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英雄伝説~西風の絶剣~

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第62話 リベールの思い出

side:フィー


 やっほー、フィーだよ。わたし達は現在王都グランセルに向かう定期船に乗っているよ、ラッセルの御蔭でリィンの力について少し分かったことがあるから今から教えるね。


 結果的にはラッセルにもあの力が何なのか分からなかった。あの力の中に火属性の七曜の力が感じられたこと、その力の起点がリィンの心臓にあるという事しか分からなかったらしい。


「心臓か……胸に変なアザがあるのは知っていたが、まさかここがあの力を生み出しているなんて思いもしなかったな」
「そのアザって昔からあるの?」
「確かあったはずだ。ですよね団長?」
「ああ、俺がリィンを拾った時からそのアザは存在していた。だから俺にもそのアザが何なのかは分からない」
「そうなると、俺が覚えていない過去に何かあったって事か……」


 リィンは自分の胸にある炎のような形をしたアザを気にしていた。リィンは幼いころに団長に拾われたんだけど、それ以前の記憶をすべて失っていたようなの。


 わたしも昔の事は覚えていないからリィンの気持ちは分かる。もしかしたらその失われた記憶の中にあの力の秘密が隠されていたのかもしれないしね。


「そいつが普通じゃないって言うのは俺も見て分かった。こうなると医療施設を頼るよりそっちの関係者に聞いた方が良いかもしれないな」
「そっちの関係者って?」
「教会さ」


 教会……ゼルリア大陸で広く信仰されている『空の女神エイドス』を奉じる宗教組織『七曜教会』の事だね。でも何で教会の話が出たんだろう?


「七曜教会には色々な行政機関があるがその中に『封聖省』というのがあるんだ。アーティファクトの回収や管理、または表沙汰にできない事件の解決など『裏』の仕事を担当している奴らがいて名を『聖杯騎士団』という」
「聖杯騎士団……」
「更にその中でも特別な力を持った12人の騎士……通称『守護騎士(ドミニオン)』と呼ばれる存在がいる。そいつらもリィンのような言葉では表せない謎の力を持っているらしいからリィンのあの力にも何か知っているかもしれない」


 団長の説明にそんな組織があったんだと驚いた。まあどこの組織も大きくなればそういう事をする組織が必要にはなるよね、だからわたし達猟兵も仕事に困らないし。


「随分と七曜教会について詳しいんだね、団長」
「そのトップが元猟兵でな、俺の知り合いなんだ。性格は難ありだが実力で言えばこの大陸でもトップクラスだ、俺も正面切っては戦いたくねぇ」
「ルトガー殿にそこまで言わせるとは……」


 団長が出来れば戦いたくないなんて言ったのはバルデル・オルランドやアリオス・マクレインといったこの大陸でも最高クラスの実力者ばかり。それに同等として扱われる辺り団長の知り合いである守護騎士のトップはとんでもなく強いんだろうね。


「因みに今言ったことは機密事項だ、誰かに話したりしたら俺達がそいつらに消されかねないから気をつけろよ」
「そんな事をサラっと言わないでよ……それで教会に頼るの?」
「いや、どうしようかな……正直教会っていう組織は面倒くさいからな、最悪リィンの力を危ない物して殺しに来る可能性もある」
「えっ、どうして?」
「教会に仇なしたりその可能性がある奴、またアーティファクトを悪用した奴は守護騎士に殺される事もあるんだ。しかも厄介なのが教会の基準でそれを決めるからこっちが何を言っても聞きやしない」
「そんな……駄目だよ。リィンが殺されるなんて事になったらわたし……」


 
 団長の説明を聞いたわたしはリィンに抱き着いて団長にイヤイヤと首を横に振って見せた。大切な人が殺されてしまうなんて耐えられないもん。
 教会に仇なしそうだから殺す。そんな勝手な理由でリィンを殺されてしまうなんて絶対に嫌だ。


「無論そうなったら西風が総力を挙げて七曜教会と戦うだけだ。まあそうならないようにこれは本当にどうしようもなくなった時の手段にしよう。だからフィー、そんなに悲観的になるな」
「ん……」


 団長にそう言われたわたしは、とりあえず落ち着くことにした。


「まあこの力が何処から来るのかが分かっただけでも収穫はあったさ、慌てずに一歩ずつ前に進んでいこう」
「……そうだね、一歩ずつ歩いていけばいいよね」


 リィンにポンポンと頭を撫でられて気持ちが落ち着いた。そんなわたし達を見て団長やラウラも笑みを浮かべていた。



―――――――――

――――――

―――


「ようやく着いたね」


 空の旅を終えてわたし達はグランセルに戻ってきていた。時刻はお昼になったくらいだね。


「そんじゃ俺は城に戻って昼寝でもしているよ、お前らも夕方までには帰れる準備をしておけよ」
「了解です」
「それじゃあな」


 団長はそう言ってグランセル城に向かった。今日の夕方には帝国に向かうからそれまでどうしていようかな?


