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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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こころづよいくず

「っちゅー訳や。これじゃぁお前ん所のファミリアを信用できんなー」

「な、何が望みだ。ロキ」

ディアンケヒトファミリアのホーム。その応接間。

そこで主神ディアンケヒトは突然の来客からの脅しに晒されていた。

「いやな、もしこれが露見したらウチらも困るんや。
なんたってウチらはディアンケヒトファミリアの大口取引先やからな?
こっちにも被害が来るのは避けたい」

「ぬぐぐぐ……」

「しかも聞くところによると、ナァーザちゃんが着けとるアガートラム。
試作品らしいな? ん?」

「な、なぜそれを知っている!?」

「何故ってそら……。女王陛下の問いやぞ」

ロキが後ろに控えているリヴェリアをグッドサインで指差す。

「な!? 卑怯だぞ!」

「卑怯なんはどっちやろなぁ? 『息子の危機』に漬け込み、『未完成品』を『法外な』値段で売り付ける」

ガックリとディアンケヒトが項垂れる。

「さて、そんじゃぁ…。要求、飲んで貰おか」

(はやく終わらないかなー……)

(暇そうだなアイズ…)











side in

セオロの密林から帰ると、ナァーザさんとミアハ様は早速新薬の開発に取り掛かった。

僕達が居ても邪魔なので、店に椅子を出して貰ってそこに座っている。

「そう言えば僕の魔法について話したっけ?」

「いえ、聞いてないですけど…」

「この間魔法が発現したんだ。アルゴスアイって魔法。
透視とか千里眼みたいな、そういう目に関する能力の詰め合わせみたいな魔法だった」

「透視……………………………」

「いやしないからね?」

「おや? いったい何をしないというのですか?」

「からかわないでよ…」

「からかいたくなる雰囲気のベル様が悪いんですよ」

「酷い責任転嫁だ…」

暫くまったりしていると、青の薬舗にロキが歩いてきているのが見えた。

リヴェリアさんとアイズさんも一緒だ。

ロキが直々にここに来る理由がわからない。

例の補填でナァーザさんが僕に粗悪品のポーションを売っていた事は手打ちになったはずだ。

それにアイズさんを連れてくる理由がわからない。

考えている内に、ロキがドアを開けた。

カランカランと音が鳴る。

「ようベル。どないやった?」

「素材は無事手に入ったよ。今ナァーザさんとミアハ様が奥で調合中」

「そかそか」

ロキはともかくリヴェリアさんとアイズさんを立たせておく訳にはいかないので、僕はリリに目配せする。

「リヴェリアさん、アイズさん。どうぞ」

二人には僕たちが座っていた席に座ってもらった。

二人で店の隅にあった木箱に腰かける。

「お、これはつまりこういうことかいな」

とロキがアイズさんの膝の上に座ろうとして殴られていた。

「最近冷たない?」

「そのまな板みたいな胸に手を当てて考えたらわかるんじゃない?」

「言うなぁ…ベル」

ロキは僕の隣の木箱に腰を下ろした。

「ところでロキはどんな用事でここに来たの?」

「ん? ああ、それか。ミアハが来たら話すわ」

「ロキ、僕はもう謝罪を受け取ってるから……」

「ああ、ちゃうちゃう。そないな話やない」

じゃぁどんな話なんだろうか?

「ま、悪いようにはせんから安心せぇ」

暫くして、ナァーザさんとミアハ様が奥から出てきた。

「ん? 人数が増えているな…。おお、これはベルの主神殿ではないか」

「こうして面と向かって話すんは初めてやなミアハ」

「して、此度はどのような用件だろうか。ベルへ行った事については…」

「まぁ、おちつけ」

とロキが手で制す。

「今日、ディアンケヒトファミリアに行ってきた」

「ディアンの所へ? なぜ?」

「ん? そらぁ、お前…。ナァーザちゃんが可愛かったからや」

「「は?」」

僕とミアハ様は揃って首を傾げた。

「リヴェリアに頼んで、ディアンの所のエルフに聞き込みしてもろうたんや。
そしたらナァーザちゃんのアガートラム、試作品らしいな」

「試作品…ですか?」

「そや。ナァーザちゃん。ちょっとこっち来てみぃ」

とロキがナァーザさんを手招きした。

そして、ナァーザさんのアガートラムを握る。

「感覚ないやろ? 完成品のアガートラムやったら痛覚あるんやで」

「な!? なら私はディアンに…!?」

ミアハ様が声を荒げる。

こういう人が大声を出すときはガチギレしてる時だ。

「そう。騙されとったんや」

ミアハ様が拳を握りしめる。

「せやから、ウチがその借金帳消しにさせた」

「「「「え?」」」」

帳消し? ミアハファミリアの借金を?

「私情で法外な値段を吹っ掛ける。まぁ、ここまでは許したるわ。
でもな、不良品押し付けるのはアカン」

ロキがリヴェリアさんに目配せすると、リヴェリアさんは懐から数枚の書類を取り出した。

「神ミアハ。これがその証拠だ」

「ほ、本当なのか…?」

どうやら借金を帳消しにするといった内容の誓約書らしい。

「嘘ついてどないすんねん」

ミアハ様はその書類の端から端まで読んでいるようだった。

そして、大きく溜め息をついた後。

カウンターに手をついて脱力した。

「さて、ミアハ。この対価に何を差し出す?」

「………ああ。そういう事か。流石は悪神ロキ。抜かりないな」

対価……つまりロキの狙いは………。

「ん。私たちに差し出せる物はこの新薬しかない」

「せや。それでええ」

ナァーザさんが差し出した試験管をリヴェリアさんが受けとる。

「それはデュアルポーション。体力と魔力を同時に回復できる」

「ほう、そらすごいな」

ロキはリヴェリアさんの手から試験管を抜く。

ちゃぽちゃぽ揺れるデュアルポーション。

「ナァーザちゃん。これ原価幾ら?」

「ま、まだ試作段階だからわかりま、せん」

ナァーザさんが答えると、ロキは何やら考えだした。

「ふーん………二倍…三は無理か…うん…」

「え?」

「量産体制が整うたら原価の二倍で買い取るわ。せやからウチのファミリアに優先的に卸してほしい」

ロキがニタニタと笑いながらミアハ様とナァーザさんを見つめる。

「ああ。約束しよう。直ぐに量産体制を整え、ロキファミリアに優先的に卸すと」

「決まりやな」

どうやら僕らは、ロキの掌の上で弄ばれていたらしい。


帰り際にナァーザさんにお礼を言われた。

「今回の件、ロキファミリアだけじゃなくて私たちにも利がある取引だった。
きっとこの結果を持ってきたのはベル」

「いえ、所詮僕はロキの操り人形ですよ」

「んーん。ベルが居たからこそ。だからありがと、幸運の兎さん」

ぽふぽふ、と僕の頭を撫でてナァーザさんは店に戻っていった。
 
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