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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―アイドル決定戦―

 十代が休学してしまい、万丈目と五階堂の様子がおかしくなってしまってから結構な時が流れたが、未だに何かが起きる気配はないが、彼らが元に戻ることもなかった。

 そんな二つの異常事態の中心近くに居合わせた筈の俺だったが、このデュエル・アカデミアで何が起きているのか知る術はなく、何のアクションも起こせないでいた。

 このままでは駄目だと、いずれ高田の時のようになってしまうのではないかと、俺の中の勘はそう告げているものの、何も行動に起こせず日常生活を送っていた。

 その二つの異常に目をつぶれば、今のデュエル・アカデミアはナポレオン教頭が、未だに一部生徒アイドル化を画策している以外は平和なものだった。
……むしろナポレオン教頭のことは、生徒の間では一部の不定期開催のイベントだと認識されているが……

 閑話休題。

 現状でのデュエル・アカデミアの平和は逆を言えば、このデュエル・アカデミアを何かしらの事件に巻き込みたい等を考えている人物は、俺以外の生徒にバレないように水面下で準備を進めていることになるのだが……まあそれは、俺の考えすぎだろう。

 そんなわけで、俺は若干の不安を感じつつも、異常事態に関しては、『待ち』を選択するのであった……



 ……そして今日は、前出のナポレオン教頭の不定期開催イベント……ではなく、一部生徒アイドル化計画によるデュエルが始まるため、俺は三沢と観客席に座っていた。
噂には疎いせいで、翔のラー・イエロー昇格デュエルを始めとする不定期開催イベントのデュエルは見逃してしまうこともあったのだが、今回は親しい人がナポレオン教頭の被害者になったということで、なんとか現場に居合わせていた。

 中央のデュエルフィールドに立っている二名は、我が友人でありながらオベリスク・ブルーの女王、天上院明日香と、妹分の中等部飛び級生徒、早乙女レイだった。

「大丈夫か、あの二人がタッグデュエルだなんて……」

 今回明日香とレイが行うことになったのはタッグデュエル。
それも、相手は一人で明日香とレイはタッグという変則タッグデュエルだった。

 明日香とレイが負けたら、その対戦相手と三人でナポレオン教頭の考えた企画に乗り、明日香とレイが勝てばその時点で企画はボツとなるということだった。

「明日香くんが攻撃、レイくんが防御とコントロールを担当すればなんとかなるだろう」

 隣の席で腕組みをして座っている三沢が、いつも通りに主観を述べてくれるが、俺が心配なのはデッキの相性とかそういう問題ではなく、言うなればプレイヤー同士の相性の問題だった。

「あいつら……たまに笑顔で火花散らしあってるからなぁ……大丈夫なのか?」

 しかも火花を散らし合う時は、大体俺を挟んで散らし合うことが多い……俺が何をした。
そんな俺に、三沢は何かを含むような笑いをこぼしながら、俺の所見を否定した。

「いや、明日香くんとレイくんは普段は仲がいいさ。遊矢が絡んでいる時は感情的になっているが」

 確かに、普段は明日香が姉でレイが妹で何の違和感も無いほど仲が良い。
最初に会った時、いきなり怒鳴り合いした後にデュエルに発展したのから考えれば、とても喜ばしいことだ。

「それは分かってるけどな……っと、対戦相手が来たな」

 デュエルフィールドの明日香とレイが立っているところとは逆の場所に、対戦相手が歩いてきた。
対戦相手の格好と容姿を簡単に伝えるならば、『騎士』という言葉がもっとも相応しいだろう。
更に詳しく言うならば、中世ヨーロッパ風の騎士の正装だった。

 騎士は指を天高く掲げ、観客席に呼びかけた。

「君たち……この指の先には何が見える?」

『天!』

 全員で打ち合わせをしたかのように、タイミングバッチリでオベリスク・ブルー女子から声が挙がる。

「んんんんん~~ジョウイン!」

 ……あー、今更説明する必要も無いとは思うが、まあ、一応言っておくと対戦相手は騎士のコスプレをした吹雪さんだった。
今回のナポレオン教頭のイベントの被害者はこの三人で、容姿・成績ともに優れた三人をアイドル化させたかったらしい。

 その計画に明らかに悪ノリした吹雪さんが加わった結果、もはや専用の衣装まで持ちだす始末であった。
それを、自分たちの勝手なアイドル化反対を表明した明日香とレイがデュエルを申し込み……今に至る。

