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魔術師ルー&ヴィー

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第二章
  Ⅸ


「そんな…。」
 全てを聞き終え、ヴィルベルトは今にも泣き出しそうな顔でマルクアーンを見た。スランジェもルークも、何も言えずに俯いたまま黙している。
 そんな若者らに、マルクアーンは優しい笑みを見せて「なに、昔の話だ。気に病む事はない。」と言って一息つくと、直ぐに言葉を続けた。
「だがな…あやつとわしの研究資料を、どさくさに紛れて他国に売り渡した馬鹿がいてな。」
「は!?そのまま…ですか?」
 ルークは目を丸くしてマルクアーンを見る。
 彼女の話から想像するに、その研究は失敗と言わざるを得ない。だが、金欲しさに…その悪魔的研究の資料を売った者がいると言うのだから、どうかしているとしか思えなかったのだ。
「そうだ。だから戦が大きく長引いてしまい、この大陸全土が滅びかけたのだ。それ故、当時のゾンネンクラール皇帝は第三皇子シュテットフェルトを国賊とするしかなかった。理由はともあれ、あの"シャッテン・ガイスト"を世に出した責任は否めない。故に、皇帝は皇族全てで責任を取るとして、分家筋にあたる現在の王家へと玉座と国を明け渡したのだ。」
 この事実に、若き三人の魔術師は唖然とした。
 ゾンネンクラールの内情は、当時でも知る者は極限られており、終戦時には箝口令が全ての国で敷かれていた。戦の火種になる話であるため、これ以上犠牲を出さぬためにも全て伏せて時に任せる事にしたのである。
 いや…そうする他なかったであろう…。どの国も同じ様な過ちを犯し、そして国の行く末が覚束ない程に疲弊しきっていたのだから…。
 それはシュトゥフも知っていたが、ルーファスも師であるコアイギスから聞かされていた。魔術を誤って行使すればどうなるか…それを教えるためであった。
「それで、何故この〈聖グラヴィアーノのジェード〉にシュテットフェルト皇子の思いが宿ったと言うのだ?」
 全く解らぬと言った風にシュトゥフが問うと、マルクアーンは軽い溜め息をついて返した。
「誰か知らぬが…“シャッテン・ガイスト”の封を破り聖玉へと封じ直したと考えるのが妥当であろうよ…。」
「すると…この聖玉には今…。」
 スランジェが青褪めてそう言うと、マルクアーンは事もなげに返す。
「そう言う事だ。」
 それにはルークもヴィルベルトも顔を青褪めさせた。
「そう心配するこたぁねぇよ。もうこん中にあるのは“思い”だけだ。妖魔の力は大して無ぇから。」
 ルーファスは溜め息混じりにそう言うと、半眼でマルクアーンに「三人を脅かすなっての。」と言った。
「いや、済まん。そもそも、“思い”と“妖魔”を切り離す事なぞ出来んのだ。しかし…弱っていたとは言え、よく封じ直せたものだ。ルーファスやコアイギスなら兎も角、他の上級魔術師とて、これを扱うには最低五人は必要だと言うに。」
「と、言いますと…それ程の力ある魔術師か、または…国家ぐるみだと…?」
 マルクアーンの言葉に、スランジェは眉を顰めて問い返した。
 すると、マルクアーンは手にしていた聖玉を光に翳しながら答えた。
「そうなるな。だが、そのどちらでも無い可能性もある。」
「どちらでも無い…?」
 その答えに、シュトゥフは首を傾げて言った。
 しかし、ルーファスは何か気付いた様で、フッとマルクアーンへ視線を向けた。
「気付いた様じゃな。」
「ああ…聖グラヴィアーノの聖玉は、元来ゾンネンクラール皇家のもの。そして、術を行使した者がゾンネンクラールの皇子…なら、旧皇族の血筋なら…。」
「その通りだ。これだけ弱っていたのなら、その血筋で中級以上の魔術師であらば命じるだけで良かろう。そう考えれば、あの扉がマルクアーン家のわしの血で開いた事も頷ける。」
 その推論に、ヴィルベルトは些か疑問を感じて言った。
「何故ですか?普通なら鍵となる血筋は、ゾンネンクラール旧皇家の血筋のみなのでは?」
 そのヴィルベルトの疑問さえ、マルクアーンはさらりと返した。
「"シャッテン・ガイスト"本体は、我が姉マリアーネだ。無論、旧皇家の血筋でも開くがな。」
 その答えに、一同は納得した。
 当時、マルクアーン家はこの妖魔の件には関与しないと発表しており、その直後にシヴィッラは責任の一端を負って家を出たのである。
 故に、マルクアーン家で関わろうとするならシヴィッラ一人だが、彼女はベズーフの北の塔へ籠ったまま出てくる筈は無いと考え、この封をそれ以上の力を使わず〈関わる血筋〉で鍵を固定してしまったのだと考えられた。
 いや…完全に一つの血筋に定める力が無かっただけかも知れないが…。
「なら、犯人は旧皇家の出自…。だがのぅ、何故今更こんな回りくどい事をする必要があるんじゃ?」
 シュトゥフは再び首を傾げ、マルクアーンへと問い掛けた。
「恐らくは…旧皇家の再興が目的じゃろうな。」
 そのマルクアーンの答えには、全員が息を飲んでしまった…。
 現王家の治世は非常に安定したものになっている。戦後処理も迅速に対処し、政治的にも優れた人材に恵まれていたと言えよう。
 終戦当時、王は何よりも民の生活の向上を掲げ、新しき産業を開発したり土地の改良や整備にも手を尽くしたりと、どの国よりも先んじて復興を果たしたのだ。
 現在でもその力は衰えておらず、それでも現王家は驕ることなく、他国とも友好的な関係を築いている。
 だが、またここで他国を巻き込んだ御家騒動となれば、これまでの努力は水の泡である。
 不本意であるにしろ、皇家を引き継いで王家となったのだから、やはり平安を損なうような事態は避けたい筈である。
 しかし…よりにもよって旧皇家の者が権力を取り戻そうとしているのならば、現王家はそれを絶対的に排除せねばならない。
 旧皇家は政務に関与してはならない…これは鉄則なのだから…。
「じゃがのぅ…そんな大それた事を、一体誰が企むというんじゃ?」
 シュトゥフは顎に手をやって考えるが、今の旧皇家の事なぞさっぱり分からない。以前は面識もあり、その様なことを企てる者等ではないと知っている。
 だが…それは遠い昔の話である。
 そんなことを考えていた折、ルーファスの元に魔術で連絡が入った。

