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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第45話 ただいま故郷

――side震離――

 夢を見た。遠い思い出の日々の夢を。大切なんだけど、嬉しいと悲しいが入り混じった思い出。

 縋ってた人に捨てられて、泣いて泣いて、泣きじゃくって、悲しくてどうしようもなかったあの日を。私の価値なんて無いんだって勝手に思い込んで。それで泣いて、死にたくなってた。

 その事を知ったあの人は――

『苦しかったら側に居るから、悲しかったら俺も一緒に泣くから。自分に価値が無いって言わないで……そんなこと言わないでくれよ』

 当時5歳かそこらの男の子の言葉。

 だけど、私は確かに見た。この人の内に燃えるものを。微かにだけど、確かに燃える、熱く滾る炎を。

 ―――

「……んん? なんだ……やっぱり夢だ」

 ふぁーっとあくびを一つ。ぐいーっと両手を上に伸ばして背伸びをして、と。

「もう朝かー。早」

 もう少し横になりたいなーという誘惑を断ち切って、ベッドから抜け出して。洗面台へ向かう途中に。ケトルに水が入ってるのを確認してスイッチをオン。お湯を沸かしながら顔を洗って、歯を磨いて顔を洗って、身だしなみを簡単に整えて……よし。
 戻る途中にマグカップを2つ手にとって、カフェモカと、カフェラテのスティックを一本ずつ手にとってカップに入れる。モカの方には追加でシロップを入れる。そして、ケトルがちょうど沸いたので、お湯を注いで備え付けの机の上に置いてっと。

 くるっとベットの上段を見上げる。現在の時刻は5時半。今日はなのはさん……もといスターズが居ないので朝練は無し。午後の予定は分からないけどそれでも昨日とその前休みだったライトニングの皆は今日はお仕事……なんだけど。

「かーなーでーちゃん(・・・)? あーさー」

「……」

 モゾモゾと布団が動いてるのが分かるけど……今日も起きる気無いなこりゃ。仕方ないからベッドの上に上がりまして、芋虫みたいに丸まってる奏を揺さぶって。

「ほーら、朝ですよー。モカも入れてるんだから早く起きるー」

「……ゃー」

 子供のような声で起きようとしない奏さん。まぁ、何時もの事なんだけどね。多分フェイトさんの実家に泊まった日は意地でも起きないといけないって気合い入れてたろうし、キャロも居ただろうから、変な所は見せたくなかっただろうしねー。

 幼馴染の中で奏だけは昔から朝が弱い。すこぶる弱い。勿論、出動とか、緊急事態になったら流石に寝ていられないから直ぐに起きる。
 けど、普段はこうだ。何時もの欠片すらないほど子供っぽく駄々をこねる。
 奏のお母さんも毎朝苦労したって言ってたし、私も奏と同じ部屋になってからは毎朝こうして起こしてる。幼馴染は皆知ってるけど、他の人にまで知られたくないだろうしねー。

 それから10分ほど格闘をして。ようやく起きたので、椅子までいくように伝えて、入れておいたラテを先に頂く。今日は少し掛かったせいで若干ぬるいけど、ま、全然飲めるからいいんだけどね。
 のっそりと起きて座ったと思えばモカの入ったカップを一口。

「……苦ぃ」

「シロップ入りのモカが苦いわけないでしょ、ほらほら早く顔洗って、歯を磨いて。明日の朝は私居ないんだから、しっかりしないと」

「……うん、かおあらってくる」

 コトリとカップを机において、洗面台へ向かったのを確認して。

 昨日の晩にライトングの皆が帰ってきた……んだけど、響とフェイトさんの姿が見えず、話を聞いたらなんと、響の方は有給を使って一日延長してた模様。事情を聞いたら母さんに逢いに行くとの事。その意味がわかるから皆了承したみたい。はやてさんもしっかり許可してるんだなーと関心……って言ったら失礼か。だから、流石だなーとか考えてた。
 フェイトさんは、何やら新しい転移ポート先の調査、下見をするために私達の故郷に行くとのことだけど……一つ問題が。
 響はそんな事知らなかったので、先にタクシー乗って行ったらしい。エリオやキャロもその事は聞いてたから普通に見送って、多分フェイトさんにも事前に言ってたんだろうけど、すれ違ったらしい。
 