「兄さん……はぁ」

「あはは……


 兄である吹雪さんの奇行にため息をつく明日香に、苦笑いをして若干引くレイ。
そんな二人に、ナイト吹雪さん(自称)は向き直った。

「もう一度だけ言おう。君たちがアイドルになれば、確実に君たちの想い人を含めた世界中の人々のアイドルになれる! それを拒むのか!」

「……アイドルなんて嫌よ!」

「恋する乙女は、一人だけの愛で良いんだから!」

 ナイト吹雪さんの問いに、二人は拒絶の意志を表明しながら、デュエルディスクを展開した。
……しかし明日香、答えるのに少し間があったが、もしかしてちょっと興味あるんじゃないのか……?

「それでこそ、我が妹に弟分の妹……だけど、ナイトは負けないからナイトだ!」

 吹雪さんもわけのわからないことを言いつつ、負けじとデュエルディスクを展開する。
もちろんデュエルディスクにもきちんと塗装がしてあり、騎士の姿にも違和感なく溶け込んでいる……あれが噂の、無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術だろう。

 ……ああ、ちなみに、ナイト吹雪さんが言う弟分とは俺のことで、何故だか俺のことをそう呼ぶ。
そうすると、何故か明日香が顔を真っ赤にしながら怒って、吹雪さんが逃げる……まあいいか。

 そんなことより、デュエルが始まるようだから。

『デュエル!』

明日香&レイ
LP8000

ナイト吹雪
LP8000


「僕の先攻、ドロー!」

 どうやらナイト吹雪さんが先攻に選ばれたようで、まずはカードを一枚ドローする。

「僕は《エア・サーキュレーター》を守備表示で召喚!」

エア・サーキュレーター
ATK0
DEF600

 数少ない水族・風属性モンスターが守備表示で現れる。
見た目はただの機械であり、とても今のナイト吹雪さんの格好とは不釣り合いだ。

「エア・サーキュレーターが召喚された時、手札を二枚捨てて二枚ドローする」

 しかし、たとえ似合っていなくとも、生きる手札断殺とも呼べる効果は強力で、しかももう一つの効果もある。

「僕はこれでターンエンドだよ」

「私のターン、ドロー!」

 手札交換のみでターンを終えた吹雪さんに対し、明日香&レイタッグはまずは明日香からだった。

「私は《聖騎士ジャンヌ》を召喚!」

聖騎士ジャンヌ
ATK1900
DEF1300

 サイバー・ガールではないが、優秀な戦士族サポートを持ち、アタッカーにもなって女性型モンスターということで明日香のデッキにも合っているモンスター、聖騎士ジャンヌ。

「バトル! 聖騎士ジャンヌで、エア・サーキュレーターに攻撃! セイクリッド・ディシジョン!」

 聖騎士ジャンヌは攻撃する時、効果によって自身の攻撃力を300ポイント下げとしまうが、相手の守備力はわずか600、危なげなく破壊する。
だが、エア・サーキュレーターの効果が発動する。

「エア・サーキュレーターの効果。破壊された時、カードを一枚ドローするよ」

 これで、エア・サーキュレーターを召喚したことによる損失は0。
手札交換が出来たことで、実際には+されたと言って良いだろう。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「僕のターン。ドロー!」

 タッグデュエル用のタッグフォース・ルールでデュエルは進行するが、ナイト吹雪さんは一人のため、またナイト吹雪さんのターンとなる。

「僕は《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスターである、《クイーンズ・ナイト》を特殊召喚する!」

クイーンズ・ナイト
ATK1500
DEF1600

 エア・サーキュレーターの効果で墓地に送っていたのであろうカード、クイーンズ・ナイト……!
絵札の三銃士と呼ばれるカードの一枚で、かのデュエルキング武藤遊戯も使っていたという。
今回の吹雪さんの格好とクイーンズ・ナイトから、恐らくはあのデッキで間違いないだろうが……

「更に《キングス・ナイト》を召喚!」

キングス・ナイト
ATK1600
DEF1400

 老齢の騎士が現れ、これで今回の吹雪さんのデッキが何なのか確定する。
すなわち……

「【絵札の三銃士】……」

 俺と同じく、明日香が静かに結論を出した。
光属性・戦士族という優良なサポートカードを使いつつ、キングス・ナイトの効果で展開し、融合や専用サポートカードで攻め立てるデッキである。

