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人理を守れ、エミヤさん!

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ブラック上司な士郎くん!





 影の国の女王スカサハを味方に出来た。これは充分な成果である。故に『人類愛(フィランソロピー)』の待つ城へ早急に帰還する事にしたのだ。
 随分お早いお帰りですね、マスター。アルジュナのそれは皮肉な台詞だが、表情は苦笑の形である。一ヶ月どころか十日も経たずに帰還したかと思えば、アルジュナに匹敵するサーヴァントを――それも元はケルト側であったスカサハを連れ帰ったのだ。マスターは天運を味方につけているのではないか、そう思ってしまいます。アルジュナの言葉に俺は呆れた。
 天運なんてものがあるなら、どんなに楽か。俺の場合はどう考えても悪運だろう。辞書にある『悪い事をしても報いがなく、意外にも恵まれた強い運』というのではなく、文字通りの『悪』運だ。
 人混みを掻き分けカーターが駆け寄ってくる。その表情には重責から解放されたような安堵の色が滲んでいた。

「BOSS! お帰りなさい!」
「ああ。……ったく、安心を表情に出すな。馬鹿垂れ」

 苦笑してカーターの額を小突いた。照れた風に笑うカーターに、まだまだだなと思う。この調子では当分安心して留守を任せられそうもない。
 ……ん? 何か……難民の数が増えている……? いや報告がないという事は気のせいか……そちらの管轄はエドワルドだ、此処に来ていないという事は気のせいだろう。

「報告はあるか?」
「は。六日前になりますが、サーヴァント・タイプの敵軍が攻めて来ました。数は二百と少数でしたので、アルジュナさんやシータさんの攻撃で短期の内に殲滅されました。そして三日前にケルト戦士五千もまた、お二人に殲滅されました」
「……二百か。アルジュナ、シータ、こっちに。ブリーフィングをする」

 ケルト戦士の方はもういい。なんだ、たったの五千かと――我ながら感覚のぶっ壊れた感想がある程度。
 それよりも気掛かりなのは、サーヴァントだ。
 カーターにエドワルドを呼びに行かせ、兵士にアンドロマケを預ける。俺はアルジュナ、シータ、スカサハ、沖田を連れて城の内部に組み立てた攻城兵器、攻城塔(ベルフリー)を登った。
 アメリカに城はない。キャッスルと名のつくものはあるが、城塞と呼ぶにはお粗末な防備だ。俺達のこの城も例外ではない。ここを攻略するのに対城宝具など不要だ。魔力放出の乗った攻撃か、それなりの怪力技能持ちなら簡単に破壊できてしまう。四方を囲む城壁は気休め程度である。尤もその気休めこそが必要だったわけだが。

 故に見張り台となる攻城塔は欠かせない。周囲を監視しながら、会議が出来るのだから。

 俺はカーターとエドワルドが来るのを曇天を見上げながら待った。風が少し強く、冷たい。気を利かせたスカサハがルーンの結界を張って風を絶ち、微弱な熱を発するアンサズのルーンで温暖化してくれた。
 有りがたいが、本当になんでもありの万能さだ。なんなら城の内部を、外の寒さと切り離してやってもいいぞ等と嘯いている。是非頼みたい。
 カーター達が登ってくると、最上部という最も高い場が暖かい事に目を丸くしていた。

「揃ったな。さて、『人類愛』初となるブリーフィングだ。各自忌憚のない意見を出してくれ」

 そう切り出し、設置した円卓を囲う。ブリテンのそれとは違い、こちらは本当にただの木製の卓だ。椅子に腰掛け、席についた全員を見渡す。
 俺、沖田、カーター、エドワルド、シータ、スカサハ、アルジュナ。僅か七名。内三人はただの人間だ。彼らが頷いたのを見て、一先ず口火を切る。

