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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
カザーブ~ノアニール
  故郷にて

 
前書き
2020.3.14 改稿しました。  

 
「まだカザーブにつかないのか?」
 疲労と空腹で不機嫌度MAXの勇者が、さっきから不機嫌な顔で私を睨み続けている。
 ロマリアを出発してから今日で丸3日。そろそろカザーブにたどり着いてもおかしくない頃なのだが、普段余り慣れない山道のため、距離の割に時間がかかる。おまけに魔物も好戦的であり、この3日間魔物と遭遇したのは数知れず。おかげで私のレベルも2~3上がってくれた。だが、レベル30のユウリがいなければ、おそらく倍以上の時間がかかっていただろう。
 ちなみに私がアリアハンに向かうためにカザーブからロマリアまで行った時は、ロマリアから来た馬車、それに兵士たちと一緒だったので随分楽な旅路だった。
 思えばこのとき少しでも兵士たちと一緒に魔物と戦っていれば、少しはユウリに文句を言われずに済んだんではないだろうか。
「えーと、もうちょっとで着くはずだよ」
「その『もうちょっと』を何回言ったと思ってるんだ!!」
 私の言葉に、ユウリはさらに声を荒げる。
「俺はお前らみたいな単細胞と違って、デリケートなんだ。今度その言葉言ったら次の野宿のとき一晩中見張りをやらせるからな!」
 私は夜通し一人で見張りをする想像をして、ため息をついた。
「はぁ……。なんでカザーブってこんなに遠いんだろ……」
 私の故郷カザーブは、山間に囲まれた小さな村である。つい十数年ほど前までは滅多に魔物も寄り付かない平和な土地だった。
 けれど、魔王が復活してから次第に凶暴な魔物が多く生息するようになり、今ではこの辺りを通る旅人や冒険者は度々魔物に襲われるという。
 もちろん村も例外ではない……はずであった。この村に救世主が現われるまでは。
 かの有名な英雄オルテガかと思われるかもしれないが、実は違う。むしろこの世界で彼の名前を知っている人は、おそらくカザーブ出身の者だけだろう。
 そして、彼の名を知る数少ない人間の一人が、何を隠そうこの私である。
 ……って言っても、そんなことを聞いてくる人なんていないんだけど。
 とにかく何が何でもカザーブに着かなければ。などと決意を固めていると、
「ねーねー、ミオちん! あそこに屋根が見えるよ!!」
 シーラの一声に、私の瞳に光が宿った。
 うっそうと生い茂る木々の間から小さく見える、数十軒の家。私は思わず歓声を上げた。
「間違いない、カザーブはもうすぐだよ!」
 私の声に、他の三人は安堵の表情を浮かべる。私も一晩中見張りをやる羽目にならなくて良かったと心底安心した。
村の入り口に近づくと、一人の男性が手を振ってきた。
「ミオちん、知ってる人?」
「うん。村の自警団の人だよ」
「なんだ、ミオじゃないか!! 久しぶりだな!!」
「デルバおじさん、久しぶり! 村に変わりはない?」
「当たり前だろ! 魔物の子一匹入れさせてないぜ」
私が尋ねると、デルバおじさんはどん、と胸を叩きながら誇らしげに答えた。
「ひょっとして、その人が噂の勇者様か? そうか、ちゃんと仲間に入れてもらえたんだな!」
そう言うと、私の頭をくしゃくしゃに撫でながら、豪快に笑った。
「あの人一倍泣き虫だったミオがなあ……。立派になったもんだ」
「そういうこと皆の前で言わないでよ」
私は赤面しつつも昔のことを覚えててくれたことに、くすぐったい気持ちになる。
おじさんと挨拶をかわしたあと、私たちは村の中へと入った。
「そういえば、宿とかってあるのか?」
「えーと、一応あるよ。小さい村だから宿屋も小さいけど。でももし宿代浮かせたいなら、私の家に泊まりに来ても良いけど……」
