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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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二十九 怒りの引き金

 
前書き
お待たせしました!
今回、色々とご注意ください!!


 

 
しゅるる…と長い舌先を伸ばす大蛇。
大蛇丸に宙吊りにされた鬼童丸を、左近は崩壊する橋の上から見上げた。

大蛇丸、そして彼の背後に控えているカブトを、警戒心を露わに睨み据える。
かつての上司であり、主だった大蛇丸。

彼に逆らうことは、昔は死を意味していた。
だが、今は────。


恐怖に染まっていた左近の眼の色が変わる。瞳が決意の色へ変化したかつての部下を、大蛇丸は興味深そうに見下ろした。
蛇に締め上げられ、鬼童丸の大蜘蛛がぼふんっと白煙と化す。

その煙が舞い上がった瞬間を狙って、左近はクナイを投げつけた。

大蜘蛛の白煙で視界が遮られた大蛇丸は、煙を切って投擲されたクナイを、軽く首を傾げて避ける。
カブトも容易にかわし、クナイは背後の木の幹に突き刺さった。

「かわいい抵抗ね」

ふ、と口角を吊り上げた大蛇丸の髪が、次の瞬間、後ろの爆風で煽られた。

「…っ、大蛇丸様!!」

ただのクナイではなく、起爆札つきだったと気づいたカブトが注意を呼び掛ける。
途端、大蛇丸に足首をつかまれ、気絶していたはずの鬼童丸がぐっと上体を起こした。
手から糸を発射する。

蜘蛛の糸が顔面にかかりそうになり、反射的に大蛇丸は鬼童丸の足首から手を放した。
蜘蛛の糸がカブトの足にくっついたのを視界の端で認めながら、鬼童丸は大蛇から落下する。
墜落してきた鬼童丸を、真下の左近が上手く受け止めた。


「一旦、退くぜよ…!」
「わぁってる!!」

目配せした左近と鬼童丸は、即座に向こうの橋の大木で倒れている右近の許へ駆けだす。
橋の三分の二は完全に崩れている為、向こう側へ跳躍することはできない。真下は崖だ。

状況を素早く判断した鬼童丸は橋の向こうに渡るにあたって、手首から糸を放出した。蜘蛛の糸は右近が背にしている大木の枝にしっかりと張り付く。鬼童丸特有の強靭な糸を使い、左近と鬼童丸は、上手く橋の向こう側へと渡った。

大蛇丸の大蛇の尻尾に吹き飛ばされ、呻いている右近。
向こう側へ渡るや否や、右近の許へ駆け寄った左近はすぐさま身体を融合させる。

ひとつの身体に戻った左近と右近、そして鬼童丸が深く生い茂った森の奥へ入ってゆくのを、大蛇丸は大蛇の上から悠々と眺めていた。

「鬼ごっこでもするつもり?」

口許に冷笑を湛えた大蛇丸の視線が、崩壊する橋へ緩やかに向けられた。
辛うじて三分の一のまま、橋として保てているその場所には、大蛇丸と敵対する木ノ葉の忍びがいる。

大蛇に吹き飛ばされた右近に衝突され、気絶したナル。彼女を介抱しているシカマル。
そして崩壊する橋をなんとか支えようと木遁を使うヤマト。

木ノ葉の忍びを順番に眺める大蛇丸の背中に、カブトが急かすように話しかけた。


「大蛇丸様。鬼童丸達はここで仕留めるべきでしょう」
「……そうね」

カブトに促され、大蛇丸は視線を森へと移行させた。
大蛇丸の指示で大蛇が鎌首をもたげ、森の中にズルズルと移動してゆく。

大蛇の巨体で、崩壊していた橋が更に崩落していった。



















ナル・シカマル・ヤマトの存在は今のところ、捨て置いて良いとでも考えたのか、それともただの気紛れか。

どちらにしても、裏切者は今処罰すべきと考えたのか、大蛇丸とカブトを乗せた大蛇が右近/左近と鬼童丸を追ってゆくのを、ヤマトは固唾を呑んで見送った。

「助かった…のか?」


そうは言っても、おそらく右近/左近と鬼童丸は命の危機に瀕している。
すぐに助けに行かねば殺されるだろうが、果たして本当に彼らは敵対しているのか、ヤマトには判断できなかった。

