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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第3楽章~不滅の聖剣・デュランダル~
  第28節「作戦名『天下の往来独り占め作戦』」

 
前書き
もはや、この回のタイトルはこれしかあるまい!(笑) 

 
「はぁ……絶対未来を怒らせちゃったよね……。こんな気持ちじゃ寝られないよ……」
 二課の休憩スペース。響はそのソファーに膝を抱えて座っていた。
 寮を出る前、未来に何処へ行くのかを問い詰められてしまい、上手い嘘が思い浮かばなかった彼女は、笑って誤魔化してから飛び出して来てしまったのだ。
 気を紛らわそうと、響は目の前に置いてあった新聞を手に取る。
 偶然開いたページに目をやると、そこにはグラビア本のカラー広告がでかでかと載っていた。
「うひっ!?お、おおお……男の人って、こういうのとかスケベ本とか好きだよね……」
 顔を真っ赤にすると、慌てて顔を背ける。
 
 丁度そこへ、布袋を片手に翔がやって来た。
「男が何だって?」
「しょっ、翔くん!?べっ、べべべ別に翔くんは見なくてもいいから!!」
「お、おう……?」
 何を慌てているのか分からない翔は、首を傾げると響の左隣に座った。
 先程のページを忘れるために、響は他のページを開く。
 そこには、『本誌独占スクープ 風鳴翼、過労で入院』という記事が、丸々1ページ全てを使って載せられていた。
「あ……」
「ん?ああ、姉さんの記事か。上手く隠蔽されてるだろ?」
「情報操作も、僕の役目でして」
「緒川さん……」
 翔が自慢げにそう言うと同時に、緒川が2人の方へと歩み寄りながら声をかける。
「二人共、丁度いい所に。翼さんですが、昼間、一番危険な状態を脱しました」
「本当ですか?よかった~!」
「意識が戻ったんですね!?よかった……」
 顔を見合わせて喜ぶ2人。緒川はそれを見て微笑みながら、翔と響が座っている場所から垂直に配置されているソファーに座り、続ける。
「ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね。さあ、ファンの皆さんにどう謝るか……翔くんと響さんも、一緒に考えてくれませんか?」
 はい、と答えようとした翔が隣を見ると、響は申し訳なさそうな表情で俯いていた。
「あ……ライブ……。きっと楽しみにしていた人、沢山いますよね……」
「あ、いや、そんなつもりは……」
 慌てる緒川に、響は微笑む。緒川が慌ててる所などそうそう見られない、と翔も一緒に笑っていた。
「ごめんなさい、責めるつもりはありませんでした。伝えたかったのは、何事もたくさんの人間が少しずつ、色んなところでバックアップしているという事です。だから響さんも、もう少し肩の力を抜いても大丈夫じゃないでしょうか?」
「最近、立花も肩に力が入り気味だったからな。もう少し気楽に構えてる方が、立花らしいぞ?」
 緒川と翔にそう言われて、響は笑顔を取り戻す。
 もっと周りに頼れ。翔からの言葉を胸に刻んでいる響は、緒川からの言葉で、自分達が思っているよりも沢山の人間に支えられている事を知ったのだ。
「……優しいんですね、緒川さんは」
「怖がりなだけです。本当に優しい人は、他にいますよ」
 そう言って緒川は、翔の方を見る。
 連られて響も翔の方を見ると、彼は照れ臭そうに指で頬を掻きながら、そっぽを向いていた。
「翔くんも、いつもありがとう」
「お、俺は男として当然の事をしているだけで……」
「でもわたし、翔くんには助けられっぱなしだもん。感謝の気持ちくらいは伝えさせてよ」
 そう言って響は、翔の右手に自分の手を重ねた。
 翔はより一層照れ臭そうに、頬を赤く染めていた。
「……翼さんも、響さんくらい素直になってくれたらなぁ」
「へ?」
「緒川さん、それはどの立場からの言葉です?」
 その言葉の意図に気付かない響と、少し含みを持たせた言い方で問いかける翔。
 緒川はその微笑みを崩さずに、席を立ちながら答えた。
「いえ、特に深い意味はありませんよ」
「そうですか。あなたも食えない方ですね」
「そう言う翔くんこそ、そろそろ気付いたらどうなんです?」
「気付く……とは?」
 翔の言葉に、緒川は可笑しそうに笑った。
「いえ、何でも。そのうち君にも分かりますよ」
 そう言って緒川は、廊下の向こうへと歩き去っていった。
「翔くん、今のどういう意味?」
「さあ?」
 2人で顔を見合わせて、首を傾げる。
 
