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憑依先が朱菜ちゃんだった件

作者:沙羅双樹
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第19話

 
前書き
おはこんばんにちは。そして、お久しぶりです。沙羅双樹です。

本来ならば平成最期の日である4/30に投稿したかったんですが、改訂や修正をしていたら令和3日目に投稿する羽目になってしまいました。(泣)

今回の話はドワルゴンとの同盟と国名決定の話です。ルビ込で5500字程度なので余り長い話でもないかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。 

 



【視点:紅麗】



ドワーフ王と朱菜の戦いは朱菜の勝利で幕を閉じた。だが、俺だけでなくこの場に居る殆どの者が疑問に思っていることがある。

それはこの戦いでドワーフ王が我らの人となり――リムル様の人間と友好的でありたいという理念を知って頂けたかということだ。

何故ならこの戦いで朱菜は初っ端から飛雷神の術、そして最後も飛雷神の術でドワーフ王の背後を取った。真正面からの正々堂々の戦いではなく、完全に暗殺者の戦い方だ。

いや、リムル様と朱菜に名付けられた者は全員が特別技能(エクストラスキル)『忍法』を獲得しているので、全員が忍者――諜報と暗殺を主な生業とする傭兵ということになるんだが、それでも人となりを知って貰う勝負であの戦い方は無いだろう。


「………何故でしょう?この場に居る大半の人に失礼なことを思われている気がします。暗殺者の様にガゼル王を背後から攻撃するなど卑怯極まりない、とか」


………いつも思うのだが、何でこの娘は無駄に察しがいいんだ?取り敢えず、ここで肯定したら後でどんなお仕置きが行われるか分からん。

朱菜はお仕置きをする時、必ずお仕置きルーレットというものを使う。ちなみにルーレットの内容は苦手料理フルコースの刑、紫苑料理フルコースの刑、表蓮華の刑、裏蓮華の刑、朝孔雀の刑、昼虎の刑、雷我爆弾(ライガーボム)の刑、雷虐水平千代舞(らいぎゃくすいへいチョップ)の刑、雷犁熱刀(ラリアット)の刑、月読残虐拷問24時間の刑となっている。

物理系のお仕置きはリムル様の完全回復薬(フルポーション)で回復できるが、精神攻撃系と紫苑料理はかなりヤバい。特に紫苑料理は一口目で即死する危険性もある。


「斬仙剣と飛雷神の術を組み合わせた卑劣コンボ――音速飛雷神斬りを使わなかったことを考えれば、至って普通の戦いだったと思うのですが……」
「「「「「「「「「「そのコンボは卑劣過ぎるんで、実戦でも使わないで下さい!!」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「??????」」」」」」」」」」


朱菜の余りに卑劣な発想に、俺を含むこの場に鬼隠れの里の幹部全員が声を揃えてそう口にした。そして、ドワーフの騎士達は我らの会話に付いて行けず、何の話だ?といった顔をしていた。

ドワーフ王とその騎士達よ。世の中には知らない方がいいこともあるのだ。故に深入りしないで頂きたい。

………しかし、よくよく考えれば朱菜は飛雷神の術以外に忍術は使っていないので、先の戦い方も卑怯という程のものでもないのかもしれん。

流石に飛雷神二の段と螺旋丸や千鳥を組み合わせていたら卑怯だったかもしれないがな。ガゼル王の剣を稀少級(レア)に相当する武器と見ているんだが、恐らくその剣でも螺旋丸や千鳥の攻撃を受けたら簡単に壊れてしまうだろう。

いや、武器が壊れるだけならまだマシだ。こちらには優秀な武器職人であるカイジン殿と黒兵衛がいる。壊れたとしても代わりの武器を用意できる。

螺旋丸や千鳥の場合、武器破壊だけでなくドワーフ王の命すら奪っていた可能性があるのだ。仮に命を奪わなかったとしても直接接触した際に飛雷神のマーキングを付けることができただろう。

