暗転した後に切嗣さんが士郎さんになにかしらの事をやったんだろうなぁ! 記憶が途絶えた後でもシーンが続いているもんだったらよかったのに、惜しい!!
なんか後程にこの引き取られなかった子供とかがふとした時にばったり現れたりするもんよねー。
とりあえず顔だけでも覚えていても損はないと思う…。

そして、士郎さんは切嗣さんに引き取られる事になったんだけど、切嗣さんはまたしてもわたしの厨二心をくすぐるセリフを言いましたよ!

『そうだ、大事なことを言い忘れていたんだ』
『……?』
『最初にこれだけは言っておかないといけないんだ。うん……実を言うとね、僕は、魔法使いなんだ……』

それで士郎さんは素直に『すげー!』とか言っていたけど、あきらかにこれは裏世界に巻き込まれるフラグよね。うんうん、わかるよー。

「こりゃ……のちほどに巻き込まれる要素が満載だねー」
『そういうものですか? 朝倉さん?』

朝倉も感じ取ったのかそう零している。
やっぱり思う事は同じって事ね!
……――――前に夜の校舎で見た幽霊ちゃんに関しては今はスルーの方針でいこうか……。


それからシーンは流れて行ってどう見てもかたぎじゃない人との交渉をしている切嗣さん。
それを見ていても意味が分からないためにやけに広いやっぱりかたぎじゃない人の家の庭でぼーっとしていると、どうにもそこの娘さんなのだろう、まだ見た感じ中学生か高校生っぽい制服を着たどこか野性味あふれる感じの女の子が出てきて、

『君はどちらの子かなー!? いや、なんとなく察したよ! あの、切嗣さんの連れだね!?』
『お姉ちゃん、だれ……?』
『わたし? わたしはここの子で藤村大河っていうの! 決してタイガーじゃないんだからね!? で、きみのお名前はなんていうの!?』
『し、士郎……えっと、衛宮士郎です……』
『士郎君かー! うちのとなりの武家屋敷に住むんでしょ!? それじゃご近所さんだー! よろしくね!!』
『お、おう……大河さん。うおっ!?』

そこで頭をいきなりガッシリ掴まれて宙を浮く士郎さん。
あれはなんていうかさっきも言ったけど大河って名前になにかコンプレックスでもお持ちなのかな?

『わたしってね、名前はそんなに気に入っていないの。だからね? 名字で呼んで?』
『そ、それじゃ藤村姉ちゃん……』
『もっとくだけた感じで!』
『…………ふ、藤ねえ?』
『よろしい! それじゃこれからそれでお願いね、士郎!』


そんな感じで藤村さんと仲良くなった士郎さん。
なんか小太郎君が、

「なんや勢いが千鶴姉ちゃんみたいやな……」

って、言っているけど、そういえば小太郎君も今はどこで暮らしてるんだっけ?
なんか後でリサーチしておく方がよい感じ?


そして、武家屋敷での暮らしぶりがしばらく続いているんだけど、士郎さんは火災での事を思い出してか何度か熱を出して寝込んでしまい切嗣さんに看病されるシーンが映されるが、次第にそういうことは減っていって、それと同時に士郎さんはなにを思ったのか、

『じーさん。俺に魔法を教えてくれ……ッ! 魔法使いなんだろ!?』
『士郎……。でもね……』
『もう嫌なんだよ……。あの大火災でなにもできないで見過ごすことしかできなかった自分は……。助けの言葉をかけられたのに……俺は、見ないふりをしちまった……。ああしないと俺も死んじゃうと思っちまったから……。だから、あの時俺の事を助けてくれたじーさんみたいになりたいんだ!』
『…………それでも』

切嗣さんはやや反対だったらしく、その時は士郎さんには魔法を教えなかった。
でも、何度もせがまれていってとうとう切嗣さんも折れたのか、

『分かったよ、士郎……でもね。僕は魔法使いじゃなくて本当は魔術師っていうんだ』
『魔術師……?』
『でも、言い方としては僕は魔術を手段として使っているから、魔術使いって言った方が聞こえはいいかな?』

それから切嗣さんは士郎さんに魔術の指南を始めた。
でも、そこでエヴァちゃんが言葉を発した。

「…………しかし、この光景を見るのは二回目だが、魔術というものを知った今となってはこの男は相当士郎には魔術の世界には入ってほしくなかったのだろうな…」
「え? それってどういう事? エヴァちゃん……」
「なに……魔術回路は一度生成できれば後はオン・オフが可能だというのに、士郎には一から何度も魔術回路を作らせるという遠回りな方法しか教えなかったんだよ。しかも、この時にはまだ士郎の魔術の特異性には気づいていなかったために強化とか変化、解析といった基本的な魔術しか教えなかったんだ」

