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英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇

作者:sorano
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第94話

7月4日―――

――7月に入り、帝都近郊のリーヴスでも夏の季節を迎えていた。しかし、本年度から軍学校としての本分に戻す名目で夏服の選択が廃止されており―――本校、分校の区別なく、制服の裏地を外すだけの対応となった。

暑さも本格化し始めて、多くの生徒達が辟易する中―――本校・分校と合同となるある行事が始まろうとしていた。


4限目 帝国史


「今週からは”人物史”という観点から歴史を切り取ってみよう。まずはご存じ、帝国中興の祖、ドライケルス・ライゼ・アルノール。250年前の獅子戦役を終わらせ、帝国の近代を導いたという人物―――ヴァリウスⅤ世の第三皇子だった彼は庶出の身のため、幼い頃から帝国各地を放浪していたそうだ。そして帝国辺境の地、ノルド高原にて遊牧民たちに受け入れられて時を過ごす。そんな中、帝国本土から血みどろの内戦の報せが届けられた。元々、皇位継承権から外れていた彼だったが泥沼と化した内戦を捨てておけず、ノルドの地から挙兵する事になる―――手勢は僅か17名、腹心の騎士ロランにノルドの戦士だけだったそうだ。そして半年後―――ドライケルス皇子は帝国南東のレグラムで運命の邂逅を果たす。”鉄騎隊”を率いた伯爵家の娘、リアンヌ・サンドロット―――”槍の聖女”とも謳われた英雄だ。」

「あのっ、質問なんですけど!ずっと前から気になっていたんですけど、分校長って聖女リアンヌ本人なんですか!?」
リィンが説明をしながら黒板に説明の内容を書いているとサンディが質問をし、それを聞いたリィンが手を止めて生徒達を見回すと生徒達もそれぞれ血相を変えていた。
「た、確かに…………ずっと気になっていました。」

「聖女リアンヌといえばおとぎ話にも出てくる有名人…………」

「容姿、名前、そして実力もまさに本人かと思われますが、異種族でもない人間であったサンドロット卿が250年以上もあんな若々しい姿で生き続けられるとは思えませんが…………」

「で、どうなんや!?」
サンディたちに続くように次々と質問してきた生徒達の質問に”真実”を知っているⅦ組の生徒達はそれぞれ冷や汗をかいた。
「…………確かに、分校長は本物としか思えない人物だ。だが、デュバリィ教官達の件からもわかるように分校長もかつては”結社”という犯罪組織の一員だった為、デュバリィ教官達のように結社のコードネームとして聖女を騙っている可能性もある―――そのあたりは保留にしておこう。―――ちなみに本日7月4日は254年前に獅子戦役が終結した日だ。設問内容は教えられないが獅子戦役前後の範囲は出る見込みだ。しっかりと復習するといい。」
リィンの説明を聞いた生徒達はすぐにノートにリィンの助言内容を書き始めた。
(………うーん、悔しいけどわかりやすいし丁寧なのよね。)

(まあ、僕達よりも早い年齢で士官学生としてセシリア将軍閣下達―――メンフィル帝国軍で学んでいたのもあるだろうけど、他国であるエレボニアの歴史にも詳しい事は意外だな。)

(ちなみにエリゼ様の話によりますと、メンフィル帝国軍での士官候補生としての成績はかなり上位だったとの事です。)

(フフ、まさに”文武両道”ね、リィン教官は。)

(ケッ…………)

(うふふ、次に”する”時は眼鏡姿を要望しようかしら♪)
ユウナ達がリィンについて小声で話し合っている中内容が聞こえていたアッシュは呆れた表情をし、ミュゼは妖艶な笑みを浮かべてリィンを見つめていた。


HR―――

~特務科Ⅶ組~

「さて、明日から予定通り4日間の定期考査がある。通常の座学に、軍事学、芸術、情報処理、実戦技術―――多岐に渡るから頑張って欲しい。」

「ちなみにありえないとは思いますが、赤点を取れば”補習”は確実ですから、私達の手を煩わせないようにせいぜい、気合いを入れて挑みなさい。」

「デュバリィさん…………何もテスト前から、生徒達の士気を下げるような事は言わない方がいいと思いますわよ?」
HR時リィンとデュバリィの説明に生徒達が冷や汗をかいている中、セレーネは疲れた表情でデュバリィに指摘した。
「ふう………簡単に言わないでくださいよ。」

