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ある晴れた日に

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103部分:小さな橋の上でその十九


小さな橋の上でその十九

「そういえばあんたも」
「だから何が言いたいのよ」
「レズとかじゃないわよね」
 遂にここではっきりと言い切った奈々瀬だった。
「ひょっとしなくても」
「何で私が凛とレズになるのよ」
「そこまで怪しいんだよ」
 今度は正道が明日夢に言った。
「中森橋口達と一緒にいない時はいつも御前と一緒じゃないか」
「あんたも安橋とかと一緒にいない時はいつも」
「気が合うから当然じゃない」
 正道と奈々瀬の突込みにもこう返す明日夢だった。平然とさえしている。
「それの何処が悪いのよ」
「だから怪しいんだよ」
「そうよ。背が全然違うからそれが余計に」
「背が関係あるの」
「何かね。どうも」
 奈々瀬は明日夢を完全に怪しむ目で見ていた。もうそれを隠そうともせず完全に彼女と凛のことを疑っている目であった。
「本当に。できてないでしょうね」
「できてるって。キスもまだよ」
「凛とは?」
「凛どころか他の誰に対してもよ」
「っていうと御前まさか」
 正道は今の言葉ではっきりとわかった。彼女が何なのか。というよりはこれ以上はないという程の明日夢の迂闊な自白であった。
「そういう経験は」
「ないわよ。悪い?」
「自分で言ったら駄目だろ」
「けれど皆大体そうでしょ」
 今の明日夢の言葉は言い訳めいていた。
「まだ高校一年だし」
「うっ・・・・・・」
「それは。まあ」
 そして今の明日夢の言葉で怯む野本と奈々瀬であった。つまり彼等も。
「それはそうだけれどよ」
「私も。ねえ」
「中学生で済ませてる子もいるみたいだけれど」
「馬鹿、そりゃないだろ」
「そうよっ、幾ら何でも」
 野本と奈々瀬は今度はムキになって言い返してきた。
「学中でよ、そんな」
「早過ぎるじゃない」
「けれど話は聞くわ」
 どうも明日夢は外見に似合わず耳年増のようである。こういう話に妙に詳しい。
「雑誌とかネットでね。全部が本当じゃないでしょうけれど」
「マジかよ・・・・・・」
「私だってキスはおろか」
「御前彼氏いなかったよな」
 野本は顔を上げて奈々瀬の顔を見据えて問うた。
「確か」
「実は彼氏いない暦十五年」
 つまり生まれてからずっとというわけであった。
「だから」
「坪本はいるけれどやっとキスしたらしいぜ」
「あいつそこまでいってるの。春華だってまだなのに」
「あいつ彼氏との付き合いどれ位なんだ?」
「もう二年目」
 結構以上に長い。学生同士のカップルなら。
「けれどまだなんだよ」
「あいつそんなに奥手だったのかよ」
「実はね。口悪いけれどそういうのは苦手なのよ」
「意外だな、外見だってああなのによ」
「本人に言うと暴れるわよ。注意してね」
「だろうな。あいつはな」
 野本にも容易に想像がつく展開であった。
「そういう奴だ」
「でしょ?あんなのだけれど純情なのよ」
「すげえな、驚いて顎外れそうだぜ」
 実際にはどちらかといえば閉じられている。しかしこうした表現を使うのだった。
「人間って見かけによらねえな」
「桐生も彼女いるらしいし」
「世の中おかしいだろ」
 野本はかなり暴論を述べだした。
「あんな眼鏡がよ」
「眼鏡は眼鏡で人気あるから」
「くそっ、俺も彼女欲しいぜ」
「私もよ。彼氏欲しいわよ」
「ねえ」
 二人で何時終わるともなく不毛な話をしているところで今まで黙っていた未晴が出て来た。そうして二人に何かを差し出してきた。
「これ食べて」
「んっ!?何だこりゃ」
「キャンデー!?」
「そうよ。濃厚ミルクのね」
 見れば他の面々にもそのキャンデーを渡していた。にこにことしながら加山にも渡した。
「疲れた時には甘いものが一番だから」
「おっ、悪いな」
「有り難う、未晴」
 まずは野本と奈々瀬が未晴に礼を述べる。礼を述べながらキャンデーの包みを取ってそのうえで口の中に入れる。忽ちのうちにミルクの濃厚な甘さが口の中を支配して至福の時を演出するのだった。
 それは二人だけではなかった。正道も明日夢も加山もだった。皆その甘さを味わい笑顔になっていた。そうしてその笑顔で未晴に礼を述べるのだった。
「悪いな、何か」
「キャンデー貰って」
「有り難う、竹林さん」
「いいのよ。私もこれ貰いものだし」
「凛から?」
 最早キャンデーとくれば彼女になっていた。それだけ毎日キャンデーを舐めているということである。
「ええ、そうよ」
「やっぱり」
「私も毎日一緒に食べてるし」
 そして明日夢の言葉であった。
「けれどこのキャンデーって」
「あ、そうだな」
 正道もここで包みを見直して気付いたのだった。
 
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