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人理を守れ、エミヤさん!

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第四特異点『魔霧瞬殺マラソン』
  全力疾走だねネロちゃま!



「それじゃあ、第四特異点へのレイシフトを始めるよ。マスターはネロ帝、もといネロ。随伴するサーヴァントは四騎。マシュ、ランサー(クー・フーリン)セイバー(アルトリア)アサシン(切嗣)だ。各自ネロちゃんとの臨時契約を頼むよ」

 ロマニは無事送られてきたデータを纏め、要点だけを纏めたレポートに目を通しながらネロに言う。そのサーヴァント数と構成を決めたのはロマニだった。やや疲弊の滲んだネロに、ロマニは軽く言う。

「大丈夫だよ、ネロさん。ぶっちゃけ士郎くんの読み通りなら二日もあれば楽勝な戦いだから」
「そうなのか?」
「そうそう。ところでネロさん、マラソンは得意かな」

 なんでマラソン? と首を捻りながら、ネロは答える。「まあ、それなりには体力にも自信はあるぞ」と。
 それを聞いたロマニは安心したように笑みを深めた。

「ならいいか。正直言うとね、今回のレイシフトでネロさんはほぼ走るだけでいい」
「む?」
「実戦を熟した実感も出ないんじゃないかな。こっちから指示するからとりあえずササッと処理しちゃって」
「え?」

 ふぉーう! と白いモコモコ小動物フォウが、ネロの頭に飛び乗った。まるで『マラソンと言えばおれだろう? ついてこれるか』と言っているようである。
 ロマニはフォウに頭に乗られてわたわたするネロに微笑み、最後の調整に入った。まだ疑似霊子演算器は修理できていない。故にレイシフトのための準備はより入念に、更に慎重に行うために調整を行っているのだ。それも間もなく終わるが。
 マシュが微笑みながらネロに言う。

「お願いします、ネロさん」
「うむ、よく分からぬが余に任せよ」

 切嗣はネロに一瞥すら寄越さない。無言でネロの肩に手を置き、レイラインを繋げるとそのまま離れ、短機関銃とナイフの点検に移った。
 赤いフードの下の素顔を見せない暗殺者だが、ネロはそれに不服を感じることはなかった。鷹揚に構える彼女に、切嗣はやり辛さのようなものを感じるものの、溜め息をこぼしてレイシフトに備える。
 クー・フーリンは苦笑しながらそんなアサシンを横目に見遣り、何気なくレイラインを繋ぎ合わせられる。

「あー、こうして話すのははじめてだったか? ネロって呼ぶぜ」
「うむ、好きに呼ぶと良いぞ。今の余は皇帝ではない故な」
「おう。アイツはあんなふうに愛想の欠片もねぇが、腕は確かだぜ。とりあえず単独行動させときゃ戦果は必ず挙げやがる。頼りになるがテメェ自身を捨て駒にするのも厭わねぇからな。そこんとこは気を付けてやってくれや」
「分かっているとも。シェロもそこは頭を悩ませていたな」

 仕方ない奴だと笑うネロに、クー・フーリンは肩を竦める。

 そんなネロへ、アルトリアが顔に陰を落としながら声を掛けた。

「……急ぎましょう、ネロ。どうにも嫌な感じがします」
「直感という奴か? ……うむ、一刻も早くシェロの許へ行かねば、シェロが老いてしまうのだったな」
「それもあります。しかしそれ以上に……なんというか、シロウが良からぬ事を仕出かしている気がしてならない。シロウの許へ急行し問いたださねばならない気が……」
「シェロなら大丈夫ではないのか?」
「ネロはシロウの事を美化して見過ぎです! 彼を侮ってはいけない、どこの馬の骨ともしれない女に誑かされていてもおかしくはない……!」
「う、うむ……?」

 可愛い子なら誰でも好きだよ、オレは――とは錬鉄の弓兵の台詞である。そんな彼と妙なところで似ている士郎なので油断は禁物だ。
 なお英霊エミヤは、第四特異点に向かうネロやマシュの為に携帯食料を持参してきていたが、アルトリアがネロと話し始めたのを目撃した瞬間にロマニに食料を押し付け離脱していた。スタッフの食事でも作りに行くと言って。見事な状況判断である。

「よし、準備は万端だ!」

 ロマニが手を叩く。皆の注意を集め、彼はエミヤに預けられた荷物をマシュに渡した。大楯にそれを収納したマシュを尻目に、ロマニは作戦の概要を説明する。

「第四特異点の詳細が判明した。時代は西暦1888年、産業革命時代の霧煙る帝都ロンドンだ。だが、どうやら街全体が謎の霧に覆われているらしい」
「霧に?」
「ああ。念のため毒ガスを警戒してマスクの装着を、と言いたいところだけど。マシュと仮契約しているなら問題はないだろう。この娘の霊基は毒への耐性が強い、加護という形でネロさんを守るだろう」

 そうなのか? とネロが訊ねると、マシュは首をひねる。ロマニは苦笑した。魔術王の霊基が、ロマニに人ならぬ視点と洞察力を与えているのだ。いや『復活させている』という形容が正しい。
 ともあれロマニは説明と推測を交えながら続けた。