 ……今頃小言とか言われてなきゃいいけど。

 しかし、なのはさんの動向の件、ノリと勢いでOK出したけど、割と楽しみ。だってまたなのはさんの実家のお店に行けるかもしれない。ケーキとシュークリームすっごくおいしかったしね! 話を聞いたらコーヒーも美味しいらしい。今度こそ飲もうっと。

 いやー、それにしても楽しみだなぁって。昨日の晩御飯の時もヴィヴィちゃんが凄くはしゃいでたなぁって。ずっと流に楽しみだねって言ってたし。
 スバル達3人も昨日の晩の内に出かけてった、だから食堂のスタッフさんが焦ってたなぁ。何時も食べる人が居ないから作りすぎたーって。エリオもスバルも居なかったもんね……。
 スバル達もお墓参りがてら三人で色々回ったりするらしいし。次あったら色々聞かないとねー。

 カップをと取って、ラテを一口ごくりと飲んで……。
 さて、なんで今日はあんな夢を見たんだろうか? あんまりいい思い出ってわけじゃないけど、なんというか……言い表せない感じ。
 我ながら響が居なくて寂しがってるわけもないし……。寧ろ……いや、やめよう。今日はせっかくのお休みだ、辛気臭いことは無しで行こう!

 身だしなみを整えた奏が洗面台から出てきて。キョロキョロとしてるのが気になった。そして。

「あれ、私のモカは今日は無い感じ?」

「苦いって言いながら飲んでたよ」

 ……奏一人で起きれるのでしょうか?


――side響――

 朝一番だって言うのに、蝉の鳴き声が凄まじく煩い。まだ朝だと言っても、既に日は上がってるし、気温も高い。もう9月なのに、なんでこうも暑いのか……。
 地球……ってか、日本とミッドと暦がほぼ一緒だからなー。季節の時期が多少ズレてたら良かったんだけど、まぁしゃーない。

 昨日の晩。事前に伝えてたとは言え、エリオとキャロと別れる時ちょっとだけ申し訳なかった。だって俺だけ休みを延長するわけだしね。2人からもいってらっしゃいって声かけられたけど……何かお土産勝っていかないとなーと。
 で、エイミィさんが俺らの故郷まで送るよって言われたけど、流石にそれは申し訳ないと、遠慮して、自前のお金でタクシーで帰ってきた。お金は余分にあるからね! 時刻的に結構ギリギリだったから嫌な顔されたけど色つけたら笑ってくれたし……まぁいいかなと。
 でも、夜になってついた地元。流石に帰ってきてるのに、挨拶の一つもないとか失礼だと思い、震離の実家へと立ち寄るも留守。しかもポストに新聞が刺さってる所を見ると暫く帰ってないみたいだった。
 次に優夜の実家の着物店へ足を運ぶも、出入り口に張ってあった紙を見て絶句。暫く旅行へ参ります、と短く一言だけ書いてあった。

 あんまりじゃないかとか思うけど、色々ブラブラしてるだけでもちょっと楽しかった。久しぶりに踏んだ地元の土地は昔っからか何一つ変わってない。ちょっと古びた駅舎、そこから見える山の中腹には今は咲いていない大きな桜の木が見える。

 懐かしいなぁと思いながら、実家へ帰る。林の中にひっそりと佇む隠れ家のような2階建ての小さな宿風の家。懐から鍵を取り出して、玄関の引き戸の鍵を開けて、ガラガラと開けて。

「ただいま」

 誰もいないから返事は無い。だけど、それでも家に帰ると言いたくなる言葉だ。玄関の電気をつけて、ギシリと音を立てながら廊下を歩く。母さんの寝室まで来て、扉を開けてもう一度、ただいま、と。心の中で言う。母さんの仏壇の前に座って線香に火を灯して、あげて、手を合わせて黙祷。
 ふと、目を開けて仏壇を見れば、最近置いたであろう花が見える。恐らく優夜の両親だと思う。俺がミッドへ旅立つ時、この家の管理をかって出てくれて、それ以来ずっとお願いしてる。一度迷惑料を払おうとしたら凄く叱られた。私達がやりたい事だから気にするな、と。
 まぁ、何より偶にここで湧く温泉に浸かるから清算してるから要らないって言われたけどね。