「流石はアスリン。ならばキングス・ナイトの効果を発動! クイーンズ・ナイトがフィールドにいる状態で召喚に成功した時、デッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚出来る! 来い、ジャックス・ナイト!」

ジャックス・ナイト
ATK1900
DEF1000

 ジャックス・ナイトがデッキから現れたことで、正義の三銃士がフィールドに揃う……中心でポーズをとっているナイト吹雪さんが、意外にも溶け込んでいた。

「永続魔法《騎士道精神》を発動するよ」

 永続魔法《騎士道精神》。
十代が一年生の時に入れていた、同じ攻撃力のモンスターがバトルする時に自分のモンスターは破壊されない、というイマイチ扱いに困るカードである。
何故そんなカードが【絵札の三銃士】に入っているかと問われれば……まあ、カード名が全てを物語っているだろう。

「バトル! ジャックス・ナイトで聖騎士ジャンヌを攻撃!」

 しかし、そんな効果も今となっては厄介だ。
このままでは明日香は、聖騎士ジャンヌを破壊され、キングス・ナイトとクイーンズ・ナイトのダイレクトアタックを食らってしまうが……

「トラップ発動! 《ドゥーブルパッセ》!」

 ……明日香の使う扱いにくいカードの筆頭、ドゥーブルパッセが姿を現した。

「ジャックス・ナイトの攻撃は私へのダイレクトアタックになり、聖騎士ジャンヌは相手プレイヤーにダイレクトアタックするわ! セイクリッド・ディシジョン!」

 ジャックス・ナイトが明日香を斬りつけ、ドゥーブルパッセによって守られた聖騎士ジャンヌはナイト吹雪さんを斬りつけた。
聖騎士ジャンヌとジャックス・ナイトの攻撃力は同じだが、聖騎士ジャンヌは自身の効果で攻撃力が300ポイント下がる為に、ライフはナイト吹雪さんの方が上となった。

明日香LP8000→6100

ナイト吹雪LP8000→6400


 しかし、そのかいあって絵札の三銃士の残り二人は、聖騎士ジャンヌの攻撃力には届かない。

「……やるね、アスリン。バトルを終了し、通常魔法《テラ・フォーミング》を発動。デッキから《フュージョン・ゲート》を手札に加えよう」

 モンスターを除外することで融合が出来るフィールド魔法、フュージョン・ゲート。
それを手札に加えたということは、何を出そうとしているかは自ずと分かる。

「いくよ! フュージョン・ゲートを発動し、絵札の三銃士を融合!」

 空中に時空の穴が出現し、絵札の三銃士たちが吸い込まれていく。
そして代わりに、一体の融合モンスターとなって再生される……!

「降臨せよ、天位の称号を持つ究極融合剣士! 《アルカナ ナイトジョーカー》!

アルカナ ナイトジョーカー
ATK3800
DEF2500

 絵札の三銃士が融合したモンスターであり、その攻撃力は圧巻の3800。
更に、一定条件で効果を無効化する効果まで備えている。

「僕はターンエンドだ」

「楽しんで勝たせてもらうわ! ボクのターン、ドロー!」

 そんな奴相手に、レイはどうするか……?

「ボクは《恋する乙女》を守備表示で召喚!」

恋する乙女
ATK400
DEF300

 このタイミングで出て来たのは、レイの分身とも言えるカードである恋する乙女。
しかし、まだコンボパーツが集まっていないのか、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を警戒したのか、その効果をまったく生かせない守備表示による登場だった。

「聖騎士ジャンヌを守備表示にして、カードを一枚伏せてターンエンドだよ」

「僕のターン、ドロー!」

 レイの基本的に非力なデッキでは、アルカナ ナイトジョーカーを倒すのは少し厳しい。
故に、守備を固めたのだろうが……そのまま明日香にターンを渡すのを、吹雪さんが許すだろうか。

「このままバトル! アルカナ ナイトジョーカーで、聖騎士ジャンヌに攻撃! ライトニングブレード!」

「リバースカード、《炸裂装甲》を発動! アルカナ ナイトジョーカーを破壊するよ!」

 レイの前に現れる、ほぼ全ての攻撃を防ぐ罠。
しかし、ここは対象をとらない《和睦の使者》のようなカードでなくてはダメだった……!