「…………全てを完璧に対処するのは厳しいですね。」

「まあ、これまでの積み重ねを活かすしかないだろう。」

「ちなみに、試験内容と日程は本校と同じと聞きましたが。ひょっとして成績も両校揃って貼りだされたり?」
ミュゼの質問にユウナ達はそれぞれ顔色を変えた。
「ああ―――個人の総合順位を始め、クラスごとの平均点も発表される。まあ、そういう意味でもやり甲斐はあるんじゃないか?」

「なんか露骨なんですけど…………」

「競わせる気満々ですね。」

「クラスの平均点はともかく、自分の点数や順位まで発表されるのは恥ずかしいわ…………」
リィンの説明を聞いたユウナとアルティナが呆れている中ゲルドは困った表情で呟いた。
「つーか、どうせ皇太子が出来レースで1位じゃねえのか?」

「…………それは…………」

「いかにもありそうだけど…………」
嘲笑を浮かべたアッシュの推測にそれぞれ血相を変えたクルトは真剣な表情を浮かべ、ユウナは複雑そうな表情でアッシュの推測に同意した。
「―――いや、あり得ないな。かつてはトールズは貴族と平民のクラスにわかれていたがそれでも実力は公平に測られていたとの事だ。俺が知っている本校教官の方々もそんな不正を許すとは思えない。あくまで試験はフェアに行われると思ってくれていい。」

「ちなみにかつてのトールズ本校でのトワさんの個人総合成績は”四大名門”出身であるアンゼリカさんを押しのけて1位だったとの事ですわ。」

「そもそも、今の第Ⅱ分校には不正等と言った卑劣な事を許さない高潔な精神たるマスターが分校長なのですから、マスターがそのような愚かな事を許すなんて絶対にありえませんわ!―――万が一、本校がそのような所業を行えばマスターが教官陣もそうですが、皇太子にもその”槍”の絶技にて裁かれるでしょう!」
リィンとセレーネの後に自慢げに語ったデュバリィの説明と推測にリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「いやいやいや!?さすがにそれをやったら不味すぎますし、幾ら分校長でもそこまではしないでしょう!?」

「まあ、物理的に裁く云々はともかく、リアンヌ分校長が不正を許さないという点に関しては同意できますね。」

「……………………」
我に返ったユウナは苦笑しながら指摘し、アルティナは静かな表情でデュバリィの意見に同意し、クルトは複雑そうな表情で黙ってセドリック皇太子の顔を思い浮かべた。


「まあ、試験が終わったらちょっとした”ご褒美”もある。今週末は自由行動日だし、持てる力を出し切ってみるといい。俺達もそれぞれが担当している座学や実戦技術だったら教えられるから気軽に相談してくれ。」
その後HRを終えたリィン達は職員室で打ち合わせを始めた。


~職員室~

「―――テストの準備も全て完了だ。本校との合同採点となるがまあ、そちらは何とかなるだろう。」

「ええ、導力ネットで授業の進行度も合わせていますし。」

「設問内容についても、本校の教官陣と協力できたのは大きかったですね。」

「ま、あとは生徒達自身と俺達の最後のフォローしだいか。」

「―――先月の演習以来、帝国本土から全ての猟兵団の撤退が確認されている。そして”結社”だが…………情報局によれば、再び帝国から”手を引いた”可能性もあるという。」

「……………………そうですか。」

「まあ、実際の所今までの”実験”で結社もそうだけど猟兵達も戦力をある程度失ったから、その可能性が間違っているとは言えないわねぇ。」

「本当だったら安心なんですけど…………」

「クク、そこの所実際はどうなんだ、元結社の”鉄機隊”の諸君?」

「ラ、ランドロス教官…………何もそこでわざとらしくデュバリィさん達に聞かなくても…………」
ミハイル少佐の情報にリィンは静かな表情で呟き、レンは呆れ気味の様子で答え、トワはデュバリィ達を気にしながら複雑そうな表情で答え、口元に笑みを浮かべたランドロスのデュバリィ達への質問を聞いたセレーネはデュバリィ達を気にしながら不安そうな表情を浮かべた。


「第Ⅱ分校に派遣されてから、生徒もそうですが教官陣からも結社関連の情報を聞かれる事くらいは最初から想定していましたから、貴女が気にする必要はありませんわよ、アルフヘイム。」