 その後は自分の部屋に入って、布団敷いて、そのまま眠って朝起きて、そして……。

「……さ、2年位ですかね。お久しぶりです。ね、お母さん」 

 俺は今母さんの墓前まで来てる。山の中の人気の少ない場所。楠舞家の土地と書かれてるこの場所に母さんの墓はある。

 ただ、その墓は2つあって、一つは緋凰家の墓。もう一つは望月家の墓と書いてある。

 うちの母さんはどうやら国籍とかいろんなものが無かったらしい。だからなのか正規の場所に墓は立てれなかったらしく、楠舞……煌の爺さんから、この部分の土地を譲り受けて死んだらここに入るつもりで居たらしい。望月のじーさんも、俺が4歳の頃になくなって、ここに入った。身よりも何もないならここに入るって言って聞かなかったらしい。
 そして、7年前母さんが亡くなってからはここには2人常にいる。

「母さんも、じーさんも悪いな。線香位しか持って来れなかった」

 一本ずつ線香を灯して、それぞれの墓前に上げて。2人の間で手を合わせる。

「母さん、じーさん。積もる話があるんだ。だから、聞いてくれよ」

 そこに母さんとじーさんが居る。そう願いながら墓前の前に胡座をかいて座る。

 そして、少しずつ話す。まずは来れなかったことを謝って、色んな事が合った事を。騙し討にあって捕まった事。階級を剥奪された事、申し訳なくて、情けなくなって自殺を図ろうとした事。辛かったことを始めに話した。
 次に六課へ行った事を、昔俺と戦った騎士様が……シグナムさんがいた事を、そこでまた幼馴染が揃った事を、俺より年下で才能溢れるティアや、スバル、エリオにキャロ、そして流の話を。
 最後に、ガキの頃、じーさんが生きてた頃に家を訪ねたあのシスターの話をした。気がつけば日は高く登っていたらしく、木々の間から見える太陽は真上に来ていた。

「……花霞。今何時?」

『現時刻は11時12分です。沢山お話されてましたね主?』

「……あぁ、2年も来てなかったからな。沢山話すことがある、今だって端折ってたしな」

『なるほど』

 傍から見れば怪しさ満点の行動だけど、ここならば誰か入ってくることは無いから安心だ。

 最後に線香をもう一度灯す……前に。

「……母さんとじーさんの墓前だ。手荒な真似はしたくない。何しに来た?」

 懐に入れてた花霞を手にとり、後方に居る人物に聞こえるように言う。沈黙が続き、大きなため息が漏れたのが聞こえたと同時に、パキンと小枝か、石をふむ音が聞こえたと同時に花霞の刀身を脇に刺しながら振り返る。

「なんでここに居る? マリ・プマーフ?」

「……」

 白い肌に赤みがかった金髪。そして、特徴的な赤い瞳。それを隠すようにメガネを掛けて、派手過ぎもしない服装を纏ってる。いつか見たバリアジャケットの印象とは打って変わって大人しそうに見える。

 だが。

 ピリピリと肌が痺れるようなプレッシャーを感じる。あの時の比にならないレベルで。未だ口を開かない、それどころか少し俯いてるようにも見える。

 そして。

「ここだったんだね、2人のお墓は」

 プレッシャーが途切れたと同時に、目の前の人の瞳から涙の様に血が溢れたのが見えて。
 
「……あの、大丈夫ですか?」

 突然ポロポロと血涙を流す人に思わず声を掛けてしまった。当の本人は懐からハンカチを取り出して涙を……血涙を拭ってる。
 血のように濃ゆいのに、血の跡が残らないのは、涙が赤く見えてるのか、ハンカチがすごいのかどっちかわからない。そして、少し落ち着いた後。