「わーい!! ミオちんの家行きたーい!!」
「いや、俺たちは宿に泊まる。お前は自分の家に行け」
「え……、でもせっかくだしみんなでうちに泊まっていっても……」
 私が残念そうにそういうと、背の高いナギがぽんと私の頭に手を置いた。
「せっかくだから今日くらい家族水入らずで過ごせばいいじゃねーか。あのカタブツ勇者も珍しくそう言ってんだしさ」
 私はナギを見上げる。まさかナギがそんなことを言ってくれるなんて思わなかった。
 シーラもそれに納得した様子で、「宿屋やどや~♪」と口ずさんでいる。
「ユウリ……」
「どうせお前の家など2~3人座るだけで身動きが取れないような狭い部屋しかないだろうからな。そんなところで寝かされるぐらいなら金を払った方がマシだ」
「え、私に気を使ったわけじゃないの!?」
「何でお前にいちいち気を使わなければならん」
 ユウリはにべもなく言い放った。
「う……。まあ、でも、ありがとう」
 私は申し訳ないと思いつつも彼らの厚意に甘えることにした。3人は疲れた足取りで宿屋の方へ足を向けた。するとユウリが振り返って、
「その代わり明日の朝、宿屋まで来いよ。遅れたら俺の分の荷物を持ってもらうからな」
 そういって向き直り、すたすたと歩き出した。
「あ、はーい……」
 でもやっぱりユウリはユウリだ。私は絶対に明日早起きすることを誓った。



「ただいまー!」
 村の一角にあるけして大きくない一軒家、そこが私の生まれ育った家である。
 いきなりの帰宅に、ちょうどその時玄関の近くにいた2番目の妹が、玄関先に立っている私を見てしばし呆然としていた。
「み、み、ミオねーちゃん!?」
 我に返った妹は、ありったけの声量で私の名を呼んだ。
「ちょっとリア! そんな大声出したらご近所に迷惑じゃない」
「だって、ミオねーちゃん、『ユウシャ』って人と一緒に『マオウ』を倒しに行ったんじゃないの?!」
「うん、そうだよ。でも今は魔王を倒す旅の途中で、今日はたまたまここに立ち寄っただけ」
「へー! ミオねーちゃん、ちゃんと『ユウシャ』って人の仲間になれたんだ!!」
 目をキラキラさせながら尊敬のまなざしで私を見るリア。彼女は私より6つ下で、昔から良く私になついていた。
「へへ、まーね」
 私が自慢げに体を反らすと、リアの声を聞きつけたのか、部屋の奥から3番目の妹と2番目の弟がこちらにやってきた。
「あー、ミオねーちゃんだ!!」
「おかえいなさーい!」
 3人の弟妹たちが次々と私に群がってくる。この暖かい雰囲気がなんだか懐かしく思えてきて、自然と笑みがこぼれた。
 確かにユウリの言うとおり、皆を家に連れて来ても寝る場所なんてないかもしれない。他にもう二人弟妹がいて、さらに母親までいるのだから。
 ちなみに父親は行商をしており、珍しいアイテムを見つけてきては世界各地に飛び回っている。私が家にいる間もほとんど家に帰って来ていなかった。
 私は普段は家にいる母親の姿が見えないことに気づき、妹たちに問いかけた。
「そういえば、お母さんは?」
 きょろきょろと辺りを見回した、その時。
「お母さんは仕事中だよ」
 急に後ろから声をかけてきたのは、私より二つ下の妹、エマだ。山盛りになった洗濯籠を抱えて、にっこりとかわいらしい笑顔を私に見せた。
「エマ!!」
「久しぶり。急にどうしたの? 旅は? ひょっとして、勇者のパーティーに入れてもらえなくて、戻ってきたとか?」
「ち、ちがうよ! ちゃーんと勇者の仲間として認めてもらったし、今だって魔王を倒す旅の途中なんだからね!」
 いいながら、ふと私ってユウリに仲間としてちゃんと認めてもらってたっけ?と疑問がわいた。
 エマが洗濯籠を地面に下ろすと、妹たちが一斉にそちらに行き、手伝いをし始めた。私たちきょうだいは家の手伝いを小さい頃からするのが習慣付けられているので、いつの間にか無意識に体が動いてしまう。妹たちも例外ではないようで、姉としては少し嬉しく思った。