「アルカナ ナイトジョーカーの効果発動! 相手が発動したカードと同じ種類のカードを捨てることで、その効果を無効にする……僕は手札から罠カードを捨て、炸裂装甲を無効にする!」

「えぇ!?」

 レイの驚きの声と共に、炸裂装甲によって生じた爆発ごと、聖騎士ジャンヌは斬られてしまう。
ここで、聖騎士ジャンヌのメリット効果の発動タイミングであるが……レイはそれを使わなかった。
使っても墓地に戦士族はおらず、ただ聖騎士ジャンヌを手札に加えても意味がないと考えたのだろうか。

「僕はターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 アルカナ ナイトジョーカーの効果の為か、ナイト吹雪さんはあまり手札を場に出さずに静観している。
そこを、ターンが回ってきた明日香はどうするか……

「私は《サイバー・ジムナティクス》を守備表示で召喚!」

サイバー・ジムナティクス
ATK800
DEF1800

 体操選手のような格好をしたサイバー・ガールが現れ、守備の態勢をとる。
効果破壊専門のサイバー・ガールであり、今のように攻撃力が高いモンスター用に入れてあるのだろうが……どうだ?

「サイバー・ジムナティクスの効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手攻撃表示モンスターを破壊する!」

「もちろん無効にさせてもらうよ。手札からモンスターを捨て、効果を無効にする!」

 アルカナ ナイトジョーカーの剣からほとばしった衝撃波に、サイバー・ジムナティクスの動きが中断される。
しかも、手札コストは払われてしまった為に戻っては来ない。

「……カードを一枚伏せて、ターンエンドよ」

「僕のターン。ドロー!」

 明日香とレイの劣勢のまま、吹雪さんにターンが移る。
アルカナ ナイトジョーカーの高い制圧力を、観客席はまざまざと見せつけられていた。

「僕のスタンバイフェイズ、墓地に眠る《キラー・スネーク》の効果を発動。このタイミングでこのカードが墓地にある時、手札に戻すことが出来る!」

 無限コストとして名高いキラー・スネーク……さっきのアルカナ ナイトジョーカーの効果で捨てていたのだろう。
そしてそれは、一ターンに一度モンスター効果を封じ込められた、ということと同義だった。

「メインフェイズ、僕は《クイーンズ・ナイト》を召喚!」

 もはやキラー・スネークがいるためにアルカナ ナイトジョーカーの効果に使うまでもないのだろう、クイーンズ・ナイトがフィールドに現れる。

「バトル! クイーンズ・ナイトで、恋する乙女を攻撃! クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」

 一気に攻勢に入ったナイト吹雪さんに対し、まずは恋する乙女がなすすべもなく破壊されてしまう。

「続いてアルカナ ナイトジョーカーで、サイバー・ジムナティクスを攻撃! ライトニングブレード!」

 サイバー・ジムナティクスの守備力もまあまあ高いが、やはりアルカナ ナイトジョーカーの攻撃力が圧倒的。
破壊効果を活かせず、そのまま破壊され……

「トラップカード《奇跡の残照》を発動! このターンに破壊された《サイバー・ジムナティクス》を特殊召喚するわ!」 

 ……俺がトレードしたカードによって蘇生され、再び現れる体操選手のようなサイバー・ガール。

 
「サイバー・ジムナティクスじゃ、僕のアルカナ ナイトジョーカーは止められないよ……ターンエンド」

「ボクのターン! ドロー!」

 タッグデュエルで足手まといにならないようにするためか、いつも以上に気合いが入ってレイはカードを引いた。

「……よし! ボクはカードを一枚伏せて、《ミスティック・ベビー・ドラゴン》を召喚する!」

ミスティック・ベビー・ドラゴン
ATK1200
DEF800

 レイの切り札であるドラゴンだが、ベビーの名が示す通りにまだ小さく、攻撃力も僅か1200……だが攻撃表示で出したのだから、何かしらの策はあるのだろう。

「更に魔法カード《ユニオン・アタック》! 明日香さんのサイバー・ジムナティクスの攻撃力を、ボクのミスティック・ベビー・ドラゴンに足す!」

 サイバー・ジムナティクスの攻撃力は800なので、ミスティック・ベビー・ドラゴンの攻撃力は2000。
クイーンズ・ナイトは超えたものの、アルカナ ナイトジョーカーには遠く及ばない。

