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英雄伝説~西風の絶剣~

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太陽と西風 空の至宝と少女の愛
  第65話 襲撃

 
前書き
 久しぶりに投稿します。 

 
side:エステル


「いや~~~!?」


 あたしは今危機に直面していた。荒れ狂う爆弾や衝撃があたしを襲ってきているからだ。


「そらそら!必死で逃げんと吹っ飛んでまうで!」


 爆弾や地雷をかわしながら逃げるあたしを細目の男性が追いかけてきた。あたしは大きくジャンプして距離を取った。


「ここなら捻糸棍で……」
「よそ見は禁物だ」


 遠距離から攻撃しようとしたあたしに大柄の男性がマシンガントレットを振るってきた。あたしは防御しようとするがそこに誰かが割り込んできて大柄の男に攻撃を仕掛けた。


「業炎撃!」
「ぬうっ……」


 炎を纏った上段切りがマシンガントレットを弾き飛ばした。


「エステル、油断は禁物だよ」
「リィン君!」


 あたしを助けてくれたのはリィン君だった。大柄の男性に切りかかったリィン君は白色の髪になっていて自分より体格に優れている男性と互角に力比べをしていた。


「チッ、ボンが来よったか。なら一旦森の中に……」
「させない」


 細めの男性が一旦逃げようとすると、死角から銀髪の女の子が双剣銃で切りかかった。細めの男性はブレードライフルでその攻撃を受け止める。


「やるやないか、フィー。気配が読めんかったで」
「さらっと防御されて褒められても嬉しくない」


 銀髪の女の子……フィーは自分の攻撃をあっさりと防いだ男性にジト目でそう言葉を返した。


「エステル、援護して!」
「うん、任せて!」


 フィーは三人に分裂……いやあれって分け身っていうんだっけ?実態のある分身を生み出して攻撃していたが細目の男性をそれらを全ていなしていた。


 あたしはそれに交じって男性と戦うがそれでも男性の防御を崩せずにいた。


「そらっ、プレゼントや!」


 男性はヤリ型の爆弾を地面に設置して距離を取る。そしてブレードライフルを構えて爆弾目掛けて発砲した。爆弾を誘爆させるつもりね!


「クリアランス」


 フィーは双剣銃から銃弾を放ち細めの男性が放った銃弾に当てて逸らした。


「エステル、今だよ」
「了解!」


 あたしは宙に浮いていた細めの男性目掛けて走り出した。


「遅いで!」


 体勢を立て直した細めの男性は閃光手榴弾を構えた。でもあたしは構わずに突っ込んだ。


「螺旋脚!」


 あたしは回転の力を利用して高速で移動した。そして男性目掛けてタックルを放った。


「うぐっ……」


 男性にタックルが当たりうめき声を上げた。すると男性は武器を下ろして戦闘態勢を解除した。


「やるやないか、エステルちゃん。ちょいと前まで触れる事すらできんかったのに大したもんや」
「えへへ、ゼノさん達に鍛えてもらったお陰ですよ」


 さっきまで激戦を繰り広げていた人とは思えないほど友好的に接してきたが、慣れたあたしは特に何も思わずに自然体でそう答えた。


「フィーも随分と強うなったな。見違えたで、ホンマ」
「当然。わたしはもっと強くなる」
「でも攻撃の体勢に入ったら殺気が漏れたのはアカンで。ギリギリまで抑えんとな」
「了解。次は気を付ける」


 細めの男性……ゼノさんからアドバイスを受けたフィーは素直に頷いた。


「やったな、エステル。ゼノに触れられたのってこの一か月ほどで初めてじゃないか?」
「リィン君がレオさんを抑えてくれていたからよ」
「まあ『鬼の力』の力を使って漸くできるんだけどね。しかもレオはある程度は力を抑えていたから『破壊獣』の異名の凄さが改めて実感できたよ」
「リィン、そんなに謙遜するな。お前の鬼の力も全力ではなかったのだろう?それに今回は訓練だったから態々俺を抑え込みに来たが実戦ならもっと違うやり方をしたはずだ」
「まあね、実戦だったら絶対にレオとは力比べはしないよ」


