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異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》

作者:獣の爪牙
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第一部
第四章 異能バトル
  4-5 反撃


爆弾生成の異能を持つ煙上は焦っていた。

「くそ、山下のやつなんで連絡をよこさねーんだっ」
砂川さんの指示通りならおれの爆弾で注意を引き、その背後から山下が透明化で刺し殺すはずだった。
事前には聞いていたが水使いの女が想像以上に厄介だった。
大量の水で念入りに仕掛けた爆弾のほとんどがおじゃん。三階と一階にも少し残っているが使えるか怪しい。

「まさか、しくじったのか?」

そうなると残るのは北側の階段出口に仕掛けた大型爆弾のみ。
三階と一階のはまだ機能するはずでそこで二人まとめて始末出来る。

そう思った矢先、西校舎二階から水使い達が土の斜面を作って中庭に降りてくるのが見えた。
屋内戦で活きる爆弾もこれでは意味がない。

「くっ」
不良は舐められたら終わりというが、この戦いは命に関わる。
プライドと命、どちらを取るかは言うまでもない。
自分の死が現実味を帯び始め、煙上は校舎端から砂川達のいる体育館へ逃げるように向かう。

「動かないで下さい」
「っ!」

急ぐ足をを長身の女の声が遮った。
すぐに手榴弾を作ろうとするも東校舎側から幼女が大砲を構えているのが見えた。

「動けば撃ちます」
目の前の女は回復の異能と聞いたが連絡でステゴロも強いと聞く。

「爆弾生成の異能。遠隔攻撃も出来るのでしょうが近づかれると自傷の危険があり異能は使えない。だから自陣に近くかつ相手を観察出来る位置で身を隠す。見立ては当たりのようです」

「どうやってこの短時間で……?」

西校舎にはおれと山下。東校舎には砂川さんの異能で操った仲間が十人前後いたはず。

「屋内ということで多少時間が掛かりましたが、あの人数であれば問題ありません」

本当にたった二人で……!
「バカな……」

そこで土の波が容赦なく煙上を襲い生き埋めにした。

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「鳩子さん! 灯代さん! ご無事ですか?」
「はい! そちらも大丈夫ですか?」
四人で無事を確認し合う。
彩弓さんと千冬ちゃんは東校舎で別の不良達と戦っていたらしい。

「まさかあそこまで人数を揃えているとは。屋内で千冬さんの異能も大きく使えず遅くなりました。すみません」
「いえいえ、そんな謝らないでください。私も不注意でしたから」
「彩弓、強かった」

あたし達は改めて状況を確認した。
「こっちは透明化を倒しました。中庭の向こうで首だけになってます。で今倒したのが……」
「爆弾の異能持ちです。あと残っているのは腕力強化の山崎と砂川。恐らくは体育館でしょうが……」
そこで彩弓さんは悩むように言葉を切った。


「ここで一度撤退すべきかもしれません」
「「!」」


「千冬さん、まだ戦えますか?」
「うーん、ちょっと眠い」
千冬ちゃんは異能の限界が近づくと眠くなることを皆知っていた。
「鳩子さんは?」
「わたしはあと少ししか……」
歯切れが悪かった。
よく見ると大きな傷は無くとも小さな傷ならみんな数えきれない程あった。
それに長時間の戦いでの疲れが見える。

「これだけ異能を使ったんです。いつ使えなくなってもおかしくありません。加え敵二人はまだ戦っていない。新手も考えられます。おとなしく引くべきでしょう」

みんなが苦い表情をする。

「数十名の不良を倒し二人のプレイヤーをリタイアさせたのです。加えこちらの損害はない。戦果としては充分でしょう?」

ぶっちゃけてしまえばもう戦いはこれきりで終わらせてしまいたかったが、負けて失ってからでは遅い。
三人とも首を縦に振った。

「機を見てまた乗り込みに来ます。その時こそ最後にしましょう。千冬さん、ワープの準備を」

千冬ちゃんがワープの準備に取り掛かった時。

「おや、もうお帰りですか?」

目を背けたくなる光景が目に入った。

フォクシーが少し離れた所で浮かび、その後ろの体育館から三人出て来ている。
ひとりは山崎であと二人は初めて見る。
制服を着崩し黒髪をオールバックにした大柄な男。ぼさぼさの長髪であまり垢抜けない痩せた生徒。