「そうだ、ねえリィン。折角だからデートでもしない?ラウラも一緒で良いよね?」
「えっ、いやしかし……」
「リィンに告白したんでしょ?じゃあ遠慮なんて必要ないじゃない」
「……うむ、それもそうだな」


 リィンに告白して吹っ切れたのかラウラはわたしの提案を受け入れた。うんうん、良い感じだね。


「それじゃリィン、いこっか」
「えっ、本当にデートするのか!?」
「嫌なの?」
「いや、告白の返事を保留している女の子二人とデートするのはどうかなって思ったんだけど……」
「それはそれ、これはこれだよ。そんな細かい事は気にしなくてもだいじょーぶ」
「そうだぞリィン、男ならしっかりと女子をエスコートするべきだ」
「ラウラまで……分かったよ。今は楽しんだ方が良いよな」
「うん♪」
「うむ」


 二人でリィンの腕を組んでわたしはウィンクをする、それを見たリィンは顔を真っ赤にして慌てていた。ふふっ、可愛いね。


「ふ、二人とも!?何で腕を組んでいるんだ?」
「告白の返事は待つとは言ったけど、アタックしないとは言っていないよ。リィンに選んでもらえるようにこれからも隙あらばこうしていくから」
「わ、私も負けてはいられないからな……」


 ラウラも顔を赤くしながらもリィンの腕を離そうとはしなかった。


「で、でもさ、周りの目が痛いと言うか……ちょっとこれは……」
「気にしなければいいのではないか?別に悪いことをしているわけではないのだからな」
「寧ろ自慢したら?両手に花だよ」
「自分で言うなよ……まあその通りなんだけど……」


 結局リィンが折れてこのまま街を周ることにした。とはいっても昨日で祭りは楽しんだから3人でのんびりとお散歩をしているくらいだけどね。


「しかし暇だな……昨日ゼノ達へのお土産も買ったし、大体の所は周ったから行くところがないな」
「そなたがくれたこのリボン、とても可愛らしいから貰えた時は嬉しかったよ」
「気に入ってくれたなら良かった。ラウラに似合うと思って買ったから自分のセンスも捨てたものじゃないな」
「リィンは私の事を良く理解してくれているのだな」
「あ、ああ……好敵手だしな……」
「告白したのにそれだけか?」
「えっ!?いやその……」
「ふふっ、冗談さ。今はな」
「あ、あはは……」


 むむっ、ラウラとリィンが良い雰囲気だね。でも負けていられないよ。


 えっ、何を負けてられないって?それはどっちがリィンの正妻になるかの勝負だよ。わたしが正妻になるって言ったらラウラが「わ、私がなるべきだ!」って言ったの。何でもリィンと恋人になったらいずれアルゼイド家に婿養子として嫁ぐことになるのだから私の方が良いだろうってことらしい。


 当然わたしは反論した。そして最終的に先に告白された方が正妻になるという事で話を付けた。だからこうやってリィンにアピールしているの。


「わたしもリィンに首飾りを買ってもらったよ。綺麗でしょ?」
「フィーの銀髪に良く似合っているな」
「ふふん、リィンの贈り物はわたしの方が良い物だもんね」
「むっ、私のリボンだって良い物だ。そなたの首飾りに負けていない」


 むむっとお互いのプレゼントの方が良いと主張し合うわたし達、リィンは目を丸くして驚いていたが慌ててわたし達を止めた。


「お、おいおい二人とも、俺はどっちかに優劣をつけてプレゼントをしたわけじゃないぞ。二人に似合うと思って同じ気持ちで渡したんだ。喧嘩はしないでくれよ」
「でもこれは譲れない」
「うむ、女の戦いだ」
「う、うう……そうだ!二人共、やることがないのなら釣りでもしないか?」
「釣り?」


 リィンの提案にわたしとラウラは首を傾げた。どうして急に釣りがしたいなんて言ったんだろう?