なんせ、右近/左近と鬼童丸は、元大蛇丸の部下。いくら『根』に所属しているとは言え、彼ら二人がまだ大蛇丸の配下である可能性は十分にある。

今しがたの戦闘も、もしかしたら木ノ葉の忍びである自分達の眼を欺く為の芝居かもしれない。
第一、右近とて鬼童丸に化けていて、本物の鬼童丸ではなかったのだ。

もし大蛇丸の仲間のままならば、助けに行けば、大蛇丸・カブトに加え、右近/左近・鬼童丸の相手もしなければならなくなる。

森で彼らが待ち受けている可能性を考え、ヤマトは印を結んだ。

「【木分身の術】!!」

すると、ヤマトの頭から肩から木の枝や根っこのようなものが生えてゆく。
やがてソレは人型となり、ヤマトと同じ姿に変じた。

「頼むぞ」

まずは分身体に様子を見てもらったほうが良い。慎重にそう判断したヤマトに応え、木分身は頷く。
崩壊した橋をものともせず、鬼童丸達や大蛇丸が立ち去った森中に向かう為、木遁の術を使って、分身体は向こう側へと渡った。

木でできた分身であるソレは、普通の分身と違い、ヤマトの細胞を元に作られている為、十分な攻撃力・防御力を持っているのだ。

分身体が無事に大蛇丸や鬼童丸達の様子を窺いに行ったのを見送ったヤマトは、シカマルとナルの許へ向かった。



「様子はどうだ?」
「どうも、頭を打ったみたいっスね…」

ナルの様子を診ていたシカマルが険しい顔で答える。
医療忍者ではない我が身が歯痒く感じ、シカマルは気絶したナルを心配そうに見つめると、やがて森へ視線を投げた。

「鬼童丸と左近達は大丈夫なんスか?」
「一先ず、様子を見よう」

木分身はオリジナルと常にリンクしているため、相互にリアルタイムで情報のやり取りが出来る。
木分身から鬼童丸や右近/左近が大蛇丸の味方でないことを確認してから、彼らを助けに行こうとヤマトは考えていた。

だがそれは、聊か慎重しすぎる考えだった。



多少なりとも、鬼童丸と右近/左近と若干の仲間意識を覚えていたシカマルは難しい表情で森を観察する。
彼らを心配する気持ちはある。だがシカマルの心は、気絶したナルに向いていた。
気を失っている彼女を置いていくことはできない。

ふと、森の上空に飛ぶ白い鳥に眼を留めたシカマルは、眼を凝らした。
ただの鳥にしては大きすぎる気がする。
その鳥の背中に人影が見えた。


「……何故、此処に…?」

鳥に注視していたシカマルの口から驚きの声が零れる。
怪訝な顔をするシカマルに、「どうした?」と訊ねながら、ヤマトは彼の視線の先を追った。


鳥の背に乗って、大蛇丸達がいる森の上空を飛んでいるのは、ダンゾウの部下であり【根】の一員。


「サイ…」
「知り合いか?」

ヤマトの問いに、シカマルは【忍法・超獣偽画】による巨大な鳥に乗るサイから目を離さぬまま、簡潔に答えた。


「ダンゾウの部下っスよ」
「……どういうことだ」


既に【根】からは右近/左近・鬼童丸が派遣されている。
それなのに、何故、またダンゾウの手の者がこの場にいるのか。

大蛇丸だけでも厄介なのに、この上、またダンゾウが絡んでくるとなると、話は更に複雑だ。
顔を顰めたヤマトは、森へ向かわせた己の木分身を遠目で見据えた。


「嫌な予感がする…」




























大木がバラバラに抉られ、削られ、凄まじい風が吹き荒れる。
暴れる大蛇の猛攻に、鬼童丸と右近/左近は防戦一方だった。

迫りくる蛇の大口から垣間見える牙。

大蛇に今にも呑み込まれそうになっていた鬼童丸はチャクラの使い過ぎで、もうあまり余力はなかった。
ふらつく鬼童丸を咄嗟に押しのけ、左近は親指の腹を歯で噛み切る。

凄まじい速度で迫る蛇の手前、左近は勢いよく地面に手を叩きつけた。


「口寄せ───【羅生門】!!」

瞬間、禍々しい鬼の形相が彫られた門が地中からせり上がる。


ただ頑丈なだけでなく弾性にも優れている門は、大蛇の猛攻を食い止めた。
門にぶつかった衝撃で、カブトが蛇の頭から落ちる。
空中で体勢を整え、軽やかに着地したカブトを視界の端で認めながら、大蛇丸は「ふぅん…?」と聊か感心めいた声音で呟いた。