右と左に校舎、後ろは連絡橋が崩れた瓦礫で通れず前には包囲するように敵。

閉じ込められた。

「昨日ぶりですね、まずは約束通り来て頂いたことに感謝を……」
「千冬さん‼︎ あとどれくらいかかりますかっ?」
「五分くらい」
彩弓さんが苦虫を噛んだような顔になる。

「つれないですね。こちらはここまで歓迎の準備をしているというのに」

すると真ん中の男が口を開いた。
「それな。いやあ、ここまでやるとは思わなかったぜ。何人やったよ?」
「三十はやられたんじゃないですかね? 砂川さんの異能で把握出来ないんですか?」
砂川と呼ばれた男は山崎の先輩に当たるのか、山崎は敬語で話していた。
「できねーな。大人数だと簡単な命令ができるだけだからよ」

砂川はポケットに両手をつっこみ不遜な態度で話しかける。
「よお、泉光の女共。おれは一応北高の頭やってる砂川っていうんだが、大変なんだぜ? 異能で人を集めてこき使うってーのも。おれがどんだけ頭数揃えるのに苦労したか」

「あなたが砂川さんですか。異能者をまとめているのもあなたですか?」

「ああ、もちろん今回の戦いを起こしたのもだ。しかし女だけでよくやるぜ。今まででぶっちぎりにつえー。だが……」

そこでフォクシーが丸眼鏡を押し上げた。
「ええ。彼女達には異能を使う力がもう残っていません」

「……!」
まずい、弱みを握られた。
でも一体、どうやってそのことを?

「もちろんこれだけ異能を使えば枯渇するのは予想できますが、なに、簡単な話です。精霊は異能の使用残量を見れる。誰でも出来る芸当ですよ」

精霊がここまで干渉してくることは予想していなかった。
そこで違和感がした。
見ると彩弓さんも同じことを思っているようだ。
精霊がここまで参加してくるのであれば、一十三さんがそのことを説明しないはずがない。

フォクシーのニヤニヤとした笑みが止まらない。
「困惑されていますね? そうでしょう、本来ならば精霊のバトルへの過度な干渉は公平を期すために禁じられている。しかしそんなもの……バレなければよいのです」

つまり不正をしているということね。

砂川はいたずらをする前の子供のように言う。
「フォクシー、あれも教えてやれよ」
ニヤニヤ顔で頷くフォクシー。
「一番最初の戦いであなた方の居場所や状況を教えたのはわたくしです。そして男性を脅し戦うよう指示した。期待はずれでしたがね」

文芸部四人に不穏な空気が流れる。

「あそこまで使い用の無い異能があるとは驚きました。まあ傷だらけで逃げ惑う鬼ごっこは悪くない見せ物でしたね」

鳩子が構え異能を放とうとした寸前に
「鳩子さん!」
彩弓さんが制止した。
「今はまだ耐えてください。千冬さん!」
「あと三分」

「とゆーわけでぇ、おれの催眠は破られたが、まだこっちには二人残ってる。山崎。木村」
「はい」
「は、はい」
砂川を除く二人がこちらに向かってくる。

千冬ちゃんのワープが完成するまであと三分。
「三人で千冬さんを死守します! なんとしても時間まで耐えてください!」
「「了解」」


「借りは返させてもらうぜ、白髪ぁ!」
山崎が鳩子に向かって打って出た。

あたしの前、長髪の木村と呼ばれる男は木ほどの太さのある茎を足元から生やし伸ばしてきた。名前の通りどうやら植物を操る異能らしい。が、それはあたしの方には来ていない。

「鳩子!」

敵はあたし達二人を無視し、鳩子を狙う。遠距離攻撃手段の無いあたし達二人は駒として浮いてしまっていた。

鳩子は火で間一髪守り、敵を怯ませ近付けないようにしている。
あたしは独断で守りではなく木村に向かった。

繰り出される茎を「時渡」を駆使し、躱しながら近づく。

あたしが木村を引きつけられれば、鳩子と山崎の一対一。それなら勝機はある。
素早いあたしを警戒し木村は蔓を生み出した。

蔓は茎程の大きさと威力はないが、スピードと小回りに長けていた。

(これ以上は近付けないか)