「ああ、最近色々あって趣味の釣りができなかったからやりたかったんだ。もし二人が良ければだけど……」
「ん、わたしも釣りをしてみたいし良いよ」
「釣りか、レグラムにいた頃に何度か嗜んだことがあったな。まあ私は専ら泳ぐ方が好きだったからそこまで腕が良い訳ではないが」
「じゃあ何処かで釣竿をレンタルしてこようか。確かギルドの横に釣公師団があったな、そこに行けば借りれるはずだ」


 釣りかぁ、リィンがしているのを見ていたことは会ったけど実際にやるのは初めてだね。少し楽しみかも。


(ふう、何とか誤魔化せたか。しかしフィーは兎も角ラウラまであんなに積極的になるなんて思いもしなかった。そういえば団長が言っていたな、女の子は男よりも精神的に成長が早いって……俺も早い所返事を決めないとな)



―――――――――

――――――

―――


「よっと。ここでいいかな」


 グランセル城にある船着き場に一角に荷物を下ろすリィン、それに合わせてわたしとラウラも持っていた荷物を地面に置いた。


 これは遊撃士ギルドの横にある釣公師団からレンタルして借りた釣り道具で、一通りの物が揃っている。簡易な椅子を地面に置いてバケツに水を入れた、そして意図に釣り針と餌をつける。


 わたしはミミズをつけようとするが上手くいかないね。あっ、暴れちゃ駄目。


「ん、結構難しいかも……」
「まあ生きた餌を針に付けるのは難しいかもな。こうやるんだよ」


 リィンに手伝ってもらい針にミミズをつけることが出来た。手を触れられたときにちょっとドキッとしちゃったのは内緒。


 そして湖に糸を垂らして待つが一向にヒットが来ない。


「釣れないね……」
「まあ釣りは根気がいるからな」
「でもリィンとラウラはもう2匹も釣ってるじゃん」
「まあそこは経験としか……」


 リィンとラウラはもう2匹釣っているが、わたしは未だにヒットが来ない。


「つまんない」
「おいおい、少しは待ってみろよ。そうすればいつかヒットするからさ」
「む~、でも暇だよ」
「そうは言ってもな……」
「そうだ、暇つぶしにリィンがエステル達と出会った時の事を教えてよ」
「エステルさん達との?」
「わたしと再会する前の事は詳しく聞いていなかったし、丁度時間もあるから教えてほしいな」
「まあ、別に隠す事でもないしいいぞ」


 リィンは顎に手を当てながら話し始めた。


「俺が最初にいたのは翡翠の塔と呼ばれる場所だったんだ。偶然そこに子供たちが迷い込んでそれを追ってきたエステルさん達に発見されたのが最初の出会いだったな」
「翡翠の塔……ロレントの郊外にある塔だね。前に暇つぶしに探検しに行ったけど結構大きな塔だった、屋上からの景色はとても綺麗で面白かった」
「たまに姿が見えないと思ったらそんな事をしていたのか。アイナさんが気が付かなかったからいいものをバレたら俺も怒られていたんだぞ?」
「反省しまーす」
「全く……」


 だってリィンはお仕事ばかりして暇だったんだもん。だから町の子供たちやお店の人たちと仲良くなってよく遊んでいたり外にこっそり冒険しに行ったりしていた。


「それでリィンは発見されてどうしたのだ?」
「ん?ああ、俺を発見してくれたエステルさんとヨシュアさんは偶然にもカシウスさんの子供だったんだ。俺は運よく彼に会う事が出来てフィーを見つけるまでリベールに滞在できるよう根回しをしてくれたんだ」


 ラウラも話に興味があったのかリィンに続きを催促していた。でも偶然カシウスに合えたなんてリィンは相当運が良かったね。もしそうじゃなかったらもっと面倒なことになっていたと思うよ。


「てっきりフィーも一緒にいるのかと思っていたから、いないと言われたときは本当にビビったよ」
「ごめんね、その時わたしは孤児院の方にいたからリィンを心配させちゃった……」
「フィーは悪くないさ。悪いのは俺達をリベールに連れてきた何者なんだからな」
「……そいつについてわたし達は会ったはずなのに記憶に残っていないんだよね?」
「俺もフィーも何も覚えていなかったな」