ー ルー、聞こえるか! ー

 あまり聞こえは良くなかったが、それはリュヴェシュタンの王都にいる筈のウイツからであった。
「ウイツ、どうした?こんな長距離で…。」

ー そんな事はどうでも良い!早くこっちに戻って来てくれ! ー

「そっちでも何かあったんだな?」

ーああ。こっちではあちこちで妖魔が現れてるんだよ!リュヴェシュタンだけでなく、大陸中だ! ー

「何だって…!?」
「師匠、どうしたんですか?」
 ルーファスの顔色が変わったことに、ヴィルベルトは嫌な予感がして師に答えを求めた。
 すると、ルーファスは一旦ウイツとの会話を切り、その場にいる全員を見回して言った。
「大陸中に、再び妖魔が現れた。」
「·····!!」
 皆凍りついた…。特に、先の大戦を経験しているマルクアーンとシュトゥフは他人事ではない。ルーファスの叔母であるバーネヴィッツ公も今、先の大戦の凄惨さを思い出しているに違いないとマルクアーンとシュトゥフは顔を見合わせていた。
「俺は直ぐリュヴェシュタンへ戻る。皆はこれからどう動く?」
 ルーファスの問い掛けに、先ずシュトゥフと二人の魔術師は「ここで戦う。」と答えたが、マルクアーンは「連れて行け。」と答えた。
 この戦いを大きな戦にせぬため、早々に首謀者を見つけ出したいのであろう。
「なら一度、こっちに来てる奴らと合流する。」
 そう言うや、ルーファスは直ぐに移転の魔術を行使し、そこは再び闇へと閉ざされたのであった。