「私達が第Ⅱ分校の教官として派遣された以上、同僚となった貴方達と連携を取りやすくするためにもその程度の情報だったら幾らでも話してあげる…………と言いたいところなのだけど。」

「既にメンフィル帝国政府を経由してエレボニア帝国政府や情報局にも我らが知っている限りの結社の情報が行っていると思うが、実際の所我らが”道化師”から聞かされていた結社の動きはフォートガードの件までで、それ以降の動きについては全く何も知らされていないのだ。」

「え…………そ、そうなんですか?」

「まあ、”リベールの異変”の時も”執行者”達は今後結社がどんな動きをするのか知っている様子ではなかったから、”執行者”と同様の扱いだった”鉄機隊”も結社の予定を知らなくても無理はないと思うわよ。」

「そもそもデュバリィさん達がフォートガードの”実験”で結社を抜ける事を最初から知らされていたとの事ですから、その件もあって”道化師”はフォートガード以降の結社の動きは何も教えなかったかもしれませんが…………」
セレーネの指摘にデュバリィは静かな表情で答え、苦笑しているエンネアに続くように答えたアイネスの説明にトワが目を丸くしている中、レンは納得した表情で呟き、セレーネは苦笑しながら推測を口にした。
「ま、それでもちっとは一息つけそうってことかね?」

「ああ、油断は禁物だがしばらくは”学生”としての本分に集中させてやれるだろう。―――試験については設問を明かすのは無論厳禁だが質問への対応はOKとしている。まあ、手助け程度に力になってやって欲しい。」
その後教官陣内での打ち合わせを終えたリィンは校舎を見回りながら生徒達の勉強を見たり、相談に乗ったりした後生徒の下校を見送りつつ明日からのテストの最終確認を行い―――当番だった戸締りの確認もしてから下校するのだった。


~夜・トールズ第Ⅱ分校~

戸締りを確認し終えたリィンは雨が降っていた為、予め持ってきていた傘をさした。
「ふう………小雨だけど置き傘をしてて助かったな。生徒達も帰ったみたいだし俺も―――」

「わわっ…………!けっこう、降ってたかも…………!」
リィンが下校しようとしたその時、傘をささずに走って下校しようとしているトワに気づいた
「あれは…………先輩…………!」
トワに気づいたリィンはトワの元へと走って近づいた。
「あ、リィン君…………!今日は戸締り当番だったっけ。ふふっ、お疲れ様。」

「それはともかく、傘、入ってください。」

「い、いいよ~!そこまで降ってないし!」
リィンに相合い傘をするように促されたトワは恥ずかしそうな表情で断ろうとしたが
「ここで傘を押し付けられるのと一緒に帰るの、どちらがいいですか?」

「ズ、ズルイなぁ~。そんな言い方をするなんて…………それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうけど…………わたしを気遣って肩とか濡らしちゃダメだからね?」
笑顔のリィンに押され、相合い傘を受け入れる事にした。
「はは、大丈夫ですよ。先輩はち―――」
トワの気遣いにリィンは苦笑しながらある事を言いかけたがすぐにその言葉を口にするのを止めた。
「何を言いかけようとしたのかな~…………?」
一方トワは何かを言いかけてすぐに止めたリィンを意味ありげな笑みを浮かべて見つめていた。

その後二人は校門を施錠した。


「はあ、昔のリィン君だったらもっと純朴で素直だったのに…………断れないような言い方をするなんて悪い意味で大人になったというか。」

「はは…………すみません。でも、どうせ先輩の事だから生徒に傘を貸したんでしょう?予備があるから大丈夫とか言って。」

「み、見てたの!?」
自分の行動を言い当てられたトワは驚きの表情でリィンを見つめた。
「いや、先輩が傘の備えを忘れるはずは無いでしょうし。急な雨だったから普通に想像できるというか。」

「も、もう~…………変な読みを働かせるのも禁止!リィン君、まだ20歳なんだからもっと初々しくてもいいと思うよ!?同僚とはいえ、わたしの方がいちおう1歳年上なんだしっ!」