 そう、わたし達はリベールに来る前に誰かに会っていた。でもその記憶がそこだけ綺麗に消えてしまっていた。


「そなた達をリベールに連れてきた人物か……心当たりはないのか?」
「記憶がないからそれすらも分からないんだ。何か目的があってリベールに連れてきたのか、それとも邪魔だった俺達を何らかの方法でその場から飛ばして偶然リベールに来てしまったのか……考えれば考える程分からなくなるな」


 そもそも人を何処かに飛ばすなんて技術は存在しない。そうなるとわたし達を移動させた力はアーティファクトみたいな得体のしれない物なのかもしれないね。


「どっちにしろそいつの行方は追うつもりだ。何を企んでいるかは知らないが舐められたままで終わる気はないからな」
「ん、団長にも話したしケジメは付けないとね」


 リィンの力について調べるのも大事だけどわたし達をリベールに移動させた謎の人物を探すのも忘れてはならない。
 このまま放置していればまたわたし達に何かをしてくるかもしれないし、何よりやられっぱなしは性に合わない。


「まあそいつの話は今はいいだろう。えっとどこまで話したかな?」
「カシウスと会ったって所までだね」
「ああそうだったな。それから俺はロレントの遊撃士ギルドの地下室を借りて生活していたんだ、まあジッとしているのは暇だったから掃除とか書類整理など雑用を手伝っていたよ」
「リィンは関係者ではないのに書類とかを見ることが出来たのか?」
「あくまで依頼の書かれた紙を掲示板に張ったりしただけさ、重要な書類はアイナさんしか触れなかったよ。まあそれでも本当はいけないんだけど魔獣が活発化した影響もあってかなり忙しかったんだ。人手が足りないからそうなってしまったみたいだね」


 リィンの話だとその頃に魔獣の動きが活発になって依頼が殺到していたみたい。シェラザードも休む暇もなくお仕事をしていたって聞いて、わたしはもし自分が同じ立場だったらやってられないなと思った。


「そういえばレグラムにも遊撃士ギルドはあるが、やはり人手不足で困っていると聞いたことがあるな」
「ああ、実際遊撃士って数も少ないみたいなんだ。仕事も物探しとかアイテム調達など雑用がメインで地味だし魔獣退治も危険が伴うからな。子供はよく遊撃士に憧れているみたいだけど大抵は途中で諦めてしまう子が多いみたいだな。俺もアイナさんやシェラザードさんと飲みに行ってシェラザードさんから愚痴を聞いたよ」
「遊撃士も大変なんだな……」


 まあ憧れだったお仕事が地味な事ばかりだったら嫌になってしまう子もいるよね。でもわたしとしてはアイナ達と飲みに行ったって事のほうが気になるね。


「リィン、アイナやシェラザードにエッチなことしてないよね?」
「はあ!?なんでそんな話になるんだよ!?」
「だって酔ったシェラザードって結構大胆なことするし……してないよね?」
「応、勿論していないさ」
「……本当に?」
「……まれに酔ったシェラザードさんに顔に胸を当てられたりしました」
「リィン、さいてー」
「そなたという男は……」
「しょ、しょうがないだろう!?酔った相手に絡まれたんだし、力ずくで逃げたら怪我をさせてしまうかもしれないじゃないか!」
「でもさ、ぶっちゃけ嬉しかったんでしょ?」
「……はい」
「不潔」
「度し難いな」


 わたしとラウラの冷たい視線にリィンはたじろいでいた。ふん、おっぱい好きなリィンなんて嫌いだよ。


「リィンのおっぱい好きめ」
「ぐぅ……」
「まあリィンも男なのだ、あまり責めてやるのも可哀想だろう」
「ラウラ……」
「だがあまりにふしだらなのも問題だな。今度父上と模擬戦をしてみると良い、きっと精神的に成長できると思うぞ」
「えっ……?」


 ラウラの助けにリィンが歓喜の声を上げたが、次の発言を聞いて固まってしまった。


「それは良いアイデアだね、光の剣匠と一対一で戦えば煩悩も消えるだろうしね」
「うむ、リィンが私達をイヤらしい視線で見ているから何とかしてほしいと言えば父上も張り切ってくれるだろう」
「ラウラッ!?」