 グゥゥゥゥ~……
 
 その瞬間、2人の腹の虫が音を立てた。
「あはは、そういや夕飯まだだった……」
「腹の虫が嘶く頃か……。実はここに、親友の純が作った夕飯を詰めたタッパーがある」
「おお!?なになに?今夜の翔くんとこの晩ごはん、何だったの?」
「純特性、包み焼きハンバーグだ!立花の分も用意してもらったから、遠慮せずに食べるといい」
 そう言って翔は、布袋の中から2人分のタッパーを取り出した。
 おにぎりはそれぞれ4個ずつ。タッパーの中にはハンバーグを包んだアルミホイルが、別のタッパーには付け合わせがそれぞれ入っている。
 2人はそれぞれ箸を取ると、両手を合わせた。
「「いただきます!」」
 
 アルミホイルを開くと、デミグラスソースの香りが湯気とともに溢れ出す。
 アルミホイルの中には手のひら大のハンバーグ。付け合せのインゲンソテー、ニンジン、粉吹き芋をソースに浸して一口。
 それから、ハンバーグを箸で切り分ければ、中からは肉汁と共に黄色いチーズが溢れ出す。
 口の中で咀嚼する度に崩れる挽き肉の感触と、下を撫でるチーズのトロトロ感。そしてそれらを包み込みながら口内へ広がる濃厚なソース。
 そこへおにぎりを一齧り。米の食感と僅かな甘みが合わさり、口の中で肉と米のワルツが繰り広げられる。
 気づいた頃には2人とも、あっという間におにぎりとハンバーグを食べ終えていた。
「ありゃりゃ、もう無くなっちゃった……」
「おかわりならあるぞ。立花が食べたがるだろうと思って、用意して来た」
 そう言って、もう一つのホイルを響の前に差し出す翔。
 響は一瞬嬉しそうな表情を見せ、ふと、何かに気付いたように翔の方を見た。
「これ、わたしの分なんだよね?」
「そうだぞ?」
「わたしだけおかわり貰っちゃうの、何だか申し訳ないなって……」
「そんな事ないぞ。俺はいっぱい食べる立花の顔を見るのが好きなんだ」
 好き。その一言に響は一瞬頬を赤くする。そういう意味ではないと分かっていても、やはり響も1人の女の子なのだ。反応してしまうのも無理はない。
「だから、遠慮せずに食べていいぞ」
「うーん……でも、わたしは翔くんと一緒に食べたいな。ほら、美味しいものは一人で食べるより、皆で食べた方がもっと美味しいでしょ?」
「そ、そうか……」
 響の言葉に、翔も再び頬を赤らめる。女の子に名指しで一緒に、などと言われれば、思春期の男子がそうなるのも無理はない。
 ……本当に、どうしてこの2人はここまでやって付き合っていないんだろう?と、2人の様子を監視カメラ越しに見かけてしまった出歯亀職員は、後に同僚達へそう漏らしていたという。
 
「なら、半分こにするしかあるまい」
「そうだね。それなら2人で食べられる!」
 最後のホイルを開くと、翔はハンバーグを2つに割った。
 2人はそれぞれ半分ずつ、箸でつまむと口へと運ぶ。
 咀嚼し、味わい、舌の上で転がして。満足感に溢れた満面の笑みで、2人は声を揃えた。
「「美味し~~~っ!」」
 この後、おにぎりに残ったデミグラスソースを付けて食べ終わるまで、二課の廊下の一角からは、明るい声が聞こえていた。
 