「それじゃあ、すぐ旅立っちゃうんだ」
「うん、ちょうどこの先のノアニールに用があるから中間場所として今日はここで一泊することにしたの」
 私が残念そうに言うと、エマは小さく微笑んだ。
「そっか。じゃあ、適当にくつろいでてよ。ここまで来るの大変だったでしょ。これ終わったらお茶入れるから」
「じゃあ私も手伝うよ」
「大丈夫だよ。これはあたしの仕事だし、お姉ちゃんは大事な役目があるんだから今日はゆっくり休んでなよ」
 そう言って、妹たちと共に洗濯物を干し始めた。
 エマ、私がいなくてもしっかり家の事やってるんだなあ……。
 私が旅に出る前は、お母さんの後ろで私のやることを真似ながら家の手伝いをしていたエマが、今では妹たちの手本となって率先して家事をしている。
 そう思った途端なんだか急に寂しくなってしまった私は、ここでボーっと立っているのもなんなので、おとなしく家の中でゆっくりさせてもらうことにした。
 そして、部屋を一通り見て私はあることに気づいた。
「ねえリア、ルカはどこか行ってるの?」
 3人の弟妹が遊んでいるのを見守りながら、私はその中で最も年長のリアに尋ねた。
 ルカというのは、兄弟の中でも一番元気な弟で、リアよりひとつ上だ。よくリアと一緒に遊んでいたのだが、なぜか今は姿が見えない。
「ルカにーちゃんはね、ロマリアでお仕事してるんだよ」
「お仕事!?」
 私はリアの言葉に驚愕した。ここからロマリアまでなんて、そう簡単に行き来できる距離じゃない。つまり、たった一人でロマリアに出稼ぎに行っているということだ。それに、まだルカは11歳だ。ひとりで生活していけるほど自立しているとは思えない。
「ねえリア。ルカ、今どこにいるの? お姉ちゃんこの間までロマリアにいたけど、一度も見かけなかったよ?」
「うそー。だってエマねーちゃんがそう言ってたもん」
 すると絶妙のタイミングで、洗濯物を干し終えたエマが戻ってきた。私は彼女に詰め寄り、なるべく妹たちに聞かれないように小声でルカのことを尋ねてみた。
「ルカの居場所? ……そっか。お姉ちゃんロマリアに行ってきたんだもんね」
 エマは複雑な表情で話を続けた。それは、予想外の内容だった。
「本当はね、ここから遥か東にある、アッサラームにいるの。ロマリアじゃああんまりお給料もらえないからって、一月前にお父さんの知り合いと一緒に出稼ぎに行っちゃったの」
「ちょ、ちょっと待って。あんまりって……、うちの家計って今そんなに火の車なの!?」
「それはちょっと言いすぎだけど……。確かにお姉ちゃんが旅に出てから一度もお父さん戻ってきてないし、正直お母さんだけの収入じゃ食べていけないのが事実なの。でもあたしも内職してるし、リアたちも家の手伝いよくしてくれてるから、わざわざアッサラームまで出稼ぎに行かなくてもいいってルカに行ったのよ。でもあの子ったら、なんていったと思う?」
「想像つくようなつかないような……」
「ミオ姉ちゃんみたいになるために、アッサラームで修行して来るんだって」
「はあ??」
 私は間抜けな声を上げながら眉根を寄せた。
「アッサラームで、何の修行するつもりなの?」
「知らないわよ。もうあたしあきれて声も出なかったわ。お母さんはお母さんで、お父さんの知り合いがいるから大丈夫でしょ、なんて言っちゃってるしさ。もう誰もあの子を止められないわよ」
 確かに私が家にいる頃のルカは、とにかく好奇心が旺盛だった。初めて見るものには必ず首を突っ込むし、興味のあることには後先考えず突っ走っていってしまう。そのせいでご近所の人から怒られることもしばしばあった。
う~ん、あのルカがねえ……。
 私がため息をつきながら思い出に浸っていると、玄関の戸が開く音が聞こえた。それに反応したリアが、「おかあさん!!」と言って玄関の方に駆け出した。