 うわー、それはヴィクターも張り切るだろうね。リィンからすれば死刑宣告のようなものだけど。


「ま、まあその話は置いておいて続きを話そうか。遊撃士も人手不足で大変だったんだけどそこに期待の新人であるエステルさん達が活動を始めたんだ」
「誤魔化した」
「誤魔化したな」


 話題をすり替えたリィンだけど、これ以上は可愛そうなのでスルーした。


「二人は依頼をこなしていったんだけどそこでナイアルさんやドロシーさん、それにアルバ教授に出会ったんだ」
「アルバ教授……」
「あっ……」


 その名前を聞いたわたしは、また得体の知れない悪寒に襲われた。リィンはしまったという表情をしながら手を握ってくれた。


「大丈夫か、フィー?」
「……ん、もう大丈夫」


 リィンに手を握ってもらうと落ち着くことが出来た。


「アルバ教授とはアリーナで出会った考古学者の方だったな。フィーはあの人が怖いのか?」
「ん、良く分からないけど怖いの……」
「俺も警戒していたが結局怪しい所は見つからなかったな。もうこの街にはいないようだし結局それが何だったのか分からなかったが」
「ふむ、フィーが得体のしれない恐怖を感じる相手か……私は何も感じなかったがフィーにしか分からないものがその人物にはあったのだろうな」
「ああ、今思えばリベールの各地に行ってもやたら出会っていたし何だか怪しい人物ではあったな」


 アルバ教授が何者なのかは分からないが、今度会ったら様子を探った方が良いのかもしれない。もしかしたら今回の事件に何か関係があるかもしれないからだ。
 まあ証拠は無いしわたしが考えすぎなだけかもしれないが……それでも彼からは何か嫌なものを感じてしまう。


「フィーが怖がるからアルバ教授についてはここまでにしよう。その後ロレントで空賊による盗難事件が起きたんだ」
「空賊はアリーナでロランス少尉と戦っていた者達か、帝国でも少し話題になっていたな」
「奴らはロレントで盗みを働いたがエステルさん達が見事に盗まれたものを取り返すことが出来たんだ。そして彼女達は推薦状をもらいボースに向かったのがロレントでの一連だな」
「リィンは一緒に行かなかったの?確かオリビエと一緒に牢屋に捕まったんだよね?」
「俺はその後に用事でボースに向かったんだ。今思えばオリビエさんは俺が西風の一員だと知っていて接触したんだろうな。あの時気を付けていれば……はぁ~……」


 リィンはため息をついて後悔している様子だった。わたしはオリビエの事面白いから嫌いじゃないけど、リィンはいつも何らかの厄介ごとに巻き込まれているから苦手なんだね。


「まあその後はフィーの言う通り色々あって牢屋に入れられたんだよな。偶然エステルさん達が捕まってくれたお蔭でメイベルさんが来てくれたんだけど、そうじゃなかったら今頃どうなっていた事か……」
「運が良かったんだね」


 わたし達は正式な手順で入国したわけじゃないから、そのまま捕まっていたらヤバかったね。でもリィンってこういうトラブルに巻き込まれすぎな気もするな、まあそういう星の下に生まれたんだろうね。


「メイベルさんに助けてもらった俺は、エステルさん達と一緒に行動を共にしたんだ。その時に聞き込みでヴァレリア湖に怪しい奴らがいると聞いたからそこで一泊したんだ。エステルさんと釣りをしたり、オリビエさんやシェラザードの飲みに付き合ったりしたぞ」
「エステルって釣り上手なの?」
「俺より上手いぞ。虫取りも好きだしアウトドアな人だよな」
「ん、趣味もストレガー社のスニーカー集めって聞いたから親近感があるの」
「フィーも好きだもんな」


 エステルはわたしとおマジでストレガー社のスニーカーがお気に入りみたいなの。前もその話で盛り上がったしエステルとは凄く話が合うね。


「それから俺達は空賊の飛行艇を見つけてコッソリ侵入したんだ、そのまま奴らのアジトに連れて行ってもらい一網打尽にしたって訳さ」
「中々大胆な行動に出たな」
「オリビエさんの案でそうしたんだ。何回か危ない時もあったが結果的には上手くいって良かったよ」