「ごめんなさい。線香あげてもいいかしら?」

 頭を下げたと思ったら線香を要求。少し考えた後……。

「……どうぞ」

 火をつけて、線香に火を灯す。

「……ありがとう」

 それを渡すと、母さんとじーさんの墓前にそれぞれ線香をあげて、手を合わせ。

「……やっと来れた。遅くなってしまったね」

「……」

 黙祷を捧げながら、静かに呟くのを少し下がった場所で聞く。

 一分ほどしてようやく合掌を解いて顔を上げた。

「礼を言うよ。ありがとうね、響」

 寂しそうに笑うこの人の顔を見て、毒気が抜かれる。ついさっきまでプレッシャー当てといてこれだもんなぁ。さて。

「……どういう関係で? あんた昔家に来たろ?」

「あら、覚えてたのね。懐かしいわ」

 満足そうに顔をほころばせるけど……やっぱりこの人昔きてた人かよ……。大体なんでここに居るんだよとか、なんでミッドに居るはずの人が地球にとか、なんであんな威力を叩き出せたのかとか、聞きたいことは沢山ある。だけど、その前に。

「……線香と、墓の場所を教えてやったんだ、何か教えてくれ」

「そうね。2人が眠る場所と、線香の分だから、3つまでいいわよ。ただし答えられるものだけね。私も約束は破りたくないし」

 微笑を浮かべてこの人は言う。3つって少ないな……。ならば。

「……あんたと母さん、そしてじーさんの関係で1つ。何故流と震離を助けてくれたので2つ。後はあんたは何がしたい、これで3つだ」

「……あら。てっきりお父さんの事聞いたり、私と一緒に居た人の事を聞いてくるかと思ったけど。まぁいいわ」

 少し考えるように、顎に手を当てる。その間に。

(……花霞。これ撮れてる?)

(申し訳ないですが、取れておりません。そもそも声しか聞こえていないです、しかもノイズ混じりで)

(……そうか、ありがとう。いつでも展開できるようにしててくれ)

(了)

 懐に忍ばせてる花霞との念話を切って、眉間に皺が寄るのが分かった。

「……サービスね。私人じゃないの。化物なの」

「……」

 まぁ、なんとなくとは言わんけど、結界に穴開けた時も左腕吹っ飛んだと思ってたら引っ付いてましたもんね。何したかは分からないけど、一般の人ではないのは分かってたけど。

「私と……琴歌、そしてフォルモント……望月か。私達昔ベルカで一緒に戦ったの。それだけよ」

 ……うん?

「……はぃ?」

「何言ってるのって顔ね。無理も無いわ。だけど響君よく考えなさい。
 あの子は特に隠すつもりもなかったはずだから、君は知ってるはず。闇の書の名前が公開される前に夜天の魔導書だという事を知っていたこと。
 そして、あの子から教わった魔法はベルカ式。今時は古代ベルカ式って呼ばれる物。それが証拠」

 ……いやいやいやいや。

「タイムトラベル? でもしたってか? アホらしい。古代ベルカ式なら本人の適正と術式が噛み合えば今でも覚えることが出来るだろう」

 冗談に付き合って少し笑う……でも、確かに心当たりは沢山ある。母さんが現代の魔道士なら、奏に教える術式はミッド式を教えたはず、それなのに……これしか知らないからと、古代ベルカ式でとりあえず練習させてた。

「これで一つ。さて、次は……流とシンリさんを助けた理由ね。流はちゃんと理由があった。体を奪われる前に抑えただけ。
 シンリさんは目の前で死に掛けてたから救った。目の前に死に掛けてる命を無視するほど私は人道を捨てては居ない」

 ハッキリと言い切った。だが少し待て。流に何かあるのは予想してた。だが、震離が死に掛けてたというのはどういう……。睨むように視線を向けると、これで二つ目、と静かに言い放った。恐らくこれを聞いてしまったら3つ目になってしまうだろう。だけど……。