 程なくして、ルーファスらはゲシェンク王都内にある教会へと姿を現した。
 元々、最終的にはここに集まる手筈になってはいたが、事が急を要するため、ルーファスは各人に集合のサインを送った。
 暫くして、リュヴェシュタンから来ていた魔術師達が集まり始めた。
「ルーファス、一体どう言う事だ?」
「そうです。未だここが安全かも確認出来ていませんが。」
 集まった魔術師らは次々にそう言ってはくるが、そんなことを一々説明している暇はない。
「大陸中で今、多くの妖魔が現れてんだよ!グダグダ言ってねぇで、さっさとあっちに戻るぞ!」
 皆が集まったことを確認するや、ルーファスはブツブツ言っている魔術師らに向けて怒鳴りつけた。
 すると、今まで愚痴を零していた彼らは目を丸くして静かになった。
「まさか…先の大戦の様な…。」
「そうならねぇために戻るんだっつぅの!さっさと中央に集まれ!」
 ルーファスはそう言って彼らを急かして集め、最後にシュトゥフへと振り返って言った。
「シュトゥフ殿、後は頼みます。」
「案ずるな、任せておけ。」
 その言葉を聞くや、ルーファスは移転の魔術を行使した。行く先はリュヴェシュタン王都、王城にある移転の間である。