「あら、ミオ!! お帰り!!」
 私が返事をする前に、お母さんは私のところへ来るなり抱きしめた。
「もーっ! 帰って来るなら来るで一言連絡ぐらい入れてくれればいいのに! ご馳走作りたくても作れないじゃない!!」
 そういってさらにぎゅっと強く抱きしめる。それは私の知るいつもの元気なお母さんだ。
「ごめん、旅の途中だったし、時間もなくて……」
「そうだよお母さん。お姉ちゃん、魔王を倒しに行ってるんだからそんな暇ないんだって!」
「そっか。じゃあ今夜はミオの大好きなものたっくさん作ってあげるからね! あ、そうだ! せっかくだから勇者さんたちも呼んできなさいよ。たいした物は出せないけど、あんたが日頃お世話になっているせめてものお礼にね」
 そういうとお母さんは腕をまくり、やる気十分といった様子で台所に向かっていく。
その横でエマがなぜか期待に満ちた目でこちらを見ていた。
「? どうしたの、エマ」
「ねえお姉ちゃん、勇者さんてかっこいい?」
「えーと、多分かっこいいと思うよ?」
 私は単純に見た目だけの特徴を伝えてみた。案の定、エマは自分好みの勇者像をイメージすることに成功したらしく、かなり満足そうな顔を浮かべている。
「そっかあ、じゃああたしも勇者さんに食べてもらえるように料理がんばろうかな♪ 勇者さんて好きな食べ物とかないの?」
「さ、さあ。良く知らないけど。でも確か、甘いもの以外なら食べるって言ってたよ」
 私が戸惑いがちに言うと、エマは信じられないといった顔で、
「えー情報それだけ!? お姉ちゃん一緒に旅してるのになんでそんな基本的なこと知らないのよ!!」
 と、半ば憤慨した様子で私を見た。
 別にそんなに親しい間柄でもないのに、そんなこと言われてもこっちが困る。だってまだユウリと出会って一ヶ月ぐらいしか経ってないんだもの。



 夕飯はお母さんとエマに任せて、私はユウリたちを誘うため、村の宿屋へと向かうことにした。
 外はもうすでに真っ赤な太陽が家の屋根に隠れ始めていた。先に三人が食事を始める前に見つけないといけないので、私は歩みを速める。
「あ、ミオちんだー。やっほー」
 聞きなれた声が私の耳に届いてきた。見回すと、こちらにやってくる3つの人影。なんという偶然だろうか。先頭を歩いていたウサギ耳の少女――言うまでもなくシーラなんだけど――が元気よく私に走り寄ってきた。
「あれ? みんなどこかに行くの?」
「聞いてよミオちん!! そこの宿屋お酒置いてないんだよ!? 信じらんないでしょ!!」
「あーごめん、あそこのおかみさん、酔っ払いとか嫌いみたいだから……」
「あたしをその辺の酔っ払いと一緒にしないでよぅ!!」
「いや私に怒っても……。まあいいや。それでお酒飲みに酒場に向かってるの?」
「ああ。オレは別に酒飲まねーし、宿屋でくつろいでもいいかと思ったんだけど、こいつがうるさくてさ。ミオもいないし、こいつ一人で行かせるのもいろんな意味で危険かと思ってついてきたってわけ」
 ナギがシーラを見下ろしながら言った。意外にナギって面倒見がいいんだよね。
 二人だけかと思ったら、少し離れたところにユウリがいた。
「ユウリも?」
 いつも単独行動をとるユウリが二人と一緒だなんて珍しい光景だ。
「まさかこんなに何もない村だとはな。娯楽の一つでもないのか?」
 ユウリが皮肉たっぷりに言う。いやだから、私に言われても困る。
「ねえ、だったら夕飯うちで食べてかない? たいした物はないけど、ご飯代ぐらいは浮くでしょ?」
「ミオちんの家!? 行く行くー!!!!」
 シーラが目を輝かせながらぴょんぴょん飛び跳ねている。かなり乗り気なようで、こちらとしてもなんだか嬉しい。
 ナギも「食えるんだったら何でもいい」の一言で了承してくれたようだ。
 ユウリはどうなんだろうか?