「右近と左近、二人がかりじゃないと口寄せできなかったのにねぇ…」


以前は右近/左近が二人同時に口寄せしないと発動しなかった【羅生門】。
その門を、左近ひとりで口寄せした事実に、大蛇丸は眼を細めた。


「でもまぁ…」

大蛇の猛攻を無事防ぎ、【羅生門】を前にして一息ついていた左近は、背後からの声に総毛だった。


「背後ががら空きよ」



ドスッ!!


刹那、左近の身体には剣が突き刺さっていた。


























「う…」

微かな呻き声に逸早く気づいたシカマルは、ナルの顔を覗き込んだ。

「ナル…!しっかりしろ!!」
「しか…まる…?」

ぼんやりと瞼を押し上げた彼女の瞳の青が見えて、シカマルは胸を撫で下ろす。
「全く心配かけやがって」と照れくささを誤魔化すようにそっぽを向くシカマルに苦笑して、ヤマトもナルに声をかけた。


「大丈夫かい?」
「お、おう…って、一体何がどうなってるんだってばよ?」

不思議そうにキョロキョロと辺りを見渡したナルは、右近に衝突されてからの記憶がない。
だが、何故右近が自分に吹っ飛んできたのか、原因を思い出して、ナルはハッとした。

「鬼童丸が、大蛇丸と…!!」


ナルが最後に見た光景は、大蛇の上に乗る大蛇丸と対峙する、大蜘蛛に乗った鬼童丸の姿。
そこでようやく右近/左近と鬼童丸の姿がこの場にない事実に気づいたナルは、シカマルとヤマトに交互に視線を投げた。

「鬼童丸は…!?左近と右近はどこに…!!」

焦るナルから顔を逸らしたシカマルの代わりに、ヤマトが答えた。

「橋の向こう側だよ────大蛇丸と一緒にね」

ヤマトの答えに息を呑んだナルが何をしようとしているのか即座に察して、シカマルが「お前、今、起きたばっかだろうが!!」と彼女の腕をつかもうとした。

シカマルも、ナルが意識を取り戻したら、鬼童丸・左近/右近の加勢に向かうつもりだった。
だが、単独で動こうとするナルの行動は許せなかった。

なにしろ、寸前まで気絶していた身なのだ。
いきなり動こうとするナルを止めようとしたシカマルだが、それより早く。


「【多重影分身の術】!!」

シカマルの制止の声を振り切って、影分身をつくったナルは、もはや原形をとどめていない橋の前に立ちはだかると、更に印を結ぶ。複数の影分身をつくり、橋の向こう側へ自分を思いっきり投げてもらった。
影分身達に勢いよく放り投げられたナルは、なんとか向こう側へと飛び移る。

三分の一になっている橋の上にいる影分身達と、シカマル・ヤマトに手を振って、ナルは森の中へ飛び込んだ。

大蛇丸と闘っている左近/右近、そして鬼童丸に加勢する為に。
































大蛇丸の剣に貫かれた左近。
刹那、その刺された箇所から分離するかのように、身体が真っ二つに裂かれた。


否、ふたつの身体に別れたのだ。


「普通はその避け方はあり得ない…血継限界【双魔の攻】を持ち得るからこそ出来た技ね」

ふたりに別れることで致命傷を避けた左近と右近に、大蛇丸は余裕を崩さぬまま、静かに笑む。
そのまま何事もなかったかのように剣を振り落とした大蛇丸は、左近/右近とは全く別の物を切断した。