「まずは俺が留守の間の報告を聞こう。敵襲に関してはカーターから聞いた。アルジュナ、敵サーヴァントの特徴は?」
「全員が女性でした。そしてケルトの雑兵の方がまだ手強いレベルでしたね」
「なるほど。俺も百のサーヴァント・タイプの雑魚を蹴散らしてあるが、そこも一致するな。スカサハ、今まで敢えて聞いていなかったが、ケルトの首魁はメイヴで合っているな?」
「うむ」
「能力は」
「簡潔に纏めて言おう。自身が取り込んだ者の遺伝子から、それを複製して大量の兵隊を生み出せる。この力を聖杯で異常に強化させ、この大陸で暴威を振るっておる。しかし奴自身は強化されていまい。この力と聖杯の組み合わせで、奴の切り札である『二十八の怪物』の枠に魔神柱を押し込んで使役できる。聖杯か奴が健在なら、幾度斃されようとも投入可能ではあるだろう。そしてもう一人の首魁がクー・フーリンだ。こちらは説明無用だろう? 尤も、私は《アレ》よりもまだ上があると睨んでおるがな」
「――という訳だ。アルジュナ、敵サーヴァント・タイプの乱造はメイヴの仕業だ。今は雑魚でも、いずれ途方もない脅威となる可能性がある。侮るなよ」
「無論です」

 スカサハの艶やかな声音。アルジュナの涼しげな応答。霊格の高い英雄の存在感で、粗雑な会議の場に緊迫感が過る。しかし怯懦はない。ただの事実確認、そして打開策を追究する意思だけがある。
 しかしエドワルドは浮かない顔だ。悩みの種があるのだろうか。

「エドワルド、何かあったのか?」
「……は。実は市民……いえ、難民の者達が先日騒ぎを起こしまして」
「……」

 こめかみに静電気が走ったような頭痛がする。やはりあるか、その手の問題は。
 隻眼の視線を向け、続きを促す。

「騒ぎを起こしたのは、アンドロマケの牽いていた馬車の持ち主イーサンと、四日前に受け入れた難民達のリーダーのジョナサンです」
「待て。難民を受け入れたのか?」
「は。BOSSの指示通り……」
「そういう事じゃない。それは真っ先に報告すべき事案だろう。なぜ報告に来なかった」

 目を細める。別段声を荒げた訳でもないのに、エドワルドは顔を真っ青にして口ごもった。

「も……申し訳ございません。穀物の蓄えのチェックをしていて……」
「言い訳をするな。それは部下や、雑用につけたクリストでも出来る仕事だろう。そちらの業務のトップにお前をつけた、トップなら自分のすべき仕事ぐらいは選別しろ。優先順位を間違えるな。エドワルド・シュピッツ、今回は許すが次からは同じミスをするなよ」
「は、ハッ!」

 俺は怒っている訳ではなく、ただ注意しているだけなのだが。そこまで恐縮されると俺が高圧的みたいで気まずくなる。はて、と内心首を傾げていると、隣席の沖田が苦笑して耳打ちしてきた。
 「シロウさん、ご自分にかなり迫力あるの忘れてません?」……おい。別に威圧していた訳じゃないぞ。誤解を招くような言い掛かりはよせ。
 嘆息してバンダナを外すと、なぜかその動きだけでエドワルドは硬直した。……なんか傷つくんだが。

「……続きを」
「さ――最初はただの口論だったようです。なんでもそのジョナサン・ホークウィッツという男、大陸軍の軍人だったらしく……階級は中佐で、最上位の自分がこの集団のトップに立つべきだと。シータさんや、アルジュナさんにも自分の指示に従えと……高圧的な振る舞いをしていました」
「ほう?」

 シータ達を見ると紅蓮の少女は苦笑いをしていた。事実ですと証言がある。
 なるほど、中佐か。俺としてはトップの席は投げ渡してやりたいところだが、流石にそれは無責任極まるだろう。一度助けたなら最後まで責任は持たねばならない。

「真っ先にイーサンが反発し、ジョナサンはそれに武力で応じました。イーサンの顔を張り倒したのです」

 あのイーサンが、か。アイツから俺への印象はそう良いものでもないと思っていたんだが……。

「……。……その場に兵士は?」
「いましたが、即座に対処出来る位置にはおらず、また数も少数でした。敵襲があったからです」

 四日前に受け入れたというと、ケルト戦士五千が攻めてきた前日か。そこからの流れは察した。敵襲の報せに泡を食ったジョナサンとやらが、なんとか切り抜けようとした結果騒ぎが起こったのだろう。下らない虚栄心からトップの座を狙った訳ではなさそうで、ひとまずは安心する。といっても、直接会ったわけではない。案外虚栄心の塊である線も捨てきれなかった。
 五千程度、インドの陣容でどうとでも処理出来てしまうが、有事の際には念には念を入れて防備につけとカーターに指示を出していたのは俺だ。対処が遅れても責められるものではない。責めを負うべきは責任者の俺だろう。