 同じ頃、リュヴェシュタン王都では湧き出す妖魔に苦慮していた。
 各個体に然したる力は無いのだが、如何せん数が多い。街の中へと狙いをつけているかの様に現れるため、大規模な殲滅魔術を行使する訳にもいかず、かと言って個別に魔術を行使した所で大した成果もない。
 神聖術者なら個別に対処出来るのだが、こちらは全く人数が足りていないのが現状であり、魔術師らは神聖術者に神聖術を施してもらった剣で戦ってはいるが…妖魔の減る気配は全くもってなかった。
「全く次から次へと!どこかに召喚の陣がある筈だ。早くそれを見つけ出さねば。」
 コアイギスは苦虫を噛み潰したような顔で、襲い掛かる低級妖魔を薙ぎ倒しながら前に進む。それを見ていた魔術師達は、その何ともない…まるで寄ってくる虫を払い除ける程度で妖魔を倒して行くコアイギスに、彼女の方が妖魔ではなかろうかと思ってしまう程であった。
 が…そのことは誰も口にしない。その後のことが容易に想像出来るからである…。
「師匠!」
 コアイギスが街の掃除…いや、妖魔を蹴散らしながら召喚の陣を探している所へ、ゲシェンクから戻ったルーファスらが駆け付けた。
「やっと来おったか。ここら辺に妖魔を召喚している陣がある筈だ。早ぅ見付けて破壊しろ。」
 事もなげに言うコアイギスに、ルーファスは溜め息をついて探査の魔術を行使したが何も引っ掛からなかった。
「阿呆め。そんな事で見付かるなら、わしでなくとも疾うに見付かっておるわ!」
 そうコアイギスに突っ込まれ、ルーファスは眉をピクリとさせながらも方法…と言うより、探査するものを変えた。
 今度は妖魔を探査したのだ。
「北西…あれ?ここって…。」
「アーダルベルト、何か分かったか?」
「ああ。北西にある旧教会、今はカタリーナの館付近に一番妖魔が集まってやがる。恐らく館内のどこかに陣はある。」
 そうルーファスが返すと、コアイギスはあからさまに嫌な顔をして言った。
「あの以前は東大陸の神を奉じていた教会を館に改装した悪趣味な所か…お誂え向きと言うやつか…。」
 そんなことを悠長に言っている間にも、次々に妖魔を倒して行く二人に、後で話を聞きながら着いて行くのが精一杯のヴィルベルトは「もうこの二人だけで良いのでは?」と本気で思ってしまった。それ程、二人の力は桁違いだったと言える。
 師が師なら弟子も弟子…その弟子が師匠である自分は、一体どうしたらあれ程になるのか考えるヴィルベルトだったが、考えても詮無いと妖魔を倒すことに意識を集中させたのであった。
 その最中、マルクアーンは一人王城に残り、ゾンネンクラール旧皇家について調べていた。
 マルクアーンは王の計らいにより、全ての書物…禁書までをも閲覧出来る許可を得られたため、各国の主要な皇家や王家、また公爵クラスの家系図や系譜の類を閲覧出来た。
 その中で、マルクアーンはゾンネンクラール旧皇家と現王家を見直し、先の戦の前後に不審なことが無かったかを洗い出していた。
 ふと…ある書物に、ゾンネンクラール旧皇家の系統から没落した皇族がいたことが記されていた。
 それはあのシュテットフェルト皇子の妹で、母は同じ。そのため旧皇家は戦後、彼女のために内々に良い人物を探して家を興させた。やはりシュテットフェルトのことを哀れに思っていたのであろう。
 だが、その息子はその血にそぐわぬ粗暴者で、両親が早くに逝去して以降、家を食い潰すかのような放蕩ぶりが祟り、旧皇家から絶縁されていた。
 故に、その後の血統については記されていなかったが、注記にその息子の娘アリシアに触れた記載があった。幾分新しい記入の上、どうもこの娘は要注意人物と見做されていたようである。
 娘の特徴が幾つか挙げられていたが…そこには〈この大陸では珍しく、且つ皇家の祖にしか見られなかった赤毛をしている〉とあった。
「まさか…まさかあの…。」
 この赤毛と言う点で、マルクアーンは直ぐにとある人物に思い当たった。
 一度会った切りであり、然したる会話もしなかったベズーフのギルドの受付…確かアリアと名乗っていた…。
「わしも歳だな…何故あの時気付かなんだ…!」
 そう口走ると、マルクアーンは直ぐに王の元へと向かった。
 もし…彼女がゾンネンクラール旧皇家の出自ならば、かなり力のある魔術師である可能性がある。特に、旧皇家初期に見られた赤毛の者らは皆、優れた魔術師として後世に名を残している。
 もし彼女がそうであったなら、一刻も早く見つけ出さねばならないのであるが、それでさえ最早後手と言うものであった。
 さて、マルクアーンの進言により、王は直ちにベズーフへとアリアの所在を問い合わせた。しかし、夜になって返ってきた答えは「該当の人物は現在行方が分からず、当方も足取りを追っている。」と言うものであった。
 そもそも、彼女…アリアは、マルクアーンらがゲシェンクへと渡ったその日の内に、ギルドの部屋を引き払って姿を消していたのであった。
 大分夜も更けてから妖魔の一掃は完結したが、それはコアイギスとルーファスの二人がカタリーナの館にあった召喚の陣を見つけ出して破壊出来たからである。
 しかし、これさえも計算内であったに違いないと、マルクアーンはコアイギスへと警告した。
「マルクアーン殿…それは私も良ぅ解っております。ですが、私はこの国の魔術師ギルドの長故に、この国を守ることが使命なのです。」