 リィン君は自身の中にある異能の力を使ってレオさんと力比べをしていたみたいだけど、今回は訓練だからそうしただけで実戦では違う手を使っていたらしいわ。


 やっぱり年の割には戦闘経験が豊富よね。あたしも訓練はしてきたけど二人は実戦で腕を磨いてきたんだって改めて思ったわ。


「リィン、鬼の力を使っても大丈夫なの?」
「ああ、今のところは問題ないよ」
「無理はしないでね。もし暴走しそうになったらわたしが止めるから」
「ああ、その時は任せたよ」
「うん」


 フィーは心配そうにそうリィン君に言うが彼は笑みを浮かべながら心配しなくてもいいよと彼女の頭を優しく撫でた。フィーはそれを嬉しそうに受け入れていた。


「なんや、いい雰囲気やんけ。ボンも等々観念しよったか?」
「ん、返事はまだだけどね」
「かーっ!アカン、アカンでボン!女の子に気を遣わせたら男なんざ立つ瀬無くなるわ!」
「お前は友達止まりばかりだがな」
「そ、それは言わん約束やろ……」


 ゼノさんがリィン君を茶化したが、レオさんのツッコミにショックを受けていた。


「これは二人の問題だ、俺達が茶化すモノじゃない。なあリィン?」
「あはは……そうだね……」


 レオさんは真顔でそう言いつつもリィン君に視線を送っていた。そのリィン君は気まずそうに視線を泳がせていた。


「レオ、心配しないで。わたしも待つだけの女にはならないから。むしろリィンの方からプロポーズしてもらえるように彼を魅了して見せる」
「ふふっ、そうか。イイ女になったな、フィー」
「ブイ」


 フィーは堂々とそう言ってリィン君に抱き着いた。本当に仲が良いわね、リィン君とフィーって。


(……ヨシュア)


 あたしはいなくなってしまった想い人の事を考えながら彼を連れ戻す決意を新たに心に刻んだ。


「特訓の調子はどうかしら?」
「あっ、マリアナさん」


 そこに西風の旅団の一員であるマリアナさんがやってきた。


「順調やな。このままいけばもうすぐ例のアレが出来るんやないか?」
「それは良い知らせね、ならこのことはルトガーに伝えておくわ。さあ、晩御飯を作ったから沢山食べなさい」
「はーい!」


 ゼノさんとマリアナさんが話していたアレが気になったけど、それ以上にお腹が空いていたので考えを切り替えてロッジに向かった。



―――――――――

――――――

―――


「はぁ~、美味しかった!」


 晩御飯を食べ終えたあたしはフィーと一緒の部屋でくつろいでいた。


「エステル、凄い食べてたね。マリアナも作りがいがあるって喜んでいたよ」
「だってすっごく美味しかったんだもん。マリアナさんって料理が上手なのね」
「元貴族だって聞いたことがあるしそこで習ったんだと思うよ。わたしもマリアナから料理を習ったし」
「そうなんだ……」


 マリアナさんが元貴族と聞いて少し驚いた。


「でも早いものだね。あれからもう一か月以上もたったなんて」
「そうね……」


 そもそも何故あたしが西風の旅団と共に行動をしているのか、それを話すにはあたしがヨシュアを追いかけると決めたあの日までさかのぼる事になるわ。


 ヨシュアを追いかけると言ったのはいいものの、今のあたしではヨシュアを連れ戻す事は不可能だと父さんに言われたの。要するに実力が足りていないとハッキリ言われたわ。


 そこで父さんは何とルトガーさんにお願いしてあたしの実戦相手を務めてほしいって話を出したの。そしてルトガーさんが父さんから何かの切手みたいなのを受け取って依頼を受けると話が決まった。