しかし木村の注意を引くことは出来ている。
あとは鳩子が山崎を倒せば……。

「あ、あれ?」

見ると、鳩子の周りから火が消えかけていた。
ついに異能の残量が底を尽きたようだ。

そこを逃さず山崎は小さな火を無視し、相当な速さで鳩子に詰め寄る。
異能で強化されたワンツーが顔に、蹴りが鳩子の脇腹に当たる。

「うっ!あっ!」
「鳩子さんっ‼︎」

倒れた鳩子に駆け寄る彩弓さん、だがすぐに山崎が追いつく。
「わりぃな。腕だけじゃなくて脚も強化できんだわ」
敵の知りたくなかった知らせも蔓を躱すのに必死で気にしていられなかった。

今度は茎があたしに迫った。
難なくこれを避けるも茎の勢いは止まらない。
(まさか狙いは……!)

茎は勢いそのまま千冬ちゃんのいた地点を直撃した。

千冬ちゃんはとっさに避けていたが、

「ああ……」

ワープゲートは消滅してしまっていた。

「く……」
「そんな……」

最後の望みが絶たれた。

「……」

なにも言えなかった。
ただ突っ立っていた。

負けたという現実味がまだない。

みんなの異能は底を尽き、体力は限界、唯一の退路のワープゲートはたった今かき消された。

もう一度作れるかもしれないが五分守り通す術がない。

これで終わり?
みんな殺される?

「終わったな。案外、呆気なかったな」
最初に口を開いたのは砂川だった。

「そうですね。所詮は人の子ということでしょう」
他人事のようにフォクシーは言う。

「じゃあ、殺せ。山崎」
「……」
「どうした? 山崎?」
「いや、なんでも。殺します」
「まずは厄介な白髪からだ」
山崎は考えるような素振りをしたが、覚悟を決めたように前へ進んだ。


いやだ。

やめて。

やっと見つけた居場所を壊さないで。


あたしは全力で鳩子の元へ駆けた。

「わりいな」

いやだ。

こんな形で失くしたくない。

「これで終わりだ」

山崎は庇おうとする彩弓さんを引き剥がし、鳩子の首に手を伸ばした。

その時だった。

「いや、まだ終わってねー」

いつのまにか鳩子の背後に人がいた。

声の主は鳩子を庇うように前へ出た。
山崎の動きが止まり距離を取る。

そいつはあたし達のよく知る人物だった。

「忘れたか? うちの文芸部は五人なんだ」

「安藤⁉︎」
「じゅーくん⁉︎」
「アンドー?」
「安藤くん⁉︎」

「ごめん、少し迷った」
気安い、いつもの笑顔で、いつもより少し逞しい顔つきの安藤がそこにいた。

「どうして……」
いるのかと問う前に事態がよくなってはいないことに気付く。
「誰かと思えばお前かよ、もやし」

「あいつは誰だ? フォクシー」
状況の読めない砂川が尋ねる。
「前回山崎さんが殺し損ねた少年ですよ。役に立たない異能の」
「ああー。言ってたなあ、そんなやつがいるって」

安藤の異能で使えるのは自爆くらいだ。
現状は打開できない。

「なにか用か?」
山崎が尋ねる。
安藤はみんなをひとりずつ見て最後に鳩子を見た。
「……鳩子に手を出したのはお前か?」

「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」
余裕の態度の山崎。

「ひとを無闇に傷つけるなって親に教わらなかったか、バカ」
「あ?」
徐々に会話に熱が入る。
「こっからは俺が相手だ。常識っつーのを教えてやるよ」
山崎の態度が変わる。

「なにしゃしゃってんだ! もやしが!」
山崎が異能を使い安藤を殴りにかかる。


「安藤!」
その場にいる誰もが山崎の勝ちを予想した。

たったひとりを除いて。

安藤は構えた。

それと同時に右腕を「黒焰」が覆い、更に膨れ上がって巨大な腕を形成する。

「‼︎」
山崎は異変に気付くも急に方向転換できない。

安藤が腕を振る。

黒い豪腕が山崎に炸裂した。 
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