「それで? ジョナサンってのはどうした……いやどうなった?」
「それが……居合わせた難民達に囲まれ、リンチされました」
「……」
「現在は仮設医療施設で寝ています。左脚を骨折してあるようで……」
「分かった。処罰はどうした?」
「は?」
「処罰はどうしたかと聞いている。まさか何もしていない訳ではないだろう?」
「そ、それは……ジョナサン・ホークウィッツ中佐は、リンチされて脚を折られてありますので、罰を与えるのは流石に……」
「誰がそっちの話をした。ジョナサンをリンチした側への罰はどうしたと訊いている」
「えっ? あ……な、何も……」

「――戯けッッッ!!」

 卓に拳を叩きつけ大喝した。怒声を張り上げるやビリビリと攻城塔が震える。エドワルドが椅子に座ったまま腰を抜かした。
 隻眼を見開き、眼力を込め叱責する。あってはならない事だ。見過ごす事は許されない、

「先に仲間に手を出されたからと、一人を相手に多勢で私刑を加えた者達を咎めもしなかったのか?」
「し、しし、しかし、BOSSの指揮権を侵そうとした中佐は、罰されるべきでは……」
「――真性の間抜けか貴様? 確かに軍権を侵そうとする者は罰せられるべきだ。しかし何事にも踏むべき手順というものがある。それを飛ばして一方的に断罪する事はあってはならない。お前や難民達が俺を慕ってくれているのは嬉しいが、忘れるな。俺達は独立した組織ではない。あくまで他に行き場のない者を保護し安全圏に移るまでの団体に過ぎん。大体、俺は正式な軍人でもなんでもないんだぞ。ジョナサンからすればお前達兵士は自分に従って当然だ。それに如何なる事情があれ、一方的な私刑を加えてなんのお咎めもないなどという悪しき前例を作ってどうする? 非常時だからこそ綱紀粛正は徹底しろ。エドワルド、今すぐに私刑に加わった者を集め然るべき罰則を与えろ。合法化される私刑など存在しない。存在させてもいけない。……分かったなら行けッ!」
「は――はッ!」

 エドワルドは転げるようにして立ち上がり、急いで攻城塔から降りていった。それを見送る。
 暫し沈黙の空気が流れる。ふ、とスカサハが笑みを浮かべた。

「……立派に将帥らしく振る舞えておるようだな、マスター」
「茶化すな、スカサハ。こちとら頭が痛いんだ。なんだってここまで俺は神聖視されているんだ……? ジョナサンって奴は正当な立場から、留守の俺からトップの座を代わろうとしただけだろうに」
「それだけマスターは、彼らにとって大きな希望なのでしょう。命を救われた、保護して此処まで連れてきてくれた……彼らはマスターの指導力に心酔して、だからマスターの立場を脅かす存在を受け入れられなかったのだと思います」

 ですよね、カーターさん。シータがそう水を向けると、カーターはなんとも言葉にし難さそうな表情で小さく頷いた。あくまで平静なシータの物言いと、カーターの肯定はそれが事実であると表しているようで、俺は鉛色の吐息を溢した。

「……そこまでか? 俺は当たり前の事をしているだけだぞ……? 出来るからやった、やらなければならないからやった。それだけなんだ」
「マスターはご自身の評価が甘いようですね。その当たり前を実行し、成功させられる者が他にいますか? 彼らの集団心理は当然の帰結として、貴方に依存してしまった。しかしそれは悪い事ではありません。この非常事態に在って、貴方さえ無事なら彼らは希望を見失わないという事なのですから。誇ってください、貴方は偉業を成し遂げている。此処が特異点でさえなければ、マスターは英霊に列されても不思議ではない功績を積んでいます」
「アルジュナ……」