「じゃ、3つめ私が何をしたいかって話だね、私は――」

「待った」

 ピタリと口の動きが止まった。ゆっくり閉じて、何か? と視線で訴えてくる。目的を聞き出したい、だけど……。震離が死に掛けてたと言うのが引っかかる。だが……。

「……もう一つサービスで、シンリさんの事。あとで教えてあげるよ、これでいい?」

 困ったように眉を八の字にしながら笑みを浮かべるのを見て、遊ばれてるのかなと疑念を持ってしまう。その問いに静かに傾いて応える。

「じゃあ続き。私はね別に危害を加えようって気はない。だけどね、聖王の……あの時代の負の遺産と、最後の聖王と、その母親が蘇ってしまった以上。これらの破壊を目的としている。もっと言えばね。私達の最終目的は聖王のゆりかごを破壊する、それだけよ」

 ……まーたとんでもないこと言い出しやがったよ。聖王のゆりかごって……あんなん訓練校の歴史の教科書でしか見たことねーよ。それに、聖王が蘇った? じゃあその人達は何処に? 蘇ったってことは恐らく最後の姿のまま? それとも全盛期? ダメだ、わからん。日本語ってむずいわー。

「……それ以上は教えてもらえない?」

「ダメだねー、これ以上はダメだね」

 からかわれてるのかって思うほど、くすくす笑われる。何だこの人本当に。仕方ない、この3つの情報忘れないようにしないと……。

「じゃあ最後の質問。震離が死に掛けたって。アイツの説明ではあれは痛みを再現した幻術だと説明があった。実際怪我はしてなかったしな。それでもか?」

 そう言うと、それまで愛想笑いを浮かべてた顔は、いつしか真剣みの溢れた顔に代わって。

「えぇ、あの映像に合った通りの怪我。
 ただ、それは軽いもの(・・・・)だった、一番まずかったのが、あの子は爆発的な加速力を得るために、内部で魔力を圧縮、瞬間的に解放、爆発させて音速を超えた。
 それだけでなく、インテリジェンスデバイスでも処理が追いつかない術式を一人で起動、制御した関係で廃人になる恐れがあった」
 
 な!?

「馬鹿な!? 音速を超える術式なんざ有る訳無いだろうが! 現在の術式で、ちょっと強化した程度で、生身で人が音速を超えれば耐えきれずミンチになるのが当たり前だろうが!」

 思わず怒鳴ってしまう。あり得るわけ無いだろうが、音を超えるなんざ……。

「……現に彼女の中にはそれをどうにか出来る術が合った。だからこそ行ったはずだけど? まぁ、信じるか信じないかは君次第よ。だけど、あの子の頑張りがあったから私は流を救うことが出来た。それは確かよ」

 絶句……、いや、腹立たしくて悲しいんだ。あの馬鹿、なんでそんな大事なことを教えてくれなかったんだ。

「……なんで教えてくれなかったのか、それは私も分からないけど。何より私がシンリさんを信じたのはね、そんなになってでも流を救おうとした事。
 現にあの時流の体に入り込んだ奴は厄介なやつだった。そしてあの体。この2つが合わさって恐ろしい事になっていたかもしれないの。それを食い止めてくれたことに私は深く感謝している」

 真剣な面持ちでコチラを……いや、睨みつけるように見ている……だから気づく、あの時の震離が本当に危なかったこと。同時に流の体を奪われた場合、下手をすると俺達では抑えられなかった可能性が有ることを。

 色々言いたいことは有る。聞きたいことも有る。答えてくれなくても態度で察することは出来るかもしれないから。でも。

「……あの2人を助けてくれてありがとうございます」

 ビシっと頭を下げて、あの時言えなかった言葉を言う。そして、顔をあげると、ポカンとした後。クスクスと笑いだして。

「そう言われると……悪い気はしないわ。それじゃあね響。また会いましょう」

 一瞬瞬きをした瞬間に、目の前からあの人が消えていた。

 ガシガシと頭を掻いて、適当に落ちてる石を蹴飛ばして。このむしゃくしゃする気持ちを落ちかせようとするけど、ダメだ、イライラする。

 深くため息を吐いて。少し整理して……

 ……。

 何一つろくな情報がねぇ。全部真実とは限らないし、そもそも人じゃないっていうのが1つ。2つ、母さんとじーさんと、あの人は古代ベルカ時代で共闘。3つ流を救ったのは理由があったけど、震離は死に掛けてたから救った。4つ大昔の聖王が蘇って、聖王のゆりかごを破壊するのが目的。5つ、震離の死に掛けてた理由が凄まじい件……。

