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魔法が使える世界の刑務所で脱獄とか、防げる訳ないじゃん。

作者:エギナ
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第一部
  第39話 大脱走!

- Side.First Magic Prison -

「……よし、作戦を確認するぞ」
「声が聞こえる範囲に看守の気配無し。おっけー」
「魔法による盗聴も無いぞ。おっけー」

薄暗い檻の中で、額をつき合わせながら、これから決行する作戦の最終確認をする。
現在、シンは作戦を纏めた紙を床に置いている。字はめっちゃくちゃ綺麗。昼に橙条さんの電話を聞いてしまった後に書いたもので、途轍もなく小さな紙に書いてある。房に置いて行ったり、途中で落としたりしたら看守にバレる可能性があるため、確認が終わったら、シンのシャツの袖口に縫い合わせる事にしている。
ハクは就寝時間を過ぎた今、看守が見回りに来る筈なので、声が聞こえる範囲に看守が居ないか確認している。因みに、看守が来た時の対処法は、狸寝入りをしてバレないようにする以外考えていない。
で、俺は声が聞こえる範囲内に盗聴が出来るような魔法が無いかを探している。魔法探しは俺の得意分野だからな。恐らく、マフィアの上級構成員程度なら、どれだけ魔法を隠そうと気付かない事はない。見つけたらしっかりと破壊する。

「イチ、脱獄する」
「「うん」」
「ニ、壁の近くまで移動する」
「「おう」」
「サン、静かに壁を壊す」
「「はい」」
「ヨン、逃げる」
「「よっしゃ行くぞ」」

グレースが何度もピッキングでこの鉄格子を開けたから、俺だって出来るようになった。

「……どうしたの? レンくん」
「や、あのさ……グレースも、居ないんだよなって」

いつも琴葉に突っ掛かって、返り討ちにされていただけだけど、俺達四人の中にはやっぱり欠かせない存在だったから———


「いつも居たからさ……彼奴が足りないだけで、こんなにも世界は暗く見えるんだって」


グレースと琴葉が喧嘩しているのを、三人で遠目に眺めるのが毎日の日課だった。だから、それが無くなっただけで、こんなに生活が味気なくなるなんて、思ってもいなかった。

なんで、彼奴は俺達を騙していたんだ……?
どうして本当のことを言ってくれなかった……?

彼奴の事を信じていたのに。

「レンくん……」
「確かにそうだな。でも、だからこそ、僕達はマフィアのビルに侵入して、彼奴を一発殴りに行くんだろう?」

そうだ。俺達は、これから———

「よし、行くぞ……!」
「うん……! レンくんも、行こう。グレースくんをぶっ飛ばしに、ね!」
「ぶっ飛ばしにって……琴葉を助けに行くのが一番だろ? グレースはついでだ」

扱いが酷い? 知らないな。

俺達は一斉に檻を抜け出して、看守にバレないように、小さな声で叫ぶ。


「「「大脱走の時間だ……‼︎‼︎」」」


◇ ◇ ◇


琴葉も要も居ないこの一舎での脱獄など、朝飯前である。もう夕飯まで食べ終わった後だけど。看守に遭遇する事なく、直ぐに壁の近くまで来る事が出来た。

次は壁に穴を開ける作業。これは俺の担当だ。
先ずは手始めに手が通るくらいの穴を開けてみる。大分前に、グレースが琴葉から盗んだナイフを使って、壁に薄く線を付ける。次に、少しだけナイフを魔法で強化して、静かにナイフを刺し込む。三辺を切ったら、切ったところを押して、外へ繋がる穴を作る。そして、切った石を支えながら最後の辺も切り取ると、上手い具合に正方形の穴が出来た。
この調子で、人が通れる程の穴を作ろう。

と言う事で三分後。

大量の正方形のタイルの様な物を抱え、俺は息絶えていた———

「おーい、レンくーん。起きてー」
「疲れた……死ぬ」
「よく頑張ったな。……だが、本番はここかららしいぞ」

タイルを外へ出してから、自分も外へ出る。ここで壁を魔法で修復して、さっさとここから逃げる計画だったが、そうは行かないらしい。

なぜなら———


「てめぇ等がどんな目的で脱獄したとしても、見過ごす訳には行かねェんだよ。囚人供」


橙条さんが、無限に広がる世界へ行かせまいと、とおせんぼするからだ。


「どうしてだよ‼︎ 俺達は琴葉を助けに行くんだよ! 邪魔すんな‼︎」
「駄目だ。さっきも言ったが、どんな理由をつけたって、囚人の脱獄を見過ごす訳行かねェんだ。黒華は俺達で助ける。だから、囚人供は房の中で大人しくしておけよ」
「看守だけでマフィアに勝てる訳無いだろ‼︎ 看守が何人束になったとしても、相手はマフィアだ。それにマフィアの首領は精神操作だったり、記憶操作の魔法を使うんだ。使い捨てが出来るくらいの覚悟で、少人数で行った方が良い。だから、看守達には無理だ」
「は……?」

昔の記憶を辿る。ずっと疑問に思っていたんだ。

“俺にこの刑務所へ来る前の記憶が無い”事を。

なんで俺だけ琴葉に“レン”と呼ばれているのか、医務室の奥の部屋へ行けるのか、分からなかった。

だけど、今日、琴葉の声を電話越しに聞いた時、ぼんやりとだが、思い出した。


『貴方達被験体供には容赦しません。どんなに苦痛な実験を繰り返されたとしても、頑張って生きてくださいね』


七年前、黒い外套を羽織り、沢山の書類を抱えながらそう言う———

マフィア幹部、黒華琴葉の事を。


「……は、どう言うことだ。なんでマフィアの首領が使う魔法まで知ってンだよ……看守だって掴んでねェ情報だぞ……?」
「俺がマフィアの魔法研究の為の人体実験に使われていたからだ。マフィアに関しての質問なら、基本なんでも答えられるくらい、俺は情報を持っている」
「は……人体、実験……? どう言うことだ」
「答えている暇は無い。早くそこを退いてくれ」

満月の下で、俺達は橙条さんの決断を待った。
ここで断られたら、一生琴葉を助けられない。グレースに怒れない。


第一魔法刑務所に打ち付ける波の音が、やけに大きく聞こえた。

それと同等か、それ以下のか細い声で、橙条さんはぽつりと、震えた声で告げた。


































「駄目だ」



































「———……エクスプロージョンッッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」

目の前で炎が爆裂する。
魔法を放ったのが誰なのか、そしてどのような目的で魔法を放ったのか。俺達にははっきりと分かった。

「レンくん、シンくん! 先に行って‼︎ ボクも絶対に行くからっ!」
「ハク‼︎」
「駄目だ、お前も一緒に……!」


「大丈夫だよ、二人とも。ボク達は出来損ないだから、ここに居るのかもしれないけど、四人一緒なら琴葉ちゃんにだって勝てるから。いつも四人一緒だったから、離れてたって、心はいつも一緒だよ」


そして、二度目の爆裂の直前、俺達はどこか、薄暗い森の中へ転移していた。シンが、転移魔法を使ったからである。

静まり返った緑の中で、俺達は溢れてくる涙を拭った。

 
 

 
後書き
作者は後悔する———。
もっとギャグを増やせばよかった、と。 
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