 エマのことを考えると、ユウリにはぜひとも来てほしいのだけれど、彼がこういった食事会に快く参加するかといわれれば、正直自信がない。
 現に今も興味なさげな顔で私のほうをじっと眺めている。何を考えているのかその表情からは全く読み取れないところが余計怖い。私はおっかなびっくり尋ねてみた。
「あの……無理にとは言わないんで……」
「……」
 予想通りの沈黙。
 こんな調子で結局最後は私の方から頭を下げてしまう。一ヶ月経ってもこんな関係なんだから、好きな食べ物なんてわかるわけがない。
 しばしの沈黙の後、ユウリは顔色一つ変えずやっと声を発してくれた。
「家に案内しろ」
「はっ!?」
 それは予想外の答えだった。予想外すぎて一瞬何のことだかわからないほどだった。
「えっと……それって、来てくれるってこと?」
 ユウリは無言で頷いた。それならそうとはじめから言えばいいのに。
 あいかわらず何を考えているかわからなかったが、ともかく皆を我が家のパーティーに招待することに成功した私は、宿屋には寄らずそのまま自分の家に向かうことにした。

 我が家に着いた途端、家の中は歓迎ムード一色だった。
「まあまあ! あなたが勇者のユウリさんね!! ミオからあなたたちのことは伺ってるわ。さ、狭いけど入って入って」
 お母さんがユウリたちを部屋へ促した。後ろにいたエマがユウリをじっと見つめていたが、当の本人は気づいているのかいないのか、相変わらずの無反応。
 他の妹たちはシーラのバニーガール姿が珍しいのか、彼女の周りにくっついて離れない。シーラも子供は嫌いではないらしく、普段どおりの様子で妹たちと戯れていた。
「すごいなミオ、これみんなお前のきょうだいなのか?」
 2番目の弟カイに高い高いをしているナギが楽しそうに言った。確かナギは一人っ子だって言ってたっけ。
「そうだよ。ナギは子供好きなの?」
「ああ。オレ兄弟いないから、こうやって年下の奴と遊んだりするの憧れてたんだ」
そう言うと、今度はカイを抱っこしながら、ぐるぐる回り始めた。すると、他のきょうだいもナギの周りに集まって、口々にやってほしいとせがんできた。
 皆の雰囲気が和んできたところで、お母さんが台所から料理を持った大皿を持ってきた。それは私が家にいた頃を含めても、はじめて見るご馳走だった。
 ナギは料理が出された途端、勢い良く手を伸ばした。それを真似しているカイがなんだか微笑ましい。年の離れた兄が出来たようでナギのことをとても気に入っているようだ。
「ん~、ミオちんの家の料理、すっごくおいしいよ!!」
「ほんと? そういってもらえると嬉しいよ」
 けれどシーラはなんとなく物足りない顔をしている。そういえばシーラ、お酒が飲みたかったんだっけ。なんか悪いことしちゃったかも。
 すると、玄関の戸をノックする音が聞こえた。
「ごめんください、こちらに勇者様とそのお仲間さんが来てるって聞いたんですけど」
 その声は私の知らない人だった。おそらく私が帰ってきたのをご近所の人が聞きつけて、カザーブの村全体に噂が広まったのだろう。
 私は返事をして、玄関先に向かった。扉を開くと、やっぱり私の知らない顔だった。
「やっぱり! あなた、うちの母が言ってた人だわ!」
「???」
 知らない人にそう言われ、私は思わず面食らった。うちの母? それって私の知ってる人?
 私の言葉を待たず、その女性は言った。
「あ、いきなり挨拶もせずすいません。私、ロマリアで宿屋を営んでいる女将の娘で、ラフェルといいます。今は夫と娘の3人で暮らしてますが、以前は母とロマリアで暮らしていたんです」
 その一言に、私ははっとして思い出した。確かロマリアの宿屋のおかみさんの娘さんがカザーブに移り住んだと言っていた。
「こちらこそ挨拶が遅れてすいません、私、ミオっていいます。ロマリアの宿屋では、すっかりお世話になりました」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですわ。母から手紙で勇者様のお仲間さんの話を聞きました。うちの娘もその話を聞いて大変喜んでるんですよ」
 おかみさん、私たちのこと、ラフェルさんたちに話してくれたんだ。なんだか私の話を信じてくれた気がして、とても嬉しい気分になった。
「そうだ、今ちょうど夕食パーティーやってるんですけど、よかったらご一緒しません?」
「まあ、それは素敵ですね。ぜひ参加させてください。娘も連れてきても構いませんか?」
 ラフェルさんの申し出に、私は快く了承した。結果、ラフェルさんは娘さんだけでなくだんなさんや隣のおばさんまで連れてきた。
「おやまあ、コーディさんちの奥さんまでいらっしゃって!! さ、狭いけど入って入って!!」
 ユウリたちだけでもかなり窮屈だったのだが、ラフェルさんたちが加わったことでさらに部屋が狭くなった。しまいには我が家の騒ぎを聞きつけてきたのか、全然知らないおじさんまでいつの間にか参加してしまい、さらにおじさんが持ち込んできた高そうなウイスキーをシーラがほとんど飲みつくし、場は夜更けまで大騒ぎとなった。
 私は家にいるという安心感や満腹感、さらにこの騒がしくも暖かな雰囲気にいつしか酔いしれて、そのままゆっくりとまぶたを閉じてしまった。
 
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