 ∮
 
 翌日、夜明け前。先日の生弓矢護送任務の際と同様、黒服さん達と並んで号令を待つ。
「防衛大臣の殺害犯を検挙する名目で、検問を配備。記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける」
「名付けて、『天下の往来独り占め作戦』ッ!」
 満面の笑みでVサインをする了子さん。作戦名宣言できてご満悦なんだろうなぁ。
「道中、ノイズによる襲撃が予想される。その際は翔、響くん、2人を頼らせてもらうぞ」
「了解ッ!」
「わかりましたッ!」
 2人で了子さんの車に乗り込み、シートベルトを締める。
 前日に打ち合わせた通り、立花は助手席で了子さんを、俺は後部座席でデュランダルの入ったケースを守る。
 襲われたら俺が囮になりつつデュランダルを運び、立花には了子さんを護衛してもらう作戦だ。
「よーし、それじゃあ出発するわよ~?」
「立花、朝食はしっかり食べたな?」
「もちろん!友里さんにちゃんとお礼も言ってきたよ!」
 朝、起きて司令室に集まったら、友里さんが全員分のおにぎりと卵焼き用意していた事には、とても驚いた。
 藤尭さんも手伝ったらしいけど、やっぱりあの人の気配りは目を見張るものがある。
 ちなみに、材料の買い出しは緒川さんが行ってくれたらしい。
「朝飯よし!トイレよし!目は覚めてるな?」
「全部OK!バッチリだよ!」
「あとはいつ襲われてもいいよう、覚悟を決めて!」
「しゅっぱ~つ!」
 了子さんがエンジンをかけ、車を発車させる。
 高速道路に入った二課の全車両は、そのまま永田町を目指して一気に速度を上げた。 
 

 
後書き
ん?例のグラビア写真もう少しネタに出来たのでは、って?
尺の都合でやめておきました。

響「はぁ……翔くん聞いてよぉ」
翔「どうした立花?溜息なんか吐いて」
響「わたし、未来を怒らせちゃったかも……」
翔「そうか……悪い予想が当たったか……」
響「どうしよ……。わたし、未来を守りたいのに、どんどん嘘ついちゃって……翔くんと違って口下手だし」
翔「小日向は立花を心配してくれているのに、立花の小日向を守りたいという思いはすれ違いを生んでしまっている、か……。辛いな……」
響「うん……。わたし、どうすればいいんだろう……」
翔「……よし。今度、俺も一緒に謝りに行くよ」
響「え?翔くんが?」
翔「立花の至らない部分を、俺がサポートする。小日向は俺の事をよく思っていないだろうから、話が拗れる可能性もあるけど……でも、一人で悩み続けるよりはマシだろう?」
響「……ありがと」
翔「大事な親友とすれ違ったままってのは、辛いからな……。謝る時は連絡くれよ」
響「うん。……あっ、そういやわたし、翔くんの電話番号聞いてない!」
翔「しまった!端末で繋がるから、結局まだだったな……ほらよ」
響「えーっと、これこれこうこう……登録かんりょー!はい、こっちはわたしの番号ね~」
翔「はいはい、どれどれ……よし。これでいつでも連絡取れるな」
響「翔くんの方からも、何かあったらいつでも電話していいから!」
翔「立花の方から掛けてくる回数の方が多い予感がするが?」
響「え~、それどういう意味!?」
翔「ははは、そのまんまだよ」
響「も~っ!」

職員A「番号交換……よき」
職員B「悩んだら直ぐに相談できる関係……尊い」
藤尭「気持ちはわかるんだけど、2人共、出歯亀してないで仕事に戻ってくれないかなぁ……」

次回は了子さんのやべー力(どっちの事かは言わない)とデュランダルの起動!
お楽しみに! 
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