「バトル! ミスティック・ベビー・ドラゴンで、クイーンズ・ナイトに攻撃! ミスティック・ベビー・ブレス!」

 イメージ通りのメルヘンチックな炎が口から放たれ、クイーンズ・ナイトを破壊する。
だが、ユニオン・アタックで強化されたモンスターが戦闘した時、相手への戦闘ダメージは0になってしまう。
よって、ナイト吹雪さんにはダメージは通らない。

「フッ……レイちゃん。それなら確かに君の切り札は呼べるだろうが、君のドラゴンではアルカナ ナイトジョーカーは倒せないよ?」

「そんなことない、恋する乙女に不可能は無いんだから!」

 いつものトンデモ理論を炸裂させ、レイが手札のカードを一枚デュエルディスクに差し込んだ。

「これでアルカナ ナイトジョーカーを倒すよ! 魔法カード、《痛み分け》を発動!」

 レイが発動を宣言したカードの効果を思いだし、ナイスだレイ、と小さくガッツポーズをとる。
アルカナ ナイトジョーカーの効果は一見強力な効果なのだが、致命的な落とし穴が一つある。
それは、対象を取らないカードを防げないということだ。

「明日香さんのサイバー・ジムナティクスをリリースすることで、相手はモンスター一体をリリースすることになるよ!」

 そして、ナイト吹雪さんのフィールドにいるモンスターはアルカナ ナイトジョーカーのみ……よって選択されるのは、必然的にアルカナ ナイトジョーカー……!

 ナイト吹雪さんの手によってリリースされ、遂に場を支配していた天位の称号を持つ究極融合剣士が墓地に送られた。

「そしてエンドフェイズ……ミスティック・ベビー・ドラゴンをリリースすることで、来て! 恋する乙女を守る竜、《ミスティック・ドラゴン》!」

ミスティック・ドラゴン
ATK3600
DEF2100

 レイの見事なコンボにより、レイたちのフィールドにはミスティック・ドラゴン。
ナイト吹雪さんのフィールドは何も無しという状況となった。

「ボクだって、明日香さんの足手まといにはならないんだから! ターンエンド!」

「やれやれ、まいったね……僕のターン、ドロー!」

 レイの切り札であるミスティック・ドラゴンを前に苦笑いし、それでもナイト吹雪さんは余裕を持ってカードを引く。

「僕は《シャインエンジェル》を守備表示で召喚!」

シャインエンジェル
ATK1400
DEF800

 光属性のリクルーターであるシャインエンジェルが守備表示で召喚されたため、流石のナイト吹雪さんでもミスティック・ドラゴンの前には防御に回るしかないようだ。

「僕はターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ナイト吹雪さんが守りに入った今ならば、明日香が攻め込みチャンスだ。
そして、明日香の性格ならば必ず……攻め込む。

「兄さんのフィールド魔法、《フュージョン・ゲート》の効果を発動! 融合素材を除外することで、融合召喚出来る! 《エトワール・サイバー》に、《ブレード・スケーター》を融合!」

 フュージョン・ゲートはナイト吹雪さんが融合に使ったカードであるが、フィールド魔法であるが故に明日香も使用出来る。
二体のサイバー・ガールが、絵札の三銃士と同じように時空の穴に吸い込まれ、明日香の融合のエースカードが帰ってくる。

「来なさい! 《サイバー・ブレイダー》!」

サイバー・ブレイダー
ATK2100
DEF800

 これで明日香たちのフィールドには、明日香のエースカードであるサイバー・ブレイダー、レイのエースカード、ミスティック・ドラゴンにリバースカードが一枚。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、シャインエンジェルを攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 一気に攻勢に出た明日香の前に、所詮はリクルーターであるシャインエンジェルには耐えられはしない。
だが、シャインエンジェルは……いや、リクルーターは破壊されるのが仕事だ。

「シャインエンジェルの効果により、シャインエンジェルを再び特殊召喚する」

 同名カードのリクルート。
時間稼ぎとしては有効な一手だが、その効果の特性上、特殊召喚されたリクルーターは攻撃表示であることが弱点だろう。
無論、そこを見逃す明日香ではない。