「そうであろうな。そなたは王にではなく、国そのものに忠誠を誓っておるのだからのぅ。ならば…ルーファスとヴィルベルトは連れて行って良かろう?」
「無論です。でしたらもう一人、ルーファスの友であり上級魔術師のウイツもお連れ下さい。何かと役に立ちましょう。」
「そうか…それは助かる。」
 マルクアーンとコアイギスがそう話している間、ルーファスらは隣の部屋で待機していた。
 今のマルクアーンは《賢者》としてここにいる。歳さえこの城にいる誰よりも高齢であり、その知識は計り知れないのだ。そこへ第一級魔術師であり、多くの称号を持つコアイギス…一体誰が口を挟めようか?王だとて、この二人を相手には出来まい…。
「師匠…」
「言いたい事は分かる…黙っとけ…。」
 マルクアーンとコアイギスの声は隣の部屋にも聞こえており、ヴィルベルトは些か物申したい風であった。だが、ルーファスのこの返しに仕方無しと肩を落とし、またあちこちへ移転の魔術で移動しては魔術酔いする自分を想像し…諦めにも似た溜め息をついたのであった。
 しかしこの時、ルーファスは話に聞いていた赤毛の女…アリアについて考えていた。
 確かに、ルーファスもヴィルベルトと共に彼女に会っている。だが、二人が彼女に会ったのはギルド長を訪ねた一度切り。その後、幾度かギルドに顔を出しはしたが、アリアに会った覚えはない。
 とすればである…もしかしたら、コアイギスの護衛にルーファスらが着いた事で、何かしら彼女の中で計画が狂った可能性があるのではないか…?
 マルクアーンは星見で未来を知る。それは魔術師ならば誰であれ知っている。
 ならば…アリアと言う女が力を持つ魔術師だったとして、今回のような計画を立てればマルクアーンが出てくる筈だと考えても決して不思議ではない。
 ではなぜ、危険を冒してまでそんなことをする必要があったのか…?
 今更如何に策を弄しても、ゾンネンクラールの現王家と旧皇家が逆転することは有り得ない。それは旧皇家に男系の直系がいなくなったからだ。
 ならば、女系の娘でも現王家に嫁がせれば良いだけの話なのだが、このような大きな禍をわざわざ大陸中に起こす必要があるのか?
 解を出すには全く情報が足りない…。
 尤も、マルクアーンですら首を傾げている有り様なのだ。他に何か…人には知られていない深い理由があると考えて良いと思われた。
「ルーファス、アリアの足取りを追えるか?」
 不意に扉が開き、そこからコアイギスが出てきて問った。彼女はルーファスの師であり、第一級の魔術師…だが、アリアの行方を掴むことは出来なかった。
 その最大の理由として、コアイギス自身がアリアに会ったことがなかったためである。
 故に、コアイギスは弟子であるルーファスに問ったのである。
「遣ってはみるが…成功するとは限らねぇぞ…。」
「それでも良い。何かしらの反応はある筈だ。」
 そう返され、仕方無しと言った風にルーファスは立ち上がって呪文を詠唱した。それはルーファスにしては長く、正式な探査魔術の呪文全八節の中に、幾つかのオリジナルの節を挿入しており、全十六節で魔術を完成させた。
 一度会った切りの人物である…彼とてその人物の足跡を辿ることは容易くはなく、いつも以上に精神を集中させていた。
 暫くの間、その場は静まり返っていた。が、不意にルーファスが瞳を開いて言った。
「ゾンネンクラール第三の都、クラウェン。」
 その答えに、マルクアーンは眉を顰めた。
「既にゾンネンクラールへと入っているのか…。クラウェンならば、旧皇家縁の屋敷や土地も多い。身を隠すには打って付けか…。」
 マルクアーンはそう言うや、軽く溜め息を洩らす。コアイギスも同様やな溜め息を洩らし、この先どう動くべきか思案している。
「あの…ここでこうしていても何も解決しません。取り急ぎゾンネンクラールへ向かう方が良いのでは…。」
 おずおずとそう口にしたのは、後からこっそりと来ていたウイツである。話があるとコアイギスから呼び出されていたのだが、先程まで街にいたため遅くなったのである。
「ウイツ、遅かったではないか。まぁ…この戦いで負傷し、家を失った者も居るだろうしな。さて、マルクアーン殿はどうされますかな?」
 ウイツの言葉に対し、コアイギスはマルクアーンがどう動くか想像は出来ていたが、敢えて答えを求めた。
 それは、マルクアーンの返答…いや、関わりの深い彼女の言葉だからこそ、次の幕開けに相応しいと考えたからであった。
「こちらから向かおう。無論、ゾンネンクラール王家には都の守りを堅める様に連絡を入れるが、二人程先行して向こうの王都に直接赴かせておくのが無難と言うもの。」
「連絡役…と言う事ですな。そうすればルーファスらも二手から連絡が入り、効率が上がると…。」
「そう言う事じゃ。念には念を入れておいた方が良い。お主の事、この国にはもう結界を張ったな?」
「はい。五人の魔術師に張らせおります。」
「結構。では、我らは明日、この都を立つことにしよう。ルーファス、ヴィルベルト、そしてウイツ言ったか。お前達もその様に支度をしておく様に。」
 そうマルクアーンが言うや、三人は各々返答をして部屋を後にしたのであった。



 
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