 マハーバーラタの大英雄は秀麗な美貌に柔和な笑みを湛え、素直に賛辞しているようだった。こそばゆい率直なそれに、俺は顔を顰めるしかない。
 英雄なんてガラじゃないってのに……。そんなものに成りたくて、こんな馬鹿げた戦いに飛び込んだ訳ではない。俺が英雄かそうではないかという話ではない。全くナンセンスだ。
 俺は咳払いをして、仕切り直す。論点がズレてしまわないように舵を切り直した。

「……カーター、他に報告は?」
「いえ、何もありません! BOSS!」

 同胞であるエドワルドが叱責された直後ゆえか、妙に緊張している様子のカーターに苦笑を禁じ得ない。

「畏まるな。……では本題に入ろう。俺から提示する議題は三つだ。『防衛線の構築、退路の確保』が一つ。敵に攻められる度にこの城を危険に晒していれば、一度の失敗で全てを失いかねない。これは急務だ」

 異論はないようである。彼らにも挙げたい議題はあるのだろうか。
 余り俺だけが案を出すという場にはしたくないんだが……出来ればカーターも考えていてほしかった。

「『兵站の確保』が二つ目。これも可及的速やかに解決せねばならない。食えねば死ぬ。直接的な脅威である外敵の排除と並列して、こちらも確立しなければならない。なんとしてもだ。これはスカサハに任せようと思っている。なんとかしてくれ」
「なんとか、とは?」
「なんとかだ」

 反駁するスカサハに、鸚鵡返しに繰り返す。
 ほんとなんとかしてくださいスカサハさん――その切なる願いが伝わったのか、スカサハはなんとも言えない微妙な顔で頷いた。

「分かった。やれるだけの事はやってやろう。土壌や種子に手を入れ、これを植える。どれほど過酷な環境だろうが関係なく育ち、二ヶ月周期で収穫出来るものを作れるか試みよう。成功すればひとまず餓える事はあるまい。城内の一部区画を異界化させるぞ? そこで色々と試すのに一週間、経過次第で導入する。それから一つ目の議題で上がった防衛線の構築も請け負ってやろう。流石にこの城は脆すぎるからな。時は掛かるが、いずれ神代の城並みに頑強に組み換えるのも面白い。それと平行してこの城を中心に砦を幾つか建てればいいが、そちらはマスターと兵士、それか民の仕事とすればよい」
「……」
「…………」
「………………驚きましたね」

 沈黙する俺達。アルジュナがポツリと溢した。
 む、どうしたと言いたげなスカサハに、俺はお手上げのポーズを取った。

「……本当になんとかなってしまいそうだな。これからは『流石ですスカサハ様』を『人類愛』の標語としよう」
「やめんかっ」

 スカサハは気恥ずかしげに頬を染める。持ち上げられるのは恥ずかしいらしい。
 ……云千歳のお年寄りがこんなリアクションをしているのを見たら、クー・フーリンはどんな顔をするだろうか。そう思うも、そういえば中身も外見相応になっているんだったなと思い出す。

「三つ目の議題は『兵士の練度の向上』だ。カーターも自覚はあるだろうが、お前達の練度は高いものではない。今のままの練度では、いずれ俺達全員の手が回らなくなり、お前達だけで行動しないといけなくなった時に困った事になる」
「BOSSはそのような時が来る、と?」
「必ず来るだろう。サーヴァントや俺だけが死力を尽くす……それだけでは越えられない事態が――いつか必ず起こる」

 断言した。根拠は怪しいが、トップの人間は責任の所在と発言を曖昧にしてはならない。
 必ずそうなる、必ずそうする、明言し続けねばならないのだ。そして有言実行せねば何も貫けない。今回は災害に備えるのと同じだ。災害は起こらない方がいいが、起こって欲しくないから問題点を考慮するのを放棄し、思考停止して備えないのは愚の骨頂である。
 故に兵士の練度を上げておくのは必須の備えだ。必要不可欠の力となると、俺は確信している。

「お前達からは何かあるか?」

 現状俺が提起する問題は以上だ。本当は他にもあるが、皆から挙げてもらいたい。
 沖田が手を挙げた。カーターも挙げようとしたが、遠慮したらしい。

「あ、じゃあ私からいいです?」
「いいぞ。それと挙手する必要はないからな」

 そうなんです? と小首を傾げる沖田に微笑ましくなる。なんというかその一挙手一投足が活発な少女らしく映って可愛らしく思ってしまう。

「はい。えっと……人住まうところに罪ありきってわけじゃないですけど、騒動が起こる火種っていうのはどこにでも転がってるわけです。ですので、この城……名前なんでしたっけ?」
「話を脱線させるなよ? 名前は知らん。カーター達も知らないようだからな。なんなら天国の外側(アウターヘブン)とでも名付けるか?」