「レイちゃんのミスティック・ドラゴンで、シャインエンジェルを攻撃! ミスティック・ブレス!」

 攻撃方法はミスティック・ベビー・ドラゴンと同じだが、桁違い……いや、桁は同じだが……の攻撃がシャインエンジェルに放たれた。

ナイト吹雪LP6400→4100

「くっ……シャインエンジェルの効果で《クイーンズ・ナイト》を特殊召喚する。それにしても、なかなかのコンビネーションじゃないか、二人とも……やはりこれはアイドルに活かすべ」

「ターンエンドよ!」

「……僕のターン、ドロー」

 あくまでも余裕を崩さず、未だに二人をアイドルに誘うナイト吹雪さんの言葉を妨げて明日香がエンド宣言を行ったために、ナイト吹雪さんがしぶしぶドローした。

「フッ……来たね。僕は永続魔法《魔力倹約術》と、《次元融合》を発動! 2000のライフコストを無効にし、お互いに除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚する!」

 次元融合。
除外ゾーンから可能な限り特殊召喚するという、単純かつ強力な効果を持っているのだが、初期ライフの半分である2000ポイントを払うというのは痛いので、相互互換カードの《異次元からの帰還》が使われることが多い。
よって、使うには今のようにコストを踏み倒す《魔力倹約術》を使うのが主流だ。

「僕は除外ゾーンより、絵札の三銃士を特殊召喚!」

「私は、エトワール・サイバーと、ブレード・スケーターの二体を守備表示で召喚するわ」

 異次元からの帰還にないデメリットとして、相手のモンスターをも特殊召喚してしまうこともある。

 これで、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターは絵札の三銃士+クイーンズ・ナイト。
明日香たちのフィールドには、ミスティック・ドラゴンにサイバー・ブレイダー、そして、今特殊召喚されたエトワール・サイバーとブレード・スケーターだ。

 しかし、不利なのは明らかにナイト吹雪さんの方だ。
ここでアルカナ ナイトジョーカーを特殊召喚してしまうと、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターは二体なので、サイバー・ブレイダーの第二の能力が発動し、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を超える。
だからといってもう一体モンスターを召喚し、サイバー・ブレイダーから破壊してしまうと、高攻撃力のミスティック・ドラゴンが残り、持ち主であるレイのターンに移る。
 さて、どうするのか……?

「僕のフィールドのモンスターは四体。よって、サイバー・ブレイダーの効果は発動しない……通常魔法《ロイヤル・ストレート》を発動!」

「え、融合しないの……?」

 出て来た見覚えのないカードに、レイが困惑の声を出す。
飛び級でこの学園に入ったとはいえ、未だに中学生であるレイを責めるのは酷であろう。
まあ恥ずかしながら俺も、今まで融合しか頭になかったわけだが……

「自分フィールド場の絵札の三銃士をリリースすることで、デッキから《ロイヤル・ストレート・スラッシャー》を特殊召喚する!」

ロイヤル・ストレート・スラッシャー
ATK2400
DEF2000

 専用魔法カード《ロイヤル・ストレート》のみによって現れる、アルカナ ナイトジョーカーとは違う、もう一つの絵札の三銃士の合体系、ロイヤル・ストレート・スラッシャー。
その効果も、アルカナ ナイトジョーカーとは似ても似つかぬ攻撃的な効果……!

「ロイヤル・ストレート・スラッシャーは、デッキからレベル1・レベル2・レベル3・レベル4・レベル5のモンスターをそれぞれ1体ずつ墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを、全て破壊する!」

「ええっ!?」

「チェーンしてレイちゃんのリバースカード、《ダメージ・ダイエット》! このターン受ける、全てのダメージを半分にするわ!」

 ダメージ・ダイエットはなんとか発動されたものの、ナイト吹雪さんのデッキから五枚墓地に送られたことで、ロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果が起動した。
その手に持つ剣が光り輝き、前に戦った五階堂の《ギルフォード・ザ・ライトニング》のように、明日香たちのフィールドを全て破壊した。

「続いて、《キングス・ナイト》を召喚。効果により、《ジャックス・ナイト》を召喚するよ」

 またも揃う絵札の三銃士。
いくら展開力に優れているとはいえ、これほどまでにやれるのはデュエリストの腕だろう。

「融合……と、いきたいところだけど、先にバトルさせてもらうよ! クイーンズ・ナイトでダイレクトアタック! クィーンズ・セイバー・クラッシュ!」

 ロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果で全て破壊され、明日香のデッキには《速攻のかかし》等のカードは入っていない。
結果として、クイーンズ・ナイトだけでなく、他の絵札の三銃士と、ロイヤル・ストレート・スラッシャーのダイレクトアタックを受けることとなった。