それが、左近が振り向き様に投げた煙玉だと気づいたのは、視界が煙に覆われた直後だった。


「大蛇丸様…!!」

煙の彼方からカブトの声がする。
瞬間、鬼童丸が最後の力を振り絞り、指先に結わえていた糸を外した。


すると、煙を切り裂き、大蛇丸目掛けてクナイが一斉に飛来してくる。
前以て森中に張り巡らせたクナイを、鬼童丸が一気に投擲したのだ。


煙玉だけでなく、クナイの怒涛の攻撃により巻き上がる砂煙。








煙に覆われた森。
視界がゼロになったその場を、遠目から確認していたヤマトの木分身は顔を顰めた。

大蛇丸とカブト、そして鬼童丸・左近/右近を監視する為に追い駆けてきたが、こうも視界が悪ければ監視どころではない。


煙が晴れるのを待ち構えていたヤマトは、オリジナルからの報告を受け、周囲を見渡した。
木分身はオリジナルと常にリンクしているため、リアルタイムで相互の情報のやり取りができるのだ。


上空で円を描く白い鳥。
【根】の一員であり、ダンゾウの部下であるサイを確認し、次いで、隣の木々を見る。

其処には、つい先ほどまで右近の衝突を受け、気絶していたナルの姿があった。
肩で大きく息をしている彼女は、煙の中を凝視している。


オリジナルであるヤマト本人から、ナルのことを聞いた木分身が声をかけようとしたその時。


煙が晴れた。




「あ…」

ひゅッ、と息を呑むナルの視線の先を追って、木分身は眼を大きく見開く。


(慎重過ぎるのも、考えものだったか…!)

大蛇丸の部下ではないか、と勘繰ったばかりに、すぐさま救助に向かわなかった己を悔やむヤマト。



彼と、ナルの視線の先には、倒れ伏す鬼童丸と右近/左近の姿があった。



























「色々策を講じてきたようだけど、無駄な足掻きだったようねぇ…」

視界をゼロにしたところで、数多のクナイを集中砲火したところで、大蛇丸の前では無に帰す。
煙の中で、左近/右近・鬼童丸を瞬く間に沈めた大蛇丸に、カブトが進言する。


「大蛇丸様、止めは僕にさせてください。貴重な細胞サンプルになりますので」

右近/左近は血継限界の持ち主、そして鬼童丸は珍しい蜘蛛粘菌を分泌する体質だ。
新鮮な血が必要だから、とメスを取り出しながら熱心に語るカブトのマッドサイエンティストぶりに、大蛇丸は呆れたように手をひらひら揺らした。


「お好きになさい」

大蛇丸の了承を得たカブトが満足げに、倒れ伏す左近/右近、そして鬼童丸の許へ近寄る。




「やめろォ!!!!!」

煙が晴れてゆくにつれ、鬼童丸と左近/右近の現状が理解できたナルが思わず飛び出す。

同時に、鮮血が舞った。



























「……一足、遅かったようねぇ」

腕を組み、優雅に冷笑する大蛇丸と、カブト、そうしてもう動かない彼らを、ナルは呆然とした面持ちで見つめた。
カブトにメスで掻っ切られるその瞬間を目の当たりにしたナルの髪がざわざわと逆立ちはじめる。


かつては敵だったけれど、仲間として今回、同じ班になった元・音の五人衆。
ほんの数日前まで、同じ宿に泊まり、腕相撲までした相手。



顔を伏せ、大蛇丸とカブトの前で立ち竦むナル。
飛び出してしまった彼女の動向を木の影から窺っていたヤマトの木分身は唇を噛み締めた。

(マズい…!!)



空のような澄んだ瞳の青がじわじわと赤くなってゆく。
爪が徐々に長くなり、頬の三本髭のような模様が色濃くなってゆく。


眼に見えるほどの赤いチャクラが迸り、怒りの形相で大蛇丸とカブトを睨むナル。
彼女の傍で横たえる左近/右近、鬼童丸はピクリとも動かない。


それは紛うことなき、遺体だった。














「よくも…!!よくも…左近と右近を…!!鬼童丸を…!!おめーらの昔の仲間を…!!」


激昂するナルのツインテールにしている髪が解けてゆく。
重力を無視した黄金の毛が空中でゆらゆら揺れた。




九尾のチャクラをその身に纏い始めたナルを、大蛇丸は愉快げに見やった。



「やっと…────面白くなってきたわねェ」 
 

 
後書き
シカマル・ヤマトが冷たいとか、ナルトが見殺しにしたなどなど、非難してやらないでください…やっぱり昔の仲間だとどうしても思うところがあると思うんです…(汗)

是非、この章を最後までご覧ください。
次回もどうぞよろしくお願い致します! 
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