「でも大丈夫なのかな?確かリベールって猟兵に依頼するのを禁止していなかったっけ?」
「ん。まあそうだけどカシウスは国を救った英雄だし女王陛下から特別に許可を貰えたみたいだよ」
「知らなかったとはいえまさか父さんがそこまで凄い人だったなんて思わなかったわ……」
「まあカシウスはそういうの隠すのが上手い人だからね」


 改めて父さんの凄さを実感したわね。前まではロクに連絡もよこさない心配ばかりかけさせるってイメージだったのに……いや今でもそんなイメージね。


 とにかくそういう事であたしは西風の旅団に鍛えてもらう事になったの。もう一つの提案として遊撃士が訓練を行う『ル=ロックル訓練所』に行く事も提案されたけど、あたしはロランス少尉の事を思い出して実戦で学びたかったのでこっちを選んだの。


 そして今あたしはリベールを離れてアイゼンガルド連峰と呼ばれる過酷な環境で実戦経験をすることになったの。


 まあ実戦と言っても西風の旅団の人たちに鍛えてもらっているだけなんだけどね。流石に戦場には出れないし……


 でもそれでも今までしてきた訓練とは比べ物にならないくらい過酷だったわ。まず容赦がないの、気絶したら回復アーツをかけられて直ぐ起こされてまた戦闘を続行させるなんてザラで何度も地面や岩壁に叩きつけられたり骨が折れかけた事も何回もあった。


 しかもそれだけじゃなくて重い装備を背負いながら山を登ったり武器の特徴を実戦形式で覚えさせられたりと休む暇もなかった。


 最初自己紹介したときゼノさんは気の良い人だと思ったけど、いざ訓練が始まったら別人のようになったわ。


 彼が使っていた爆弾は音や光を強めたモノで殺傷力は低いみたいだけど。それでもまともに喰らえば失明、もしくは鼓膜が破れるくらいには強力だった。


 最初それを喰らいかけた時はフィーが助けてくれたんだけど、もしそれが無かったら間違いなく身体に異常を持つことになっていたと思う。


 それを抗議したら『依頼やから加減は出来へん、それで戦えなくなったら嬢ちゃんが弱いせいやろう』と冷たく言われた。


 最初はショックだったけど、あたしは今までヨシュアに甘えてきたんだなと実感して立ち直った。そして厳しい訓練にも必死でついていった。


 その甲斐あって今ではゼノさんとも仲良くなれたわ。プライベートだと面白い人だし話も合うから直ぐに仲良くなれた。


 レオさんやマリアナさんとも仲良くなれたし、あたしも順調に強くなっているわ。


「そういえばフィー、リィン君が言っている『鬼の力』ってなんなの?あの変身する奴の事?」


 あたしはリィン君が最近使いだした鬼の力という言葉についてフィーに質問した。一応リィン君にはああいう変身する特殊な力があるって聞いたんだけど鬼の力ってそれのことかな?


「リィンは前まではあの変身する力を異能って呼んでいたんだけど、ジンから『鬼』について話しを聞いてからそう呼ぶようになったの」
「鬼……?」
「ん、なんでも東方に伝わる伝説の魔獣みたいだよ。人間を圧倒する屈強な体に高い知能、そして白い髪に赤い目をしていたって伝承が残っているみたい。前にリベールを去る前にリィンがジンにあの力を見せたの。そしたらジンが『まるで伝承に残る鬼のような見た目だな……』と呟いてリィンが鬼について話しを聞いたの」
「なるほど、そう言う事だったのね」


 東方の伝説の魔獣……リィン君の変身した姿がソレに似ているから鬼の力って呼ぶようにしたのね。


「わたしもエステルに質問してもいいかな?」
「なにかしら」
「なんでエステルはリィンの事を君付けで呼ぶの?リィンからは呼び捨てで良いって言われたよね」
「あーっ……それは……」


 あたしはリィン君に敬語は止めてさん付けもいいと言ったの。そしたらリィン君は了解してくれてリィン君も呼び捨てで良いって言ってくれたんだけどあたしはリィン君の事を未だに君付けで呼んでいる。