そうなっていたら先の戦い以上に一方的な展開となっていたことだろう。他にも鋼金暗器・千鳥刀で殺傷能力を上げていなかった点からも手心を加えていたことが分かる。

ただ、それをドワーフ達に理解して貰うにはどうすればいいかが問題だ。さて、どうしたものか………。



【視点:リムル】



「……あー、ガゼル王。今回の勝負は俺達の人となりを知る為のものって話だったけど、俺達の人となりを正しく知って貰うことはできただろうか?
ぶっちゃけ、最初と最後に不意打ち攻撃を仕掛けたりしたけど、俺達は真剣に人と魔物の共存共栄を考えてるんだ。だから、もし変な誤解を―――」
「安心するがいい、リムル殿。俺は貴殿らを邪悪な存在ではないと判断した」
「えっ?何で?」
「何でも何も、オオツツキ殿が災禍級(ディザスター)以上の魔人であることは一目で把握していた。英雄王などと言われている俺でも災禍級(ディザスター)の魔人と正面からぶつかれば死んでもおかしくは無い。
そうであるにも拘らず、初撃の不意打ちも含めて全ての攻撃を防ぐことができたのはオオツツキ殿が手心を加えてくれたからこそ」


ガゼル王の判断に俺が思わず質問してしまうと、ガゼル王は律儀に答えてくれた。確かに朱菜は手心を加えていただろう。

そうでなければ、今頃ガゼル王は斬仙剣による細切れか、千鳥による串刺し、螺旋丸によるミンチになってた可能性があるからな。


「そもそも、初撃の不意打ち攻撃も弱肉強食を法としている魔物、魔人からすれば防御も回避もできぬ者が悪。
こちらがリムル殿達の人となりを見極めようとしていた様に、オオツツキ殿も我らが友好関係を結ぶに値する武力を持つか見極めようとしていたと考えれば得心がいく」


朱菜がこの勝負でドワーフ王国が友好関係を結ぶに値するか見極めようとしていたとか、それは考え過ぎじゃね?

そんなことを考えながら朱菜を横目でチラリと見ると、ガゼル王の発言に対して動揺することもなく平然としていた。………えっ?ガゼル王の言う通り、マジでこの勝負でドワーフ王国を見極めようとしてたの?

………いや、でも友好関係を結ぶのなら相手側の武力も知っておいた方がいいのか。俺としても友好関係だけで止まらず、できれば同盟関係も結びたいから猶更だ。

そして、同盟関係を結ぶ以上は有事の際に相手側の武力を借りることもあるだろう。そうでなければ対等な立場とは言えないからな。

うーん。やっぱり朱菜の方が俺より盟主に相応しいよな。何で俺が盟主で、朱菜が盟主代理兼秘書なんだ?今からでも立場を代わって欲しい。いや、俺に盟主代理と秘書業ができる訳でも無いんだけどな。



【視点:朱菜】



「そもそも、初撃の不意打ち攻撃も弱肉強食を法としている魔物、魔人からすれば防御も回避もできぬ者が悪。
こちらがリムル殿達の人となりを見極めようとしていた様に、オオツツキ殿も我らが友好関係を結ぶに値する武力を持つか見極めようとしていたと考えれば得心がいく」


………ガゼル王が何か凄い勘違いをしています。私は別にドワルゴンの武力を見極めようなどとしていませんでした。

今後の為にドワルゴンとは友好関係を結ばなければいけないので、ガゼル王を殺す訳にはいかないとは思っていましたが……。

手心を加えた真正面からの攻撃だけでは、リムル様を侮られた不快感を拭うことができないと思ったので、少しでも私の気分をスッキリさせる為にガゼル王への嫌がらせも兼ねて不意打ち初撃をしただけなんです。