 因みに危なかったというのは、オリビエがリィンやヨシュアにちょっかいをかけてエステルが怒ったりしたみたい。本当にオリビエってどんな時も平常運転だよね。


「ボースでの出来事はこのくらいだな。後はフィーが見つかるまでロレントでオリビエさんに引っ掻き回されながら普通に過ごしていただけだ。そういえばフィーはルーアンにいた時に何をしていたんだ?」
「わたし?わたしは孤児院の前で倒れていたのをテレサに見つけてもらったんだ。それからは孤児院で生活しながらリィンの行方を捜していたの」


 あの時は正直不安だった。だって帝国のヘイムダルからいきなりリベールに来ていて、しかもその時リィンは行方不明になっていたからね。


「子供達の面倒を見たり、そこで知り合ったクローゼの通っている学院に遊びに行ったりしてたね。後はルーアンの町で情報収集かな?」
「クローゼさんが王族だったのには本当に驚いたよな」
「そうだね。でもクローゼがお姫様だったとしても彼女はわたしの大事なお友達だから」
「フィーらしいな」


 それからエステル達に出会った事やレイヴンに絡まれたこと、孤児院が火事になったことやリィンに再会できた事など色んな体験を話した。


「孤児院を焼くなど酷いことをするものがいたものだ」
「全くだな、フィーがいなかったらテレサ先生達は焼け死んでいただろう。これを実行した市長も結局は黒装束達に利用されたようだが……」
「でも優しい人たちのお蔭で孤児院を復旧することができるようになったから良かったよね」
「ああ、学園祭で寄付金が集まった時には少し感動したな」
「助け合いか、素晴らしい話だな」


 暗い話になってきたのでわたし達は学園祭について話すことにした。


「屋台も面白かったけど、一番の見どころは劇だったね。男女が役割を別々にしていたのが特徴的だった」
「つまり男性が女性役を、女性が男性役をしたのか?」
「そうだよ。エステルとヨシュアも参加したの」
「ヨシュアさんの姫姿は凄かったな、違和感が全くなかった」
「そなた達の様子を見ていると余程楽しかったのだな。学園祭か、わたしも見てみたかったよ」


 わたしとリィンが劇について話しているとラウラは羨ましそうに呟いた。


「その時はラウラはまだ帝国にいたの?」
「いや、私は各国に武者修行の旅に出ていたんだ。確かその頃はカルバートで山籠もりの修行をしていたな」
「カルバートにも行ったんだ」
「うむ、旅をして色々なところに行くと様々な発見があって面白いものだ」


 ラウラも色んな体験をしているんだね。とってもイキイキとした目でそう話しているんだもん、楽しくてしょうがないんだろうなぁ。


「ツァイスでも色々あったよね。最初はエステル達に届け物をして温泉に入って帰る予定だったのに、最終的にはアガット達がレイストン要塞に行く時まで滞在したんだっけ」
「ああ、ラッセル博士が誘拐されたりアガットさんが命の危機に陥ったりと休む暇もなかったからな」


 あの時はいろんなことが立て続けに起こったからね、大変だったよ。


「まあティータと友達になれたし、温泉も気持ちよかったからプラマイゼロだけど」
「そういえば最初温泉のある旅館に行ったとき、宿を取れなかったんだよな。そうしたらフィーが拗ねねちゃったんだったっけ」
「それは……」
「ふふっ、普段はあまりそういう面を見せないそなたも子供らしい一面もあるのだな」
「む~、二人とも意地悪……」
「ごめんごめん、冗談だよ」


 ぷうと頬を含まらせて二人に抗議すると、微笑ましい物を見るような眼で見られて頭も撫でられた。なんか納得いかない。


「リィンとラウラはわたしを子供扱いしすぎ。もうそんな年じゃない」
「子供扱いはしていないさ。告白を保留にしている俺が言うのもなんだけどフィーは素敵な女性だよ」
「えへへ……」


 リィンてば告白してからちょっとストレートに言うようになったね。嬉しいけどちょっと恥ずかしいかも……


「ツァイスから帰ってきた後、俺達はオリビエさんに誘われてグランセルに向かい、そこでラウラと再会したんだよな」
「あの時はまさかこの国で二人に会えるとは思ってもいなかったがな」
「そうだな、久しぶりに会ったら綺麗になっていたからビックリしたよ」
「そ、そうか?私としてはそんなに変わっていないと思うのだがな……」