 そのことをフィーに突っ込まれた。


「えっと……笑わないって約束してくれる?」
「ん、約束する」
「……ヨシュアと年の近い男の子を呼び捨てにしたらヨシュアに悪いかなぁって……」
「……ふふっ」
「わ、笑わないでよぉ!約束したじゃない!」
「ごめん、まさかそんな可愛らしい理由だったなんて……」
「もうっ!」


 フィーに暖かい眼差しでそう言われたあたしは、恥ずかしくなってしまいベットに隠れてしまった。


「あ、あたし!もう寝るね!お休み!」
「ん、お休み」


 あたしがもう寝ると言うと、フィーは部屋の明かりを消してくれた。真っ暗な空間になると疲れもあったせいかあっという間に夢の世界へと旅立ってしまった。



―――――――――

――――――

―――


「……んん?」


 あたしは何か騒がしい事に気が付いて目を覚ました。


「エステル!起きて!敵襲された!」
「えぇっ!?」


 既に私服から仕事用の服装に着替えていたフィーにそう言われて慌てて着替えた。


「襲撃ってどういう事?」
「分からない。相手は猟兵みたいだから誰かが依頼をしたのかもしれない。もしくは西風の旅団を討ち取って名を上げようとしてる奴らかも」


 フィーの話だとこういう事はそこそこあるみたい。あたしは気を引き締めて外に出るとゼノさんやレオさんが何者かと銃撃戦を行っていた。


「ゼノ、レオ!」
「遅いで、フィー!」
「ごめん、状況は?」
「敵は複数のグループに分かれて四方から攻めてきている。リィンが向こうで応戦しているから手を貸してやってくれ!」
「了解。行くよ、エステル」
「えっ、うん……」


 フィーはゼノさんとレオさんに状況を説明してもらうとすぐに行動を開始した。あまりの行動の速さに少し置いてけぼりになってしまった。


(フィーは年下だけどやっぱり離れしてるわね。あたしも足手まといにならないようにしないと……!)


 気合を入れなおしたあたしはフィーと一緒にリィン君の元に向かう。するとリィン君が二人の武装した猟兵と戦っていた。


「リィン!」
「フィーか!」


 フィーが攻撃をしながらリィン君達の間に割り込んだ。


「助かった!ありがとう、フィー!」
「守るって約束したからね。エステルはそっちの方をお願い!」


 フィーはそういうとリィン君と一緒に大柄な猟兵と戦いを始めた。二人係でも余裕をもって戦っているためあの猟兵の方が強いのだろう。


「あんたの相手はあたしよ!」


 とはいえあたしが二人を心配できる余裕はないのでもう一人の猟兵にスタッフを構える。体は細いが顔まで隠しているので女性かは分からない、でも雰囲気から只者でないことは分かるわ。


「……」


 猟兵は狙撃銃を構えて発砲する、あたしはそれを先読みで回避して一気に接近してスタッフを横なぎに振るった。


 猟兵は姿勢を低くしてそれをかわしバックステップで距離を取る。そして小型の銃を片手に備えて発砲した。


 あたしはジクザグに動きながら距離を詰めてスタッフで突きを放つ。猟兵はそれをかわすがあたしは連続で突きを放ち追い詰めていく。


 そして猟兵を崖まで追い詰めて逃げ道を防ぐと渾身の突きを放った。だけど猟兵は大きく跳躍して突きを回避する。そして上空から狙撃銃でまた撃ってきた。


 あたしはそれをスタッフで防ごうとしたが何故か猟兵の狙撃はあたしではなく頭上に行われていた。


「なにを……」


 だが直に猟兵が何をしたかったのかが分かった。大きな音と共に崖の上から落石が降ってきたからだ。恐らく脆くなっていた岩を狙撃銃で撃って堕としてきたんだ。


「くっ……!」


 あたしは落石をスタッフで破壊するがその隙を突かれて組み付かれてしまった。そして鼻と口に何か布のようなものを当てられると意識が朦朧としてしまった。


「しまった……眠り薬……」


 あたしは抵抗しようとしたけど意識が薄れていってしまった……


 
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