鋼金暗器、二之型・龍を使ったのも変則的な攻撃でガゼル王が困惑する無様な姿を見たかったからで、それ以外の理由は一切ありません。

ですが、ここはガゼル王の勘違い通り、私がドワルゴンの武力を見極める為、不意打ちも含めた攻撃をしたことにしておきましょう。だって、その方がリムル様と国のことを考えて行動をした盟主代理兼秘書っぽいですし。

と、私がこんなことを考えている間にガゼル王が白老の存在に気付いたみたいですね。300年振りに再会した師弟ということもあって、色々と話が盛りあがってます。

………あれ?ガゼル王が白老の弟子ということは、私とリムル様、お兄様、紫苑、蒼影だけでなく、お父様とお母様、紫呉、蒼月もガゼル王の弟妹弟子ということになるのでは?

一般的な大鬼族(オーガ)は人間と同じで寿命が100年前後ですし、大鬼族(オーガ)で300年以上生きた白老はある意味異常な存在。

お父様とお母様、紫呉、蒼月の歳は確か30代後半から40代前半。朧流の門下である以上、お父様達もガゼル王の弟妹弟子ですよね?

あっ、いつの間にかお父様達もガゼル王と白老の会話に加わっています。私やリムル様、お兄様達も朧流の門下であることを話しているみたいです。

ガゼル王はお父様達と会話を終えると、私とリムル様の所に向かってきました。そして―――


「よもや、リムル殿とオツツキ殿が俺の弟妹弟子とは思いもせなんだ。これからはリムル、シュナと呼んでもいいか?」


予想通り、先輩風ならぬ兄弟子風を吹かせてきました。いや、別にこういった態度が嫌いって訳ではないんですけどね。


「ああ、俺は構わないよ」
「私は基本的に朧流より忍術や忍体術を組み込んだ我流剣術を使うことが多いのですが、そんな私でも妹弟子と認めて頂けるのなら構いません」
「ふむ。ではリムル、シュナよ。お前達の町を案内してくれ。上空から町並みを見たが、きちんと整理されていて美しかったぞ。
そこらの魔物ではこの様な町は作れん。美しい街を作れるということは技術があるということ。そして技術があるということは美味い食い物や酒もあるということだ」
「何だよ、その理論。まぁ、ウチで作ってる酒や調理技術が他国に劣ってるとは思ってないけど」
「リムル様、ドワルゴンの方々に食事を楽しんで頂くのなら、宮殿で歓迎の宴を開いてはどうでしょう?私が先に宮殿へと戻り、ゴブイチ殿達に伝えれば、リムル様が町を案内されている間に準備は整うかと……」
「そうか?なら、申し訳ないけど頼むよ。朱菜」
「畏まりました、聖上」


私はリムル様にそう返答すると、飛雷神の術で宮殿へと跳び、多重影分身の術を使って歓迎の宴の準備に取り掛かった。



【視点:世界】



ガゼル王を含むドワルゴン一行が現れてから数時間後。リムルと冢宰のリグルドが里内を案内している間に、朱菜の主動で歓迎の宴の準備が進められ、どうにか夕食時に間に合わせることができた。

そして、宴の場ではドワーフと魔物という種族の壁を越え、似た様な立場の者同士が食事をしながら言葉を交わすという光景が広がっていた。

例えば、天翔騎士団(ペガサスナイツ)の団長であるドルフと近衛大将である紅丸&リグル。ドワルゴン軍部の最高司令官(アドミラルパラディン)であるバーンと夏官長・大司馬である紅麗。