 ラウラは髪をイジりながらモジモジとしている、でも顔は嬉しそうにしているね。


「それからラウラと一緒に武術大会に出ることになってジンさんと戦ったんだ、でも見事に負けてしまったな」
「うむ、ジン殿の実力はA級と呼ばれるのにふさわしい物だった。流派は違えど彼もまた私達の先を行く達人だ、いつかあの高みに私達も行けるといいな」
「武を究めた先にある高見か……あのロランス少尉など正にその道の頂点に最も近いと思える人物の一人だろうな」


 リィンからロランスの話が出た瞬間、わたしとラウラの表情が真剣なものになった。


「彼は強かった。オリビエ殿を含めた私達4人でも、リィンの異能の力が暴走しても勝てないくらいに……」
「きっとアイツはまたわたし達の前に立ちふさがってくると思う。その時の為にももっと強くならないとね」
「無論だ。今度は負けはしない、このアルゼイドの剣を必ず届かせて見せようぞ」


 ロランス少尉は何故かわたし達を見逃してくれたが、いずれ何処かでまた出会うような気がするの。何の根拠もないけど……


 今はまだ弱いけどわたしもリィンやラウラと一緒に強くなりたい。そして今度こそ大切なものを守りたいと強く思った。


「楽しかったね、リベールでの思い出……」
「ああ、また来れるといいな」


 この国に来て色んなことがあって色んな人と出会えた。猟兵だから簡単には来れないがまた来たいって思うくらいに素敵な国だった。


「……っておい、フィーの竿揺れているぞ」
「えっ?」


 リィンにそう言われたので竿を見てみる、するとさっきまで何の反応がなかったわたしの持っていた竿が激しく揺れ始めた。

「わわっ……!」
「魚がヒットしたのか?良かったじゃないか」
「リ、リィン……逃げられちゃうよ……!」
「こりゃ大物だな。俺も手伝うよ」
「私も手を貸そう」


 リィンとラウラに協力してもらってリールを巻いていく。


「もう少しだな、頑張れフィー!」
「んんっ……あと少し……」


 徐々に魚との距離が縮まっていく。わたしは必至でリールを巻き続けて、そして……


―――――――――

――――――

―――


 思い出話をしている最中に、わたしの竿に魚がかかってリィンやラウラととても大きな魚を釣り上げたの。それを釣公師団でアイテムと交換してもらいホクホク気分で釣公師団を後にした。


「ふふっ、釣りも楽しいね。こんな大物を釣り上げるなんて期待の新人が現れたって言われたしリィンより釣りの才能があるのかも」
「最初は退屈そうだったのに現金な子だなぁ」
「まあ魚を釣り上げた時こそ釣りの醍醐味とも言えるからな」


 ふーんだ、意地悪なリィンの言う事なんて聞かないもんね。今度からわたしも釣りを趣味にしてみようかな?


「あれ?あそこにいるのってエステルとシェラザード?」
「何か言い争っているようにも見えるな」


 ギルドの前でエステルが慌てた様子でシェラザードに詰め寄っていた。一体何があったのかな?


「シェラ姉!ヨシュアが……ヨシュアがぁ!!」
「分かったから落ち着きなさい!レイストン要塞に向かった先生にも連絡したから!」
「でも……!」


 あの様子だと唯事じゃなさそうだね、少し話を聞いてみよう。


「エステル、どうかしたの?」
「あっ、フィー!」


 エステルに声をかけると彼女は一目散にわたし達も元に来てわたしの手を握る。彼女の手はとても震えていて落ち着きがなかった。


「どうしたの、そんなに慌てて……ほら、落ち着いて深呼吸して!」
「そんなの無理よ!だって……だって……」
「まずは落ち着いて。じゃないと話が出来ないよ」
「ご、ごめんね……あたしったらつい慌てて……力いっぱい握っちゃって痛かったでしょ?本当にごめんね」
「良いよそんなの。それよりもどうしたの?」
「それがね、ヨシュアがいなくなっちゃったのよ」
「ヨシュアが……?」


 わたしはヨシュアがいなくなったと言うエステルの言葉に、言いようの無い不安を感じてしまう。


 でもきっとそれはこの後起こるわたしも経験したことのない、それこそクーデター事件すら霞む大きな問題に直面する前兆だったのかもしれない。


 そう、リベール全土で何かを起こそうとするある組織との因縁の始まりが……




  
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