 どれも信憑性がねーなって。1つ目はなんとなくわかった。2つ目は……よくわからん。3つ目はやっぱり流関係でこっちもさっぱり。4つ目例の予言に関わるかもしれんけど、もしかして予言にあった死せる王って聖王の事かな? でも女王は滅するって言ってたし、こっちもわかんね。
 そして、5つ目は……。正直信じたくない。震離の性格は理解してる……つもりだ。

 でも、本当に死に掛けてたとしたら……。

 ゾクリと悪寒が走る。考えるのはよそう。

「……何にせよ帰るか。帰って簡単に母さんの部屋を調べて、そこから海鳴目指そう」

『えぇ、そうしましょう』

 離れる前に、もう一度2人の墓前の前で合掌。騒がしてごめんなさいという事、そして。

「また来ます。そして、いってきます」

 そう言ってここを離れた。


 ――sideなのは――

 しばらくぶりの海鳴、やっぱりここに来ると心が安らぐ。

 初めての転移ポートの使用にはしゃぐヴィヴィオに、海鳴に来るのは二度目の震離と流。私達は皆で散歩をしながら移動をする予定だ。
 自宅に向かっても、この時間には誰もいないから翠屋で会う約束をしている。

 ただ、徐々に近づいているのがわかっているのか、少しずつ流の挙動が怪しくなってきた。なんというか怯えてるようなそんな感じ。震離はそれに気づいてるみたいで、すっごく良い笑顔だ。しかも逃さないようにしっかりと手を握ってるし。

「流ーどうしたの?」

 私の手を握るヴィヴィオが心配そうに流に声を掛ける。

「へ、あ、いや、あの……大丈夫、うん、大丈夫だよ」

 ニコリとヴィヴィオに笑いかけるけど……流、若干声が震えてるよ……。

 そんなこんなで、翠屋がすぐそこに見える時には。

「……」

 完全に押し黙っちゃった……。流の表情とは対称に震離とヴィヴィオの表情はすっごくニコニコしてる。けど。

「……はっ」

 と突然震離が何かに気づいたみたいで驚いたような表情だ。なんだろうと皆の視線が震離に集まるけれど、直ぐに何事も無かったように。

「あ、ごめんなさい。響がこっち来てたら面白いなーって考えただけですよ」

 ぎこちない笑みを浮かべる。という事は……。

(何か忘れ物でもしたの?)

(へ、あ、いや、本当になんでもないので……大丈夫ですよぉ)

 念話で声を掛けるけど、明らかに何か隠してる。怪しいなぁと思いながらも一度念話を切る。

「ねぇ、なのはママ?」

「なぁに?」

 空いた手で私の服の裾を軽く引っ張るヴィヴィオの顔を見ると、不思議そうな表情。どうしたんだろうと考えてると。

「なのはママの、ママとパパ。なんて呼んだらいいの?」

「……あぁーそっかぁ……」

 気まずそうに流と震離の視線が泳いだのが見える。あ、もしかして震離が気にかけてるのってこれの事かな?
 
 フフフ、でもね震離に流。このなのはさんには秘策が有るのです。
 なぜなら、その問題は既に私のお兄ちゃんと忍さん、そして雫ちゃんのやり取りを知ってる私に死角はないんだよ。

「高町桃子が私のお母さん。士郎がお父さん。だから、桃子ママと士郎パパで良いと思うよ?」

「良いの?」

 コテンと首をかしげるヴィヴィオを撫でて、抱き上げて。

「良いよー。きっとお母さんもお父さんも喜ぶよー」

 ぎゅーっと抱きしめる。耳元でキャッキャと喜ぶヴィヴィオの声を聞きいて、私も嬉しくなっちゃう。
 ふと、流の表情が見えて、気にかかった。何処かで見たことある表情だったけど……なんだろう、思い出せない。

 何処で見たかなーと思っていると。

「あ、なのはじゃない。おかえりー」

「あ、お姉ちゃんただいま」

 お姉ちゃんの顔を見てほっとする。ここでやっと思ったんだ、帰ってきたんだなぁって。

「やっほー震離ー」

「やっほーみゆ姉さん」

 ……あれ?