暗部長(ナイトアサシン)であるアンリエッタと隠密御庭番衆の御頭である蒼月。宮廷魔導師(アークウィザード)であるジェーンと春官長・大宗伯である穂乃花。

武官組が武装関係や部下に行っている訓練内容などの話で盛り上がり友好を深めている中、国を纏める立場であるガゼルがリムル&朱菜に真面目な話を始めた。


「リムル、そして朱菜よ。俺と盟約を結ばんか?」
「………は?」
「……それはガゼル=ドワルゴ個人としてリムル=テンペスト並びに大筒木朱菜と盟約を結びたいということではなく、武装国家ドワルゴンとして私達――ジュラの森大同盟という魔物の共同体と盟約を結びたいということでしょうか?」
「ああ。国家間での盟約を結ばんか、ということだ。俺の予想では、そう遠くない内にこの町は交易路の中心都市となる。その様な重要な地と友好関係を結ばぬ王など愚王でしかないからな。
当然のことだが、このことでお前達が得られる利点もある。それは―――」
「ドワルゴンと友好関係であれば、少なくとも大同盟に加盟している種族が一方的に人類とその国家に敵対する存在ではないと喧伝することができますね。
他にもドワルゴンの後ろ盾で他の人類国家と対話による友好関係の構築が可能になるかもしれません。
そして、他の人類国家と友好関係を結べれば、私達が魔物であるというだけで攻め滅ぼそうとする、もしくは侵略して属国にしようとする敵性人類国家への反抗も正当性が認められ易くなります」
「ああ、成程。人類と友好関係を結びたい俺からすれば渡りに舟な提案な訳だ。それに全人類が善人な訳が無いから、大同盟(うち)を侵略したり属国にしようと考える国があることも想定しておかないと駄目だよな」
「………リムルよ。お前、本当にこの町の長か?朱菜の方が長らしいぞ」
「あっ、ガゼル王もそう思う?俺もそう思ってんだけど―――」


リムルがガゼル王の質問に答えながら朱菜に視線を向けると、朱菜は即行で自分の意見を返した。


「私は盟主や王になる気も無ければ、リムル様以外の者に仕える気もありません」
「―――こんな感じで朱菜は俺を大同盟の盟主にしようとするんだよ。柄じゃないんだけどな……」
「……まぁ、なんだ。お前が王に相応しいと思える何かを朱菜は感じ取っているんだろう。で、盟約についてはどうする?
一応、国家の危機に際しての相互協力。そして、相互技術提供の確約の2つを盟約締結の条件に考えているんだが―――」
「その条件ならこっちへのデメリットも無さそうだし、むしろ盟約を結ばない方がこの先後悔することになりそうだ。そんな訳で大同盟(うち)とドワルゴンで盟約を結ぶのには賛成だ」
「……ふっ!なんだかんだと言いながら、王者に相応しい決断力を見せるではないか!流石は我が弟弟子といった所か!!」


こうしてジュラの森大同盟と武装国家ドワルゴンとで盟約が結ばれることとなるのだが、その前に魔物の集団でしかなかったジュラの森大同盟を国家として成り立たせる為、国と首都の名称を考える必要が発生した。

国主となるリムルは明け方までガゼル王と飲み明かすことになった為、国名と首都名を決める話し合いに参加することができなくなり、朱菜を始めとした幹部メンバーによって国名と首都名が決められた。

国名は(オゥルォ)である俺の姓と他種族共生国家という特性からテンペスト連邦と命名され、首都である鬼隠れの里も交易都市に相応しい響きでジュラの大森林を彷彿させる名称として樹雷と名付けられた。

そして、自分の知らない間に決まった国名と首都名を聞かされたリムルは―――


(……何故に樹雷?皇家の樹とか存在しないし、俺も光鷹翼とか出せないんだけど。…………まぁ、国名じゃないだけマシか。飽く迄、首都名だし。恐らく偶然の一致だろう)


というツッコミたい衝動を押さえなから、偶然の一致であると無理やり自分を納得させていた。


 
 

 
後書き
という訳で19話でした。どうでしたか?今回も楽しんで頂けたでしょうか?

次話はついに例の魔王が登場します。原作ではあっさりと決着がつきましたが、当作では同格の朱菜さんがいるので色々とハッチャけるかもしれません。

というか、原作みたいにあっさりと決着がつくのと某魔王vs朱菜さんのハッチャけ戦闘のどちらがいいでしょうか?

まぁ、どちらの内容にするとしても頑張って執筆しようと思います。 
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