「はは…………了解です。それじゃあ帰りましょうか。何処かに寄りますか?」

「ううん、わたしは真っすぐでいいよ。」
そしてリィンはトワと共に下校を始めた。


~リーヴス~


「……………………政経倫理のテストは本校のハインリッヒ教頭とでしたか。」

「うん、専門的なところとか力を貸してもらっちゃった。」

「リィン君は歴史学と実戦技術だったっけ?」

「ええ、本校の新しい教官とベアトリクス教官と協力しました。あちらも色々と大変そうですね。」

「うん、ヴァンダイク学院長とトマス教官は退任されちゃったけど…………マカロフ教官とメアリー教官は相変わらず頑張ってくれてるみたいだね。ふふっ、でも懐かしいな。2年前はサラ教官に、ナイトハルト教官もいたんだよね。」

「ええ…………そうらしいですね。政府の方針で、聞いていた以上に軍事色が強まっているそうですが…………それでも、元いた教官方が頑張ってらっしゃるのは心強いですね。」
トワの意見に頷いたリィンは静かな表情で答えた。


「ふふっ、そうだね。うん―――私も、もっと頑張らないと!アンちゃんもジョルジュ君もせっかくエレボニアに戻ってきたんだし!」

「!…………そうでしたね。お二人とも今はバーニエに戻っているんでしたか。」
トワの口からアンゼリカとジョルジュの名前が出ると二人の”現状”はどうなっているかをメンフィル帝国からの情報で知っていたリィンは一瞬複雑そうな表情をした後すぐに気を取り直して答えた。
「うん、そのはずだよ。二人とも忙しいみたいでちょっと連絡が取れてないけど。うーん、でも二人ともいいなぁ。」

「えっ、それって…………でもアンゼリカさん、”ああいう”趣味ですよね?」
トワの話を聞いたリィンはアンゼリカとジョルジュが互いを想いあっている関係である事を察すると驚きの声を上げた後、苦笑しながらトワに確認した。
「ふふっ、付き合いも長いし、そんな感じじゃないかもしれないけど…………それでもやっぱり、同性の親友とは違うものを感じるんだよねぇ。身分の問題とかもあるかもだけどもしそういう話になったらいっぱい祝福したいと思ってるんだ。―――多分クロウ君も同じだと思う。」

「…………そうですか。俺は彼の事についてはよく知りませんが、先輩達と同期で、そしてアリサ達のクラスメイトでもあったのですから、自分にとっての友人であるお二人の事を先輩と共に真っ先に祝福するでしょうね。」

「うん、そうだね。…………そういえば、結局リィン君達”特務部隊”の人達はクロウ君とは敵同士の関係で終わっちゃったけど…………ちょっと残念だったな。リィン君達はクロウ君の良い所とかを知る事もなく、お互いを”敵”としてしか認識しなかった関係で終わった事に…………デュバリィ教官達みたいに和解できる機会はきっとあったと思うんだ。」
リィンの推測に頷いたトワは寂しげな笑みを浮かべた。
「まあ、彼女達の場合はリアンヌ分校長のお陰という事もありますが、俺達がパンダグリュエル制圧作戦にて彼の仲間であった”V”と”S”の命を奪った事で彼に恨まれていたとはいえ、内戦が終結し、お互いが冷静になれる期間ができれば”友”として接する機会を作る事ができたかもしれませんね。」

「…………うん。―――リィン君、あの仮面の人とか、家族のこととか、一人で考えることないんだからね?旧Ⅶ組やサラ教官、特務部隊の人達、それにアルフィン殿下はもちろん、たまには新Ⅶ組の子たちだって弱音を吐いてもいいと思う。その…………もちろんわたしにも。」

「トワ先輩……………………」
トワの助言に目を丸くしたリィンはその場で目を伏せて黙り込んでいた。すると雨は降り止んだ。
「あ…………!」

「…………止んだみたいですね。」
雨が降り止んだ後リィンが傘をたたんで、トワと共に空を見上げると夜空に星々が輝いていた。
「わあっ…………!」

「凄いな…………星がよく見えますね。」

「うん、ちょうど雲が風で流されたのかな…………?ふふっ…………入れてくれてありがとね。」

「はは、この程度でしたらお安い御用ですよ。」
そして翌日、ついに定期考査が始まり…………4日に渡る定期考査が無事終了すると、生徒達は手応えや心残りを感じつつテスト終了の解放感に存分に浸るのだった。そして午後―――分校長の鶴の一声により、打ち上げと、学業で鈍った身体をほぐす名目で”とある特別授業”が開かれるのだった―――
 
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