「くうっ……!」

明日香&レイLP6100→2400

「フッ、メインフェイズ2。フュージョン・ゲートの効果を使い、絵札の三銃士を融合し、アルカナ ナイトジョーカーを融合召喚する!」

 絵札の三銃士が時空の穴に吸い込まれ、天位の称号を持つ究極融合剣士が再び現れる。
これでまた、対象をとる効果を無効にされてしまう危険性が浮上してしまった。

「僕はこれでターンエンド」

「……負けないんだから! ボクのターン、ドロー!」

 かなり不利な状況に、レイが気合いを入れてカードを引く。

「……《ミスティック・エッグ》を守備表示で召喚!」

ミスティック・エッグ
ATK0
DEF0

 《ミスティック》シリーズの、試験で使用した《スパイク・エッグ》とはまた違う卵が守備表示で現れる。
確か……戦闘で破壊された時、エンドフェイズにミスティック・ベビー・ドラゴンを特殊召喚する、だったか。

「更にカードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 気合い充分だったが逆転には至らず、レイは無念にもナイト吹雪さんにターンを譲る。

「再びロイヤル・ストレート・スラッシャーの効果を発動! デッキからレベル1・レベル2・レベル3・レベル4・レベル5のモンスターをそれぞれ1体ずつ墓地へ送る事で、相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する!」

 まだ使えたか……!
再びロイヤル・ストレート・スラッシャーの剣が輝き、レイのフィールドを切り裂いた。

「チェーンして《ホーリーライフ・バリアー》を発動! 手札を一枚捨てて、このターンのダメージを0にする!」

 手札一枚をコストに、レイと明日香を薄いバリアが護る。
ぎりぎり一ターン耐え抜いた、といったところだが……

「ターンエンド」

「私のターン、ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」

 強欲な壺が破壊され、明日香はカードを二枚引く。

 レイはどちらかと言うと防御用のカードが多いが、逆に明日香は防御用のカードは少ない。
明日香にはあの二体の攻撃を防ぐのは難しいと思うが……防御に回らなければいい。

 方法は簡単だ。
アルカナ ナイトジョーカーを倒せば良いのだから。

「《再融合》を発動! 800ポイントのライフを払ってこのカードを装備することで、《サイバー・ブレイダー》を特殊召喚する!」

 明日香の融合のエースカードが蘇生される。
そして、ナイト吹雪さんのフィールドのモンスターの数は二体。

「兄さんのモンスターの数は二体! サイバー・ブレイダーの効果により、攻撃力は倍になる! パ・ド・トロワ!」

 これでサイバー・ブレイダーの攻撃力は4200となり、アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力を超える。

「更に《儀式の準備》を発動! デッキからレベル7以下の《サイバー・エンジェル−弁天》を手札に加え、墓地から《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」


 儀式の準備……レベル7以下限定だが、カード一枚で儀式の用意が出来る優秀なカード……って、墓地から機械天使の儀式?

「いつの間に……そうか、サイバー・ジムナティクスの時だね」

 ナイト吹雪さんの言葉に、俺はなるほど、と納得する。
アルカナ ナイトジョーカーに無効にされた、サイバー・ジムナティクスの効果の手札コストで捨てていたようだ。

「いくわよ! 《機械天使の儀式》を発動! 《サイバー・プリマ》を墓地に送り、《サイバー・エンジェル−弁天−》を儀式召喚!」

サイバー・エンジェル−弁天−
ATK1800
DEF1500

 明日香の儀式のエースカード、サイバー・エンジェル−弁天−がフィールドに現れ、明日香の融合と儀式の二代エースカードが並ぶ。

 儀式の準備で使い勝手の良いサイバー・エンジェル−韋駄天−を選択せず、効果ダメージを誘発出来るサイバー・エンジェル−弁天−を選んだということは……このターンで終わらせる気なのだろう。

「サイバー・エンジェル−弁天−に、《リチュアル・ウェポン》を装備する!」


 レベル6以下の儀式モンスター限定という厳しい縛りはあるものの、攻撃力・守備力が1500ポイントもアップする。
よってサイバー・エンジェル−弁天−の攻撃力は、3300。