 ――――

「えー、お兄ちゃんと忍さん居ないんだ」

「そうは言っても、忍さんの実家に帰ってるだけだ。夜にはまた来るって言ってたしな」

 カウンター席でコーヒーを飲みながら。お父さんとお兄ちゃん不在の理由を聞いてる。その隣で……。

「ん~甘くて美味しい~」

「そうか~桃子に比べたら上手く出来なったけど、美味しいか~」

 ヴィヴィオがお父さん作のキャラメルミルクを美味しそうに飲んでる。私が作るのは少し甘めの、お父さんが作るのはキャラメルが強めのビター寄り……なんだけど、今回はヴィヴィオに合わせて甘いのを作ってくれたみたい。
 と言うかお父さん完全にヴィヴィオにデレデレだし……。でも、今日は私達が帰ってくるからって、臨時閉店までしてくれた……んだけど。

「……あの2人……いや、3人が暴走しなければなぁ」

「……うぅ、ダメだよって言ってたんだけどね」

 この場に流と震離、そして、お母さんとお姉ちゃんは居ない。なんでかというと。

「前に来たときよりも髪が伸びてて驚いたよ」

「……うん、色々合ってね」

 流石にこの前の事件のことは言えない……んだけど、それよりも。

「ねぇ、お姉ちゃんと震離が連絡取ってたって本当?」

「あぁ、流石になのはの事は遠慮して教えてなかったみたいだが、割と連絡取ってたみたいでな、よく話してくれたよ」

「あ、あはは」

 これには私も苦笑い。だけど、本当に驚いた。以前会った時とは違って、今回は最初から震離とお姉ちゃんは何年来の友人みたいに仲良くしてたから驚いちゃった。 
 
 だけど……。

「……あれが無ければなぁ」

「……そうだな」

 ガクリと二人共一緒に項垂れる。不思議そうに私達を見上げるヴィヴィオが眩しく見えちゃう。

 だって。

「流君……大丈夫だから、ね?」

「ごめんね~大丈夫だから」

「あ、あはは」

「……」

 ちらりと視線をベンチ席に移せば、震離を盾にするように奥に座って、死んだ目をしながらカタカタと震えてる流の姿が。しかも向かいに座るお母さんとお姉ちゃんとも目を合わせない……というか、怯えて合わせられないみたいだし。
 ヴィヴィオの前ではなんとか抑えてたみたいだけど、ヴィヴィオの見えない位置では完全に怯えてるというかなんというか……。なんか申し訳なってくる。まぁ、それだけ前回の……なんというかあの件が尾を引いてるみたい。まるで、借りてきた猫みたいだよ

 さて、首に掛けたレイジングハートを手にとって。モニターを起動させて。

「お父さん。ちょっと見てもらいたいものが有るんだけど? レイジングハート、お願い」

「お、それは……響君とフェイトちゃんの……試合か?」

「うん、それでね。どう思うか見てほしくて」

 最初から響とフェイトちゃんの模擬戦を見せる。初めは魔法ってすごいんだなって呟いてたけど、響の動きを見て直ぐに目つきが変わった。それからは食い入るように試合を見てる。
 そして、フェイトちゃんと響の最後の激突のとき。その抜刀を見せて……響が倒れそうになった所をフェイトちゃんが支えた所で映像を終えた。