「第四特異点は最長二日でケリをつける。魔神柱は士郎くんを人間の寿命で殺すつもりなんだろうから、持久戦に持ち込もうとしてるかもしれないが、逆にそれは好都合だ。こちらの行動は完全に相手の意表を突くだろうからね。敵首魁を速攻で見つけて速攻で倒せる。最終攻撃はアサシンの奇襲、二段目でランサーの宝具、それで仕留められなかったら三段目に騎士王の聖剣だ」
「うっ……流石シェロ、えげつないな……」
「慣れましょう。先輩はえげつない事を絶対するので」

 マシュは悟りを開いた菩薩のような目をする。ネロは聞かされた作戦の詳細から、それが俗に言う『嵌め殺し』になる事が容易に察せられたのだ。
 逆に敵が可哀想だとすら感じる。士郎の作戦案に対する不安はなかった。士郎の考察が記されたデータには、説得力が大いにあった。

「士郎くんの作戦案は2パターンあった。広大なフィールドの場合と、都市部の場合だ」
「ざっくり過ぎないか?」
「いや、これだけでいいらしい。やる事も極めて単純だ。まずレイシフト後、都市の外縁部を一周走り回って、都市を縦と横に十字に走る。状況を把握したらそこで第一段階終了。この時に敵エネミーが妨害して来たり敵サーヴァントと遭遇するかもしれないけど、撃破する必要はないよ。無理がないなら普通に倒していいけどね」
「……ああ、それで『マラソン』なのだな」
「そ。ほぼ走るだけだよ。はぐれサーヴァントがいるかもしれないから、火力のあるサーヴァントなら味方に引き入れるのもありだ。勿論協力的ならね。説得とかが必要になるんなら捨て置いてもいい。この段階で必要なのは、走る事と、大まかな異常の把握だね」

 簡単過ぎる。が、流石に走り回るネロの疲労は大きくなるだろう。しかし疲れるだけでいいというのは、ネロの心的負担を大幅に軽減させてくれる。
 しんどそうだな……と呟くネロだが、悲愴な色はなかった。

「第二段階。これは一つだけだ。異常の箇所を点と点で捉え、線で結び、その中心地の『地下』に入ればいい。入り口は騎士王の聖剣で作る」
「え、よいのか? 都市部なのだが……民を巻き込んでしまうであろう」
「ネロさんが令呪を使えばいいんだよ。聖剣の指向性を一点集中して、斬撃じゃなく刺突にすればいい」
「あ、そうか。セイバーよ、それは出来るか?」
「可能です。エクスカリバーの前に使っていたカリバーンの要領で放てばいい。しかし私の聖剣は大味な代物、精密性に欠けます。令呪のバックアップがあった方がいい」

 ――ところで、士郎くんの通信では騎士王の名前がなかったのに、攻略案にはキッチリ記されていたのはなんでだろうね?

 ロマニは遠い目をする。またか、またなのか士郎くん、と。後ろめたさを感じさせた。幸いあの場にはアルトリアはいなかったのでツッコミはなかったが。もし居合わせたらどんな顔をしたのだろうと、ロマニは怖いもの見たさで気になった。

「……で、次がさっき言った最終段階だ。以上で作戦は終了、帰投してくれ」
「……え? それだけか?」
「そうだよ。それだけだ。ま、騙されたと思ってやってみなよ」

 さ、コフィンに入ってくれとロマニに促され、マシュとネロはコフィンに入る。
 他のサーヴァントは守護英霊召喚システムで、カルデアの観測下にあるマスターの許へ送り込められるので、コフィンに入る必要はない。

 レイシフトが始まる。カウントダウンが始まり――ネロの意識は一瞬暗転した。

 そして、彼女達は霧煙る街ロンドンに現れた。

 毒性のある魔霧に包まれた町並みに、アルトリアは険悪な目をするが、ネロを促して早速走り始める。ついてきていたフォウがネロの前を先導するように走っているのが笑みを誘った。すると唐突にアサシンが気配を遮断しながら先行し、暫くすると通信機を通して報告してきた。

『表通りに人影はない。それと、サーヴァントを発見した』
「え、もう!?」
『そちらに向かっている。サーヴァントの進行方向にこちらがレイシフトしていたらしい。お手並み拝見だ、可愛いマスターさん』

 ぶぅっ! ネロは噴き出す。いきなりの可愛い発言に、ネロは笑ってしまったのだ。
 それはそれとして、ネロは考える。どうしたものか、敵じゃないかもしれない――そう考えてる間に、人影を視認した。それは全身を鎧兜で纏めた騎士だった。
 その騎士は駆けてくる数騎のサーヴァントを目撃し、瞠目して剣を構えるも、アルトリアを見るなり驚愕して声を上げた。

「なっ!? ち、父上!?」
「? 誰だ貴公は」

 宝具の効果だろう。彼の騎士の正体を掴みかねたアルトリアは、駆ける足を緩めながらネロの前に出て誰何する。すると兜の騎士は宝具を解除して素顔を露にした。アルトリアに瓜二つな顔を。
 途端、アルトリアの顔が能面のように無表情となる。

「オレ、いや私だアーサー王! モードレッドだ! 父上、どうして貴方が――」
「ネロ! あれは敵だ、早急に撃破する! ランサー、手を貸せ! マシュはネロの守護を頼みます!」
「なぁっ!?」
「いいのかよ……」
「いやいやいやいや」「ふぉーう!?」

 敵じゃなさそうではないか! と。ネロはショックを受けて固まるモードレッドを庇った。






 
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