「バトル! サイバー・ブレイダーで、アルカナ ナイトジョーカーに攻撃! グリッサード・スラッシュ!」

 天位の称号を持つ究極融合剣士であろうとも、攻撃力が倍になったサイバー・ブレイダーには適わない。
何体ものモンスターを破壊した剣は避けられ、蹴りを入れられてアルカナ ナイトジョーカーは破壊する。

「く……」

ナイト吹雪LP4100→3700

「続いてサイバー・エンジェル−弁天−で、ロイヤル・ストレート・スラッシャーに攻撃! エンジェリック・ターン!」

 両手に持つ扇を煌めかせ、今度は儀式のエースがロイヤル・ストレート・スラッシャーに向かう。

 だが、その効果を使用してもナイト吹雪さんのライフは残ってしまう。
だったら何故、サイバー・エンジェル-弁天-を選択したんだ……?

 そのことにナイト吹雪さんも気づいたのか、ニヤリと顔を笑わせる。

「ミスしたね、アスリン。韋駄天の方を選んでいれば……」

「いいえ。これで終わりよ! レイちゃんの墓地からトラップ発動! 《スキル・サクセサー》!」

 スキル・サクセサー……墓地から発動出来る珍しいトラップだが……ホーリーライフ・バリアーの時か……!

 サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力が更に上昇し、ナイト吹雪さんのライフを削りきれるようになった……!

「言ったでしょ、足手まといになんてならないんだから!」

 レイの叫びに呼応したかのように、サイバー・エンジェル-弁天-がロイヤル・ストレート・スラッシャーを切り裂いた。

「え……ちょ、待っ…」

ナイト吹雪LP3700→1900

「サイバー・エンジェル-弁天-の効果を発動! 戦闘で破壊したモンスターの守備力のダメージを与える!」

 ロイヤル・ストレート・スラッシャーの守備力は……2000。
ナイト吹雪さんが待てという話も聞かず、無慈悲にもサイバー・エンジェル−弁天−はナイト吹雪さんを攻撃した。

「うわああああっ!」

ナイト吹雪LP2000→0

 サイバー・エンジェル−弁天−の効果ダメージが炸裂し、ナイト吹雪さんの敗北でデュエルは終結を迎えた。

 ナイト吹雪さんは最後まで騎士のように振る舞い、余裕気に立ち上がった。

「ハハハ……負けちゃったよ。アスリン、レイちゃん」

「……アスリンは止めて。それと、本気を出してない相手に二人がかりで勝ったって嬉しくないわ」

 明日香はその言葉通り、勝ったにも関わらず憮然とした表情をしていた。

「えっ……あれで本気出してないの!?」

「酷いなぁ、アスリン。僕はいつだって本気さ」

 ナイト吹雪さんは笑って肩をすくめるが、半分冗談だろうな、と俺は思った。

 確かにナイト吹雪さんは本気だったが、あくまで【絵札の三銃士】での本気だろう。
吹雪さんの本気である【真紅眼の黒竜】では無いのだから。

 妹である明日香は、他人よりもそれが分かってるんだろうな。

「アスリンの言いたいことは分かるけど、僕は全力を出したよ……それじゃあ最後に、この指の先に何が見える?」

『天!』

「んんんん」

 悪いが割愛する。

 いい加減諦めれば良いのに、明日香はため息をつきながらもレイと顔を合わせ、勝った合図のように弱く拳を合わせた。

 先程のデュエルの時のコンビネーションといい、仲のいい姉妹のように見えて、見てて微笑まし……かった。
デュエルフィールドから降りる途中、何か会話したかと思うと、少し睨み合って火花を散らしあっていた。

 ああもう、お前等は仲が良いのか悪いのか……前の席に俯いて肩を落とす俺に、三沢が隣から肩に手を置いた。
 
 

 
後書き
なんだか無意味に長くなった……

感想覧で、「遊矢は、十代のいないデュエルアカデミアでどう行動するのか」という感想が良く目に付きましたが、彼が選んだのは本文中にあるように『待ち』でした。

いやしかし、転生者でない遊矢がいきなり「エドのマネージャーの斎王に憑いてる破滅の光が原因だ!」と言えるはずが無いので……ご勘弁ください。

感想・アドバイスを待ってます。
 
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