 冗談めいて言うと皆が苦笑いを浮かべた。確かに天国の外側にありそうな現実だと。

「ま、沖田さんとしては名前なんてなんでもいいんですけど。ともかく、警邏隊を発足させるべきなんじゃないかなって思いました」
「あ」

 沖田の発言にカーターが間の抜けた声をあげた。
 どうやら同じ事を言おうとしていたらしい。俺としてはきちんと考えてくれていた事の方が嬉しいので、そこは問わない。

「そうだな。軍で言えば憲兵に当たる部隊は必要になりそうだ。お春風に言えば『新撰組』か?」
「あはは、ここがぁ! 新! 撰! 組だぁ! って土方さん風に荒ぶっちゃいそうですね! うーん、アリかもしれません! いっそ『誠の旗』を立てて、本物の新撰組で警邏隊を引き受けちゃいましょうか?」
「却下だ。常に宝具を発動し続ける気か? 平時は一個中隊を警邏に回すとしよう。訓練はお春がつけてやれ。それと……そうだな、シータを隊長とする。二人で協力して綱紀粛正に務めろ」
「はい! 分かりました!」「はい」

 よろしくお願いしますねー! と沖田の天真爛漫な笑みを向けられ、シータも微笑みながら応じた。
 案外いい組み合わせかもしれない。性格と能力を鑑みても。

「カーターも同じ事を提案しようとしてくれていたんだな?」
「は。しかし他に思い付くものはありませんでした。申し訳ございません」
「気にするな。考える事を止めなければそれでいい」

 情けない顔で謝ってくるカーターに手を振る。
 長々と会議する必要のある議題の内容は、これからじっくり煮詰めていくとして、それより先に詰めておく話がある。
 一応確認した。

「他にはあるか? ……ないみたいだな。なら役割を割り振るぞ。シータ、お春、スカサハは今言った通りでいい。カーターは今まで通りだ。後でエドワルドにも伝えてくれ」
「は!」
「アルジュナは窓際族だ。基本的に二十四時間体制で周囲の見張りを」
「お引き受けしましょう」
「頼むぞ。俺は全体を見て回るから、口出しする事は多々あるかもしれないし、逆に何もないかもしれないが……仕事をしてない訳じゃないから目くじらを立ててくれるなよ?」

 くす、とシータが笑みを見せた。出会った当初から身に付けている短剣が、なんともいじらしい。早く彼女の伴侶、ラーマを見つけてやりたいなと思う。
 まあ放っておいても颯爽と駆けつけてきそうではあるのだが、何もしない訳にもいかない。
 とりあえず俺はスカサハに言った。

「そちらの仕事が終わってからでいい。スカサハも全体を見て回ってくれ。兵士の訓練全般は委任する。死なない範囲でしごいてやれ。それから自然環境も厳しいからな、寒さ対策のルーンを頼む。あとこの大陸は魔獣もいそうだからな、それらを引き寄せ狩り場を作れるならやってくれ。貴重なタンパク質になる。それと兵士達の使える武器の生産も任せた。後は……」
「……待て。待てマスター」

 こめかみを揉みながら、スカサハが待ったと言う。
 心なし、冷や汗を掻いていた。気持ち顔色が悪い。

「私の仕事が……少しばかり多すぎはせぬか?」
「ん? 全面的に協力させてくれ(なんでもする)って……言ったよな?」
「……」
「言ったよな?」
「…………」

 にこりと渾身の笑みを向ける。
 数瞬見詰め合う。暫し沈黙が流れ、スカサハは心底仕方無さそうに肩を落とした。

「……分かった。やってやろうではないか。……覚えておれよマスター……」
「生憎と記憶力には自信がないんでな……」

 我ながら笑えないブラックジョークを飛ばすと、スカサハはなんとも言えない顔で嘆息したのだった。
 怨むならその万能さを怨むがいい……。












 
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