 お父さんの方へ顔を向けると、腕を組んで、深く考え込むように瞳を閉じてる。そして、ゆっくりと目を開けて。

「なのは、彼は一体何者なんだ?」

「……本人は流派不明の居合術って言ってた。だけどこれって」

「……あぁ、断言できる。最後に打った一撃は御神流の奥義之壱、虎切だ」

 やっぱりそうなんだね……。だけどどうして響がそれを知っているとかは私も分からない。響が嘘を言っていなければの話だけどね。

「だが、微妙に俺達の使う物とは異なるようにも見える。なのは、もう一度見せてくれ」

「ふぇ? あぁ、うん」

 考え込むように顎に手を当てながら、もう一度映像を見始める。そして。

「ここだ、止めてくれ」

 と、止めた場所は、一度目の激突の後の攻防戦。フェイトちゃんのシールドを上から斬りつけ、その後全方位から斬撃を浴びせてる場面だ。

「これだ。この連続の斬撃。奥義之伍、花菱……だと思うが、それ以上にな。彼は常に神速を使っているようにも見える。現に彼は確かに斬っているが、万が一通っても大事に至らない場所を敢えて斬っているようにも見える」

「……へ」

 思わず変な声が漏れた。確かに六課でこの部分をスローで見て、上手い具合に急所を外してるとは思ってた。だけど……そんな……。
 お父さんからの説明を聞いて、更に絶句した。
 
 御神流奥義之歩法・神速、わかりやすく言うと使用者に常に知覚力強化と、身体能力強化を、極限まで意識集中させることでこれを行う御神流を最強だと証明する奥義の歩法。お兄ちゃんやお姉ちゃんも使えるらしいけど、それでも限度があるって言ってた。それ以外にも。フェイトちゃんのジェットザンバーの後にも。

「……ここだ。斬撃を飛ばしたこれも、恐らくは奥義之参、射抜の応用だろう。爆煙でどの角度からも見えないが突きで貫通力を高めた斬撃を射出している。これが出来るなら彼は居合で斬撃を飛ばすことも可能だろうな」

 ……斬撃を飛ばすことまでは突き止めてた。本人も言わないからコチラから聞くこともしなかったけど。まさかここまでだとは。しかもお父さんが言うには全ての練度が高い所でバランス良く完成されているとの事。

「……恐らく他の技も名前を知らないだけで、型を知っているかもしれない……だが」

「だが?」

 一瞬考え込むようにうーんと唸って、渋そうな顔をしてから。

「なんというか、ベースは御神流だろう。だが、彼が使うのはどうも空を飛んで戦う為に最適化されてて、俺たちの御神とは別の物にも見える。ぶれてるように見える歩法も足運びに緩急をつけている。
 それ以外にも加速と減速の速度、それらを組み合わせて揺らいで消えたように見せているのは関心した。すさまじいな」

 ちらっと、お姉ちゃんたちの方をみて、ホッとしている。なんでだろうと思って見ていたら。

「……これ、美由紀にも恭也にも見せちゃいけない。恐らく次来た時に、響君が襲われてしまうからな」

「あ、あはは、気をつけます」

 そーっと、レイジングハートを服の内に入れてっと。何にしても響の流派? それに近いものが分かって一安心。ホッとしていると、未だに冴えない表情のお父さん。

「……なぁ、響君は他に技を持っているのか?」

「……うーん、鎧通しも使えるし、ワイヤーを使って捕縛することも出来るよ?」

「そうか、それも使えるなら、きっと暗器も使えるだろうな……あぁ、いや、すまん、言い方が悪かった。他に居合の技を持っているのか?」

 少し考えるけど……心当たりはない。もしかすると見えない場所で使用したことは有るかもしれないけど。

「……ううん、今の所は見たことないかな。どうしたの?」

「なのは、恐らく響君にはもう一段階上が有る。恐らく二刀の居合術を使った技が有るはず……なんだが」

「なんだが?」

 不意にお姉ちゃんの方を見て、懐かしそうに、嬉しそうに微笑んで

「……御神はまだ途絶えていなかったんだな。それが嬉しいんだ」

 ただ、一言そう呟いてた。

 ―――

 その後も色々お父さんから話を聞いて、更に驚いたのは響が使うのは太刀の二刀に対して、御神流は小太刀流派。この時点で既に違うことを伝えられた。更に気になったことを一つ。
 刀の方が響に着いてこられず、本人にあう刀を探さなければいけない……との事。これに対しては現在一本は用意したことを伝えたけれど、それでも全力に耐えきることは無いだろうと断言されちゃった。

 ただ、この時のヴィヴィオも真剣そうに話を聞いてたのはちょっと驚いちゃったなって。
 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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