なるほどー。
それで士郎さんはそれを苦しみながらも延々と繰り返していたわけか…。
これは複線かな? たとえば痛みに慣れるっていうのとか、後は体が副作用で頑丈になるとか…。

まぁ、士郎さんとイリヤさんとエヴァちゃん……そしてこのかや刹那さんとかによる後々のネタバレがされない限り、今は考えても詮無い事なので先を見ていこう。
それから家の家事がある程度士郎さんができるようになってくると切嗣さんは何度か旅行に出かけるようになった。
士郎さんには目的は話さなかったけど、帰ってくるたびになにかしらのお土産を持ってきていたのはなんだったんだろう…?
そして、そこでなにかしらイリヤさんが辛そうな表情になっていたのをわたしは見逃さなかった。
もしかして、切嗣さんはイリヤさんの事を迎えに行こうとしていた……?
それでも、何度も失敗しては途方にくれながらも逃げ帰ってくるしかなかった……?

もしわたしのその考えが当たっていたとしたら、それはどうしようもない絶望感だっただろうな…。
それで帰ってくると士郎さんの顔を見ては空元気になっていたって考えたら泣きたくなるね。
しかも少しずつ切嗣さんの顔が痩せてきていて、身体が衰えてきているのはあきらか。
死期が近いのかもしれない……。


そして士郎さんが引き取られて五年が経過したある月が満月で夜が明るい晩の光景が映し出された。
切嗣さんはもう歩くことも困難なくらいに老衰している感じでわたしから見てもいつ死んでしまってもおかしくない感じだった。
それが今なんだと気づいた。
切嗣さんは士郎さんに語る。

『……僕はね、正義の味方を目指していたんだよ』
『なんだよ? 目指してったってことはもうあきらめちまったのか?』
『ははは、正義の味方には年齢制限があってね……もう大人の僕はなれないんだよ』
『そっか……うん。それじゃしょうがないから俺が代わりに正義の味方になってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ?』
 
このとき、わたしは不謹慎かもしれないけど、士郎さんはもしかしたら切嗣さんの呪いを引き継いでしまったんじゃないかと思った。
おそらく、あの大火災の原因の一端に切嗣さんは関わっているだろうし、なかなか魔術を教えなかったのも、巻き込んではいけないと思ったからであって、それでも切嗣さんの表情はもうとても穏やかで、士郎さんは続けるようにこう言ってしまった。

『まかせろって、爺さんの夢は俺がちゃんと形にしてやるから!』
『……ああ、安心した』

そして切嗣さんは安心するように永眠。

「育ての父親がこうも……」
「はい……。僕はまだお父さんが生きていると思えるから頑張れますのに……士郎さんは……」

ユエ吉とネギ君がなにかを感じ取ったのか涙を流している。


一同がそれで悲しい雰囲気に包まれているそんな中で再びわたしは不謹慎かもしれないけど、呪い引き継ぎイベント突破ーーーーーッ!!
しかも切嗣さんは大火災の真相を一切合切士郎さんには教えずに闇に葬っちゃった!?
これで士郎さんは必ず『正義の味方』にならないといけないというある意味生きる指針が心に刻まれてしまったーーー!!
人のためにあれという歪な主人公の誕生の産声だ!!
さぁって、チュートリアルはこれで終了かしら!?
まだだ、まだ士郎さんが魔術の世界に入っていくフラグメントが足りない!
まだこれではよくて正義の味方になるとしても警察官か消防士になるのが関の山だろう。
なにか、なにかが起こる予感がする…。
きっとまだ続きが描かれていくはずよ。
焦るな、ハルナ。まだイリヤさんやランサーさんですら登場していないんだよ!?
こういう焦らしプレーはお手のもんでしょ! 今はまだ士郎さんの日常ライフでも見ていようじゃないか!
口角が少しずつ上に上がっていく感覚があるのをなんとか必死に我慢しながらも、わたし達は次の展開に移行していくのである。


 
 

 
後書き
メタ視点って意外にやれるもんだね。
聖杯戦争前まで一気に書こうと思ったら、そんなに書けなかった。 
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